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路面段差が及ぼす車両振動への
影響に関する研究
中間報告
鈴木 啓太 [B4]
2015.12.25 道路研究室
A study for Effect of vehicular acceleration
by bumps of the road surface
研究背景
 高速道路利用者の苦情(NEXCO東日本)
2
利用者の乗り心地に関するニーズ向上
路面段差など路面環境に関する苦情および管理瑕疵件数が増加
 乗り心地の快適性低下
 輸送貨物の荷傷み
 周辺への騒音発生
 事故の原因
路面段差により主に以下の影響が生じる
・段差
・ポットホール
・わだち掘れ
・ひび割れ etc…
22mmの段差
段差やポットホール等の車道部の路面損傷
や変状は応急復旧を要した
異常事象の約6%を占める
研究目的
3
定量的で新たな段差の測定・評価方法が必要
水糸測定法従来の段差評価:
 深さのみを測定するため,段差の形状を考慮しておらず,
すべての段差の評価に活用しにくい(縦断形状の考慮が必要)
 測定時に通過交通を制限するため,利用者に影響が出る
 測定に手間と時間がかかる
来たる社会資本老朽化時代に向け,交通を制限することなく,
段差通過の際の特殊な挙動を発見することで最終的に
トラックが走行しているだけで段差の情報がわかるような指標が望ましい
研究概要
4
段差や車両条件の違いごとに鉛直加速度を出力し,
路面段差の形状が車両にどのように
振動・影響を及ぼすかを明らかにする
▶TruckSimを使用
段差の新たな測定方法および評価指標をつくる
 TruckSimについて
車両がドライバや,動的な環境変化(路面条件や運転条件)の
入力に対し,コストや時間のかかる実車テストの代替として
どのように応答するかを解析する信頼性が高く実用的な
車両運動シミュレーションソフト
進捗内容
5
1 TruckSimの有用性検討
TruckSimにより出力されるデータの有効性を検証するため
北関東自動車道での調査で得た路面プロファイル上を走行した
自動車およびTruckSim上の振動加速度データの精度を比較
2 路面段差の拡大縮小による影響の検討
圏央道で得た路面プロファイルに対して
鉛直方向に拡大縮小したプロファイルを用意し走行することで
鉛直加速度にどのように影響が及ぶかを検証した
今回の計算条件
 車両の速度
6
以下の軸のバネ上位置に仮想的に設置
・前前輪軸 ・前後輪軸
・後前輪軸 ・後後輪軸
・重心
高速道路におけるトラックの制限速度 80km/h(定速)
 加速度センサの計測位置
 車両
車両モデルはISUZU 4軸トラックで
積み荷を満載状態(15,700kg)および空荷(0kg)に設定
 縦断延長
仮想道路延長は取得プロファイルに合わせ
それぞれ①300m, ②1000m に設定し
路面プロファイルによる影響が十分に収束する延長
TruckSimの有用性検討
7
実測値とTruckSim振動加速度の比較
段差発生位置
Ⅱ区間
段差発生位置
Ⅰ区間
車両進行方向
先日の調査で得た,北関東道における道路橋遷移部での
段差を含む縦断路面プロファイルをTruckSim上に仮想的に再現.
同じ段差の乗り越え時の振動加速度に関して
TruckSim上の4軸トラックと乗用車の実測値を比較した.
比較対象は(速度:80km/h)
 4軸トラック(仮想路面上を走行)
 乗用車 (HONDA FREED)
区間Ⅰ 区間Ⅱ
TruckSimの有用性検討|結果
8
-4.5
-3.5
-2.5
-1.5
-0.5
0.5
1.5
2.5
3.5
4.5
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00
鉛直振動加速度[m/s2]
時間 [s]
TruckSim上のトラックおよび乗用車との鉛直振動加速度の比較
-4.5
-3.5
-2.5
-1.5
-0.5
0.5
1.5
2.5
3.5
4.5
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00
鉛直振動加速度[m/s2]
時間 [s]
空荷 満載 HONDA FREED
Ⅱ区間Ⅰ区間
TruckSimの有用性検討|結果
9
空荷 満載
最大値 3.22 1.82 1.22
最小値 -3.78 -3.15 -2.67
標準偏差SD 0.94 0.80 0.71
RMS 0.94 0.80 0.75
最大値 3.43 3.18 3.54
最小値 -4.23 -2.57 -1.81
標準偏差SD 1.11 1.03 1.24
RMS 1.11 1.03 1.24
TruckSim
加速度[m/s2] 乗用車
Ⅰ区間
Ⅱ区間
加速度比較
乗用車およびTruckSim(満載,空荷状態)
で出力された鉛直方向加速度を
以下のような統計値にまとめ,
乗用車に対する相対誤差を算出した.
