ウェブ小説とSF
「作品」ではなく「しくみ」の話
1.オンライン小説とSFの歴史(縦軸)
2.マンガと小説の比較(横軸)
3.アメリカ,中国,韓国との比較(横軸)
→今後SFがウェブで取り組むべきこと
を考える
ウェブは手段であって目的ではない
ウェブ小説と言っても提供方法は様々
何のために使うのか?
目的に適した手段は何か?
SFとオンライン小説の関係を整理すると…
・2000年代以前と
・2016年以降
にトピックが集中
→SF作家・ファンの性質と関係
SF界がウェブ小説を甘く見ていた
00-10s中盤にweb発の書籍化市場が爆増
いったい何が起こったのか?
なぜこの間、日本SFとウェブ小説の
関係は遠かったのか?
ここに今後を考えるヒントがあるかも
日本のウェブ小説の歴史
1990年代の特徴
・有料化/(出版社抜きの)直売志向
・英語・海外展開志向
・マルチメディア
・集団創作
・分岐する物語/ハイパーテキスト
→「紙でできないこと」志向が強い
ウェブ自体を目的化しがちだった
90s→00sでのウェブ小説の変化
・有料化/(出版社抜きの)直売志向
→ウェブでは無料だが出版社が紙で有料書籍化
・英語・海外展開志向→日本語/日本ローカル
・マルチメディア→文字だけ
・集団創作→単一作者
・分岐する物語/ハイパーテキスト
→リニアな物語
+ランキングと投稿PFの台頭
90s後半から00s初頭に起きた画期
既成新人賞は「作家が作家を選ぶ」(1)
楽園,アルファポリス,スターツ出版が
「読者が直接作品を選ぶ」(2)を開拓
「量が質を担保」(ウェブ人気が出版物としての商品価値の裏付けになる)
→1より2が「売れる」打率高いと発見
2000年代に確立されたポイント,ランキング制の投稿PF発で人気の作品を書籍化するビジネスモデルが2010年代前半までに拡大
これらの試みでは作家もPFも版元も数字を取る=人気になるを目的にしており,達成手段が確立され成功した
00s後半以降の投稿PF時代の重要な点
・群として投稿される=リテンション増大
特定サイトへの来訪回数増加
・単発ヒットではなくブーム,レーベル,ジャンル化,タグによる流行/現象の可視化
書き手・読み手の定着。探しやすくなる
・ポイント,ランキング制と書籍化が紐付く
書き手にロールモデルと投稿戦略が生じる
本―ウェブへ相互にユーザーが流入
→本質は流行ジャンルの誕生ではなく
再現性の高いヒットのしくみの形成
→SFがウェブ活用によって何を
目指すにせよ「しくみづくり」「エコシステムの全体最適」の
観点からの取り組みが必要
一方,出版社の文芸発の試みはほぼ失敗
12年講談社アマテラス→15年終了
13年電子誌「デジタル野性時代」「つんどく!」「yomyom pocket」→15年までに終了
13年ディスカヴァー21×CRUNCH MAGAZINE
新人賞1回で終了
雑誌の果たすべき機能は対読者にある
・作家・作品の育成と宣伝
・リテンション 定期的に届け,
継続的に関心を繋ぎ止める
・顧客エンゲージメント向上
これができないなら
惰性で続けてもやる価値なし
サイトに小説あげれば万事解決、ではない
うちもウェブ小説やるで!
↓
版元サイトにちょぼちょぼ
小説をアップしても
たくさん読者はこない
リテンションが弱い
数,人気で競うなら工夫が必要
00-10s前半の日本SFは大きな動き無し
ウェブ,電子がしくみ,体制を変えず
北米は10年代前半から着実に変化?
11 10年度ネビュラ賞最終候補短篇6/7がオンライン初出.ノヴェラ,ノヴェレット部門も電子版で読める(買える)ものが大半を占める
米Asimov誌,12年時点で約3割が電子購入で部数増
Hugh Howey”Wool”KDP発でヒット
PFとSF界のランキングの違い
投稿PF:投票権の持ち主=誰でも
星雲賞:カネ払ってSF大会来る猛者
読みたい:SF関係者
→「誰でも」だとジャンル固有の
価値観で作品が選ばれない.
価値観の共有者に限定するから機能.
評価「方法」は似てても評価「者」が違う
日本の文芸,SFは
タグ,ポイント,ランキング制×投稿PFの
・作品評価の定量化 ・読者が作品を選ぶ
・マッチング,検索精度の追求
・リテンション(作品量、更新頻度)最大化
・コメントを通じての読者の作品参加
・ウェブで無料で読める敷居の低さ
・ウェブ→書籍化→マンガ→映像のIP展開
といった一連のポイントを外すか無視
有料ウェブ小説への挑戦にもスマホ以降消極的
なぜ文芸,SFは素直にできないのか
売れるよりもジャンル的な価値を重視
作家は読者より偉い,線引きすべき
紙はウェブより偉い、以下同文
うちのジャンルは他より偉い、以下同
量より質
売り物はタダで見せられない
タダで見せたら素人と同列になる
こういう価値観で駆動している
00s~のウェブ書籍化思想と相性悪い
だからできない、やらない
オルタナティブな方法論を模索するも
目的と手段が不整合
10s以降,漫画と小説の何が違ったのか?
マンガは雑誌から
ウェブ、アプリ、電書に
主軸を変更
小説はウェブ小説PF以外
うまくDXできたとは言えない
マンガアプリの機能
・育成→ジャンプ+他の大量読切,
最新話は出版社系APPでのみ配信
・宣伝→電書ストアで1~3巻無料,LINEマンガで無料連載,気軽な作品へのリーチ実現
・リテンション→23時間待てば1話無料
・エンゲージメント→出版社APPを連載媒体として
認知、顧客ロイヤルティと客単価を共に上昇
雑誌→デジタルで機能を置換,発展
なぜリテンションが大事なのか
人は書店に行かないと本を買わない.
昔は定期的な来店動機を雑誌が作った.
複合店はレンタルビジネスでも作った.
↓
リアル書店は習慣的な来店装置を喪失
→マンガAPPは時限式無料で毎日来店
→→小説はPF以外リテンションが弱い
マンガは
出版社系とストア系で役割分担
小説はこれができてない
特にファネルの設計に難あり.
間口広く呼び込み+濃い方へ誘導
の施策が小説では弱い(後述)
ただ小説とマンガでは市場規模が違う
マンガ…6770億円
小説…700億円程度
→マンガ同様の投資は
期待できない…?
ただしウェブ小説の市場規模は
韓国…21年6000億ウォン以上
韓国コンテンツ振興院調べ
中国…ネット文学全体で230億元,
中国作家協会ネット文学センター『2022中国ネット文学青書』
SFの電子書籍(書籍・雑誌の電子版,ネットオリジナル)13.7億元
新華網日本語2023.6.3「中国SF産業、22年の売上高877億5千万元」
ウェブ+電書小説市場だけで
日本の小説市場全体に匹敵(韓国),凌駕(中国)
日本も投資で伸びる余地大
もっとも3%向け小説がIP展開可能か,ビッグビジネスになるかは疑問
(とはいえ何もしないとジリ貧)
等々