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重要なタイミング 乳幼児期の経験が脳と行動の発達に及ぼす影響 ついての考察 
ネイザンA.フォックス 
メリーランド大学 
子ども虐待防止世界会議名古屋 
日本財団スポンサードセッション 
2014年9月14日~17日 
WHITEW
概要 
脳と行動の発達の原理 
感受期 
ブカレスト早期介入プロジェクトにもとづく上記“原理”の説明 
政策展望
3 
脳は、生後間もなく時間をかけて作られる。 単純な技能から始まり、その上に複雑な技 能が積み重なっていく。 
脳の構造が生涯の学習、行動、健康を支える 
認知能力、情動、社会性は生涯を通じて 密接に絡み合っている。 
乳幼児期に強固な土台を築けられると好結果が出る確率が高く、 
土台が弱いと後に問題が生じる確率が高い。
脳の可塑力は年齢とともに落ちる 
出典: Levitt (2009) 
誕生時 
10 
20 
30 
神経結合の強化に必要な 
生理学的「作業量」 
経験による影響を受ける 
正常な脳の可塑性 
年齢(単位:歳) 
40 
50 
60 
70
神経回路は低次から高次へと作られていく 
1年目 
-8-7-6-5-4-3-2-1123456789101112345678910111213141516171819 
誕生時 
(月齢) 
(年齢) 
感覚系伝導路 
(視覚、聴覚) 
言語 
高次認知機能 
出典: C.A. Nelson (2000)
新生児6歳14 years 
脳の構造は、経験に伴う過剰生産とそれに続く 
枝刈りによって作られる 
(生後数年は毎秒700個のシナプスが形成される)
ふれあいが脳回路を形成する
8 
幼児は片言、表情、身振りで自然にふ れあいを求め、それに対して大人も同 じように応じる。 
サーブ&リターン(やりとり)が脳とスキルを育てる 
健康な脳回路の発達にはこうした 「サーブ&リターン」のふれあいが不可 欠。 
つまり、乳幼児期の育児環境、地域、家庭の関係性の質を支える 
システムは、丈夫な脳構造の発達をも支える。
感受期 
経験が脳に与える影響が特に強い限られた期間 
状況に合わせて情報を処理するよう経験が神経回路に 指図することができる 
正常な発達に不可欠であり、能力を永久的に変えるかも しれない情報を提供する
感受期にある脳の 
構造変化の仕組み 
Knudsen, 2004 
Axonelaboration 
軸索伸長 
Sensitiveperiodexperience 
感受期経験 
Initial 
最初 
Learned 
学習後 
Synapseelimination 
シナプスの淘汰 
Non-selective 
非選択的 
Highlyselective 
高度に選択的 
Synapseconsolidation 
シナプスの安定化 
Vulnerable 
脆弱 
Invulnerable 
非脆弱
刷り込みをされてローレンツに付いて歩く子ガモ
ヒューベルとウィーゼル: 早期経験と感受期に関する 
古典的調査研究 
生後間もなく片目を遮蔽することによって脳の視覚野 の組織欠損が生じた Screen スクリーン Bar of light 光の線 Retina 網膜 Visual Cortex 視覚野 Optic nerve 視神経 Lateral Geniculate Nucleus 外側膝状体 Electrode 電極 Oscilloscope オシロスコープ
パターン化した画像の片側および両側欠損の影響 (Lewis & Maurer, 2005) 
先天性両側白内障の乳児に関する調査研究 
—手術のタイミング 
ダフネ・マウラー
早期経験が、将来的に発達する機能の 神経基板を確立する 
幼児期後期になってから白内障の手術をした 子どもは14年後に顔処理がうまくできなかった 
感受期の情報に関係するスリーパー効果
ジャネット・ワーカー 
経験が言語認識に与える影響 
(Werker & Tees, 2005) 
言語経験のタイミングと内容が 
他言語の認識に影響を与える 
生後9~10カ月まではあらゆる言語の 音を聞き分けられる。満1歳までに、自 分の周りで聞こえる言語しか聞き分け られなくなる。
Werker & Tees (2005) 
発達全体の項目別感受期 
誕生から1年間はスキル別に感受期 が異なる可能性が最も高い
聴覚情報と視覚情報を統合する感受期 
エリック・クヌーセン:早期の視覚ま たは聴覚経験を操作し、聴覚や視 覚の感受期を同定する調査研究を 実施
生まれつき目の不自由な人は視覚野で言語を聞く。 
視覚野の言語の感受期: 先天性の盲目成人と後天性盲目 成人における可塑性の特徴的パターンの比較 
マリナ・ベドニー
(Hensch, 2005) 
視覚系の感受期は再開可能か? 
