15. では男性名詞と女性名詞の 2 つになった。名詞が男性と女性のどちらであるかにより、それを
受ける定冠詞や代名詞なども変わってくるので、この点は要注意。英語も古英語(11 世
紀以前)は男性名詞、女性名詞と中性名詞の 3 つが存在したが、その後名詞の性がなく
なっている。
代名詞の一部は、直接目的格(対格)と間接目的格(与格)を区別する。英語では
「彼女に」と「彼女を」は両方とも her だが、ポルトガル語では前者は a、後者は lhe となる。
代名詞を動詞の前に置くケースが多い。例えば I love you は te amo(te は tu の目
的格、amo は愛する amar の活用形)。ただ、ポルトガル語では動詞の前(プロクリー
ゼ)、動詞の後ろ(エンクリーゼ)、そして動詞の中(メゾクリーゼ)に代名詞を置くことが
可能で、正直なところかなり複雑。
動詞の活用がとにかく複雑。ポルトガル語の学習で一番大変なのは、多様に変化する動
詞の活用形をひたすら覚えること。5 つの直説法(現在、完全過去、不完全過去、未来、
過去未来)と 3 つの接続法(現在と過去、そして未来)は、人称と単複に応じて 6 つの
形に活用し(ブラジルでは 2 人称をあまり使わないので実質上 4 つ)、それに加えて命令
形(2 人称単数)、現在分詞や過去分詞も覚える必要がある。規則活用は 3 パターン
で(ar 動詞、er 動詞と ir 動詞)、このうち er 動詞と ir 動詞はほとんどの場合同じ活用
形だが、不規則活用が多い点もポルトガル語学習における難関なので、とにかく初級レベル
では動詞の活用表とにらめっこして、活用を唱えまくることが大切。
主語を略す場合がある。特に一人称が主語で、動詞の活用形から主語が推定できる場
合、主語を略すのが一般的。
再帰表現が非常に多い。たとえば「私は顔を洗う」は Lavo-me a cara(英語に直訳す
ると I wash myself the face)、「ブラジルではポルトガル語が話されている」は No
Brasil fala-se o português(英語に直訳すると In Brazil, Portuguese speaks
itself)、「私はあのメッセージを思い出した」は Me lembrei daquela mensagem(英
語に直訳すると I reminded myself of that message)など、英語よりも再帰表現を
使うケースが非常に多い。
過去を表現する時制が、ポルトガル語は英語と違う。英語は過去形と現在完了形(過
去に起きたできごとが今まで影響を与えている場合)、そして大過去の 3 つだが、ポルトガル
語では過去形において、単純に過去のできことを記述する完全過去と、過去においては現
在進行形だった不完全過去を区別する。不完全過去は、英語では過去形(例: I was
15 years old when my father died)、または過去進行形(例: I was watching
the TV when my sister called me)や used to(例: we used to spend
weekends at my grandma’s place)で表現されることが多い。
16. 命令形は、肯定命令(~しろ)と否定命令(~するな)で大幅に異なる。特に 2 人称
tuを頻繁に使うポルトガルのポルトガル語で顕著。英語の場合、「私にそれを買ってください」
とその否定形「私にそれを買わないでください」は Buy it for me と Don’t buy it for me
であり、違いは文頭に don’t が来るかどうかだけだが、ポルトガル語では Compra-mo と
Não me o compres.というように構造が大幅に変わる。命令形は何かと複雑なので、じ
っくり学習することが必要。
0.4 ポルトガル語関連のよくある質問
ここでは、ポルトガル語関連のよくある質問をまとめてみました。
なぜ、日本国内で市販されているポルトガル語の教科書は、やたらとブラジル
という点を強調しているのですか?: 同じポルトガル語圏といえども、ポルトガ
ルとブラジルでは発音や単語面で大きく違います。日本とポルトガル語圏との
交流という点で見た場合、ブラジルとのつながりが圧倒的に強いことから、ブ
ラジル・ポルトガル語という点を強調しているわけです。
私はブラジル以外の国と深く関わる予定なので、できればその国のポルトガル
語に特化して教えてくれる人を探しているのですが…: その国の人からポルト
ガル語を学ぶことができれば理想ですが、特に地方ではそのような機会はかな
り少ないと思います。確かにブラジル・ポルトガル語とそれ以外のポルトガル
語の間では、発音面や単語面でかなりの違いがありますが、少なくともブラジ
ル・ポルトガル語をマスターすれば、その他のポルトガル語圏でも十分通じま
すので、まずは比較的日本に多いブラジル人からブラジル・ポルトガル語を勉
強し、可能であればご希望の国のポルトガル語へとその後移行してゆくのが現
実的ではないかと思います。
実際のところ、ポルトガル語って難しいですか?: 発音については、世界の主要
言語の中でもかなり単純な言語で、鼻母音さえマスターすればそれほど苦には
ならないでしょう。文法については確かに複雑で、特に英文法が苦手だった人
には辛いかもしれませんが、英文法の復習も兼ねて行うと、英語力もつくので
19. 1.アルファベットと発音
1.1 アルファベットと発音
ポルトガル語のアルファベットは、以下の 27 文字です。なお、アルファベット自体は alfabeto(ア
ウファベートゥ)と言います。
文字 発音 発音の備考
A
A
(アー)
B
BE
(ベー)
C
CE
(セー)
D
DE
(デー)
E
E
(エー)
F
EFE
(エフィ)
英語と同じく、前歯を下唇に当ててフェと発音
G GE(ジェー)
H
HAGÁ
(アガー)
I I(イー)
J
JOTA
(ジョータ)
オーは口を広げた発音。あえて書くなら jóta。
K KA(カー) 外来語でしか使わない
L ELE(エリ) 舌を前歯の裏に充てて発音。
M EME(エミ)
N
ENE
(エニ)
O O(オー)
P PE(ペー)
Q CU(クー) ウーの部分は、マンボの「ウーッ!」のように、口をすぼめて発音。
20. R ERRE(エヒ)
RR は本来は巻き舌の発音だったが、現在では喉をこするよう
にして発音するハ行の発音(子音の部分を参照)。
S ESSE(エスィ)
T TE(テー)
U U(ウー) マンボのウーッ!のように、口先をすぼめて発音
