きっとここが帰る場所 - This Must Be The Place

Editor's Notes

1. ▽いきなりですが、この人たち、誰か知ってるって人いますか？彼らは1974年にデビューした ▽Talking Headsってバンドです。ヴォーカルの ▽デイヴィッド・バーンを中心に、70年代-80年代にかけて活躍しました。そんな彼らの作品の中に　“This Must Be The Place”というプレゼンタイトルにもなってる曲で、「家」とか「故郷」とかをテーマにしたものがあって、今日紹介する映画は、この曲からインスピレーションを得て作られた
2. ▽いきなりですが、この人たち、誰か知ってるって人いますか？彼らは1974年にデビューした ▽Talking Headsってバンドです。ヴォーカルの ▽デイヴィッド・バーンを中心に、70年代-80年代にかけて活躍しました。そんな彼らの作品の中に　“This Must Be The Place”というプレゼンタイトルにもなってる曲で、「家」とか「故郷」とかをテーマにしたものがあって、今日紹介する映画は、この曲からインスピレーションを得て作られた
3. ▽いきなりですが、この人たち、誰か知ってるって人いますか？彼らは1974年にデビューした ▽Talking Headsってバンドです。ヴォーカルの ▽デイヴィッド・バーンを中心に、70年代-80年代にかけて活躍しました。そんな彼らの作品の中に　“This Must Be The Place”というプレゼンタイトルにもなってる曲で、「家」とか「故郷」とかをテーマにしたものがあって、今日紹介する映画は、この曲からインスピレーションを得て作られた
4. ▽そのまんまなのタイトル”This Must Be The Place”と。 ▽邦題が「きっとここが帰る場所」という映画です。主演はショーン・ペン、I am Samなどでおなじみです。2011年制作のイタリア・フランス・アイルランド合作映画。結構筋が複雑なので、ストーリーを追う前に、あらすじをひとことでまとめるとこんな感じです。 ▽「過去への悔恨から逃れられないでいる引きこもりの元ロックスターが、疎遠だった父の死をきっかけに、生前に父が追っていたある人物を探す旅に出る」という物語です。ということで、今回は「旅」がテーマなので特に「場所」に注目して、
5. ▽そのまんまなのタイトル”This Must Be The Place”と。 ▽邦題が「きっとここが帰る場所」という映画です。主演はショーン・ペン、I am Samなどでおなじみです。2011年制作のイタリア・フランス・アイルランド合作映画。結構筋が複雑なので、ストーリーを追う前に、あらすじをひとことでまとめるとこんな感じです。 ▽「過去への悔恨から逃れられないでいる引きこもりの元ロックスターが、疎遠だった父の死をきっかけに、生前に父が追っていたある人物を探す旅に出る」という物語です。ということで、今回は「旅」がテーマなので特に「場所」に注目して、
6. ▽そのまんまなのタイトル”This Must Be The Place”と。 ▽邦題が「きっとここが帰る場所」という映画です。主演はショーン・ペン、I am Samなどでおなじみです。2011年制作のイタリア・フランス・アイルランド合作映画。結構筋が複雑なので、ストーリーを追う前に、あらすじをひとことでまとめるとこんな感じです。 ▽「過去への悔恨から逃れられないでいる引きこもりの元ロックスターが、疎遠だった父の死をきっかけに、生前に父が追っていたある人物を探す旅に出る」という物語です。ということで、今回は「旅」がテーマなので特に「場所」に注目して、
7. ▽ポイントが５カ所あるんですが、主人公の日常と人間関係を描く前半（ダブリン・ニューヨーク）、父の遺志を追って旅をする後半（ミシガン・ニューメキシコ・ユタ）と大きく分けてストーリーを追いたいと思います。 ▽まずは前半、主人公の日常と人間関係を見ていきましょう。
