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GP09
世界的貧困と構造的不正義:アパレル産業を事例にして
シングルマザーの貧困
アイリス・マリオン・ヤングの構造的不正義
スウェットショップ（搾取工場）
抑圧のない社会のためには？
グローバル政治論(global.politics,tcue2023)
福原正人:nonxxxizm@icloud.com

世界的貧困と先進国の責任
先進国は世界的貧困を改善する理由があるのか？
功利主義：社会全体の幸福の最大化
リベラリズム：生まれの境遇を緩和する平等な権利保障
☞二つの考え方の共通点は？
先進国は、世界的貧困と関連がないが、これを改善する理由がある
復習

世界的貧困と先進国の加担
先進国は果たして世界的貧困と関連がないのか？
先進国は「社会構造」を通じて世界的貧困と関連がある
先進国は「国際制度」を通じて世界的貧困と関連がある
☞関連があるなら？
仮に先進国が世界的貧困に加担しているなら、これを改善する理由は（これまでの理由
と比較して）より重いものとなる
今週と来週

社会構造とその不正義について理解する
1.シングルマザーの苦境とその原因
2.A.M.ヤング「構造的不正義」論
3.ファストファッションとスウェットショップ（搾取工場）
4.消費者の責任とは？
今日の内容

アイリス・マリオン・ヤング（IrisMarionYoung)
-『正義と差異の政治学』（JusticeandthePoliticsofDifference,PrincetonUniversity
Press,1990）
-『正義への責任』（Responsibilityforjustice,OxfordUniversityPress,2011）
社会構造に由来する不正義を＜構造的不正義＞として定式化
-この不正義を抑圧（oppression）と呼ぶ
理論的な背景としてフェミニズム
-男女間の中立的な制度設計では、男性優位の社会構造を固定化するというフェミニズム
第二波の関心を引き継ぎつつ、社会階層、人種、性的指向、性自認など、多様な集団が
被る抑圧を問題にするための理論的発展に貢献
-シングルマザーという社会階層からこの不正義ないし抑圧の特徴を理解する
アイリス・マリオン・ヤングとは？

・サンディは早くにパートナーと離婚して二人の子供を育てるシングルマザーである
・大家の希望によりアパートが改築されるのを機に引っ越しをすることに決める
・職場の近くには一戸建ての物件しかないことがわかる
・サンディの安い給料で借りることができて子どもにとって安全である地域にあるアパート
は職場からみて町の反対側しかない
・通勤に必要になるため貯金のほとんどを頭金にして車を買った
・サンディが住む街の住宅補助制度に申し込んだが２年間の待機期間がある
・アパートは見つかったが保証金として、三ヶ月分の家賃の前払いが必要になる
*日本でもシングルマザーの経済状況に関する社会学研究がある。例えば斉藤知洋「シングル
マザーの正規雇用就労と経済水準への影響」『家族社会学研究』など。
事例：シングルマザーと貧困

構造的不正義の特徴
当事者個人の責任だけとは言い難い
-サンディが責任を負えない何かが彼女の選択肢を狭めるように作用している
e.g.1:性別役割分業と不安定な雇用・安価な給与
e.g.2:人種の固定的なイメージを反映した住宅事情・都市開発
サンディ以外の大多数は悪意はない
-個人や組織は社会のルールに則って自分の利益を追求しているだけ
-誰が悪いとは言えない
特定の人々が帰属する集団や特定のカテゴリーゆえに抑圧される
-○○は○○というだけで抑圧される
-この○○は日常生活のなかで規定される
A.M.ヤングの構造的不正義論

性別役割分業
-ジェンダー規範が社会で期待される役割や責任を規定していること
cf.セックス(sex)：生物学的な事実/ジェンダー(gender)：社会的な規範
-とりわけ男性らしさが公的空間での経済的成功、女性らしさが私的空間での家事や育児、性
的奉仕と結びつけられる社会構造
-男性を補助する役割分担--わかりやすいものとして医療従事者
-無償労働による所得依存→男性向けの性的魅力、性的同意の欠如やDV
e.g.離婚後の経済リスクの高さ
仕事、自由恋愛、結婚など人生設計に関わる社会制度が（それ自体は中立的だが）女性
が男性を補助したり奉仕したりする役割を担うものとして設計される
中立的な制度の下で性別の違いが利益分配や人生のハードルの違いとして現れる
参考:日常の政治学

