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トップアスリートのセカンドキャリア問題における SNS の有用性
〜Facebook を例に〜
龍石泰樹
目次
序章 本研究の課題と意図
一, 研究の意図と着眼点
二, 先行研究の検討
三, 本論の構成について
第一章 セカンドキャリア問題の現状と課題
第一節 セカンドキャリア問題の構造
第二節 セカンドキャリア問題の現状と課題
第三節 セカンドキャリア問題における「重要な他者」の必要性
第四節 セカンドキャリア問題における「approachability」の重要性
第二章 Facebook の機能と特徴
第一節 Facebook とは
第二節 Facebook の特徴
第三節 Facebook の機能
第三章 セカンドキャリア支援モデルにおける Facebook の有用性
第一節 「Athlete Career Forum」の設置
第二節 「重要な他者」における「Athlete career forum」の妥当性
第三節 「approachability」における「Athlete career forum」の妥当性
第四節 ファンページによるセルフブランディング
まとめと今後の展望
引用・参考文献
序章 本研究の課題と意図
一, 本研究の意図と着眼点
2020 年の東京オリンピック・パラリンピックの開催決定、そして少子高齢化による健康
増進の流れがあります。もう一度「スポーツの価値」を見直す時期がすぐそこまできてい
る。しかし、そのスポーツ界をけん引するトップアスリートのセカンドキャリアの問題に
関して、認知度が低いのも現状である。本研究はそういったトップアスリートのセカンド
キャリア問題の認知度の向上や支援策として、SNS の中でも最大規模を誇る Facebook の
有用性について明らかにする。
二, 先行研究
本研究は、従来のトップアスリートのセカンドキャリア問題の現状と課題、そして支援
策について多くの事例からトップアスリートのセカンドキャリア問題における Facebook
の有用性について考察を加えたものである。こうした視点は IT・通信技術が急速に発展し
ている現代において、アスリートのセカンドキャリア問題の支援策として先進的であると
いえる。
三, 本論の構成
第一章では、トップアスリートのセカンドキャリア問題の現状と課題を概観し、支援体
制に求められる要素について考察する。第二章では、Facebook の機能や特徴を概観し、フ
ァンページの開設によるメリットを提示した。第三章では、トップアスリートのセカンド
キャリア問題の支援体制として Facebook が有効であると考案した。第四章では、まとめと
ファンページ「Athlete Career Forum」の設立後の展望をまとめることとする。
第一章 セカンドキャリア問題の現状と課題
第一節 セカンドキャリア問題の構造
『トップアスリートのセカンドキャリア開発支援システムの構築に関する研究』におい
て、菊は、「わが国のセカンドキャリア問題は、一方で学校型サブシステムによるトップア
スリートとしてのファーストキャリアの期間延長(スポーツを支える教育的サブシステムに
よるスポーツタレントへの過度な依存と手段化)がセカンドキャリア問題をよりいっそう深
刻化させるという構造的な課題と同時に、他方でその救済を個人的な問題として扱うこと
によってトップアスリートをさらに窮地に追い詰めるという二重の困難性を抱えてしまう
ようなサブシステムが存在している。トップアスリートのファーストキャリアとは、プロ
スポーツ選手としてスポーツを「行う」こと自体を職業とすることであり、そのキャリア
段階を指す」としている。(菊 2010)このファーストキャリアの地盤は主に二つのシステム
で構成されており、教育的サブシステムと経済的サブシステムとに分けられる。教育的サ
ブシステムは、トップアスリートの養成段階における、経済的・経営的な宣伝効果を期待
した彼らのファーストキャリアを保障する場として、ますます多くの機能が求められてい
る。一方、経済的サブシステムは、国内の経済的不況等により、トップアスリートのセカ
ンドキャリアにおいて必須となる、受け入れ先企業が減少している。この二つのシステム
のギャップが大きくなっており、トップアスリートがセカンドキャリアを要求するには、
大変困難な状況にあるといえる。
第二節 セカンドキャリア問題の現状と課題
菊は、先述した論文において、「スポーツ競技引退後の、第 2 のキャリアを考えていく場
合、第 1 のスポーツキャリア(ファーストキャリア)に専心してきた者にとっての困難は、こ
の期間が長ければ長いほど第 2 のキャリアへの移行が難しくなるというところにある。こ
の移行(キャリアトランジション)を困難にさせているのは、1」スポーツキャリアによる成
果が一般的な職業に就く第 2 のキャリア形成にとって外部から評価しにくい性質を持って
いること、そして、2」指導者やプレイヤーがパフォーマンス向上に専心するあまりセカン
ドキャリア対策を怠ること、さらには、3」プレイヤーがこれまでの自身への評価急落を恐
れてなかなか周囲の支援機関に(例えば、ハローワークなどでの就職相談など)に頼ろうとし
ないこと、などがあげられている。」としている。(菊、2010) 1)は、一般的な職業に就く
際に必要となる、営業力や企画・発案、事業の運営能力といったスキルを身に付けるまで
に時間がかかる。これらを新卒採用で入社した新卒社員はスポーツ選手におけるファース
トキャリアと同じ期間で身に付ける。また、中途採用で雇用された社員は既にそれらのス
キルを他者で身に付けた状態で異動する為、トップアスリートが中途で採用しようとする
際に、スキル面で劣ってしまう。よって、セカンドキャリアを希求するトップアスリート
にとって現状は厳しいと考えられる。2)は、トップアスリートを指導する関係者は、「選手
