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エネルギー供給、環境対策、産業競
       争力の両立に向けて




                  2012.2.3
     一橋大学イノベーション研究センター
                 青島矢一
日本が抱える3つ課題

• 温暖化効果ガスの削減
 – 1990年比で2020年までに25%の削減を公言
• エネルギーの安定供給
 – 原発の喪失(福島第一&第二で9.1GW)
• 経済成長の実現
 – 日本の産業競争力の低下
温暖化効果ガスの削減

• 90年比で25%削減するには・・・
 – 9基の原子力発電所の新設。稼働率は81%に
   向上(1.05億t)。
 – 太陽光発電を20倍(1,600万t)
 – 新世代自動車の普及(2,100万t)
 – その他の省エネ対策(8,400万t)
 – これでやっと90年比8%減
 – 残りは排出権の購入 (金子, 2010)
• しかも、もはや原子力発電に頼ることは
  できない。
長期エネルギー見通し
        (2009年時点)




資料:資源エネルギー庁「長期エネルギー見通し(再計算)」2009年8月において
最大導入ケースとして想定されている目標数値
火力発電による原発の代替

• 2010年11月に230億kwhであった原発に
  より電力量は、2011年11月には70億kwh
  へと減尐。
• 一方火力発電は、363億kwhから493億
  kwhへと増大し、総発電量の68%を占め
  ている。
• しかしこのままCO2を排出し続けるわけ
  にはいかない。
好景気で急落する付加価値率
    24                               5.5
%                                          %

                          付加価値率      5
    23


                                     4.5
    22

                                     4
    21

                                     3.5
    20
                                     3

    19
                                     2.5

                          売上高営業利益率
    18
                                     2


    17                               1.5


    16                               1



         全ての製造企業を含む
         出所:法人企業統計より筆者作
         成
経済への影響

• 火力発電の増大によって2011年度だけで1.7
  腸炎の追加燃料費が必要という試算(火力発
  電10.2円/kwhに対して、原発は7.2円
  /kwh)。電気料金の値上げ。
• 温暖化効果ガスの削減義務が課されれば、排
  出権の購入によって多大な富が海外に流出す
  る。
• ただでさえ円高で厳しい日本企業に対するダ
  メージは大きい。活動の拠点を日本から移さ
  ざるをえなくなる。
矛盾を含む複雑な方程式

                経済発展




             矛盾を解決する新たな
             産業の発展可能性の探
                 索

             新産業において日本企
             業の競争力を確保する
              ための方策の探索
 温室効果ガス
                          原発に依存しない
    の削減
                           エネルギー供給
:90年比25%削減
矛盾を解決する方法

• 新しいグリーン産業の促進
• 新エネルギー、省エネルギーに関連する巨大
  な産業が生まれれば、「環境」、「エネル
  ギー」、「経済発展」の3つは一気に解決で
  きそうに見える。
• グリーンイノベーション、グリーン産業の拡
  大を狙った、様々な政策。大量の税金の投
  入。
• 本当にこれで矛盾は解決できるのか。
経営学者の心配ごとと役割

• 大量の税金を使って、環境問題とエネルギー
  問題を解決したとして、新たなグリーン産業
  の拡大は、本当に長期的な日本経済の発展に
  つながるのか。
• 短期的な市場拡大による恩恵はわかる。
• しかし新たな産業において日本企業(産業)
  が国際競争力をもち、長期的に日本経済を牽
  引できなければならない。
• 「ミクロの視点の必要性」:ここに経営学者
  の役割がある。
グリーン政策の罠:「グリーン家
電普及促進事業」の事例
 6,900億円の予算。2011年8月31日時点で
  6,390億円分のポイント発行済み。その
  内、82%にあたる5,217億円が省エネテレ
  ビ向けに発行された。
 そもそもは温暖化効果ガス削減目標を達
  成するために、環境省を中心に進められ
  てきた事業であったが、実質的には薄型
  テレビの購入促進事業。
エコポイント導入の省エネ効果
(TV一台あたり年間消費電力:kwh)
300