V
VE
(ヴェー)
前歯を下唇に当てた、ヴァ行の発音。
W
VÊ DOBRADO
(ヴェー・
ドゥブラードゥ)
外来語でしか使われない。
X
XIS
(シース)
Y
I GREGA
(イー・グレーガ)
外来語でしか使わない
Z
ZETA
(ゼータ)
この他、以下の文字についても注意を払う必要があります。
Acento agudo(アセントゥ・アグードゥ): á, é, í, ó, ú. このうち é と ó は、日本語の
エやオと比べても広く口を開ける。
Acento circonflexo (アセントゥ・シルコンフレス): ポルトガル語で使われるのは ê と ô
のみで、これはアクセントが来るものの、é や ó のように口を広げず発音するもの。
Til(チウ): 鼻母音を示す、~というマーク。ポルトガル語では ã と õ という文字が存在する
が、チウがない場合でも鼻母音化するケースは多い。
Cedilha(セディーリャ): Ç。この文字のあとに a, o, u が続くものの、k ではなく s と発音
する場合に使う。例: caça(カサ: 狩り)。
1.2 母音・鼻母音の発音
ポルトガル語は母音や鼻母音の発音が多少複雑なので、以下丁寧に説明したいと思います。
21. まず、単母音ですが、基本的に 7 つ存在します。具体的には、a, é, ê, i, ó, ô, u です。エとオ
が 2 つ存在しますが、このうち é/ó は日本語のエやオよりも口を開いて発音する一方、ê/ô は日本
語と同じか、さらに口を閉じて発音します。また、u はマンボの「ウーッ!」のウの発音です。また、a は、
m や n、そして nh といった子音の前の場合(たとえば amor 愛、Canadá カナダ、campanha キ
ャンペーン)、口の奥からアと発音します。なお、文字としてはこれに加えて à が存在しますが、これは
文法的な意味(前置詞としての a と定冠詞としての a が縮約したという意味)であり、発音自体は
a と変わりません。
イベリア・ポルトガル語では、これに加えて曖昧母音が存在します。具体的にはアクセント記号の
ない a や e が、曖昧母音として発音されます。また、アクセント記号のない o、特に語末の o は u と
発音されます。その一方、ブラジル・ポルトガル語には曖昧母音がないかわりに、アクセント記号のな
い e や、特に語末の e や o は、i や u と発音される傾向にあります。これによるポルトガルとブラジルの
発音の違いについてちょっと見てみることにしましょう。
単語
ポルトガルの発音
(下線は曖昧母音)
ブラジルの発音
telefone タラフォーナ テレフォーニ
Espanha アシュパーニャ イスパーニャ
次に二重母音ですが、ポルトガル語には下降母音、すなわち iやu で終わる母音しかありません。
このうち ou は、実際には ô と発音するケースがブラジルでもポルトガルでも一般的になっています。ま
た、エイとカタカナ表記可能な発音には éi(e の部分を開いて発音)と ei(普通にエイと発音)の
2 つがありますが、ポルトガル(特にリスボン)ではアイに近い発音になりします。
しかし、ポルトガル語の発音で何よりも大切なのは、鼻母音です。これは、口からだけでなく鼻から
も息を抜くことで母音の響きを高めるもので、フランス語にもあるものですが、この鼻母音をはっきり発
音するとポルトガル語らしくなります。まずは単鼻母音です。
綴り 発音方法 例
an / am(語中)
ã(語末)
口の奥で
アと発音しながら
鼻からも息を抜く
アンの発音
maçã (マサン、リンゴ)、alemã (アラマン/アレ
マン、ドイツ人女性)、anguia(アンギーア、ウナ
ギ)、ecrã (アクラン、スクリーン: ポルトガルの言
い方で、ブラジルでは pantalha パンターリャとい
う)
22. en / em(語中) エと発音しながら
鼻からも息を抜く
エンの発音
quente (ケンタ/ケンチ、熱い)、sentimento
(センティメントゥ/センチメントゥ、感情)、
mente (メンタ/メンチ、心、知性)
in / im
(語中・語末)
イと発音しながら
鼻からも息を抜く
インの発音
Sim (スィン、はい)、fim (フィン、目的、終わ
り)、mim (ミン、「私」、前置詞格)
on / om
(語中・語末)
オと発音しながら
鼻からも息を抜く
オンの発音
bonde (ボンヂ、路面電車: ブラジルでの言い
方)、som (ソン、音)、font (フォンタ/フォン
チ、フォント)
un / um
(語中・語末)
ウと発音しながら
鼻からも息を抜く
ウンの発音
mundo (ムンドゥ、世界)、fundo(フンドゥ、
底)、alguns (アルグンス/アウグンス、いくつか
の、複数形)
A については、m/n/nh の前では口の奥から発音することは先ほど書きましたが、鼻母音としてア
ンと発音する場合にも、この発音となります。日本語のアンとはかなり響きが違いますが、この音を上
手に発音できるようになれば、いかにもポルトガル語らしい発音になることでしょう。
そして、フランス語にもないポルトガル語独自の要素として、二重鼻母音があります。これは二重
母音を発音しながら鼻からも息を抜くというもので、具体的には以下のものがあります。
ui: これを使う単語としては muito しかないが、muito 自体が英語の many/much と
very の両方の意味があるため、非常によく使われる。ウイと発音しながら鼻からも息を抜くの
で、ムンイトとムイントの間ぐらいの発音になる。
ão (語中・単音節)/ -am (語末): au と発音しながら鼻からも息を抜くので、実際
にはアンウとアウンの間ぐらいの発音になる。なお、a は口の奥から発音するア。例: pão(パ
ウン、パン)、não(ナウン、いいえ)、falam(ファーラウン、彼らは話す)、alemão
(アラマウン/アレマウン、ドイツ人、男性形)、órgão(オルガウン、オルガン。この場合ア
クセントは ór に)、formação(フルマサウン/フォルマサウン、研修)。
ãe / ãi(cãibra のみ): ai と発音しながら鼻からも息を抜くので、実際にはアンイとアイ
ンの間ぐらいの発音になる。なお、a は口の奥から発音するア。例: mãe(マイン、母親)、
alemães(アラマインス/アレマインス、ドイツ人、男性複数形)、cãibra(カインブラ、
痙攣)
em(語末): ei と発音しながら鼻からも息を抜くので、実際にはエンイとエインの間ぐらい