の勝利」が実績となり、その為に選手をサポートすることが職業である。実績を残すため
には、選手自身にファーストキャリアへの専心こそが求められる。サポート体制自体が選
手自身を競技に集中させることを重点的に行ってしまうのも無理もない。トップアスリー
トのセカンドキャリア問題への関心が希薄であるのも、まさにこのサポート体制に起因す
るといえる。3)は、トップアスリートには、これまでの自身の実績への自尊心があるため、
他者への相談を避ける傾向にある。後述する第三節と第四節において、この要素に関する
考察を詳述することとする。
これらの課題に合わせて、セカンドキャリアを希求するトップアスリートが知っておく
べき自身の 5 つの資本についてもふれておきたい。吉田は、「職業的条件の獲得・利用プロ
セスに関する視点として、5 つの資本(文化資本、社会関係資本、経済資本、人格資本、ス
ポーツ関係資本)をあげている。様々な属性や能力・関心を持った個人が重要なる他者の影
響を受け就職していく中で、この資本が重要になる機会が多いと考えられる。」としている。
(吉田 2013)セカンドキャリア獲得の要件において、この 5 つの資本をトップアスリート自
身から発信していく能力も求められているといえるのではないだろうか。
第三節 セカンドキャリア問題における「重要な他者」の必要性
以上既に取り上げた「重要な他者」について検討したい。吉田は、2 種類の再生プロセス
を解明することに成功している。その 2 種類の再生プロセスについて、「1 つは、個人が他
者の力を得、新庄を原動力として主体性(内省性)を推し進め再生に至るプロセスであり、も
う 1 つは個人が心情を原動力として主体性(内省性)を推し進める途において、他者を主体的
に利用し、再生に至るプロセスである。上記の他者として前者に該当するのは、①再生が
定まるように能動的に配慮を施す<導く他者>、②再生の方向を定めるのに偶然的に寄与
する<何気ない他者>、③再生へ向けた営みをサポートする<仲間>、④再生に資する主
体性発揮の(原動力となる心情の)源泉となる<かけがえのない他者>であり、後者に該当す
るのは、⑤再生のために主体的に利用して得る、相談に乗って、力になってくれる<頼れ
る他者>である。」と述べている。(吉田 2013)キャリアトランジションにおいて、「重要な
他者」の存在は、トップアスリート自身にとって程度や性質に違いはあるが、主体性を推
し進める契機に寄与する存在として必要であることがわかる。
第四節 セカンドキャリアにおける「Approachability」の重要性
第三節で記述した「重要な他者」に加えて、その他者が備えておくべき支援スタンスに
ついてもふれておきたい。Ogawa が提唱する「アプローチャビリティー(Approachability)」
である。アプローチャビリティーとは、「(元)選手達が、いつでもどこでも、プライベート
なことでも話題にできると感じるような、周囲の人がもつ魅力」である。これは 4 つの要
素「①「集約した情報(career-related information)」:周囲の人間が、引退したアスリート
にとって、有益な情報を持っていること。②「受容(acceptance)」:常に親しみやすく、丁
寧に話を聞いてくれること。③「継続性(availability)」:継続的に選手との交信を行うこと。
④「守秘(confidentiality)」:選手の情報に関して、守秘義務をもつこと。」から構成されて
いる。(Ogawa 2012)第三節でふれた「重要な他者」は、この 4 つの要素のいずれかを持
っており、選手の主体性を推し進める援助を行ったと考えられる。こういった意味で、我々
支援者側にも求められる資本があるということを忘れてはならない。
第二章セカンドキャリア支援策における Facebook の有用性
第一節 Facebook とは
Facebook は、マーク・ザッカーバーグ、ダスティン・モスコヴィッツ、クリス・ヒュー
ズの三者が共同創立し、2004 年にハーバード大学の学生向けにサービスを開始したもので
ある。2006 年になると、一般にも解放されるようになり、今ではユーザーが 5 億人を超え
るほどの世界最大規模の SNS(Social Networking Service)になった。ソーシャルメディア
の価値を測る基準として「ユーザーの滞在時間」があるが、それにおいても、すでにヤフ
ーやグーグルを超える程の人気を博している。長い時間滞在し、積極的に活動するユーザ
ーが多いのが Facebook の最大の特徴ともいえる。
第二節 Facebook の特徴
石井は Facebook が他の SNS(Social Networking Service)に比べて優れている点が大き
く分けて 5 つあり、それは①数多くのアプリケーションを利用出来る、②各種のソーシャ
ルメディアとの連携性が高い、③モバイル端末からの投稿が可能④圧倒的なユーザー数を
抱えている、⑤同じ趣向を持った人同士でのコミュニティの形成と運営が容易に出来る、
としている。(石井 2012)①は、主にメッセンジャー等の通信アプリや外部のソーシャルゲ
ームアプリを Facebook のアカウントを通じて簡単にログインし、利用することができる。
これはトップアスリートが Facebook だけではカバーしきれない機能を外部に依拠する際
に有効であると考えられる。②は、Twitter や YouTube、Google+等の他のソーシャルメ
ディアコンテンツとの連携性が高い。トップアスリートは特に自分の「強み」や「やって
きたこと」を発信していき、自ら仕事を取りに行く姿勢も必要である。これによりセルフ
ブランディングをしていく事も可能であると考えられる。③は、現在はモバイル端末の発
達により、いつでもどこでも情報の収集と発信が可能であるといえる。これにより、様々
なコンテンツを即時的に利用することができ、かつ全てのコンテンツの更新履歴がニュー