8. ▽ポイントが５カ所あるんですが、主人公の日常と人間関係を描く前半（ダブリン・ニューヨーク）、父の遺志を追って旅をする後半（ミシガン・ニューメキシコ・ユタ）と大きく分けてストーリーを追いたいと思います。 ▽まずは前半、主人公の日常と人間関係を見ていきましょう。
9. ▽物語は ▽アイルランドのダブリンから始まります。
10. ▽物語は ▽アイルランドのダブリンから始まります。
11. ▽主人公のシャイアンはダブリン郊外の豪邸に妻のジェーンと二人で住んでいる。 ▽音楽をやめた今も、毎日のメイクは欠かせません。普段はごく少数の友だちに限ってつきあいがあります。 ▽妻とは仲良くやっていますが、どこか退屈で埋めがたい寂しさを抱えながら日々を暮らしています。
12. ▽主人公のシャイアンはダブリン郊外の豪邸に妻のジェーンと二人で住んでいる。 ▽音楽をやめた今も、毎日のメイクは欠かせません。普段はごく少数の友だちに限ってつきあいがあります。 ▽妻とは仲良くやっていますが、どこか退屈で埋めがたい寂しさを抱えながら日々を暮らしています。
13. ▽主人公のシャイアンはダブリン郊外の豪邸に妻のジェーンと二人で住んでいる。 ▽音楽をやめた今も、毎日のメイクは欠かせません。普段はごく少数の友だちに限ってつきあいがあります。 ▽妻とは仲良くやっていますが、どこか退屈で埋めがたい寂しさを抱えながら日々を暮らしています。
14. ▽唯一の親友は近所に住むメアリーという女の子。彼女のお兄さんはしばらく前から失踪しており、彼女自身も心に寂しさを抱えて生きている。 ▽シャイアンはメアリーとつるんだり、暇つぶしに株をやったり、妻とスポーツしたり。冒頭ではそんな彼の退屈でちょっと変わっていて不思議な日常がコミカルに描かれます。
15. ▽唯一の親友は近所に住むメアリーという女の子。彼女のお兄さんはしばらく前から失踪しており、彼女自身も心に寂しさを抱えて生きている。 ▽シャイアンはメアリーとつるんだり、暇つぶしに株をやったり、妻とスポーツしたり。冒頭ではそんな彼の退屈でちょっと変わっていて不思議な日常がコミカルに描かれます。
16. ▽そんな退屈な日常に変化が訪れます。というのも、30年もの間縁を切っていた父親が危篤だという知らせを受け取るのです。飛行機が嫌いなシャイアンは父の住むニューヨークに向けて、
17. ▽船で向いますが、着いた時には父はすでに息を引き取った後でした。横たわる父の腕には刺青がありました。これは実はアウシュビッツに強制収容されたユダヤ人につけられた整理番号だったのです。疎遠な父の死という複雑な悲しみの中シャイアンが足を運んだの▽Talking Headsのライブでした。ヴォーカルのデイヴィッド・バーンは本人役で、シャイアンの旧友として登場します。
18. ▽船で向いますが、着いた時には父はすでに息を引き取った後でした。横たわる父の腕には刺青がありました。これは実はアウシュビッツに強制収容されたユダヤ人につけられた整理番号だったのです。疎遠な父の死という複雑な悲しみの中シャイアンが足を運んだの▽Talking Headsのライブでした。ヴォーカルのデイヴィッド・バーンは本人役で、シャイアンの旧友として登場します。
19. ▽This Must Be The Placeの歌詞は家を離れてニューヨークに来て、父の亡骸を目のあたりにするという、父を失った喪失感と、一方で、退屈で鬱々とした日常を離れてニューヨークを純粋に楽しんでいるという、相反する二つの心情を代弁します。
20. ▽演奏のあとで、昔と変わらず音楽活動を続けるバーンに対し、シャイアンは自分はアーティストではなく、ただのポップスターだったと卑下します。単に「儲かるから」という理由で陰鬱な若者に宛ててたくさんの暗い曲を書きました。その曲のせいで、あるファンが自殺してしまった。このことがきっかけとなり、音楽をやめてしまったんだという過去が語られます。
21. ▽そんなタイミングで、父の死後、遺品として手にした父親の日記を読んで、父は生前、ホロコーストに加担したナチの残党である ▽ランゲという人物を追っていたことを知ります。生前父と交流があった残党狩りのプロ、ミドラーと話し、父の遺志を果たすべく「ランゲ探しの旅」に出ることを決断。そして物語はおおきくロードムービーへと転換していきます。
