教育心理学会木村話題提供 20150828_uproad

パフォーマンスとしてのインプロを
長期的に創造し続ける
～方法論から遊びの道具へ～
木村大望（成城学園初等学校）
2015/8/28Copyright(C) Hiromochi Kimura1
Photo by 江戸川カエル

話題提供者について
2015/8/28Copyright(C) Hiromochi Kimura
 東京学芸大学大学院総合教育開発専攻表現教育コース（修
士課程）高尾隆研究室修了
 専門は演劇教育。主にインプロ（即興演劇）。
 2010年（平成22年度） 10月より、インプロチーム「SAL-MANE（サ
ルメーヌ）」を組織。代表を務める。
 2015年（平成27年度）4月より、成城学園初等学校の専任教諭と
して国語および劇の授業を担当している。
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発表内容
・第一部背景
インプロへの注目／インプロに期待されるもの／疑問や論点
・第二部ホルツマンにおけるインプロの定義
定義①～⑤
・第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見と仮説
発見①～⑦／仮説
・まとめ
・おわりに
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第一部背景① インプロへの注目
 道具と結果の弁証法的活動
としてのインプロ(p.93)
（↔ 結果のための道具方法論）
 L. ホルツマン（著）、茂呂雄二（訳）（2014）
『遊ぶヴィゴツキー：生成の心理学へ』
L. Holzman（2009）
“Vygotsky at Work and Play”
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第一部背景② インプロに期待されるもの
スキルトレーニングとしてのインプロ
俳優ではない人へのインプロ訓練は1990年代に流行ったが、共同活動、自信、注意
深さ、聞くスキル、積極性や想像力を育てると言われた。（p.94）
→その後、めぼしい成果は見られなかった。
プレイ／パフォーマンスとしてのインプロ
ロブマンや他の研究者は、即興的教育と幼児のごっこ遊びの類似性を指摘して、即
興は子どものときもっていた創造的で共同的なスキルを大人が再発見する方法だと
強調している。(p.95)
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第一部背景③ 疑問や論点
 「即興的教育と幼児のごっこ遊びの類似性」とは？
 それが学習が先導する発達とどのような関係があるの？
 発達的空間とはどのようなもの？
→ホルツマンにおけるインプロの定義（第二部）
 改めて、なぜインプロなの？（意義や期待、限界）
→SAL-MANEの実践から得られた発見（第三部）
 キーワード
遊び、学習が先導する発達、発達的空間

第二部ホルツマンにおけるインプロの定義①
遊びの３タイプ
 自由遊び
・幼児のごっこ遊びやファンタジー遊び
・自由遊びの特徴は、意味が行為を凌駕するような想像的場面にある
 ゲーム遊び
・構造化された、ルールに依拠する活動
・ルールは表立ったものとなり、ゲームが複雑になればなるほど、ルールが想像場面
を凌駕するようになる。
 劇的プレイまたはパフォーマンス
・様式化された職業的演劇

第二部ホルツマンにおけるインプロの定義②
自由遊びと劇的遊びの類似点
 ヴィゴツキーが指摘した自由遊び（ルールと結果）の環境制約（「現実」）からの自
由さは、他の種類の遊び―劇的遊びまたはパフォーマンス、とくに台本のない、即
興的なものと似ている。
 自由遊びと劇的遊びの両方で、遊ぶ人／演技者は直接に活動の生産者であり、
遊び／演劇の感覚的、認知的、情動的要素を生み出し調節する責任を負ってい
る。（p.76）
 遊びの発達的潜在力は、行動の実行ではなく、活動の創造的パフォーマンスなの
だ。（p.78）

第二部ホルツマンにおけるインプロの定義③
遊びの発達的潜在力とインプロ
 遊びに自由度与える想像力と、遊びを制約するルールの相互作用が、遊びの発
達的潜在力を生み出す。「想像の世界」で作られる行為は、状況的制約から遊ぶ
人を開放すると同時に、それ自体の制約を課す（Pp.75-76）
 遊びは発達の先導要因である。遊びはルールと結果の弁証法的活動であり、結
果のためのルールではない。ルールのない遊び／どうするのか知らない遊び／
ルールを知らない遊びは、まさに就学前幼児の日常活動である。（p.76）
⇒インプロはその場における「状況的制約」と「制約」（≒「想像的場面の秩序」）に対し
て、協働的・集合的に働きかける遊びではないか。（≒ストーリーテリング？）