                250
250




200




150                                   筆者推計
      130.1
                                125   当初の計画(朝日新聞2011年2月より)
                      109.3
100




 50




  0
          導入前             導入後
エコポイントの経済効果
• 経済産業省は、予算額の7倍におよぶ5兆円の経
  済効果をもたらし、のべ32万人の雇用を創出し
  たと発表(2011年6月)
 – 産業連関表を使った計算のマジック
• 確かに国内市場は拡大した(エコポイント期間に
  4,000万台の販売)。消費者油状は確かに増え
  た。
• 雇用も増えたかもしれない。しかし合理的な企業
  が、エコポイント終了後の影響を考えたとき、固
  定的な人材を雇うだろうか。
• しかし、TV産業における日本企業の競争力に貢
  献したとはいえない。長期的な効果には疑問符。
テレビ国内出荷台数に占める輸入
120.00%
               台数の割合

100.00%




 80.00%




 60.00%




 40.00%
                                             エコポイント終了


 20.00%



                            エコポイント開始
  0.00%




          注:国内出荷台数はJEITAの自主統計から、輸入台数は貿易統計のデータを使用しており、後者
          の方がカバーする範囲が広いため、実際の割合よりも高い値がでていると思われる。
そして、日本企業のTV事業の現
状
 政府は5千億円以上の税金を投入したのに・・・
 日立:国内生産撤退
 パナソニック: 全社で7,000億円の連結損失予
  測。TV事業で1000人のリストラ。半導体事業で
  希望退職。
 ソニー: TV事業の縮小。TV事業で1650億円の赤字
  の予測。
 シャープ:全社で2900億円の赤字
 東芝:TV事業で450億円の赤字
 結局実現されたのはアナログ停波の影響を極小化
  したこと。しかしこれとて、エコポイントを必要
  としたのか?
なぜなら・・・
薄型テレビにおける事業モデル(2009)
                                 TPV
                                Amtran
         LCD             台湾     Compal
汎用部材     パネル           ODM企業    Wistron
                                Proview
          Samsung         世界シェア20%強
  分業型    LG Display
            AUO
            CMO
            CPT
           Sharp

                                         専用TV-IC
 TV-IC   標準TV-                         (ASIC),内製
                       ブランド企業
 製造      IC設計                         LCDパネルなど内
                                      部開発・内製部材
          MediaTek
 TSMC等
           Trident
 半導体
 ファンダリ
            MStar         統合型
         ST(Genesis)
            Zoran                専用部材
同床異夢の罠