(ポルトガルではアンイという発音になることも)の発音になる。例: bem(ベイン/バイン、
23. よい)、sabem(サーベイン/サーバイン、彼らは知っている)、garagens(ガラージェイ
ンス/ガラージャインス、ガレージ、複数形)
õe: oi と発音しながら鼻からも息を抜くので、実際にはオンイとオインの間ぐらいの発音にな
る。例: informações(インフォルマソインス、情報)、propõe(プロポイン、彼は提案
する)
1.3 子音の発音
鼻母音の関係で多少複雑な母音に比べると、ポルトガル語の子音はかなり規則的です。以下、
見てみることにしましょう。なお、ポルトガルとブラジルの間でかなり発音が違い、さらにポルトガルでは
曖昧母音が数多く使われることから、以下便宜上、ポルトガルの曖昧母音については下線で記すこ
とにします。
B: 普通に日本語のバ行の発音。
C: CE や CI という綴りの場合にはセやスィ(CE の場合、前述の母音の規則で別の母音
になる場合あり)、それ以外は K の発音。例: doce(「甘い」、ポルトガルではドーサ、ブラ
ジルではドースィ)、copo(コープ、コップ)
Ç: ÇA, ÇO または ÇU という綴りでのみ登場し、常にサ行の発音。例: açúcar(アスー
カル、砂糖)、Viçosa(ヴィソーザ、地名), fumaça(フマーサ、煙)
CH: シャ行の発音。例: chuva(シューヴァ、雨)、chapéu(シャペウ、帽子)
D: ブラジルでは DI および語末の DE は、ディやデではなくヂと発音。例: verdade
(「真実」、ポルトガルではヴァルダーダ、ブラジルではヴェルダーヂ)、diferente(異なる、
ポルトガルではディファレンタ、ブラジルではヂフェレンチ)
F: 英語と同じく、前歯を下唇に当てて発音する。
G: GE や GI という綴りの場合にはジェやジ(正確には英語の vision の si のように、舌を
後ろに引いて発音するジャ行の発音)、それ以外はガ行の発音。GUE/GUI はゲ・ギとグ
ェ・グィの 2 つの発音の可能性があるので、辞書などで発音を確認すること。例: gás
(ガス)、gelo(ジェール、氷)、guitarra(ギターハ、エレキギター: 普通のアコースティ
ックギターのことはポルトガル語では violão という)、pinguim(ピングイン、ペンギン)
H: フランス語やスペイン語同様、発音しない。例: história(イストーリア、歴史/物語)、
harmonia(アルモニーア、ハーモニー)
J: GE や GI と同じ発音。
24. L: 他の言語同様、舌先を前歯の裏につけて発音する。ブラジルでは音節末に来る場合、
英語同様 dark L または u の発音になる一方、ポルトガルでは音節末でもきちんと発音
する。例: Portugal(ポルトガルの発音ではプルトゥガル、ブラジルの発音ではポルトゥガ
ウ)、Brasil(ポルトガルではブラズィル、ブラジル本国ではブラズィウ)、lula(ルーラ、イカ)
LH: 舌全体を持ち上げて発音するリャ行の発音。例: coelho(クエーリュ、ウサギ)、
escolher(ポルトガルではアシュコリェール、ブラジルではエスコリェーフ、選ぶ)
M: 普通にマ行の発音。ただ音節末に来る場合、その母音を鼻母音化する(1.2 参照)。
N: 普通にナ行の発音。ただ音節末に来る場合、その母音を鼻母音化する(1.2 参照)。
NH: ニャ行の発音。例: farinha(ファリーニャ、小麦粉)、sardinha(サルディーニャ、
イワシ)。
P: パ行の発音。
Q: QU+母音。QUA と QUO は必ずクァまたはクォという発音になるが、QUE や QUI
はケ・キとクィ・クェの 2 つの発音があるので要注意。
R・RR: ややこしいため、後ほど詳述。
S: 母音にはさまれた S はザ行の発音(例: Sousa ソーザ、よくある苗字)、SS やそれ
以外の S はサ行の発音。ただし、ポルトガルやブラジルでもリオ・デ・ジャネイロでは、音節末
の S がシュと(そして S のあとに有声子音が来る場合にはジュと)発音される傾向がある
(例: Lisboa リジュボーア(リスボン)またはリズボーア、vocês(ポルトガルではヴセーシ
ュ、ブラジルではヴォセイシュまたはヴォセイス、あなたたち))。また SI はスィの発音(日本
語のシは CHI)。
T: ブラジルでは TI および語末の TE は、ティやテではなくチと発音。例: mentira(「ウ
ソ」、ポルトガルではメンティーラ、ブラジルではメンチーラ)、Belo Horizonte(ベル・オリゾ
ンチ、日本では通常「ベロ・オリゾンテ」と表記される、ブラジルはミナス・ジェライス州の州都)
V: 英語同様、前歯を唇に当ててヴァ行の発音を行う。例: avó(アヴォー、祖母)、avô
(アヴォー、祖父)。両単語の区別に注意。
W: ポルトガル語では基本的に外来語でしか使わないが、ワ行またはヴァ行の発音。
X: ケースにより、S、Z、SH の 3 つの発音がある。できれば辞書などで発音を確かめるこ
と。例: explicar(ポルトガルではアシュプリカール、ブラジルではエスプリカーフ、説明する)、
por exemplo(ポルトガルではプル・アゼンプル、ブラジルではポル・エゼンプル、例えば)、
xadrez(シャドレスまたはシャドレシュ、ゲームとしてのチェス)
Y: ポルトガル語では基本的に外来語でしか使わない。
Z: ザ行の発音で、語末の場合はスと発音。ただ、S と同様、音節末の Z はポルトガルや
リオ・デ・ジャネイロではジュやシュと発音する傾向。例: Foz do Iguaçu(フォス/フォシュ・
25. ドゥ・イグアスー、イグアスの滝のある街の名前)、Fortaleza(ポルトガルではフルタレーザ、
ブラジルではフォルタレーザ、ブラジル北東部の主要都市名)
R や RR については発音が複雑なので後述すると書きましたが、こちらでその発音について説明し
たいと思います。
もともとポルトガル語では、スペイン語同様、巻き舌の R(語頭、RR、または N・L・S のあと)と
普通の R(それ以外の場所の R で、日本語のラ行の発音)の 2 つがあり、今でもポルトガルやブラ
ジル、そしてアフリカのポルトガル語圏諸国の中には、この発音体系が残っている地域が見受けられま
す。しかし、特に巻き舌の R については、ポルトガルとブラジルの都市部でそれぞれ別の発展を遂げて
います。