アメリカの人種問題と住宅市場／都市開発
シングルマザーが住居を失うという事例は若干アメリカ的な事情がある
白人と黒人などの空間的隔離が住宅事情や土地開発を通じて成立している
-人種に対する固定的なイメージを反映した個人の居住選好と都市開発
-ホワイト・フライト(1950年~60年):人種が混合した都市部からより郊外への移住
-ジェントリフィケーション(1990年~):都市部の再開発による高級住宅地化
空間的隔離のデメリットは？
-社会の分断が深刻化する
-該当地域に住むひとが治安や質の高い教育、医療への機会にアクセスできない
-人種に対する固定的なイメージがさらに再生産される
参考：なぜ住宅事情／都市開発？

『正義と差異の政治学』(翻訳58頁)
抑圧とは、悪意のない人々が、たいてい無意識に信じている前提や行っている反応の結
果として、一部の集団が被る巨大で深刻な不正義である。そうした無意識の前提や反応
は、他者との日常的な交流やメディア、文化的ステレオタイプ、そして官僚制組織や市
場メカニズムの構造的特徴といった、要するに日々の普通のプロセスのなかに現れるも
のである。
構造的不正義（抑圧）の対象は社会構造が規定する（個人ではなく）集団
社会構造は被抑圧側の当事者も含めて無意識に再生産している
構造的不正義（抑圧）は日常生活のなかで多様かつ複雑なものである
抑圧と構造的不正義

自分らしく生きるための能力を育てたりそれを発揮できない状況
1.搾取：不当に利益が移転されている状態
2.周縁化：社会生活に参加できない状態、困窮状態
3.無力化：権力に抵抗する術を持たない状態
4.文化帝国主義：文化のステレオタイプ化、従属化
5.暴力：物理的危害、ハラスメント、レイプ
*JusticeandthePoliticsofDifference,PrincetonUniversityPress,ch.2.
ST05:抑圧の五類型

2013年バングラデシュ「ラナ・プラザ崩落事故」
死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上
グローバルなアパレル産業の下請け縫製工場
→「搾取工場（スウェットショップ）」
・低賃金かつ劣悪な労働環境
・管理者からの暴力やハラスメント
・労働組合なし
→この事故を契機に先進国で「サプライチェーンの透明化」が問題に
グローバルなアパレル産業とその問題

基本的な主張
途上国での女性は社会構造ゆえに脆弱な地位にある
先進国が社会構造を再生産する当事者である
☞どんな社会構造？
性別役割分業を反映した労働市場→「女性の低賃金」
安価な製品とそのための国際競争を反映した労働市場→「労働環境」
途上国の労働環境は、当事者の自己責任に還元できず、途上国の社会構造の他、グローバル
な構造の影響を大きい
先進国の一般消費者もまた、安価な製品を購入することで、こうした社会構造を再生産して
いる
A.M.ヤングの構造的不正義論(2)

基本的な主張
誰かの責任ではなくあなたが問題の当事者である
一般的な責任概念
(1)責任があるひとを特定する、(2)過去志向的な責任
ヤングが提案する責任概念（責任の社会的つながりモデル）
(1)構造に関わる全員が共有する、(2)未来志向的な責任
＝社会構造に関与する全員が、各人の社会的な立場に応じて、新たな不正義を生み出す社会
構造を再生産しないという未来志向的な責任
A.M.ヤングによる責任概念の捉え直し

経済格差や生きづらさは、制度的な不備だけでなく、その背景にある社会構造に由来す
る場合がある
→「構造的不正義」（＝分配的正義への理論的批判）
社会構造は日常的に再生産される問題であり全員が問題の当事者
→責任の「社会関係モデル」（＝責任概念の捉え直し）
途上国の労働環境は、あなたの生きづらさと同じ原因である場合もある
→日常的な経験を通じて途上国の人々の異議申し立てに共感ないし連帯
→抑圧という不正さの認知は、功利主義やリベラリズムのような理論的な根拠ではな
く、「経験的な共感」に基づいており、こうした連帯の契機が、ヤングのなかで「社会
運動」の問題に繋がっている。
まとめ

GP10
世界的貧困と制度的加害：天然資源を事例にして
福原正人（nonxxxizm@icloud.com）

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