第二部ホルツマンにおけるインプロの定義④
インプロはどのような遊びか
 インプロをする（ゲームを遊ぶ）ためには、プレーヤーはルールに従わなくてはな
らないが（プレーヤーの想像がどこへ向かうことになろうとも）、インプロ（パフォー
マンス）をするためには、そのなかでルール（≒秩序？）が立ち上がるように、想像
場面を集合的に作り上げる必要がある。ごっこ遊びのように、それ自体の外には、
何の終着点も目標ももたない。（p.92）
⇒ルールと想像力で「遊ぶ」独特のプレイ

第二部ホルツマンにおけるインプロの定義⑤
発達的空間
 誰もが「学習が先導する発達」を創造するための、
 集合的で、
 道具と結果の弁証法的活動に参加できる、組織
⇒結局、どんな空間（「能力の領域」？物理的空間？心理的空間？）？
そこではどのようなことが起きているの？
≒インプロを創造する空間なのか？どんな特徴があるのか？
実践と研究の必要性

第三部インプロチームSAL-MANEについて
 2010年10月、木村大望が大学の授業でともにインプロを学んだメンバーに声を掛けて
発足。公式HP： http://sal-mane.com/
 現在メンバーは12名。さまざまなバックボーンを持ったメンバーが参加している。プロの
俳優として活動しているメンバーはいない。
 チームの特徴は、チームを主導する指導者的な役割の人物は設けず、メンバー同士
がフラットに関わることを目指して活動を行っている。
 主な活動として、毎週土曜日の夜に稽古と、
毎月一回の対外的な定期公演がある。
その他、外部公演や出張ワークショップを行う場合もある。

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見①
 ミッションが変化する
・ワークショップや研修などにインプロの手法を用いる教育的活動と、ショーを志向す
るパフォーマンス的活動の二つの側面がある。
・SAL-MANEは発足当初、インプロの方法論的側面に関心を抱き、教育的活動に重
きを置いていた。しかし、その後、海外の公演に触発され、パフォーマンスを志向する
ようになる。
・実際は発足当時からパフォーマンス的活動を志してはいたが、国内にめぼしい前
例がなく、どのように活動を続ければよいかという方策が見えなかった。とりあえず自
分たちが学んできたやりかたで、インプロと関わり、実践することにした。

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見②
 指導者がいないと大変
・SAL-MANEに所属するメンバーのほとんどが、高尾隆先生のもとでインプロを学んだ経
験がある。しかし、卒業後は指導を受けずに、自主的に活動を開始。
→メンバー間のバランスの不均衡、モチベーションの維持など多くの問題を抱え、苦しい
活動が続く。稽古が「安全な場」ではなくなる。結局誰かが「指導者」的にふるまう場面も。
・2012年から年一回、夏に高尾先生を招いて、インプロ合宿を行うようになる。チームが
抱えている問題について介入的に指導を受ける。
→介入してもらうことで、メンバー間同士では指摘しづらい内容が解消されることがある
ex. 個々人が現在、抱えている課題など

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見③
 インプロの熟達化はある…が見えづらい
・「誰でも参加できる」という文言がよく謳われているように、インプロは誰でもできる。
初心者の人が感動的な場面を創造することもある。では、インプロに熟達化はない
のか？
→続けていくうちになにやら上達しているようである。
・海外で活躍する、老練なインプロバイザーたちの即興は、まるで台本があるかのよ
うにドラマチックで、かつ即興的な反応のみずみずしさに溢れている。
→それに比べると国内で活躍するインプロバイザーのモデルはまだまだ少ない。

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見④
 ここまでのまとめ
どうやらインプロの実践を長期的に行うことはむずかしい
理由①：指導者の果たす役割が大きい
理由②：熟達化の過程が分かりづらい
理由③： ①、②の理由からミッションを見失いやすい