ポルトガル: フランス語の R と同じく、のどひこ(いわゆるのどちんこ)を震えさせる発音。
ブラジル: スペイン語の J やドイツ語の Bach の CH などと同様、喉の奥を強くこするハ行
の発音。
また、ブラジルでは音節末の R についても(たとえば terça の r や動詞の不定形の語末の R)、
巻き舌のR同様、ハ行の発音で発音することが少なくありません。このため、例えばperder(失う)
をペフデーフと発音することになります。
あと、音節末にアクセントが来て、その後 s や z がくる場合、ブラジルではイが入ることが少なくあり
ません(例: arroz アホイス(お米)、vocês ヴォセイス(君たち)など)。
1.4 アクセントの位置
最後に、アクセントの位置についてです。
子音のうち L・R・Z で終わるもの、母音のうち i か u で終わるもの、またはこ
れに m、s や ns がついたものの場合、最後の音節にアクセント。Brasil(ブラ
ズィウ/ブラズィル、ブラジル)、comum(コムン、共通の、複数形は
comuns)、bambu(バンブー、竹)、cartaz(カルタース、チラシ)、
almoçar(アウモサーフ/アルモサール、昼食をとる)、reais(ヘアイス、ブ
ラジルの通貨レアルの複数形)、Parati(パラチー、ブラジルの都市名)
28. Muito prazer.(はじめまして): 人と知り合った時、そして初めてあった人
と別れる場合には「お会いできて嬉しかったです。またどこかでお会いしまし
ょう」という意味でよく使われます。
Sim.(はい):英語の Yes に当たります。ただ、否定疑問文で聞かれた内容を
否定する場合にも使います。この場合、日本語の「いいえ」に相当するので、
要注意です。例: ¿A senhora tem passaporte? / Sim.(パスポートを持って
いますか?/はい)、¿Você não tem tempo? / Sim, tenho.(時間はないので
すか?/いいえ、あります: 否定疑問文を否定する場合)。また、ポルトガル語
では yes と答える場合、動詞を繰り返すことも少なくありません。例: Ele tem
carro? / Tem.(彼は自動車を持っていますか? / はい)。
Não.(いいえ):英語の No と同じです。ただ、否定疑問文で聞かれた内容を
肯定する場合にも使います。この場合、日本語の「はい」に相当するので、要
注意です。例: ¿Você é a Emília? / Não, eu sou Beatriz.(あなたはエミリア
ですか?/いいえ、私はベアトリスです)、¿Não tem medo? / Não.(怖くな
いの?/はい、怖くありません)
Um momento.(ちょっと待って):これもよく使える言い方です。Um
minuto.(直訳したら 1 分)などの表現もあります。
Tou / Alô(もしもし) :電話に出る場合の表現としては、ポルトガルでは
tou(後述する estou の略)、ブラジルでは alô がよく使われます。
Até logo / Até já / Tchau.(またお会いしましょう): 近いうちにまた会
う人に対して使う別れのあいさつです。Até は「~まで」という前置詞で、こ
のあとに具体的な日付を入れると、たとえば Até o próximo domingo.(次の
日曜日にお会いしましょう)のような表現を作ることができます。Tchau はも
ともとイタリア語の表現で、イタリア系移民の多いブラジルで広まったもので
すが、今ではポルトガルでも耳にする表現です。その一方、スペイン語の
adiós と同源の Adeus は、特にブラジルでは永遠の別れ(人が亡くなった場合)
にのみ使われるため、日常会話ではそれほど使われません。
29. Saúde!(乾杯):これには二つの意味があります。まずは「乾杯!」で、祝杯
の席でよく使われます。もう一つの意味は日本語にはない表現なのですが、く
しゃみをした時に、その相手に対してこのように言います(ポルトガルでは
Santinho!ということもあります。英語の Bless you!と一緒です)。言われた
ら Obrigado./a「ありがとう」と答えましょう。
2.2 estar 動詞の直説法現在の活用・主格人称代名詞
ここまでは、別に文法の知識がなくても丸暗記さえすればそのまま使える表現で
したが、場合によってはこれとは違う表現が使われることがあります。その時にどう
してもちょっとした文法の知識が必要となるので、それを以下示したいと思います。
Como está?(ご機嫌いかがですか?):Que tal?とは別によく使われる表現
で、基本的に意味は同じです。
なのですが、ここで出てくる está の部分について説明したいと思います。まず、
está は estar という動詞の活用形で、主語の人称と数にあわせて活用します。といっ
てもどういうことかわからないと思うので、以下示したいと思います。
主語 活用形 主語 活用形
eu(私) estou nós (私たち) estamos
tu(きみ) estás vós (きみたち) estais
ele(彼)
ela(彼女)
o senhor / a
senhora(あな
た)
você
a gente
está
eles(彼ら)
elas(彼女ら)
os senhores / as
senhoras(あなたが
た)
vocês
それら
estão
30. それ
ポルトガル語では動詞はさまざまな形に活用しますが、活用しない不定形(原形)
も使われます(例: ver é crer: 見ることは信じることだ)。しかし、多くの場合には
時制(現在/過去/未来など)や法(直説法/接続法/命令法)に従って活用します。ポ
ルトガル語学習においては、非常に複雑なこの動詞の活用体系をマスターできるか次
第と言ってもかまわないため、皆さんもここからのポルトガル語学習では、特に動詞
に注意を払っていただきたいと思います。
さて、ポルトガル語では、代名詞の体系がややこしく、さらにポルトガルとブラ
ジルでは別々の体系が使われるという点です。とりあえず整理してみましょう。
1 人称単数(英語の I): eu
1 人称複数(英語の we): nós。ただブラジルの口語では、a gente+3 人称単
数の活用形を使うことが少なくない。このため、Nós estamos aqui. = A
gente está aqui. となる。
3 人称単数(英語の he/she): 「彼」や「彼女」は ele / ela.
