2015年度コース導入講義（梅田）

1. コース導入講義
グローバル経済コース
思想史から見た21世紀の主権と自由
社会思想史Ⅰ・Ⅱ担当
梅田 百合香

2. Ⅰ 個性と自由
ジョン・スチュアート・ミル

3. （１）ミルと時代背景
ジョン・スチュアート・ミル（1806－1873）
イギリスの思想家、経済学者
自由主義思想に多大な影響を与える
10代から哲学的急進派の論客として活躍
19世紀イギリス 産業革命 繁栄と成功
自然科学と社会学の急激な進歩
功利主義的制度改革
父ジェイムズ・ミル（1773－1836）
イギリスの歴史家、経済学者、哲学者
功利主義(幸福＝快楽：量的功利主義)で著名な
ジェレミー・ベンサムの友人

4. （２）ミルの自由論
◆多数者の専制と社会的自由
１７世紀自由主義思想
個人と社会に対する国家権力の介入の制限
信仰の自由：宗教的自由
ミルの自由論
社会による個人の抑圧の制限
民主的社会における「多数者の支配」の問題
社会的自由
多数者の社会的偏見による民主的支配→多数者の専制

5. 多数者の専制 tyranny of majority
社会の常識や偏見による支配 無意識下で浸透
例）「男は外で働き、女は家事と子育てをする」
戦後日本の性別役割分担の「常識」
多数の人々の社会的常識への追従による社会の
平均化＝集団的凡庸性
慣習化された世界観の内でのみ思考
フランス思想家トクヴィル（1805‐59）の影響
アメリカ社会 市民による自発的結社
⇒ ミル：多数者の専制と集団的凡庸性の打破
個人の個性の発展と開花

6. ◆個性
決められた慣習の模倣 対 自ら選択を行って生きること
個性は、個人が意識的に、自分がどう生きるのかについ
て自己決定することによって育成される
過去の経験は、個人と社会がより善い生き方を選択する
ために不可欠な実験の場
生活様式や価値観を見直し、今現在支持できるか判断
個性を発展させる社会の多様性を確保する必要
思想と言論の自由が不可欠
【今日ヘイトスピーチ等であらためて問われている！】

7. ◆思想と言論の自由
思想と言論の自由が必要な三つの理由
①抑圧された意見の中に真理がある可能性がある
②意見を理性的かつ自発的に支持するために必要である
ある意見が正しいと判断する根拠は反対意見にさらす
ことによって見出すことができるから
③真理は多角的である
多様な意見の間の公平な論議と寛容が必要
自由の意義は、対立意見の論争を可能にすること

8. ◆ミルの自由論
個性の育成→社会を進歩させる新しい価値や意見を創造
多様な価値や生き方に対して自由な社会があって
はじめて個人は自発的に道徳的な選択をすることができる
そしてこうした個人の発展こそが、社会の利益と進歩を
導くカギとなる
ミルの議論の特徴
多数者の専制、社会的自由、
個性の重要性、多様性の擁護

9. （３）他者危害原理
他者危害原理・・・個人の行動の自由の範囲
政府・社会・他者が個人の自由を制限できる場合とは
社会の他の構成員へ危害を加えることの防止
個人の自由とは、個人と社会の発展を導く経験的な条件
ミル：可能な限り広範な個人の自由を確保することによって、
「進歩する存在としての人間の最も広い意味における」
最大幸福原理が実現できる
現代の私たちの自由は他者危害原理を守っているだろうか
私たちは進歩する存在としての人間となっているか
ぜひ考えてみてほしい

10. Ⅱ ネグリの〈帝国〉論と新しい主権
アントニオ・ネグリ

11. （１）ネグリの略歴
・1933年8月1日、イタリア・パドヴァ生まれ。父親はイタリア共産党の創立メン
バーの一人だったが、ネグリが2歳のときにファシストに惨殺された。
・イタリアでは、1974～78年、労働者の自発性に依拠する大衆的運動アウトノミ
ア（労働者自治）運動が高揚期を迎え、ネグリはアウトノミア運動の理論的指導
者と目された。
・1978年、「赤い旅団」による元イタリア首相モロ誘拐暗殺事件が発生。ネグリ
はイタリア・パドヴァ大学政治学研究所教授であったが、 79年4月7日、この暗
殺事件に関与したとしてテロリストの嫌疑で逮捕、投獄される。
・1983年、獄中から国会議員に立候補し、当選。議員特権により釈放されるが、
2ヵ月後、議員特権が剥奪され、官憲が逮捕にくる数時間前にスクーターと舟を
使って逃走、コルシカ経由でパリに亡命した。亡命中、パリ第8大学などで講義
を行う。
・1997年7月1日、ネグリは自発的にイタリアに帰還し、空港で再逮捕され、その
まま再収監された。2002年4月からは獄中から出て指定住居に居住する「選択
的拘留」状態となった。自由の状態となるのは2003年10月。また、2000年、マイ
ケル・ハートとの共著『〈帝国〉』を刊行、世界的な注目を集めた。

12. （２） 帝国と〈帝国〉の違いについて
帝国 the Empire
例） ペルシア帝国 ローマ帝国 大英帝国
現代はアメリカ「帝国」・・・？
帝国は、他国を侵略した領土の拡大もしくは
一国民国家の拡張した権力形態をさす
アメリカ「帝国」 世界中に米軍基地（駐留軍）
ネグリの〈帝国〉 Empire
アメリカを含むグローバル・ネットワークによる新しい主権
主権権力は空間的に分散し、ネットワーク化している

13. （３）新しい主権形態とは
ヨーロッパ連合の形成やグローバリゼーション
国家を政治の基本単位とみなす考え方は揺らぎはじめる
〈帝国〉とは、グローバル社会全体を内部に
吸収するネットワーク
〈帝国〉は、
①超大国アメリカによる 君主政、
②有力な国民国家のグループや多国籍企業による貴族政
③民衆の利害を代表する小国家の集合体やNGOによる
民主政
三つの要素が混合された「混合政体」的ネットワーク

14. アメリカは〈帝国〉のなかで君主のように強い
ヘゲモニーを握り、グローバルな警察力を行使
しかし、アメリカが〈帝国〉そのものなのではない
〈帝国〉の権力は特定の地域や場所に限定される
ものではなく、アメリカは中心でもない
〈帝国〉の権力は空間的に分散しており、
〈帝国〉自体はどこにも場をもたない関係性の世界
〈帝国〉は国民国家のような領土性をもたない

15. 〈帝国〉に対抗しうる唯一の勢力：
マルチチュード〔群衆〕
マルクスの対立の構図
ブルジョワジー（資本家階級） 対 労働者階級
↓ グローバル化して転用
〈帝国〉 対 マルチュチュード
TPPは誰が仕掛けた？「利益は誰に？」

16. 国家主権の相対的脆弱化の流れのなかで…
ヨーロッパ連合（ＥＵ）の統合の終焉／減速
①経済統合（通貨ユーロ）→金融危機
②政治統合（ゆるやかな政治体ＥＵ）→トルコ拒否
③シェンゲン協定（加盟国民の域内自由移動）
→失業問題・移民規制強化
国家の主権、個人の自由、平等（差別・格差）の
問題があらためて問われている