なお,測定位置は乗用車床部に設置された加速度計に合わせた.
※相対誤差20%以内は太字
空荷 満載
最大値 164.66 49.47
最小値 41.62 18.18
標準偏差SD 32.46 13.42
RMS 25.25 7.24
最大値 -3.06 -10.10
最小値 133.35 41.75
標準偏差SD -10.65 -16.93
RMS -10.69 -16.96
Ⅰ区間
Ⅱ区間
TruckSim
乗用車との相対誤差[%]
TruckSimの有用性検討|考察
10
空荷 満載
最大値 3.22 1.82 1.22
最小値 -3.78 -3.15 -2.67
標準偏差SD 0.94 0.80 0.71
RMS 0.94 0.80 0.75
最大値 3.43 3.18 3.54
最小値 -4.23 -2.57 -1.81
標準偏差SD 1.11 1.03 1.24
RMS 1.11 1.03 1.24
Ⅰ区間
Ⅱ区間
TruckSim
加速度[m/s2] 乗用車
空荷 満載
最大値 164.66 49.47
最小値 41.62 18.18
標準偏差SD 32.46 13.42
RMS 25.25 7.24
最大値 -3.06 -10.10
最小値 133.35 41.75
標準偏差SD -10.65 -16.93
RMS -10.69 -16.96
Ⅰ区間
Ⅱ区間
TruckSim
乗用車との相対誤差[%]
 段差前後のプロファイルしか得られず,他の区間を平坦としたため
細かい連続的な路面の凹凸の影響で誤差が生じた可能性がある
 Ⅰ区間に関しては満載トラックに,Ⅱ区間に関しては空荷トラックで
データのばらつきが比較的小さかった
しかしながら,乗用車とトラックという異なる条件において
標準偏差SDaccの相対誤差がおおむね20%以内に収まり,
TruckSimのシミュレーションには充分な有用性があると言えそうである.
※相対誤差20%以内は太字
進捗内容
11
1 TruckSimの有用性検討
TruckSimにより出力されるデータの有効性を検証するため
北関東自動車道での調査で得た路面プロファイル上を走行した
自動車およびTruckSim上の振動加速度データの精度を比較
2 路面段差の拡大縮小による影響の検討
圏央道で得た路面プロファイルに対して
鉛直方向に拡大縮小したプロファイルを用意し走行することで
鉛直加速度にどのように影響が及ぶかを検証した
路面段差の拡大縮小による検討
12
路面プロファイルについて
圏央道で得た凹型の路面プロファイルについて鉛直方向に
次の倍率(×0.25, ×0.50, ×1.00, ×1.50, ×2.00, ×3.00)に変化させ
時速80kmで走行した時の加速度挙動に,いかなる影響があるかを調べた.
なお,プロファイル中央はボックスカルバートのため段差は発生しない.
×0.25 ×0.50 ×1.00 ×1.50 ×2.00 ×3.00
標準偏差SDpro 0.0022 0.0044 0.0088 0.0132 0.0176 0.0264
RMS 0.0041 0.0082 0.0163 0.0245 0.0327 0.0490
最大値 -0.0081 -0.0162 -0.0323 -0.0485 -0.0647 -0.0970
プロファイル平均 [m]
路面段差の拡大縮小による検討|結果
13
-6.0
-4.0
-2.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5
鉛直加速度[m/s2]
時間 [s]
空荷状態,時速80kmの重心における鉛直加速度
-6.0
-4.0
-2.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5
鉛直加速度[m/s2]
時間 [s]
満載状態,時速80kmの重心における鉛直加速度
0.25
0.50
1.00
1.50
2.00
3.00
路面段差の拡大縮小による検討|考察
14
路面高さと鉛直加速度の間に明らかな線形的な挙動を示し,
前前輪軸において最も大きな加速度が現れた.
空荷状態および満載状態において,各軸上の加速度の値こそ
違うもののグラフの形は,ほぼ相似な挙動を示しているといえる
▶トラックの積載量により路面高さと鉛直加速度の関係性は依存しない
路面段差の拡大縮小による検討|考察
15
ピーク値に関しても線形関係にあった.
鉛直加速度SDaccと比較するとピーク値の大きさの序列が異なっている.
段差高さと加速度にはかなり密接な関係があることがわかる.