22. ▽そんなタイミングで、父の死後、遺品として手にした父親の日記を読んで、父は生前、ホロコーストに加担したナチの残党である ▽ランゲという人物を追っていたことを知ります。生前父と交流があった残党狩りのプロ、ミドラーと話し、父の遺志を果たすべく「ランゲ探しの旅」に出ることを決断。そして物語はおおきくロードムービーへと転換していきます。
23. ▽ここが前半と後半の境目で、 ▽ここから、父の遺志を果たすためのアメリカ横断の旅が始まります。最初の目的地は・・・ ▽ミシガン州でした。シャイアンは日記の中に残された手がかりを頼りに、ランゲの妻である歴史教師を探しあてます。
24. ▽ここが前半と後半の境目で、 ▽ここから、父の遺志を果たすためのアメリカ横断の旅が始まります。最初の目的地は・・・ ▽ミシガン州でした。シャイアンは日記の中に残された手がかりを頼りに、ランゲの妻である歴史教師を探しあてます。
25. ▽ここが前半と後半の境目で、 ▽ここから、父の遺志を果たすためのアメリカ横断の旅が始まります。最初の目的地は・・・ ▽ミシガン州でした。シャイアンは日記の中に残された手がかりを頼りに、ランゲの妻である歴史教師を探しあてます。
26. ▽教え子のふりをしてランゲのことをなんとか聞き出そうとしますが、はぐらかされてしまう。しかし、会話をするなかで彼女にはレイチェルという孫娘がいることを知ります。気になったシャイアンは夜中に家に忍び込み、「レイチェルの居場所」の手がかりを手に入れます。
27. ▽手がかりをもとに目的地をニューメキシコに定めたシャイアンは、
28. ▽めでたく、ランゲ夫妻の孫娘レイチェルを見つけて、彼女の家に滞在します。彼女はシングルマザーで、 ▽トミーという息子がいました。シャイアンがミュージシャンであることを知ったトミーは、一緒に演奏することを提案し、数十年ぶりに演奏するというシャイアンを説得します。演奏するのはもちろん”This must be the place”。かなり山場のシーンです。反則かもしれないですが歌詞を見てほしいので、30秒くらい聴いてください。
29. ▽めでたく、ランゲ夫妻の孫娘レイチェルを見つけて、彼女の家に滞在します。彼女はシングルマザーで、 ▽トミーという息子がいました。シャイアンがミュージシャンであることを知ったトミーは、一緒に演奏することを提案し、数十年ぶりに演奏するというシャイアンを説得します。演奏するのはもちろん”This must be the place”。かなり山場のシーンです。反則かもしれないですが歌詞を見てほしいので、30秒くらい聴いてください。
30. ▽最後に父親の写真を大事そうにもっていくのが見えます。 ▽写真の中の父に語りかけるように歌うトミー、実の父親のように伴奏するシャイアン。その二人を眺めながら目に涙を浮かべるレイチェルが印象的なシーンです。
31. ▽このあと二人は「父」をキーワードに、互いの家族の話をします。シャイアンは自分の過去や、父との絶縁を後悔しているとを打ち明けます。レイチェルは自分の父親が自分や祖父母たちと縁を切ってしまっていることを打ち明けます。しかし、彼女の祖父であるランゲはそれでもなお、息子の帰りを待っているのだと言います。自分の父親に嫌われたと思い込んでいたシャイアンですが２人の会話をとおして「息子のことを嫌う父親なんてないのではないか」と考えるようになります。
32. ▽レイチェルとの会話から、ランゲはユタ州にいるとの情報を得たシャイアンは、銃を購入し、残党狩りに備えます。
33. ▽この場所に違いない、とたどり着いたランゲの家は雪原に建っていました。シャイアンが中に入ると、ランゲは自分が追われていた理由を少しずつ語り始めます。ランゲが追われた理由は、シャイアンの父がアウシュビッツで受けた「雪辱」への「復讐」のためでした。
