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観光立国化を加速させるシンガポール
-Genting International がシンガポールの 2 つ目のカジノライセンスを獲得-



                                                              ボーダーゼロ
                                                             2006 年 12 月


1. はじめに

   2006 年 5 月 26 日、堅物国家として知られているシンガポールにて初めてのカジノ事業の落札業者が発
 表されたことは、弊社が同 5 月に発表したレポート(『カジノ誘致は堅物国家シンガポールの起爆剤となるか
 –Las Vegas Sands がシンガポールのカジノ案件を落札』
 http://www.borderzero.com/casino.html)で記した通りである。そして 2006 年 12 月 8 日、セントー
 サに建設が予定されている第 2 弾案件(以下、セントーサ島案件)を、マレーシアの Genting
 International が落札したとの発表が行われた。なお、シンガポール政府はカジノのライセンスを今後 10 年
 の間は新規に発行しないことを表明しており、権利を獲得した 2 社がシンガポールのカジノ業界しいては観
 光業界を牽引していく存在となる。

   本稿では、セントーサ島案件そのものおよび落札者について調査するとともに、第 1 弾案件(以下、マリ
 ナ・ベイ案件)の情報も参考にシンガポールの観光政策についての考察を簡単に行う。

   既出のレポートでも記したとおり、筆者は 1983 年から 1991 年までの約 8 年間をシンガポールにて滞在
 し、その後も何度かシンガポールを訪問したこともあり、土地勘については多少の自信を持っていることを記
 しておく。

   主な参考資料として、シンガポール最多の発行部数を誇る日刊紙 THE STRAITS TIMES、マレーシアの
 英字日刊紙 NEW STRAITS TIMES および各国主要メディアの最新情報を活用した。

   本稿では計算の便宜上、S$1(シンガポールドル)=70 円、US$1=110 円と換算。


2. マリナ・ベイ案件の概要

   マリナ・ベイ案件の詳細は既出レポート(http://www.borderzero.com/casino.html)を参照いただく
 こととして、本章では概要を簡単に紹介するにとどめておく。

   落札したのはアメリカ Las Vegas に本拠地を置く Las Vegas Sands で、他に同じく Las Vegas に本拠
 地を置く MGM Grand、Harrah’s Entertainment、そしてマレーシアの Genting International が入札
 した。落札の中で比重の高かった「観光地としての魅力および観光産業への貢献可能性」という点で高い評
 価を獲得し、落札へ結びつけることに成功した。「MICE(”meetings, incentives, conventions and
 exhibitions” 会合や展示会を開催する施設群)としてのシンガポールの地位を向上させる可能性が期待
 できる」という、S. Jayakumar 副首相のコメントもその落札の理由を表している。
Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved.   -1-
建設が予定されているのはマリナ・ベイ地区で、オフィス街から数キロほどしか離れておらずまた、空の玄
     関口チャンギ国際空港からのアクセスも良好な立地に位置している。建設費はおよそ S$50.5 億(約 3,500
     億円)を見積もっており、世界最大のカジノリゾートの建設としても多くの注目を集めている。

       また、カジノ誘致によって、シンガポール政府は、2015 年までに現在の観光客の 2 倍に相当する 1,700
     万人、そして観光収入の 3 倍増に相当する S$300 億(約 2 兆 1,000 億円)の目標を立てている。そして、
     カジノ誘致によって 2015 年までにマリナ・ベイ・エリアに S$27 億(約 1,900 億円)の経済効果もしくは GDP
     比 0.8%の経済成長の押し上げと 1,000 人分の直接的な新規雇用機会の創出が期待されている。

       図 1 では、両案件の建設予定地の位置を示しておく。

《図 1 マリナ・ベイおよびセントーサ島の位置》




                                                                      マリナ・ベイ

                                                                  ビジネス・エリア

                                                                セントーサ




3. セントーサ島案件の概要

       セントーサ島はシンガポール本島の南端の沖合に位置し、水族館や蝶園やゴルフコースなど各種レクリエ
     ーション施設などを備えたシンガポール有数の観光スポットである(シンガポールを訪れる観光客の 69%が
     同島を訪れている1)。日本からのツアーにも組み込まれているため、日本人観光客も数多く訪れている場所
     としても有名である。その島に今回のリゾート(正式名称は Resort World at Sentosa)が敷地面積 121
     エーカーの広さに 2010 年の開業を目指して建設されるのである。

       当セントーサ案件に最終的に入札したのは落札したマレーシアの Genting International のほか、アメ
     リカ Las Vegas の Eighth Wonder、バハマの Kerzner International の 3 コンソーシアム(各コンソー
     シアムの特徴などは次章)。



