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読書会「憲法の力」
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TOSMOS 読書会
『憲法の⼒』 伊藤真
2016.9.12
発表者 岡野
【はじめに】
政治的なクーデタが起ころうとしている
安倍総理の発⾔
「憲法を、是⾮私の内閣として改正を⽬指していきたいということは、当然参議院の選挙
においても訴えてまいりたいと考えております」p9
この発⾔は新憲法制定を⽬論むものであり、憲法 99 条に明記される「憲法尊重擁護義
務」の違反に当たる。
第九⼗九条 天皇⼜は摂政及び国務⼤⾂、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法
を尊重し擁護する義務を負ふ。
【第1章 このままで公正な国⺠投票ができるのか】
n 改憲議論をする前に
憲法の根源的な意義・役割は国家権⼒に⻭⽌めをかけるものである。
しかし、国会の憲法特別調査委員会や⾃⺠党の新憲法草案ではそういった原則が無視され
ている。
また、国⺠投票法についての国⺠の理解や認知度が低い。
→このままでは改憲論議の問題点を⾒極めることはできない
n 護憲派ではなく⽴憲派として
筆者は⾃らを護憲派、つまり今の憲法のままじっと守ろうとする⽴場にはいないと⾔い、
⽴憲派を⾃称している。今の憲法にも不⼗分なところがあることは認めている。
『「⽴憲主義」とは、国家権⼒を法的に制限した憲法に基づいて政治を⾏うことを⾔いま
すが、私は、その時々の憲法によって権⼒を拘束する、⽴憲主義それ⾃体に意味を⾒出し
ているのです。』p20
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n 国⺠投票の必要性と改憲の必要性は重ならないか
国⺠投票法⾃体が憲法 9 条を変えるためのものであって、具体的な改憲をすすめるための
⼀歩として公正さがおざなりになってしまっている。
改憲したい⼈にとっては、⼿続法も必要になるというだけ。
n 国⺠投票法は、たかが⼿続法なのか
法制度においては、⼿続がすべてを決めることが往々にしてあるため、たかが⼿続法とし
て軽視するべきではない。
たとえば、取り調べの可視化についての例があげられる。無罪の推定を徹底するならば嘘
の⾃⽩の強要を防ぐために取り調べを可視化すべきだが、犯⼈を逃さないという⽬的をも
つならば⾃⽩を得られず犯⼈を逃がしてしまうかもしれない取り調べの可視化には反対す
るだろう。
↓
「⼿続は⼀定の⽬的との関係で常に存在するのであって、具体的な⽬的を持たない⼿続法
を作ろうとしても、それはほとんど不可能です。」p35
そして、⼿続が正当であることが改憲の正当性を根拠づけることになる。
n 問題点1 国⺠投票運動中の、表現・⾔論の⾃由が保障されていない
▲投票までの期間が短すぎる
「成⽴した国⺠投票法では、国会による憲法改正の発議から国⺠投票 までの期間を 60
⽇以後 180 ⽇以内としていますが、私はこれでは短すぎると思います」「国会の発議から
国⺠投票まで最低でも⼀年以上冷静に熟慮できる期間が必要だと考えます。」p37
▲⾃由な議論が成り⽴つ公共空間が前提
⺠主主義が成り⽴つためには、個⼈の⾔論の⾃由が保証されていなければならない。
しかし、成⽴した国⺠投票法では、公務員、教育者がその「地位にあるために特に国⺠投
票運動を効果的に⾏い得る影響⼒⼜は便益を利⽤して、国⺠投票運動をすることができな
い。」と規制されてしまっている。
n 問題点2資⾦⼒の差が世論を左右するのでは?