 省エネルギー/CO2削減:環境省
 経済活性化:経済産業省
 地デジへ化への対応:総務省
 一石三鳥?それとも、同床異夢がもたら
  す罠
環境、エネルギーという
マジックワード
• 「エコ」という言葉をまとうことによって、
  性というかされた、経済省と総務省の事業。
• 環境対策、エネルギー対策に対して正面切っ
  て反対できる人は多くない。この状況は震災
  後特に強くなっている。
• 長期的な経済発展に向けたシナリオの検討が
  おろそかになる危険性。特にミクロの知見を
  もとにしたシナリオ形成が軽視される危険
  性。
期待される太陽光発電
• 2009年11月から住宅用余剰電力買い取り制度:
  当初は48円/kwh、2011年度は42円/kwhで買い取
  り。
• 2012年度には全量固定価格買い取り制度のス
  タート。事業用設備に対して適用される可能性が
  高い。
• ドイツ、スペインの例からして、十分に事業採算
  が成り立つレベルに買い取り価格が設定されれ
  ば、普及は加速化する。→エネルギー・環境対策
  としては良いこと。
• 太陽光の普及によってGDPが減尐しないという
  試算も(ただし全量日本で生産するという前提)
長期的な経済性向上の可能性
• 手厚い補助は太陽光がまだ技術的に未成熟である(コ
  ストが高い)という前提。普及にともなう量産効果で
  急速にコスト低下が起きるという前提
 – 2020年に14円/kwh、2030年に7円/kwh(NEDO)。現状で
   も金利費用を除けば30円/kwh程度。
• パネルのしての量産効果はでにくい。結晶シリコン型
  の場合、70%以上がシリコン材料にかかる変動費。
  現状の技術を前提にすると大幅なコストダウンは難し
  い。
• 結晶シリコン型のエネルギー変換効率の理論値は
  29%程度。すでに研究室レベルでは25%まで達成。
 – 未成熟なのか?枯れた技術なのか?
• しかし固定価格買い取りが進めば当面は現状で最も経
  済性の高い技術の普及が急速に進むだろう。
日本企業は競争力をもちえるか
• 主流の結晶シリコン型ではセル、モジュール
  生産の過半は中国企業が支配。
• 製造装置も欧米のTKS企業が支配
• カバーガラス、バックシート、封止材で日本
  企業が強いが、そもそも中間部材が尐ない製
  品。
• 現状の結晶シリコン型を普及させることは日
  本企業の国際競争力の低下を助長するように
  みえる。
• 技術革新の余地の高い、a-Si薄膜、化合物型
  (CIGSなど)、有機薄膜、色素増感などの新技
  術の開発の足かせにはならないか?
図表5:太陽電池製造装置市場シェア
(2008年)
                            Manz Automation AG     Von Ardenne
                                  (独)          Anlagentechnik(独)
                                   5%                   3%




                          アルバック
                            6%                         AppliedMaterials(米
                                                              国)
                                                              19%


                    Roth & Rau AG(独)
                            9%
                                                              Oerlikon Solar (スイ
                    Meyer Burger(スイス)                                 ス)
                             9%                                       13%



                            Centrotherm
                       Photovoltaics AG(独)               GT Solar International
                                12%                           (米国)
                                                                 12%



                                        Gebr. Schmid   (独)
                                                12%
 出所:VLSI Research
図表4:太陽電池セル製造の世界シェア
(2010年)


                                    京セラ
                                     6%

                         Motech(台              Suntech (中国)
                            湾)                      15%
                            7%
                   シャープ
                    7%



                                                          Ja Solar(中国)
                 GIntech(台湾)                                    14%
                       7%



                  Q Cells(独)
                      9%                              First Solar(米国)
                                                              13%


                        Trina Solar(中国)
                               11%

                                          Yinli(中国)
                                               11%
  出所:Wikipedia
例えば、地熱発電の可能性
• 高い潜在性
 – >2,347万KWe 以上の地熱資源(世界第3位)
 – まだ一部しか開発されていない(53.5万KW).
 – カーボンフリーの技術
• 高い経済性の可能性
 – 燃料費はいらない
• まだ標準化された技術ではない
 – 発電所の重要技術を日本企業が握っている
 – ドライスチームで70%以上, フラッシュで80%以上のシェ
   ア
• 関連インフラ産業の誘発
• にも関わらず、長い間軽視されてきた
• 2003年には補助金の打ち切り、10年以上新設なし、
  新エネルギーからの除外・・・。
発電単価の比較
       (2006-2010年平均)
12


           10.2
10
                                     8.9


 8
                        7.2


 6



 4



 2



 0
           火力           原子力          地熱等


     単位:円/kwh
     出所:日本エネルギー経済研究所(2011)をもとに筆者作成
地熱発電タービンのシェア
            (2010年、単位MW)

          1,100
          10.3%   550
                  5.1%
                          2,630
                          24.6%           三菱重工
1,138                                     東芝
10.7%                                     富士電機
                                          Ansaldo / Tosi
                                          ORMAT
                                  2,525   GE / NP
                  2,146           23.6%   Alstom
                  20.1%                   AEI
                                          Kaluga
                                          BTH
                                          Other (13)




