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2019/7/22
1
gb
保育ロボ VEVO の有無と保護者・保育士の会話時間の差の
関係が示唆する新しいコミュニケーションの形
VEVO 設置保育園と未設置保育園における保護者との「会話」時間(単位:秒)
保護者と保育士の会話時間別の保護者のべ人数構成比
※(株)ソーシャルソリューションズ 調べ
あい・あい保育園で活躍している保育ロボ VEVO については、いくつかのメディアでも取り上げられ
ており、報道を目にした方もおられるのではないか。VEVO は、登降園時に園児ごとのキーホルダーを
かざすことによって、園児や保護者に話しかけてくる。
この VEVO の声がけが、保育士と保護者のコミュニケーションにどのような効果をもたらすか、実際
に登降園時の様子をビデオ撮影し、会話時間(VEVO については、保護者が VEVO の話を聞いていた時
間)を計測する作業を行い、VEVO 設置園と未設置園での比較を行った。その結果が、上の表とグラフ
となる。
まず、実際に会話時間を計測してみると、保育士と保護者の会話時間は、登降園時の1日2回を合わせ
ても1分程度であった。実測してみた実感は、「想定外に少ない」という印象だ。この結果を知らせずに、
何人かの保育士に保護者との会話時間を聞いてみると、2、3分との答えを得るが、実際の会話量はもっ
と少ないのである。
また、保育士との会話時間を段階に分けて、その構成比をみると、実は、VEVO 未設置園では5秒以
園名 保育士 VEVO
設置園 79 19
未設置園 52 -
gb Opinion Report 株式会社 social solutions 石塚 康志
2019/7/22
2
下の会話しかない割合が4割、VEVO 設置園では11~30秒の会話の割合が3割となっている。各調
査対象における会話時間の最頻値は、平均よりもかなり少ないという結果になっている。つまり、会話時
間にはかなり「ムラ」があるということだ。
保護者と保育士の平均会話時間との比較では、ピンと来ないかもしれないが、実は、会話時間の少ない
多くの保護者の立場からは、VEVO との会話時間20秒弱というのは、決して少ない量ではないことが
ご理解いただけよう。
さらに、サンプル数が十分とは言えないという留保条件はつくが、VEVO 設置園の方が未設置園より
も保護者と保育士との会話時間が平均的に長くなっており、VEVO の存在が会話を促す効果を持つ可能
性を示唆している。
というのも、VEVO の「今日は何して遊ぼう」という登園時の発話をきっかけに、最近、その園児が
園で好んで取り組んでいる遊びの話になり、保護者からも同種の遊びを家庭で楽しんでいるという反応
が出てきたケースがあったからだ。
つまり、VEVOが保護者と保育士の会話の「きっかけ」を作るということも期待できるということ
だ。VEVOを介在させることで、当該園児の活動についての保育士と保護者の共通認識が形成され易
くなるという運用上の工夫(VEVOに何をしゃべらせるか 等)の余地も見いだせたと考えている。
確かに過去にも、保育園に様々な機能をもったロボットの導入実証実験が行われてきたが、率直に言
って、成功事例は存在していないと言い切れると思っている。
我々が導入した VEVO は、保育園の教室に入り込んで、直接保育をすることはない。しかし、保育士、
保護者、子ども本人の間のコミュニケーションを質・量の両側面から喚起し、充実させるという重要なフ
ァンクションを十分に果たし得る可能性を、今回撮影した映像の分析から見いだすことができたと、私
は自負している。
●当レポートは、信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するもので
はありません。当レポートのご利用に際しては、ご自身の判断にてお願い申し上げます。また、当レポートは執筆者の見解に基づき
作成されたものであり、当社の統一的な見解を示すものではございません。なお、当レポートに記載された内容は予告なしに変更さ
れることもあります。

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  • 2. 2019/7/22 2 下の会話しかない割合が4割、VEVO 設置園では11~30秒の会話の割合が3割となっている。各調 査対象における会話時間の最頻値は、平均よりもかなり少ないという結果になっている。つまり、会話時 間にはかなり「ムラ」があるということだ。 保護者と保育士の平均会話時間との比較では、ピンと来ないかもしれないが、実は、会話時間の少ない 多くの保護者の立場からは、VEVO との会話時間20秒弱というのは、決して少ない量ではないことが ご理解いただけよう。 さらに、サンプル数が十分とは言えないという留保条件はつくが、VEVO 設置園の方が未設置園より も保護者と保育士との会話時間が平均的に長くなっており、VEVO の存在が会話を促す効果を持つ可能 性を示唆している。 というのも、VEVO の「今日は何して遊ぼう」という登園時の発話をきっかけに、最近、その園児が 園で好んで取り組んでいる遊びの話になり、保護者からも同種の遊びを家庭で楽しんでいるという反応 が出てきたケースがあったからだ。 つまり、VEVOが保護者と保育士の会話の「きっかけ」を作るということも期待できるということ だ。VEVOを介在させることで、当該園児の活動についての保育士と保護者の共通認識が形成され易 くなるという運用上の工夫(VEVOに何をしゃべらせるか 等)の余地も見いだせたと考えている。 確かに過去にも、保育園に様々な機能をもったロボットの導入実証実験が行われてきたが、率直に言 って、成功事例は存在していないと言い切れると思っている。 我々が導入した VEVO は、保育園の教室に入り込んで、直接保育をすることはない。しかし、保育士、 保護者、子ども本人の間のコミュニケーションを質・量の両側面から喚起し、充実させるという重要なフ ァンクションを十分に果たし得る可能性を、今回撮影した映像の分析から見いだすことができたと、私 は自負している。 ●当レポートは、信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するもので はありません。当レポートのご利用に際しては、ご自身の判断にてお願い申し上げます。また、当レポートは執筆者の見解に基づき 作成されたものであり、当社の統一的な見解を示すものではございません。なお、当レポートに記載された内容は予告なしに変更さ れることもあります。