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米からパンをつくる新潟県
- 1. 米 か ら パ ン を つ く る
新潟県農業総合研究所食品研究センター
1. 米と小麦のちがい
1)日本における米の栽培は約 3,000 年前の縄文土器の時代とされるのに対し、小麦は
バビロニア(メソポタミア文明の中心地)において紀元前 4000 年頃から無発酵パンが
つくられていたことが知られている。また、日本における小麦の製粉は江戸時代の後半
から始ったとされている。
2)米は温暖で雨の多い地帯の水田で栽培されるのに対し、小麦は冷涼で雨が少ない畑
で栽培される。
3)米の発芽温度は 30∼32℃、小麦は 20∼23℃で両者に大きな差が見られる。
4)米粒の断面構造は、楕円形で糠層が外周を取り巻き、中心部から放射状に細胞膜に
包まれた澱粉が詰まっているのに対し、小麦は外皮が粒の中心部までくい込み、ハート
型を呈している。また、小麦は蛋白質の少ないものは白い粉状を、多いものは光沢のあ
る硝子状を呈している。
表1 米、小麦の主なちがい
米 小麦
日本では、約3,000年前の縄文時 バビロニア(メソポタミア文明の中心地)では、紀
代とされる。 元前4,000年頃から無発酵パンが作られてい
栽培・利用の起源 たことが知られている。また日本では、江戸時代
の後半から、製粉が始まったとされる。
栽培に適する場所 温暖で雨の多い地帯の水田 冷涼で雨が少ない畑
発芽温度 30∼32℃ 20∼23℃
楕円形で糠層が外周を取り巻き、 外皮が粒の中心部までくい込み、ハート型を呈
中心部から放射状に細胞膜に包ま している。タンパク質の少ないものは粉状、多い
粒の断面構造
れた澱粉が詰まっている。 ものは硝子状の外観構造を有している。
料理への利用形態 粒のままで利用(米飯、赤飯等) 粉の形にして利用(パン、麺、菓子等)
(その理由) (精米機で糠層を簡単に除去可能) (粒食は外皮が残り食味も著しく劣るため不適)
グルテンの有無 含まない 含む(種類により差あり)
2.米が粒食、小麦が粉食のちがい
米は精米機で糠層が簡単に除去できるのに対し、小麦は前述のとおり外皮が粒の中心
部までくい込んでいるため、精白して米飯のように炊く等の粒加工は中心部の外皮を取
り除くことは非常に難しい。また、粒の硬さは米に比べ軟らかく崩れやすい。仮に、米
飯のように炊飯しても食味も著しく劣り、粒食が適さないためと推察される。
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- 2. 写真 1 米粒断面 写真 2 小麦粒断面(中力粉用)
2. 栄養成分のちがい
米、小麦ともに主成分は澱粉で 70%程度含まれており、蛋白質含量は米に比べ小麦粉
が高い。しかし、蛋白質中の必須アミノ酸の構成比が異なり、蛋白質の栄養価の指標と
なるアミノ酸スコアは米のほうが高く、良質な蛋白質を含んでいる。
表2 米粉および小麦粉の一般成分 (可食部 100g 当たり)
水 タ 脂 炭 灰 食物繊維
分 ン 質 水 分 水 不 総
試料 パ 化 溶 溶 量
ク 物 性 性
質
(g)
米 (上新 粉 ) 14.0 6.2 0.9 78.5 0.4 Tr 0.6 0.6
小麦 (強 力 粉、1等 ) 14.5 11.7 1.8 71.6 0.4 1.2 1.5 2.7
小麦 (中 力 粉、1等 ) 14.0 9.0 1.8 74.8 0.4 1.2 1.6 2.8
小麦 (薄 力 粉、1等 ) 14.0 8.0 1.7 75.9 0.4 1.2 1.3 2.5
表3 食品のアミノ酸スコア (可食部100g当たり)
食品の種類 蛋白質含量 アミノ酸スコア 制限アミノ酸
大 豆 35.3 86 メチオニン、シスチン
小麦粉 強力粉 11.7 38 リジン
中力粉 9.0 41 〃
薄力粉 8.0 44 〃
米 6.8 65 〃
さけ(生) 20.7 100 なし
豚(ロース 脂身なし) 19.7 100 〃
牛 乳 2.9 100 〃
全 卵 12.3 100 〃
五訂食品成分表より抜粋
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- 4. 6.米の新しい粉砕技術及び新規用途開発
米を粉にするための粉砕方法は、従来から石臼、ロール製粉、衝撃式製粉、胴搗製粉
などの装置が利用されてきたが、いずれも小麦粉に比べ粒子が粗いものしか得られなか
った。当研究センターでは、小麦粉並み、あるいは小麦粉以上に細かく品質、利用適性
ともに優れる米粉の開発、並びに小麦粉利用分野への用途開発の研究を推進してきた。
1)二段階製粉
うるち精白米を水洗、脱水後圧扁ロールを通過させて米粒を扁平につぶしてから乾燥
し、気流粉砕機で粉砕する方法を開発した。得られた米粉は、澱粉の熱損傷がなく微細
で小麦粉に近い(または、それ以上細かい)粒子となり、米カステラのほかソフトで浮
きのよい米菓製造に利用されている。つい最近では、小麦アレルギー疾患者向けパンへ
の利用が始まっている。また、もち米を同様に処理したものは大福餅やぎゅうひ菓子の
