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福島第一原子力発電所の概要
- 2. 1
福島第一原子力発電所の概要
福島第一原子力発電所は、1 号機が 1971 年 3 月に運転を開始した東京電力
にとって初めての原発である(図 1 – 1、1 – 2)
。また 1 号機は、日本で稼働中
の商業用炉としても、日本原子力発電敦賀原子力発電所 1 号機および関西電
力美浜原子力発電所 1 号機に次ぐ 3 番目に古いプラント(以下、号機ごとには
「プラント」と呼ぶ)である。また、福島第一原発 1 号機は BWR – 3 型と称さ
れ、Mark Iと呼ばれている型の中でも最も古いタイプの格納容器を採用して
いるプラントでもある。同じ型のプラントは、国内では他に中国電力島根原
子力発電所に 1 機しかない(敦賀原発 1 号機はさらに古い BWR – 2 型)
。その
ことは、関係者の取扱いに関する知識が十分ではなかったという点で、事故
を深刻化させる一因ともなった(IC のフェールセーフ問題など)
。
一方、今回の事故原因について、
「格納容器が小さい Mark I 型だったか
ら」とか、
「地震や津波を気にしない GE の設計だったから」という話がよ
く耳に入ってくる。しかし、それらは、重要な事故原因になったとは筆者に
は思われない。というのも、格納容器容積は第 5 章で説明するように Mark
図 1︲1 事故前の福島第一原発全景
敷地広さは約 350 万㎡ある。
16
第1章 概要と予備知識
- 3. I 型が特に小さいというわけではない。また、導入から 20 年以上経過した
1998 ~ 1999 年に、福島第一原発では非常用ディーゼルエンジン発電機 2 台
の増設を行うなど、いろいろな追加安全策を実施しており、津波による浸水
原因を GE のオリジナル設計のみに帰するのは適当ではないと考える。
な お、1 号 機 は 発 電 出 力 が 46 万 kW、2 ~ 5 号 機 は 78.4 万 kW で、6 号 機
(Mark II 型、110 万 kW)やそれ以降の新しい原発に比べると出力が相当に
小さい。
(1)レイアウトおよび主要設備の概要
福島第一原発では、 と 2 号機)(3 と 4 号機)および(5 と 6 号機)がそ
(1
、
れぞれペアになって建物などを共有している。中央制御室もその組み合わせ
R/B
ろ過水タンク
T/B
R/B:
原子炉建屋
T/B:
R/B
タービン建屋
事務本館
免震重要棟
復水貯蔵
中央制御室
タンク
海水ポンプ
R/B
エリア
排気塔
R/B T/B
R/B
太平洋
正門
R/B T/B
共用プール
建屋
タービン建屋排気塔
(1∼4号機)
100m
図 1︲2 主要部平面図
福島第一原子力発電所の概要
17
- 4. 位
置
敷 地 面 積
取水港湾設備
福島県双葉郡大熊町ならびに双葉町
約 350 万 m2(約 100 万坪)
南防波堤 約 900m
120,000
北防波堤 約 1,100m
東防波堤 約 500m
排気塔
原子炉建屋
OP+56,000
超高圧開閉所
(砂岩)
風化軟質凝灰質泥岩
OP+7,500
OP+1,500
OP−2,500
(粘土混じり砂岩)
固結度低い粗粒砂岩
OP+28,000
タービン建屋
OP+32,000
洪積世湾岸段丘堆積
(泥岩)
(砂岩)
OP+10,000
OP−6,000
新第三紀鮮新世相馬層群の上層 (泥岩)
人工
図 1︲3 福島第一原子力
原子炉建屋
コントロール建屋
タービン建屋
使用済み燃料プール
圧力容器
5階
IC復水タンク
(1号機)
格納容器
(D/W)
4階
蒸気タービン
・発電機
中央制御室
3階
配電盤の一部
2階
1階
地下1階
主復水器 非常用D/G
HPCIポンプ
RCICポンプ
(2,
3号機)
S/C
配電盤
消火系ポンプ (M/C, P/C, DC)
一部除く
