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【源氏物语~中日对照版】第二章/帚木(ははきぎ)

                雨夜の品定めの物語


                    女性体験談


                    空蝉の物語




                雨夜の品定めの物語


 光源氏、名のみことごとしう、言ひ消たれたまふ咎多かなるに、いとど、かかるすきご
とどもを、末の世にも聞き伝へて、軽びたる名をや流さむと、忍びたまひける隠ろへごと
をさへ、語り伝へけむ人のもの言ひさがなさよ。さるは、いといたく世を憚り、まめだち
たまひけるほど、なよびかにをかしきことはなくて、交野少将には笑はれたまひけむかし。
 まだ中将などにものしたまひし時は、内裏にのみさぶらひようしたまひて、大殿には絶
え絶えまかでたまふ。 「忍ぶの乱れ」やと、疑ひきこゆることもありしかど、さしもあだ
めき目馴れたるうちつけの好き好きしさなどは好ましからぬ御本性にて、まれには、あな
がちに引き違へ心尽くしなることを、御心に思しとどむる癖なむ、あやにくにて、さるま
じき御ふるまひもうちまじりける。
 長雨晴れ間なきころ、内裏の御物忌さし続きて、いとど長居さぶらひたまふを、大殿に
はおぼつかなく恨めしく思したれど、よろづの御よそひ何くれとめづらしきさまに調じ出
でたまひつつ、御むすこの君たちただこの御宿直所の宮仕へをつとめたまふ。
 宮腹の中将は、なかに親しく馴れきこえたまひて、遊び戯れをも人よりは心やすく、な
れなれしくふるまひたり。右大臣のいたはりかしづきたまふ住み処は、この君もいともの
憂くして、好きがましきあだ人なり。
 里にても、わが方のしつらひまばゆくして、君の出で入りしたまふにうち連れきこえた
まひつつ、夜昼、学問をも遊びをももろともにして、をさをさ立ちおくれず、いづくにて
もまつはれきこえたまふほどに、おのづからかしこまりもえおかず、心のうちに思ふこと
をも隠しあへずなむ、むつれきこえたまひける。
 つれづれと降り暮らして、しめやかなる宵の雨に、殿上にもをさをさ人少なに、御宿直
所も例よりはのどやかなる心地するに、大殿油近くて書どもなど見たまふ。近き御厨子な
る色々の紙なる文どもを引き出でて、中将わりなくゆかしがれば、
 「さりぬべき、すこしは見せむ。かたはなるべきもこそ」
 と、許したまはねば、


                                      1 / 41
「そのうちとけてかたはらいたしと思されむこそゆかしけれ。おしなべたるおほかたの
は、数ならねど、程々につけて、書きかはしつつも見はべりなむ。おのがじし、恨めしき
折々、待ち顔ならむ夕暮れなどのこそ、見所はあらめ」
 と怨ずれば、やむごとなくせちに隠したまふべきなどは、かやうにおほざうなる御厨子
などにうち置き散らしたまふべくもあらず、深くとり置きたまふべかめれば、二の町の心
やすきなるべし。片端づつ見るに、
               「よくさまざまなる物どもこそはべりけれ」とて、心あ
てに「それか、かれか」など問ふなかに、言ひ当つるもあり、もて離れたることをも思ひ
寄せて疑ふも、をかしと思せど、言少なにてとかく紛らはしつつ、とり隠したまひつ。
 「そこにこそ多く集へたまふらめ。すこし見ばや。さてなむ、この厨子も 心よく開くべ
き」とのたまへば、
 「御覧じ所あらむこそ、かたくはべらめ」など聞こえたまふついでに、「女の、これはし
もと難つくまじきは、かたくもあるかなと、やうやうなむ見たまへ知る。ただうはべばか
りの情けに、手走り書き、をりふしの答へ心得て、うちしなどばかりは、随分によろしき
も多かりと見たまふれど、そもまことにその方を取り出でむ選びにかならず漏るまじきは、
いとかたしや。わが心得たることばかりを、おのがじし心をやりて、人をばおとしめなど、
かたはらいたきこと多かり。
 親など立ち添ひもてあがめて、 生ひ先籠れる窓の内なるほどは、ただ片かどを聞き伝へ
て、心を動かすこともあめり。容貌をかしくうちおほどき、若やかにて紛るることなきほ
ど、はかなき すさびをも、人まねに心を入るることもあるに、おのづから一つゆゑづけて
し出づることもあり。
 見る人、後れたる方をば言ひ隠し、さてありぬべき方をばつくろひて、まねび出だすに、
『それ、しかあらじ』と、そらにいかがは推し量り思ひくたさむ。まことかと見もてゆく
に、見劣りせぬやうは、なくなむあるべき」
 と、うめきたる気色も恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど、われ思しあはするこ
とやあらむ、うちほほ笑みて、
 「その、片かどもなき人は、あらむや」とのたまへば、
 「いと、さばかりならむあたりには、誰かはすかされ寄りはべらむ。取るかたなく口惜
しき際と、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは、数等しくこそはべらめ。人の品高く生
まれぬれば、人にもてかしづかれて、隠るること多く、自然にそのけはひこよなかるべし。
中の品になむ、人の心々、おのがじしの立てたるおもむきも見えて、分かるべきことかた
がた多かるべき。下のきざみといふ際になれば、ことに耳たたずかし」
 とて、いとくまなげなる気色なるも、ゆかしくて、
 「その品々や、いかに。いづれを三つの品に置きてか分くべき。もとの品高く生まれな
がら、身は沈み、位みじかくて人げなき。また直人の上達部など までなり上り、我は顔に
て家の内を飾り、人に劣らじと思へる。そのけぢめをば、いかが分くべき」
 と問ひたまふほどに、左馬頭、藤式部丞、御物忌に籠らむとて参れり。世の好き者にて


                                      2 / 41
物よく言ひとほれるを、中将待ちとりて、この品々をわきまへ定めあらそふ。いと聞きに
くきこと多かり。
 「なり上れども、もとよりさるべき筋ならぬは、世人の思へることも、さは言へど、な
ほことなり。また、もとはやむごとなき筋なれど、世に経るたづき少なく、時世にうつろ
ひて、おぼえ衰へぬれば、心は心としてこと足らず、悪ろびたることども出でくるわざな
めれば、とりどりにことわりて、中の品にぞ置くべき。受領と言ひて、人の国のことにか
かづらひ営みて、品定まりたる中にも、またきざみきざみありて、中の品のけしうはあら
ぬ、選りで出でつべきころほひなり。なまなまの上達部よりも非参議の四位どもの、世の
おぼえ口惜しからず、もとの根ざし卑しからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、
いとかはらかなりや。家の内に足らぬことなど、はたなかめるままに、省かずまばゆきま
でもてかしづける女などの、おとしめがたく生ひ出づるもあまたあるべし。宮仕へに出で
立ちて、思ひがけぬ幸ひとり出づる例ども多かりかし」など言へば、
 「すべて、にぎははしきによるべきななり」とて、笑ひたまふを、
 「異人の言はむように、心得ず仰せらる」と、中将憎む。
 「もとの品、時世のおぼえうち合ひ、やむごとなきあたりの内々のもてなしけはひ後れ
たらむは、さらにも言はず、何をしてかく生ひ出でけむと、言ふかひなくおぼゆべし。う
ち合ひてすぐれたらむもことわり、これこそはさるべきこととおぼえて、めづらかなるこ
とと心も驚くまじ。なにがしが及ぶべきほどならねば、上が上は うちおきはべりぬ。
 さて、世にありと人に知られず、 さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひの外にらうたげ
ならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなくめづらしくはおぼえめ。いかで、はたかかりけ
むと、思ふより違へることなむ、あやしく心とまるわざなる。父の年老い、ものむつかし
げに太りすぎ、兄の顔憎げに、思ひやりことなることなき閨の内に、いといたく思ひあが
り、はかなくし出でたることわざも、ゆゑなからず見えたらむ、片かどにても、いかが思
ひの外にをかしからざらむ。すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ、さる方にて捨て
がたきものをば」
 とて、式部を見やれば、わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや、とや
心得らむ、ものも言はず。
 「いでや、上の品と 思ふにだにかたげなる世を」と、君は思すべし。白き御衣どもの な
よよかなるに、直衣ばかりをしどけなく着なしたまひて、紐などもうち捨てて、添ひ臥し
たまへる御火影、いとめでたく、女にて見たてまつらまほし。この御ためには上が上を選
り出でても、なほ飽くまじく見えたまふ。
 さまざまの人の上どもを語りあはせつつ、
 「おほかたの世につけて見るには咎なきも、わがものとうち頼むべきを選らむに、多か
る中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。男の朝廷に仕うまつり、はかばかしき世のかた
めとなるべきも、まことの器ものとなるべきを取り出ださむには、かたかるべしかし。さ
れど、かしこしとても、一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば、上は下に輔けら


                                       3 / 41
れ、下は上になびきて、こと広きに譲ろふらむ。
 狭き家の内の主人とすべき人一人を思ひめぐらすに、足らはで悪しかるべき大事どもな
む、かたがた多かる。 とあればかかり、あふさきるさにて、なのめにさてもありぬべき人
の少なきを、好き好きしき心のすさびにて、人のありさまをあまた見合はせむの好みなら
ねど、ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに、同じくは、わが力入りをし直しひきつ
くろふべき所なく、心にかなふやうにもやと、選りそめつる人の、定まりがたきなるべし。
 かならずしもわが思ふにかなはねど、見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人
は、ものまめやかなりと見え、さて、保たるる女のためも、 心にくく推し量らるるなり。
されど、何か、世のありさまを見たまへ集むるままに、心に及ばずいとゆかしきこともな
しや。君達の上なき御選びには、まして、いかばかりの人かは足らひたまはむ。
 容貌きたなげなく、若やかなるほどの、おのがじしは塵もつかじと身をもてなし、文を
書けど、おほどかに言選りをし、墨つきほのかに心もとなく思はせつつ、またさやかにも
見てしがなとすべなく待たせ、わづかなる声聞くばかり言ひ寄れど、息の下にひき入れ言
少ななるが、いとよくもて隠すなりけり。なよびかに女しと見れば、あまり情けにひきこ
められて、とりなせば、あだめく。これをはじめの難とすべし。
 事が中に、なのめなるまじき人の後見の方は、もののあはれ知り過ぐし、はかなきつい
での情けあり、をかしきに進める方なくてもよかるべしと見えたるに、また、まめまめし
き筋を立てて耳はさみがちに美さうなき家刀自の、ひとへにうちとけたる後見ばかりをし
て。朝夕の出で入りにつけても、公私の人のたたずまひ、善き悪しきことの、目にも耳に
もとまるありさまを、疎き人に、わざとうちまねばむやは。 近くて見む人の聞きわき思ひ
知るべからむに語りも合はせばやと、うちも笑まれ、涙もさしぐみ、もしは、あやなきお
ほやけ 腹立たしく、心ひとつに思ひあまること など多かるを、何にかは聞かせむと思へば、
うちそむかれて、人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、『あはれ』とも、うち独りごたるるに、
『何ごとぞ』など、あはつかにさし仰ぎ ゐたらむは、いかがは口惜しからぬ。
 ただひたぶるに子めきて柔らかならむ人を、とかくひきつくろひてはなどか見ざらむ。
心もとなくとも、直し所ある心地すべし。げに、さし向ひて見むほどは、さてもらうたき
方に罪ゆるし見るべきを、立ち離れてさるべきことをも言ひやり、をりふしにし出でむわ
ざのあだ事にもまめ事にも、わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは、いと口惜
しく頼もしげなき咎や、なほ苦しからむ。常はすこしそばそばしく心づきなき人の、をり
ふしにつけて出でばえするやうもありかし」
 など、隈なきもの言ひも、定めかねていたくうち嘆く。
 「今は、ただ、品にもよらじ。容貌をばさらにも言はじ。いと口惜しくねぢけがましき
おぼえだになくは、ただひとへにものまめやかに、静かなる心のおもむきならむよるべを
ぞ、つひの頼み所には思ひおくべかりける。あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをば、
よろこびに思ひ、すこし後れたる方あらむをも、あながちに求め加へじ。うしろやすくの
どけき所だに強くは、うはべの情けは、おのづからもてつけつべきわざをや。


                                       4 / 41
艶に もの恥ぢして、恨み言ふべきことをも見知らぬさまに忍びて、上はつれなくみさを
づくり、心一つに思ひあまる時は、言はむかたなくすごき言の葉、あはれなる歌を詠みお
き、しのばるべき形見をとどめて、深き山里、世離れたる海づらなどにはひ隠れぬるをり。
 童にはべりし時、女房などの物語読みしを聞きて、いとあはれに悲しく、心深きことか
なと、涙をさへなむ落としはべりし。今思ふには、いと軽々しく、ことさらびたることな
り。心ざし深からむ男をおきて、見る目の前につらきことありとも、人の心を見知らぬや
うに逃げ隠れて、人をまどはし、心を見むとするほどに、長き世のもの思ひになる、いと
あぢきなきことなり。『心深しや』など、ほめたてられて、あはれ進みぬれば、やがて尼に
なりぬかし。思ひ立つほどは、いと心澄めるやうにて、世に返り見すべくも思へらず。『い
で、あな悲し。かくはた思しなりにけるよ』などやうに、あひ知れる人来とぶらひ、ひた
すらに憂しとも思ひ離れぬ男、聞きつけて涙落とせば、使ふ人、古御達など、
                                  『君の御心は、
あはれなりけるものを。あたら御身を』など言ふ。みづから額髪をかきさぐりて、あへな
く心細ければ、うちひそみぬかし。忍ぶれど涙こぼれそめぬれば、折々ごとにえ念じえず、
悔しきこと多かめるに、仏もなかなか心ぎたなしと、見たまひつべし。 濁りにしめるほど
よりも、なま浮かびにては、かへりて悪しき道にも漂ひぬべくぞおぼゆる。絶えぬ宿世浅
からで、尼にもなさで尋ね取りたらむも、やがてあひ添ひて、とあらむ折もかからむきざ
みをも、見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、我も人も、うしろめたく心おか
れじやは。
 また、なのめにうつろふ方 あらむ人を恨みて、気色ばみ背かむ、はたをこがましかりな
む。心はうつろふ方ありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さる方のよすがに思ひ
てもありぬべきに、さやうならむたぢろきに、絶えぬべきわざなり。
 すべて、よろずのことなだらかに、怨ずべきことをば見知れるさまにほのめかし、恨む
べからむふしをも憎からずかすめなさば、それにつけて、あはれもまさりぬべし。多くは、
わが心も見る人からをさまりもすべし。あまりむげにうちゆるべ見放ちたるも、心やすく
らうたきやうなれど、おのづから軽き方にぞおぼえはべるかし。繋がぬ舟の浮きたる例も、
げにあやなし。さははべらぬか」
 と言へば、中将うなづく。
「さしあたりて、をかしともあはれとも心に入らむ人の、頼もしげなき疑ひあらむこそ、
大事なるべけれ。わが心あやまちなくて見過ぐさば、さし直してもなどか見ざらむとおぼ
えたれど、それさしもあらじ。ともかくも、違ふべきふしあらむを、のどやかに見忍ばむ
よりほかに、ますことあるまじかりけり」
 と言ひて、わが妹の姫君は、この定めにかなひたまへりと思へば、君のうちねぶりて言
葉まぜたまはぬを、さうざうしく心やましと思ふ。馬頭、物定めの博士になりて、ひひら
きゐたり。中将は、このことわり聞き果てむと、心入れて、あへしらひゐたまへり。
「よろづのことによそへて思せ。木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り 出だすも、
臨時のもてあそび物の、その物と跡も定まらぬは、そばつきさればみたるも、げにかうも


                                      5 / 41
しつべかりけりと、時につけつつさまを変へて、今めかしきに目 移りてをかしきもあり。
大事として、まことにうるはしき人の調度の飾りとする、定まれるやうある物を難なくし
出づることなむ、なほまことの物の上手は、さまことに見え分かれはべる。
 また絵所に上手多かれど、墨がきに選ばれて、次々にさらに、劣りまさるけぢめ、ふと
しも見え分かれず。かかれど、人の見及ばぬ蓬莱の山、荒海の怒れる魚の姿、唐国のはげ
しき獣の形、目に見えぬ鬼の顔などの、おどろおどろしく作りたる物は、心にまかせてひ
ときは目驚かして、実には似ざらめど、さてありぬべし。
 世の常の山のたたずまひ、水の流れ、目に近き人の家居ありさま、げにと見え、なつか
しくやはらいだる方などを静かに描きまぜて、すくよかならぬ山の景色、木深く世離れて
畳みなし、け近き籬の内をば、その心しらひおきてなどをなむ、上手はいと勢ひことに、
悪ろ者は及ばぬ所多かめる。
 手を書きたるにも、深きことはなくて、ここかしこの点長に走り書き、そこはかとなく
気色ばめるは、うち見るにかどかどしく気色だちたれど、なほまことの筋をこまやかに書
き得たるは、うはべの筆消えて見ゆれど、今ひとたびとり並べて見れば、なほ実になむよ
りける。
 はかなきことだにかくこそはべれ。まして人の心の、時にあたりて気色ばめらむ見る目
の情をば、え頼むまじく思うたまへ得てはべる。そのはじめのこと、好き好きしくとも申
しはべらむ」
 とて、近くゐ寄れば、君も目覚ましたまふ。中将いみじく信じて、頬杖をつきて向かひ
ゐたまへり。法の師の世のことわり説き聞かせむ所の心地するも、かつはをかしけれど、
かかるついでは、おのおの睦言もえ忍びとどめずなむありける。




                  女性体験談


 「はやう、まだいと下臈にはべりし時、あはれと思ふ人はべりき。聞こえさせつるやう
に、容貌などいとまほにも はべらざりしかば、若きほどの好き心には、この人をとまりに
とも思ひとどめはべらず、よるべとは思ひながら、さうざうしくて、とかく紛れはべりし
を、もの怨じをいたくしはべりしかば、心づきなく、いとかからで、おいらかならましか
ばと思ひつつ、あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて、かく数ならぬ身を見も放
たで、などかくしも思ふらむと、心苦しき折々も はべりて、自然に心をさめらるるやうに
なむはべりし。
 この女のあるやう、もとより思ひいたらざりけることにも、いかでこの人の ためにはと、
なき手を出だし、後れたる筋の心をも、なほ口惜しくは見えじと思ひはげみつつ、とにか


                                       6 / 41
くにつけて、ものまめやかに後見、つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほど
に、進める方と思ひしかど、とかくになびきてなよびゆき、醜き容貌をも、この人に見や
疎まれむと、わりなく思ひつくろひ、疎き人に見えば、面伏せにや思はむと、憚り恥ぢて、
みさをにもてつけて見馴るるままに、心もけしうはあらずはべりしかど、ただこの憎き方
一つなむ、心をさめずはべりし。
 そのかみ思ひはべりしやう、かうあながちに従ひ怖ぢたる人 なめり、いかで懲るばかり
のわざして、おどして、この方もすこしよろしくもなり、さがなさもやめむと思ひて、ま
ことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば、かばかり我に従ふ心ならば思ひ懲りなむ
と思うたまへ得て、ことさらに情けなくつれなきさまを見せて、例の腹立ち怨ずるに、
 『かくおぞましくは、いみじき契り深くとも、絶えてまた見じ。限りと思はば、かくわ
りなきもの疑ひはせよ。行く先長く見えむと思はば、つらきことありとも、念じてなのめ
に思ひなりて。かかる心だに失せなば、いとあはれとなむ思ふべき。人並々にもなり、す
こしおとなびむに添へて、また並ぶ人なくあるべき』
 やうなど、かしこく教へたつるかなと思ひたまへて、われたけく言ひそしはべるに、す
こしうち笑ひて、
 『よろづに見だてなく、ものげなきほどを見過ぐして、人数なる世もやと待つ方は、い
とのどかに思ひなされて、心やましくもあらず。つらき心を忍びて、思ひ直らむ折を見つ
けむと、年月を重ねむあいな頼みは、いと苦しくなむあるべければ、かたみに背きぬべき
きざみになむある』
 とねたげに言ふに、腹立たしくなりて、憎げなることどもを言ひはげましはべるに、女
もえをさめぬ筋にて、指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを、おどろおどろしくかこち
て、
 『かかる疵さへつきぬれば、いよいよまじらひをすべきにもあらず。辱めたまふめる官
位、いとどしく何につけてかは人めかむ、世を背きぬべき身なめり』など言ひ脅して、『さ
らば、今日こそは限りなめれ』と、この指をかがめてまかでぬ。
 『手を折りてあひ見しことを数ふれば
  これひとつやは君が憂きふし
 えうらみじ』
 など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、
 『憂きふしを心ひとつに数へきて
  こや君が手を別るべきをり』
 など、言ひしろひはべりしかど、まことには変るべきこととも思ひたまへずながら、日
ごろ経るまで消息も遣はさず、あくがれまかり歩くに、 臨時の祭の調楽に、夜更けていみ
じう霙降る夜、これかれまかりあかるる所にて、思ひめぐらせば、なほ家路と思はむ方は
またなかりけり。
 内裏わたりの旅寝すさまじかるべく、気色ばめるあたりはそぞろ寒くや、と思ひたまへ