1
    The Straits Times 2006/12/9 “Tourism appeal the clincher for Genting”
    Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved.    -2-
表 1 では、セントーサ案件落札までの流れを示しており、マリナ・ベイ案件では基本構想を 19 業者が提出
    するなど高い注目度を集めていたものの(マリナ・ベイ案件落札に至る経緯は既出レポート
    http://www.borderzero.com/casino.html 参照)、当案件ではマリナ・ベイ案件落札業者決定の後の
    段階では入札を表明していた Las Vegas Sands と Harrah’s が入札に参加しなかったこと、2006 年 7 月
    時点で 4 組しか入札意向を表明していないこと、そして最終的にはたったの 3 組しか入札しなかったなど、
    随分と大人しめな競争だったという印象はぬぐえない。

    《表 1 セントーサ案件落札までの動き》

               年                                             イベント
        2006 年 5 月        Las Vegas Sands と City Developments Limited の連合チームがマリナ・ベ
                          イにおけるカジノ案件を落札
        2006 年 7 月        4 業者がセントーサ島案件への入札意向を表明
        2006 年 10 月       Harrah’s が入札から撤退
                          入札参加者による提案書提出
        2006 年 11 月       最終審査実施
        2006 年 12 月       Genting International がセントーサ島案件を落札
                                               出所:THE STRAITS TIMES 2006/12/9 などを参考にボーダーゼロ作成



4. 各入札参加者の素顔

      では、入札に参加した 3 コンソーシアムの構成メンバーはどのようなものなのか。そして権利獲得に結び
    ついた要因は何か。これらについて紹介していこう。カジノ運営業者の内訳は、Genting International(マ
    レーシア2)、Eighth Wonder(アメリカ)、Kerzner International(バハマ)の 3 社。

      落札したのは、Genting International と Star Cruise のコンソーシアム。同コンソーシアムは唯一マリ
    ナ・ベイ案件にも入札した実績を持ち、マリナ・ベイ案件での落選の経験をうまく活かすことに成功したチーム
    と評価できる。Genting International はマレーシアのコングロマリット Genting Group においてリゾート
    事業などを手がける企業であり、マレーシアで最も有名なカジノを有していることでも知られている(現時点で、
    シンガポールから最も近くて大規模なカジノと言えばクアラルンプール近郊の Genting Highland)。また、
    マレーシア以外にはオーストラリア、フィリピンなどにもカジノで運営、イギリスに 40 以上のカジノを持つ
    Stanley Leisure を US$12 億(1,320 億円) で買収するなど海外へも積極的に市場展開している。

      Eighth Wonder は 3 社と組んで入札に参加。Eighth Wonder 自体はカジノを運営しておらず、Las
    Vegas にあるカジノホテル New York New York のデザインを手がけるなど間接的にカジノ経営に携わる
    形で参入している。

      そして、Kerzner International はマリナ・ベイ案件にも入札した CapitaLand(マリナ・ベイ案件では
    MGM Mirage と入札)と組んで入札に参加した。Kerzner International はバハマのほか、ドバイ(UAE)
    やモーリシャスなどにもリゾート施設を持つ企業で、シンガポール政府が目指す IR(複合的リゾート施設)運
    営での実績を十分備えている。


2
    本社所在地は香港だが、親会社がマレーシア籍などを考慮しマレーシアとして分類
    Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -3-
《表 2 最終入札参加者の組み合わせ》

           コンソーシアム名                          立場                    業者名                   本社所在地
    Genting International               カジノ運営者         Genting International         マレーシア
    組                                   デベロッパー         Star Cruises                  香港
    Eighth Wonder 組                     カジノ運営者         Eighth Wonder                 アメリカ(ラスベガス)
                                        メディア           Publishing and                オーストラリア
                                                       Broadcasting
                                        デベロッパー         Melco International           香港
                                                       Development
                                        カジノ運営者         Isle of Capri Casinos         マカオ
    Kerzner International               カジノ運営者         Kerzner International         バハマ
    組                                   デベロッパー         CapitaLand                    シンガポール


5. 雪辱晴らした Genting International

   前述のように、Genting International が当案件の落札に成功し、それは全案件での雪辱を晴らす結果
 となった。コンソーシアムの組み合わせも前案件(上述)とは変わらず、また提案内容にもほとんど変化は見
 られなかった(マリナ・ベイ案件での提案内容は既出レポート参照)。

   具体的な各コンソーシアムの提案内容は次表の通りであるが、Las Vegas の有力カジノ運営業者が入札
 に参加していないことも相まって提案内容がいずれも小粒に映り、Genting International の提案が相対
 的に優れて映るのは致し方ないと評価せざるをえない結果となっている。

 《表 3 各カジノ運営業者の主な提案内容》

            コンソーシアム名                                               主な提案内容
    Genting International 組                   Universal Studio を誘致
                                              1,8000 室を擁するホテル
                                              20 エーカーにもおよぶマリンパーク
                                              建設費:US$32 億(約 3,500 億円)
    Eighth Wonder 組                           元サッカー選手のペレのフットボールアカデミー
                                              10 階建てのビルに相当する高さの滝
                                              建設額:US$35.7 億(約 4,000 億円)
    Kerzner International 組                   Bahamas Atlantis の近未来バージョン施設
                                              世界最大規模の水族館
                                              建設費:US$34 億(約 3,800 億円)
                                                           出所:THE STRAITS TIMES 2006/5/27 など