3 人称複数(英語の they): 「彼ら」は eles で「彼女ら」は elas.
ポルトガル語には男性名詞と女性名詞がありますが、男女混じった一段の場合に
は通常男性複数形が使われます。このため、elas は女性だけのグループの際に使われ、
男性が 1 名でも混じっているグループの場合(極論すれば女性 99 人と男性 1 人のグ
ループであっても)eles を使います。
次に 2 人称ですが、ポルトガル語ではフランス語やスペイン語やドイツ語などと
同じく、敬称(上司や知らない年配者など尊敬する相手に使う)と親称(家族や友人
など打ち解けた相手に使う)の両方がありますが、この体系がポルトガルとブラジル
では大きく違っています。以下、ちょっと見てみることにしましょう。
31. ポルトガル ブラジル
単数親称 tu você / tu
単数敬称
você /
o senhor / a senhora
o senhor / a senhora
複数親称
vos(古語・方言) /
vocês
vocês
複数敬称
os senhores /
as senhoras
単数親称: もともとは tu であり、現在でもポルトガルでは tu が一般的に使用
されている一方、ブラジルでは地域により você と tu の両方が使われるものの、
você のほうがより標準的なものとなっています。
単数敬称: 基本的に o senhor(男性)または a senhora(女性)ですが、ポル
トガルでは você が敬称の意味で使われることもあります。
複数親称: 本来は vós だったのですが、現在ではポルトガル北部の年配層を除
いて使われることはなく、主語としては vocês がポルトガルでもブラジルでも
一般的に使われます。特にブラジルでは vós やその活用は、聖書の引用文や古
典文学の表現ぐらいでしか登場せず、現代ブラジル・ポルトガル語としてはま
ず使われません。
複数敬称: os senhores / as senhoras となります。
なお、動詞の活用形についてですが、ポルトガルでは tu は 2 人称単数で、vós は
2 人称複数の活用形になる一方、ブラジルでは tu であっても 3 人称単数の活用形を使
うことが一般的で、você(s)や o senhor / a senhora などは全て 3 人称の活用形とな
ります。Tu の活用形は基本的に(完全過去を除いて)3 人称単数の活用形に s をつけ
たものとなるため、動詞の活用を覚える際には 1 人称と 3 人称だけ(今回の例なら eu
estou, ele está, nós estamos, eles estão の 4 つだけ)を覚えればブラジルでは十分
32. です(ポルトガルの場合、基本的に 3 人称現在に s をつければ tu の活用形が得られ
る)。
主語代名詞に関わる状況をややこしくしているのは、você の存在です。もともと
は vossa mercê(あなたの恩寵)という表現を略した丁寧な表現だったのですが、ポ
ルトガルでは現在、むしろ相手を見下す際にこの表現が使われることが少なくありま
せん(日本語でいえば、もともとは相手を敬う表現だったものの今では相手を罵る際
に使う「貴様」のような存在)。その一方でブラジルでは tu が使われなくなった地域
を中心として、tu の代わりとして幅広く使われており、相手を見下すような意味はあ
りません。その一方、複数形の vocês についてはポルトガルとブラジルの両国で一般
的に使われており、この点では問題がありません。
また、ポルトガルでは上記の敬称を主語とする場合、あえて主語代名詞を表記し
ないことが少なくありません。これは、単数形の você がポルトガルでは非常に微妙な
立場であること、また o senhor / a senhora は非常に敬意の強い表現で主語として出
すには大げさすぎるものであるため、具体的に主格代名詞をはっきりと出さず、その
かわりに動詞の活用や目的格代名詞などで 3 人称であることを示して相手に敬意を示
すのが一般的なのです。
このような状況を踏まえて、2 人称(英語の you に相当する表現)としてどれを
使えばいいかですが、大まかに以下のように言えるでしょう。
ポルトガル: 1 人の場合、基本的に自分と同じような社会的立場の人(例: 学生
仲間、職場の同僚、行きつけの食堂の店主)や家族には tu、明らかに敬意を示
すべき相手(例: 市⾧、大学の学⾧など)には o senhor などで、それ以外の場
合にはできるだけ主語を明らかにせず、3 人称の活用でごまかす。複数の相手
の場合、よほど改まった場所(例: 国会議員団や企業経営者など)でない限り
普通は vocês で十分。
ブラジル: o senhor などの表現は非常に改まった場面(例 : 市⾧や大学の学
⾧など)に限られ、それ以外の場合は você で十分。
33. アフリカ: 基本的にポルトガルと似たような使い分けになりますが、ポルトガ
ル基準よりは o senhor などをもうちょっと頻繁に使ったほうがよいでしょう
(たとえば同年齢でも知らない人相手に、または会社の上司や年配の方相手
に)。
さらに、1 人称、2 人称や 3 人称が混じった場合、以下のようにまとめられます。
私(eu)を含む場合 : nós(または a gente)。Eu e ele, eu e tu, eu e elas
など。
きみ(tu, você)やきみたち(vocês)を含む場合: vocês。Você e ele,
vocês e elas など。
O senhor / a senhora を含む場合: os senhores / as senhoras(女性だけ
の場合)。とはいえ、前述の通りよほど VIP ばかりの場合でない限り、vocês
の使用が一般的。
3 人称(彼、彼女)だけの場合: eles / elas(女性だけの場合).