                                      7 / 41
られしかば、いかが思へると、気色も見がてら、雪をうち払ひつつ、なま人わろく爪喰は
るれど、さりとも今宵日ごろの恨みは解けなむ、と思うたまへしに、火ほのかに壁に背け、
萎えたる衣どもの厚肥えたる、大いなる籠にうち掛けて、引き上ぐべきものの帷子などう
ち上げて、今宵ばかりやと、待ちけるさまなり。さればよと、心おごりするに、正身はな
し。さるべき女房どもばかりとまりて、『親の家に、この夜さりなむ渡りぬる』と答へはべ
り。
 艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや籠りに情けなかりしかば、あへ
なき心地して、さがなく許しなかりしも、我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも
見たまへざりしことなれど、心やましきままに思ひはべりしに、着るべき物、常よりも心
とどめたる色あひ、しざまいとあらまほしくて、さすがにわが見捨ててむ後をさへなむ、
思ひやり後見たりし。
 さりとも、絶えて思ひ放つやうはあらじと思うたまへて、とかく言ひはべりしを、背き
もせずと、尋ねまどはさむとも隠れ忍びず、かかやかしからず答へつつ、ただ、
                                   『ありしな
がらは、えなむ見過ぐすまじき。あらためてのどかに思ひならばなむ、あひ見るべき』な
ど言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひたまへしかば、しばし懲らさむの心にて、『しか
あらためむ』とも言はず、いたく 綱引きて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きて、はか
なくなりはべりにしかば、 戯れにくくなむおぼえはべりし。
 ひとへにうち頼みたらむ方は、さばかりにてありぬべくなむ思ひたまへ出でらるる。は
かなきあだ事をもまことの大事をも、言ひあはせたるにかひなからず、龍田姫と言はむに
もつきなからず、織女の手にも劣るまじくその方も具して、うるさくなむはべりし」
 とて、いとあはれと思ひ出でたり。中将、
 「その織女の裁ち縫ふ方をのどめて、長き契りにぞあえまし。げに、その龍田姫の錦に
は、またしくものあらじ。はかなき花紅葉といふも、をりふしの色あひつきなく、はかば
かしからぬは、露のはえなく消えぬるわざなり。さあるにより、かたき世とは定めかねた
るぞや」
 と、言ひはやしたまふ。
 「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、人も立ちまさり心ばせまことにゆゑありと
見えぬべく、うち詠み、走り書き、掻い弾く爪音、手つき口つき、みなたどたどしからず、
見聞きわたりはべりき。見る目もこともなくはべりしかば、このさがな者を、うちとけた
る方にて、時々隠ろへ 見はべりしほどは、こよなく心とまりはべりき。この人亡せて後、
いかがはせむ、あはれながらも過ぎぬるはかひなくて、しばしばまかり馴るるには、すこ
しまばゆく艶に好ましきことは、目につかぬ所あるに、うち頼むべくは見えず、かれがれ
にのみ見せはべるほどに、忍びて心かはせる人ぞありけらし。
 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上人来あひて、
この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかりとまらむとするに、この人言ふやう、
                                       『今
宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』 とて、この 女の家はた、避きぬ道なりければ、


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荒れたる崩れより池の水かげ見えて、月だにやどる住処を過ぎむもさすがにて、下りはべ
りぬかし。
 もとよりさる心を交はせるにやありけむ、この男いたくすずろきて、門近き廊の簀子だ
つものに尻かけて、とばかり 月を見る。菊いとおもしろくうつろひわたり、風に競へる紅
葉の乱れなど、あはれと、げに見えたり。
 懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、 「蔭もよし」などつづしりうたふほどに、よく鳴
る和琴を、調べととのへたりける、うるはしく掻き合はせたりしほど、けしうはあらずか
し。律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、簾の内より聞こえたるも、今めきた
る物の声なれば、清く澄める月に折つきなからず。男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、
 『庭の紅葉こそ、踏み分けたる跡もなけれ』などねたます。菊を折りて、
 『琴の音も月もえならぬ宿ながら
  つれなき人をひきやとめける
 わろかめり』など言ひて、『今ひと声、聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』
など、いたくあざれかかれば、女、いたう声つくろひて、
 『木枯に吹きあはすめる笛の音を
  ひきとどむべき言の葉ぞなき』
 となまめき交はすに、憎くなるをも知らで、また、箏の琴を盤渉調に調べて、今めかし
く掻い弾きたる爪音、かどなきにはあらねど、まばゆき心地なむしはべりし。ただ時々う
ち語らふ宮仕へ人などの、あくまでさればみ好きたるは、さても見る限りはをかしくもあ
りぬべし。時々にても、さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには、頼もしげなくさし
過ぐいたりと心おかれて、その夜のことにことつけてこそ、まかり絶えにしか。
 この二つのことを思うたまへあはするに、若き時の心にだに、なほさやうにもて出でた
ることは、 いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき。今より後は、ましてさのみなむ思
ひたまへらるべき。御心のままに、折らば落ちぬべき萩の露、拾はば消えなむと見る 玉笹
の上の霰などの、艶にあえかなる好き好きしさのみこそ、をかしく思さるらめ、今さりと
も、七年あまりがほどに思し知りはべなむ。なにがしがいやしき諌めにて、好きたわめら
む女に心おかせたまへ。 過ちして、見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり」
 と戒む。中将、例のうなづく。君すこしかた笑みて、さることとは思すべかめり。
 「いづ方につけても、人悪ろくはしたなかりける身物語かな」とて、うち笑ひおはさう
ず。
 中将、
 「なにがしは、痴者の物語をせむ」とて、「いと忍びて見そめたりし人の、さても見つべ
かりしけはひなりしかば、ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、馴れゆくまま
に、あはれとおぼえしかば、絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを、さばかりになれば、
うち頼める気色も見えき。頼むにつけては、恨めしと思ふこともあらむと、心ながらおぼ
ゆるをりをりもはべりしを、見知らぬやうにて、久しきとだえをも、かうたまさかなる人


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とも思ひたらず、ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、心苦しかりしかば、頼め
わたることなどもありきかし。
 親もなく、いと心細げにて、さらばこの人こそはと、事にふれて思へるさまもらうたげ
なりき。かうのどけきにおだしくて、久しくまからざりしころ、この見たまふるわたりよ
り、情けなくうたてあることをなむ、さるたよりありてかすめ言はせたりける、後にこそ
聞きはべりしか。
 さる憂きことやあらむとも知らず、心には忘れずながら、消息などもせで久しくはべり
しに、むげに思ひしをれて心細かりければ、幼き者などもありしに思ひわづらひて、撫子
の花を折りておこせたりし」とて涙ぐみたり。
 「さて、その文の言葉は」と問ひたまへば、
 「いさや、ことなることもなかりきや。
 『山がつの垣ほ荒るとも折々に
  あはれはかけよ撫子の露』
 思ひ出でしままにまかりたりしかば、例のうらもなきものから、いと物思ひ顔にて、荒
れたる家の露しげきを眺めて、虫の音に競へる気色、昔物語めきておぼえはべりし。
 『咲きまじる色はいづれと分かねども
  なほ常 夏にしくものぞなき』
 大和撫子をばさしおきて、まづ『塵をだに』など、親の心をとる。
 『うち払ふ袖も露けき常夏に
  あらし吹きそふ秋も来にけり』
 とはかなげに言ひなして、まめまめしく恨みたるさまも見えず。涙をもらし落としても、
いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して、つらきをも思ひ知りけりと見えむは、わり
なく苦しきものと思ひたりしかば、心やすくて、またとだえ置きはべりしほどに、跡もな
くこそかき消ちて失せにしか。
 まだ世にあらば、はかなき世にぞさすらふらむ。あはれと思ひしほどに、わづらはしげ
に思ひまとはす気色見えましかば、かくもあくがらさざらまし。こよなきとだえおかず、
さるものにしなして長く見るやうもはべりなまし。かの撫子のらうたくはべりしかば、い
かで尋ねむと思ひたまふるを、今もえこそ聞きつけはべらね。
 これこそのたまへるはかなき例なめれ。つれなくてつらしと思ひけるも知らで、あはれ
絶えざりしも、益なき片思ひなりけり。今やうやう忘れゆく際に、かれはたえしも思ひ離
れず、折々人やりならぬ胸焦がるる夕べもあらむとおぼえはべり。これなむ、え保つまじ
く頼もしげなき方なりける。
 されば、かのさがな者も、思ひ出である方に忘れがたけれど、さしあたりて見むにはわ
づらはしく、よくせずは、あきたきこともありなむや。琴の音すすめけむかどかどしさも、
好きたる罪重かるべし。この心もとなきも、疑ひ添ふべければ、いづれとつひに思ひ定め
ずなりぬるこそ。世の中や、ただかくこそ、とりどりに比べ苦しかるべき。このさまざま


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のよき限りをとり具し、難ずべきくさはひまぜぬ人は、いづこにかはあらむ。吉祥天女を
思ひかけむとすれば、法気づき、くすしからむこそ、また、わびしかりぬべけれ」とて、
皆笑ひぬ。
 「式部がところにぞ、気色あることはあらむ。すこしづつ語り申せ」と責めらる。
 「下が下の中には、なでふことか、聞こし召しどころはべらむ」
 と言へど、頭の君、まめやかに「遅し」と責めたまへば、何事をとり申さむと思ひめぐ
らすに、
 「まだ文章生にはべりし時、かしこき女の例をなむ見たまへし。かの、馬頭の申したま
へるやうに、公事をも言ひあはせ、私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方
もいたり深く、才の際なまなまの博士恥づかしく、すべて口あかすべくなむはべらざりし。
 それは、ある博士のもとに学問などしはべるとて、まかり通ひしほどに、主人のむすめ
ども多かりと聞きたまへて、はかなきついでに言ひ寄りてはべりしを、親聞きつけて、盃
持て出でて、
     『わが両つの途歌ふを聴け』となむ、聞こえごちはべりしかど、をさをさうち
とけてもまからず、かの親の心を憚りて、さすがにかかづらひはべりしほどに、いとあは
れに思ひ後見、寝覚の語らひにも、身の才つき、朝廷に仕うまつるべき道々しきことを教
へて、いときよげに消息文にも仮名といふもの書きまぜず、むべむべしく言ひまはしはべ
るに、おのづからえまかり絶えで、その者を師としてなむ、わづかなる腰折文作ることな
ど習ひはべりしかば、今にその恩は忘れはべらねど、なつかしき妻子とうち頼まむには、
無才の人、なま悪ろならむふるまひなど見えむに、恥づかしくなむ見えはべりし。まいて
君達の御ため、はかばかしく したたかなる御後見は、何にかせさせたまはむ。はかなし、
口惜し、とかつ見つつも、ただわが心につき、宿世の引く方はべるめれば、男しもなむ、
仔細なきものははべめる」
 と申せば、残りを言はせむとて、「さてさてをかしかりける女かな」とすかいたまふを、
心は得ながら、鼻のわたりをこづきて語りなす。
 「さて、いと久しくまからざりしに、もののたよりに立ち寄りてはべれば、常のうちと
けゐたる方にははべらで、心やましき物越しにてなむ逢ひてはべる。ふすぶるにやと、を
こがましくも、また、よきふしなりとも思ひたまふるに、このさかし人はた、軽々しきも
の怨じすべきにもあらず、世の道理を思ひとりて恨みざりけり。
 声もはやりかにて言ふやう、
 『月ごろ、風病重きに堪へかねて、極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむ、え対面
賜はらぬ。目のあたりならずとも、さるべからむ雑事らは承らむ』
 と、いとあはれにむべむべしく言ひはべり。答へに何とかは。ただ、『うけたまはりぬ』
とて、立ち出ではべるに、さうざうしくやおぼえけむ、
 『この香失せなむ時に立ち寄りたまへ』と高やかに言ふを、聞き過ぐさむもいとほし、
しばしやすらふべきに、はたはべらねば、げにそのにほひさへ、はなやかにたち添へるも
術なくて、逃げ目をつかひて、


                                      11 / 41
『ささがにのふるまひしるき夕ぐれに
  ひるま過ぐせといふがあやなさ
 いかなることつけぞや』
 と、言ひも果てず走り出ではべりぬるに、追ひて、
 『逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならば
  ひる間も何かまばゆからまし』
 さすがに口疾くなどははべりき」
 と、 しづしづと申せば、君達あさましと思ひて、「嘘言」とて笑ひたまふ。
 「いづこのさる女かあるべき。おいらかに鬼とこそ向かひゐたらめ。むくつけきこと」
 と爪弾きをして、「言はむ方なし」と、式部をあはめ憎みて、
 「すこしよろしからむことを申せ」と責めたまへど、
 「これよりめづらしきことはさぶらひなむや」とて、をり。
 「すべて男も女も悪ろ者は、わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へる
こそ、いとほしけれ。
 三史五経、道々しき方を、明らかに悟り明かさむこそ、愛敬なからめ、などかは、女と
いはむからに、世にあることの公私につけて、むげに知らずいたらずしもあらむ。わざと
習ひまねばねど、すこしもかどあらむ人の、耳にも目にもとまること、自然に多かるべし。
 さるままには、真名を走り書きて、さるまじきどちの女文に、なかば過ぎて書きすすめ
たる、あなうたて、この人のたをやかならましかばと見えたり。心地にはさしも思はざら
めど、おのづからこはごはしき声に読みなされなどしつつ、ことさらびたり。上臈の中に
も、多かることぞかし。
 歌詠むと思へる人の、やがて歌にまつはれ、をかしき古言をも初めより取り込みつつ、
すさまじき折々、詠みかけたるこそ、ものしきことなれ。返しせねば情けなし、えせざら
む人ははしたなからむ。
 さるべき節会など、五月の節に急ぎ参る朝、何のあやめも思ひしづめられぬに、えなら
ぬ根を引きかけ、九日の宴に、まづ難き詩の心を思ひめぐらして暇なき折に、菊の露をか
こち寄せなどやうの、つきなき営みにあはせ、さならでもおのづから、げに後に思へばを
かしくもあはれにもあべかりけることの、その折につきなく、目にとまらぬなどを、推し
量らず詠み出でたる、なかなか心後れて見ゆ。
 よろづのことに、などかは、さても、とおぼゆる折から、時々、思ひわかぬばかりの心
にては、よしばみ情け立たざらむなむ目やすかるべき。
 すべて、心に知れらむことをも、知らず顔にもてなし、言はまほしからむことをも、一
つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける」
 と言ふにも、君は、人一人の御ありさまを、心の中に思ひつづけたまふ。これに足らず
またさし過ぎたることなくものしたまひけるかなと、ありがたきにも、いとど胸ふたがる。
 いづ方により果つともなく、果て果てはあやしきことどもになりて、明かしたまひつ。


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                                                   空蝉の物語


 からうして今日は日のけしきも直れり。かくのみ籠りさぶらひたまふも、大殿の御心い
とほしければ、まかでたまへり。
 おほかたの気色、人のけはひも、けざやかにけ高く、乱れたるところまじらず、なほ、
これこそは、かの、人々の捨てがたく取り出でしまめ人には頼まれぬべけれ、と思すもの
から、あまりうるはしき御ありさまの、とけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへるを
さうざうしくて、中納言の君、中務などやうの、おしなべたらぬ若人どもに、戯れ言など
のたまひつつ、 暑さに乱れたまへる御ありさまを、見るかひありと思ひきこえたり。
 大臣も渡りたまひて、うちとけたまへれば、御几帳隔てておはしまして、御物語聞こえ
たまふを、
    「暑きに」とにがみたまへば、人々笑ふ。
                      「あなかま」とて、脇息に寄りおはす。
いとやすらかなる御ふるまひなりや。
 暗くなるほどに、
 「今宵、中神、内裏よりは塞がりてはべりけり」と聞こゆ。
 「さかし、例は忌みたまふ方なりけり」
 「二条の院にも同じ筋にて、いづくにか違へむ、いとなやましきに」
 とて大殿籠れり。「いと悪しきことなり」と、これかれ聞こゆ。
「紀伊守にて親しく仕うまつる人の、中川のわたり なる家なむ、このころ水せき入れて、
涼しき蔭にはべる」と聞こゆ。
 「いとよかなり。なやましきに、牛ながら引き入れつ べからむ所を」
 とのたまふ。忍び忍びの御方違へ所は、あまたありぬべけれど、久しくほど経て渡りた
まへるに、方塞げて、ひき違へ他ざまへと思さむは、いとほしきなるべし。紀伊守に仰せ
言賜へば、承りながら、退きて、
 「伊予守の朝臣の家に慎むことはべりて、女房なむまかり移れるころにて、狭き所には
べれば、なめげなることやはべらむ」
 と、下に嘆くを聞きたまひて、
 「その人近からむなむ、うれしかるべき。女遠き旅寝は、もの恐ろしき心地すべきを。
ただその几帳のうしろに」とのたまへば、
 「げに、よろしき御座所にも」とて、人走らせやる。いと忍びて、ことさらにことごと
しからぬ所をと、急ぎ出でたまへば、大臣にも聞こえたまはず、御供にも睦ましき限りし
ておはしましぬ。
 「にはかに」とわぶれど、人も聞き入れず。寝殿の東面払ひあけさせて、かりそめの御
しつらひしたり。水の心ばへなど、さる方にをかしくしなしたり。田舎家だつ柴垣して、
前栽など心とめて植ゑたり。風涼しくて、そこはかとなき虫の声々聞こえ、螢しげく飛び
まがひてをかしきほどなり。

                                                                                                              13 / 41
人々、渡殿より出でたる泉にのぞきゐて、酒呑む。主人も肴求むと、 こゆるぎのいそぎ
ありくほど、君はのどやかに眺めたまひて、かの、中の品に 取り出でて言ひし、この並な
らむかしと思し出づ。
 思ひあがれる気色に聞きおきたまへるむすめなれば、ゆかしくて耳とどめたまへるに、
この西面にぞ人のけはひする。衣の音なひはらはらとして、若き声どもにくからず。さす
がに忍びて、笑ひなどする けはひ、ことさらびたり。格子を上げたりけれど、 「心なし」
                                    守、
とむつかりて下しつれば、灯ともしたる透影、障子の上より漏りたるに、やをら寄りたま
ひて、「見ゆや」と思せど、隙もなければ、しばし聞きたまふに、この近き母屋に集ひゐた
るなるべし、うちささめき言ふことどもを聞きたまへば、わが御上なるべし。
 「いといたうまめだちて。まだきに、やむごとなきよすが定まりたまへるこそ、さうざ
うしかめれ」
 「されど、さるべき隈には、よくこそ、隠れ歩きたまふなれ」
 など言ふにも、思すことのみ心にかかりたまへば、まづ胸つぶれて、「かやうのついでに
も、人の言ひ漏らさむを、聞きつけたらむ時」などおぼえたまふ。
 ことなることなければ、聞きさしたまひつ。式部卿宮の姫君に朝顔奉りたまひし歌など
を、すこしほほゆがめて語るも聞こゆ。「くつろぎがましく、歌誦じがちにもあるかな、な
ほ見劣りはしなむかし」と思す。
 守出で来て、燈籠掛け添へ、灯明くかかげなどして、御くだものばかり参れり。
 「とばり帳も、いかにぞは。さる方の心もとなくては、めざましき饗応ならむ」とのた
まへば、
 「何よけむとも、えうけたまはらず」と、かしこまりてさぶらふ。端つ方の御座に、仮
なるやうにて大殿籠れば、人々も静まりぬ。
 主人の子ども、をかしげにてあり。童なる、殿上のほどに御覧じ馴れたるもあり。伊予
介の子もあり。あまたある中に、いとけはひあてはかにて、十二、三ばかりなるもあり。
 「いづれかいづれ」など問ひたまふに、
 「これは、故衛門督の末の子にて、いとかなしくしはべりけるを、幼きほどに後れはべ
りて、姉なる人のよすがに、かくてはべるなり。才などもつきはべりぬべく、けしうはは
べらぬを、殿上なども思ひたまへかけながら、すがすがしうはえまじらひはべらざめる」
と申す。
 「あはれのことや。この姉君や、まうとの後の親」
 「さなむはべる」と申すに、
 「似げなき親をも、まうけたりけるかな。上にも聞こし召しおきて、『宮仕へに出だし立
てむと漏らし奏せし、いかになりにけむ』と、いつぞやのたまはせし。世こそ定めなきも
のなれ」と、いとおよすけのたまふ。
 「不意に、かくてものしはべるなり。世の中といふもの、さのみこそ。今も昔も、定ま
りたることはべらね。中についても、女の宿世は浮かびたるなむ、あはれにはべる」など


                                        14 / 41
聞こえさす。
 「伊予介は、かしづくや。君と思ふらむな」
 「いかがは。私の主とこそは思ひてはべるめるを、好き好きしきことと、なにがしより
はじめて、うけひきはべらずなむ」と申す。
「さりとも、まうとたちのつきづきしく今めき たらむに、おろしたてむやは。かの介は、
いとよしありて気色ばめるをや」など、物語したまひて、
 「いづかたにぞ」
 「皆、下屋におろしはべりぬるを、えやまかり下りあへざらむ」と聞こゆ。
 酔ひすすみて、皆人々簀子に臥しつつ、静まりぬ。
 君は、とけても寝られたまはず、いたづら臥しと思さるるに御目覚めて、この北の障子
のあなたに人のけはひするを、「こなたや、かくいふ人の隠れたる方ならむ、あはれや」と
御心とどめて、やをら起きて立ち聞きたまへば、ありつる子の声にて、
 「ものけたまはる。いづくにおはしますぞ」
 と、かれたる声のをかしきにて言へば、
 「ここにぞ臥したる。客人は寝たまひぬるか。いかに近からむと思ひつるを、されど、
け遠かりけり」
 と言ふ。寝たりける声のしどけなき、いとよく似通ひたれば、いもうとと聞きたまひつ。
 「廂にぞ大殿籠りぬる。音に聞きつる御ありさまを見たてまつりつる、げにこそめでた
かりけれ」と、みそかに言ふ。
 「昼ならましかば、覗きて見たてまつりてまし」
 とねぶたげに言ひて、顔ひき入れつる声す。
                    「ねたう、心とどめても問ひ聞けかし」とあ
ぢきなく思す。
 「まろは端に寝はべらむ。あなくるし」
 とて、灯かかげなどすべし。女君は、ただこの障子口筋交ひたるほどにぞ臥したるべき。
 「中将の君はいづくにぞ。人げ遠き心地して、もの恐ろし」
 と言ふなれば、長押の下に、人々臥して答へすなり。
 「下に湯におりて。『ただ今参らむ』とはべる」と言ふ。
 皆静まりたるけはひなれば、掛金を試みに引きあけたまへれば、あなたよりは鎖さざり
けり。几帳を障子口には立てて、灯はほの暗きに、見たまへば唐櫃だつ物どもを置きたれ
ば、乱りがはしき中を、分け入りたまへれば、ただ一人いとささやかにて臥したり。なま
わづらはしけれど、上なる衣押しやるまで、求めつる人と思へり。
 「中将召しつればなむ。人知れぬ思ひの、しるしある心地して」
 とのたまふを、ともかくも思ひ分かれず、物に襲はるる心地して、「や」とおびゆれど、
顔に衣のさはりて、音にも立てず。
 「うちつけに、深からぬ心のほどと見たまふらむ、ことわりなれど、年ごろ思ひわたる
心のうちも、聞こえ知らせむとてなむ。かかるをりを待ち出でたるも、さらに浅くはあら