   Genting International の提案で注目されるのは Universal Studio を誘致するというもので、本場
 Hollywood のものよりも規模が大きく(Resort World at Sentosa の敷地面積の約半分を占める)、設置
 が予定されている 22 のアトラクションのうち 16 ものアトラクションがシンガポールに初めて導入されるとのこ

Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved.   -4-
とである。そして、観光立国を目指すシンガポール政府にとって心強い契約「向こう 30 年間、Universal が
     東南アジア地域にテーマパークを開発しない」が結ばれていることも挙げられる3。

       では、当案件の落札の決め手は何だったのか。この点については、南国的風情を存分に表現する豊富な
     水、岩、植物などが都市的景観との調和を保ち4、当案件でのガイドラインに敷地の 70%に自然を残すこと
     と定められていることからも、自然との調和に力点が置かれていることが容易に想像できる。また 、
     S.Jayakumar 副首相によると、「家族が楽しむのになじみやすいコンセプトをもち、セントーサ島が本来持
     つ強みを発揮できること、そして人をひきつけシンガポールでの滞在期間を延ばせるような魅力を持つこと」
     が求められていた模様である。

       こうした、評価側の意向を反映した点数配分は次のとおりである5。
            45点:観光地としての魅力と観光産業への貢献可能性
            25点:建築物のコンセプトおよびデザイン
            20点:開発投資額
            10点:コンソーシアムの結びつきの強さ

       評価項目についてはマリナ・ベイと相違はなく、Universal Studioの誘致を提案しているGenting
     International組の提案が、4つの評価項目の中で最も点数の高い「観光地としての~」で高い点数を獲得
     して落札に結びつけることに成功したと想像することは難しくない。なお、「建築物のコンセプトおよびデザイ
     ン」の点数については、Genting International組の評価は決して高くなかったとのことである。

《図 2 Genting International による提案イメージ》




                                                                      出所:Genting International - Star Cruises 提案資料




3
    The Straits Times 2006/12/9 “Tourism appeal the clincher for Genting”
4
    The Straits Times 2006/12/9 “Genting to build Singapore’s 2nd Casino”
5
    Press Conference on Award of Integrated Resort at Sentosa Friday 8 DEC 2006,5:30PM, Sentosa Remarks By Deputy

Prime Minister Professor S Jayakumar
    Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved.     -5-
6. 落札した Genting International に立ちはだかる課題

     晴れて、セントーサ島案件を落札した Genting International だが、彼らには嫉妬にも似た懸念が早くも向け
    られている。たとえば、セントーサ案件の落札がマレーシアの Genting Highland と共食い状態にならないかとい
    うものや、Genting International のカジノ運営者としての実力は中途半端で Las Vegas などの大手と比べて
    見劣りし、それがためにシンガポールの観光政策への貢献は限られたものにとどまるのでは?という声だ(中には、
    Universal Studio は時代遅れだという声も)。前者については、確かに共食いとなってしまう可能性は肯定も否
    定もできない非常に評価の分かれるものだが、成功すれば「東南アジアのカジノリゾート=Genting」というイメー
    ジを強烈にアピールする格好の機会となる。また、後者については確かに世界的な知名度という点では Las
    Vegas の大手運営業者とは見劣りするものの、大規模カジノを 40 年近く運営しイスラム教国のマレーシアで長年
    運営し続けてきた実績や華僑の顧客をひきつけてきた実績は侮ることはできない。また、こうした否定的な懸念に
    ついてはよりマクロ的な視点から、マレーシアから独立したシンガポールが共同歩調をとるよい機会として位置づ
    けられるだろうとの楽観的な見解を Merrill Lynch 証券のアナリスト Sean Monaghan が示している6など、小国
    のシンガポールが東南アジアの中での戦略を模索する際の重要な地位として位置づけられている。

     なお、Genting International が落札したセントーサ島案件には、マリナ・ベイ案件同様に高い経済効果が期
    待されている。具体的には、通称大臣の Lim Hng Kiang によると、S$27 億(約 1,900 億円)もの売上(対 GDP
    比 0.8%増に相当)と 30,000 人もの雇用確保を 2015 年までに達成するというものである7。こうした政府による
    期待を受け、上記のような嫉妬にも似た懸念を Genting International は Universal Studio のアトラクション
    などを大いに活用して跳ね除けていくものと期待したい。