スフィードに流れる為、時系列でコンテンツを追うことが出来る。④は、ほとんどのユー
ザーが実名で登録をしており、その他にも電話番号などの詳細な個人情報まで公開するこ
とができ、現実的な人間関係を構築することができる。さらに、イベント情報やメッセー
ジ、グループ機能が発達しており、友達や同僚、同じ志を持つ人たちとの交流がメインで
ある。プライバシーの面でも、情報毎に公開・非公開の詳細設定が可能である。⑤は、
Facebook 上での情報収集はタイムラインにおけるものに限らず、発信する「人間」にも注
目することが重要である。友達リクエストを駆使することで、人々は個々に趣味や専門分
野を持っており、それに基づく高度な情報収集を行っている。つまり、セカンドキャリア
を模索するトップアスリートが、トップアスリートのセカンドキャリア問題を支援する
人々が注目する情報をも共有することができる。
特にこの共有場面において活躍するのがシェアボタンといいね!ボタンである。セカン
ドキャリア問題に関する情報を、ボタン一つで友人へシェアをすることが出来る点や「い
いね!」を押すだけでも簡単に自分のタイムラインへの情報蓄積が可能な点は Facebook を
推奨する大きな理由である。
第三節 Facebook の機能
Facebook における主なアクティビティは、①自身の投稿、②他者の投稿への「いいね!」
ボタン、③投稿へのコメント、④他者の投稿へのシェアボタン、⑤ファンページが挙げら
れる。①では、ツイッターの「つぶやき」と同じものである。日記のような文章を書いた
り、自分が撮った写真や動画を添付したり、自身が推奨するホームページのリンクを簡単
に紹介出来たりする。②では、他者の投稿や自分の投稿に対して、「いいね!」ボタンを押
すことで、その人がどんな趣向を持っているのかを知ることができる。また、本人の意識
にかかわらず、その投稿を友人に推奨する役割も果たす。③では、投稿者のコメントの欄
において、その人の投稿やシェアした投稿に対して、意見交換や議論を行うことができる。
④では、自分が読んだ他者の投稿をシェアボタンによって、自分の友達に直接的に紹介す
ることができる。これは「いいね!」ボタンに似ているが、大きな違いは「気軽さ」にあ
ると思われる。「いいね!」ボタンは Facebook における一種の文化であり、衝動的な感情
によるシェアボタンである。一方、シェアボタンは投稿の内容を熟慮した結果、その投稿
についてもっと多くの人の目に触れてほしい内容を共有する、計画的なシェアボタンであ
る。⑤は、多くの企業が利用する「ファンページ」機能である。このファンページ機能を
使って企業は弊社の広報活動、宣伝活動を行う。「いいね!」ボタンやシェアボタン、ター
ゲティング広告等、情報を拡散するコンテンツが多い Facebook ならではの機能であるとい
っていい。
第三章 セカンドキャリア支援モデルにおける Facebook の有用性
第一節 「Athlete Career Forum」の設置
第一章の中でふれた、教育的サブシステムと経済的サブシステムに対して、第二章、第
三節で挙げた、ファンページの機能を利用して、「Athlete Career Forum」の設置を推奨し
たい。「Athlete Career Forum」とは、Facebook のファンページ機能を利用した、トップ
アスリートのセカンドキャリア問題に関するコミュニティを指す。設置する利点は大きく
分けて 2 つある。一つ目は、トップアスリートのセカンドキャリア問題への危機感と認知
度を、企業を含めた全世界の人々に発信することが可能であるといえる。Facebook の情報
更新性を利用して、セカンドキャリア問題に関するコラムを定期的に発信していく。この
コラムの内容はトップアスリートのセカンドキャリア問題における先行研究の蓄積とそれ
に対する現時点での対策や心構えを中心に取り扱う。また、トップアスリートは特に人材
としてのリソースをアドバンテージとして持っているので、それを最大限に利用するプラ
ンをいくつか紹介していく。これにより、トップアスリートの雇用を考える企業側にもア
プローチをし、セカンドキャリアを志望する選手とのマッチングプラットフォームとして
役割を果たすこともできる。さらにトップアスリートを夢見る子供達に対し、セカンドキ
ャリアに関する実態と対策を合わせて情報提供ができる。二つ目は、コミュニティ内のト
ップアスリート同士がセカンドキャリアにおける現状の情報交換をし合う場を設ける。さ
らにそこから個人同士のつながりを助長し、個々のセカンドキャリア問題に関する「具体
的な解決への糸口」を見つける場とする。これにより、情報交換や今後の展望がいち早く
決定する手助けとなり得る。トップアスリートのセカンドキャリア問題に関する議論がよ
り活性化する場として、また研究事例の蓄積として、この機能は大変示唆的であると思わ
れる。これらの関係をまとめたものが下の『図 1 「Athlete Career Forum」の位置付け(筆
者作成)』のようになる。
Athlete Career Forum
Facebook
企業
現役活動中のアスリートトップアスリートを志す子供達
メディア
スポーツ関係者
図1 「Athlete Career Forum」の位置付け (筆者作成)
第二節 「重要な他者」おける「Athlete Career Forum」の妥当性
第一章、第三節でふれた「重要な他者」には 5 つのタイプの他者が存在することがわか
った。それに対して、「Athlete Career Forum」は「総合的な重要な他者」としての役割を
果たすことが可能であるといえる。例えば、キャリア再生の方向へと<導く他者>として、
情報提供をすることができる。また、再生に向けたサポートをする<仲間>をコミュニテ
ィ内で見つけることも可能である。これは相談に乗ってくれたり力になってくれたりする