                                      15 / 41
じと、思ひなしたまへ」
 と、いとやはらかにのたまひて、鬼神も荒だつまじきけはひなれば、はしたなく、
                                     「ここ
に、人」とも、えののしらず。心地はた、 わびしく、あるまじきことと思へば、あさまし
く、
 「人違へにこそはべるめれ」と言ふも息の下なり。
 消えまどへる気色、いと心苦しくらうたげなれば、をかしと見たまひて、
 「違ふべくもあらぬ心のしるべを、思はずにもおぼめいたまふかな。好きがましきさま
には、よに見えたてまつらじ。思ふことすこし聞こゆべきぞ」
 とて、いと小さやかなれば、かき抱きて障子のもと出でたまふにぞ、求めつる中将だつ
人来あひたる。
 「やや」とのたまふに、あやしくて探り寄りたるにぞ、いみじく匂ひみちて、顔にもく
ゆりかかる心地するに、思ひ寄りぬ。あさましう、こはいかなることぞと思ひまどはるれ
ど、聞こえむ方なし。並々の人ならばこそ、荒らかにも引きかなぐらめ、それだに人のあ
また知らむは、いかがあらむ。心も騷ぎて、慕ひ来たれど、動もなくて、奥なる御座に入
りたまひぬ。
 障子をひきたてて、「暁に御迎へにものせよ」とのたまへば、女は、この人の思ふらむこ
とさへ、死ぬばかりわりなきに、流るるまで汗になりて、いと悩ましげなる、いとほしけ
れど、例の、いづこより取う出たまふ言の葉にかあらむ、あはれ知らるばかり、情け情け
しくのたまひ尽くすべかめれど、なほいとあさましきに、
 「現ともおぼえずこそ。数ならぬ身ながらも、思しくたしける御心ばへのほども、いか
が浅くは思うたまへざらむ。いとかやうなる際は、際とこそはべなれ」
 とて、かくおし立ちたまへるを、深く情けなく憂しと思ひ入りたるさまも、げにいとほ
しく、心恥づかしきけはひなれば、
 「その際々を、まだ知らぬ、初事ぞや。なかなか、おしなべたる列に思ひなしたまへる
なむうたてありける。おのづから聞きたまふやうもあらむ。あながちなる好き心は、さら
にならはぬを。さるべきにや、げに、かくあはめられたてまつるも、ことわりなる心まど
ひを、みづからもあやしきまでなむ」
 など、まめだちてよろづにのたまへど、いとたぐひなき御ありさまの、いよいようちと
けきこえむことわびしければ、すくよかに心づきなしとは見えたてまつるとも、さる方の
言ふかひなきにて過ぐしてむと思ひて、つれなくのみもてなしたり。人柄のたをやぎたる
に、強き心をしひて加へたれば、なよ竹の心地して、さすがに折るべくもあらず。
 まことに心やましくて、あながちなる御心ばへを、言ふ方なしと 思ひて、泣くさまなど、
いとあはれなり。心苦しくはあれど、見ざらましかば口惜しからまし、と思す。慰めがた
く憂し、と思へれば、
 「など、かく疎ましきものにしも思すべき。おぼえなきさまなるしもこそ、契りあると
は思ひたまはめ。むげに世を思ひ知らぬやうに、おぼほれたまふなむ、いとつらき」と恨


                                        16 / 41
みられて、
 「いとかく憂き身のほどの定まらぬ、 ありしながらの身にて、かかる御心ばへを見まし
かば、あるまじき我頼みにて、見直したまふ 後瀬をも思ひたまへ慰めましを、いとかう仮
なる浮き寝のほどを思ひはべるに、たぐひなく思うたまへ惑はるるなり。よし、今は見き
となかけそ」



 とて、思へるさま、げにいとことわりなり。おろかならず契り慰めたまふこと多かるべ
し。
 鶏も鳴きぬ。人々起き出でて、
 「いといぎたなかりける夜かな」
 「御車ひき出でよ」
 など言ふなり。守も出で来て、
 「女などの御方違へこそ。夜深く急がせたまふべきかは」
 など言ふもあり。
 君は、またかやうのついであらむこともいとかたく、さしはへてはいかでか、御文など
も通はむことのいとわりなきを思すに、いと胸いたし。奥の中将も出でて、いと苦しがれ
ば、許したまひても、また引きとどめたまひつつ、
 「いかでか、聞こゆべき。世に知らぬ御心のつらさも、あはれも、浅からぬ世の思ひ出
では、さまざまめづらかなるべき例かな」
 とて、うち泣きたまふ気色、いとなまめきたり。
 鶏もしばしば鳴くに、心あわたたしくて、
 「つれなきを恨みも果てぬしののめに
  とりあへぬまでおどろかすらむ」
 女、身のありさまを思ふに、いとつきなくまばゆき心地して、めでたき御もてなしも、
何ともおぼえず、常はいとすくすくしく心づきなしと思ひあなづる伊予の方の思ひやられ
て、夢にや見ゆらむと、そら恐ろしくつつまし。
 「身の憂さを嘆くにあかで明くる夜は
  とり重ねてぞ音もなかれける」
 ことと明くなれば、障子口まで送りたまふ。内も外も人騒がしければ、引き立てて、別
れたまふほど、心細く、 「隔つる関」と見えたり。
 御直衣など着たまひて、南の高欄にしばしうち眺めたまふ。西面の格子そそき上げて、
人々覗くべかめる。簀子の中のほどに立てたる小障子の上より仄かに見えたまへる御あり
さまを、身にしむばかり思へる好き心どもあめり。
 月は有明にて、光をさまれるものから、 かげけざやかに見えて、なかなかをかしき曙な
り。何心なき空のけしきも、ただ見る人から、艶にもすごくも見ゆるなりけり。人知れぬ


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御心には、いと胸いたく、言伝てやらむよすがだになきをと、かへりみがちにて出でたま
ひぬ。
 殿に帰りたまひても、とみにもまどろまれたまはず。またあひ見るべき方なきを、まし
て、かの人の思ふらむ心の中、いかならむと、心苦しく思ひやりたまふ。「すぐれたること
はなけれど、めやすくもてつけてもありつる中の品かな。隈なく見集めたる人の言ひしこ
とは、げに」と思しあはせられけり。
 このほどは大殿にのみおはします。なほ、いとかき絶えて、思ふらむことのいとほしく
御心にかかりて、苦しく思しわびて、紀伊守を召したり。
 「かの、ありし中納言の子は、得させてむや。らうたげに見えしを。身近く使ふ人にせ
む。上にも我奉らむ」とのたまへば、
 「いとかしこき仰せ言にはべるなり。姉なる人にのたまひみむ」
 と申すも、胸つぶれて思せど、
 「その姉君は、朝臣の弟や持たる」
 「さもはべらず。この二年ばかりぞ、かくてものしはべれど、親のおきてに違へりと思
ひ嘆きて、心ゆかぬやうになむ、聞きたまふる」
 「あはれのことや。よろしく聞こえし人ぞかし。まことによしや」とのたまへば、
 「けしうははべらざるべし。もて離れてうとうとしくはべれば、世のたとひにて、睦び
はべらず」と申す。
 さて、五六日ありて、この子率て参れり。こまやかにをかしとはなけれど、なまめきた
るさまして、あて人と見えたり。召し入れて、いとなつかしく語らひたまふ。童心地に、
いとめでたくうれしと思ふ。いもうとの君のことも詳しく問ひたまふ。さるべきことは答
へ聞こえなどして、恥づかしげにしづまりたれば、うち出でにくし。されど、いとよく言
ひ知らせたまふ。
 かかることこそはと、ほの心得るも、思ひの外なれど、幼な心地に深くしもたどらず。
御文を持て来たれば、女、あさましきに涙も出で来ぬ。この子の思ふらむこともはしたな
くて、さすがに、御文を面隠しに広げたり。いと多くて、
 「見し夢を逢ふ夜ありやと嘆くまに
  目さへあはでぞころも経にける
 寝る夜なければ」


 など、目も及ばぬ御書きざまも、霧り塞がりて、心得ぬ宿世うち添へりける 身を思ひ続
けて臥したまへり。
 またの日、小君召したれば、参るとて御返り乞ふ。
 「かかる御文見るべき人もなし、と聞こえよ」
 とのたまへば、うち笑みて、
 「違ふべくものたまはざりしものを。いかが、さは申さむ」


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と言ふに、心やましく、残りなくのたまはせ、知らせてけると思ふに、つらきこと限り
なし。
 「いで、およすけたることは言はぬぞよき。さは、な参りたまひそ」とむつかられて、
 「召すには、いかでか」とて、参りぬ。
 紀伊守、好き心にこの継母のありさまをあたらしきものに思ひて、追従しありけば、こ
の子をもてかしづきて、率てありく。
 君、召し寄せて、
 「昨日待ち暮らししを。なほあひ思ふまじきなめり」
 と怨じたまへば、顔うち赤めてゐたり。
 「いづら」とのたまふに、しかしかと申すに、
 「言ふかひなのことや。あさまし」とて、またも賜へり。
 「あこは知らじな。その伊予の翁よりは、先に見し人ぞ。されど、頼もしげなく頚細し
とて、ふつつかなる後見まうけて、かく侮りたまふなめり。さりとも、あこはわが子にて
をあれよ。この頼もし人は、行く先短かりなむ」
 とのたまへば、「さもやありけむ、いみじかりけることかな」と思へる、「をかし」と思
す。
 この子をまつはしたまひて、内裏にも率て参りなどしたまふ。わが御匣殿にのたまひて、
装束などもせさせ、まことに親めきてあつかひたまふ。
 御文は常にあり。されど、この子もいと幼し、心よりほかに散りもせば、軽々しき名さ
へとり添へむ、身のおぼえをいとつきなかるべく思へば、めでたきこともわが身からこそ
と思ひて、うちとけたる御答へも聞こえず。ほのかなりし御けはひありさまは、
                                   「げに、な
べてにやは」と、思ひ出できこえぬにはあらねど、「をかしきさまを見えたてまつりても、
何にかはなるべき」など、思ひ返すなりけり。
 君は思しおこたる時の間もなく、心苦しくも恋しくも思し出づ。思へりし気色などのい
とほしさも、晴るけむ方なく思しわたる。軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも、人目し
げからむ所に、便なきふるまひやあらはれむと、人のためもいとほしく、と思しわづらふ。
 例の、内裏に日数経たまふころ、さるべき方の忌み待ち出でたまふ。にはかにまかでた
まふまねして、道のほどよりおはしましたり。
 紀伊守おどろきて、遣水の面目とかしこまり喜ぶ。小君には、昼より、「かくなむ思ひよ
れる」とのたまひ契れり。明け暮れまつはし馴らしたまひければ、今宵もまづ召し出でた
り。
 女も、さる御消息ありけるに、思したばかりつらむほどは、浅くしも思ひなされねど、
さりとて、うちとけ、人げなきありさまを見えたてまつりても、あぢきなく、夢のやうに
て過ぎにし嘆きを、またや加へむ、と思ひ乱れて、なほさて待ちつけきこえさせむことの
まばゆければ、小君が出でて去ぬるほどに、
 「いとけ近ければ、かたはらいたし。なやましければ、忍びてうち叩かせなどせむに、


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ほど離れてを」
 とて、渡殿に、中将といひしが局したる隠れに、移ろひぬ。
 さる心して、人とく静めて、御消息あれど、小君は尋ねあはず。よろづの所求め歩きて、
渡殿に分け入りて、からうしてたどり来たり。いとあさましくつらし、と思ひて、
 「いかにかひなしと思さむ」と、泣きぬばかり言へば、
 「かく、けしからぬ心ばへは、つかふものか。幼き人のかかること言ひ伝ふるは、いみ
じく忌むなるものを」と言ひおどして、『心地なやましければ、人々避けずおさへさせて
                  「
なむ』と聞こえさせよ。あやしと誰も誰も見るらむ」
 と言ひ放ちて、心の中には、「いと、かく品定まりぬる身のおぼえならで、過ぎにし親の
御けはひとまれるふるさとながら、たまさかにも待ちつけたてまつらば、をかしうもやあ
らまし。しひて思ひ知らぬ顔に見消つも、いかにほど知らぬやうに思すらむ」と、心なが
らも、胸いたく、さすがに思ひ乱る。
                「とてもかくても、今は言ふかひなき宿世なりければ、
無人に心づきなくて止みなむ」と思ひ果てたり。
 君は、いかにたばかりなさむと、まだ幼きをうしろめたく待ち臥したまへるに、不用な
るよしを聞こゆれば、あさましくめづらかなりける心のほどを、「身もいと恥づかしくこそ
なりぬれ」と、いといとほしき御気色なり。とばかりものものたまはず、いたくうめきて、
憂しと思したり。
 「帚木の心を知らで園原の
  道にあやなく惑ひぬるかな
 聞こえむ方こそなけれ」
 とのたまへり。女も、さすがに、まどろまざりければ、
 「数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに
  あるにもあらず消ゆる帚木」
 と聞こえたり。
 小君、いといとほしさに眠たくもあらでまどひ歩くを、人あやしと見るらむ、とわびた
まふ。
 例の、人々はいぎたなきに、一所すずろにすさまじく思し続けらるれど、人に似ぬ心ざ
まの、なほ消えず立ち上れりける、とねたく、かかるにつけてこそ心もとまれと、かつは
思しながら、めざましくつらければ、さばれと思せども、さも思し果つまじく、
 「隠れたらむ所に、なほ率て行け」とのたまへど、
 「いとむつかしげにさし籠められて、人あまたはべるめれば、かしこげに」
 と聞こゆ。いとほしと思へり。
 「よし、あこだに、な捨てそ」
 とのたまひて、御かたはらに臥せたまへり。若くなつかしき御ありさまを、うれしくめ
でたしと思ひたれば、つれなき人よりは、なかなかあはれに思さるとぞ。




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中文译文:

                                                 帚木

                                            雨夜品定之物语


                                             女性体验之谈


                                              空蝉之物语




                                            雨夜品定之物语


“光华公子源氏”,即光源氏,也惟有这个名称是堂皇的;其实他一生屡遭世间讥
讽评论,尤其是那些好色行径。虽然他自己深恐流传后世,落个轻浮之名而竭力
加以掩饰,却偏偏众口流传。人言也实在可畏啊!


  其实源氏公子处世甚为谨慎,也并无值得特别传闻的香艳选事。与传说中好
色的交野少将相比,源氏公子也许尚不及皮毛。


  源氏公子宫后近卫中将的时候,常在宫中侍候是上,难得回左大臣邪宅居住。
以致左大臣家的人怀疑渐生:莫非派氏另有新欢?其实源氏公子本性并非那种见
色起意之人。他虽有此种倾好,也只是偶尔发作,才违背本性,而作出不应该有
的举动来。


  梅雨季节,阴雨连绵不绝。宫中又正值斋戒期间,人们终日躲避室内,以避
不祥。源氏公子因此长住宫中。左大臣久盼本归,日久不免有些怨恨。但还是备
办种种服饰和珍贵的物品,送入宫中供源氏公子受用。左大臣家诸公子也日日到
桐壶院来陪伴玩耍。众公子中,藏人少将乃正夫人所生,现已升任头中将,和源
氏公子最为亲近,是源氏公子游戏作乐最亲热的对手。他与派氏公子的情形相似:
虽受右大臣重视被招为婿,但十分好色;也很少去这正夫人家,却把自己家里的
房间装饰得富丽堂皇,经常在此招待源氏公子。两人同来同去,片刻不离,也常
在一起研习学问或游艺。这头中将的能耐竟也不亚于源氏公子。这样,无论到什
么地方,两人都相伴而往,自然格外亲见,相处也不拘礼节。每有心事,也无所


                                                                                       21 / 41
不谈。


  某一日,下了整整一天的雨,到黄昏仍不停歇。雨夜时,中殿上侍候的人不
多;铜壶院的静寂更胜于往日。灯移在案,两人正浏览图书,头中将随手从近旁
的书橱中取出彩色纸页誊写的情书一束,正欲打开来看,源氏公子阻止道:“这里
面有些是不可看的,让我挑出些无关紧要的给你看吧。”头中将闻言,心中甚为不
快,回答道:“我想看的正是那些不愿说与外人听的心里话呢。普通的情书,像我
们这般的普通人也能收得许多。那些恨男子薄情的词句,才是我们所要看的呢。 ”
源氏公子只好与他看了。其实,放在这里的,也都是些很是一般的东西。重要而
有隐情的情书,哪里会放在这等显眼的书橱呢?头中将看过之后,说道:“各式各
样真不少哩!”就凝思猜测起来:这是某某写的,那是某某写的。有的猜得很对,
有的猜错了路子,便疑惑不决起来。源氏公子心中觉得很是好笑,也并不多作解
释,只是一味加以敷衍,把信收藏起来。然后说道:“像这样的东西,你那里一定
也是很多的。我也正想看些,我情愿把整个书橱打开来与你交换。”头中将道:
                                  “我
那些,你哪里看得上眼呢?”接着,便发起感想来:


  “我到现在才知道:世间女人众多,可十全十美、美玉无援的却不可多得。
那些表面风雅,信写得美妙,交际亦得体的人也多。可要在各方面都很是优异的
女子,却实在难得。自己稍微懂得一点,就一味夸耀而看轻别人,如此令人生厌
的女子,却是很多啊。


  “常常有这样的女子,父母双全,对她又怜爱有加,娇藏在深闺,将来的期
望好像也很大;男子从传闻中听说这女子的某种才艺,便倾心爱慕,也是常有的
事。此种女子,大多容貌姣好、性情温淑,青春年华,却闲暇无事,模仿别人,
专心学习琴棋书画以自娱,结果学得一艺之长。媒人往往避其短处而夸大她的长
处。听的人虽有所疑,又不能推断其为说谎。但一旦相信了媒妁之言,和这女子
相见,以致相处,其结果也是常常令人失望的啊!”


  头中将说到这里,故作老成地叹了一口气。源氏公子不能完全赞同他的话,
但觉得其中又不乏可取之处,便笑道:
                “她们中真的全无具有半点才艺的女子,有
没有呢?”头中将闻此,当下又发议论道:


  “一个女子,真个一无所长,谁也不会受骗去向她求爱。只恐怕世上完全一
无是处的与完全无援可指的女子,同样也是少有的吧。出身高贵的女子,众人宠
爱,缺点多被隐饰;听到见到的人,自然也都相信是个绝代佳人。而中等人家的
女子,她的性情、长处,外人都看得到,优劣是比较容易辨别的。至于下等人家

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的女子,不会惹人注目,也就不足道了。”


  听他说得有条有理,源氏公子也动了兴致,便追问道:
                         “你说的等级是什么意
思呢?上中下三等,尺度是什么呢?假如一个女子,本来出身高贵,不料后来家
道中落,以致身世飘零、身份也就变得低微了。而另一女子,生于卑贫之家,其
后父亲飞黄腾达,便扩充门第,树立声威,这种人家的女子即成了名媛。世事变
迁莫测,又如何判定这两种人的等级呢?”正在此提问之间,左马头与藤式部丞
两人值宿来了。这左马头也是个好色之人,见闻广博,能言善辩。头中将遂将他
拉人座中,和他探讨上中下三等的分别,自然也就有许多不堪入耳之言。


  左马头议论道:“无论怎样升官发财,门第本不高贵,世人对他们的看法也是
不一样的。而从前门第高贵,但是现在家道中落,月资也减少了,加上时过境迁,
名声也会衰落的。这种人家的女子心性虽仍清高,但因形势所迫,有时也会做出
不体面的事来。像这两种人,各有所长,依我看也都还能归人中等。还有一种人,
身为诸国长官,掌管地方大权,等级虽已确定,但其中也有上中下的差别,而在
她们里面选拔中等的女子,正是目前的时尚。另一种人,地位比不上公卿,也不
及与公卿同列的宰相,只是有四位的爵位。然而在世间的声望并不坏,出身也不
贱,自得其乐地过着愉快的日子,这倒也变不错的。这种家庭经济富裕,无花费
之忧;教养女儿,更是审慎认真,对孩子的关怀也无微不至。这种环境中长大的
女子,其中必有不少才貌双全的美人呢!这样的女子一旦入宫,有幸获得了恩宠,
便有旱不尽的荣华,这种情况实在是很多的呢!”


  源氏公子笑着插道:“如此道来,上中下等全以贫富来定标准了。”头中将便
不满地指责道:“这不像是你之言语!”