     現在、セントーサ島を訪れるのは、シンガポールを訪れる観光客の 69%であることは記述の通りである。
    2003 年にシンガポールを訪れた人の人数は約 600 万人であり8、そこから約 400 万人(=約 600 万人
    ×69%)はセントーサ島を訪れたと導ける。また、シンガポールの平均滞在日数は 3.4 日9で、仮に現時点で
    のセントーサ島の平均滞在日数は 0.8 日だとする10。現状の訪問状況に基づき、合計 1,830 室のホテル 6
    棟を建てる計画の Genting International にとってはセントーサ島を訪れる人の割合を増やすこともさるこ
    とながら、宿泊して平均滞在日数を増やす楽しみの提案に力点を置いたプロモーションを図っていくことが予
    想される(滞在日数を増やすことで食事、宿泊費、カジノなどのアトラクション支出を喚起)。シンガポールを
    訪問する観光客数が、2015 年時点でシンガポールが目標と設定する 1,700 万人の状況でセントーサ島を
    訪れる人の割合が 80%に上昇、そして平均滞在日数が 1.2 日に延びたと仮定した場合、セントーサ島に与
    えるインパクトは次ページの図のように大幅に拡大することが期待できる。Genting International にとっ
    ては、セントーサ島に訪れる人が増え、さらにそれらの人々が長く滞在できるような、そして言うまでもないが
    永続的な観光地として位置づけられるためにはリピーターを増やすような施策を絶えず提供しておくことが求
    められることは言うまでもない。アトラクションを定期的に入れ替えるという Universal Studio の誘致に
    Genting International が成功したという点は、リピーターを獲得するという点でシンガポール政府からも
    高い期待を持たれている模様である。




6
   Yahoo! Finance Singapore 2006/12/9 “Malaysia's Genting wins Singapore's second casino licence”
7
   Herald Tribune International 2006/12/8 “Genting International to build Singapore's second casino”
8
   WTO World Overview & Tourism Topics: 2004 Edition.
9
   Newsweek 2006/12/11 “Asia's Most Lavish Casino”
10
    セントーサ島の平均滞在日数のデータは入手不可だったため、筆者の経験を元に仮定
  Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved.      -6-
《図 3 Genting International が強化すべき 2 軸》




         平                                                 (1,360 万人、1.2 日)
         均
         滞
         在
         日                  (400 万人、0.8 日)
         数




                                          訪問者数




7. シンガポールの誘致に対する取り組みから学ぶヒント

   シンガポールにおけるカジノ業者選定フィーバーはひとまず落ち着きを戻し、これからはマリナ・ベイとセン
 トーサ島それぞれが開業に向けて建設段階に入ることとなる。一連のシンガポールのカジノ誘致に向けた取
 り組みから、観光立国化をめざす日本はどのように学ぶことができるだろうか。近年のシンガポール政府を
 中心とした観光誘致政策の一部を紹介し、今後の日本政府および自治体のカジノ誘致における参考に活用
 してもらえればと思う。

 A) 政府のプロジェクトに対するスタンスの表明

      ここ数年、シンガポールをはじめとした東南アジア各国では観光誘致に多くの力を注ぎ、その表れが国
   際空港の増改築や移転などに表れている(シンガポールチャンギ国際空港の拡張、バンコクドンムアン空
   港からスワンナプーム空港への移転)。また、格安航空会社の設立が相次ぎ、空を介した人の移動が活
   発化していることも、観光化に拍車をかけている。また、同様にセントーサ島のインフラ整備にもよりいっそ
   う力を入れており、シンガポール本土とセントーサ島を結ぶモノレールを新たに開通させる(日立製作所が
   納入)など、 セントーサ島への観光客誘致を落札した Genting International へ丸投げするのではなく
   政府も積極的に関与している。こうした政府の積極的な関与および干渉は Las Vegas の大手には厄介に
   映った点は否定できず、日本でも落札者との関係をどのように築いてプロジェクトに関与していきたいのか
   という点についてはクリアにしておくことが、入札業者の顔ぶれに大きく左右することは記憶しておくべきで
   ある

 B) 数値目標の設定と公表

      2015 年までに観光客を 1,700 万人にまで延ばすなどの数値を示し、大きく揺れた世論への約束を誓
   っている点(コミットメント)は、日産自動車が復活したケースと極めて近いケースと評価することができる。
   自ら目標を設定することで、落札業者へのハードルを課して目標に向けた努力を促す一方で、カジノ誘致
   に至るまでに大きな論争を巻き起こした世論に対する協力を仰ぐ格好の態度と映る。日本にカジノを誘致
   する際、治安の問題など大きく世論が分かれることは想像に難くない。そのとき、誘致を決定する政府およ

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び自治体は、どのように協力を仰ぐ体制を整えるか。コミットメントは大きな役割を果たすことだろう。

