Optimization of Automated Ordering Technique which supports Category Management1. カ テ ゴ リ ー ・ プ ロ フィ ッ ト ・マネジメントを支える在庫管理の技術
第 1回:在庫管理の基本 ロジックと経済的基準在庫について
HIROYUKI MITA
OPTIMUM RESEARCH
h t t p : / / w w w. o p t i m u m c p m . c o m
6. 表2-1. 品切れと売れ残りを考慮した期待利益の計算
表2-2. 期待利益を最大化する在庫数(個別最適所要量)
いま、商品の仕入を10個を行い、その日の需要が5個とします。表 2-1 で需要が5個のときの行を見てみま
しょう。在庫は10個あるので需要をすべて賄うことができ、粗利益として30円 5個=150円を得ることがで
きます。しかし、5個売れ残ってしまうので、売れ残り損失として0.5円 5個=2.5円の損失が発生すること
になります。したがって、正味の粗利益は150-2.5=147.5円ということになります。
今度は、その日の需要が15個だったらどうでしょう。 表 2-1 で需要が15個のときの行を見てみましょう。
仮に在庫が豊富にあって需要をすべて満たすことができたならば、15個 30円=450円の粗利益が得られた
はずです。しかし、実際には在庫は10個しかないので、5個は売り損なってしまいます。つまり、30円 5個
=150円の販売機会損失が発生します。したがって、正味の粗利益は、本来獲得できたはずの粗利益から販売
機会損失分を引いて450-150=300円になります。
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10. 表3-3. 需要のばらつきが異なる場合の基準在庫
がって、需要平均が同じであっても、需要のばらつき(つまり標準偏差)が異なれば、保有すべき在庫(安
全在庫)の大きさが異なって然るべきです。
表3-3 に計算結果を示します。3つの商品は、需要の標準偏差が異なるだけで、需要平均と販売条件はどれ
も同じにしてあります。 計算結果を見ると、需要の標準偏差の大小に応じて、経済的基準在庫も大小変化し
ていることが分かります。
次に、3つの商品の経済的基準在庫を合計した70.9個の在庫を在庫回転率が同じになるように割り振ってみ
ましょう。在庫回転率は0.54になります。どの商品の平均需要も10個で同じですから、在庫回転率に基づく
基準在庫は、どれも23.6個で同じになります。
経済的基準在庫と比較してみましょう。商品Bは、需要のばらつきが大きいので在庫を多めに持たなくては
ならないにも拘らず、経済的基準在庫の41.8個よりもかなり少なくなっています。逆に、商品Cは、需要の
ばらつきが小さく安定しているので、それほど多く安全在庫を持つ必要がないにも拘らず、経済的基準在庫
の11.1個よりもかなり多くなっていることが分かります。
このように、需要のばらつきも考慮しなければ、適切な安全在庫を保有した基準在庫を求めることはではな
いことが分かります。
3.4.!
在庫回転率を同一にする在庫管理の誤
先に提起した「商品の在庫回転率(または在庫日数)が同一になるように在庫を持たせることがよいやり方
か?」との問いに対しては、上記の分析から、そんなに単純ではないということが見えてきたと思います。
結論を出す前に、上記の分析から明らかになった点を整理してみましょう。
在庫回転率を同一にする在庫量と言っても、在庫回転率を何回転にすべきかについての言及はないの
で、結局、試行錯誤的に調整して行かざるを得ないが、その行為は、欠品も売れ残りもでないよう
「上手に」 調整することを暗黙的に意識しており、本質的には、経済的基準在庫を求めることに他な
らない。
最適な在庫数は、需要の大きさだけに基づいて決められるものではない。需要の不確実性に対する収
益性リスク(販売機会損失と売れ残り損失)を考慮しなければならない。
収益性リスクを考慮した基準在庫を求めるには、需要の大きさ以外にも、少なくも、需要のばらつき
に対する販売機会損失および売れ残り損失を定量化し、それを最小化する経済的基準在庫を求める必
要がある。
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14. 表 5-1 特売品の在庫管理
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15. 表 5-1 特売品の在庫管理 (続き)
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16. 在庫予測数=前日在庫数+振替数+納品数需要分布
在庫予測数を計算するにあたり、需要分布として単純に販売予測を使用した計算にはなっていないことに注
意して下さい。需要はばらつきがあるので、大きな需要や小さな需要が確率的に発生します。その際、現在
の在庫数よりも大きな需要が発生したとしても、在庫はマイナスにはならないので、マイナスの値をゼロに
置き換え、表 1-1 で示したような期待計算をしなければなりません。そのように計算を行うと、単純に販売
予測を引いた値とは若干異なった値になります6 。
表示されている発注点と基準在庫値は、発注所要期間に関する所要量です。直近納品日の在庫予測数が発注
点を下回ると、基準在庫数と直近納品日の期首在庫予測数との差分を発注します。なお、発注点(または基
準在庫数)に値が表示されている日が発注可能日です。
発注数は、以下の式で算出します。例えば、表 5-1 の 3/22 の発注数は、基準在庫数252.1個直近納品日
の期首在庫予測数71個=181.1個を発注ロットで丸めて186個と算出されます。
発注数=基準在庫数直近納品日の期首在庫予測数
在庫管理パラメータに関する項目としては、直近納品日、次回納品日、SMin (最低在庫数)、CTMin (最低在