先ほどの estar の活用表を見ると、いかにも複雑なように思えるかもしれません。
でも、ここで英語の be 動詞を思い出してみましょう。
英語の be 動詞の直説法現在形
主語 活用形 主語 活用形
I(私) am we(私たち) are
you(きみ) are you(きみたち) are
he(彼)
she(彼女)
it(それ)
is
they(彼ら、
彼女ら、それら)
are
つまり、英語で be 動詞を使う場合、I be とか you be とは言えないわけで、I な
ら am、he なら is、we なら are というように、動詞を活用させなければならなかっ
34. たわけですね。ポルトガル語の活用も原理はこれと一緒で、ただ活用形が 4 つ(ポル
トガルでは 5 つ、vós を入れると 6 つ)あって多少ややこしいだけなのです。
また、ポルトガル語の場合、上記の表を見ると、たとえば estou と言った場合に
は eu(私)の活用形である、ということがわかります。だから、特に主語を強調する
場合以外は、eu や nós、tu といった主語は省略されます。ですから、ポルトガルで親
しい相手に元気かどうかたずねる場合は
Como estás?(元気?)
となり、普通は主語である tu(きみ)を言わないわけです(ブラジルでは Como está
você でもかまいませんが、この表現では Como está のほうが自然です)。
2.3 形容詞の性数一致
さて、このようにして estar 動詞を使って調子を聞かれた場合、もちろんただの
Bem, obrigado/a.だけで答えてもいいのですが、やはり estar を使って答えたいもの
です。この場合、
Estou bem.(元気です)
と答えます。でも、あまり元気ではない場合もあると思いますので、そういう時のた
めの表現を並べておきます。
Estou cansado/cansada.(疲れている)
Estou doente.(病気である)
Estou mareado/mareada.(車酔いした)
Estou bêbado/bêbada.(酒に酔っ払っている)
Estou gripado/gripada.(風邪をひいた)
35. ですが、ここでなぜ o で終わる言い方と a で終わる言い方があるのか、不思議に
思った人がいると思います。実は、ポルトガル語の形容詞は、その名詞に合わせて性
数変化するのです。簡単に言うと、男性の場合は o、女性の場合は a で終わるのです
(ちなみに、bem は副詞なので、これとは関係ありません)。ですから、同じ「疲れ
た」でも、もしあなたが男性なら Estou cansado.、女性だったら Estou cansada.と
なるわけです。
もちろんこれは、主語が eu 以外のときにもあてはまります。ですから、友人に
「酔っ払った?」とたずねる場合でも、相手が男性だったら Estás bêbado?、相手
が女性だったら Estás bêbada?となるわけです(ブラジルでは estás ではなく está
になりますが)。
また、複数の場合は形容詞にも s がつきます。ですから、「私たちは疲れている」
だったら、
Estamos cansados.(女性だけの場合は Estamos cansadas.)
になるわけです。これを表にしてみましょう。
cansado
(疲れた)
男性 女性
単数 cansado cansada
複数 cansados cansadas
ちなみに、ブラジルの口語では nós のかわりに a gente を使いますが、この場合
全員が女性の場合には a gente está cansada と、それ以外の場合(男性を含む集団で
ある場合)には a gente está cansado.となることが一般的です。
先ほど「ありがとう」という表現について、男性と女性でそれぞれ別の表現を使
うという話をしましたが、このような形容詞の変化を知るとよくわかります。
Obrigado.は男性形、obrigada.は女性形であり、主語である eu に合わせて変化させ
るわけです。
36. さて、先ほど名詞に合わせて性数変化すると書きましたが、これはどのような名
詞にもあてはまるのです。なぜかというと、ポルトガル語の名詞は全て男性名詞ある
いは女性名詞のどちらかに区分されており、それによって対応する形容詞の形が変わ
ってくるのです。実はこの例は既に出てきています。まず、día(英語の day)という
名詞は男性名詞なので、形容詞 bom の男性形がついて Bom día.となります。それに
対し、tarde(午後)や noite(夜)は女性名詞なので、それに応じて bom も女性形に
なって、Boa tarde.や Boa noite.となるわけです。このあたりについてはまたあとで
詳しく説明しますので、とりあえずこの章では「ポルトガル語では形容詞も変化する」
と覚えておいてもらえば、それで充分です。
また、ポルトガル語ではその他にも、estar com 構文で体調や自分の状態を表現
することができます。
Estou com muita fome.(私はとても腹ペコだ)
Estou com muita sede.(私はとても喉が渇いた)
Estou com muito calor.(私はとても熱がある)
Estou com muito tempo.(私はとても暇だ/時間がある)
Estou com muita dor de cabeça.(私は頭がとても痛い)
Estou com muita sorte.(私はとても運がよい)
Estou com muito sono.(私はとても眠い)
この構文では、muito/a は特に必要ないのですが、男性名詞か女性名詞のどちら
であるかを明らかにするためにつけてみました(muito の場合が男性名詞、muita の
場合が女性名詞)。
ここで、体の部分を示す単語を一覧にしておきました。Estou com dor de の構文では定冠詞
は不要ですが、念のためにつけておきましたので、構文にあてはめて練習してみましょう。また、以下に
示した単数形の名詞は、「両目」や「両手」などの意味で使われる場合、当然複数形になります。
頭: a cabeça
目: o olho
耳: a orelha
鼻: a nariz
頬: a bochecha
37. 口: a boca
歯: o dente
舌: a língua
アゴ: o queixo
喉: a garganta
首: o pescoço
肩(両肩の場合は複数形): o ombro
背中: as costas
心臓: o coração
胸: o peito
腕: o braço
肘: o cotovelo
手: a mão
親指: o polegar
それ以外の指: o dedo
人差し指: o índice
中指: o meio
薬指: o anular
小指: o pequeno
肺: os pulmões
胃: o estómago
肝臓: o fígado
腸: o intestino
腰: a cadeira
腎臓・腰: os rins
お尻: as nádegas
脚: a perna
腿: a coxa
ふくらはぎ: o bezerro
膝: o joelho
足: o pé
39. 3.出身地や職業、居場所を尋ねる
ここでは、ser 動詞直説法現在、ser と estar の基本的用法、不定冠詞と定冠詞を
学びます。
3.1 出身地の尋ね方(ser 動詞直説法現在)
さて、とりあえず知り合いになったところで、出身地を聞きましょう。出身地を
聞く場合は、こう言います。
De onde é o senhor / a senhora?(あなたはどこ出身ですか?)