  左马头不为所扰,自顾说道:“昔日家世高贵,现在声望显赫、条件优越,然
而在这样的人家成长起来的女子,大都教养不良,相貌可惜,毫无可取之处。人
们定会认为:如此富贵之家的女子,怎会养成此等模样呢?这是不足道的。相反,
芳家世高贵、声望隆盛,则教养出来的女儿才貌相全,众人才认为是当然的事。
只可惜,最上等的人物,像我这样的人难以接触,现在暂且不去谈论。可世间还
有此类事情:荒郊村野之外的蓬门茅舍之中,有时竟埋没着聪慧、秀丽的美人,
尽管她们默默无闻、身世可怜,却总能使人倍觉珍奇。这样的美人生长于如此僻
境,真个使人料所不及、永生难忘。


  “也有这样的人家,父亲衰老而肥蠢,兄长的相貌也令人生厌。叹以料想,
这人家的女儿必不足道;可哪里知道闺中之女竟也绰约风姿,言行举止亦颇有风

                                 23 / 41
韵?虽然只是稍有才艺,也实在出人意外,此番兴味尤其使人感动。这种人与绝
色无假的佳人相比,自然远不能及。然而出生于这样的环境,真教人心生留恋啊!”


  说到此处,他望望藤式部丞。藤式部丞有几个妹妹,传闻容貌声望甚佳。藤
式部丞。心想:左马头这番话莫非因我妹妹而发?因有所虑,便默而不语。


  此时源氏公子心中大约在想:即使在上品女子中,要觅得一位称心美人,也
非易事,世事真是玄妙难解啊!此刻,他身着一件轻柔的白衬衫,外罩一件常礼
服,飘带松散,甚是随意。灯影中,姿态跌丽,竟是一位非凡的美人。要配上眼
前这个美貌郎君,就是选个上品之中的上品女子,也是不够的。


  四人继续谈论世间各色女子的话题。左马头继续道:
                        “作为世间一般女子看待,
固然无甚欠缺;倘若要选择自己的终身伴侣,世间女子虽多,也难得称心之人。
正如同男子辅佐朝廷,具经无纬地之才的人虽多,但要真正称职的人怕也就少见
了。贤明的人,仅凭一、二人之力治理天下,也是很难执行的;必须另有僚属,
在上位的由居下位的协助,在下位的受居上位的节制,这样才可使得教化户施、
政通人和。一家之小,主妇也只有一人。然而严格论来,作主妇必须具备的条件
也甚多。一般主妇,往往长于此,则短于彼;优于此,则劣于彼。若明知其有缺
陷而勉强迁就选择,这样的事世间也是不会太多的。这不同于那些好色之徒玩弄
女性,骗得众多女子来只为选择比较;只因此乃人生大事,要相伴到老,实在该
慎重选定,务求其完全如意称心,毋须由丈夫费力帮助矫正欠缺。因此选择伴侣,
往往很难决定。

  “另有一类人,所选定的对象,并不合于理想;只因当初一见倾心,而恋情
又实难舍弃,故尔决意成全。此种男子几乎全是心慈忠厚之人;而他所爱的女子,
也定然有可取之处。然而纵观世间种种姻缘,多显庸俗平淡,很难见到绝妙美满
的。我等低微,并无奢望,尚且难得称心之人;更何况你们心性极高,何种女子
才能与你们相配呢?
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                                          女性体验之谈



      “有些女子,虽相貌平淡,却正当青春年少,人也清纯可爱;若情信言辞温
雅、字迹娟秀,收信的男子则为之倾倒,急忙致信,渴望一睹芳容。及至见面了,
却隔了帷帘,推闻几声娇音传情。此类女子,精于掩饰自己的缺陷。然而在男子
看来,便真是个窈窕淑女,遂一意钟情,热诚求爱,却不知这是个轻薄女子呢!

                                                   24 / 41
此乃择配的第一难关。


  “对于主妇,忠实勤快,作个贤内助乃首要之务。如此看来,其人无须过分
风雅;闲情逸趣等事,不解亦无大碍,且无伤大体。但若是一味蓬头垢面,过于
看重实利,只知家常杂务,又如何呢?男子终日奔波劳累,田间有所见闻,无论
国家大事、私人细节,或善事、恶事,总免不了想向人倾述,这些又怎可与外人
随便谈及?便希望有一个情投意合的妻子,心灵相应,无话不谈。有时或有满腹
可笑可泣之事,或者他人关注的话题,颇想对妻子谈论。然而妻子却呆头木脑,
只能对牛弹琴。终究只得心中回味,或自言自语,或独笑独叹。对此,妻子却又
瞠目而视,甚至骇然问道:‘你这又是如何了?’。这样的夫妇真是可怜啊!


  “倘若这样,倒不如有个驯良如童稚的女子,经过丈夫竭力调教,或可养成
美好的品性。这样的女子虽然不一定深可信赖,但教养总会有收效。与她相处,
一看其可爱乖巧之相,便会感到她所有的欠缺,皆可容忍;可一旦丈夫远离,吩
咐其应做之事,以及离别问突然发生之事,不论玩乐还是正事,这女子处理应对
总不能自作主张,难以周到妥贴,实为憾事。这种不能令人放心的缺陷,也教人
甚为为难。但有一种女子,平时冥顽无知,相貌也无可爱之处,却会显出高明的
手段,真让人意料不到。”


  左马头详论纵谈,却终无定见,不禁慨然叹息。过后又道:
                           “如此看来,何必
论门第高下,更不必言相貌美丑,只求其性情不要过于乖僻,为人贤淑诚厚、平
和温柔,便可作为终身伴侣。此外若具些精彩的才艺和高雅的情趣,这也不失为
可喜的意外收获。虽稍有不尽人意之处,也无需强其补充了。只要忠诚可靠,外
表的风情趣致后来自会日渐具备的。


  “世间更有一类女子:平时娇媚羞涩,每遇到恨怨之事,也强忍于心,如若
不见,外表装出一脸冷态。到了悲愤填胸而又无法遣去时,便留下相思遗物、不
尽凄凉的遗言、哀伤断肠的诗歌,独自逃往荒山僻处或隐身天涯海角。我幼年时
听侍女们诵读小说,每每听到此类故事,总是格外悲伤,不禁泪下。但是现在回
想起来,却觉得这种人未免太过轻率,也显得矫揉造作了。虽然心中痛苦,但抛
开恩爱深重的丈夫,不体谅他的一片真心而逃隐远方,也真叫人迷们难解。以此
窥测人心,这正是一失足成千古恨的行径,且是无聊之极的举动啊!或听见旁人
盲目赞扬;
    ‘志气真高呢!’感伤之余,便决意削发为尼。出家之初,尚心若静水,
远离红尘,对世间俗事无一丝留恋之心。后来相知者来访,见面皆言:
                              ‘唉,可怜
啊!没想到你觉有这般决心广丈夫情缘未绝,日日思念,不免流泪。待老妈们见
此情状,频频对她说道:‘老爷真心怜爱着您呢,出家为尼,真是可惜呀。’此刻

                                 25 / 41
她渐生悔意,伸手摸摸削短的额发,自觉意气沮丧,无限怅们,心中也懊悔不及。
虽然万般隐忍,但一旦落泪,往往触景情生,不能自己。结果是凡心大炽,后悔
之心日增。这定被佛主斥为秽浊凡胎。出家不彻底,反而误入歧途,还不如从前
苟且浊世好呢。有前世因缘较深的,未及削发为尼,即被丈夫找到,相偕同归;
然而事后每每回想,均感不快,这竟成了怨恨之由!既已成为夫妻,无论好坏,
总须互容互谅,这才不失这前世姻缘。总之此类事情一旦发生,今后夫妇双方,
皆难免互相顾忌,。心中定然产生隔阂。


  “还有一类女子,一见丈夫另有所爱,便心存忌恨,公然与丈夫离居,这也
是愚蠢之举吧?男子纵使稍稍移爱他人,但回想当初刚相知相识时的热恋,心中
难免仍然眷恋旧情。这样的心情,也许会使夫妇重新言归于好;如今愤然离居,
此心则会动摇,以致淡漠,从此便情断难续了。如此看来,无论何事,总应沉稳
应对:丈夫做出令人怨尤的事,直向他暗示自己已经知道;即使有可恨之处,亦
应在言语中委婉表示而勿伤感情。这样,丈夫对自己的爱情尚可能挽回。男子的
负心往往全靠女子的态度来救治。但女子倘若全不在意,任其放纵,即使丈夫因
为暂时的自由而感谢妻子的大度,但采取这种态度的女子,亦不免太过于轻率了
吧?那时男子会如同未系之舟随波逐流,不思归宿,这才是格外危险的。你说是
不是如此?”


  头中将听得此言,连连点头,紧接着他的话说道:“如今有此等事情,男子的
俊秀和温柔为女子真心所爱,而男子有不可信赖的隐情,这就为难了。这时候女
子自认问心无愧,宽容丈夫的轻薄之举,以为丈夫必然回心转意。可结果未必真
是如此。那么也就只能如此:即使丈夫有违背自己的行为,女子除忍气吞声外也
别无他法了。”话说到此,他联想起自己的妹妹葵姬,便探视源氏公子;但见源氏
公子闭目假寐,似不曾听见,心中顿觉扫兴,容颜也显得快快不悦。


  这左马头于是作了裁判博士,大发议论。头中将想听到他优劣评判的结果,
便热心地怂恿。左马头便又接着说道:


  “请听我用别的事情作比吧:比如细木工人,靠自己的手艺造出各种器物。
若是造来用作临时玩赏的物品,其样式的选择就随心所欲,也没有什么定现。观
赏玩耍的人,都牵强附会,认为这是最时尚的匠心独运,便纷纷效仿,感到是富
有趣味的。但倘若是重要华贵的精细器物,且用来装饰庄严堂皇之处的,就必然
有一定的格式,也就应当造得尽善尽美,物尽其用,这样便非请教高明的巨匠不
可了。他们的式样,普通工人毕竟难以达到。



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“又如宫廷画院里的许多名画家,如要选出他们的水墨画稿来,一一比较鉴
别,虽一时难以比较优劣,但终于还是可以判断的。可是画的如果是大家所不曾
见过的神仙之境,或大海惊涛骇浪中的怪物,或中国深野荒山中的奇特猛兽,又
或是都没见过的凶神鬼怪等,那么这些凭空想像之物,作者尽可全凭想像捏造,
只求别出心裁,达到惊心骇目的效果即可,无须酷似实物,而观者也无从加以评
说。但如果画的是世间常见的高山流水,眼前的寻常巷陌,或熟悉可亲、活灵活
现的景点,或者画的是平淡的远山远景,林木葱茏、峰峦叠椅,近景中还搭配篱
落花卉,异常巧妙。这时,名师的笔法显然技高一筹,这也是普通画师所不可及
的。


  “再如写字,并无精深修养,只是挥毫泼墨,大肆渲染,装点得锋芒毕露,
神气活现;粗略看来,实在是才气横溢、风韵流硒的宝墨。相反,具有真才实学
的书法家,着墨不多,锋芒也并不显露;但若将两者并列于一道,让人反复比较
揣摩,则孰优孰劣也是可以洞若观火的。


  “雕虫小技,尚且如此,更何况鉴定人心。依愚所见,凡逢场作戏的卖弄风
情,故作的温柔施施,都不足信赖。此刻我想讲讲自己的往事,虽是情爱之谈,
也请各位奉屈一听。”


  他说着此话,移坐向前,挨得近些。此时源氏公子也睁开眼睛,不再假寐了。
头中将两手撑住面颊,正对着左马头,神情专注,甚感兴趣。这情景颇似法师登
坛宣讲教义,教人看了觉得滑稽。但在此时,谈的人尽吐肺腑之情,已无隐讳之
意。左马头于是讲道:

   “早些时,我的职位很是低微,遇着一个我所钟情的女子。此女相貌并不特
别美丽。年少重色,当时我并无娶此人为终身伴侣之意。我一面与她交往,一面
又颇觉不能如意,于是移情别处,问柳寻花,这女子便生出了嫉恨。我心中不悦,
想:‘你气量宽大些才好呢,如此小鸡肚肠,实在令人讨厌!’但有时又想:俄身
份这般低微,渺乎小哉,这女子并不因此看轻我,也真是难为了她!’所以我的行
为检点起来,不再放浪形骸。 ”


  “她的能耐也真是不错:哪怕是不擅长之事,只要为了我,她都会颇为劳苦
地去学,去做。某些技能,尽管木是她的拿手好戏,仍很下功夫,不甘落于人后。
凡事都尽心竭力地照料我,也毫不违背我的心愿。她人虽好胜,但时时顺从我,
态度也就日渐温柔了。她惟恐自己貌不出众,而失去我的欢心,便勉力修饰;却
又恐旁人看见,伤了郎君体面,便处心积虑、时时退避。总之,无不刻意修饰自

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己。慢慢看惯了,觉得她的心地也真不坏啊!惟有嫉妒一事,叫人不堪忍耐。”


  “我当时想:
       ‘这个人如此柔顺,总是小心翼翼,害怕失去我的欢心。我如果
对她惩戒一番,威吓一番,她的嫉妒之腐也许会改掉吧。’实际上找的确已是忍无
可忍。于是又想:
       ‘我若向她提出断绝交往,如果她真心钟情于我,则一定会幡然
悔改,戒掉她的恶癣吧。’我于是装得冷酷无情,不再理会她。她照例很生气,也
十分怨恨。我对她道:‘你如此固执,就算前世有缘,也只得恩断情绝,永不再见
了。今朝与我诀别之后,尽请吃你的无名之醋去吧。但我俩若想长久相守,那么
我便是有些不是之处,你也该忍耐宽容,不要加以计较。只要你改去你的嫉妒之
心,我便真心爱你。日后我若高升、晋爵,你便是第一夫人,异于凡俗之人了。’
我如此这般自以为高明,因而得意忘形。岂知这女子微微一笑,对我说道:‘你现
在身微名贱,一事无成,要耐心等待你的发迹,我一点也不觉得痛苦;但若要我
忍受你的薄幸轻慢,等待你改悔,则日月悠长,渺茫无期,而这正是我所最感痛
苦的!与其如此,不如现在我们就诀别吧!’她的语气毫不让步。我也愤怒起来,
厉声说了许多愤激之言。这女子并不屈服,猛地拉过我的手,用力一咬,竟咬伤
一指。我大声叫痛,威吓她道:‘我的身体受此残害,从此不能参与交际,前程被
你白白断送了,面对世人我还有何脸面,只有入寺为僧了!今天就和你永别吧。’
我屈着受伤的手指走出门去,临行吟道:‘屈指一年合欢日,难耐只因妒心深?今
后你也毋须怨恨我了。’那女子听了,悲泣吟道:‘数尽胸间无情恨,应是与君分
手时。’虽然如此赠答,其实大家并不愿就此诀别,只是此后一段时间,我不再与
她通信,暂且四处游荡。”


  “此后,时值临时祭预演音乐那日深夜,忽然雨雪纷飞,花径风寒。众人从
宫中退出,各自回家。我左思右想,除了那女子的住处,已无家可归。借宿宫中,
又太嫌乏味;到另外一个装腔作势的女子那里去台夜,又难以得到温暖。于是忆
起这个女子,不知道她那事后有何感想,便决意前去一探。于是,我弹弹衣袖上
的雪珠,信步前往。行至门口,又犹豫起来,不好意思迈进门去。后来一想,雪
夜造访,千般愁怨皆可解除了吧?便毅然直入。里间灯火微明,一些软厚的日常
衣服,烘在大熏笼上;帷屏撩起,似乎今宵正在专候我的到来。我心中渐宽,自
鸣得意起来。可她本人并不在,家中谁有几个侍女。她们告诉我:叫小姐今晚在
她父亲的住所宿夜。 原来自那以后,
         ’       她并不曾吟过香艳诗歌,也未写过言情书信,
只是终回笼闭一室,默默无语。我觉得沮丧,心中想道:难道她是有意叫我疏远
她,才那样心生嫉妒的吗?然而又无确凿证据,自己也许是心情不快而产生的猜
疑之举吧?环视四周,替我精心预备的衣物,染色和缝纫都较以前更加讲究,式
样也较以前更为称心。可见诀别之后,她依旧钟情于我。现在虽不在家,却并非
定然已与我绝交。此日晚我始终没能见到她。事后我多次向她表明心迹,她也并

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不对我疏远,有时即使躲避,却并非让我难以找到。她温和地对待我,从不使我
难堪。有一次,她对我道:
           ‘你如果还像从前一样浮薄,确实使我无法忍受。但如
果你已彻底改过,安份守己,我便和你相处。’我想:话虽如此,她定然不肯与我
断绝交往,我何不再惩治一下。我对改过的事避而不答,且用盛气凌人之态予以
回报。’不料这女子伤心绝望,终于郁郁地死去了。我深感这种恶毒的游戏,是千
万不可作的!”


  “现在想来,她真是一个可以依赖的贤妻。无论是琐碎的事或重大的事,同
她商量,她总有高明见解。讲到洗染,她的精细并不逊于装点秋林的女神立田姬;
对于缝纫,她的巧手也不低于银河岸边的织女姬。在这些方面她也真可谓全才啊!”


  说到此处,他哽咽难言,陷入对往事深深的追忆之中,心中也甚为伤感。头
中将附和道:

  “她的缝纫技术,姑且不论,你和她最好能像牛郎织女那样永结良缘。你那
个本领不亚于立田姬的人,实在不可多得啊!如同变幻无常的春花秋叶,倘若色
彩与季节不合,调和渲染又不得法,便无法让人欣赏,只会白白地枯死。更何况
才艺兼具的女子,在这世间实在很难求得啊!”他以此话来怂恿,使得左马头接着
往下讲:


  “且说我还有一个相好的女子。这女子人品甚佳,心地也极为诚实,相貌也
极富情趣。作诗、写字、弹琴,样样俱会,手很巧,口齿也伶俐,这一切很容易
看出来。我虽经常宿在那嫉妒女子家里,有时偶尔也偷偷到这女子家过夜,觉得
很是留恋。那嫉妒女子死后,我一时竟不知所措。连悲哀痛惜,也觉枉然,便时
常与这女子亲近。时日一久,此人浮华轻薄处便显露无遗,教人看不惯,我觉得
她难以使人信赖,遂逐渐疏远她。这期间她也似乎另有所爱。”


  “十月的一个夜晚,月明风清,我从官中退出来时,有一个殿上的人招呼我,
要搭我的车子同行。此时我正想到大纳言家去宿夜,这贵族说:‘今晚有一个女子
在等候我,倘是不去,心里又觉得很是难受。’我便和他同车出发。正好我那个女
子的家在我们所要经过的路上。车子到了她家门口,我从土墙缺口处往庭中一望,
一池碧水,映着月影,波光翩湘,清幽可爱。过门不久,岂不辜负这大好月色?
谁知这贵族也正好在这儿下车,我只好不露声色,偷偷跟着下车。他大约正是与
这女子有约,得意扬扬地走进去,在门旁廊沿上坐下来。暂时赏玩月色。庭中残
菊经霜,颜色斑剥,夜风习习,红叶散乱,颇有诗情画意。这贵族从怀中取出一
支短笛,放在唇边吹奏起来,笛声在夜空宛转回荡,格外凄清。接着又随口唱起

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催马乐来:
    ‘树影尽垂爱,池水亦清澄……’与此回应,室内竞发出美妙的和琴声,
也许是先就把弦音调好了吧?和着歌声,珠落玉盘般弹出,演艺确实不凡!这曲
调在女子手上流淌而出,隔帘听来,如闻仙乐,与笼罩在月光下委婉的景色十分
相应。这贵族大为感动,走到帘前,说了些令人不悦的话:‘庭中满地皆是红叶,
全无来人足迹啊!’遂折了一枝菊花,吟颂道:


  ‘菊艳香困琴声起,郎君情深方肯留。多有打扰。’接着又道:‘百听不厌之
人来了,请你尽情地献技吧。’女的被他如此调清,便拿腔唱道:‘笛声吹得西风
吼,此般狂夫不要留!’两人就这么传着情话。那女子哪里知道我正听得气愤呢,
接着又弹起筝来。她用南目调奏出流行乐曲,尽管指法灵巧,我听着却实在刺耳。


  “我有时遇见一些宫女,十分俏皮、轻狂,也并不管她们如此而和她们谈笑
取乐。偶尔交往,亦自有其趣味。但我与这个女子,虽然只是偶尔见过一次面,
要把她作为意中恋人,到底很不可靠。因为这女子过分风流轻浮,令人不能安心。
我便以这日晚上的事件为理由,和她断绝了来往。”


  “我那时虽少不省事,经历这两件事情之后,也能明白过于轻狂的女子,不
可信赖。何况岁月推移,年事日增,当然更加明白此中道理了。诸位正值青春年
少,一定恣情放纵,贪恋香艳梅施之情,喜欢风流雅韵之事,洒脱木拘。然而诸
位可知,草上露一碰即落,竹上霜一触即消,此种风情难于长久。或许再过七年,
诸君定能领会这番道理。鄙人如此功谏,也许愚昧,却全出自真心。小心谨防那
种轻狂浮薄的女子,可能做出丑事,法污你高贵的声誉!”他这样告诫众人。

  头中将照例附和称是。源氏公子笑而不语,大概觉得:此话也说得不错。后
来他说道:
    “这些报琐之谈,不足为外人道哉! ”随即笑了起来。头中将说道:
                                  “现
在让我来道点痴人言语吧。”于是说开了去:


  我曾经和一女子有秘密来往。当初未有任何长远之计,但是和她混得极熟之
后,竟觉此人啊娜俊美,分外可爱。虽然在一起相聚不多,心中已当她是个值得
珍爱的意中人。日子久了,那女子也表示出想与我相依为伴的意思来。我心中当
下寻思:她想依靠我,一定会埋怨我冷落了她吧?便心生愧疚。却不料这女子毫
无怨尤,即使我疏远于她,久不相访,一去之后她仍把我当作情意中人,十分亲
明体贴、殷勤相待。我一时心动,也就对她表示出希望长相厮守的意思。这女子
父母双亡,孤苦伶仃,无所依靠,一副小鸟依人的感伤模样,真令人觉得可怜可
悯。我见这女子稳重可靠,觉得放心,有段时日,许久没去访晤。不料这期间,
我家里正夫人醋意发作,寻了个机会,把些恶言秽语带去羞辱她。我后来才知道

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  • 1. 【源氏物语~中日对照版】第二章/帚木(ははきぎ) 雨夜の品定めの物語 女性体験談 空蝉の物語 雨夜の品定めの物語 光源氏、名のみことごとしう、言ひ消たれたまふ咎多かなるに、いとど、かかるすきご とどもを、末の世にも聞き伝へて、軽びたる名をや流さむと、忍びたまひける隠ろへごと をさへ、語り伝へけむ人のもの言ひさがなさよ。さるは、いといたく世を憚り、まめだち たまひけるほど、なよびかにをかしきことはなくて、交野少将には笑はれたまひけむかし。 まだ中将などにものしたまひし時は、内裏にのみさぶらひようしたまひて、大殿には絶 え絶えまかでたまふ。 「忍ぶの乱れ」やと、疑ひきこゆることもありしかど、さしもあだ めき目馴れたるうちつけの好き好きしさなどは好ましからぬ御本性にて、まれには、あな がちに引き違へ心尽くしなることを、御心に思しとどむる癖なむ、あやにくにて、さるま じき御ふるまひもうちまじりける。 長雨晴れ間なきころ、内裏の御物忌さし続きて、いとど長居さぶらひたまふを、大殿に はおぼつかなく恨めしく思したれど、よろづの御よそひ何くれとめづらしきさまに調じ出 でたまひつつ、御むすこの君たちただこの御宿直所の宮仕へをつとめたまふ。 宮腹の中将は、なかに親しく馴れきこえたまひて、遊び戯れをも人よりは心やすく、な れなれしくふるまひたり。右大臣のいたはりかしづきたまふ住み処は、この君もいともの 憂くして、好きがましきあだ人なり。 里にても、わが方のしつらひまばゆくして、君の出で入りしたまふにうち連れきこえた まひつつ、夜昼、学問をも遊びをももろともにして、をさをさ立ちおくれず、いづくにて もまつはれきこえたまふほどに、おのづからかしこまりもえおかず、心のうちに思ふこと をも隠しあへずなむ、むつれきこえたまひける。 つれづれと降り暮らして、しめやかなる宵の雨に、殿上にもをさをさ人少なに、御宿直 所も例よりはのどやかなる心地するに、大殿油近くて書どもなど見たまふ。近き御厨子な る色々の紙なる文どもを引き出でて、中将わりなくゆかしがれば、 「さりぬべき、すこしは見せむ。かたはなるべきもこそ」 と、許したまはねば、 1 / 41
  • 2. 「そのうちとけてかたはらいたしと思されむこそゆかしけれ。おしなべたるおほかたの は、数ならねど、程々につけて、書きかはしつつも見はべりなむ。おのがじし、恨めしき 折々、待ち顔ならむ夕暮れなどのこそ、見所はあらめ」 と怨ずれば、やむごとなくせちに隠したまふべきなどは、かやうにおほざうなる御厨子 などにうち置き散らしたまふべくもあらず、深くとり置きたまふべかめれば、二の町の心 やすきなるべし。片端づつ見るに、 「よくさまざまなる物どもこそはべりけれ」とて、心あ てに「それか、かれか」など問ふなかに、言ひ当つるもあり、もて離れたることをも思ひ 寄せて疑ふも、をかしと思せど、言少なにてとかく紛らはしつつ、とり隠したまひつ。 「そこにこそ多く集へたまふらめ。すこし見ばや。さてなむ、この厨子も 心よく開くべ き」とのたまへば、 「御覧じ所あらむこそ、かたくはべらめ」など聞こえたまふついでに、「女の、これはし もと難つくまじきは、かたくもあるかなと、やうやうなむ見たまへ知る。ただうはべばか りの情けに、手走り書き、をりふしの答へ心得て、うちしなどばかりは、随分によろしき も多かりと見たまふれど、そもまことにその方を取り出でむ選びにかならず漏るまじきは、 いとかたしや。わが心得たることばかりを、おのがじし心をやりて、人をばおとしめなど、 かたはらいたきこと多かり。 親など立ち添ひもてあがめて、 生ひ先籠れる窓の内なるほどは、ただ片かどを聞き伝へ て、心を動かすこともあめり。容貌をかしくうちおほどき、若やかにて紛るることなきほ ど、はかなき すさびをも、人まねに心を入るることもあるに、おのづから一つゆゑづけて し出づることもあり。 見る人、後れたる方をば言ひ隠し、さてありぬべき方をばつくろひて、まねび出だすに、 『それ、しかあらじ』と、そらにいかがは推し量り思ひくたさむ。まことかと見もてゆく に、見劣りせぬやうは、なくなむあるべき」 と、うめきたる気色も恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど、われ思しあはするこ とやあらむ、うちほほ笑みて、 「その、片かどもなき人は、あらむや」とのたまへば、 「いと、さばかりならむあたりには、誰かはすかされ寄りはべらむ。取るかたなく口惜 しき際と、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは、数等しくこそはべらめ。人の品高く生 まれぬれば、人にもてかしづかれて、隠るること多く、自然にそのけはひこよなかるべし。 中の品になむ、人の心々、おのがじしの立てたるおもむきも見えて、分かるべきことかた がた多かるべき。下のきざみといふ際になれば、ことに耳たたずかし」 とて、いとくまなげなる気色なるも、ゆかしくて、 「その品々や、いかに。いづれを三つの品に置きてか分くべき。もとの品高く生まれな がら、身は沈み、位みじかくて人げなき。また直人の上達部など までなり上り、我は顔に て家の内を飾り、人に劣らじと思へる。そのけぢめをば、いかが分くべき」 と問ひたまふほどに、左馬頭、藤式部丞、御物忌に籠らむとて参れり。世の好き者にて 2 / 41
  • 3. 物よく言ひとほれるを、中将待ちとりて、この品々をわきまへ定めあらそふ。いと聞きに くきこと多かり。 「なり上れども、もとよりさるべき筋ならぬは、世人の思へることも、さは言へど、な ほことなり。また、もとはやむごとなき筋なれど、世に経るたづき少なく、時世にうつろ ひて、おぼえ衰へぬれば、心は心としてこと足らず、悪ろびたることども出でくるわざな めれば、とりどりにことわりて、中の品にぞ置くべき。受領と言ひて、人の国のことにか かづらひ営みて、品定まりたる中にも、またきざみきざみありて、中の品のけしうはあら ぬ、選りで出でつべきころほひなり。なまなまの上達部よりも非参議の四位どもの、世の おぼえ口惜しからず、もとの根ざし卑しからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、 いとかはらかなりや。家の内に足らぬことなど、はたなかめるままに、省かずまばゆきま でもてかしづける女などの、おとしめがたく生ひ出づるもあまたあるべし。宮仕へに出で 立ちて、思ひがけぬ幸ひとり出づる例ども多かりかし」など言へば、 「すべて、にぎははしきによるべきななり」とて、笑ひたまふを、 「異人の言はむように、心得ず仰せらる」と、中将憎む。 「もとの品、時世のおぼえうち合ひ、やむごとなきあたりの内々のもてなしけはひ後れ たらむは、さらにも言はず、何をしてかく生ひ出でけむと、言ふかひなくおぼゆべし。う ち合ひてすぐれたらむもことわり、これこそはさるべきこととおぼえて、めづらかなるこ とと心も驚くまじ。なにがしが及ぶべきほどならねば、上が上は うちおきはべりぬ。 さて、世にありと人に知られず、 さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひの外にらうたげ ならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなくめづらしくはおぼえめ。いかで、はたかかりけ むと、思ふより違へることなむ、あやしく心とまるわざなる。父の年老い、ものむつかし げに太りすぎ、兄の顔憎げに、思ひやりことなることなき閨の内に、いといたく思ひあが り、はかなくし出でたることわざも、ゆゑなからず見えたらむ、片かどにても、いかが思 ひの外にをかしからざらむ。すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ、さる方にて捨て がたきものをば」 とて、式部を見やれば、わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや、とや 心得らむ、ものも言はず。 「いでや、上の品と 思ふにだにかたげなる世を」と、君は思すべし。白き御衣どもの な よよかなるに、直衣ばかりをしどけなく着なしたまひて、紐などもうち捨てて、添ひ臥し たまへる御火影、いとめでたく、女にて見たてまつらまほし。この御ためには上が上を選 り出でても、なほ飽くまじく見えたまふ。 さまざまの人の上どもを語りあはせつつ、 「おほかたの世につけて見るには咎なきも、わがものとうち頼むべきを選らむに、多か る中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。男の朝廷に仕うまつり、はかばかしき世のかた めとなるべきも、まことの器ものとなるべきを取り出ださむには、かたかるべしかし。さ れど、かしこしとても、一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば、上は下に輔けら 3 / 41
  • 4. れ、下は上になびきて、こと広きに譲ろふらむ。 狭き家の内の主人とすべき人一人を思ひめぐらすに、足らはで悪しかるべき大事どもな む、かたがた多かる。 とあればかかり、あふさきるさにて、なのめにさてもありぬべき人 の少なきを、好き好きしき心のすさびにて、人のありさまをあまた見合はせむの好みなら ねど、ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに、同じくは、わが力入りをし直しひきつ くろふべき所なく、心にかなふやうにもやと、選りそめつる人の、定まりがたきなるべし。 かならずしもわが思ふにかなはねど、見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人 は、ものまめやかなりと見え、さて、保たるる女のためも、 心にくく推し量らるるなり。 されど、何か、世のありさまを見たまへ集むるままに、心に及ばずいとゆかしきこともな しや。君達の上なき御選びには、まして、いかばかりの人かは足らひたまはむ。 容貌きたなげなく、若やかなるほどの、おのがじしは塵もつかじと身をもてなし、文を 書けど、おほどかに言選りをし、墨つきほのかに心もとなく思はせつつ、またさやかにも 見てしがなとすべなく待たせ、わづかなる声聞くばかり言ひ寄れど、息の下にひき入れ言 少ななるが、いとよくもて隠すなりけり。なよびかに女しと見れば、あまり情けにひきこ められて、とりなせば、あだめく。これをはじめの難とすべし。 事が中に、なのめなるまじき人の後見の方は、もののあはれ知り過ぐし、はかなきつい での情けあり、をかしきに進める方なくてもよかるべしと見えたるに、また、まめまめし き筋を立てて耳はさみがちに美さうなき家刀自の、ひとへにうちとけたる後見ばかりをし て。朝夕の出で入りにつけても、公私の人のたたずまひ、善き悪しきことの、目にも耳に もとまるありさまを、疎き人に、わざとうちまねばむやは。 近くて見む人の聞きわき思ひ 知るべからむに語りも合はせばやと、うちも笑まれ、涙もさしぐみ、もしは、あやなきお ほやけ 腹立たしく、心ひとつに思ひあまること など多かるを、何にかは聞かせむと思へば、 うちそむかれて、人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、『あはれ』とも、うち独りごたるるに、 『何ごとぞ』など、あはつかにさし仰ぎ ゐたらむは、いかがは口惜しからぬ。 ただひたぶるに子めきて柔らかならむ人を、とかくひきつくろひてはなどか見ざらむ。 心もとなくとも、直し所ある心地すべし。げに、さし向ひて見むほどは、さてもらうたき 方に罪ゆるし見るべきを、立ち離れてさるべきことをも言ひやり、をりふしにし出でむわ ざのあだ事にもまめ事にも、わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは、いと口惜 しく頼もしげなき咎や、なほ苦しからむ。常はすこしそばそばしく心づきなき人の、をり ふしにつけて出でばえするやうもありかし」 など、隈なきもの言ひも、定めかねていたくうち嘆く。 「今は、ただ、品にもよらじ。容貌をばさらにも言はじ。いと口惜しくねぢけがましき おぼえだになくは、ただひとへにものまめやかに、静かなる心のおもむきならむよるべを ぞ、つひの頼み所には思ひおくべかりける。あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをば、 よろこびに思ひ、すこし後れたる方あらむをも、あながちに求め加へじ。うしろやすくの どけき所だに強くは、うはべの情けは、おのづからもてつけつべきわざをや。 4 / 41
  • 5. 艶に もの恥ぢして、恨み言ふべきことをも見知らぬさまに忍びて、上はつれなくみさを づくり、心一つに思ひあまる時は、言はむかたなくすごき言の葉、あはれなる歌を詠みお き、しのばるべき形見をとどめて、深き山里、世離れたる海づらなどにはひ隠れぬるをり。 童にはべりし時、女房などの物語読みしを聞きて、いとあはれに悲しく、心深きことか なと、涙をさへなむ落としはべりし。今思ふには、いと軽々しく、ことさらびたることな り。心ざし深からむ男をおきて、見る目の前につらきことありとも、人の心を見知らぬや うに逃げ隠れて、人をまどはし、心を見むとするほどに、長き世のもの思ひになる、いと あぢきなきことなり。『心深しや』など、ほめたてられて、あはれ進みぬれば、やがて尼に なりぬかし。思ひ立つほどは、いと心澄めるやうにて、世に返り見すべくも思へらず。『い で、あな悲し。かくはた思しなりにけるよ』などやうに、あひ知れる人来とぶらひ、ひた すらに憂しとも思ひ離れぬ男、聞きつけて涙落とせば、使ふ人、古御達など、 『君の御心は、 あはれなりけるものを。あたら御身を』など言ふ。みづから額髪をかきさぐりて、あへな く心細ければ、うちひそみぬかし。忍ぶれど涙こぼれそめぬれば、折々ごとにえ念じえず、 悔しきこと多かめるに、仏もなかなか心ぎたなしと、見たまひつべし。 濁りにしめるほど よりも、なま浮かびにては、かへりて悪しき道にも漂ひぬべくぞおぼゆる。絶えぬ宿世浅 からで、尼にもなさで尋ね取りたらむも、やがてあひ添ひて、とあらむ折もかからむきざ みをも、見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、我も人も、うしろめたく心おか れじやは。 また、なのめにうつろふ方 あらむ人を恨みて、気色ばみ背かむ、はたをこがましかりな む。心はうつろふ方ありとも、見そめし心ざしいとほしく思はば、さる方のよすがに思ひ てもありぬべきに、さやうならむたぢろきに、絶えぬべきわざなり。 すべて、よろずのことなだらかに、怨ずべきことをば見知れるさまにほのめかし、恨む べからむふしをも憎からずかすめなさば、それにつけて、あはれもまさりぬべし。多くは、 わが心も見る人からをさまりもすべし。あまりむげにうちゆるべ見放ちたるも、心やすく らうたきやうなれど、おのづから軽き方にぞおぼえはべるかし。繋がぬ舟の浮きたる例も、 げにあやなし。さははべらぬか」 と言へば、中将うなづく。 「さしあたりて、をかしともあはれとも心に入らむ人の、頼もしげなき疑ひあらむこそ、 大事なるべけれ。わが心あやまちなくて見過ぐさば、さし直してもなどか見ざらむとおぼ えたれど、それさしもあらじ。ともかくも、違ふべきふしあらむを、のどやかに見忍ばむ よりほかに、ますことあるまじかりけり」 と言ひて、わが妹の姫君は、この定めにかなひたまへりと思へば、君のうちねぶりて言 葉まぜたまはぬを、さうざうしく心やましと思ふ。馬頭、物定めの博士になりて、ひひら きゐたり。中将は、このことわり聞き果てむと、心入れて、あへしらひゐたまへり。 「よろづのことによそへて思せ。木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り 出だすも、 臨時のもてあそび物の、その物と跡も定まらぬは、そばつきさればみたるも、げにかうも 5 / 41
  • 6. しつべかりけりと、時につけつつさまを変へて、今めかしきに目 移りてをかしきもあり。 大事として、まことにうるはしき人の調度の飾りとする、定まれるやうある物を難なくし 出づることなむ、なほまことの物の上手は、さまことに見え分かれはべる。 また絵所に上手多かれど、墨がきに選ばれて、次々にさらに、劣りまさるけぢめ、ふと しも見え分かれず。かかれど、人の見及ばぬ蓬莱の山、荒海の怒れる魚の姿、唐国のはげ しき獣の形、目に見えぬ鬼の顔などの、おどろおどろしく作りたる物は、心にまかせてひ ときは目驚かして、実には似ざらめど、さてありぬべし。 世の常の山のたたずまひ、水の流れ、目に近き人の家居ありさま、げにと見え、なつか しくやはらいだる方などを静かに描きまぜて、すくよかならぬ山の景色、木深く世離れて 畳みなし、け近き籬の内をば、その心しらひおきてなどをなむ、上手はいと勢ひことに、 悪ろ者は及ばぬ所多かめる。 手を書きたるにも、深きことはなくて、ここかしこの点長に走り書き、そこはかとなく 気色ばめるは、うち見るにかどかどしく気色だちたれど、なほまことの筋をこまやかに書 き得たるは、うはべの筆消えて見ゆれど、今ひとたびとり並べて見れば、なほ実になむよ りける。 はかなきことだにかくこそはべれ。まして人の心の、時にあたりて気色ばめらむ見る目 の情をば、え頼むまじく思うたまへ得てはべる。そのはじめのこと、好き好きしくとも申 しはべらむ」 とて、近くゐ寄れば、君も目覚ましたまふ。中将いみじく信じて、頬杖をつきて向かひ ゐたまへり。法の師の世のことわり説き聞かせむ所の心地するも、かつはをかしけれど、 かかるついでは、おのおの睦言もえ忍びとどめずなむありける。 女性体験談 「はやう、まだいと下臈にはべりし時、あはれと思ふ人はべりき。聞こえさせつるやう に、容貌などいとまほにも はべらざりしかば、若きほどの好き心には、この人をとまりに とも思ひとどめはべらず、よるべとは思ひながら、さうざうしくて、とかく紛れはべりし を、もの怨じをいたくしはべりしかば、心づきなく、いとかからで、おいらかならましか ばと思ひつつ、あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて、かく数ならぬ身を見も放 たで、などかくしも思ふらむと、心苦しき折々も はべりて、自然に心をさめらるるやうに なむはべりし。 この女のあるやう、もとより思ひいたらざりけることにも、いかでこの人の ためにはと、 なき手を出だし、後れたる筋の心をも、なほ口惜しくは見えじと思ひはげみつつ、とにか 6 / 41