<頼れる他者>にも同じことがいえる。こうした点で、「Athlete Career Forum」の期待値
は高いと思われる。
第三節 「アプローチャビリティー(Approachability)」における「Athlete Career Forum」
の妥当性
第四節でふれた「アプローチャビリティー」には 4 つの構成要素が存在することがわか
った。それに対し、「Athlete Career Forum」は一定の要素を担うことができる。例えば、
「集約した情報をまとめて持っている」という点。情報更新性を利用したコラムの投稿に
より、蓄積したこれまでのトップアスリートのセカンドキャリアに関する先行研究と事例
に基づくデータをいつでも、どこでも利用する事が出来る。また、継続性や守秘という面
でも、コミュニティ内の友達申請によるつながりの創出や、個人情報の詳細設定によるプ
ライバシーの保護も可能である。
第四節 個人ページによるセルフブランディング
既に述べた「Athlete Career Forum」の設置による、認知度向上や「重要な他者」とし
ての役割について説明してきた。これに加え、トップアスリート自身がセルフブランディ
ングにより自ら仕事を創ることも可能であるということも押さえておきたい。第 1 章、第 2
節において記述した 5 つの資本を基に、自分を企業や個人に積極的に Facebook の個人ペー
ジを駆使して、アピールをしていくことでトップアスリートと企業間、もしくはトップア
スリートと個人間での事業の創出が可能であると思われる。例えば企業活動の一環である、
社会貢献活動のイメージキャラクターや提携業務といったものがそれにあたる。また、熊
坂が次のように述べている。「ソーシャルメディアの力を信じ、「自社メディアをつくる」
という強い気持ちさえあれば、時間の問題はどうにでもなるはずだ」(熊坂 2010)ファース
トキャリアを重視するトップアスリートも、一度この言葉を信じて「自社メディア」では
なく、「自分メディア」をつくることに時間を割いてみるのも一つの手かもしれない。
まとめと今後の展望
これから東京オリンピックをはじめとした、スポーツイベントが続々と控えている。そ
れに伴い、もう一度「スポーツ選手の価値」も見直すべきであると考える。本研究では、IT・
情報通人技術の急速な発展を遂げている現代において、トップアスリートのセカンドキャ
リア問題を支援モデルとして Facebook を採用した。先行研究により得られた、トップアス
リートを支援する「重要な他者」や支援スタンスとして求められるアプローチャビリティ
ーの要素を Facebook の機能や特徴を利用する事で可能であることを示した。また、トップ
アスリート自身が持つ、5 つの資本を基にセルフブランディングすることにより、事業を自
ら取りに行くケースも合わせて紹介した。本研究で紹介した「Athlete Career Forum」の
設置やトップアスリート自身がセルフブランディングにより、より多くのトップアスリー
トが自身のセカンドキャリアの多様性に気付き、セカンドキャリアの獲得に役立てること
を期待している。
本研究を通して確立した「トップアスリートのセカンドキャリア支援における SNS の有
用性~Facebook を例に~」の考え方を、今度は実際にファンページを設置し、広報活動を行
うことでどれだけの影響を与えることが出来るかを検証すべきであると考える。この検証
を通じて、研究事例の蓄積やメディアの認知度を更に煽ることで、「トップアスリートのセ
カンドキャリア問題」に関する議論がより活性化することを願ってやまない。
引用文献および参考文献
・石森真由子・丸山富雄、2003、「プロ競技者の職業的再社会化モデルの構築とその検証に
関する研究」、仙台大学大学院スポーツ科学研究科研究論文集 Vol.4,(2003.3)
・石井成美・近藤高司・鈴木達夫、2012、「企業におけるソーシャルメディアの活用に関し
て」、『日本経営診断学会論集』、12,64-69(2012)
・風間一洋、2013、「ソーシャルネットワークによる Web からの情報収集(<特集>『検索』
のゆくえ)」、『情報の科学と技術』、63 巻 1 号,28~33(2013)
・熊坂仁美、2010、『Facebook をビジネスに使う本 お金をかけずに集客する最強のツール』、
ダイヤモンド社
・菊幸一、2010、セカンドキャリアプロジェクト(Top Athlete Career Support)、2010~2012、
「トップアスリートのセカンドキャリア開発支援システムの構築に関する研究=成果
報告= トップアスリートのセカンドキャリア「問題」の構造ととらえ方」、
http://www.shp.taiiku.otsuka.tsukuba.ac.jp/tacs/?page_id=527 (2014 年 11 月 28 日ア
クセス)。
・デビッド、K、『フェイスブック 若き天才の野望 ~5 億人をつなぐソーシャルネットワ
ークはこう生まれた~』(滑川海彦・高橋信夫訳、小林弘人解説)、日経 BP 社
・広瀬一郎、2005、『スポーツ・マネジメント入門 [24 のキーワードで理解する]』、東洋経
済新報社
・吉田毅、2013、『競技者のキャリア形成史に関する社会学的研究 サッカーエリートの困
難と再生のプロセス』、道和書院
・Olivia.C.Ogawa、2012、「Approachability of the Guiding Figure: New Perspectives for
Continued Organizational Career Support after Athletic Retirement」、『Journal of
Business Studies』、Vol59,No.2,(December 2012)

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「トップアスリートのセカンドキャリア問題におけるSnsの有用性~facebookを例に~」