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見⑤
 発達的介入を考えるための手掛かり
・SAL-MANEというチームの特徴は、誰かがチームを主導する指導者的な役割の人
物がおらず、メンバー同士がフラットに関わることを目指している。しかし、その分、直
面する困難も多い。
→言い換えれば、インプロの実践活動を長期的に行うためには、指導者の役割がと
ても重要であると言える。
では、指導者の役割とはなにか。
安全な場を創ること

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見⑥
 安全な場とはなにか？
 ステージが安全な場所であることは、スゴく重要なことです。安全を感じるからこそ、
人は危険を冒すことができる。（p.15）
 新たなことを学ぶためには、失敗しなければならないのです。ここであなたが失敗
したら、それはあなたが何か、自分にとって新しいことを学んでいるということです。
（p.21）
―今井純（2013）『キース・ジョンストンのインプロ: 来日ワークショップの記録』より引用。
⇒その場にいる人たちが進んで学習を行うことができる場。
（＝発達環境）

第三部 SAL-MANEの実践から得られた発見⑦
 安全な場は、指導者が支援することで作られるのか。
幼児は養育者とともに、発達環境を創造する。その環境が、自分以上のなすことを支
え、今ある自分でありながら、自分がなりつつあるものへとなることができるのだ。
（中略）学習のプロセスと学習の生産物は協働で作られる。協働活動を通して、幼
児と養育者、兄弟などは、学習が先導する発達環境を創造し、この弁証法の実践を
通して、学習と発達の統合体を創造する。（p.27）
⇒指導者が学習者に対して、一方的に支援するのではなく、指
導者と学習者の協働活動によって作られる。
Ex. ベルリンのネガティブな女性の話『キース・ジョンストンのインプロ』Pp.232-233

第三部 SAL-MANEの実践から得られた仮説
 発達環境の生成理論としてのインプロ
インプロの考え方、特にキース・ジョンストンのインプロ観は、学習
が先導する発達環境の生成について分析するための理論としての
意義を持ちうるのではないか。また、これによって学習に先立つ発
達環境の創造についての示唆が得られるのではないか。
Ex. 検閲、コントロール、トランスマスク…etc.
→これらに通底しているのは、どのようにして俳優を制約から自由にするか、という問題意識である。

第三部 SAL-MANEの実践から得られた限界
 遊びを〈遊ぶ〉ことのむずかしさ
このようにインプロの手法としての意義について考えていくと、「じゃあ、学習と発達のた
めにインプロを用いよう！」という考えが浮かんできそうなものである。しかし、これはホル
ツマンらが慎重に退けようとしていた「結果のための道具の方法論」へ陥る危険性を孕ん
でいる。また、遊びの価値がどれほど重要であることが分かったとしても、誰かに「遊
べ！」と命じることでその人が〈遊べる〉ものでもない。（「学習の学習」も同様？）
まるで禅問答のような絶えざる生成と解体が存在する。もしその探求的過程がネガティブ
なものであれば、それは徐々に居心地の悪いものとなる。
極端な言い方をしてしまえば「楽しいことが一番」ということになる。安全な場の協働的な
創造と、インプロを魅力的な〈遊び道具〉として提示？できるかということが、発達的介入
のキーとなるのではないだろうか。

まとめ
 ホルツマンの理論において、遊びと学習は発達を先導する重
要な要素である。
 インプロは「ルールと想像力で「遊ぶ」独特のプレイ」
 インプロを創造する空間（物理的、心理的）の特徴は、そこに
参加する人々にとって「安全な場」を志向することである。
 そしてインプロ理論は「どのようにしてステージを安全な場に
するか」という問いに対する多くの示唆を与えてくれる。

おわりに
 現在、SAL-MANEが探求している課題
・指導者を設けることなく、チームのメンバー同士で、安全な場を協働的に創造する
ためには、どのようにすればよいのか。その時、「発達環境の生成理論としてのイン
プロ」という考え方はどのように作用するのか。
より自由に、より自発的に遊び続けるために！

教育心理学会木村話題提供 20150828_uproad

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