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旅の e-ラーニング講座
旅の設計図会
1 / 2
2. 歩き過ぎない
旅先で一番エネルギーを消耗するのは“歩くこと”で、旅の仕事は歩くことといっても
おかしくありません。海外旅行は思いのほか、毎日、毎日よく歩きます。バスで観光
していても、名所に着くたびに僅かなステップですが降りて、てくてく歩いて、美術館
や博物館に入り、あの部屋、この部屋と訪ね廻ったり、歩きにくい石畳の道を歩いて
お城にいくとか、普段の生活では考えられないほどに歩きます。午前中の観光が終わり
昼食、そして午後の観光とつながると、午後 3 時にはぐったりします。若い世代なら
さほどではないでしょうが、高齢の方はもうバスから降りたくないないとガイドに頼む
ほど疲れてきます。
個人旅行で移動をする場合、階段を上がったり下がったり、駅の長い構内を、しかも
スーツケースを持って歩いたり、スーツケースを列車に載せたりしなければなりません。
日本では健康のために 1 日 1 万歩、歩きましょうとよく言われますが、旅行中は
1 万歩どころか 2 万歩近くも歩いてしまう日が結構あります。自分の身長から 100
を引くと大体自分の歩幅です。160cm の身長なら歩幅は約 60cm で 1 万歩は 6.0km
ですから、1 日 2 万歩も歩くこともあるのです。観光から帰ったらすぐホテルで一時
横になりましょう。また、毎日外出が続くようだったら、欲張らずに半日は外に
出ないでホテルでゆっくり休みましょう。
靴の選択も重要です。とくに石畳の多い欧州は問題で、足が痛くなってきます。旅行
のために履いてきた靴が合わないようであれば旅先の靴屋で歩くのにあった靴を求め
ましょう。
3.下痢を防ぐ
体力を落とす大きな要因として、主に食べ物からくる下痢があります。飲食物から病気
にかかるのはなにも旅行する人ばかりではありませんが、食事に関して云えば、食材の
調達、加工、保存、調理器具・食器の衛生、調理人の衛生管理、調理方法など、料理に
関するほとんどの部分は、旅行者の目には見えないブラックボックスで、店の中や、
最後に出された時に使われる食器などが清潔かどうか見る程度しかできません。
清潔なレストランを探すべきとよく云われますが、事前に清潔かどうか
調べるのは難しいことです。自分がいくら衛生的に清潔を保った
としても、店側のこれらの過程のどこかに非衛生的な扱いがあれば、
病原体をも一緒に食べてしまう可能性が十分にあり、旅行者は
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食品衛生・食の安全においては非常に弱い立場にあります。
WHO は、食物が原因で引き起こされる病気「食品媒介疾病」の根本の原因は;
❖危険な微生物(微生物は人間にとって良い、悪い、危険の3種に分類される)
一般的には“ばいきん(黴菌)”、専門的には“病原菌”と呼んでいるもので、
具体的には、細菌、ウィルス、カビ、寄生虫などがあります。
❖有害な化学物質(“毒” )
の2点にあると分類し、その詳細な対策を案内しています1
。
1)危険な微生物による食品汚染
微生物は、100 万個集まっても針の頭程度の小さな生き物です。悪い微生物に分類
されるのは腐敗菌で、食品を腐らせるとか、悪臭や外観の変化の原因となりますが、
普通、直接人間の害にはなりません。食品の匂いや味、外観は食べて病気になるか
どうかの目安とはなりません。
●食品にある“危険な”な微生物は3種類あります。
・細菌 : サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター菌、大腸菌など
・寄生虫 : ジアルジア、トリヒナ
・ウィルス : A 型肝炎ウィルス、ノロウィルス
などで、もともと糞便の中、土壌や水中、鼠、昆虫、害虫や害獣、ペット、
海洋動物、家畜(牛、鶏、七面鳥など)、人間(髪の毛、口、鼻、胃腸、手、爪
皮膚など)が生息場所で、ほとんどの微生物は分裂によって増えます。
●危険な微生物への感染源
微生物が増殖するためには、食品、水、時間、温かさが必要で、従って、食肉、
水産食品、炊飯した米、茹でたパスタ、ミルク、チーズ、卵などは繁殖のために
理想的な媒体となります。微生物が原因の病気は衛生状態の悪い発展途上国だけ
心配していればいい、と思いがちですが、先進国でも状況は同じで、米国でも
国民の 3 分の 1 は食物媒介の病気に罹り、35 万人は入院して、毎年 5 千人は
死亡しているという報告があります。
●病原体の移動経路
微生物は人や物の助けによって移動(汚染)します。例えば
・手 … 微生物をある場所から他の場所へ移動させる最も一般的な手段は
ヒトの手です。
・汚染した食品及び水 … ウィルスは細菌よりもはるかに小さく、食品や水
の中では増殖しませんが、食品や水が感染の媒介物となります。
・ペットや家畜 動物は微生物を足、口または皮膚で運びます。人獣共通感染
1
今井博久・国立保健医療科学院疫学部部長が編集した WHO の「食品をより安全にするための
5 つの鍵マニュアル」を参照しました。

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