国際政治学から見た地域主義と日本ーアジア主義の遺産としてのアジア地域主義（修正版）
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立命館大学アジア・日本研究所 AJIインターディシプリナリー・セミナー 2020年9月22日 https://www.slideshare.net/toruoga/ss-238586174 の修正版。形式を若干修正しました。
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国際政治学から見た地域主義と日本ーアジア主義の遺産としてのアジア地域主義（修正版）
- 5. 1．東アジア地域主義の成り立ち ※冷戦期→東西対立と南北対立 ※但し、アジアにおいては冷戦構造は希薄 1989 ベルリンの壁崩壊 1989 アジア太平洋経済協力（APEC）設立 1991 ソ連解体 1995 世界貿易機関（WTO）設立 1997～1998 アジア通貨危機 1997 ASEAN+3 2005 東アジアサミット（ASEAN＋6） 2011 東アジアサミットに米露が加わる（ ASEAN＋8 ）
- 6. ＡＳＥＡＮ（東南アジア諸国連合） ASEAN+3: 日本／中国／韓国 6 ASEAN+6: 日本／中国／韓国 ／豪／ニュージーランド／印 ASEAN+8: 日本／中国／韓国 ／豪／ニュージーランド／印 ／米／露
- 7. 1．東アジア地域主義の成り立ち 7 2016 GDP 2030 GDP 2050 GDP 1 中国 21,269 中国 38,008 中国 58,499 2 米国 18,562 米国 23,475 インド 44,128 3 インド 8,721 インド 19,511 米国 34,102 4 日本 4,932 日本 5,606 インドネ シア 10,502 5 ドイツ 3,979 インドネ シア 5,424 ブラジル 7,540 6 ロシア 3,745 ロシア 4,736 ロシア 7,131 7 ブラジル 3,135 ドイツ 4,707 メキシコ 6,863 8 インドネ シア 3,028 ブラジル 4,439 日本 6,779 9 イギリス 2,788 メキシコ 3,661 ドイツ 6,138 10 フランス 2,737 英国 3,638 英国 5,369 世界の経済予測 PWC 2017 (Billions U.S. dollar)
- 9. 2．国際政治学から見た地域主義 • リアリズム • リベラリズム • 構成主義 • マルクス主義 国家中心主義 トランスナショナル関係論 国際政治学 国際関係論 物 質 的 潜 在 能 力 国 際 規 範 形 成 リアリズム マルクス主義 リベラリズム 社会構成主義
- 10. 2．国際政治学から見た地域主義 １）リアリズム • 世界は「アナーキー（anarchy）＝無政府状態」である • 国家の目的は生存と安全保障の確保 • 行動様式は「国益（national interests）」を最大化す る ①国家は国際政治における唯一の主体 ②国家は常に合理的な行動様式を選択する ③国内政治上の対立は、国家の行動様式に影響を及ぼさ ない ※ 国際制度は覇権安定論によって説明される
- 11. 2．国際政治学から見た地域主義 １）リアリズム • 東アジア共同体や地域主義とは「理念」ではなく、あ くまでも現実の利害関係の所産 • 地域主義を日米中の覇権争いの場と理解する 「バック・トゥー・ザ・フューチャー」仮説 (Friedberg 1993, 1995) • 「ヨーロッパの過去がアジアの未来となる」 • ポスト冷戦期のアジアは19世紀以前のヨーロッパのよ うな多極構造（勢力均衡）へ変化している
- 12. 2．国際政治学から見た地域主義 2）リベラリズム • 国際関係は国家間の対立よりもむしろ国際協調へ向 かっている 👉相互依存（interdependence） （Keohane and Nye 1977） ①アクセスの多様性（multiple channels to access） ②軍事力の役割の低下（minor roles of military） ③争点序列の不在（no hierarchy among issues） 👉国際レジーム（international regimes） （Krasner 1983） 「国際関係の特定の領域において参加主体の期待が収束する直 接的あるいは間接的な原則・規範・ルール・意思決定の方法」
- 13. 2．国際政治学から見た地域主義 ２）リベラリズム • グローバル化、多角的貿易体制が完成するまでの過渡的な 現象 • 国際レジームは地域ごとではなく、政策領域ごとに再編成 されている 👉国連専門機関、ブレトンウッズ機関など • 地域内貿易よりも地域間貿易のほうが増加している
- 14. 2．国際政治学から見た地域主義 ３）構成主義 • 国際関係は利害関係の所産ではなく、文化的・歴史的に形 成された規範やアイデンティティによるものである • 権力政治もひとつの規範（権力政治→評判政治） 規範とは？ • 「当該共同体において適切であると受け入れられた行為を めぐる共通の期待を意味している」（Finnemore 1996） • 規範それが正しいから（規範が真理を含んでいるから）形 成されるわけではなく、社会の構成員がそうした規範を 「妥当なもの」・「適切なもの」であると受け入れたとき に形成される（規範カスケード）。