     C) ぶれない目的

       セントーサ島案件を Genting International が落札した要因の 1 つ、それが海外からの観光客ばか
      りを意識した提案ではなく、地元シンガポール人にも楽しめる施設を提案したことにある。政府が実施した
      マーケティング調査でもシンガポールを訪れる観光客の多くは、現地の人が足を運ぶスポットに関心が高
      い傾向があるとの結果が表れている。シンガポール政府にとっては、あくまでも観光収入の増大が目的で
      あることが、この点からも理解することができよう。また、大きな論争を巻き起こした「カジノ」の誘致だが、
      入札過程において実はカジノの収益性やコンセプトが評価のうちで大きな位置づけを占めていたわけでは
      ない。マリナ・ベイ案件ではビジネスユーザーに訴求した MICE を備えた施設であるかどうか、そしてセント
      ーサ島案件では、家族が楽しめる提案であるかどうかが焦点とされている。こうしたカジノの比重が決して
      大きくない点について、ビール会社 Brewerkz の創業者 Devin Kimble は、カジノはあくまでも落札業
      者が収益を向上させるためのボーナスに過ぎないとの指摘をしており11、筆者も観光収入の増大を
      目指すためにはカジノ運営業者のノウハウが必要であり、そのためにはライセンスを発行して入札参
      加を促すことが賢明だったと判断したからではないか推測している。観光客誘致に徹した姿勢が如実
      に表れているエピソードではないだろうか。


8. 周辺国からの観光誘致のために

      Mintel 社の調査によると、環太平洋地域では年間 US$8,000 億(約 90 兆円)もの額が観光消費されて
     おり、向こう 10 年もの間にその額は年間 US$1.8 兆(約 200 兆円)にまで膨れ上がるとの予測が立てられ
     ている。同様に PricewaterhouseCoopers によると、アジアにおけるギャンブル収入は 2010 年までに
     14%成長するとの予測が立てられている(世界全体では 8.8%の成長)。シンガポールは既に中国人の間
     では香港、マカオについで人気のある観光地としての地位を築いている12。マカオが「熱烈な」ギャンブラー
     の溜まり場となっている今、ファミリー向けを志向し家族でカジノを備えたリゾートライフを楽しみたい中国人
     への訴求していくことが何よりも優先順位が高い戦略であろう。そのための施設こそが、セントーサ島案件で
     あり、Genting International は期待を一心に集めている。したがって、ファミリー向けリゾートとしてはライ
     バルはマカオではなく、むしろディズニーランドを営業している香港なのかもしれない。

      また一方で、インドの経済成長も見逃せず、アラブ首長国連邦(UAE)など中東諸国がインドからの誘致を
     積極的に展開している。とりわけ UAE はマリナ・ベイ案件が力点を置く MICE に焦点を当てて誘致に取り組
     んでいる。

      上記のように MICE に焦点を当てたマリナ・ベイ案件、ファミリーに焦点を当てたセントーサ島案件はそれ
     ぞれライバルの存在がちらつくものの、次ページの表のようにシンガポールには周辺国の人口が多く、また
     経済も成長途上にある国が多く、両案件の成否がシンガポール政府の観光誘致政策の成否を大きく握って
     いるというのは言いすぎだろうか。




11
  Asia Times 2006/12/2 “Last resort (with casino) in Singapore”
12
  Newsweek 2006/12/11 “Asia's Most Lavish Casino”
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《表 4 シンガポール周辺諸国の人口および経済成長率》

          国名                          人口                        経済成長率

    マレーシア                  24,389 千人(2006 年 7 月)               5.2%(2005 年)

    インドネシア               245,453 千人(2006 年 7 月)                5.6%(2005 年)

    タイ                     64,632 千人(2006 年 7 月)               4.5%(2005 年)

    中国                 1,313,974 千人(2006 年 7 月)              10.2%(2005 年)

    インド                1,095,352 千人(2006 年 7 月)                8.4%(2005 年)
                                                           出所:CIA World Facts


   シンガポールは地理的にハブとしての地位を長い間保ち続けており、その地位を今後もさらに強化してい
 く模様である。地理的条件は極東の日本とシンガポールでは大きく異なるものの、互いに中国からの観光客
 増大を目指している点では共通しており、シンガポールの動向は今後の日本が進める観光誘致政策におい
 て参考となることだろう。


                                                                                以上

                     《お問合せ先》
                         ボーダーゼロ Border Zero                 福元 聖也(ふくもと まさや)
                         URL:http://www.borderzero.com                U




   参考資料:
        『カジノ誘致は堅物国家シンガポールの起爆剤となるか –Las Vegas Sands がシンガポールのカジ
        ノ案件を落札』
        (http://www.borderzero.com/casino.html)