庫日数)、 LCP(販売期間)、EOCT (経済発注サイクル)が表示されます。直近納品日を見ることで、当日発注
したものがいつ納品されるかが分かります。発注所要期間は、直近納品日から次回納品日の前日までなの
で、発注が何日分の需要を賄うものになっているかも分かります。
それでは、表 5-1 の内容を分析してみましょう。 以下の前提条件で在庫管理を行います。
• LCP:180日
• 最低在庫日数:1個
• 最低在庫日数:0.5日
• 目標粗利益率:20%
この商品は、売価65円で特売を 3/22∼4/1 で実施しています。さらに、ポイント6倍を 3/23∼4/1 で実施
しています。特売とポイントは開始日が1日ずれていますが、ほぼ重なった期間で実施されています。需要
の大きさは、通常売価のときは1日当り数個ですが、特売期間は1日当り30個くらいに増加し、それが日
曜日やポイント増の期間と重なるとさらにその倍以上売れる日もあります。
CPMの需要予測は、過去の実績とコーザルに基づいて需要予測モデル7 が構築され、予測期間のコーザルに
基づき予測値が算出されます。販売実績と販売予測の推移を見ると、実績と予測が近い値になっていること
が分かります。曜日変動や特売等を含めコーザルの条件が過去と同じであれば、過去と同様の需要が発生す
ることを示しており、コーザルに基づいて需要予測を行うことの正当性を理解することができます。
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表 1-1 では在庫が10個のときに平均10個の需要分布を想定して期待値の計算をしていますが、在庫数から需要分布を引
いた売れ残りは1.2個となりゼロではないことが分かります。つまり、需要分布があるときは、期首在庫から単純に販売
予測を引いたのでは、期末在庫の正しい期待値を求めることはできないということです。
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CPMは多変量系列相関モデルという手法を用いています。時系列データに対して適した手法で、精度の高いモデル構
築が可能です。コーザルを利用する他の手法として重回帰分析がありますが、重回帰分析はクロスセクションデータに
適した手法で、時系列データには用いることは適当ではありません。
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17. 発注点と基準在庫の動きについて見てみましょう。 3/12 は発注点よりも基準在庫数が大きくなっています
が、それ以降は、発注点よりも基準在庫数が同じ値になっており、在庫管理が発注点方式から定期発注方式
に変化していることが分かります。その理由は、特売に向けて需要が増加することを受けて、EOCTが徐々
に低減しているためです。EOCTが発注所要期間以下になると、経済発注サイクルを考慮した加算の必要が
なくなるため、発注点と基準在庫数が等しくなり、定期発注方式に変化します。
発注頻度を理解するために、EOCTの変化を見てみましょう。EOCTは、需要が大きくなると逆に小さくな
るという性質 があります。通常売価のときは需要が数個と小さいので、EOCTは約3日と大きく発注頻度は
少なくなります。しかし、特売期間は需要が大きいので、EOCTは1日まで小さくなっています。そのため、
発注可能日には、ほぼ毎回発注するようになります。3/16 に発注がないのは、この時点の需要予測では、
3/18 の在庫予想数が発注点を下回っていなかったからです。3/19 と 3/21 に発注がないのは、3/21 に納品
予定が198個あるためです。
在庫管理の要件がきちんと満たされているか確認してみましょう。
まず、特売開始時の在庫が豊富になっているか見てみましょう。 CPMはこの要件を満たすために、 3/15に
企画発注として192個の発注を行っています。この発注は、所要期間が特売開始日から4日間で、特売開始日
の7日前に発注するという条件で算出されたものです。
次に、特売終了日に向けて在庫を売り減らして行く様子を見てみましょう。CPMはこの要件を満たすため
に、LCPとCTMinを一時的に自動調整することで対応します。まず、特売開始日の3/22から特売終了日の
4/1に向けて、LCPが徐々に低減しています。LCPが短くなるというこは、在庫が売れ残るリスクが高まるこ
とを意味します。すると、CPMはこの商品の売れ残り損失単価の評価を徐々に大きくして行きます。売れ残
り損失単価が大きくなると、表 3-2 で示したように、経済的基準在庫は逆に小さくなっていきます。この性
質を利用することで、特売終了日に向けて基準在庫が自動的に抑制され、売り減らしが行われるわけです。
さらに、CTMinも特売終了日に向けて自動的に減少させて行きます。 ところで、CTMinは、演出効果のた
めに在庫加算を行うことなので、必要以上の在庫量が確保されることになります。この商品のCTMinには
0.5日がセットされているので、最低でも半日分の在庫量が確保されるよう在庫管理が行われます。特売期
間は毎日40個を上回る需要が発生するので、大凡40個 0.5=20個の商品を維持するよう発注が行われてし
まいます。しかし、通常販売に戻る直前にはそんなにたくさんの在庫量は必要ないので、特売終了日に向け
てCTMinをゼロまで低減させることで、在庫加算を解消しているわけです。
以上の働きを基準在庫数と在庫数の推移を見ることで確認することができます。3/22 の特売開始時は、在
庫数は198個と豊富に保持されていますが、4/1 の特売終了時に向けて余分な在庫が残らないよう基準在庫
が徐々に抑制され、特売終了日には在庫がうまい具合に26個まで低減し、通常売価での在庫水準にスムーズ
に移行するよう在庫管理が行われることが分かります。
以上の分析から、CPMの在庫管理が特売時の大きな需要変動に対応しながら、適切な発注頻度で、特売品
の発注要件も満たした在庫管理を行っていることが確認できたました。
5.1.!