- 15. 2．国際政治学から見た地域主義 ３）構成主義 👉政策とは権力と価値との結合 開放性仮説 • グローバル化と地域主義は相反するものではなく互いに 包摂可能 • グローバル化と地域主義は両立する 閉鎖性仮説 • 「アジア太平洋」ではなく「東アジア」 • 反グローバル化や反米意識が地域主義の原動力（グロー バル化とは両立しない）
- 17. 2．国際政治学から見た地域主義 ４）マルクス主義 地域主義＝搾取 • 地域主義はグローバル化を加速し、先進国から途上国 に対しての搾取を強める 地域主義＝抵抗 • グローバル化に対しての対抗ヘゲモニー • 東南アジアにおける市民社会の隆盛は新自由主義を中 心としたグローバル経済に対してのオルタナティブに なり得る
- 19. 3．地域主義の理論と概念 １）東アジア地域主義の3概念 1967 ASEAN成立 1989 APEC成立 1994 ボゴール宣言 1997 アジア通貨危機 →ASEAN+3成立 2000 チェンマイ・イニシアティブ 2001 東アジア・ビジョン・グループ 2002 東アジア・スタディ・グループ 2005 東アジア・サミット（ASEAN＋6） 2011 米ロも東アジアサミットに参加（ASEAN+8） アジア太平洋地域主義 東アジア地域主義 拡大東アジア地域主義
- 20. 3．地域主義の理論と概念 2）機能主義と新機能主義 機能主義（デーヴィット・ミトラニー）(Mitrany 1943, 45) 👉政治的領域（外交・安全保障）と非政治的領域（経済政策・社会政 策）を区別。非政治的領域における国家間協力 👉世界政府のような集権的国際機構の設立は現実的ではない 新機能主義（エルンスト・ハース）(Haas 1964) 👉非政治的領域での協調が政治的領域への協調へと波及 （スピル・オーバー効果） 👉時間かければ政治的領域での協調や統合も可能 👉将来的には国家主権を制限し得るような国際統合
- 21. 3．地域主義の理論と概念 ３）バラッサの地域統合概念（Balassa 1961） 1.自由貿易地域（free trade area） →加盟国間の関税は撤廃。非加盟国に対する関税は従来通り 2.関税同盟（customs union） →商品移動に関する差別待遇の排除、非加盟国に対しての関 税の均一化 3.共同市場（common market） →貿易制限の撤廃、生産要素の移動制限の撤廃 4.経済同盟（economic union） →商品移動・生産要素の移動制限の撤廃、加盟国間の政策調整 • 5.完全な経済統合（total economic integration） • →金融政策・財政政策・景気対策の統一化と超国家機関の設置 １
- 22. 3．地域主義の理論と概念 ４）地域主義（Regionalism）と地域化(Regionalization) • フィッシュロー（A. Fishlow）とハガード（S. Haggard） (Fishlow and Haggard 1992) 【地域主義】地域アイデンティティや政治的な制度化 【地域化】地域内の経済的紐帯や経済政策の調整 • ペンペル（T.J. Pempel） (Pempel 2005) 【地域主義】国家間の関係 【地域化】非国家主体の関係 １
- 23. 3．地域主義の理論と概念 5）地域主義の展開 • 東アジア型地域主義（ASEAN、ASEAN+3） →「東アジア」の構成メンバーをASEAN+日中韓に限定する • アジア太平洋型地域主義（APEC、TPP） →「開かれた地域主義」。排他的地域主義はとらない 👉インド太平洋地域主義 • 拡大東アジア地域主義（東アジアサミット、ARF） →ASEAN等の東アジア加盟国が中心的な役割を担う一方で、非東 アジア諸国の加盟を妨げない １
- 25. 0 10 20 30 40 50 60 AIIB SCO EAS ARF TPP APEC ASEAN+3 ASEAN Regional Frameworks East Asian Other Asia North America Aceania Rest of the World
- 26. 2020/9/22 1990s 2000s 2010s APEC TPP ASEAN ASEAN+3 EAS ARF アジア太平洋地域主義 東アジア地域主義 拡大東アジア地域主義 SCO AIIB
- 28. 4．地域主義と日本 １）東アジア共同体論の形成 • 1945年を境に戦前と戦後を分ける →戦前の「アジア主義」と戦後の「地域主義」 • ＡＥＲＡ（2003年） • 朝日新聞元旦社説（2005年） • 鳩山論文「私の政治哲学」（2009年） • あるいは白石＝ハウ「「アジア主義」の呪縛を超えて」 （中央公論2009.3） https://www.dropbox.com/sh/3wcl1ccvsskdbgk/AACy9UMsEDF8 o7-jrc9O408Da?dl=0 28
- 29. 4．地域主義と日本 １）東アジア共同体論の形成 • 歴史主義肯定派 →アジア主義との史的連続性を積極的に認めそれを自省的 に受け止める • 歴史主義否定派 →史的連続性を否認。アジア主義 ≠ 地域主義 • 機能主義 →機能的国際協力として東アジア共同体を見る 29
