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わしきたのこれまでの研究
開発と振り返り(2019年2月版)
さくらインターネット研究所 定例 2019/2/20
2019/2/20
(C) Copyright 1996-2019 SAKURA Internet Inc
さくらインターネット研究所 所長 鷲北 賢さくらインターネット株式会社
アジェンダ
1. あらためて自己紹介
2. 大学時代の研究紹介
3. 企業での開発実績と振り返り
4. 研究所の意義とまとめ
2
自己紹介
3
前インターネット史的自己紹介(1982~1988年)
13歳 家電屋の店頭でPC-6001を見てプログラマになることを決心
14歳 誕生日プレゼントにPC-8001をねだって入手
N-BASIC、Z-80マシン語を始める
15歳 ざべとかASCIIを読みながらゲームを打ち込む
TL-1とかGAMEとかMAIのようなコンパイラに馴染む
16歳 高校の先輩を師匠にプログラミングを習う
Northというハンドルを使い始める
当時の開発はこんな感じ https://knowledge.sakura.ad.jp/1887/
18歳 CP/MでWhiteSmith Cに触れ、初めてHello Worldを書く
Turbo Pascalもこの頃
友人のPC-8801でマンデルブロ集合描画に挑戦し始める
19歳 パソコン通信したい一心で東京の大学を受験
4
参考:マンデルブロ集合
• 詳細はWikipedia見てね
• 高校生の頃は一晩かけても、基本画像の取得もままならず
─ 部屋にエアコンがなくて熱暴走したり
• PC-9801を入手してようやくマトモに描画できるように
─ でも拡大し始めるとどんどん時間がかかるように
─ 1枚描画するのに10時間かかるようになった
• 大学でACOS4を使ってガリガリやりだす
─ 夏休み、計算機センターに来る学生は自分一人
─ PC-9801で10時間の画像が20秒で計算できた
─ しかし通信機能がタコで、ダウンロードに20分かかる
─ エアコンが寒くて真夏なのにコートを着てプログラミング
─ そんなACOS4でも1時間ぐらいかかる拡大をやり始めた
• ちなみに;
─ 現代のIntel CPUだと100倍から1000倍速い
5
大学時代の
研究紹介
6
大学時代の人物像
• 不良学生でしたw
─ 授業で先生とぶつかってばかり
─ テストも赤点ばかりで一年留年
• プログラミングの最先端を勉強したいのに
─ クラシックな基本の学問ばかりで退屈してた
➢ Internet/Ethernetもやれてない
─ 電子工学や通信には全然興味が沸かなかった
➢ 文字通り落第
─ 一方でコンパイラや論理学はがんばった
➢ でもテストはギリギリ
─ 総合成績123人中100番目
• 自宅に引き篭もってMS-DOSでコードを書く日々
─ パソコン通信だけが頼り(後述)
7
プログラミングは学外に求めていた
• アスキー出版
─ 師匠が「月刊誌は締切が大変だから書籍にしな」というので書籍編集部へ
1. Turbo C プログラミング入門,鷲北 賢,阿部 正浩,1989
2. VZを256倍使うための本,志村 拓,可部 正三,鷲北 賢,1990
3. MIFES ver.5を256倍使うための本,志村 拓,可部 正三,鷲北 賢,1991
4. AWKを256倍使うための本,志村 拓,鷲北 賢,西村 克信,1993
5. AT互換機を256倍使うための本,志村 拓,波木 由起男,榊 隆,1994
─ このほか協力で4冊ぐらい(サンプルプログラム提供、ライブラリリスト作成など)
─ 技術評論社でも協力あり
─ 月刊ASCIIで落ちた原稿の穴埋めしたことも
• 当時の出版・書籍のポジション
─ 1980年代はエンジニアにとって出版がメディアの最高峰
─ Webがないので最新情報は雑誌や書籍から得ていた
─ 学生のうちから著述業で年700万円(当時の初任給の2倍)稼いでいる知人もいた
─ フリーランスのライターともなればかなり稼いでいたはず
8
オンラインコミュニティ
• パソコン通信(ASCII-NET)
─ まだインターネットはなく、ホストコンピュータに電話で繋ぐ時代
─ 「フリーソフト」と呼ばれるオープンソフトの走りのようなものを書いていた
─ 主な題材は「MS-DOS環境をUnix化」
─ 基本のcp/mvから、shライクなワイルドカードが使えるフロントエンドとか、
dump/restoreっぽいバックアップアプリなどを書いた
─ そのほかチャットで遊べる大富豪とか
• THcomp
─ 詳細はWikipedia見てね