        出所:レイキャビクエナジー資料
障害はあるけど

• 国立公園問題
• 初期ファイナンスの問題:ハイリスクローリター
  ン
• 温泉街との共存
 でも克服できない問題ではない。
 温水と組み合わせれば経済性はさらに向上
アイスランドの例

• オイルショックを契機に地熱開発を加速化
  (原発に向かった日本と対照的)
• 年間4,600Gwhの電力を創出。総電力量の
  25%程度をまかなう(残りは水力)。
• コストはおそらく3-5円/kwh程度と思われ
  る。
• ただしタービンは一部の小型・旧型を除いて
  全て日本製。
• 経済性を確立する上での鍵は「合わせ技」
 – 暖房用途にインフラを確立して、その上に、発電
   所を重ねる。
地熱発電普及の鍵は・・・

• 恩恵のバランス
 – 環境、コミュニティ、エネルギー、安全、経
   済
• 範囲の経済
 – 直接利用と間接利用
 – コジェネレーション
• 事業モデル
 – 市場拡大を企業の付加価値増大につなげる
   (Ormatの例)
他にも得意分野はあるはず

• たとえば、地中熱利用
 – 地中熱ヒートポンプは世界的には急速に成長して
   いるのに日本ではほとんど普及していない。
 – 四季のある日本に効果的な技術
 – ヒートポンプ技術の強み
 – 国内インフラ産業の発展
• 電力創出だけではなく、電力としての利用を
  減らすという、トータルな考えかたをもち、
  しかも日本企業が新たな産業で優位にたてる
  可能性を考慮することの必要性。
環境、エネルギー政策の危うさ
• 同床異夢の罠
 – 同床異夢は両刃の刃。強い目標意識が欠けると単
   なるもたれ合いになる。
• 「エネルギー」「環境」というマジックワー
  ドの力
 – 同床異夢の戦略にマジックワードの力が加わる
   と、企業競争力の向上を通じた長期的な経済発展
   のシナリオがおざなりになる危険性
• 「普及=経済発展」という幻想
 – グローバリゼーション、技術の汎用化が進む世界
   では、国内市場の拡大政策は必ずしも長期的な富
   をもたらさない。
経営学者の出番

• ミクロの基盤の重要性
• Project “Magicc”
  – Micro-Analysis on Green Innovation and
    Corporate Competitiveness
20120203東大ものづくりセンター発表