  • 1. トップアスリートのセカンドキャリア問題における SNS の有用性 〜Facebook を例に〜 龍石泰樹 目次 序章 本研究の課題と意図 一, 研究の意図と着眼点 二, 先行研究の検討 三, 本論の構成について 第一章 セカンドキャリア問題の現状と課題 第一節 セカンドキャリア問題の構造 第二節 セカンドキャリア問題の現状と課題 第三節 セカンドキャリア問題における「重要な他者」の必要性 第四節 セカンドキャリア問題における「approachability」の重要性 第二章 Facebook の機能と特徴 第一節 Facebook とは 第二節 Facebook の特徴 第三節 Facebook の機能 第三章 セカンドキャリア支援モデルにおける Facebook の有用性 第一節 「Athlete Career Forum」の設置 第二節 「重要な他者」における「Athlete career forum」の妥当性 第三節 「approachability」における「Athlete career forum」の妥当性 第四節 ファンページによるセルフブランディング まとめと今後の展望 引用・参考文献
  • 2. 序章 本研究の課題と意図 一, 本研究の意図と着眼点 2020 年の東京オリンピック・パラリンピックの開催決定、そして少子高齢化による健康 増進の流れがあります。もう一度「スポーツの価値」を見直す時期がすぐそこまできてい る。しかし、そのスポーツ界をけん引するトップアスリートのセカンドキャリアの問題に 関して、認知度が低いのも現状である。本研究はそういったトップアスリートのセカンド キャリア問題の認知度の向上や支援策として、SNS の中でも最大規模を誇る Facebook の 有用性について明らかにする。 二, 先行研究 本研究は、従来のトップアスリートのセカンドキャリア問題の現状と課題、そして支援 策について多くの事例からトップアスリートのセカンドキャリア問題における Facebook の有用性について考察を加えたものである。こうした視点は IT・通信技術が急速に発展し ている現代において、アスリートのセカンドキャリア問題の支援策として先進的であると いえる。 三, 本論の構成 第一章では、トップアスリートのセカンドキャリア問題の現状と課題を概観し、支援体 制に求められる要素について考察する。第二章では、Facebook の機能や特徴を概観し、フ ァンページの開設によるメリットを提示した。第三章では、トップアスリートのセカンド キャリア問題の支援体制として Facebook が有効であると考案した。第四章では、まとめと ファンページ「Athlete Career Forum」の設立後の展望をまとめることとする。 第一章 セカンドキャリア問題の現状と課題 第一節 セカンドキャリア問題の構造 『トップアスリートのセカンドキャリア開発支援システムの構築に関する研究』におい て、菊は、「わが国のセカンドキャリア問題は、一方で学校型サブシステムによるトップア スリートとしてのファーストキャリアの期間延長(スポーツを支える教育的サブシステムに よるスポーツタレントへの過度な依存と手段化)がセカンドキャリア問題をよりいっそう深 刻化させるという構造的な課題と同時に、他方でその救済を個人的な問題として扱うこと によってトップアスリートをさらに窮地に追い詰めるという二重の困難性を抱えてしまう ようなサブシステムが存在している。トップアスリートのファーストキャリアとは、プロ スポーツ選手としてスポーツを「行う」こと自体を職業とすることであり、そのキャリア 段階を指す」としている。(菊 2010)このファーストキャリアの地盤は主に二つのシステム で構成されており、教育的サブシステムと経済的サブシステムとに分けられる。教育的サ
  • 3. ブシステムは、トップアスリートの養成段階における、経済的・経営的な宣伝効果を期待 した彼らのファーストキャリアを保障する場として、ますます多くの機能が求められてい る。一方、経済的サブシステムは、国内の経済的不況等により、トップアスリートのセカ ンドキャリアにおいて必須となる、受け入れ先企業が減少している。この二つのシステム のギャップが大きくなっており、トップアスリートがセカンドキャリアを要求するには、 大変困難な状況にあるといえる。 第二節 セカンドキャリア問題の現状と課題 菊は、先述した論文において、「スポーツ競技引退後の、第 2 のキャリアを考えていく場 合、第 1 のスポーツキャリア(ファーストキャリア)に専心してきた者にとっての困難は、こ の期間が長ければ長いほど第 2 のキャリアへの移行が難しくなるというところにある。こ の移行(キャリアトランジション)を困難にさせているのは、1」スポーツキャリアによる成 果が一般的な職業に就く第 2 のキャリア形成にとって外部から評価しにくい性質を持って いること、そして、2」指導者やプレイヤーがパフォーマンス向上に専心するあまりセカン ドキャリア対策を怠ること、さらには、3」プレイヤーがこれまでの自身への評価急落を恐 れてなかなか周囲の支援機関に(例えば、ハローワークなどでの就職相談など)に頼ろうとし ないこと、などがあげられている。」としている。(菊、2010) 1)は、一般的な職業に就く 際に必要となる、営業力や企画・発案、事業の運営能力といったスキルを身に付けるまで に時間がかかる。これらを新卒採用で入社した新卒社員はスポーツ選手におけるファース トキャリアと同じ期間で身に付ける。また、中途採用で雇用された社員は既にそれらのス キルを他者で身に付けた状態で異動する為、トップアスリートが中途で採用しようとする 際に、スキル面で劣ってしまう。よって、セカンドキャリアを希求するトップアスリート にとって現状は厳しいと考えられる。