  • 7. くにつけて、ものまめやかに後見、つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほど に、進める方と思ひしかど、とかくになびきてなよびゆき、醜き容貌をも、この人に見や 疎まれむと、わりなく思ひつくろひ、疎き人に見えば、面伏せにや思はむと、憚り恥ぢて、 みさをにもてつけて見馴るるままに、心もけしうはあらずはべりしかど、ただこの憎き方 一つなむ、心をさめずはべりし。 そのかみ思ひはべりしやう、かうあながちに従ひ怖ぢたる人 なめり、いかで懲るばかり のわざして、おどして、この方もすこしよろしくもなり、さがなさもやめむと思ひて、ま ことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば、かばかり我に従ふ心ならば思ひ懲りなむ と思うたまへ得て、ことさらに情けなくつれなきさまを見せて、例の腹立ち怨ずるに、 『かくおぞましくは、いみじき契り深くとも、絶えてまた見じ。限りと思はば、かくわ りなきもの疑ひはせよ。行く先長く見えむと思はば、つらきことありとも、念じてなのめ に思ひなりて。かかる心だに失せなば、いとあはれとなむ思ふべき。人並々にもなり、す こしおとなびむに添へて、また並ぶ人なくあるべき』 やうなど、かしこく教へたつるかなと思ひたまへて、われたけく言ひそしはべるに、す こしうち笑ひて、 『よろづに見だてなく、ものげなきほどを見過ぐして、人数なる世もやと待つ方は、い とのどかに思ひなされて、心やましくもあらず。つらき心を忍びて、思ひ直らむ折を見つ けむと、年月を重ねむあいな頼みは、いと苦しくなむあるべければ、かたみに背きぬべき きざみになむある』 とねたげに言ふに、腹立たしくなりて、憎げなることどもを言ひはげましはべるに、女 もえをさめぬ筋にて、指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを、おどろおどろしくかこち て、 『かかる疵さへつきぬれば、いよいよまじらひをすべきにもあらず。辱めたまふめる官 位、いとどしく何につけてかは人めかむ、世を背きぬべき身なめり』など言ひ脅して、『さ らば、今日こそは限りなめれ』と、この指をかがめてまかでぬ。 『手を折りてあひ見しことを数ふれば これひとつやは君が憂きふし えうらみじ』 など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、 『憂きふしを心ひとつに数へきて こや君が手を別るべきをり』 など、言ひしろひはべりしかど、まことには変るべきこととも思ひたまへずながら、日 ごろ経るまで消息も遣はさず、あくがれまかり歩くに、 臨時の祭の調楽に、夜更けていみ じう霙降る夜、これかれまかりあかるる所にて、思ひめぐらせば、なほ家路と思はむ方は またなかりけり。 内裏わたりの旅寝すさまじかるべく、気色ばめるあたりはそぞろ寒くや、と思ひたまへ 7 / 41
  • 8. られしかば、いかが思へると、気色も見がてら、雪をうち払ひつつ、なま人わろく爪喰は るれど、さりとも今宵日ごろの恨みは解けなむ、と思うたまへしに、火ほのかに壁に背け、 萎えたる衣どもの厚肥えたる、大いなる籠にうち掛けて、引き上ぐべきものの帷子などう ち上げて、今宵ばかりやと、待ちけるさまなり。さればよと、心おごりするに、正身はな し。さるべき女房どもばかりとまりて、『親の家に、この夜さりなむ渡りぬる』と答へはべ り。 艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや籠りに情けなかりしかば、あへ なき心地して、さがなく許しなかりしも、我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも 見たまへざりしことなれど、心やましきままに思ひはべりしに、着るべき物、常よりも心 とどめたる色あひ、しざまいとあらまほしくて、さすがにわが見捨ててむ後をさへなむ、 思ひやり後見たりし。 さりとも、絶えて思ひ放つやうはあらじと思うたまへて、とかく言ひはべりしを、背き もせずと、尋ねまどはさむとも隠れ忍びず、かかやかしからず答へつつ、ただ、 『ありしな がらは、えなむ見過ぐすまじき。あらためてのどかに思ひならばなむ、あひ見るべき』な ど言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひたまへしかば、しばし懲らさむの心にて、『しか あらためむ』とも言はず、いたく 綱引きて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きて、はか なくなりはべりにしかば、 戯れにくくなむおぼえはべりし。 ひとへにうち頼みたらむ方は、さばかりにてありぬべくなむ思ひたまへ出でらるる。は かなきあだ事をもまことの大事をも、言ひあはせたるにかひなからず、龍田姫と言はむに もつきなからず、織女の手にも劣るまじくその方も具して、うるさくなむはべりし」 とて、いとあはれと思ひ出でたり。中将、 「その織女の裁ち縫ふ方をのどめて、長き契りにぞあえまし。げに、その龍田姫の錦に は、またしくものあらじ。はかなき花紅葉といふも、をりふしの色あひつきなく、はかば かしからぬは、露のはえなく消えぬるわざなり。さあるにより、かたき世とは定めかねた るぞや」 と、言ひはやしたまふ。 「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、人も立ちまさり心ばせまことにゆゑありと 見えぬべく、うち詠み、走り書き、掻い弾く爪音、手つき口つき、みなたどたどしからず、 見聞きわたりはべりき。見る目もこともなくはべりしかば、このさがな者を、うちとけた る方にて、時々隠ろへ 見はべりしほどは、こよなく心とまりはべりき。この人亡せて後、 いかがはせむ、あはれながらも過ぎぬるはかひなくて、しばしばまかり馴るるには、すこ しまばゆく艶に好ましきことは、目につかぬ所あるに、うち頼むべくは見えず、かれがれ にのみ見せはべるほどに、忍びて心かはせる人ぞありけらし。 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上人来あひて、 この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかりとまらむとするに、この人言ふやう、 『今 宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』 とて、この 女の家はた、避きぬ道なりければ、 8 / 41
  • 9. 荒れたる崩れより池の水かげ見えて、月だにやどる住処を過ぎむもさすがにて、下りはべ りぬかし。 もとよりさる心を交はせるにやありけむ、この男いたくすずろきて、門近き廊の簀子だ つものに尻かけて、とばかり 月を見る。菊いとおもしろくうつろひわたり、風に競へる紅 葉の乱れなど、あはれと、げに見えたり。 懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、 「蔭もよし」などつづしりうたふほどに、よく鳴 る和琴を、調べととのへたりける、うるはしく掻き合はせたりしほど、けしうはあらずか し。律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、簾の内より聞こえたるも、今めきた る物の声なれば、清く澄める月に折つきなからず。男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、 『庭の紅葉こそ、踏み分けたる跡もなけれ』などねたます。菊を折りて、 『琴の音も月もえならぬ宿ながら つれなき人をひきやとめける わろかめり』など言ひて、『今ひと声、聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』 など、いたくあざれかかれば、女、いたう声つくろひて、 『木枯に吹きあはすめる笛の音を ひきとどむべき言の葉ぞなき』 となまめき交はすに、憎くなるをも知らで、また、箏の琴を盤渉調に調べて、今めかし く掻い弾きたる爪音、かどなきにはあらねど、まばゆき心地なむしはべりし。ただ時々う ち語らふ宮仕へ人などの、あくまでさればみ好きたるは、さても見る限りはをかしくもあ りぬべし。時々にても、さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには、頼もしげなくさし 過ぐいたりと心おかれて、その夜のことにことつけてこそ、まかり絶えにしか。 この二つのことを思うたまへあはするに、若き時の心にだに、なほさやうにもて出でた ることは、 いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき。今より後は、ましてさのみなむ思 ひたまへらるべき。御心のままに、折らば落ちぬべき萩の露、拾はば消えなむと見る 玉笹 の上の霰などの、艶にあえかなる好き好きしさのみこそ、をかしく思さるらめ、今さりと も、七年あまりがほどに思し知りはべなむ。なにがしがいやしき諌めにて、好きたわめら む女に心おかせたまへ。 過ちして、見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり」 と戒む。中将、例のうなづく。君すこしかた笑みて、さることとは思すべかめり。 「いづ方につけても、人悪ろくはしたなかりける身物語かな」とて、うち笑ひおはさう ず。 中将、 「なにがしは、痴者の物語をせむ」とて、「いと忍びて見そめたりし人の、さても見つべ かりしけはひなりしかば、ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、馴れゆくまま に、あはれとおぼえしかば、絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを、さばかりになれば、 うち頼める気色も見えき。頼むにつけては、恨めしと思ふこともあらむと、心ながらおぼ ゆるをりをりもはべりしを、見知らぬやうにて、久しきとだえをも、かうたまさかなる人 9 / 41
  • 10. とも思ひたらず、ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、心苦しかりしかば、頼め わたることなどもありきかし。 親もなく、いと心細げにて、さらばこの人こそはと、事にふれて思へるさまもらうたげ なりき。かうのどけきにおだしくて、久しくまからざりしころ、この見たまふるわたりよ り、情けなくうたてあることをなむ、さるたよりありてかすめ言はせたりける、後にこそ 聞きはべりしか。 さる憂きことやあらむとも知らず、心には忘れずながら、消息などもせで久しくはべり しに、むげに思ひしをれて心細かりければ、幼き者などもありしに思ひわづらひて、撫子 の花を折りておこせたりし」とて涙ぐみたり。 「さて、その文の言葉は」と問ひたまへば、 「いさや、ことなることもなかりきや。 『山がつの垣ほ荒るとも折々に あはれはかけよ撫子の露』 思ひ出でしままにまかりたりしかば、例のうらもなきものから、いと物思ひ顔にて、荒 れたる家の露しげきを眺めて、虫の音に競へる気色、昔物語めきておぼえはべりし。 『咲きまじる色はいづれと分かねども なほ常 夏にしくものぞなき』 大和撫子をばさしおきて、まづ『塵をだに』など、親の心をとる。 『うち払ふ袖も露けき常夏に あらし吹きそふ秋も来にけり』 とはかなげに言ひなして、まめまめしく恨みたるさまも見えず。涙をもらし落としても、 いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して、つらきをも思ひ知りけりと見えむは、わり なく苦しきものと思ひたりしかば、心やすくて、またとだえ置きはべりしほどに、跡もな くこそかき消ちて失せにしか。 まだ世にあらば、はかなき世にぞさすらふらむ。あはれと思ひしほどに、わづらはしげ に思ひまとはす気色見えましかば、かくもあくがらさざらまし。こよなきとだえおかず、 さるものにしなして長く見るやうもはべりなまし。かの撫子のらうたくはべりしかば、い かで尋ねむと思ひたまふるを、今もえこそ聞きつけはべらね。 これこそのたまへるはかなき例なめれ。つれなくてつらしと思ひけるも知らで、あはれ 絶えざりしも、益なき片思ひなりけり。今やうやう忘れゆく際に、かれはたえしも思ひ離 れず、折々人やりならぬ胸焦がるる夕べもあらむとおぼえはべり。これなむ、え保つまじ く頼もしげなき方なりける。 されば、かのさがな者も、思ひ出である方に忘れがたけれど、さしあたりて見むにはわ づらはしく、よくせずは、あきたきこともありなむや。琴の音すすめけむかどかどしさも、 好きたる罪重かるべし。この心もとなきも、疑ひ添ふべければ、いづれとつひに思ひ定め ずなりぬるこそ。世の中や、ただかくこそ、とりどりに比べ苦しかるべき。このさまざま 10 / 41
  • 11. のよき限りをとり具し、難ずべきくさはひまぜぬ人は、いづこにかはあらむ。吉祥天女を 思ひかけむとすれば、法気づき、くすしからむこそ、また、わびしかりぬべけれ」とて、 皆笑ひぬ。 「式部がところにぞ、気色あることはあらむ。すこしづつ語り申せ」と責めらる。 「下が下の中には、なでふことか、聞こし召しどころはべらむ」 と言へど、頭の君、まめやかに「遅し」と責めたまへば、何事をとり申さむと思ひめぐ らすに、 「まだ文章生にはべりし時、かしこき女の例をなむ見たまへし。かの、馬頭の申したま へるやうに、公事をも言ひあはせ、私ざまの世に住まふべき心おきてを思ひめぐらさむ方 もいたり深く、才の際なまなまの博士恥づかしく、すべて口あかすべくなむはべらざりし。 それは、ある博士のもとに学問などしはべるとて、まかり通ひしほどに、主人のむすめ ども多かりと聞きたまへて、はかなきついでに言ひ寄りてはべりしを、親聞きつけて、盃 持て出でて、 『わが両つの途歌ふを聴け』となむ、聞こえごちはべりしかど、をさをさうち とけてもまからず、かの親の心を憚りて、さすがにかかづらひはべりしほどに、いとあは れに思ひ後見、寝覚の語らひにも、身の才つき、朝廷に仕うまつるべき道々しきことを教 へて、いときよげに消息文にも仮名といふもの書きまぜず、むべむべしく言ひまはしはべ るに、おのづからえまかり絶えで、その者を師としてなむ、わづかなる腰折文作ることな ど習ひはべりしかば、今にその恩は忘れはべらねど、なつかしき妻子とうち頼まむには、 無才の人、なま悪ろならむふるまひなど見えむに、恥づかしくなむ見えはべりし。まいて 君達の御ため、はかばかしく したたかなる御後見は、何にかせさせたまはむ。はかなし、 口惜し、とかつ見つつも、ただわが心につき、宿世の引く方はべるめれば、男しもなむ、 仔細なきものははべめる」 と申せば、残りを言はせむとて、「さてさてをかしかりける女かな」とすかいたまふを、 心は得ながら、鼻のわたりをこづきて語りなす。 「さて、いと久しくまからざりしに、もののたよりに立ち寄りてはべれば、常のうちと けゐたる方にははべらで、心やましき物越しにてなむ逢ひてはべる。ふすぶるにやと、を こがましくも、また、よきふしなりとも思ひたまふるに、このさかし人はた、軽々しきも の怨じすべきにもあらず、世の道理を思ひとりて恨みざりけり。 声もはやりかにて言ふやう、 『月ごろ、風病重きに堪へかねて、極熱の草薬を服して、いと臭きによりなむ、え対面 賜はらぬ。目のあたりならずとも、さるべからむ雑事らは承らむ』 と、いとあはれにむべむべしく言ひはべり。答へに何とかは。ただ、『うけたまはりぬ』 とて、立ち出ではべるに、さうざうしくやおぼえけむ、 『この香失せなむ時に立ち寄りたまへ』と高やかに言ふを、聞き過ぐさむもいとほし、 しばしやすらふべきに、はたはべらねば、げにそのにほひさへ、はなやかにたち添へるも 術なくて、逃げ目をつかひて、 11 / 41
  • 12. 『ささがにのふるまひしるき夕ぐれに ひるま過ぐせといふがあやなさ いかなることつけぞや』 と、言ひも果てず走り出ではべりぬるに、追ひて、 『逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならば ひる間も何かまばゆからまし』 さすがに口疾くなどははべりき」 と、 しづしづと申せば、君達あさましと思ひて、「嘘言」とて笑ひたまふ。 「いづこのさる女かあるべき。おいらかに鬼とこそ向かひゐたらめ。むくつけきこと」 と爪弾きをして、「言はむ方なし」と、式部をあはめ憎みて、 「すこしよろしからむことを申せ」と責めたまへど、 「これよりめづらしきことはさぶらひなむや」とて、をり。 「すべて男も女も悪ろ者は、わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へる こそ、いとほしけれ。 三史五経、道々しき方を、明らかに悟り明かさむこそ、愛敬なからめ、などかは、女と いはむからに、世にあることの公私につけて、むげに知らずいたらずしもあらむ。わざと 習ひまねばねど、すこしもかどあらむ人の、耳にも目にもとまること、自然に多かるべし。 さるままには、真名を走り書きて、さるまじきどちの女文に、なかば過ぎて書きすすめ たる、あなうたて、この人のたをやかならましかばと見えたり。心地にはさしも思はざら めど、おのづからこはごはしき声に読みなされなどしつつ、ことさらびたり。上臈の中に も、多かることぞかし。 歌詠むと思へる人の、やがて歌にまつはれ、をかしき古言をも初めより取り込みつつ、 すさまじき折々、詠みかけたるこそ、ものしきことなれ。返しせねば情けなし、えせざら む人ははしたなからむ。 さるべき節会など、五月の節に急ぎ参る朝、何のあやめも思ひしづめられぬに、えなら ぬ根を引きかけ、九日の宴に、まづ難き詩の心を思ひめぐらして暇なき折に、菊の露をか こち寄せなどやうの、つきなき営みにあはせ、さならでもおのづから、げに後に思へばを かしくもあはれにもあべかりけることの、その折につきなく、目にとまらぬなどを、推し 量らず詠み出でたる、なかなか心後れて見ゆ。 よろづのことに、などかは、さても、とおぼゆる折から、時々、思ひわかぬばかりの心 にては、よしばみ情け立たざらむなむ目やすかるべき。 すべて、心に知れらむことをも、知らず顔にもてなし、言はまほしからむことをも、一 つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける」 と言ふにも、君は、人一人の御ありさまを、心の中に思ひつづけたまふ。これに足らず またさし過ぎたることなくものしたまひけるかなと、ありがたきにも、いとど胸ふたがる。 いづ方により果つともなく、果て果てはあやしきことどもになりて、明かしたまひつ。 12 / 41
  • 13. -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 空蝉の物語 からうして今日は日のけしきも直れり。かくのみ籠りさぶらひたまふも、大殿の御心い とほしければ、まかでたまへり。 おほかたの気色、人のけはひも、けざやかにけ高く、乱れたるところまじらず、なほ、 これこそは、かの、人々の捨てがたく取り出でしまめ人には頼まれぬべけれ、と思すもの から、あまりうるはしき御ありさまの、とけがたく恥づかしげに思ひしづまりたまへるを さうざうしくて、中納言の君、中務などやうの、おしなべたらぬ若人どもに、戯れ言など のたまひつつ、 暑さに乱れたまへる御ありさまを、見るかひありと思ひきこえたり。 大臣も渡りたまひて、うちとけたまへれば、御几帳隔てておはしまして、御物語聞こえ たまふを、 「暑きに」とにがみたまへば、人々笑ふ。 「あなかま」とて、脇息に寄りおはす。 いとやすらかなる御ふるまひなりや。 暗くなるほどに、 「今宵、中神、内裏よりは塞がりてはべりけり」と聞こゆ。 「さかし、例は忌みたまふ方なりけり」 「二条の院にも同じ筋にて、いづくにか違へむ、いとなやましきに」 とて大殿籠れり。「いと悪しきことなり」と、これかれ聞こゆ。 「紀伊守にて親しく仕うまつる人の、中川のわたり なる家なむ、このころ水せき入れて、 涼しき蔭にはべる」と聞こゆ。 「いとよかなり。なやましきに、牛ながら引き入れつ べからむ所を」 とのたまふ。忍び忍びの御方違へ所は、あまたありぬべけれど、久しくほど経て渡りた まへるに、方塞げて、ひき違へ他ざまへと思さむは、いとほしきなるべし。紀伊守に仰せ 言賜へば、承りながら、退きて、 「伊予守の朝臣の家に慎むことはべりて、女房なむまかり移れるころにて、狭き所には べれば、なめげなることやはべらむ」 と、下に嘆くを聞きたまひて、 「その人近からむなむ、うれしかるべき。女遠き旅寝は、もの恐ろしき心地すべきを。 ただその几帳のうしろに」とのたまへば、 「げに、よろしき御座所にも」とて、人走らせやる。いと忍びて、ことさらにことごと しからぬ所をと、急ぎ出でたまへば、大臣にも聞こえたまはず、御供にも睦ましき限りし ておはしましぬ。 「にはかに」とわぶれど、人も聞き入れず。寝殿の東面払ひあけさせて、かりそめの御 しつらひしたり。水の心ばへなど、さる方にをかしくしなしたり。田舎家だつ柴垣して、 前栽など心とめて植ゑたり。風涼しくて、そこはかとなき虫の声々聞こえ、螢しげく飛び まがひてをかしきほどなり。 13 / 41