- 30. 4．地域主義と日本 １）東アジア共同体論の形成 • アジア主義⊆地域主義 →アジア主義の文化的・歴史的側面が捨象 →アジア vs 西洋の構図が捨象 • 地域主義 ⊆ アジア主義 →制度・機能・秩序の位相が捨象 →国際秩序と地域秩序の対立と両立の側面 が捨象される 30 地域主義 アジア主義 アジア主義 地域主義
- 31. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 『日本経済再建の基本問題』 • 戦後問題研究会→外務省報告書（1946年3月、9月） • 「世界経済ノ国際管理化」→ブレトンウッズ体制 • 「今次大戦ノ如キ自立的ブロツクニ非ズシテ恐ラクハ 世界的組織ノ下ニ立ツ地域主義トナルデアロウ」 e.g.) オタワ協定（1932年）
- 34. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 • 大来佐武郎（1952年）「対アジア貿易が死活的な重要性」 • 重光葵（1956）「二つの世界を結ぶかけ橋の役」 • 三木武夫（1968）「アジア太平洋構想」 「アジア諸国の相互協力」と「太平洋諸国の連帯協力」の接点 👉大東亜共栄圏の「遺産」としてのアジア地域主義 👉軍事力によって達成する地域主義／経済力によって達成す る地域主義 👉「本来、戦前に実現すべきだったはずの国際秩序構想」の 追求
- 36. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 その後の展開～ ■ ＡＰＥＣ（1989～）の「開かれた地域主義」へ • 他地域に対して開放的で包摂的、非差別的な自由貿易原則の遵守（→ ＷＴＯとの関係） ■ 東アジア・フォーラム（2003年～） • 地域の共同体構築は、地域を閉ざすのではなく、開放的なプロセスで 行なわなければない。 • 「東アジア要塞」を構築することは何の利益にもならない。 ■ 東アジア・サミット(2005年～) • 「開放的、包含的、透明かつ外部志向のフォーラム」
- 37. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 日本政府の論点ペーパー（2004年5月、ＡＳＥＡＮ＋３高級実務者会 合） • 『東アジア・コミュニティ』について →「民主主義、人権等」の普遍的な諸原則と「アジアの価値観と 伝統」とを併置 • 『機能的協力』について →機能的協力の柱としての「開放性」と「柔軟性」を基調としつ つ、ネットワーク形成の重視と共同体意識の涵養を提起 • 『東アジア首脳会議』について →東アジア・サミット（ＥＡＳ）は東アジア共同体形成のための 重要な制度的枠組
- 38. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 麻生太郎外相（2005～07） • 東アジアサミットは「オープン」な集合であり、東アジア共同体は 様々なパートナーを巻き込んだ「開放的な協力」でなければならな い（日本記者クラブ2005年12月7日） →オーストラリア・ニュージーランド・インドといった非東ア ジア諸国の参加 • 日米同盟は「東アジアの平和と繁栄の基礎」（戦略国際問題研究所 2006年5月3日） • 東アジアの将来像としては、「自由、民主主義、市場経済、法の支 配、人間の尊厳の尊重」・偏狭なナショナリズムの排除、そして政 治経済軍事の各分野における透明性と信頼、予見可能性（同上）
- 39. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 麻生太郎外相（2005－07） • アジアとは「それ自体、ひとつの発展をやめないネットワーク」 （国際交流会議、2006年5月26日） • 「国民国家の枠、ナショナリズムの罠」に拘泥するものではなく、 開かれたネットワーク（同上） • 「アジアをアジアたらしめたのは自由で開かれたネットワークだっ た」から（同上） • 「自由と繁栄の弧」（日本国際問題研究所セミナー、2006年11月 30日） →民主主義・自由・人権・法の支配・市場経済といった「普遍 的価値」に立脚した「価値の外交」と、民主主義の繁栄圏の形 成という意味での「自由と繁栄の弧」
- 40. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 鳩山由紀夫首相（2009－10） 「私の政治哲学」（『Voice』2009年9月号） • 「友愛」とは、「グローバル化する現代資本主義の行き過ぎを正 し、伝統の中で培われてきた国民経済との調整を目指す理念」 • 「友愛」の概念が示唆するもう一つの方向が「東アジア共同体」 • 「もちろん、日米安保体制は、今後も日本外交の基軸でありつづ けるし、それは紛れもなく重要な日本外交の柱である」と述べ、 アジアとの関係については「同時にわれわれは、アジアに位置す る国家としてのアイデンティティを忘れてはならないだろう」
- 41. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 鳩山由紀夫首相（2009－10） 国連総会演説（2009年9月24日） • 重光葵に触れ、「東西文明の融合」・「東西の架け橋」という 認識を再提起 • 「開かれた地域主義」の原則に立脚した「東アジア共同体」の 構築 • 国連こそが「架け橋」の外交の表現の場→多国間外交の重要性
