2005年版のシェルグローバルシナリオの翻案です。シナリオ作成の基礎となる人間世界の成り立ちを私なりにシンプルに解釈しなおしてみました。初版2013。校閲2018

1. 2013/4/1 Trilemma of Social Value and Code of Conduct 1
３つの社会価値と３つの行動原則
竹中 正

2. 2013/4/1 2Trilemma of Social Value and Code of Conduct
テーマ
私たちの目指す社会は、何を大切に考え（社会価値）
それをどのように実現していくのか（行動原理）。
問題意識
現代社会は物質的豊かさを求め、利益や効率追求の
市場を形成してきた。安全は目的ではなく取引対象と
みなされ、信頼や連帯は隅に追いやられている。
解の複雑性
社会価値と行動原理の関係性は次葉のように整理で
きる。しかし各々は相互に根本的な対立、矛盾（トリレン
マ）を抱えており全てを同時に達成することは困難だ。

3. 三つの基本的な社会価値
2013/4/1 3
安全
連帯
効率
人は太古から猛獣や災害、戦争等
の脅威から生命と財産の安全を守っ
てきた。（リスク回避）
そして富と技術を生み出し同時に
資源を保全し合理化に努め豊かな社
会を築いてきた。（損得勘定）
これらは、人々の協力と犠牲のも
と、喜び悲しみを分かち合いながら
成し遂げられてきた。（共同体）
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

4. 三つの基本的な行動原理
2013/4/1 4Trilemma of Social Value and Code of Conduct
自由
規律
仁愛
相手と自分の命と幸せを思いや
ること。相手の夢や願いを優先さ
せることもある。
自分の行動や態度を自分で選べ
ること。その結果、成功の権利も
失敗の責任も所有すること。
他人との約束や自分の生き方を
決めて守ろうとすること。そのた
めの管理・強制力を必要とする。

5. 社会価値と行動原理の関係
2013/4/1 5
仁愛
規律自由
連帯
効率
安全
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

6. 安全を実現する行動原理
2013/4/1 6
仁愛
規律
安全
安全を守る代表的な組織に軍や行
政組織がある。脅威から生命を守
る保護の精神、危機に際して自ら
の危険を顧みない自己犠牲などの
「仁愛」を必要とする。
その任務遂行には統率のとれた組
織的行動、および公僕として定め
られた法に従うなど「規律」を必
要とする。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

7. 効率を実現する行動原理
2013/4/1 7
規律
自由
効率
効率を追求する代表的な組織に営
利企業がある。経営理念や内規、
雇用や取引の契約、市場秩序、法
や行政の規制などの「規律」が成
り立つことで社会的な「効率」が
追求できる。
企業は事業活動や研究開発の「自
由」を必要とし、成果を所有しか
つ結果責任を負う。規制緩和は競
争を促し消費者満足に繋がる。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

8. 連帯を実現する行動原理
2013/4/1 8
自由
仁愛
連帯
連帯を代表する組織に家族や村が
ある。地縁や職域で祭事を催し連
帯を確認することがある。人は強
制や義務感ではなく「自由」な意
思で連帯する。
連帯の場では個の理念や利益では
なく帰属する共同体の理念や利益
を優先し、平等や奉仕などの「仁
愛」の精神が連帯を支える。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

9. 社会価値の相違点
2013/4/1 9
「効率」を追求すると「安全」はコストあるいは
リスク管理項目とみなされる。アクセルとブレー
キにも譬えられる相反関係にある。
「効率」は「連帯」についても部分的に福利や寄
付費用と見做すが、もとより連帯の効用は計測困
難なので効用を分子にする効率という考え方にそ
ぐわない。
「連帯」は信頼関係に立脚するが「安全」はその
否定または不確実性を前提としている。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

10. 行動原理の相違点
2013/4/1 10
「仁愛」は他者に寛容で献身的であり結果の所有
にも拘泥しない。一方「自由」は個の意思や結果
の権利を主張する点で正反対である。
「仁愛」は対象に直接向き合い受け容れることで
解決を図るが「規律」は一律の法や強制力に訴え
処理する。一方で仁愛の個別性、恣意性は規律の
画一性によりバランスが図られる。
「自由」は「規律」から文字通り自由である。規
律は自由に枠をはめようとする。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

11. 社会価値と対立する行動原理
2013/4/1 11
仁愛と効率：仁愛に言う平等や寛容は、効率に言
う比較や選択とは相容れない。効率計算に明け暮
れれば他者への共感や感謝の念は多忙の字義とお
り忘れ去られていくだろう。
安全と自由：有事に際し個の自由行動を許すこと
は危険を増すだろう。一方で安全志向では挑戦や
創意は生まれてこない。
連帯と規律：規則や義務感で連帯の念は生まれな
い。精神論や共同体幻想で無法地帯に秩序を生む
ことは出来ない。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

12. 社会価値と行動原理の補完関係
2013/4/1 12
前頁の対立とは別に間接的な補完の関係もある。
仁愛と効率：効率の追求には取捨選択のほかに全
体のレベルアップも有効だ。そのための教育（共
育）の基礎には仁愛の考え方がある。
安全と自由：冒険や発見の挑戦には失敗に対する
セイフティネットが準備されていることが望まし
い。また、社会全体の安全のために航路の発見や
技術革新が寄与してきたことも事実である。
連帯と規律：皆で決めた規律を守る連帯感、道徳
感のお蔭で社会的な統制費用は節約できる。
Trilemma of Social Value and Code of Conduct

13. 主要参考文献
ヘーゲル「法の哲学」
家庭は愛情でむすばれた最小単位である。このアンチテーゼとして個人が自由に
動ける市民社会を対置し、ジンテーゼとして法の治める国家を想定することで人
は弁証法的に精神の成長と真の自由を獲得する。（中公クラシックス）
M.ウェーバ「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
キリスト教徒に因果応報はない。全て神が既に決めており人は知る由もない。そ
こでプロテスタントは因果を逆転させ、禁欲で勤勉な生活を送り神が望んだとお
りの理想社会を築けば皆救われるのだと確信した。（日経BPクラシックス）
Royal Dutch Sehll: Shell Global Scenarios to 2025
定期的に発行されるシナリヲの2005年版。9.11以降の社会をMarket Efficiency
、Security、Social Cohesion（force of community） の３つの社会目的とFlags,
Open Doors, Low Trust Globalization の３つの戦略で整理し世界の地域別将来像
が描かれている。門戸開放、社会共同、市場競争の組み合わせは経済的社会的に
発展する未来を描けるがナショナリズム、公安、社会共同の組み合わせは市場を
破壊し暗黒シナリオだとしている。（邦訳なし）
2013/4/1 Trilemma of Social Value and Code of Conduct 13

14. 2013/4/1 14
Flags
Open
door
Social cohesion and
Justice, perceived as the
force of the community
Efficiency perceived
as market incentives
Security perceived as
coercion and regulation
Low trust
globalisation
Trilemma of Social Value and Code of Conduct
Global Scenarios to 2025の要約図