答えは、「可能」のようだ!! 
タカオ・ヘンシュ
感受期に関する一般的結論 
全体として、多くの場合、感覚/知覚の発達は、感覚/知覚系が発達する感受期 に「セット」が正しく行われれば正常に進行する(ヒューベルとウィーゼルなど) 
言語と知覚という具体的項目の感受期に関するエビデンスもある。 
人間の脳は、発達の特定の時期に一定の種類の情報を「予想する」。 
認知能力や社会性および情動の発達のどのような側面が、(例えば、感受期な ど)特定の時点で経験を必要とするのかははっきりしていない。介入調査研究 から得られた推論は、早期経験に何らかの優位性があることを示唆している。
ブカレスト早期介入プロジェクト(BEIP)の目的: 
•心理社会的欠乏が幼児の脳と行動の発達に及ぼす影響 を検証する 
•こうした影響が介入(この場合には里親による養育)に よって軽減できるか否かを判断する 
•認知力と社会性の発達の感受期を特定することを念頭に 置き、介入のタイミングまたは欠乏の継続期間の問題と それが脳および行動に及ぼす影響を検証する
プロジェクトの背景
チャウシェスクがルーマニアに残した遺産 
共産党の政策:1966 年の政府令 
•人口増加による生産の増加。 
•「メンストゥルアル・ポリス(月経警察)」の設 立:政府の婦人科医が、尐なくとも5人子ども を生んでいない妊娠可能年齢の女性を毎月 検診 
•「独身税(尐子税)」の課税:子どもが2人 以上いる家庭は給付金を受給; 子どもが4 人以下の家庭には課税 
•避妊と妊娠中絶の全面「禁止」
•児童遺棄 家庭は子どもを育てる余裕がなく、 国に預けることが奨励されたため 全国に蔓延。こうして家庭という 単位が崩壊し、多数の子どもが 施設で育てられるようになった。 
1966年にチャウシェスクが打ち出した政策の結果
•児童遺棄の最大の理由は貧困 
•国際メティアがこうした子どもた ちの窮状を報じ、世界が注目。 
•大勢の子どもの国際養子縁 組。 将来的な問題に対する準備が できていない西側の家庭が養 子先の例も多かった。 
•その後、ルーマニアは国際養 子縁組を禁止。 
1989年: チャウシェスク政権の崩壊 その後…. 
10万人の子どもが国営施設に「収容された」
調査研究
1 
2 
6 
34 
5 
施設養育群 里親養育群 (FCG) n=68 非施設 養育群(NIG) n=72 
通常施設 
養育群(CAUG) 
n=68(群分け前の)基礎評価後、 30カ月目、42カ月目、54 カ月目、8 年目、12 年目に 包括的追跡調査を実施 
BEIPの調査研究設計
BEIPの評価項目 
•身体的発達 
•言語 
•認知力 
•脳機能 
•情動的反応 
•育児環境 
•愛着 
•社会性 
•メンタルヘルスの問題 
•遺伝 
*測定からデータが得られた項目はボールド体で記載し、下線を引いた項目は 
今回論じる。
BEIPの研究の一般的仮説 
•施設養育は、子どもの社会性・情動の発達に甚大な影響を与える。 
•子どもを施設から出して家庭環境で養育すると、こうした欠落が一部緩和される。 
•里親養育に出す年齢やタイミングは、介入効果を説明する重要な要因になる (ただし、項目で異なる可能性)。
認知力、言語、実行機能
認知力の発達 (ベースライン) 
Smyke et al (2007) 
施設 
地域 
精神発達指数
追跡調査時の里親養育群(FCG)と施設養育群 (IG)のIQ スコア 
Nelson et al (2007) 
30カ月42カ月54カ月
子どもの里親養育開始月齢と知能指数(IQ)の比較 
開始時の月齢 70 
75 
80 
85 
9095 
0-18 
18-24 
24-3030+ 
DQ/IQ 
N0-18 1418-24 1624-30 2230+ 9 
* 
Nelson, et al (2007)
時間に伴う群対象者の変化/ 被験者の減尐(96カ月現在) ランダム化(n=136) 
資格評価(n=187) 
除外(n=51) 
里親養育群(FCG)(n=68) 
通常施設養育群(CAUG)(n=68) 月齢96カ月時点の内訳(n=60) -MacArthur 里親養育:31人 -養子縁組:7人 -公的里親養育:8人 -実家に戻る:12人 
-ソーシャルアパートメント:2 人 中断(n=8) 月齢96カ月時点の内訳(n=56) -施設養育:15人 -養子縁組:4人 -公的里親養育:18人 -実家に戻る:18人 
-家族環境に入れる:1 人 中断(n=12) 
分析(n=53) 
分析対象外(n=7) 
-WISC データなし 
分析(n=50) 
分析対象外(n=6) 
-WISCデータなし 参加 
分析 
割り当て 
登録
月齢96カ月時点のWISCデータ 
70 
72 
74 
76 
78 
80 
82 
84 
86 
88 
90 
Verbal Perceptual Working 
Memory 
Processing 
Speed 
Full Scale 
IQ 