有料広告では資⾦⼒の有る⽅の意⾒が集中的に載ってしまい、不平等が発⽣してしまうの
ではないかという危険がある。また、電波メディアによる情緒に訴えるマインドコントロ
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また 9 条において集団的⾃衛権については⾏使できないようになっている。アメリカを中
⼼とした集団的⾃衛権の⾏使の名のもとで⾏われた、さまざまな不法な武⼒⾏使に加担せ
ずにすんだのは 9 条があったからである。
独⽴した主権国家では⾃国の軍隊で⾃らを守るべきという考えがあるが、最近はそうでは
なくなってきた。その典型が EU であり、国家の独⽴を守るためにむしろ国家の主権をお
互いに制限していこうとする。⾃国の軍隊を拡⼤すると地域の軍事的緊張が⾼まってしま
うためである。この考え⽅が「集団安全保障」である。世界の潮流は、たとえ国家の主権
を制限しても集団安全保障をどう構築していくかに焦点が移っている。
n 「近隣諸国が軍事⼒を増強しているという状況に現実的に対応するべきだ。そうじゃ
ないと安⼼できない。」への意⾒
中国や北朝鮮、韓国の脅威論が振りまかれているが、もっと現実的に、蓋然性を考えるこ
とが必要である。つまり中国や北朝鮮が攻めてくる蓋然性はどれだけあるのか判断しなく
てはならない。
海底ガス油⽥での摩擦程度では、わざわざ外国の投資熱を冷ますような⽇本との戦争は⾏
うとは考えづらい。領⼟問題についても軍事⼒で解決しようとすれば国際社会からの孤⽴
は避けられず、戦争を⾏う蓋然性はないだろう。
確かに軍事ハード⾯での増強は脅威となりうるが、⽇本が攻められる根拠とはならない。
東アジアでの信頼感が揺らいでいるから不安に感じてしまうのである。⽇本が正規の軍隊
を持つことで、アジア諸国との信頼関係を崩してはならない。
Ⅱ ⽇本国憲法が⽬指す平和主義
n 積極的⾮暴⼒平和主義
⽇本国憲法が⽬指すものは積極的⾮暴⼒平和主義である。それは、紛争地域へと丸腰で積
極的に出かけて⾏き、現地の⼈とともに紛争の原因を解決しようとすることで信頼を勝ち
取っていき、攻められない国を作ることである。
n ⾃⺠党新憲法草案の9条について
九条の第⼆項が削られてしまったことで、侵略戦争以外の名⽬での戦争が許されてしま
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う。
また⾃衛軍という軍隊が設⽴されることになっている。
信教の⾃由を記した 20 条を変更し、国家の宗教的活動を認め、総理⼤⾂の権限も強化さ
れている。この⾃衛軍、靖国神社的なものの復活、総理⼤⾂の権限強化によって戦争への
ハードルが低くなっている。
n ⾃⺠党の考える⾃衛軍
九条の⼆第⼆項には「国防軍は、前項の規定による任務を遂⾏する際は、
法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」とあり、国会の承認が必
要不可⽋ではなく、⽂⺠統制が⾻抜きである。
また第三項では活動内容が「法律の定めるところにより」と法律によっており、多数派に
よって決定されてしまう。
「公の秩序を維持し、⼜は国⺠の⽣命若しくは⾃由を守るための活動を⾏うことができ
る」とあるため、不確かな公の秩序の維持のために国⺠に銃が向けられうることになって
しまっている。
n 九条の存在意義
軍縮や⾮暴⼒による国際貢献をすすめるという国家の⽅向性を⽰すものとして、⼗分な意
義があり、外交の幅を広げてくれる。
また前⽂の「われらは、全世界の国⺠が、ひとしく恐怖と⽋乏から免かれ、平和のうちに
⽣存する権利を有することを確認する。」から平和を個⼈の問題としたことも画期的であ
る。
n 戦争をしてこなかった現実に⽬を向けよう
九条のおかげかどうかはわからないが、現実として九条があり、60 年間戦争をしてこなか
ったという現実に⽬を向けるべきである。現状が機能しているのであれば、現状維持が最
適の選択である。
九条改憲派の主張は、仮定や憶測に基づいているようにおもえる。
n 軍隊を持つ普通の国になるということ
⼀度軍隊を持ってしまえば、国防のため、国際貢献のためという名⽬で拡⼤していくだろ