2)は、トップアスリートを指導する関係者は、「選手 の勝利」が実績となり、その為に選手をサポートすることが職業である。実績を残すため には、選手自身にファーストキャリアへの専心こそが求められる。サポート体制自体が選 手自身を競技に集中させることを重点的に行ってしまうのも無理もない。トップアスリー トのセカンドキャリア問題への関心が希薄であるのも、まさにこのサポート体制に起因す るといえる。3)は、トップアスリートには、これまでの自身の実績への自尊心があるため、 他者への相談を避ける傾向にある。後述する第三節と第四節において、この要素に関する 考察を詳述することとする。 これらの課題に合わせて、セカンドキャリアを希求するトップアスリートが知っておく べき自身の 5 つの資本についてもふれておきたい。吉田は、「職業的条件の獲得・利用プロ セスに関する視点として、5 つの資本(文化資本、社会関係資本、経済資本、人格資本、ス ポーツ関係資本)をあげている。様々な属性や能力・関心を持った個人が重要なる他者の影 響を受け就職していく中で、この資本が重要になる機会が多いと考えられる。」としている。 (吉田 2013)セカンドキャリア獲得の要件において、この 5 つの資本をトップアスリート自 身から発信していく能力も求められているといえるのではないだろうか。
  • 4. 第三節 セカンドキャリア問題における「重要な他者」の必要性 以上既に取り上げた「重要な他者」について検討したい。吉田は、2 種類の再生プロセス を解明することに成功している。その 2 種類の再生プロセスについて、「1 つは、個人が他 者の力を得、新庄を原動力として主体性(内省性)を推し進め再生に至るプロセスであり、も う 1 つは個人が心情を原動力として主体性(内省性)を推し進める途において、他者を主体的 に利用し、再生に至るプロセスである。上記の他者として前者に該当するのは、①再生が 定まるように能動的に配慮を施す<導く他者>、②再生の方向を定めるのに偶然的に寄与 する<何気ない他者>、③再生へ向けた営みをサポートする<仲間>、④再生に資する主 体性発揮の(原動力となる心情の)源泉となる<かけがえのない他者>であり、後者に該当す るのは、⑤再生のために主体的に利用して得る、相談に乗って、力になってくれる<頼れ る他者>である。」と述べている。(吉田 2013)キャリアトランジションにおいて、「重要な 他者」の存在は、トップアスリート自身にとって程度や性質に違いはあるが、主体性を推 し進める契機に寄与する存在として必要であることがわかる。 第四節 セカンドキャリアにおける「Approachability」の重要性 第三節で記述した「重要な他者」に加えて、その他者が備えておくべき支援スタンスに ついてもふれておきたい。Ogawa が提唱する「アプローチャビリティー(Approachability)」 である。アプローチャビリティーとは、「(元)選手達が、いつでもどこでも、プライベート なことでも話題にできると感じるような、周囲の人がもつ魅力」である。これは 4 つの要 素「①「集約した情報(career-related information)」:周囲の人間が、引退したアスリート にとって、有益な情報を持っていること。②「受容(acceptance)」:常に親しみやすく、丁 寧に話を聞いてくれること。③「継続性(availability)」:継続的に選手との交信を行うこと。 ④「守秘(confidentiality)」:選手の情報に関して、守秘義務をもつこと。」から構成されて いる。(Ogawa 2012)第三節でふれた「重要な他者」は、この 4 つの要素のいずれかを持 っており、選手の主体性を推し進める援助を行ったと考えられる。こういった意味で、我々 支援者側にも求められる資本があるということを忘れてはならない。 第二章セカンドキャリア支援策における Facebook の有用性 第一節 Facebook とは Facebook は、マーク・ザッカーバーグ、ダスティン・モスコヴィッツ、クリス・ヒュー ズの三者が共同創立し、2004 年にハーバード大学の学生向けにサービスを開始したもので ある。2006 年になると、一般にも解放されるようになり、今ではユーザーが 5 億人を超え るほどの世界最大規模の SNS(Social Networking Service)になった。ソーシャルメディア の価値を測る基準として「ユーザーの滞在時間」があるが、それにおいても、すでにヤフ ーやグーグルを超える程の人気を博している。長い時間滞在し、積極的に活動するユーザ ーが多いのが Facebook の最大の特徴ともいえる。 第二節 Facebook の特徴
  • 5. 石井は Facebook が他の SNS(Social Networking Service)に比べて優れている点が大き く分けて 5 つあり、それは①数多くのアプリケーションを利用出来る、②各種のソーシャ ルメディアとの連携性が高い、③モバイル端末からの投稿が可能④圧倒的なユーザー数を 抱えている、⑤同じ趣向を持った人同士でのコミュニティの形成と運営が容易に出来る、 としている。(石井 2012)①は、主にメッセンジャー等の通信アプリや外部のソーシャルゲ ームアプリを Facebook のアカウントを通じて簡単にログインし、利用することができる。 これはトップアスリートが Facebook だけではカバーしきれない機能を外部に依拠する際 に有効であると考えられる。②は、Twitter や YouTube、Google+等の他のソーシャルメ ディアコンテンツとの連携性が高い。トップアスリートは特に自分の「強み」や「やって きたこと」を発信していき、自ら仕事を取りに行く姿勢も必要である。これによりセルフ ブランディングをしていく事も可能であると考えられる。③は、現在はモバイル端末の発 達により、いつでもどこでも情報の収集と発信が可能であるといえる。