CAU (n=41) 
FCG (n=48) 
* 
注: *p = .05 
Fox et al (2011) JCPP 
言語理解知覚作業記憶処理速度全検査IQ
施設、公的里親養育、MACARTHUR里親養育の現状比較 
0 
20 
40 
60 
80 
100 
V PR WM PS FSIQ 
Institution (n=12) 
Gov't FC (n=23) 
Mac FC (n=28) 
注: V = 言語理解, P = 知覚, WM = 作業記憶, PS = 処理速度, FSIQ = 全検査IQ; *p < .05, **p < .01. 
* 
* 
** * 
Fox et al (2011) JCPP 
施設 
公営施設 
MacArthur施設
0 
20 
4060 
80 
100 
120 
VCI 
PRIWMI 
PSI 
Full IQCAUG 
FCG 
12歳時点の群別IQ内訳 
* 
** 
* p<.05, **p<.01
中間のまとめ: IQ 
施設で生活している幼児にはIQの大きな遅れが見られる (特に月齢24カ月より前に)施設から出て家庭養育に切り替えるとIQ の遅れは緩和される 年齢を超えた家庭養育の安定はIQの成績の重要因子である。 開始から10年経っても、介入がIQに効果があることは特筆に値する。
言語
月齢42 カ月のサブグループ 
表出言語 
受容言語 
里親養育開始月齢 
Reynellのz スコ ア
発声の長さ(月齢42カ月) 024 
6 
8 
10 
IG 
FCG>24 
FCG<24 
NIG 
Mean length of utterance 
words 
morphemes 
平 均 発 声 長 
単語 
形態素
-2 
-1.5 
-1 
-0.5 
0 z score 
読む(8歳) 
(一単語の識別) 
IG (N=47) 
FCG>24 (N=31) 
FCG<24 (N=24) 
上図は、読めない(主にIGの)子どものスコアを0として子ども全員を対象としたもの。 
z スコ ア
中間のまとめ: 言語 
施設で生活している幼児には表出・受容言語に大きな遅れがある。 
特に月齢24カ月より前に施設から出ることと言語の改善には関係が ある。 
こうした効果は8歳まで続く。
脳活動-EEG 
β波10-18 Hzα波6-9 Hz 
Θ波3-5 Hzδ波<3 Hz 
CAT CAT CAT 
Cat 
catCAT CAT CATCat
施設養育と脳活動 
施設 
地域 
割合 
0.58 
0.46 
Θ波:3-5 Hz 
McLaughlin et al, 2010, Biological Psychiatry 
Marshall, Fox, and BEIP (2007)
施設養育と脳活動 
施設 
地域 
α波:6-9 HzMcLaughlin et al, 2010, Biological Psychiatry 
割合 
0.58 
0.46 
Marshall, Fox & BEIP group (2007)
2.44μV2 
3.80μV2 
介入・タイミングと脳活動(EEG)の変化との関係 
(8歳) 
通常施設養育群(CAUG) 
里親養育群(FCG)> 24 
非施設養育群(NIG) 
里親養育群(FCG)< 24 
Vanderwertet al (2010)
初期の心理社会的剥奪(乳幼児期の社会や周囲 のとの相互関係の欠如)が脳に与える影響 
施設養育後の子どもに関する初期の報告書では側頭部・前頭部皮質 の代謝活性の低下が報告されている 
Tottenham et al. による調査研究では、へん桃核の容積増加が報告 されている。一方、Hanson/Pollak et al.はへん桃核の容積減尐を 報告している。ただし、いずれの場合も、選択バイアスが働いた可能性 があることを忘れてはならない。
磁気共鳴画像(MRI)
構造的MRI 
1.5T Siemensを用いてブカレストで実施 
80%の子どもでDTI も実施
構造的MRI 
•FreeSurfer を用いて自動的に灰白質/白質の境界 の検出と以下を特定: 
–総灰白質 
–総白質 
–海馬 
–へん桃核 
–脳幹神経節: 尾状核、被殻、 
淡蒼球、側座核 
–脳梁と下位区分 
–視床 
Sheridan et al, (2012) PNAS
総皮質灰白質 
* 施設養育群(IG)B= -39.9, t= -3.01, p= .004 里親養育群(FCG)B= -38.5, t= -2.79, p= .007 回帰分析(年齢・性別で調整) 
* 
Sheridan et al (2012), PNAS 
平 均 皮 質 灰 白 質 
施設養育里親養育施設養育歴なし
総皮質白質 
* 
施設養育群(IG)B= -24.1, t= -2.17, p= .03 
里親養育群(FCG)B= -18.1, t= -1.5, p= .12 
回帰分析(年齢・性別で調整) 
n.s. 