34. ▽かつてシャイアンの父が強制収容されていた頃、ナチスの親衛隊であったランゲに脅され、失禁してしまい、ランゲはそれを笑いものにした。それが父にとっては雪辱となっている、というものでした。 ▽収容所での死の恐怖に比べれば、この雪辱はなんてことない。しかし、彼はこの日のことを決して忘れませんでした。ちょうどその日のアウシュビッツは ▽雪が降っていました。彼はとうとう雪辱を果たせませんでしたが、ランゲはシャイアンの父の美しく、不屈な復讐心に魅了されていたと告白します。
35. ▽かつてシャイアンの父が強制収容されていた頃、ナチスの親衛隊であったランゲに脅され、失禁してしまい、ランゲはそれを笑いものにした。それが父にとっては雪辱となっている、というものでした。 ▽収容所での死の恐怖に比べれば、この雪辱はなんてことない。しかし、彼はこの日のことを決して忘れませんでした。ちょうどその日のアウシュビッツは ▽雪が降っていました。彼はとうとう雪辱を果たせませんでしたが、ランゲはシャイアンの父の美しく、不屈な復讐心に魅了されていたと告白します。
36. ▽シャイアンはポケットに手を突っ込むと、銃ではなくカメラを取り出します。そして、ランゲの写真を取り、雪原を裸で歩かせる。この恥ずかしめこそがシャイアンの復讐でした。
37. ▽話は収束に向かいます。復讐を終えたシャイアンは
38. ▽船ではなく飛行機でダブリンへ帰ります。旅を通して過去や恐怖を克服し少しは大人になった、という示唆を読み取ることができます。ストーリーの骨格部分はこれですべてですが、ここから実際の物語がどう終わるのかはぜひ本編見てみてくださいということで。
39. ▽さいごに、旅論的解釈を加えて発表をまとめたいと思います。
40. ▽この物語の中では、さまざまな人がさまざまな理由で「家」から離れていきます。退屈のため、不自由のため、仕事のため、人間関係のため…たくさんの登場人物が、家を離れ、一方で残された者は離れていった家族に想いを馳せています。しかし、おもしろいのは、この映画ではそういった ▽「家」との距離の取り方を否定せず、むしろ積極的に肯定しているように思います。なぜなら ▽この距離感こそが自分と家との関係を冷静に見つめなおす機会だと捉えられているからです。
41. ▽この物語の中では、さまざまな人がさまざまな理由で「家」から離れていきます。退屈のため、不自由のため、仕事のため、人間関係のため…たくさんの登場人物が、家を離れ、一方で残された者は離れていった家族に想いを馳せています。しかし、おもしろいのは、この映画ではそういった ▽「家」との距離の取り方を否定せず、むしろ積極的に肯定しているように思います。なぜなら ▽この距離感こそが自分と家との関係を冷静に見つめなおす機会だと捉えられているからです。
42. ▽この物語の中では、さまざまな人がさまざまな理由で「家」から離れていきます。退屈のため、不自由のため、仕事のため、人間関係のため…たくさんの登場人物が、家を離れ、一方で残された者は離れていった家族に想いを馳せています。しかし、おもしろいのは、この映画ではそういった ▽「家」との距離の取り方を否定せず、むしろ積極的に肯定しているように思います。なぜなら ▽この距離感こそが自分と家との関係を冷静に見つめなおす機会だと捉えられているからです。
43. ▽シャイアンは「バックパックに死を！」とか「ここはインドじゃないし、これは自分探しではない」などと「旅」をする自分を否定し、毒づく場面がいくつかあります。しかし、死をきっかけに父のことを知ろうとするシャイアンは、まぎれもなく「旅」をしていたと言えると思います。ランゲ一家の姿を追うことで、
44. ▽冷静に自分を見つめなおし、自分と自分の家族との関係を取り戻していったように思います。 ▽居心地のいい自分の「家」にいた前半とはうってかわって、父の遺志を果たすため、家を離れて旅をする。そのことで、自分の家族関係について考えを改め、ある種の、長い長い思春期みたいなものに終止符を打つ。この映画はそういう ▽「人間的成長の旅」だったと言えるんじゃないかと思いました。
45. ▽この映画は、かなり独特で好き嫌いが分かれるかもしれませんし、強いメッセージがたくさん込められた映画ですが、具体的に伝えたいのはこれだ！ということは最後まで言わない映画です。いろいろな見方ができる一本だと思います。みなさん、是非みてみてください。