ここで英語の be 動詞に相当するもう一つの動詞、ser 動詞を紹介しましょう。
主語 活用形 主語 活用形
eu(私) sou nós (私たち) somos
tu(きみ) és vós (きみたち) sois
ele(彼)
ela(彼女)
o senhor / a
senhora(あな
た)
você
a gente
それ
é
eles(彼ら)
elas(彼女ら)
os senhores / as
senhoras(あなたが
た)
vocês
それら
são
40. de は英語の from にあたる前置詞、onde は英語の where にあたりますから、英
語に直訳すれば From where are you?となり、語順的にはちょっと英語とは違います
が、出身地を尋ねる言い方になります。もちろん親しい相手、あるいは子どもにたず
ねる場合は
De onde és? (ポルトガル) / De onde é você? (ブラジル)
となります。そして答え方としては、
(Eu) sou de 出身地.
となります。
3.2 Ser と estar の基本的な違い
さて、この ser 動詞は、estar 動詞と並んでよく使われます。どちらも英語の be
動詞に対応するのですが、実は使い方が違います。
(1)属性や出身など、変わらないものの場合は ser が使われます。
たとえば、Ela é Sandra.(彼女はサンドラだ)とか、Eu sou médico.(私は医
者だ、男性の場合)、O carro é vermelho.(車は赤い)、あるいは Eu sou de São
Paulo.(私はサンパウロ出身だ)や Eles são da Alemania.(彼らはドイツ出身だ)
などというように、いつでも変わらないようなことには ser が使われます。ちなみに、
職業をいうときには、英語と違って不定冠詞は必要ない(英語だったら I am a doctor.
といいますが、ポルトガル語では Sou médico./médica.でかまわない)一方、大半の
国名の前には定冠詞がつきます(例: o Brasil(ブラジル), o Japão(日本), a China
(中国)。例外は Portugal など)。もちろん、この場合も主語が女性あるいは女性名
詞の場合は、たとえば A bicicleta é vermelha.あるいは Sou médica.というように、
estar 動詞のときと同じように変える必要があります(vermelha は vermelho 赤いの
女性形、médica は médico 医師の女性形)。
41. さて、ポルトガル語で疑問文を作る時は、英語のように動詞の順番を変える必要
はありません。ただ文末を上げて発音すればいいのです。だから、
Tu és estudante. / Você é estudante.(きみは学生だ)
は、そのまま
És estudante? / Você é estudante?(きみは学生ですか?)
になります。また、否定文の場合は、動詞の前に não を置きます。たとえば、
Não sou estudante.(私は学生ではありません)
のようにするわけです。
(2)所在(どこにいるか、あるか)を表す場合は、estar が使われます。
しかしながら、A Liberdade está em Nova Iorque.(自由の女神はニューヨーク
にある)のように、自由の女神がどこにあるかを示す場合は、estar が使われ、場所は
前置詞 em+具体的な場所で表されます。これはもちろん人間でもかまわないわけで、
たとえば Agora estou em Lisboa.(私は今リスボンにいます)、Onde estás? /
Onde está você?(どこにいるの?)、また Estamos em Shibuya.(私たちは今渋谷
にいます)などと言えるわけです。この表現は、携帯電話やメッセンジャーなどで相
手の所在地を尋ねるときによく使われます。「どこにいるんですか?」という表現は、
Onde estás? / Onde está você? (どこにいるの? 親しい相手に対して)
Onde está?(敬称を使う相手に対して)
Onde estão?(複数の相手に対して)
となります。
また、場所を表す便利な表現として、この 3 つを覚えておきましょう。
aqui(ここ)
aí(そこ)
ali(あそこ)
42. (3)一時的な状態を示す時は、estar が使われます。
前章で見ましたが、「疲れている」や「元気である」のように、一時的な状態の
ときは estar を使います。他にも、O semáforo está vermelho.(今赤信号だ)や Os
sapatos estão sujos.(靴は汚れている)のような場合も、estar を使えます。
3.3 「これは・・です」(不定冠詞)
さて、ここで「これは何ですか?」という表現を覚えましょう。
O que é isto?(これは何ですか)
isto は「これ」(ちなみに「それ」はisso、「あれ」はaquiloです)で、o qué
が「何」ということで、英語の What is this?に相当する言い方となります。それに対
しては
Isto é なになに
と答えればいいわけで、たとえば、
Isto é prata.(これは銀です)
Isto é petróleo.(これは石油です)
Isto é vinho.(これはワインです)
Isto é oxigénio / oxigênio(これは酸素です。左の綴りはポルトガル風、
右の綴りはブラジル風)
などと言えばよいわけですが、加算名詞(自動車や本など、数えることのできる名詞)
についていう場合、英語と同じように、ポルトガル語でも不定冠詞(英語で言う a や
an)が必要になるのです。どのような形になるか、以下に示します。
不定冠詞 男性 女性
44. ということで、これらを使って答えてみましょう。
Isto é um cão / um cachorro.(これは(一匹の)犬です)
Isto é uma ovelha.(これは(一頭の)羊です)
Isto é uma laranja.(これは(ひとつの)みかんです)
Isto é um relógio.(これは(一つの)時計です)
というように、ポルトガル語では男性名詞か女性名詞かによって、言い方が少し変わ
ってきます。
3.4 「これは誰の・・ですか?」という表現(定冠詞)
さて、これでものの名前の表現はわかりました。次はそれが誰のものかを聞いて
みましょう。このように、一度話題に出た名詞を使う場合、英語ではたとえば Whose
is the book?(誰の本ですか?)というように、定冠詞を使いましたよね。ポルトガ
ル語でも同じで、こういう場合は定冠詞を使うのです。この定冠詞も、不定冠詞と同
じように変化をします。とりあえず、その表を見てみましょう。
定冠詞 男性 女性
単数 o a
複数 os as
これを使って表現すると、
De quem é o livro?(この本は誰のものですか?)