Sheridan et al (2012), PNAS) 平 均 皮 質 白 質
a 
+ 
t = 1.8, p = .06b 
* 
t = 2.9, p = .005 
d+ 
t = 1.9, p=.06 
e 
n.s. 
t = 1.4, p = 15c+ 
t = 1.9, p = .06 
回帰分析: 群、年齢、性 別
施設養育と神経構造 
•施設養育と以下との関係: 
•総灰白質* 
•総白質* 
•海馬 
•へん桃核 
•脳幹神経節: 尾状核、被殻、淡蒼球、側座核 
•脳梁* 
•視床
MRのまとめ 
施設養育歴のある子どもは灰白質と白質が大幅に尐ない 灰白質には介入の効果は認められない 白質には介入に(緩やかな)効果がある可能性が認められる
構造と機能 
•施設養育とα波パワー低下の関係には完全 に白質統合性が介在している 
•一般成人におけるEEGのα波パワーに見ら れる個人差の原因は白質のばらつきにある1 
•白質が損傷するとEEGのα波パワーが低下 する2 
1. Valdés-Hernández et al., 2010; 2. Claudio Babiloni et al., 2006
メンタルヘルスの問題 
WHITEW
メンタルヘルスの問題の発生率 
BEIPの対象の子どもが月齢54カ月になったときに 養育者にルーマニア版PAPA(Preschool Age Psychiatric Assessment)を実施 PAPAは、2~5歳児のメンタルヘルスの症状と障害を 評価する包括的かつ体系的な精神科の聞き取り調査
BEIP研究におけるADHDの有病率 
0 
5 
10 
15 
20 
25 
Institution 
Foster Care 
Community 
ADHDの有病率 
(Zeanah et al 2009) 
施設里親養育地域
内在化障害に対する介入の効果 * 
0 
10 
20 
30 
40 
50 
60 
CAU 
FC 
CAU 
FC 
Girls 
Boys 
内在化障害の有病率 
WHITEWWHITEWWHITEW 
女児男児
精神疾患所見のまとめ 
全般的に、地域で育った対照群と比較して、施設で育った子どもは内 在化障害・外在化障害が多い。 
ただし、無作為に選択されて施設に残った子どもと比較して、施設を出 て家庭で里親に養育されるようになった子どもは内在化障害が大幅に 尐ない。 
•このことは特に女児で著しい。 外在化障害、具体的にADHDについては介入の効果は認められなか った。
中間のまとめ 
乳幼児期の重度の心理社会的剥奪は、低速波の上昇、高周波EEG 活動の低下、高度な内在化・外在化障害に関係する。 里親養育による介入は(特に乳幼児期に行われた場合)この種の EEG活動や内在化障害を修正するが、外在化障害、具体的に ADHDが修正されることはない。 乳幼児期のEEG活動は低次の内在化障害と関係し、早期経験と後 のADHDに伴う問題との関係の橋渡しをする。
愛着
ベースラインの差: 11~31カ月
BEIP: SSP分類 地域 
•安定型76.7% 
•回避型3.6% 
•抵抗型0.0% 
•無秩序型19.7% 
•分類不能0.0% 
施設 
•安定型16.8% 
•回避型4.7% 
•抵抗型0.0% 
•無秩序型65.4% 
•分類不能13.1% 
Zeanah, et al 2005
愛着の流れ 
5 --愛着のABCD パターン 4 --行動異常を伴う愛着パターン 3 –明らかに好意は持っているが受け身 2 --好意を持っていることが分かる 1 --愛着行動が見られない
施設で生活している子どもの養育者に対する愛着形成度 
Romanian 
Community 
Romanian 
Institution 
1=No attachment 
0% 
9.5% 
2=Some 
differentiation 
0% 
25.3% 
3=Some preference 
0% 
30.5% 
4=Attachment with 
anomalies 
0% 