これにより、様々 なコンテンツを即時的に利用することができ、かつ全てのコンテンツの更新履歴がニュー スフィードに流れる為、時系列でコンテンツを追うことが出来る。④は、ほとんどのユー ザーが実名で登録をしており、その他にも電話番号などの詳細な個人情報まで公開するこ とができ、現実的な人間関係を構築することができる。さらに、イベント情報やメッセー ジ、グループ機能が発達しており、友達や同僚、同じ志を持つ人たちとの交流がメインで ある。プライバシーの面でも、情報毎に公開・非公開の詳細設定が可能である。⑤は、 Facebook 上での情報収集はタイムラインにおけるものに限らず、発信する「人間」にも注 目することが重要である。友達リクエストを駆使することで、人々は個々に趣味や専門分 野を持っており、それに基づく高度な情報収集を行っている。つまり、セカンドキャリア を模索するトップアスリートが、トップアスリートのセカンドキャリア問題を支援する 人々が注目する情報をも共有することができる。 特にこの共有場面において活躍するのがシェアボタンといいね!ボタンである。セカン ドキャリア問題に関する情報を、ボタン一つで友人へシェアをすることが出来る点や「い いね!」を押すだけでも簡単に自分のタイムラインへの情報蓄積が可能な点は Facebook を 推奨する大きな理由である。 第三節 Facebook の機能 Facebook における主なアクティビティは、①自身の投稿、②他者の投稿への「いいね!」 ボタン、③投稿へのコメント、④他者の投稿へのシェアボタン、⑤ファンページが挙げら れる。①では、ツイッターの「つぶやき」と同じものである。日記のような文章を書いた り、自分が撮った写真や動画を添付したり、自身が推奨するホームページのリンクを簡単 に紹介出来たりする。②では、他者の投稿や自分の投稿に対して、「いいね!」ボタンを押 すことで、その人がどんな趣向を持っているのかを知ることができる。また、本人の意識 にかかわらず、その投稿を友人に推奨する役割も果たす。③では、投稿者のコメントの欄 において、その人の投稿やシェアした投稿に対して、意見交換や議論を行うことができる。
  • 6. ④では、自分が読んだ他者の投稿をシェアボタンによって、自分の友達に直接的に紹介す ることができる。これは「いいね!」ボタンに似ているが、大きな違いは「気軽さ」にあ ると思われる。「いいね!」ボタンは Facebook における一種の文化であり、衝動的な感情 によるシェアボタンである。一方、シェアボタンは投稿の内容を熟慮した結果、その投稿 についてもっと多くの人の目に触れてほしい内容を共有する、計画的なシェアボタンであ る。⑤は、多くの企業が利用する「ファンページ」機能である。このファンページ機能を 使って企業は弊社の広報活動、宣伝活動を行う。「いいね!」ボタンやシェアボタン、ター ゲティング広告等、情報を拡散するコンテンツが多い Facebook ならではの機能であるとい っていい。 第三章 セカンドキャリア支援モデルにおける Facebook の有用性 第一節 「Athlete Career Forum」の設置 第一章の中でふれた、教育的サブシステムと経済的サブシステムに対して、第二章、第 三節で挙げた、ファンページの機能を利用して、「Athlete Career Forum」の設置を推奨し たい。「Athlete Career Forum」とは、Facebook のファンページ機能を利用した、トップ アスリートのセカンドキャリア問題に関するコミュニティを指す。設置する利点は大きく 分けて 2 つある。一つ目は、トップアスリートのセカンドキャリア問題への危機感と認知 度を、企業を含めた全世界の人々に発信することが可能であるといえる。Facebook の情報 更新性を利用して、セカンドキャリア問題に関するコラムを定期的に発信していく。この コラムの内容はトップアスリートのセカンドキャリア問題における先行研究の蓄積とそれ に対する現時点での対策や心構えを中心に取り扱う。また、トップアスリートは特に人材 としてのリソースをアドバンテージとして持っているので、それを最大限に利用するプラ ンをいくつか紹介していく。これにより、トップアスリートの雇用を考える企業側にもア プローチをし、セカンドキャリアを志望する選手とのマッチングプラットフォームとして 役割を果たすこともできる。さらにトップアスリートを夢見る子供達に対し、セカンドキ ャリアに関する実態と対策を合わせて情報提供ができる。二つ目は、コミュニティ内のト ップアスリート同士がセカンドキャリアにおける現状の情報交換をし合う場を設ける。さ らにそこから個人同士のつながりを助長し、個々のセカンドキャリア問題に関する「具体 的な解決への糸口」を見つける場とする。これにより、情報交換や今後の展望がいち早く 決定する手助けとなり得る。トップアスリートのセカンドキャリア問題に関する議論がよ り活性化する場として、また研究事例の蓄積として、この機能は大変示唆的であると思わ れる。これらの関係をまとめたものが下の『図 1 「Athlete Career Forum」の位置付け(筆 者作成)』のようになる。
