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旅の設計図会
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【2】査証(ビザ)について基本的なこと
どこの国でも外国人の訪問や滞在についての管理は重要で、外国人が入国し、滞在する
ことが自国民にとって好ましいのか、不都合なのかの判断を法律で決めています。日本
であれば “出入国管理令” がそれに当り、外国人の不法入国や不法滞在を法務省が監督
官庁となって規制しています。
観光目的や知人訪問、国際会議の出席、商談など、自国との交流を豊にして、しかも、
外貨を使って自国の経済を豊にしてくれる訪問は大歓迎であり、自国に工場などを建て
自国民に新たな就業の機会を生むような外資とともに、自国が持たない技術を指導して
くれる技術者の来訪は大切にしなければなりません。一方、特殊技術もなく単なる労働
で自国民の就業を奪うような外国人や、特定の宗教や政治信条、政治体制を国是として
いる国にとってはそれをかき乱そうとするような活動をする外国人は望ましくなく、
これを見極めるのが査証の役割といえます。
1.外国人の入国・滞在を管理するシステム
自国を訪問しようとしている外国人の受け入れが望ましいのか、入国させるべきでは
ないのかの判断は、旅行者が自国に到着する前に本人の居住する国で申請書類を審査
して行います。これを行うのは各国の外務省が旅行者の居住している国に派遣した
領事(Consul)の仕事です。
領事は旅行者からの申請書類を受け取って自国の法律と照らし合わせ、問題がなければ、
“あなたは入国してよろしい”と査証(ビザ)を発給します。このように査証(ビザ)は
入国許可証で、申請者の旅券にスタンプを押す、あるいはシールを貼付するという形で
発給されます。
ただし、領事が押す査証スタンプは仮の許可であることを知っておいてください。入国
させるかどうかは、到着空港で入国管理官(Immigration Officer)が最終的に判断
します。入国管理官はその国の法律を守らせる側の官庁(多くは内務省、日本は法務省、
米国では国家安全保障省など)の役人であり、旅券の中に領事が与えた査証を調べて、
滞在日数を決め、入国を正式に認めることにより、外国人の入出国管理をします。
2.査証のカテゴリー
入国を認めるかどうか(=査証を発給するかどうか)は、申請者の訪問目的や滞在希望
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期間の長さによります。査証をいくつかのカテゴリー(大体下記のような分類)に分けて、
それぞれのカテゴリーに必要な裏付け書類を要求し、それらの書類を調べて判断します。
大きく分けると、移住や結婚のような訪問国の国籍を取得するような目的で入国する
移民査証(Immigrant Visa)と一時的訪問を対象にする非移住査証(Non-Immigrant
Visa)に分かれ、非移住査証は国によってカテゴリーが違ってきますが、次のような
分類が一般的です。
●短期の滞在で、しかも、旅行中の行為から収入を生まない訪問
観光や会議出席などのための観光査証(Tourist Visa)、親族・知人訪問や商談など
の目的のための一時訪問査証(Visitor’s Visa)は、日程表とか往復の航空券の写し
など訪問が短期間であることを裏付ける書類があれば発給されます。
旅行中の行為から収入を生まない、ということは滞在中に就業しない、即ち、自国民
の就業機会を奪わない、ということを意味します。
●短期間でも、訪問中の活動により収入を得る場合に与える役務査証(Working Visa)
あるいは、その国で報道記録をとり帰国後に日本のメディアで報道するために取材
で入国するマスメディアに対して発給する報道査証(Media Visa)などはその内容の
詳細を証する書類の提出を求め、厳しい審査がなされます。
●長期の滞在が必要な目的で入国を希望する場合
就労査証(Employment Visa)と留学査証(Student Visa)が殆どのケースです。
就業の場合は、就業先の会社からの入国を求める要請書や、現地における保証人と
なる関係者の誓約書、それと現地の労働関係省庁が発行した労働許可書などの提出
を求め、留学の場合は学校からの入学許可書などを調べます。本国に照会・確認
する必要のある場合には本国の外務省に書類が回送され、本国で事実関係調査、
審査の結果を受けて、査証が発給されます。
●基本的に一回入国して出国したらその査証は無効になりますが、滞在許可の有効期限
内であれは2回入国できる査証(二次査証)や、数次入出国できる査証(数次査証、
Multiple Entry Visa)のカテゴリーを申請できる国もあります。
3.査証の免除制度
もし入国に際して査証取得のような面倒な手続きがないとしたら、2 国間の交流が増し、
相互理解が進んで国と国との関係はより深く、豊かになります。生産や貿易に携わる
人々が自由に行き来できたら、経済交流は次第に深くなります。
また、査証発給の仕事をするのは領事ですが、領事の仕事は外国人のための査証発給
ばかりではなく、領事が駐在している国に一時的に、あるいは長期的に居住している
自国民が必要とする役所の手続きで、本国の役所を代行するという大事な仕事があり
ます。

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