片桐芳雄資料 「沼津兵学校と渡部温」

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2019.9.21 沼津史談会
沼津兵学校と渡部温（一郎）―下級幕臣（直参・御家人）の生き方―
愛知教育大学・日本女子大学名誉教授
片桐 芳雄
０．渡部温（1837.7.22（天保 8.6.20）－1898.8.7）と私
拙論：「幕末明治の洋学者・渡部温（一郎）覚え書（1～3）」
（愛知教育大学研究報告・教育科学、1983～1984）
「白銀公園を遺した人・渡部温物語 1～12」（かぐらむら、2013.10～`15.8）Web 版あり
（約 3500 坪）
（明治 16 年陸軍省測量地図）

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１．渡部温（一郎）とは
『図説沼津兵学校』（明治史料館） 『明治文化全集』 『東京製綱百年史』 『太陽』掲載の遺影
・長崎、下田育ち（父・下田奉行支配調役並、1856.2 下田表御役所書物助、8 ハリス着任）
下田の安政大津波（1854.11）
・開成所（1862.1 蕃書調所英学句読教授出役、11 英学教授手伝並出役、1864.9 英学教授
手伝出役、1866.10 英学教授方出役、12 教授職並手伝、1867.9 教授職並開成所調役）
・沼津兵学校（1868.10 沼津兵学校教授方、11 一等教授方改役、12 沼津兵学校創設、1869.1
授業開始、1871.1 一等教授方、夏上京）
・新政府に出仕（1871.12 陸軍兵学少教授、72.11 大蔵省紙幣寮七等出仕、74.2 文部省七
等出仕、長崎の第五大学区広運学校長・官立長崎師範学校長兼務（広運学校→長崎外国
語学校→長崎英語学校）、75.7 東京外国語学校長（前任者は中江兆民）、77.1 依願退
職
・『通俗伊蘇普物語』全 6 冊の翻訳出版（73.2～74.3）

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扉 藤澤次謙(梅南) Bynan 河鍋暁斎 榊篁邨
こうそん
（ 綽
ゆたか
）
・『標注訂正康煕字典』（1879～1885 校訂、12 月出版・全 17 冊）
・東京製綱株式会社創業（1887.2.1）
赤松大三郎（則良） 山田昌邦
・東京府議（1882～1896）、東京市議（1890）、牛込区議（1890～1898）
２．下級幕臣（直参・御家人）として
・開成所
直参のメリット
新興語学としての英学
反倒幕―会訳社同人
（かくてだに松は根づよき枯野かな）

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『中外新聞外篇』第 13 号折込
「御家法」の壁
書面一郎儀、開成所教授職並出役被仰付候様、先達て相願候得共、右ハ新規之儀、
追てハ藩士よりも右江繰上ケ等可相願、左候てハ御役名之出役場所相増、際限無
之候間、不被及御沙汰、開成所英学教授方出役申渡候処、同人儀学術抜群英学教
導向、重立引請指揮致居、諸事世話行届、稽古人一同信服罷在、其儘差置候てハ、
一同之気配ニも拘り、殊ニ英学教授職之者一人も在府無之、差支候ニ付、教授職
並出役と申渡、弐拾人扶持金拾両被下候様致度、尤以後藩士より右出役江操上ケ
等、一切相願申間敷と、再願致し候趣無余儀相聞候間、此度限願之通可被仰付哉、
併教授職並出役と相唱候てハ、業前之場所とハ申なから、御役名之出役ニ相成不
都合ニ付、書面之通教授職並手伝出役と相唱、御手当之儀ハ、願之通弐拾人扶持
金拾両被下候方ニ可有御座哉、尤右出役場所相増候儀ニてハ、此後御出高と相成
候間、右ハ一郎ニ限り候儀、向後右出役江ハ相願申間敷旨、本文之通相達候方ニ
取調候事」（1866.12 勘定奉行評議結果）
右一郎儀人物手堅英学抜群ニて、教授筋ハ勿論稽古場取締向重立相心得候儀ニ付、
繁勤ハ申迄も無之、教授方之指揮并稽古人引立方万端行届、且翻訳御用筋精密ニ
取調、御用弁宜者ニ候間、兼て教授職並被仰付候様可申聞候得共、部屋住之身分
ニ付是迄差扣候処、此程一郎父重三郎病気ニ付、隠居家督一郎へ相願候ニ付、右
家督被仰付候、同日開成所教授職並被仰付並之通高百俵被下、御手当拾人扶持金
拾五両被下候様、海軍奉行並始相願候趣取調候処、（中略）
同人儀ハ今度家督被下、小普請ニ入候者ニて、右様御目見以下小普請より、直ニ
御目見以上之場所江ハ難被仰付筋ニ有之、（中略）
同人儀此節先開成所調役江被仰付、並之通御足高被下、教授職並手伝出役是迄之
通申渡、御手当之儀ハ教授職並之通、拾人扶持金十五両被下候方ニ可有御座哉之
事」（1867.8 老中より幕閣への報告書） （倉沢剛『幕末教育史 1』242-243
頁）
1867.9.10 教授職並に昇任（大政奉還 1 か月前）
幕府倒壊・大量リストラ・沼津へ
３．新政府へのアンビバレント
・沼津兵学校
失意と解放感
学生との交流
『経済説略』全 1 冊(1869)、『英国史略』乾坤 2 冊(1871)、『英文伊蘇普物語』
乾坤 2 冊(1872)、『仏学初級』全 2 冊（1872）の刊行

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「明治二十年頃沼津北半之図」
・新政府への出仕
『通俗伊蘇普物語』
東洋文庫版あり
『標注訂正康煕字典』
1977 年講談社より復刻出版
1996 年上海古籍出版社『王引之校改本康煕字典』巻末に「康煕字典考異正誤」を
掲載
４．沼津兵学校人脈
・東京製綱
赤松則良（大三郎）（「日本造船の父」、開成所→オランダ留学→一等教授方→海軍
横須賀造船所長）
長男・範一（監査役→常務→専務→社長）
山田昌邦（軍艦役並見習三等→「逃げる旗本」→教授方手伝→開拓使→東京製綱支配
人→専務→会長）
・『通俗伊蘇普物語』挿絵
藤澤次謙（陸軍奉行・陸軍副総裁→少参事・軍事掛→元老院権大書記官）
榊篁邨（綽）（開成所活字御用→三等教授並）
長男・俶（附小生徒→東京帝大教授・精神医学）、次男・順次郎（附小生徒→産
科医）、三男・保三郎（九州帝大教授・精神医学）
・姻戚関係
石橋好一（従妹の夫、開成所教授手伝並出役→三等教授方）
成沢知行（妻の弟、第 2 期資業生）
芳賀可伝（妻の妹の夫、第 1 期資業生）
５．旧幕臣との交流
・出版事業
橋爪貫一抄訳『男女之義務』（1879.3）

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鈴木重嶺纂輯『雅言解』（1881.10）
佐久間貞一―秀英舎（現・大日本印刷）創業
（東京板紙会社社長）
・東京府士族総代会会長（1891 年）
レース教場事件
６．1898 年 8 月 7 日死去
追悼文「渡部温氏逝く」（田口卯吉（第 7 期資業生）主宰『東京経済雑誌』に掲載）
休日の白銀公園（新宿区神楽坂）