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観光立国化を加速させるシンガポール

  • 1. 観光立国化を加速させるシンガポール -Genting International がシンガポールの 2 つ目のカジノライセンスを獲得- ボーダーゼロ 2006 年 12 月 1. はじめに 2006 年 5 月 26 日、堅物国家として知られているシンガポールにて初めてのカジノ事業の落札業者が発 表されたことは、弊社が同 5 月に発表したレポート(『カジノ誘致は堅物国家シンガポールの起爆剤となるか –Las Vegas Sands がシンガポールのカジノ案件を落札』 http://www.borderzero.com/casino.html)で記した通りである。そして 2006 年 12 月 8 日、セントー サに建設が予定されている第 2 弾案件(以下、セントーサ島案件)を、マレーシアの Genting International が落札したとの発表が行われた。なお、シンガポール政府はカジノのライセンスを今後 10 年 の間は新規に発行しないことを表明しており、権利を獲得した 2 社がシンガポールのカジノ業界しいては観 光業界を牽引していく存在となる。 本稿では、セントーサ島案件そのものおよび落札者について調査するとともに、第 1 弾案件(以下、マリ ナ・ベイ案件)の情報も参考にシンガポールの観光政策についての考察を簡単に行う。 既出のレポートでも記したとおり、筆者は 1983 年から 1991 年までの約 8 年間をシンガポールにて滞在 し、その後も何度かシンガポールを訪問したこともあり、土地勘については多少の自信を持っていることを記 しておく。 主な参考資料として、シンガポール最多の発行部数を誇る日刊紙 THE STRAITS TIMES、マレーシアの 英字日刊紙 NEW STRAITS TIMES および各国主要メディアの最新情報を活用した。 本稿では計算の便宜上、S$1(シンガポールドル)=70 円、US$1=110 円と換算。 2. マリナ・ベイ案件の概要 マリナ・ベイ案件の詳細は既出レポート(http://www.borderzero.com/casino.html)を参照いただく こととして、本章では概要を簡単に紹介するにとどめておく。 落札したのはアメリカ Las Vegas に本拠地を置く Las Vegas Sands で、他に同じく Las Vegas に本拠 地を置く MGM Grand、Harrah’s Entertainment、そしてマレーシアの Genting International が入札 した。落札の中で比重の高かった「観光地としての魅力および観光産業への貢献可能性」という点で高い評 価を獲得し、落札へ結びつけることに成功した。「MICE(”meetings, incentives, conventions and exhibitions” 会合や展示会を開催する施設群)としてのシンガポールの地位を向上させる可能性が期待 できる」という、S. Jayakumar 副首相のコメントもその落札の理由を表している。 Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -1-
  • 2. 建設が予定されているのはマリナ・ベイ地区で、オフィス街から数キロほどしか離れておらずまた、空の玄 関口チャンギ国際空港からのアクセスも良好な立地に位置している。建設費はおよそ S$50.5 億(約 3,500 億円)を見積もっており、世界最大のカジノリゾートの建設としても多くの注目を集めている。 また、カジノ誘致によって、シンガポール政府は、2015 年までに現在の観光客の 2 倍に相当する 1,700 万人、そして観光収入の 3 倍増に相当する S$300 億(約 2 兆 1,000 億円)の目標を立てている。そして、 カジノ誘致によって 2015 年までにマリナ・ベイ・エリアに S$27 億(約 1,900 億円)の経済効果もしくは GDP 比 0.8%の経済成長の押し上げと 1,000 人分の直接的な新規雇用機会の創出が期待されている。 図 1 では、両案件の建設予定地の位置を示しておく。 《図 1 マリナ・ベイおよびセントーサ島の位置》 マリナ・ベイ ビジネス・エリア セントーサ 3. セントーサ島案件の概要 セントーサ島はシンガポール本島の南端の沖合に位置し、水族館や蝶園やゴルフコースなど各種レクリエ ーション施設などを備えたシンガポール有数の観光スポットである(シンガポールを訪れる観光客の 69%が 同島を訪れている1)。日本からのツアーにも組み込まれているため、日本人観光客も数多く訪れている場所 としても有名である。その島に今回のリゾート(正式名称は Resort World at Sentosa)が敷地面積 121 エーカーの広さに 2010 年の開業を目指して建設されるのである。 当セントーサ案件に最終的に入札したのは落札したマレーシアの Genting International のほか、アメ リカ Las Vegas の Eighth Wonder、バハマの Kerzner International の 3 コンソーシアム(各コンソー シアムの特徴などは次章)。 1 The Straits Times 2006/12/9 “Tourism appeal the clincher for Genting” Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -2-