- 42. 4．地域主義と日本 ２）地域主義論の系譜 鳩山由紀夫首相（2009－10） • 所信表明演説（2009年10月26日） • 「東洋と西洋、先進国と途上国、多様な文明の間の『架け橋』 とならなければならない」 • 「他の地域に開かれた、透明性の高い協力体としての東アジア 共同体構想」 • 日米同盟を基軸とした東アジア共同体（日米首脳会談2009年11 月13日） • 日米同盟は「日本外交の基軸」／同時に「アジア外交の重視」 （「アジア政策講演」、シンガポール、2009年11月15日）
- 44. 小括 1．東アジア地域主義の形成 • アジア太平洋地域主義 • 東アジア地域主義 • 拡大東アジア地域主義 • インド太平洋地域主義（⇔一帯一路） 2．国際政治学から見た地域主義 • リアリズム • リベラリズム • 構成主義 • マルクス主義
- 45. 小括 3．地域主義の理論と概念 • 機能主義と新機能主義 • バラッサの地域統合概念 • 地域主義と地域化 4．地域主義と日本 ①東アジア共同体論の形成 - 戦前のアジア主義／戦後の地域主義 - 機能主義 - 歴史主義 ②地域主義論の系譜 - 開かれた地域主義 - アジア太平洋／東アジアのバランス
- 46. 参考文献 関連資料 https://www.dropbox.com/sh/3wcl1ccvsskdbgk/AACy9UMsEDF8 o7-jrc9O408Da?dl=0 参照文献 • Balassa, B. (1961) The Theory of Economic Integration, (Homewood, Ill.: R.D. Irwin, 1961). • Finnemore, M. (1996) National Interests in International Society, (Ithaca: Cornell U.P.). • Fishlow, A. and Haggard, S. (1992) The United States and the Reorganisation of the World Economy (OECD Development Centre Research Project on Globalization and Regionalization). • Friedberg, A. (1993) “Ripe for Rivalry: Prospects for Peace in a Multipolar Asia,” International Security Vol.18 No.3. • Friedberg, A. (1998) “Europe’s Past, Asian Future?” working paper, SAIS Policy Forum Series, Report No. 3, Johns Hopkins Univ. 46
- 47. 参考文献 参照文献 • Haas, E. (1964) Beyond the Nation-State: Functionalism and International Organization (Stanford: Stanford U.P.). • Keohane, R. and Nye, J. (1977) Power and Interdependence (New York: Harper Collins). • Krasner, S. (1983 ed.) International Regimes (Ithaca: Cornell U.P.). • Mitrany, D. A Working Peace System: An Argument for the Functional Development of International Organization, (National Peace Council, 1943). • World Organization--Federal or Functional?: A Round-table Discussion, (S.I.: C. A. Watts, 1945). • Pempel, T.J. Remapping East Asia: the construction of a region, (Ithaca: Cornell University Press, 2005). 47
- 48. 参考文献 参照文献 • PricewaterhouseCoopers (2017) “The Long View How will the global economic order change by 2050?,” February 2017 https://www.pwc.com/gx/en/world-2050/assets/pwc-the-world- in-2050-full-report-feb-2017.pdf • 朝日新聞（2005）「2005年の始まりアジアに夢を追い求め」『朝 日新聞』2005年1月1日 • AERA(2003)「靖国参拝で東アジア共同体は大東亜共栄圏」『週刊 アエラ』2003年1月27日号 • 大賀哲『東アジアにおける国家と市民社会』（柏書房、2013年） • 大賀哲「アジア主義と地域主義の交錯」松浦正孝編『アジア主義は 何を語るのか』（ミネルヴァ書房、2013年） • 鳩山由紀夫「私の政治哲学」『Voice』（2009年9月号） • 白石隆＝カロライン・ハウ「「アジア主義」の呪縛を超えてー東ア ジア共同体再考」『中央公論』2009年3月号 48