[m/s2]
[m/s2]
路面周波数が及ぼす振動加速度への影響
16
時間周波数解析
路面プロファイルに対し,
ウェーブレット変換による時間周波数解析を施すことにより検討
路面に対してどの周波数(波長)が
車両に発生する鉛直加速度に影響を及ぼすのかを知りたい
𝐒 =
𝒏=𝟏
𝒏
𝑫 𝒏 + 𝒂 𝒏
a:近似 approximation
d:詳細 detail
低周波数成分
高周波数成分
今回はウェーブレット変換により路面プロファイルを異なる周波数を持つ
5波のdetailと,1波のapproximationに分解.
路面周波数が及ぼす振動加速度への影響
17
仮想プロファイルの生成
時間周波数解析ののち,ある周波数成分(detail)を差し引いた
仮想プロファイルを生成する
𝐕𝐒 𝒏 = 𝐒 − 𝐃 𝒏
𝐕𝐒 𝟏 = 𝐒 − 𝐃 𝟏
𝐕𝐒 𝟓 = 𝐒 − 𝐃 𝟓
今回は,5つのdetailを差し引いた5本の仮想プロファイルを用意
︙
仮想プロファイル上をTruckSimで走行し加速度を得ることで
段差や路面波長が乗り心地にいかに影響を与えるか,検討を行いたい.
なお,乗り心地は以下の乗り心地指数(RQF)を用いる.
𝐑𝐐𝐅 = 𝐑𝐌𝐒 𝐏𝐒𝐀 + 𝐑𝐌𝐒 𝐂𝐆𝐀 × 𝟏𝟎
基底関数の選定に関して
18
【参照】路面プロファイルデータ処理に適したウェーブレット基底関数の選定について(川上彰ら)
マザーウェーブレットにより解析結果が大きく異なるため選定は重要
(a) 基底関数による離散データの補間精度
(b) ピラミッドアルゴリズムの性能比較
基底関数の選定に関して
19
【参照】路面プロファイルデータ処理に適したウェーブレット基底関数の選定について(川上彰ら)
したがって,以上から基底関数を
と選定することとして解析を進めていく.
Symlet(N=4),Coiflet(N=4)
基底関数の選定に関して
20Symlet(N=4) Coiflet(N=4)
選定した基底関数 による
路面プロファイル(北関東自動車道)のウェーブレット変換

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Editor's Notes

  1. 「ネクスコが舗装に関して受ける苦情の最多件数が段差に関するものである。段差の何が悪いかというと周辺の住民が受ける騒音,あるいは商品を運送しているトラック内の荷物が痛むということから~」
  2. NEXCOが管理しているのは有料道路なので,利用者に騒音や荷傷みのない路面環境を提供しなければならない.現在は水糸で段差の測定・評価を行っているが,段差の深さのみを測り,段差の形状は考慮されていないため,水糸は全ての段差の評価には活用しにくいので,新しい段差の測定・評価方法が必要になっています.
  3. そこで,新たな段差の測定方法,評価方法を作るため を用いて段差の形状,車両の種類,車両の速度,加速度の計算位置,積載量の条件の違いによる鉛直加速度を計算し,基本的な段差の形状が車両にどのような振動を与えるのかを明らかにします.
  4. (MRPにより3側線で測定) 時速80km/hになるような操作をした
  5. 路面プロファイルはMRP(multi road profiler)により求めた。MRPは内蔵されたジャイロセンサによって操作の傾きを認識し,それにより絶対高さでの路面凹凸評価が可能な機構を有している。 時間信号波形の大きさ(強さ)の評価 時間に沿って変動する信号の影響の強さを評価するにはどうしたらよいでしょうか。 時間波形のピーク値や最大値が一つの評価の方法となります。 しかし、実際に与える影響を表しているものと言えるでしょうか。 そこで、一般的に用いられるのが実効値です。 実効値とは 実効値とは、時間信号の平均的な大きさ(強度)を表す量です。 周期信号 x(t) の周期を T とすると、以下の①式で定義されます。 x(t) が非周期信号 の周期を T とすると、以下の②式で定義されます。 なにやら積分とか入って難しそうな式ですが、上の式を言葉で表現すると、 「信号の二乗値の平均の平方根」(root mean square)となります。 このため実効値は、rms値とも呼ばれます。 実効値を解析すると何が分かるのか? 実効値は、時間信号の平均的な大きさ(強度)を表す量ですので、実際にどの程度のパワーを受けている/消費しているかを見る事ができます。 例)装置振動の場合   計測していた時間における平均振動強度と考えられます。   実際にどの程度の振動エネルギーが加わっているのかを評価できます。
  6. 時速80km/hになるような操作をした
  7. 時速80km/hになるような操作をした
  8. 固有振動数にも関係しているのでは?
  9. 時速80km/hになるような操作をした
  10. 固有振動数にも関係しているのでは?
  11. 固有振動数にも関係しているのでは?