注目が集まる科学技術
「バイオミメティクス」
科学技術ジャーナリスト
山田久美
バイオミメティクスとは何か
バイオミメティクスの歴史
今、バイオミメティクスが注目を
集める理由
バイオミメティクスにおける最新
動向
本日のアジェンダ
「生物模倣」
生物の構造や機能から着想を得た
ものづくり
=生物学と工学の融合領域
「バイオミミクリー」とも
バイオミメティクスとは何か
これ、なんだ?
ヤモリの指の拡大画像でした。
トッケイヤモリ
全長25~35センチ、体重50~60
g
日本ヤモリの約3倍の最大種
天井でも壁でも
素早く自由に走
り回るヤモリの
指がどうなって
いるのか、
100年にわ
たって議論され
続けた。
それが2000
繊維1本1本が天井や壁の表面の
凹凸に入り込んで、隙間をなく
すことで、引力(ファンデル
ワールス力)が発生。
垂直な壁にもくっつくことがで
きる。
繊維の先端は直径0.2ミクロン
(ミクロンは100万分の1メート
ル)
1cm²に20億本もの繊維が
ビッシリ!
ヤモリの接着システムのすごい点
よくくっつき(接着)、しかも、簡単にはがせる
(剥離)
接着剤が不要で、低温や高温下、水中でも接着可
能
⇒現在、ヤモリの接着システムを世界中で研究中
⇒日本の日東電工が「ヤモリシート」を開発
誰でもスパイダーマンになれるかも!
世界中で研究されている
ヤモリの接着システム
日東電工が開発したヤモリシー
ト
これ、なんだ?
ハスの葉の表面でした。
ロータス効果(自浄作用)
ハスは、東洋では、何千年も前から「聖性」の象徴
仏教では、「智慧」や「慈悲」の象徴
⇒「ハスは泥より出でて泥に染まらず」(中国の成
ハスの葉の表面は
ナノサイズの凸凹で覆われてい
た!
表面の凸凹構造と
ワックス成分が
超はっ水(まったく
ぬれない)の秘密
だった!(ドイツの
植物学者が発見)
超はっ水とは
ハスの葉の超はっ水性のすごい点
水にまったくぬれないので、汚れ知ら
ず
⇒日本では帝人ファイバーが、超はっ
水の繊維を開発
⇒超はっ水研究の第一人者、高井治先
生もワイパーのいらない自動車に挑戦
中。
世界中で研究されているハスの葉
の超はっ水性
これ、なんだ?
蛾の眼でした。
モスアイ構造
夜行性で、暗闇でも飛べる
蛾の秘密は眼の構造にあ
り!
蛾の眼は、個眼が沢山集
まってできた複眼
複眼の表面は突起でビッシ
リ
突起1個の幅は約100ナノ
蛾のモスアイ構造のすごい点
光を反射しない(光の波長よりも短いた
め)
⇒反射防止フィルムの開発
お日様の下でも
よく見えるディスプレー
作品をよく鑑賞できる
美術館や博物館
無反射フィルム
1950年代後半ごろに神経生理学
者のオットー・シュミットが命
名
1935年:「ナイロン」の発明
米国デュポン社のカロザースさ
んが、カイコからとったシルク
バイオミメティクスの歴史
1940年代:
オモナミのいがを
ヒントにした「面
ファスナー」(マ
ジックテープ)が
誕生
バイオミメティクスの歴史
オナモミのいが(ウィキペディ
アより)
ここで質問で
す。
写真の新幹線
500系の中に隠
れている2種類
の生物は何と
何でしょう?
バイオミメティクスの歴史
バイオミメティクスの歴史
答えはカワセミとフクロウ
バイオミメティクスの歴史
電子顕微鏡
でとらえた
サメの肌 水の抵抗を減らし
た
サメ肌の水着
バイオミメティクスの歴史
カタツムリの殻が汚れにくいしくみをヒ
ントに、
汚れにくい外壁材を開発(LIXIL)
LIXILのWebサイトより
モルフォチョウの構造色をヒントに
染めない繊維やフィルムを開発
バイオミメティクスの歴史
バイオミメティクスの歴史
ウィキペディ「メルセデス・ベンツ バイオ
メルセデス・ベンツがハコフグの形をヒント
に
低燃費・低エミッションの自動車を開発
電子顕微鏡の登場やナノテクノロジーの発展
で、生物の秘められた能力が次々と明らかに
18~19世紀の産業革命(工業革命)以来、発
展し続けてきた科学技術の負の遺産が深刻化
⇒地球温暖化、環境破壊、資源・エネルギー問
題
持続可能な社会を築くためには、
今、バイオミメティクスが
注目を集める理由
その切り札が、バイオミメティク
ス!
【理由】
5億年にわたる自然選択を行ってきた生物
は有機物を中心に限られた元素だけ、かつ
常温・常圧で、高機能な構造やデザインを
形成
ゴミを一切出すことなく、完璧な循環シス
テムを形成
⇒生物を含む「自然」には、我々人類が直
面している問題を解決するあらゆるヒント
今、バイオミメティクスが
注目を集める理由
これまで:自然を支配し、自然か
ら搾取するという思想の下で発展
してきた科学技術
これから:自然から学ぶことで、
環境負荷をかけない持続可能な社
会を実現する科学技術
今、バイオミメティクスが
注目を集める理由
【日本】
2012年度から、文部科学省科学研究費補助金の新技術
領域研究として、「生物多様性を規範とする革新的材
料技術」(略称:生物規範工学)が発足
領域長:東北大学 下村政嗣教授
●狙い:バイオミメティクスを推進することで、生物
学、博物学、材料科学、分子科学など、さまざまな領
域の学問の融合と異分野の産学連携を図る。
(1)産業に資する低環境負荷の新しい技術体系の創生
(2)生物と工学の両方に長けた人材の育成
バイオミメティクスにおける最新
動向
【日本】
バイオミメティクス研究会
(公益社団法人高分子学会)
運営委員長:東北大学 下村政嗣教授
ネイチャーテック研究会
代表:東北大学大学院 環境科学研究科 石
田秀輝教授
自然のすごさを賢く活かす新しいものづくり
「ネイチャー・テクノロジー」を提唱
バイオミメティクスにおける最新
動向
[世界]
●ドイツ規格協会の提案の下、
2012年10月、国際標準化機構(ISO)において、
バイオミメティクスの標準化のための新たな技術
委員会TC266が設置
⇒日本は経済産業省が高分子学会に委託
参加国:
Pメンバー:日本、ドイツ、フランス、チェコ、ベ
ルギー、イギリス、韓国、中国、オランダ、イス
ラエル
Oメンバー:フィンランド、米国など
バイオミメティクスにおける最新
動向
【米国】
●2010年にサンディエゴ動物園が、15年以内に、
年間3000億ドルの国内生産の可能性があると報告
●2009年までの「バイオミミクリー」という単語を含
む特許出願は、米国特許商標庁のデータベース検索で
900以上
【ドイツ】
●2013年4月開催のハノーバーメッセで、フェスト社の
トンボの飛行をまねたロボット「BionicOpter]が大き
な話題に
●ルフトハンザのエアバスA340-300にサメ肌コーティ
ング
【フランス】
バイオミメティクスにおける最新
動向
バイオミメティクスは、
異分野連携(生物学、工学、
化学、農学、環境科学など)
により、持続可能な社会の実
現するイノベーションをもた
らす切り札となる新学術分野
まとめ

注目が集まる科学技術、バイオミメティクスに迫る!