  • 14. 人々、渡殿より出でたる泉にのぞきゐて、酒呑む。主人も肴求むと、 こゆるぎのいそぎ ありくほど、君はのどやかに眺めたまひて、かの、中の品に 取り出でて言ひし、この並な らむかしと思し出づ。 思ひあがれる気色に聞きおきたまへるむすめなれば、ゆかしくて耳とどめたまへるに、 この西面にぞ人のけはひする。衣の音なひはらはらとして、若き声どもにくからず。さす がに忍びて、笑ひなどする けはひ、ことさらびたり。格子を上げたりけれど、 「心なし」 守、 とむつかりて下しつれば、灯ともしたる透影、障子の上より漏りたるに、やをら寄りたま ひて、「見ゆや」と思せど、隙もなければ、しばし聞きたまふに、この近き母屋に集ひゐた るなるべし、うちささめき言ふことどもを聞きたまへば、わが御上なるべし。 「いといたうまめだちて。まだきに、やむごとなきよすが定まりたまへるこそ、さうざ うしかめれ」 「されど、さるべき隈には、よくこそ、隠れ歩きたまふなれ」 など言ふにも、思すことのみ心にかかりたまへば、まづ胸つぶれて、「かやうのついでに も、人の言ひ漏らさむを、聞きつけたらむ時」などおぼえたまふ。 ことなることなければ、聞きさしたまひつ。式部卿宮の姫君に朝顔奉りたまひし歌など を、すこしほほゆがめて語るも聞こゆ。「くつろぎがましく、歌誦じがちにもあるかな、な ほ見劣りはしなむかし」と思す。 守出で来て、燈籠掛け添へ、灯明くかかげなどして、御くだものばかり参れり。 「とばり帳も、いかにぞは。さる方の心もとなくては、めざましき饗応ならむ」とのた まへば、 「何よけむとも、えうけたまはらず」と、かしこまりてさぶらふ。端つ方の御座に、仮 なるやうにて大殿籠れば、人々も静まりぬ。 主人の子ども、をかしげにてあり。童なる、殿上のほどに御覧じ馴れたるもあり。伊予 介の子もあり。あまたある中に、いとけはひあてはかにて、十二、三ばかりなるもあり。 「いづれかいづれ」など問ひたまふに、 「これは、故衛門督の末の子にて、いとかなしくしはべりけるを、幼きほどに後れはべ りて、姉なる人のよすがに、かくてはべるなり。才などもつきはべりぬべく、けしうはは べらぬを、殿上なども思ひたまへかけながら、すがすがしうはえまじらひはべらざめる」 と申す。 「あはれのことや。この姉君や、まうとの後の親」 「さなむはべる」と申すに、 「似げなき親をも、まうけたりけるかな。上にも聞こし召しおきて、『宮仕へに出だし立 てむと漏らし奏せし、いかになりにけむ』と、いつぞやのたまはせし。世こそ定めなきも のなれ」と、いとおよすけのたまふ。 「不意に、かくてものしはべるなり。世の中といふもの、さのみこそ。今も昔も、定ま りたることはべらね。中についても、女の宿世は浮かびたるなむ、あはれにはべる」など 14 / 41
  • 15. 聞こえさす。 「伊予介は、かしづくや。君と思ふらむな」 「いかがは。私の主とこそは思ひてはべるめるを、好き好きしきことと、なにがしより はじめて、うけひきはべらずなむ」と申す。 「さりとも、まうとたちのつきづきしく今めき たらむに、おろしたてむやは。かの介は、 いとよしありて気色ばめるをや」など、物語したまひて、 「いづかたにぞ」 「皆、下屋におろしはべりぬるを、えやまかり下りあへざらむ」と聞こゆ。 酔ひすすみて、皆人々簀子に臥しつつ、静まりぬ。 君は、とけても寝られたまはず、いたづら臥しと思さるるに御目覚めて、この北の障子 のあなたに人のけはひするを、「こなたや、かくいふ人の隠れたる方ならむ、あはれや」と 御心とどめて、やをら起きて立ち聞きたまへば、ありつる子の声にて、 「ものけたまはる。いづくにおはしますぞ」 と、かれたる声のをかしきにて言へば、 「ここにぞ臥したる。客人は寝たまひぬるか。いかに近からむと思ひつるを、されど、 け遠かりけり」 と言ふ。寝たりける声のしどけなき、いとよく似通ひたれば、いもうとと聞きたまひつ。 「廂にぞ大殿籠りぬる。音に聞きつる御ありさまを見たてまつりつる、げにこそめでた かりけれ」と、みそかに言ふ。 「昼ならましかば、覗きて見たてまつりてまし」 とねぶたげに言ひて、顔ひき入れつる声す。 「ねたう、心とどめても問ひ聞けかし」とあ ぢきなく思す。 「まろは端に寝はべらむ。あなくるし」 とて、灯かかげなどすべし。女君は、ただこの障子口筋交ひたるほどにぞ臥したるべき。 「中将の君はいづくにぞ。人げ遠き心地して、もの恐ろし」 と言ふなれば、長押の下に、人々臥して答へすなり。 「下に湯におりて。『ただ今参らむ』とはべる」と言ふ。 皆静まりたるけはひなれば、掛金を試みに引きあけたまへれば、あなたよりは鎖さざり けり。几帳を障子口には立てて、灯はほの暗きに、見たまへば唐櫃だつ物どもを置きたれ ば、乱りがはしき中を、分け入りたまへれば、ただ一人いとささやかにて臥したり。なま わづらはしけれど、上なる衣押しやるまで、求めつる人と思へり。 「中将召しつればなむ。人知れぬ思ひの、しるしある心地して」 とのたまふを、ともかくも思ひ分かれず、物に襲はるる心地して、「や」とおびゆれど、 顔に衣のさはりて、音にも立てず。 「うちつけに、深からぬ心のほどと見たまふらむ、ことわりなれど、年ごろ思ひわたる 心のうちも、聞こえ知らせむとてなむ。かかるをりを待ち出でたるも、さらに浅くはあら 15 / 41
  • 16. じと、思ひなしたまへ」 と、いとやはらかにのたまひて、鬼神も荒だつまじきけはひなれば、はしたなく、 「ここ に、人」とも、えののしらず。心地はた、 わびしく、あるまじきことと思へば、あさまし く、 「人違へにこそはべるめれ」と言ふも息の下なり。 消えまどへる気色、いと心苦しくらうたげなれば、をかしと見たまひて、 「違ふべくもあらぬ心のしるべを、思はずにもおぼめいたまふかな。好きがましきさま には、よに見えたてまつらじ。思ふことすこし聞こゆべきぞ」 とて、いと小さやかなれば、かき抱きて障子のもと出でたまふにぞ、求めつる中将だつ 人来あひたる。 「やや」とのたまふに、あやしくて探り寄りたるにぞ、いみじく匂ひみちて、顔にもく ゆりかかる心地するに、思ひ寄りぬ。あさましう、こはいかなることぞと思ひまどはるれ ど、聞こえむ方なし。並々の人ならばこそ、荒らかにも引きかなぐらめ、それだに人のあ また知らむは、いかがあらむ。心も騷ぎて、慕ひ来たれど、動もなくて、奥なる御座に入 りたまひぬ。 障子をひきたてて、「暁に御迎へにものせよ」とのたまへば、女は、この人の思ふらむこ とさへ、死ぬばかりわりなきに、流るるまで汗になりて、いと悩ましげなる、いとほしけ れど、例の、いづこより取う出たまふ言の葉にかあらむ、あはれ知らるばかり、情け情け しくのたまひ尽くすべかめれど、なほいとあさましきに、 「現ともおぼえずこそ。数ならぬ身ながらも、思しくたしける御心ばへのほども、いか が浅くは思うたまへざらむ。いとかやうなる際は、際とこそはべなれ」 とて、かくおし立ちたまへるを、深く情けなく憂しと思ひ入りたるさまも、げにいとほ しく、心恥づかしきけはひなれば、 「その際々を、まだ知らぬ、初事ぞや。なかなか、おしなべたる列に思ひなしたまへる なむうたてありける。おのづから聞きたまふやうもあらむ。あながちなる好き心は、さら にならはぬを。さるべきにや、げに、かくあはめられたてまつるも、ことわりなる心まど ひを、みづからもあやしきまでなむ」 など、まめだちてよろづにのたまへど、いとたぐひなき御ありさまの、いよいようちと けきこえむことわびしければ、すくよかに心づきなしとは見えたてまつるとも、さる方の 言ふかひなきにて過ぐしてむと思ひて、つれなくのみもてなしたり。人柄のたをやぎたる に、強き心をしひて加へたれば、なよ竹の心地して、さすがに折るべくもあらず。 まことに心やましくて、あながちなる御心ばへを、言ふ方なしと 思ひて、泣くさまなど、 いとあはれなり。心苦しくはあれど、見ざらましかば口惜しからまし、と思す。慰めがた く憂し、と思へれば、 「など、かく疎ましきものにしも思すべき。おぼえなきさまなるしもこそ、契りあると は思ひたまはめ。むげに世を思ひ知らぬやうに、おぼほれたまふなむ、いとつらき」と恨 16 / 41
  • 17. みられて、 「いとかく憂き身のほどの定まらぬ、 ありしながらの身にて、かかる御心ばへを見まし かば、あるまじき我頼みにて、見直したまふ 後瀬をも思ひたまへ慰めましを、いとかう仮 なる浮き寝のほどを思ひはべるに、たぐひなく思うたまへ惑はるるなり。よし、今は見き となかけそ」 とて、思へるさま、げにいとことわりなり。おろかならず契り慰めたまふこと多かるべ し。 鶏も鳴きぬ。人々起き出でて、 「いといぎたなかりける夜かな」 「御車ひき出でよ」 など言ふなり。守も出で来て、 「女などの御方違へこそ。夜深く急がせたまふべきかは」 など言ふもあり。 君は、またかやうのついであらむこともいとかたく、さしはへてはいかでか、御文など も通はむことのいとわりなきを思すに、いと胸いたし。奥の中将も出でて、いと苦しがれ ば、許したまひても、また引きとどめたまひつつ、 「いかでか、聞こゆべき。世に知らぬ御心のつらさも、あはれも、浅からぬ世の思ひ出 では、さまざまめづらかなるべき例かな」 とて、うち泣きたまふ気色、いとなまめきたり。 鶏もしばしば鳴くに、心あわたたしくて、 「つれなきを恨みも果てぬしののめに とりあへぬまでおどろかすらむ」 女、身のありさまを思ふに、いとつきなくまばゆき心地して、めでたき御もてなしも、 何ともおぼえず、常はいとすくすくしく心づきなしと思ひあなづる伊予の方の思ひやられ て、夢にや見ゆらむと、そら恐ろしくつつまし。 「身の憂さを嘆くにあかで明くる夜は とり重ねてぞ音もなかれける」 ことと明くなれば、障子口まで送りたまふ。内も外も人騒がしければ、引き立てて、別 れたまふほど、心細く、 「隔つる関」と見えたり。 御直衣など着たまひて、南の高欄にしばしうち眺めたまふ。西面の格子そそき上げて、 人々覗くべかめる。簀子の中のほどに立てたる小障子の上より仄かに見えたまへる御あり さまを、身にしむばかり思へる好き心どもあめり。 月は有明にて、光をさまれるものから、 かげけざやかに見えて、なかなかをかしき曙な り。何心なき空のけしきも、ただ見る人から、艶にもすごくも見ゆるなりけり。人知れぬ 17 / 41
  • 18. 御心には、いと胸いたく、言伝てやらむよすがだになきをと、かへりみがちにて出でたま ひぬ。 殿に帰りたまひても、とみにもまどろまれたまはず。またあひ見るべき方なきを、まし て、かの人の思ふらむ心の中、いかならむと、心苦しく思ひやりたまふ。「すぐれたること はなけれど、めやすくもてつけてもありつる中の品かな。隈なく見集めたる人の言ひしこ とは、げに」と思しあはせられけり。 このほどは大殿にのみおはします。なほ、いとかき絶えて、思ふらむことのいとほしく 御心にかかりて、苦しく思しわびて、紀伊守を召したり。 「かの、ありし中納言の子は、得させてむや。らうたげに見えしを。身近く使ふ人にせ む。上にも我奉らむ」とのたまへば、 「いとかしこき仰せ言にはべるなり。姉なる人にのたまひみむ」 と申すも、胸つぶれて思せど、 「その姉君は、朝臣の弟や持たる」 「さもはべらず。この二年ばかりぞ、かくてものしはべれど、親のおきてに違へりと思 ひ嘆きて、心ゆかぬやうになむ、聞きたまふる」 「あはれのことや。よろしく聞こえし人ぞかし。まことによしや」とのたまへば、 「けしうははべらざるべし。もて離れてうとうとしくはべれば、世のたとひにて、睦び はべらず」と申す。 さて、五六日ありて、この子率て参れり。こまやかにをかしとはなけれど、なまめきた るさまして、あて人と見えたり。召し入れて、いとなつかしく語らひたまふ。童心地に、 いとめでたくうれしと思ふ。いもうとの君のことも詳しく問ひたまふ。さるべきことは答 へ聞こえなどして、恥づかしげにしづまりたれば、うち出でにくし。されど、いとよく言 ひ知らせたまふ。 かかることこそはと、ほの心得るも、思ひの外なれど、幼な心地に深くしもたどらず。 御文を持て来たれば、女、あさましきに涙も出で来ぬ。この子の思ふらむこともはしたな くて、さすがに、御文を面隠しに広げたり。いと多くて、 「見し夢を逢ふ夜ありやと嘆くまに 目さへあはでぞころも経にける 寝る夜なければ」 など、目も及ばぬ御書きざまも、霧り塞がりて、心得ぬ宿世うち添へりける 身を思ひ続 けて臥したまへり。 またの日、小君召したれば、参るとて御返り乞ふ。 「かかる御文見るべき人もなし、と聞こえよ」 とのたまへば、うち笑みて、 「違ふべくものたまはざりしものを。いかが、さは申さむ」 18 / 41
  • 19. と言ふに、心やましく、残りなくのたまはせ、知らせてけると思ふに、つらきこと限り なし。 「いで、およすけたることは言はぬぞよき。さは、な参りたまひそ」とむつかられて、 「召すには、いかでか」とて、参りぬ。 紀伊守、好き心にこの継母のありさまをあたらしきものに思ひて、追従しありけば、こ の子をもてかしづきて、率てありく。 君、召し寄せて、 「昨日待ち暮らししを。なほあひ思ふまじきなめり」 と怨じたまへば、顔うち赤めてゐたり。 「いづら」とのたまふに、しかしかと申すに、 「言ふかひなのことや。あさまし」とて、またも賜へり。 「あこは知らじな。その伊予の翁よりは、先に見し人ぞ。されど、頼もしげなく頚細し とて、ふつつかなる後見まうけて、かく侮りたまふなめり。さりとも、あこはわが子にて をあれよ。この頼もし人は、行く先短かりなむ」 とのたまへば、「さもやありけむ、いみじかりけることかな」と思へる、「をかし」と思 す。 この子をまつはしたまひて、内裏にも率て参りなどしたまふ。わが御匣殿にのたまひて、 装束などもせさせ、まことに親めきてあつかひたまふ。 御文は常にあり。されど、この子もいと幼し、心よりほかに散りもせば、軽々しき名さ へとり添へむ、身のおぼえをいとつきなかるべく思へば、めでたきこともわが身からこそ と思ひて、うちとけたる御答へも聞こえず。ほのかなりし御けはひありさまは、 「げに、な べてにやは」と、思ひ出できこえぬにはあらねど、「をかしきさまを見えたてまつりても、 何にかはなるべき」など、思ひ返すなりけり。 君は思しおこたる時の間もなく、心苦しくも恋しくも思し出づ。思へりし気色などのい とほしさも、晴るけむ方なく思しわたる。軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも、人目し げからむ所に、便なきふるまひやあらはれむと、人のためもいとほしく、と思しわづらふ。 例の、内裏に日数経たまふころ、さるべき方の忌み待ち出でたまふ。にはかにまかでた まふまねして、道のほどよりおはしましたり。 紀伊守おどろきて、遣水の面目とかしこまり喜ぶ。小君には、昼より、「かくなむ思ひよ れる」とのたまひ契れり。明け暮れまつはし馴らしたまひければ、今宵もまづ召し出でた り。 女も、さる御消息ありけるに、思したばかりつらむほどは、浅くしも思ひなされねど、 さりとて、うちとけ、人げなきありさまを見えたてまつりても、あぢきなく、夢のやうに て過ぎにし嘆きを、またや加へむ、と思ひ乱れて、なほさて待ちつけきこえさせむことの まばゆければ、小君が出でて去ぬるほどに、 「いとけ近ければ、かたはらいたし。なやましければ、忍びてうち叩かせなどせむに、 19 / 41
  • 20. ほど離れてを」 とて、渡殿に、中将といひしが局したる隠れに、移ろひぬ。 さる心して、人とく静めて、御消息あれど、小君は尋ねあはず。よろづの所求め歩きて、 渡殿に分け入りて、からうしてたどり来たり。いとあさましくつらし、と思ひて、 「いかにかひなしと思さむ」と、泣きぬばかり言へば、 「かく、けしからぬ心ばへは、つかふものか。幼き人のかかること言ひ伝ふるは、いみ じく忌むなるものを」と言ひおどして、『心地なやましければ、人々避けずおさへさせて 「 なむ』と聞こえさせよ。あやしと誰も誰も見るらむ」 と言ひ放ちて、心の中には、「いと、かく品定まりぬる身のおぼえならで、過ぎにし親の 御けはひとまれるふるさとながら、たまさかにも待ちつけたてまつらば、をかしうもやあ らまし。しひて思ひ知らぬ顔に見消つも、いかにほど知らぬやうに思すらむ」と、心なが らも、胸いたく、さすがに思ひ乱る。 「とてもかくても、今は言ふかひなき宿世なりければ、 無人に心づきなくて止みなむ」と思ひ果てたり。 君は、いかにたばかりなさむと、まだ幼きをうしろめたく待ち臥したまへるに、不用な るよしを聞こゆれば、あさましくめづらかなりける心のほどを、「身もいと恥づかしくこそ なりぬれ」と、いといとほしき御気色なり。とばかりものものたまはず、いたくうめきて、 憂しと思したり。 「帚木の心を知らで園原の 道にあやなく惑ひぬるかな 聞こえむ方こそなけれ」 とのたまへり。女も、さすがに、まどろまざりければ、 「数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに あるにもあらず消ゆる帚木」 と聞こえたり。 小君、いといとほしさに眠たくもあらでまどひ歩くを、人あやしと見るらむ、とわびた まふ。 例の、人々はいぎたなきに、一所すずろにすさまじく思し続けらるれど、人に似ぬ心ざ まの、なほ消えず立ち上れりける、とねたく、かかるにつけてこそ心もとまれと、かつは 思しながら、めざましくつらければ、さばれと思せども、さも思し果つまじく、 「隠れたらむ所に、なほ率て行け」とのたまへど、 「いとむつかしげにさし籠められて、人あまたはべるめれば、かしこげに」 と聞こゆ。いとほしと思へり。 「よし、あこだに、な捨てそ」 とのたまひて、御かたはらに臥せたまへり。若くなつかしき御ありさまを、うれしくめ でたしと思ひたれば、つれなき人よりは、なかなかあはれに思さるとぞ。 20 / 41
  • 21. ------------------------------------------------------------------------------------ 中文译文: 帚木 雨夜品定之物语 女性体验之谈 空蝉之物语 雨夜品定之物语 “光华公子源氏”,即光源氏,也惟有这个名称是堂皇的;其实他一生屡遭世间讥 讽评论,尤其是那些好色行径。虽然他自己深恐流传后世,落个轻浮之名而竭力 加以掩饰,却偏偏众口流传。人言也实在可畏啊! 其实源氏公子处世甚为谨慎,也并无值得特别传闻的香艳选事。与传说中好 色的交野少将相比,源氏公子也许尚不及皮毛。 源氏公子宫后近卫中将的时候,常在宫中侍候是上,难得回左大臣邪宅居住。 以致左大臣家的人怀疑渐生:莫非派氏另有新欢?其实源氏公子本性并非那种见 色起意之人。他虽有此种倾好,也只是偶尔发作,才违背本性,而作出不应该有 的举动来。 梅雨季节,阴雨连绵不绝。宫中又正值斋戒期间,人们终日躲避室内,以避 不祥。源氏公子因此长住宫中。左大臣久盼本归,日久不免有些怨恨。但还是备 办种种服饰和珍贵的物品,送入宫中供源氏公子受用。左大臣家诸公子也日日到 桐壶院来陪伴玩耍。众公子中,藏人少将乃正夫人所生,现已升任头中将,和源 氏公子最为亲近,是源氏公子游戏作乐最亲热的对手。他与派氏公子的情形相似: 虽受右大臣重视被招为婿,但十分好色;也很少去这正夫人家,却把自己家里的 房间装饰得富丽堂皇,经常在此招待源氏公子。两人同来同去,片刻不离,也常 在一起研习学问或游艺。这头中将的能耐竟也不亚于源氏公子。这样,无论到什 么地方,两人都相伴而往,自然格外亲见,相处也不拘礼节。每有心事,也无所 21 / 41
  • 22. 不谈。 某一日,下了整整一天的雨,到黄昏仍不停歇。雨夜时,中殿上侍候的人不 多;铜壶院的静寂更胜于往日。灯移在案,两人正浏览图书,头中将随手从近旁 的书橱中取出彩色纸页誊写的情书一束,正欲打开来看,源氏公子阻止道:“这里 面有些是不可看的,让我挑出些无关紧要的给你看吧。”头中将闻言,心中甚为不 快,回答道:“我想看的正是那些不愿说与外人听的心里话呢。普通的情书,像我 们这般的普通人也能收得许多。那些恨男子薄情的词句,才是我们所要看的呢。 ” 源氏公子只好与他看了。其实,放在这里的,也都是些很是一般的东西。重要而 有隐情的情书,哪里会放在这等显眼的书橱呢?头中将看过之后,说道:“各式各 样真不少哩!”就凝思猜测起来:这是某某写的,那是某某写的。有的猜得很对, 有的猜错了路子,便疑惑不决起来。源氏公子心中觉得很是好笑,也并不多作解 释,只是一味加以敷衍,把信收藏起来。然后说道:“像这样的东西,你那里一定 也是很多的。我也正想看些,我情愿把整个书橱打开来与你交换。”头中将道: “我 那些,你哪里看得上眼呢?”接着,便发起感想来: “我到现在才知道:世间女人众多,可十全十美、美玉无援的却不可多得。 那些表面风雅,信写得美妙,交际亦得体的人也多。可要在各方面都很是优异的 女子,却实在难得。自己稍微懂得一点,就一味夸耀而看轻别人,如此令人生厌 的女子,却是很多啊。 “常常有这样的女子,父母双全,对她又怜爱有加,娇藏在深闺,将来的期 望好像也很大;男子从传闻中听说这女子的某种才艺,便倾心爱慕,也是常有的 事。此种女子,大多容貌姣好、性情温淑,青春年华,却闲暇无事,模仿别人, 专心学习琴棋书画以自娱,结果学得一艺之长。媒人往往避其短处而夸大她的长 处。听的人虽有所疑,又不能推断其为说谎。但一旦相信了媒妁之言,和这女子 相见,以致相处,其结果也是常常令人失望的啊!” 头中将说到这里,故作老成地叹了一口气。源氏公子不能完全赞同他的话, 但觉得其中又不乏可取之处,便笑道: “她们中真的全无具有半点才艺的女子,有 没有呢?”头中将闻此,当下又发议论道: “一个女子,真个一无所长,谁也不会受骗去向她求爱。只恐怕世上完全一 无是处的与完全无援可指的女子,同样也是少有的吧。出身高贵的女子,众人宠 爱,缺点多被隐饰;听到见到的人,自然也都相信是个绝代佳人。而中等人家的 女子,她的性情、长处,外人都看得到,优劣是比较容易辨别的。至于下等人家 22 / 41