─ http://thcomp.org/~pen/pfyp/thcomp/thc00.html
─ https://www.srs.ne.jp/~north/text/misc/e40.html
• NetHack
─ PC-9801用カラーコードのパッチでクレジットされている
─ https://www.nethack.org/v361/Guidebook.html
9
27年前の学士時代の研究
1. 西野博二, 鷲北 賢, 石井直子,派生文法による日本語構文解析, 情報
処理学会 自然言語処理(NL) 研究報告,1992
2. 鷲北 賢,結合価文法による日本語構文解析,卒業研究発表会,1993
• 1は留年した年に「ヒマなら論文書いたら?」と誘ってもらった成果
• 2の結合価については後述
• 日本語文法なんぞにまったく興味なかったのに、与えられたテーマに
つい熱くなるクセでのめりこみ、結局卒論も同じエンジンの改善を続
けた
• 解析エンジンは先代がLISPで書いたものを引き継ぎ
─ viのlispモードを使ってコーディング(Emacsは嫌い)
10
参考:就活
• バブル崩壊直後で、募集人数が前年の半数になった
• でも最初から就職に興味がなかった
─ 学外では執筆で身を立てている人も多かった
─ フリーランスのプログラマも多かった
─ 友人と起業するという話もあった(留年してフイに)
─ 知人が「うちの会社こない?」と誘ってくれていた
• 西野先生に「そういうわけで」と言ったら怒られた
─ 「推薦状を書いてやるからちゃんと就職しなさい」
─ その場で、Unixを仕事にできそうな企業を考えるハメに
─ NeXTを売っているという理由でキヤノンにした
─ (Apple嫌いなくせに)
11
企業での開発実績と
振り返り
12
参考:キヤノワード
• まさか就職できるとは!?
─ 推薦した大学に驚かれた
➢ が、理由はちゃんとあった
─ 同期のソフトウェア・エンジニアはほぼ全員プリンタ部隊へ配属
─ 一人だけワープロ専用機部門へ行くことに
• キヤノワード開発部門の、かな漢字変換担当部署
─ 当時はまだMS-IMEによる寡占は完成していなかった
─ 「やーいATOK」とか「ふつーVJE」とか
─ そんな中、辞書のメンテナンスを担当することに
─ 要するに学生時代の論文に目を付けられていた
13
各社IMEの変換率測定
• さまざまなかな漢字エンジンにかな文例を流し込み、正
解変換/誤変換を数え上げ、変換率を測定する
• 自分のところへ「変換結果」が届くので、これを文節に
区切り計測するプログラムを作成
• Mecabとか存在しない時代
─ 構文解析せず、正解文と字句種別を頼りに分かち書きするプ
ログラムを自作
• 分かち書きや集計プログラムをコード化・バッチ化して、
ターンアラウンドタイムを10分に短縮
• このときスクリプティングをAWKからPerlに切り替えた
14
動詞への結合価の付与
• 名詞(+助詞)と動詞には、意味的な関係がある
─ 名詞の「意味パターン」と動詞には結合できるものとできないも
のがある
• この結合価を辞書化し、変換時に参照する
─ 同音異義語から候補を絞る際に、意味を考慮してよりよい候補を
選択する
• 業務
─ 動詞のリストアップ、意味パターンの抽出
─ 辞書アップデートに伴う変換率変化の測定
15
結合価 [人物]+が [物質]+を 投げる
正 医師が 石を 投げる
誤 石が 医師を 投げる
石(いし) 物質
医師(いし) 人物
参考:大企業さらりまんとしてのプログラマ
• 大企業の内幕というのはドラマやマンガ通りなんだなと
実感した
─ シャツの裾をズボンから出す・出さないで総務とプログラマ
が喧嘩したり
─ 固定資産の棚卸しでNICにアルミプレートを貼りまわったり
─ いろんな人間模様を垣間見たり
• 最低5年間は勤めようと思っていた
─ インターネットの時代が来た
─ オンラインゲームとインターネット・チャットで知り合った
友人に「仕事せえへんか」と誘われた
─ 昇進試験に合格した直後に転職
16
さくらインターネット黎明期
• エス・アール・エス;ハウジングとVD事業の会社
─ 笹田さん(先代社長)が一人で構築した環境を引き継ぎ
─ ここまでの経緯の通りネットワーク・エンジニアとしての基礎訓練なし
• 運用をしつつシステムを整理・改善
─ サーバ設定の全面見直し
─ ネットワーク設定の全面見直しとトラフィック・エンジニアリング
─ NSの作り直し
─ newsサーバ構築
• 1年後にインフォレストの田中さん(現社長)と合流
─ ホスティング(さくらWeb)の会社
─ データセンターとコンテンツが合体すれば最強やん?