  • 7. Athlete Career Forum Facebook 企業 現役活動中のアスリートトップアスリートを志す子供達 メディア スポーツ関係者 図1 「Athlete Career Forum」の位置付け (筆者作成) 第二節 「重要な他者」おける「Athlete Career Forum」の妥当性 第一章、第三節でふれた「重要な他者」には 5 つのタイプの他者が存在することがわか った。それに対して、「Athlete Career Forum」は「総合的な重要な他者」としての役割を 果たすことが可能であるといえる。例えば、キャリア再生の方向へと<導く他者>として、 情報提供をすることができる。また、再生に向けたサポートをする<仲間>をコミュニテ ィ内で見つけることも可能である。これは相談に乗ってくれたり力になってくれたりする <頼れる他者>にも同じことがいえる。こうした点で、「Athlete Career Forum」の期待値 は高いと思われる。 第三節 「アプローチャビリティー(Approachability)」における「Athlete Career Forum」 の妥当性 第四節でふれた「アプローチャビリティー」には 4 つの構成要素が存在することがわか った。それに対し、「Athlete Career Forum」は一定の要素を担うことができる。例えば、 「集約した情報をまとめて持っている」という点。情報更新性を利用したコラムの投稿に より、蓄積したこれまでのトップアスリートのセカンドキャリアに関する先行研究と事例 に基づくデータをいつでも、どこでも利用する事が出来る。また、継続性や守秘という面 でも、コミュニティ内の友達申請によるつながりの創出や、個人情報の詳細設定によるプ ライバシーの保護も可能である。 第四節 個人ページによるセルフブランディング 既に述べた「Athlete Career Forum」の設置による、認知度向上や「重要な他者」とし ての役割について説明してきた。これに加え、トップアスリート自身がセルフブランディ ングにより自ら仕事を創ることも可能であるということも押さえておきたい。第 1 章、第 2 節において記述した 5 つの資本を基に、自分を企業や個人に積極的に Facebook の個人ペー ジを駆使して、アピールをしていくことでトップアスリートと企業間、もしくはトップア
  • 8. スリートと個人間での事業の創出が可能であると思われる。例えば企業活動の一環である、 社会貢献活動のイメージキャラクターや提携業務といったものがそれにあたる。また、熊 坂が次のように述べている。「ソーシャルメディアの力を信じ、「自社メディアをつくる」 という強い気持ちさえあれば、時間の問題はどうにでもなるはずだ」(熊坂 2010)ファース トキャリアを重視するトップアスリートも、一度この言葉を信じて「自社メディア」では なく、「自分メディア」をつくることに時間を割いてみるのも一つの手かもしれない。 まとめと今後の展望 これから東京オリンピックをはじめとした、スポーツイベントが続々と控えている。そ れに伴い、もう一度「スポーツ選手の価値」も見直すべきであると考える。本研究では、IT・ 情報通人技術の急速な発展を遂げている現代において、トップアスリートのセカンドキャ リア問題を支援モデルとして Facebook を採用した。先行研究により得られた、トップアス リートを支援する「重要な他者」や支援スタンスとして求められるアプローチャビリティ ーの要素を Facebook の機能や特徴を利用する事で可能であることを示した。また、トップ アスリート自身が持つ、5 つの資本を基にセルフブランディングすることにより、事業を自 ら取りに行くケースも合わせて紹介した。本研究で紹介した「Athlete Career Forum」の 設置やトップアスリート自身がセルフブランディングにより、より多くのトップアスリー トが自身のセカンドキャリアの多様性に気付き、セカンドキャリアの獲得に役立てること を期待している。 本研究を通して確立した「トップアスリートのセカンドキャリア支援における SNS の有 用性~Facebook を例に~」の考え方を、今度は実際にファンページを設置し、広報活動を行 うことでどれだけの影響を与えることが出来るかを検証すべきであると考える。この検証 を通じて、研究事例の蓄積やメディアの認知度を更に煽ることで、「トップアスリートのセ カンドキャリア問題」に関する議論がより活性化することを願ってやまない。 引用文献および参考文献 ・石森真由子・丸山富雄、2003、「プロ競技者の職業的再社会化モデルの構築とその検証に 関する研究」、仙台大学大学院スポーツ科学研究科研究論文集 Vol.4,(2003.3) ・石井成美・近藤高司・鈴木達夫、2012、「企業におけるソーシャルメディアの活用に関し て」、『日本経営診断学会論集』、12,64-69(2012) ・風間一洋、2013、「ソーシャルネットワークによる Web からの情報収集(<特集>『検索』 のゆくえ)」、『情報の科学と技術』、63 巻 1 号,28~33(2013) ・熊坂仁美、2010、『Facebook をビジネスに使う本 お金をかけずに集客する最強のツール』、 ダイヤモンド社 ・菊幸一、2010、セカンドキャリアプロジェクト(Top Athlete Career Support)、2010~2012、
  • 9. 「トップアスリートのセカンドキャリア開発支援システムの構築に関する研究=成果 報告= トップアスリートのセカンドキャリア「問題」の構造ととらえ方」、 http://www.shp.taiiku.otsuka.tsukuba.ac.jp/tacs/?page_id=527 (2014 年 11 月 28 日ア クセス)。 ・デビッド、K、『フェイスブック 若き天才の野望 ~5 億人をつなぐソーシャルネットワ ークはこう生まれた~』(滑川海彦・高橋信夫訳、小林弘人解説)、日経 BP 社 ・広瀬一郎、2005、『スポーツ・マネジメント入門 [24 のキーワードで理解する]』、東洋経 済新報社 ・吉田毅、2013、『競技者のキャリア形成史に関する社会学的研究 サッカーエリートの困 難と再生のプロセス』、道和書院 ・Olivia.C.Ogawa、2012、「Approachability of the Guiding Figure: New Perspectives for Continued Organizational Career Support after Athletic Retirement」、『Journal of Business Studies』、Vol59,No.2,(December 2012)