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20120203東大ものづくりセンター発表

  • 1. エネルギー供給、環境対策、産業競 争力の両立に向けて 2012.2.3 一橋大学イノベーション研究センター 青島矢一
  • 2. 日本が抱える3つ課題 • 温暖化効果ガスの削減 – 1990年比で2020年までに25%の削減を公言 • エネルギーの安定供給 – 原発の喪失(福島第一&第二で9.1GW) • 経済成長の実現 – 日本の産業競争力の低下
  • 3. 温暖化効果ガスの削減 • 90年比で25%削減するには・・・ – 9基の原子力発電所の新設。稼働率は81%に 向上(1.05億t)。 – 太陽光発電を20倍(1,600万t) – 新世代自動車の普及(2,100万t) – その他の省エネ対策(8,400万t) – これでやっと90年比8%減 – 残りは排出権の購入 (金子, 2010) • しかも、もはや原子力発電に頼ることは できない。
  • 4. 長期エネルギー見通し (2009年時点) 資料:資源エネルギー庁「長期エネルギー見通し(再計算)」2009年8月において 最大導入ケースとして想定されている目標数値
  • 5. 火力発電による原発の代替 • 2010年11月に230億kwhであった原発に より電力量は、2011年11月には70億kwh へと減尐。 • 一方火力発電は、363億kwhから493億 kwhへと増大し、総発電量の68%を占め ている。 • しかしこのままCO2を排出し続けるわけ にはいかない。
  • 6. 好景気で急落する付加価値率 24 5.5 % % 付加価値率 5 23 4.5 22 4 21 3.5 20 3 19 2.5 売上高営業利益率 18 2 17 1.5 16 1 全ての製造企業を含む 出所:法人企業統計より筆者作 成
  • 7. 経済への影響 • 火力発電の増大によって2011年度だけで1.7 腸炎の追加燃料費が必要という試算(火力発 電10.2円/kwhに対して、原発は7.2円 /kwh)。電気料金の値上げ。 • 温暖化効果ガスの削減義務が課されれば、排 出権の購入によって多大な富が海外に流出す る。 • ただでさえ円高で厳しい日本企業に対するダ メージは大きい。活動の拠点を日本から移さ ざるをえなくなる。
  • 8. 矛盾を含む複雑な方程式 経済発展 矛盾を解決する新たな 産業の発展可能性の探 索 新産業において日本企 業の競争力を確保する ための方策の探索 温室効果ガス 原発に依存しない の削減 エネルギー供給 :90年比25%削減
  • 9. 矛盾を解決する方法 • 新しいグリーン産業の促進 • 新エネルギー、省エネルギーに関連する巨大 な産業が生まれれば、「環境」、「エネル ギー」、「経済発展」の3つは一気に解決で きそうに見える。 • グリーンイノベーション、グリーン産業の拡 大を狙った、様々な政策。大量の税金の投 入。 • 本当にこれで矛盾は解決できるのか。
  • 10. 経営学者の心配ごとと役割 • 大量の税金を使って、環境問題とエネルギー 問題を解決したとして、新たなグリーン産業 の拡大は、本当に長期的な日本経済の発展に つながるのか。 • 短期的な市場拡大による恩恵はわかる。 • しかし新たな産業において日本企業(産業) が国際競争力をもち、長期的に日本経済を牽 引できなければならない。 • 「ミクロの視点の必要性」:ここに経営学者 の役割がある。
  • 11. グリーン政策の罠:「グリーン家 電普及促進事業」の事例  6,900億円の予算。2011年8月31日時点で 6,390億円分のポイント発行済み。その 内、82%にあたる5,217億円が省エネテレ ビ向けに発行された。  そもそもは温暖化効果ガス削減目標を達 成するために、環境省を中心に進められ てきた事業であったが、実質的には薄型 テレビの購入促進事業。
  • 12. エコポイント導入の省エネ効果 (TV一台あたり年間消費電力:kwh) 300 250 250 200 150 筆者推計 130.1 125 当初の計画(朝日新聞2011年2月より) 109.3 100 50 0 導入前 導入後
  • 13. エコポイントの経済効果 • 経済産業省は、予算額の7倍におよぶ5兆円の経 済効果をもたらし、のべ32万人の雇用を創出し たと発表(2011年6月) – 産業連関表を使った計算のマジック • 確かに国内市場は拡大した(エコポイント期間に 4,000万台の販売)。消費者油状は確かに増え た。 • 雇用も増えたかもしれない。しかし合理的な企業 が、エコポイント終了後の影響を考えたとき、固 定的な人材を雇うだろうか。 • しかし、TV産業における日本企業の競争力に貢 献したとはいえない。長期的な効果には疑問符。