─ ということで協業・合併へ
• さくらインターネット株式会社設立
17
さくらインターネット拡大期
• データセンター構築
─ 初期はキャリアからの借り受け
─ 次に一般ビル内にラックルームを作り構築
─ 続いて「IDC対応ビル」へ
─ そして石狩データセンターに
(これには直接関わっていません)
• VDサービス開発
─ さくらインターネット設立後、インフォレストにサービスを寄せた
─ 自分で作ったサービスは解消・移管
• 開発受託案件
─ 今はやらないようなWebサイト開発受託を担当したり
• 個別の顧客対応
─ パブリックサービスの多いさくらにおいて、ワイルドカードとして対応
─ mixiのデータセンター移管担当とか
18
最近の出来事
• オンラインゲームプロジェクト [2006-2009]
─ 海外製品を買付けてホスティングする形式
─ 要件はすべて指定されていた(ので面白みはあまりない)
─ 安定運用が一番のミッション
─ 技術的には面白かったが売上は面白くなかった
• さくらのクラウド開発プロジェクト [2011-2018]
─ 開発部がVPSで忙殺されていたため代理で担当
─ オンラインゲームで培った「本流とは違う開発体制」を敷いた
➢ まずリリース、その後考える。モットーは「Demo or Die」
➢ 独自の課金システム、独自の運用チーム
─ 結果はご覧の通り
• 基本的にプレイングマネージャーばっかし
─ 古い縁で本を一冊書いた
6. 新米サーバ/インフラ担当者のための 仮想サーバ/クラウド技術の常識,鷲北 賢,2015
19
研究所の意義
20
さくらインターネット研究所
• さくらインターネット研究所とは
─ インターネット技術に関する研究を行う
─ 成果の発信と利用を通じて、社会と会社に寄与す
る
• モットー
面白いと思うテーマに
どしどし取り組んでいく
21
これまで学んできたこと
• 何事も選択と失敗の連続である
• 今うまく行っているのは運がいいだけ
• 未来は見通せない
• 楽観的悲観論者
22
研究所の役割 - 選択肢を増やす
• 中・長期のビジョンに立ち、3年~5年後に役
立ちそうなことを考える
• 色々なアイディアを出しておき、本当に必要な
時にパッと出せるようにしておく
23
選
択
・
多
様
性
研究所の役割 - 選択肢を増やす
• 中・長期のビジョンに立ち、3年~5年後に役
立ちそうなことを考える
• 色々なアイディアを出しておき、本当に必要な
時にパッと出せるようにしておく
24
流行・成功を正確に
予想する必要はない
斥候として先回りする
のが研究所の任務
所長の仕事
• みなさんの「やりたい」にYESと答えること
─ 「さくららしさ」さえあれば何でもOK
─ そのために必要な庶務が仕事です
─ 合間に研究できたらハッピーかな?
• でも「さくららしさ」ってナニ?
─ フワっとしている
─ 定義したら死んでしまう
─ なので自分で体感し、体現してもらうしかない
─ 話し合って輪郭を作っていく感じ?
25
さくら
らしさ
さくららしさを形作る
• さくららしさに入っていればOK
• 入っていないように見えてもOK
• もしかしたら「らしさ」がそっちに移動するかも?
26
まとめ
27
面白いと思うテーマに
どしどし取り組んでいく
28
参考:最近の関心事
• 仮想サーバ
─ 多数の安いサーバを寄せ集めて一つのOS環境を構築
する的なモノ。ハイパワーマシンを分割する発想は
あまり好きでなく、分散して使うならこういう発想
の方が好き
─ ただ超個体データセンターの発想のほうが規模が大
きくて未来的なので、そっちの実装の方を眺めるか、
具体的に手伝えそうな部分があったら手を動かして
みるのが面白そうな気がする
─ みんなが見ていない部分があったらそこをやる
• 横田さんと一緒にvTuberにならせていただく
─ さくらの動画配信系のコンテンツが弱いように思え
るので、面白さも加味してvTuberを目指してみる
─ 技術的にはカメラで撮るバストショットから3Dキャ
ラを連動させるまで
─ イメージのお手本はMax Headroom
─ ゲストを気軽に呼びたいので、キットも気軽に使え
るように作りたい
─ 実は類似のものはすでにあるので新鮮味は薄い
• ARCADE1UP IoT化
─ 菊池さんとのジョイントプロジェクト
─ ゲーム機を受付に置くために、電源制御と状態監視
とパニックボタンを搭載し、リモート監視/制御で
きるようにする
─ その後総務と交渉する予定
• 監視プロジェクト
─ 引き継いで、手を引く予定
• プロダクトはやらんの?
─ やらへんでー
• 本は書かんの?
─ 儲からへんでー
─ blogのほうがよい(儲からなくても)
29

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