  • 3. 表 1 では、セントーサ案件落札までの流れを示しており、マリナ・ベイ案件では基本構想を 19 業者が提出 するなど高い注目度を集めていたものの(マリナ・ベイ案件落札に至る経緯は既出レポート http://www.borderzero.com/casino.html 参照)、当案件ではマリナ・ベイ案件落札業者決定の後の 段階では入札を表明していた Las Vegas Sands と Harrah’s が入札に参加しなかったこと、2006 年 7 月 時点で 4 組しか入札意向を表明していないこと、そして最終的にはたったの 3 組しか入札しなかったなど、 随分と大人しめな競争だったという印象はぬぐえない。 《表 1 セントーサ案件落札までの動き》 年 イベント 2006 年 5 月 Las Vegas Sands と City Developments Limited の連合チームがマリナ・ベ イにおけるカジノ案件を落札 2006 年 7 月 4 業者がセントーサ島案件への入札意向を表明 2006 年 10 月 Harrah’s が入札から撤退 入札参加者による提案書提出 2006 年 11 月 最終審査実施 2006 年 12 月 Genting International がセントーサ島案件を落札 出所:THE STRAITS TIMES 2006/12/9 などを参考にボーダーゼロ作成 4. 各入札参加者の素顔 では、入札に参加した 3 コンソーシアムの構成メンバーはどのようなものなのか。そして権利獲得に結び ついた要因は何か。これらについて紹介していこう。カジノ運営業者の内訳は、Genting International(マ レーシア2)、Eighth Wonder(アメリカ)、Kerzner International(バハマ)の 3 社。 落札したのは、Genting International と Star Cruise のコンソーシアム。同コンソーシアムは唯一マリ ナ・ベイ案件にも入札した実績を持ち、マリナ・ベイ案件での落選の経験をうまく活かすことに成功したチーム と評価できる。Genting International はマレーシアのコングロマリット Genting Group においてリゾート 事業などを手がける企業であり、マレーシアで最も有名なカジノを有していることでも知られている(現時点で、 シンガポールから最も近くて大規模なカジノと言えばクアラルンプール近郊の Genting Highland)。また、 マレーシア以外にはオーストラリア、フィリピンなどにもカジノで運営、イギリスに 40 以上のカジノを持つ Stanley Leisure を US$12 億(1,320 億円) で買収するなど海外へも積極的に市場展開している。 Eighth Wonder は 3 社と組んで入札に参加。Eighth Wonder 自体はカジノを運営しておらず、Las Vegas にあるカジノホテル New York New York のデザインを手がけるなど間接的にカジノ経営に携わる 形で参入している。 そして、Kerzner International はマリナ・ベイ案件にも入札した CapitaLand(マリナ・ベイ案件では MGM Mirage と入札)と組んで入札に参加した。Kerzner International はバハマのほか、ドバイ(UAE) やモーリシャスなどにもリゾート施設を持つ企業で、シンガポール政府が目指す IR(複合的リゾート施設)運 営での実績を十分備えている。 2 本社所在地は香港だが、親会社がマレーシア籍などを考慮しマレーシアとして分類 Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -3-
  • 4. 《表 2 最終入札参加者の組み合わせ》 コンソーシアム名 立場 業者名 本社所在地 Genting International カジノ運営者 Genting International マレーシア 組 デベロッパー Star Cruises 香港 Eighth Wonder 組 カジノ運営者 Eighth Wonder アメリカ(ラスベガス) メディア Publishing and オーストラリア Broadcasting デベロッパー Melco International 香港 Development カジノ運営者 Isle of Capri Casinos マカオ Kerzner International カジノ運営者 Kerzner International バハマ 組 デベロッパー CapitaLand シンガポール 5. 雪辱晴らした Genting International 前述のように、Genting International が当案件の落札に成功し、それは全案件での雪辱を晴らす結果 となった。コンソーシアムの組み合わせも前案件(上述)とは変わらず、また提案内容にもほとんど変化は見 られなかった(マリナ・ベイ案件での提案内容は既出レポート参照)。 具体的な各コンソーシアムの提案内容は次表の通りであるが、Las Vegas の有力カジノ運営業者が入札 に参加していないことも相まって提案内容がいずれも小粒に映り、Genting International の提案が相対 的に優れて映るのは致し方ないと評価せざるをえない結果となっている。 《表 3 各カジノ運営業者の主な提案内容》 コンソーシアム名 主な提案内容 Genting International 組 Universal Studio を誘致 1,8000 室を擁するホテル 20 エーカーにもおよぶマリンパーク 建設費:US$32 億(約 3,500 億円) Eighth Wonder 組 元サッカー選手のペレのフットボールアカデミー 10 階建てのビルに相当する高さの滝 建設額:US$35.7 億(約 4,000 億円) Kerzner International 組 Bahamas Atlantis の近未来バージョン施設 世界最大規模の水族館 建設費:US$34 億(約 3,800 億円) 出所:THE STRAITS TIMES 2006/5/27 など Genting International の提案で注目されるのは Universal Studio を誘致するというもので、本場 Hollywood のものよりも規模が大きく(Resort World at Sentosa の敷地面積の約半分を占める)、設置 が予定されている 22 のアトラクションのうち 16 ものアトラクションがシンガポールに初めて導入されるとのこ Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -4-