De quem é a revista?(この雑誌は誰のものですか?)
De quém é a água mineral?(このミネラルウォーターは誰のものですか?)
45. となるわけです。もちろん、「これは誰のものですか?」という場合は、
De quem é isto?
で大丈夫です。
また、定冠詞に形容詞をつけると、「~なもの」ということで形容詞を名詞化す
ることもできます。(英語でいうと the A one、たとえば the red one, the blue one
など)これについては、説明の都合上 3.5 で改めて取り上げたいと思います。
3.5 「これは誰だれのです」という表現(所有形容詞)
英語の所有格(my, your, his, her, its, our, their)と所有代名詞(mine,
yours, his, hers, its, ours, theirs)に相当するものですが、ポルトガル語では形容
詞としての変化を行うため、所有形容詞という表現が使われます。
さて、De quem é isto?という質問に答える時は、普通は
É de 人名.
でかまわないのですが、「私のもの」、「きみのもの」などというときは、所有形容
詞を使います(英語の mine や yours など所有代名詞に相当する形)。それを示しま
す。
所有形容詞
主語
所有
形容詞
主語 活用形
eu(私)
meu /
minha
nós (私たち)
nosso /
nossa
tu(きみ)
teu /
tua
vós, vocês (きみた
ち、ポルトガル)
vosso /
vossa
46. ele(彼)
ela(彼女)
o senhor / a
senhora(あな
た)
você
a gente
それ
seu /
sua
eles(彼ら)
elas(彼女ら)
os senhores / as
senhoras(あなたが
た)
vocês(ブラジル)
それら
seu /
sua
※主語が vocês の場合、ポルトガルとブラジルでは使う形が違うので要注意です。
ブラジルでは vocês は、文法上は完全に 3 人称複数の代名詞として取り扱われるため、
「きみたちの」という表現を使う場合、seu や sua という代名詞が使われます。その
一方ポルトガルでは、このあたりの移行がまだ十分ではないため、またいろんな意味
を取り得る seu/sua と区別する意味合いのため、vosso/vossa が使われます。
上記の表に従うと、例えば De quem é o relógio?(これは誰の時計ですか)と聞
かれた場合、
É meu.(私のものです)
É vosso.(きみたちのものです)
É seu.(彼・彼女・あなた・彼ら・彼女ら・あなたがたのものです)
などとなりますが、seu がいろいろな意味になってしまうことがわかります。これで
はわかりにくいということで、「あなた(がた)のもの」以外の意味では seu の代わ
りに、É dela.のような言い方をすることもあります(de は「~の」にあたる前置
詞)。
É dele.(これは彼のものです)
São dela.(これらは彼女のものです)
São deles.(これらは彼らのものです)
É delas.(これは彼女らのものです)
47. É de vocês?(これは君たちのものですか?)
São da senhora.(これらはあなた(女性)のものです)
また、これらは形容詞なので、当然性と数の変化をします。ですから、たとえば
De quem é a revista?(これは誰の雑誌ですか)と聞かれた場合には、A revista(雑
誌)が女性名詞なので、
É minha.(私のものです)
É vossa.(きみたちのものです)
É sua.(彼・彼女・あなた・彼ら・彼女ら・あなたがたのものです)
と、そして De quem são estes violões?(これらのクラシックギターは誰のものです
か?)と聞かれた場合には、violões(クラシックギター)が男性複数形なので
São meus.(私のものです)
São vossos.(きみたちのものです)
São seus.(彼・彼女・あなた・彼ら・彼女ら・あなたがたのものです)
と答えるわけです。
また、この所有形容詞の後置形は、先ほどちょっと触れた「定冠詞+形容詞」と
して使うことができます。この例文についてちょっと見てみましょう。
De quem são os carros? / O de Elisa é vermelho e o meu é branco.
(自動車は誰のものですか? / エリーザのは赤で、私のは白です。e は「~と、
そして…」など(英語の and)に相当)
もちろんこの場合、”O vermelho é de Elisa e o branco é meu”(赤いのがエリ
ーザの自動車で、白いのが私の自動車です)と答えてもかまいませんが、カギとなる
のはこのように定冠詞と形容詞を組み合わせることで、このような構文が可能になる
ということです。