31.6% 
5=Clearly recognizable 
attachment patterns 
100% 
3.2% 
Zeanah et al (2005) 
ルーマニアの地域ルーマニアの施設 
1=愛着なし 
2=ある程度の差別化 
3=ある程度の好意 
4=異常を伴う愛着 
5=明らかに認識でき 
る愛着パターン
42カ月時点の 
介入の効果
愛着の安定に対する介入の効果(42カ月) Smyke et al (2010) 
安定 
不安定 
施設里親養育地域
愛着の安定と 
開始時の月齢との関係 
愛着安定比率(%) 7~18カ月18~24カ月24~30カ月30か月以上
SSPの所見のまとめ ベースラインで施設養育群(IG)と非施設養育群(NIG) に大きな差 
•安定 
•秩序 
•介入の効果は大きいが、完全に回復はしない タイミングは安定と秩序に影響する 
•22~24カ月より前に開始した方が安定する子どもが多い 
•開始時期が早い方が秩序のある子どもが多い
ドアの外にいる見知らぬ訪問者 
養育者や母親と子どもがドアで応対する (予め打ち合わせておく)。 アシスタント: 「いいものを見せてあげるか ら、こっちにおいでよ」 ドアから出て角を曲がると先回家庭訪問 に来たアシスタントがいる。
ドアの外にいる見知らぬ訪問客 (54 カ月) 
Gleason et al (2013) 
残る 
立ち去る
開始のタイミングが見境のない行動に与える影響 
24カ月より前に家庭養育に切り替えた子どもでは、見境のない行動は 
追跡調査期間全体を通じて見られなかった 
24カ月未満 
24カ月以上 
ベースライン30カ月42カ月54カ月8歳 
評価月(年)齢
感受期のある項目 
IQ 
愛着 
EEGパワー 
社交術(教師の報告) 
見境のない行動 
感受期のない(ただし介入の 効果はある)項目 
精神科系結果(不安) プラスの情動反応 仲間関係の社会的能力
乳幼児期の逆境による影響を 受けないと思われる項目 
顔処理 感情認識 顔認識 
介入の影響を受けない項目 
外在化障害 
実行機能
感受期とBEIP 
言語とEEG活動のいずれも発達の感受期がある。 
認知力(IQ)には感受期はないが、介入の開始から10 年経っても介 入の効果が見られる。 
早期経験が様々な項目に影響する。また、介入の影響はタイミングに よって異なる。
総体的結論 
発達初期に施設で育った子どもには、地域の子どもと比較して身体、認知力、 言語、社会性と情動、脳の発達に大きな遅れが見られる。 
•今回、我々は上記障害に関係があると考えられる具体的認知障害と神経系の 
低下を解説。 
データを見る限り、里親養育による介入モデルでは、施設養育の否定的後遺 症の多くが効果的に改善されるようである。 
ただし、すべてが改善されるわけではない。例えば、実行機能に対する効果 は薄く、12歳時点に限られる。 
里親養育環境に置かれた子どもでは、脳の発達で修正されるものと(一部の 白質路など)修正されないもの(総灰白質、一部の白質路など)がある。
政策展望 
脳は、予想される環境経験に応じて発達する 
予想された経験が欠如すると、脳と行動の発達は阻害される 
ネグレクトされた状態で生活している子どもは、刺激(暖かさ、反応、派 生的交流)の不足に苦しむ可能性が高い 
子どもをネグレクトされている状態から脱却させるのは(早ければ早い ほど良く)脳と行動の発達に良い
研究チーム 
研究責任者 
C. ジーナ(MD, チュレーン大学) 
N. A. フォックス(Ph.D.、メリーランド大学) 
C A. ネルソン(Ph.D.、ハーバード・メディカル・スクール/ボストン小児病院 
資金提供: 
•ジョンD. 、キャサリンT. (マッカーサー財団) 
•NIMH MH091363-01
子ども虐待防止世界会議in 名古屋 日本財団スポンサードセッション資料(メリーランド大学 ネイザン A. フォックス教授)

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