  • 14. テレビ国内出荷台数に占める輸入 120.00% 台数の割合 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% エコポイント終了 20.00% エコポイント開始 0.00% 注:国内出荷台数はJEITAの自主統計から、輸入台数は貿易統計のデータを使用しており、後者 の方がカバーする範囲が広いため、実際の割合よりも高い値がでていると思われる。
  • 15. そして、日本企業のTV事業の現 状  政府は5千億円以上の税金を投入したのに・・・  日立:国内生産撤退  パナソニック: 全社で7,000億円の連結損失予 測。TV事業で1000人のリストラ。半導体事業で 希望退職。  ソニー: TV事業の縮小。TV事業で1650億円の赤字 の予測。  シャープ:全社で2900億円の赤字  東芝:TV事業で450億円の赤字  結局実現されたのはアナログ停波の影響を極小化 したこと。しかしこれとて、エコポイントを必要 としたのか?
  • 16. なぜなら・・・ 薄型テレビにおける事業モデル(2009) TPV Amtran LCD 台湾 Compal 汎用部材 パネル ODM企業 Wistron Proview Samsung 世界シェア20%強 分業型 LG Display AUO CMO CPT Sharp 専用TV-IC TV-IC 標準TV- (ASIC),内製 ブランド企業 製造 IC設計 LCDパネルなど内 部開発・内製部材 MediaTek TSMC等 Trident 半導体 ファンダリ MStar 統合型 ST(Genesis) Zoran 専用部材
  • 17. 同床異夢の罠  省エネルギー/CO2削減:環境省  経済活性化:経済産業省  地デジへ化への対応:総務省  一石三鳥?それとも、同床異夢がもたら す罠
  • 18. 環境、エネルギーという マジックワード • 「エコ」という言葉をまとうことによって、 性というかされた、経済省と総務省の事業。 • 環境対策、エネルギー対策に対して正面切っ て反対できる人は多くない。この状況は震災 後特に強くなっている。 • 長期的な経済発展に向けたシナリオの検討が おろそかになる危険性。特にミクロの知見を もとにしたシナリオ形成が軽視される危険 性。
  • 19. 期待される太陽光発電 • 2009年11月から住宅用余剰電力買い取り制度: 当初は48円/kwh、2011年度は42円/kwhで買い取 り。 • 2012年度には全量固定価格買い取り制度のス タート。事業用設備に対して適用される可能性が 高い。 • ドイツ、スペインの例からして、十分に事業採算 が成り立つレベルに買い取り価格が設定されれ ば、普及は加速化する。→エネルギー・環境対策 としては良いこと。 • 太陽光の普及によってGDPが減尐しないという 試算も(ただし全量日本で生産するという前提)
  • 20. 長期的な経済性向上の可能性 • 手厚い補助は太陽光がまだ技術的に未成熟である(コ ストが高い)という前提。普及にともなう量産効果で 急速にコスト低下が起きるという前提 – 2020年に14円/kwh、2030年に7円/kwh(NEDO)。現状で も金利費用を除けば30円/kwh程度。 • パネルのしての量産効果はでにくい。結晶シリコン型 の場合、70%以上がシリコン材料にかかる変動費。 現状の技術を前提にすると大幅なコストダウンは難し い。 • 結晶シリコン型のエネルギー変換効率の理論値は 29%程度。すでに研究室レベルでは25%まで達成。 – 未成熟なのか?枯れた技術なのか? • しかし固定価格買い取りが進めば当面は現状で最も経 済性の高い技術の普及が急速に進むだろう。
  • 21. 日本企業は競争力をもちえるか • 主流の結晶シリコン型ではセル、モジュール 生産の過半は中国企業が支配。 • 製造装置も欧米のTKS企業が支配 • カバーガラス、バックシート、封止材で日本 企業が強いが、そもそも中間部材が尐ない製 品。 • 現状の結晶シリコン型を普及させることは日 本企業の国際競争力の低下を助長するように みえる。 • 技術革新の余地の高い、a-Si薄膜、化合物型 (CIGSなど)、有機薄膜、色素増感などの新技 術の開発の足かせにはならないか?