食感がなめらかとなり、製品の品質向上に大いに役立っている。
2)酵素処理米粉
水洗したうるち精白米に 30∼40℃の水に酵素(ペクチナーゼ)を添加して浸漬を行い、
米粒組織を強固に結合させている細胞間物質を分解して組織を壊れやすくした後、脱水、
気流粉砕、乾燥の順に処理する方法を開発した。得られた米粉は、粒形が丸みを帯びて
おり、水の浸透性やグルテンとの親和性が高く、米粉パンの製造に最も適する性質を有
することが明らかとなった。
現在、この技術を利用した米粉が新潟県内の製粉会社 3 社、1団体で実用化され、小
麦粉から分離、乾燥した粉末グルテンをミックスしたパン用米粉ミックスとして全国に
出荷され、米粉パン製造に利用されている。
酵素(ペクチナーゼ)
粳精白米 水 洗 水浸け 脱 水
(30℃1晩)
粉 砕 乾 燥 粉末グルテン混合 パン用米粉ミックス
(米粉:グルテン=85:15)
図3 パン用米粉の製造法
表3 米粉の製粉方法および強力粉の粒度分布(%)
粒度区分 酵素処理米粉 胴搗米粉 強力小麦粉
60 メッシュ残 0 0.19 0
100 メッシュ残 1.57 2.42 0
150 メッシュ残 2.98 16.91 2.70
200 メッシュ残 0.68 20.76 26.45
200メ ッ シ ュ パ ス 94.76 59.71 70.85
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- 5. 酵素処理を行った米粉は 200 メッシュの篩を 95%通過し、強力小麦粉や従来法の胴搗
製粉に比べ非常に細かい粒度で米粉が得られる。また、粉末グルテンを 15%混合したミッ
クス粉を用いたパン生地の吸水性は、酵素処理米粉は 75%前後で出来上がったパンの品質
が良好となるのに対し、胴搗製粉では 85%前後となり膨れが悪く重い食感のパンとなり、
品質良好なパンを得ることが難しい。
7.米パンの品質改善のための製造工程の見直し
パン用米粉ミックスを用いて小麦粉パンと同様の製造工程により製造した米粉パンは、
二次発酵(ホイロ)や焼成工程において表面の穴あき、断裂などの障害が著しく、品質
良好なパンは得られなかった。その原因は、添加した粉末グルテンが元の小麦粉に比べ
発酵による生地の膨張により損傷しやすいためと考えられる。
そこで、グルテンの損傷を極力抑制し、且つ、発酵香味が十分に生成された米粉パンの製
造工程について検討した。そのポイントは、①原料を軽く混ぜ合わせる程度にしてグルテ
写真3 酵素処理米粉 写真4 酵素無処理米粉
ンを形成させることなく一時発酵を行う。②発酵終了後油脂と砂糖の一部を加えてミキシ
ングする。③ミキシング後直ちに分割・成形し(丸め、ねかせ工程を省く)、二次発酵を行
う。ことを中心とした米粉パン専用の製造工程を考案した(図 4)。
これにより、外観や形状は小麦粉パンと遜色がなく、食味の面ではほのかな甘味が感じ
られソフトでモチモチ感が強く、トーストした場合表面がパリッとするなど、米独特の特
性を有する米粉パンが得られた。
また、パンの水分(食パン)は、小麦粉パン 36.7%、米粉パン 40.5%(以上、実測値)
となり、米粉パンは小麦パンに比べ約 4%多く含まれるため、口溶けがよく飲み物がなく
てもそのまま食べられる特徴を有するパンとなる。 加えて、水分が多くなる分固形物が少
なくなり、カロリーを低くする効果も期待できる。
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- 6. 米粉ミックス+油脂以外の原料 原料混合 発 酵
低速 30 秒 (1~2hr)
生地温度 27℃
本捏ね 分割・成形 ホイロ 焼 成 米パン
(砂糖の一部 (丸め、ねかせ工程省略) (35~38℃、80%)
油脂添加)
図4 米粉パンの製造工程
写真 5∼6 上記の製法で製造した丸パン、山形食パン(3 斤棒)
終わりに
新潟県農業総合研究所食品研究センターにおいて開発した米粉パンの製造技術は、平成
5 年、新潟県内の製パン業者が初めて商品化して以来 10 年が経過し、その後の関係者の尽
力により近年急速に全国的な広がりを見るに至っている。しかし、小麦(粉)の利用の歴
史からみればきわめて短い期間であり、生産量も微々たる状況にあることから、今後多く
の国民に日常的に親しまれ定着するまでには製造技術の改良、製品の多様化、原料価格な
ど、多くの課題を乗り越えることが今日的にも将来的にも重要と考えられる。
当研究センターでは、より一層の品質向上、製造コストの低減、新たな製造技術開発、
等を目標に現在研究を推進中である。
併せて、多くの関係各位の御尽力を切望するものであります。
(注)この技術は新潟県で特許権を取得しており、製造販売を行おうと
する場合は新潟県と「利用許諾契約」を結ぶ必要があります。
郵便番号 959-1381 新潟県加茂市新栄町 2 番 25 号
連絡先 新潟県農業総合研究所食品研究センター 穀類食品科
電話 0256−52−3238 FAX0256−52−6634
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