日配品の在庫管理
日配品の在庫管理を行うときには、通常以下の点に注意が払われます。
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18. •
販売期間が短いので、売れ残りが出すぎないようにする。
•
他品とのカニバリにより当該品の需要が著しく減る場合があるので、需要の減少を予測して売れ残り
が出すぎないよう発注を抑制する。
以下の前提条件で在庫管理を行います。
• LCP:5日(賞味期限7日の商品を2/3ルールに基づいて5日に設定)
• 最低在庫日数:1個
• 最低在庫日数:0日
• 目標粗利益率:20%
表 5-2-1 は、日配品Aの事例です。 この商品は、売価141円で月間特売を 4/1 まで実施しています。さら
に、毎週水曜日には、売価100円の特売を実施しています。ポイント6倍も 3/23 ∼4/1 で実施しいます。需
要動向については、表からは分かりにくいですが、3/18 以前は売価141円で1日当り25個前後で推移して
いたものが、3/19 以降は30数個に増加しています。水曜日の売価100円の特売日には1日当り100個以上の
需要が発生しています。需要の曜日変動は顕著ではなく、ポイント6倍の影響も顕著ではありません。
発注点・基準在庫方式の動きについて見てみましょう。この商品のEOCTは、需要が大きいため、期間全体
を通じて1日で推移しています。したがって、在庫管理は定期発注方式になり、発注可能日にはほぼ毎回発
注が行われることになります。 LCPは5日なので、在庫数が需要の5日分を超える日があると、販売期限切
れで処分品が発生することになります。在庫推移を見るとそういった日はないので、売れ残り処分は発生し
ないようです。
在庫水準の変化について、詳細に分析してみましょう。3/19 の週の在庫水準は、全般的に少なくなってい
ますが、原因は 3/19 以降の需要の増加によるものです。需要が何回か続けて上振れすることは珍しくあり
ません。サイコロを振って3回続けて4以上の目が出るようなものです。需要が増加するとそれに追随して
需要予測も増加しますが、どうしても後追い的になるため、その分は安全在庫でカバーしなくてなならなく
なり、在庫水準が低下します。需要予想は追随して増加しているので、3/26 以降の予測値が概ね30個前後
として算出されています。しかし、今週以降本当に30個前後の水準になるか、それとも25個前後に戻るかは
わかりません。もし戻った場合は、今度は一時的に在庫が増加しますが、需要予測が追随して減少するの
で、在庫も数日で通常水準に戻ります。
次に、カニバリへの対応がきちんとできているか見てみましょう。表 5-2-2 は、日配品Bの事例です。この
商品は、日配品Aとカニバリの関係にあります。日配品Bの需要は、1日当り10個前後ありますが、毎週水
曜日は、日配品Aの特売によるカニバリが起きて、1日当り数個に大きく減少しています。
発注点と基準在庫の動きについて見てみましょう。 水曜日の需要減少に伴って月曜日の基準在庫が小さく
なっていることが分かります。例えば、月曜日の 3/26 を見てみると、発注点は13.8個で、3/28 の朝の在庫
予測数は26個なので、発注は行われません。その前週月曜日の 3/19 についても、同様に発注は行われてい
ません。 売れ残りの発生についても、在庫数が需要の5日分を超える日はないので、売れ残り処分は発生し
ないようです。在庫水準は、ほぼ安定的に推移しています。
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19. 表5-2-1 日配品Aの在庫管理
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20. 表 5-2-2 日配品Bの在庫管理
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