  • 23. 的女子,不会惹人注目,也就不足道了。” 听他说得有条有理,源氏公子也动了兴致,便追问道: “你说的等级是什么意 思呢?上中下三等,尺度是什么呢?假如一个女子,本来出身高贵,不料后来家 道中落,以致身世飘零、身份也就变得低微了。而另一女子,生于卑贫之家,其 后父亲飞黄腾达,便扩充门第,树立声威,这种人家的女子即成了名媛。世事变 迁莫测,又如何判定这两种人的等级呢?”正在此提问之间,左马头与藤式部丞 两人值宿来了。这左马头也是个好色之人,见闻广博,能言善辩。头中将遂将他 拉人座中,和他探讨上中下三等的分别,自然也就有许多不堪入耳之言。 左马头议论道:“无论怎样升官发财,门第本不高贵,世人对他们的看法也是 不一样的。而从前门第高贵,但是现在家道中落,月资也减少了,加上时过境迁, 名声也会衰落的。这种人家的女子心性虽仍清高,但因形势所迫,有时也会做出 不体面的事来。像这两种人,各有所长,依我看也都还能归人中等。还有一种人, 身为诸国长官,掌管地方大权,等级虽已确定,但其中也有上中下的差别,而在 她们里面选拔中等的女子,正是目前的时尚。另一种人,地位比不上公卿,也不 及与公卿同列的宰相,只是有四位的爵位。然而在世间的声望并不坏,出身也不 贱,自得其乐地过着愉快的日子,这倒也变不错的。这种家庭经济富裕,无花费 之忧;教养女儿,更是审慎认真,对孩子的关怀也无微不至。这种环境中长大的 女子,其中必有不少才貌双全的美人呢!这样的女子一旦入宫,有幸获得了恩宠, 便有旱不尽的荣华,这种情况实在是很多的呢!” 源氏公子笑着插道:“如此道来,上中下等全以贫富来定标准了。”头中将便 不满地指责道:“这不像是你之言语!” 左马头不为所扰,自顾说道:“昔日家世高贵,现在声望显赫、条件优越,然 而在这样的人家成长起来的女子,大都教养不良,相貌可惜,毫无可取之处。人 们定会认为:如此富贵之家的女子,怎会养成此等模样呢?这是不足道的。相反, 芳家世高贵、声望隆盛,则教养出来的女儿才貌相全,众人才认为是当然的事。 只可惜,最上等的人物,像我这样的人难以接触,现在暂且不去谈论。可世间还 有此类事情:荒郊村野之外的蓬门茅舍之中,有时竟埋没着聪慧、秀丽的美人, 尽管她们默默无闻、身世可怜,却总能使人倍觉珍奇。这样的美人生长于如此僻 境,真个使人料所不及、永生难忘。 “也有这样的人家,父亲衰老而肥蠢,兄长的相貌也令人生厌。叹以料想, 这人家的女儿必不足道;可哪里知道闺中之女竟也绰约风姿,言行举止亦颇有风 23 / 41
  • 24. 韵?虽然只是稍有才艺,也实在出人意外,此番兴味尤其使人感动。这种人与绝 色无假的佳人相比,自然远不能及。然而出生于这样的环境,真教人心生留恋啊!” 说到此处,他望望藤式部丞。藤式部丞有几个妹妹,传闻容貌声望甚佳。藤 式部丞。心想:左马头这番话莫非因我妹妹而发?因有所虑,便默而不语。 此时源氏公子心中大约在想:即使在上品女子中,要觅得一位称心美人,也 非易事,世事真是玄妙难解啊!此刻,他身着一件轻柔的白衬衫,外罩一件常礼 服,飘带松散,甚是随意。灯影中,姿态跌丽,竟是一位非凡的美人。要配上眼 前这个美貌郎君,就是选个上品之中的上品女子,也是不够的。 四人继续谈论世间各色女子的话题。左马头继续道: “作为世间一般女子看待, 固然无甚欠缺;倘若要选择自己的终身伴侣,世间女子虽多,也难得称心之人。 正如同男子辅佐朝廷,具经无纬地之才的人虽多,但要真正称职的人怕也就少见 了。贤明的人,仅凭一、二人之力治理天下,也是很难执行的;必须另有僚属, 在上位的由居下位的协助,在下位的受居上位的节制,这样才可使得教化户施、 政通人和。一家之小,主妇也只有一人。然而严格论来,作主妇必须具备的条件 也甚多。一般主妇,往往长于此,则短于彼;优于此,则劣于彼。若明知其有缺 陷而勉强迁就选择,这样的事世间也是不会太多的。这不同于那些好色之徒玩弄 女性,骗得众多女子来只为选择比较;只因此乃人生大事,要相伴到老,实在该 慎重选定,务求其完全如意称心,毋须由丈夫费力帮助矫正欠缺。因此选择伴侣, 往往很难决定。 “另有一类人,所选定的对象,并不合于理想;只因当初一见倾心,而恋情 又实难舍弃,故尔决意成全。此种男子几乎全是心慈忠厚之人;而他所爱的女子, 也定然有可取之处。然而纵观世间种种姻缘,多显庸俗平淡,很难见到绝妙美满 的。我等低微,并无奢望,尚且难得称心之人;更何况你们心性极高,何种女子 才能与你们相配呢? --------------------------------------- 女性体验之谈 “有些女子,虽相貌平淡,却正当青春年少,人也清纯可爱;若情信言辞温 雅、字迹娟秀,收信的男子则为之倾倒,急忙致信,渴望一睹芳容。及至见面了, 却隔了帷帘,推闻几声娇音传情。此类女子,精于掩饰自己的缺陷。然而在男子 看来,便真是个窈窕淑女,遂一意钟情,热诚求爱,却不知这是个轻薄女子呢! 24 / 41
  • 25. 此乃择配的第一难关。 “对于主妇,忠实勤快,作个贤内助乃首要之务。如此看来,其人无须过分 风雅;闲情逸趣等事,不解亦无大碍,且无伤大体。但若是一味蓬头垢面,过于 看重实利,只知家常杂务,又如何呢?男子终日奔波劳累,田间有所见闻,无论 国家大事、私人细节,或善事、恶事,总免不了想向人倾述,这些又怎可与外人 随便谈及?便希望有一个情投意合的妻子,心灵相应,无话不谈。有时或有满腹 可笑可泣之事,或者他人关注的话题,颇想对妻子谈论。然而妻子却呆头木脑, 只能对牛弹琴。终究只得心中回味,或自言自语,或独笑独叹。对此,妻子却又 瞠目而视,甚至骇然问道:‘你这又是如何了?’。这样的夫妇真是可怜啊! “倘若这样,倒不如有个驯良如童稚的女子,经过丈夫竭力调教,或可养成 美好的品性。这样的女子虽然不一定深可信赖,但教养总会有收效。与她相处, 一看其可爱乖巧之相,便会感到她所有的欠缺,皆可容忍;可一旦丈夫远离,吩 咐其应做之事,以及离别问突然发生之事,不论玩乐还是正事,这女子处理应对 总不能自作主张,难以周到妥贴,实为憾事。这种不能令人放心的缺陷,也教人 甚为为难。但有一种女子,平时冥顽无知,相貌也无可爱之处,却会显出高明的 手段,真让人意料不到。” 左马头详论纵谈,却终无定见,不禁慨然叹息。过后又道: “如此看来,何必 论门第高下,更不必言相貌美丑,只求其性情不要过于乖僻,为人贤淑诚厚、平 和温柔,便可作为终身伴侣。此外若具些精彩的才艺和高雅的情趣,这也不失为 可喜的意外收获。虽稍有不尽人意之处,也无需强其补充了。只要忠诚可靠,外 表的风情趣致后来自会日渐具备的。 “世间更有一类女子:平时娇媚羞涩,每遇到恨怨之事,也强忍于心,如若 不见,外表装出一脸冷态。到了悲愤填胸而又无法遣去时,便留下相思遗物、不 尽凄凉的遗言、哀伤断肠的诗歌,独自逃往荒山僻处或隐身天涯海角。我幼年时 听侍女们诵读小说,每每听到此类故事,总是格外悲伤,不禁泪下。但是现在回 想起来,却觉得这种人未免太过轻率,也显得矫揉造作了。虽然心中痛苦,但抛 开恩爱深重的丈夫,不体谅他的一片真心而逃隐远方,也真叫人迷们难解。以此 窥测人心,这正是一失足成千古恨的行径,且是无聊之极的举动啊!或听见旁人 盲目赞扬; ‘志气真高呢!’感伤之余,便决意削发为尼。出家之初,尚心若静水, 远离红尘,对世间俗事无一丝留恋之心。后来相知者来访,见面皆言: ‘唉,可怜 啊!没想到你觉有这般决心广丈夫情缘未绝,日日思念,不免流泪。待老妈们见 此情状,频频对她说道:‘老爷真心怜爱着您呢,出家为尼,真是可惜呀。’此刻 25 / 41
  • 26. 她渐生悔意,伸手摸摸削短的额发,自觉意气沮丧,无限怅们,心中也懊悔不及。 虽然万般隐忍,但一旦落泪,往往触景情生,不能自己。结果是凡心大炽,后悔 之心日增。这定被佛主斥为秽浊凡胎。出家不彻底,反而误入歧途,还不如从前 苟且浊世好呢。有前世因缘较深的,未及削发为尼,即被丈夫找到,相偕同归; 然而事后每每回想,均感不快,这竟成了怨恨之由!既已成为夫妻,无论好坏, 总须互容互谅,这才不失这前世姻缘。总之此类事情一旦发生,今后夫妇双方, 皆难免互相顾忌,。心中定然产生隔阂。 “还有一类女子,一见丈夫另有所爱,便心存忌恨,公然与丈夫离居,这也 是愚蠢之举吧?男子纵使稍稍移爱他人,但回想当初刚相知相识时的热恋,心中 难免仍然眷恋旧情。这样的心情,也许会使夫妇重新言归于好;如今愤然离居, 此心则会动摇,以致淡漠,从此便情断难续了。如此看来,无论何事,总应沉稳 应对:丈夫做出令人怨尤的事,直向他暗示自己已经知道;即使有可恨之处,亦 应在言语中委婉表示而勿伤感情。这样,丈夫对自己的爱情尚可能挽回。男子的 负心往往全靠女子的态度来救治。但女子倘若全不在意,任其放纵,即使丈夫因 为暂时的自由而感谢妻子的大度,但采取这种态度的女子,亦不免太过于轻率了 吧?那时男子会如同未系之舟随波逐流,不思归宿,这才是格外危险的。你说是 不是如此?” 头中将听得此言,连连点头,紧接着他的话说道:“如今有此等事情,男子的 俊秀和温柔为女子真心所爱,而男子有不可信赖的隐情,这就为难了。这时候女 子自认问心无愧,宽容丈夫的轻薄之举,以为丈夫必然回心转意。可结果未必真 是如此。那么也就只能如此:即使丈夫有违背自己的行为,女子除忍气吞声外也 别无他法了。”话说到此,他联想起自己的妹妹葵姬,便探视源氏公子;但见源氏 公子闭目假寐,似不曾听见,心中顿觉扫兴,容颜也显得快快不悦。 这左马头于是作了裁判博士,大发议论。头中将想听到他优劣评判的结果, 便热心地怂恿。左马头便又接着说道: “请听我用别的事情作比吧:比如细木工人,靠自己的手艺造出各种器物。 若是造来用作临时玩赏的物品,其样式的选择就随心所欲,也没有什么定现。观 赏玩耍的人,都牵强附会,认为这是最时尚的匠心独运,便纷纷效仿,感到是富 有趣味的。但倘若是重要华贵的精细器物,且用来装饰庄严堂皇之处的,就必然 有一定的格式,也就应当造得尽善尽美,物尽其用,这样便非请教高明的巨匠不 可了。他们的式样,普通工人毕竟难以达到。 26 / 41
  • 27. “又如宫廷画院里的许多名画家,如要选出他们的水墨画稿来,一一比较鉴 别,虽一时难以比较优劣,但终于还是可以判断的。可是画的如果是大家所不曾 见过的神仙之境,或大海惊涛骇浪中的怪物,或中国深野荒山中的奇特猛兽,又 或是都没见过的凶神鬼怪等,那么这些凭空想像之物,作者尽可全凭想像捏造, 只求别出心裁,达到惊心骇目的效果即可,无须酷似实物,而观者也无从加以评 说。但如果画的是世间常见的高山流水,眼前的寻常巷陌,或熟悉可亲、活灵活 现的景点,或者画的是平淡的远山远景,林木葱茏、峰峦叠椅,近景中还搭配篱 落花卉,异常巧妙。这时,名师的笔法显然技高一筹,这也是普通画师所不可及 的。 “再如写字,并无精深修养,只是挥毫泼墨,大肆渲染,装点得锋芒毕露, 神气活现;粗略看来,实在是才气横溢、风韵流硒的宝墨。相反,具有真才实学 的书法家,着墨不多,锋芒也并不显露;但若将两者并列于一道,让人反复比较 揣摩,则孰优孰劣也是可以洞若观火的。 “雕虫小技,尚且如此,更何况鉴定人心。依愚所见,凡逢场作戏的卖弄风 情,故作的温柔施施,都不足信赖。此刻我想讲讲自己的往事,虽是情爱之谈, 也请各位奉屈一听。” 他说着此话,移坐向前,挨得近些。此时源氏公子也睁开眼睛,不再假寐了。 头中将两手撑住面颊,正对着左马头,神情专注,甚感兴趣。这情景颇似法师登 坛宣讲教义,教人看了觉得滑稽。但在此时,谈的人尽吐肺腑之情,已无隐讳之 意。左马头于是讲道: “早些时,我的职位很是低微,遇着一个我所钟情的女子。此女相貌并不特 别美丽。年少重色,当时我并无娶此人为终身伴侣之意。我一面与她交往,一面 又颇觉不能如意,于是移情别处,问柳寻花,这女子便生出了嫉恨。我心中不悦, 想:‘你气量宽大些才好呢,如此小鸡肚肠,实在令人讨厌!’但有时又想:俄身 份这般低微,渺乎小哉,这女子并不因此看轻我,也真是难为了她!’所以我的行 为检点起来,不再放浪形骸。 ” “她的能耐也真是不错:哪怕是不擅长之事,只要为了我,她都会颇为劳苦 地去学,去做。某些技能,尽管木是她的拿手好戏,仍很下功夫,不甘落于人后。 凡事都尽心竭力地照料我,也毫不违背我的心愿。她人虽好胜,但时时顺从我, 态度也就日渐温柔了。她惟恐自己貌不出众,而失去我的欢心,便勉力修饰;却 又恐旁人看见,伤了郎君体面,便处心积虑、时时退避。总之,无不刻意修饰自 27 / 41
  • 28. 己。慢慢看惯了,觉得她的心地也真不坏啊!惟有嫉妒一事,叫人不堪忍耐。” “我当时想: ‘这个人如此柔顺,总是小心翼翼,害怕失去我的欢心。我如果 对她惩戒一番,威吓一番,她的嫉妒之腐也许会改掉吧。’实际上找的确已是忍无 可忍。于是又想: ‘我若向她提出断绝交往,如果她真心钟情于我,则一定会幡然 悔改,戒掉她的恶癣吧。’我于是装得冷酷无情,不再理会她。她照例很生气,也 十分怨恨。我对她道:‘你如此固执,就算前世有缘,也只得恩断情绝,永不再见 了。今朝与我诀别之后,尽请吃你的无名之醋去吧。但我俩若想长久相守,那么 我便是有些不是之处,你也该忍耐宽容,不要加以计较。只要你改去你的嫉妒之 心,我便真心爱你。日后我若高升、晋爵,你便是第一夫人,异于凡俗之人了。’ 我如此这般自以为高明,因而得意忘形。岂知这女子微微一笑,对我说道:‘你现 在身微名贱,一事无成,要耐心等待你的发迹,我一点也不觉得痛苦;但若要我 忍受你的薄幸轻慢,等待你改悔,则日月悠长,渺茫无期,而这正是我所最感痛 苦的!与其如此,不如现在我们就诀别吧!’她的语气毫不让步。我也愤怒起来, 厉声说了许多愤激之言。这女子并不屈服,猛地拉过我的手,用力一咬,竟咬伤 一指。我大声叫痛,威吓她道:‘我的身体受此残害,从此不能参与交际,前程被 你白白断送了,面对世人我还有何脸面,只有入寺为僧了!今天就和你永别吧。’ 我屈着受伤的手指走出门去,临行吟道:‘屈指一年合欢日,难耐只因妒心深?今 后你也毋须怨恨我了。’那女子听了,悲泣吟道:‘数尽胸间无情恨,应是与君分 手时。’虽然如此赠答,其实大家并不愿就此诀别,只是此后一段时间,我不再与 她通信,暂且四处游荡。” “此后,时值临时祭预演音乐那日深夜,忽然雨雪纷飞,花径风寒。众人从 宫中退出,各自回家。我左思右想,除了那女子的住处,已无家可归。借宿宫中, 又太嫌乏味;到另外一个装腔作势的女子那里去台夜,又难以得到温暖。于是忆 起这个女子,不知道她那事后有何感想,便决意前去一探。于是,我弹弹衣袖上 的雪珠,信步前往。行至门口,又犹豫起来,不好意思迈进门去。后来一想,雪 夜造访,千般愁怨皆可解除了吧?便毅然直入。里间灯火微明,一些软厚的日常 衣服,烘在大熏笼上;帷屏撩起,似乎今宵正在专候我的到来。我心中渐宽,自 鸣得意起来。可她本人并不在,家中谁有几个侍女。她们告诉我:叫小姐今晚在 她父亲的住所宿夜。 原来自那以后, ’ 她并不曾吟过香艳诗歌,也未写过言情书信, 只是终回笼闭一室,默默无语。我觉得沮丧,心中想道:难道她是有意叫我疏远 她,才那样心生嫉妒的吗?然而又无确凿证据,自己也许是心情不快而产生的猜 疑之举吧?环视四周,替我精心预备的衣物,染色和缝纫都较以前更加讲究,式 样也较以前更为称心。可见诀别之后,她依旧钟情于我。现在虽不在家,却并非 定然已与我绝交。此日晚我始终没能见到她。事后我多次向她表明心迹,她也并 28 / 41
  • 29. 不对我疏远,有时即使躲避,却并非让我难以找到。她温和地对待我,从不使我 难堪。有一次,她对我道: ‘你如果还像从前一样浮薄,确实使我无法忍受。但如 果你已彻底改过,安份守己,我便和你相处。’我想:话虽如此,她定然不肯与我 断绝交往,我何不再惩治一下。我对改过的事避而不答,且用盛气凌人之态予以 回报。’不料这女子伤心绝望,终于郁郁地死去了。我深感这种恶毒的游戏,是千 万不可作的!” “现在想来,她真是一个可以依赖的贤妻。无论是琐碎的事或重大的事,同 她商量,她总有高明见解。讲到洗染,她的精细并不逊于装点秋林的女神立田姬; 对于缝纫,她的巧手也不低于银河岸边的织女姬。在这些方面她也真可谓全才啊!” 说到此处,他哽咽难言,陷入对往事深深的追忆之中,心中也甚为伤感。头 中将附和道: “她的缝纫技术,姑且不论,你和她最好能像牛郎织女那样永结良缘。你那 个本领不亚于立田姬的人,实在不可多得啊!如同变幻无常的春花秋叶,倘若色 彩与季节不合,调和渲染又不得法,便无法让人欣赏,只会白白地枯死。更何况 才艺兼具的女子,在这世间实在很难求得啊!”他以此话来怂恿,使得左马头接着 往下讲: “且说我还有一个相好的女子。这女子人品甚佳,心地也极为诚实,相貌也 极富情趣。作诗、写字、弹琴,样样俱会,手很巧,口齿也伶俐,这一切很容易 看出来。我虽经常宿在那嫉妒女子家里,有时偶尔也偷偷到这女子家过夜,觉得 很是留恋。那嫉妒女子死后,我一时竟不知所措。连悲哀痛惜,也觉枉然,便时 常与这女子亲近。时日一久,此人浮华轻薄处便显露无遗,教人看不惯,我觉得 她难以使人信赖,遂逐渐疏远她。这期间她也似乎另有所爱。” “十月的一个夜晚,月明风清,我从官中退出来时,有一个殿上的人招呼我, 要搭我的车子同行。此时我正想到大纳言家去宿夜,这贵族说:‘今晚有一个女子 在等候我,倘是不去,心里又觉得很是难受。’我便和他同车出发。正好我那个女 子的家在我们所要经过的路上。车子到了她家门口,我从土墙缺口处往庭中一望, 一池碧水,映着月影,波光翩湘,清幽可爱。过门不久,岂不辜负这大好月色? 谁知这贵族也正好在这儿下车,我只好不露声色,偷偷跟着下车。他大约正是与 这女子有约,得意扬扬地走进去,在门旁廊沿上坐下来。暂时赏玩月色。庭中残 菊经霜,颜色斑剥,夜风习习,红叶散乱,颇有诗情画意。这贵族从怀中取出一 支短笛,放在唇边吹奏起来,笛声在夜空宛转回荡,格外凄清。接着又随口唱起 29 / 41
  • 30. 催马乐来: ‘树影尽垂爱,池水亦清澄……’与此回应,室内竞发出美妙的和琴声, 也许是先就把弦音调好了吧?和着歌声,珠落玉盘般弹出,演艺确实不凡!这曲 调在女子手上流淌而出,隔帘听来,如闻仙乐,与笼罩在月光下委婉的景色十分 相应。这贵族大为感动,走到帘前,说了些令人不悦的话:‘庭中满地皆是红叶, 全无来人足迹啊!’遂折了一枝菊花,吟颂道: ‘菊艳香困琴声起,郎君情深方肯留。多有打扰。’接着又道:‘百听不厌之 人来了,请你尽情地献技吧。’女的被他如此调清,便拿腔唱道:‘笛声吹得西风 吼,此般狂夫不要留!’两人就这么传着情话。那女子哪里知道我正听得气愤呢, 接着又弹起筝来。她用南目调奏出流行乐曲,尽管指法灵巧,我听着却实在刺耳。 “我有时遇见一些宫女,十分俏皮、轻狂,也并不管她们如此而和她们谈笑 取乐。偶尔交往,亦自有其趣味。但我与这个女子,虽然只是偶尔见过一次面, 要把她作为意中恋人,到底很不可靠。因为这女子过分风流轻浮,令人不能安心。 我便以这日晚上的事件为理由,和她断绝了来往。” “我那时虽少不省事,经历这两件事情之后,也能明白过于轻狂的女子,不 可信赖。何况岁月推移,年事日增,当然更加明白此中道理了。诸位正值青春年 少,一定恣情放纵,贪恋香艳梅施之情,喜欢风流雅韵之事,洒脱木拘。然而诸 位可知,草上露一碰即落,竹上霜一触即消,此种风情难于长久。或许再过七年, 诸君定能领会这番道理。鄙人如此功谏,也许愚昧,却全出自真心。小心谨防那 种轻狂浮薄的女子,可能做出丑事,法污你高贵的声誉!”他这样告诫众人。 头中将照例附和称是。源氏公子笑而不语,大概觉得:此话也说得不错。后 来他说道: “这些报琐之谈,不足为外人道哉! ”随即笑了起来。头中将说道: “现 在让我来道点痴人言语吧。”于是说开了去: 我曾经和一女子有秘密来往。当初未有任何长远之计,但是和她混得极熟之 后,竟觉此人啊娜俊美,分外可爱。虽然在一起相聚不多,心中已当她是个值得 珍爱的意中人。日子久了,那女子也表示出想与我相依为伴的意思来。我心中当 下寻思:她想依靠我,一定会埋怨我冷落了她吧?便心生愧疚。却不料这女子毫 无怨尤,即使我疏远于她,久不相访,一去之后她仍把我当作情意中人,十分亲 明体贴、殷勤相待。我一时心动,也就对她表示出希望长相厮守的意思。这女子 父母双亡,孤苦伶仃,无所依靠,一副小鸟依人的感伤模样,真令人觉得可怜可 悯。我见这女子稳重可靠,觉得放心,有段时日,许久没去访晤。不料这期间, 我家里正夫人醋意发作,寻了个机会,把些恶言秽语带去羞辱她。我后来才知道 30 / 41