図 1︲4 原子炉建屋 タービン建屋断面図
・
18
第1章 概要と予備知識
- 5. ユニット
営業運転
開始年月
メーカ−
1 号機
1967/9
1971/3
GE
78.4
1969/5
1974/7
GE 東芝
3 号機
78.4
4 号機
78.4
5 号機
78.4
6 号機
000
46.0
2 号機
建屋
6,000
出力
建設着工
(万 kw)
年月
110.0
1970/10 1976/3
東芝
1972/9 1978/10
1971/12 1978/4
日立
東芝
1973/5 1979/10 GE 東芝
出力合計 469.6 万 kw
夏期最高海水温 25℃ 高極潮位(チリ地震)OP+3,100
冬期最低海水温 9℃ 高極潮位(チリ地震)OP−1,900
タービン建屋
OP+35,400
OP+10,000
OP+6,000
人工岩盤
放水路
ポンプ室
OP+4,000
LWL+0
取水路
OP=小名浜港工事用基準点
発電所主要部の断面
で部屋を共有し、タービン建屋と原子炉建屋の中間にあるコントロール建屋
と呼ばれる建物の 2 階に、2 プラントに隣接して設置されている(図 1 – 3、
1 – 4) 月 11 日以降、中央制御室が最前線となり、当直の運転員などが暗
。3
闇の中、命を懸けた事故対応を続けた(図 1 – 5)
。免震重要棟内に設置され
た発電所対策本部との間は、主たる通信手段の PHS が使えなくなり、ホッ
トラインと固定電話だ
けのわずかな通信手段
を用いて連絡を取りな
がら、事故への対応を
行った。
注) 下の文中の
以
(*)付きの
用語、および
図1 – 4中 に
表記されてい
図 1︲5 中央制御室
通常、
一班 11 名が当直して 2 プラントを担当。
福島第一原子力発電所の概要
19
- 6. る主要装置の簡単な説明は、次ページ以下に記述されている。
原子炉のある原子炉建屋は、地上 5 階・地下 1 階の構造物で、高さは地上約
45m ある。その中には圧力容器や格納容器、使用済み燃料プールなどがあ
る。また、非常用冷却設備のポンプの多くがこの建物の地下 1 階に配置され
ている。ただし、1 号機の IC
(*)
用の冷却装置(復水器)は自然循環を利用
するため、圧力容器より高い 4 階に配置されている。SR 弁
(*)
は格納容器内
に、ベント弁
(*)
は格納容器外に設置されている。
タービン建屋には、タービン発電機、主復水器のほかに多くの電源設備が
配置されている。その地下 1 階には、非常用 D/G(Diesel Generator、ディー
ゼルエンジン駆動の非常用発電機)の全 8 台中 6 台が設置されている(1 ~ 4
号機)
。また、地下 1 階と地上 1 階には、ほとんどの配電盤が配置されてお
り、それらが津波で浸水したことが、事故が深刻化する直接原因となったこ
とは衆知の通りである。
a D/W:Dry Well(ドライウェル)
フラスコ型の容器。S/C と合わせて格納容器を構成している(図 1 – 6)
。
両者は、ベント管と呼ばれる 8 本の太い管で連通している。D/W から S/C へ
気体が抜ける場合には、S/C 内の水を通して入るようになっている。ドライ
ウェルという名称は S/C と違い、
水が入っていないことによる。
b S/C:Suppression Chamber
(サプレッションチャンバー)
D/W とベント管でつながって
いる格納容器下部のドーナツ型
D/W
の容器(図 1 – 7) 号機で 1,750
。1
トン、2 ~ 4 号機で 2,980 トンとい
う大量の水を蓄えている。配管破
ベント管
S/C
断などの事故時や SR 弁が開いて
高温の蒸気が入ってきたとき、蒸
気はこの水で冷やされ液体の水
に戻り、格納容器全体の圧力上昇
20
第1章 概要と予備知識
図 1︲6 工事中の格納容器
フラスコ型の D/W とドーナツ型の S/C がベント管で
つながっている。