  • 22. 図表5:太陽電池製造装置市場シェア (2008年) Manz Automation AG Von Ardenne (独) Anlagentechnik(独) 5% 3% アルバック 6% AppliedMaterials(米 国) 19% Roth & Rau AG(独) 9% Oerlikon Solar (スイ Meyer Burger(スイス) ス) 9% 13% Centrotherm Photovoltaics AG(独) GT Solar International 12% (米国) 12% Gebr. Schmid (独) 12% 出所:VLSI Research
  • 23. 図表4:太陽電池セル製造の世界シェア (2010年) 京セラ 6% Motech(台 Suntech (中国) 湾) 15% 7% シャープ 7% Ja Solar(中国) GIntech(台湾) 14% 7% Q Cells(独) 9% First Solar(米国) 13% Trina Solar(中国) 11% Yinli(中国) 11% 出所:Wikipedia
  • 24. 例えば、地熱発電の可能性 • 高い潜在性 – >2,347万KWe 以上の地熱資源(世界第3位) – まだ一部しか開発されていない(53.5万KW). – カーボンフリーの技術 • 高い経済性の可能性 – 燃料費はいらない • まだ標準化された技術ではない – 発電所の重要技術を日本企業が握っている – ドライスチームで70%以上, フラッシュで80%以上のシェ ア • 関連インフラ産業の誘発 • にも関わらず、長い間軽視されてきた • 2003年には補助金の打ち切り、10年以上新設なし、 新エネルギーからの除外・・・。
  • 25. 発電単価の比較 (2006-2010年平均) 12 10.2 10 8.9 8 7.2 6 4 2 0 火力 原子力 地熱等 単位:円/kwh 出所:日本エネルギー経済研究所(2011)をもとに筆者作成
  • 26. 地熱発電タービンのシェア (2010年、単位MW) 1,100 10.3% 550 5.1% 2,630 24.6% 三菱重工 1,138 東芝 10.7% 富士電機 Ansaldo / Tosi ORMAT 2,525 GE / NP 2,146 23.6% Alstom 20.1% AEI Kaluga BTH Other (13) 出所:レイキャビクエナジー資料
  • 27.
  • 28. 障害はあるけど • 国立公園問題 • 初期ファイナンスの問題:ハイリスクローリター ン • 温泉街との共存  でも克服できない問題ではない。  温水と組み合わせれば経済性はさらに向上
  • 29. アイスランドの例 • オイルショックを契機に地熱開発を加速化 (原発に向かった日本と対照的) • 年間4,600Gwhの電力を創出。総電力量の 25%程度をまかなう(残りは水力)。 • コストはおそらく3-5円/kwh程度と思われ る。 • ただしタービンは一部の小型・旧型を除いて 全て日本製。 • 経済性を確立する上での鍵は「合わせ技」 – 暖房用途にインフラを確立して、その上に、発電 所を重ねる。
  • 30.
  • 31.
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  • 33. 地熱発電普及の鍵は・・・ • 恩恵のバランス – 環境、コミュニティ、エネルギー、安全、経 済 • 範囲の経済 – 直接利用と間接利用 – コジェネレーション • 事業モデル – 市場拡大を企業の付加価値増大につなげる (Ormatの例)
  • 34. 他にも得意分野はあるはず • たとえば、地中熱利用 – 地中熱ヒートポンプは世界的には急速に成長して いるのに日本ではほとんど普及していない。 – 四季のある日本に効果的な技術 – ヒートポンプ技術の強み – 国内インフラ産業の発展 • 電力創出だけではなく、電力としての利用を 減らすという、トータルな考えかたをもち、 しかも日本企業が新たな産業で優位にたてる 可能性を考慮することの必要性。
  • 35. 環境、エネルギー政策の危うさ • 同床異夢の罠 – 同床異夢は両刃の刃。強い目標意識が欠けると単 なるもたれ合いになる。 • 「エネルギー」「環境」というマジックワー ドの力 – 同床異夢の戦略にマジックワードの力が加わる と、企業競争力の向上を通じた長期的な経済発展 のシナリオがおざなりになる危険性 • 「普及=経済発展」という幻想 – グローバリゼーション、技術の汎用化が進む世界 では、国内市場の拡大政策は必ずしも長期的な富 をもたらさない。
  • 36. 経営学者の出番 • ミクロの基盤の重要性 • Project “Magicc” – Micro-Analysis on Green Innovation and Corporate Competitiveness