  • 5. とである。そして、観光立国を目指すシンガポール政府にとって心強い契約「向こう 30 年間、Universal が 東南アジア地域にテーマパークを開発しない」が結ばれていることも挙げられる3。 では、当案件の落札の決め手は何だったのか。この点については、南国的風情を存分に表現する豊富な 水、岩、植物などが都市的景観との調和を保ち4、当案件でのガイドラインに敷地の 70%に自然を残すこと と定められていることからも、自然との調和に力点が置かれていることが容易に想像できる。また 、 S.Jayakumar 副首相によると、「家族が楽しむのになじみやすいコンセプトをもち、セントーサ島が本来持 つ強みを発揮できること、そして人をひきつけシンガポールでの滞在期間を延ばせるような魅力を持つこと」 が求められていた模様である。 こうした、評価側の意向を反映した点数配分は次のとおりである5。 45点:観光地としての魅力と観光産業への貢献可能性 25点:建築物のコンセプトおよびデザイン 20点:開発投資額 10点:コンソーシアムの結びつきの強さ 評価項目についてはマリナ・ベイと相違はなく、Universal Studioの誘致を提案しているGenting International組の提案が、4つの評価項目の中で最も点数の高い「観光地としての~」で高い点数を獲得 して落札に結びつけることに成功したと想像することは難しくない。なお、「建築物のコンセプトおよびデザイ ン」の点数については、Genting International組の評価は決して高くなかったとのことである。 《図 2 Genting International による提案イメージ》 出所:Genting International - Star Cruises 提案資料 3 The Straits Times 2006/12/9 “Tourism appeal the clincher for Genting” 4 The Straits Times 2006/12/9 “Genting to build Singapore’s 2nd Casino” 5 Press Conference on Award of Integrated Resort at Sentosa Friday 8 DEC 2006,5:30PM, Sentosa Remarks By Deputy Prime Minister Professor S Jayakumar Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -5-
  • 6. 6. 落札した Genting International に立ちはだかる課題 晴れて、セントーサ島案件を落札した Genting International だが、彼らには嫉妬にも似た懸念が早くも向け られている。たとえば、セントーサ案件の落札がマレーシアの Genting Highland と共食い状態にならないかとい うものや、Genting International のカジノ運営者としての実力は中途半端で Las Vegas などの大手と比べて 見劣りし、それがためにシンガポールの観光政策への貢献は限られたものにとどまるのでは?という声だ(中には、 Universal Studio は時代遅れだという声も)。前者については、確かに共食いとなってしまう可能性は肯定も否 定もできない非常に評価の分かれるものだが、成功すれば「東南アジアのカジノリゾート=Genting」というイメー ジを強烈にアピールする格好の機会となる。また、後者については確かに世界的な知名度という点では Las Vegas の大手運営業者とは見劣りするものの、大規模カジノを 40 年近く運営しイスラム教国のマレーシアで長年 運営し続けてきた実績や華僑の顧客をひきつけてきた実績は侮ることはできない。また、こうした否定的な懸念に ついてはよりマクロ的な視点から、マレーシアから独立したシンガポールが共同歩調をとるよい機会として位置づ けられるだろうとの楽観的な見解を Merrill Lynch 証券のアナリスト Sean Monaghan が示している6など、小国 のシンガポールが東南アジアの中での戦略を模索する際の重要な地位として位置づけられている。 なお、Genting International が落札したセントーサ島案件には、マリナ・ベイ案件同様に高い経済効果が期 待されている。具体的には、通称大臣の Lim Hng Kiang によると、S$27 億(約 1,900 億円)もの売上(対 GDP 比 0.8%増に相当)と 30,000 人もの雇用確保を 2015 年までに達成するというものである7。こうした政府による 期待を受け、上記のような嫉妬にも似た懸念を Genting International は Universal Studio のアトラクション などを大いに活用して跳ね除けていくものと期待したい。 現在、セントーサ島を訪れるのは、シンガポールを訪れる観光客の 69%であることは記述の通りである。 2003 年にシンガポールを訪れた人の人数は約 600 万人であり8、そこから約 400 万人(=約 600 万人 ×69%)はセントーサ島を訪れたと導ける。また、シンガポールの平均滞在日数は 3.4 日9で、仮に現時点で のセントーサ島の平均滞在日数は 0.8 日だとする10。現状の訪問状況に基づき、合計 1,830 室のホテル 6 棟を建てる計画の Genting International にとってはセントーサ島を訪れる人の割合を増やすこともさるこ とながら、宿泊して平均滞在日数を増やす楽しみの提案に力点を置いたプロモーションを図っていくことが予 想される(滞在日数を増やすことで食事、宿泊費、カジノなどのアトラクション支出を喚起)。シンガポールを 訪問する観光客数が、2015 年時点でシンガポールが目標と設定する 1,700 万人の状況でセントーサ島を 訪れる人の割合が 80%に上昇、そして平均滞在日数が 1.2 日に延びたと仮定した場合、セントーサ島に与 えるインパクトは次ページの図のように大幅に拡大することが期待できる。Genting International にとっ ては、セントーサ島に訪れる人が増え、さらにそれらの人々が長く滞在できるような、そして言うまでもないが 永続的な観光地として位置づけられるためにはリピーターを増やすような施策を絶えず提供しておくことが求 められることは言うまでもない。アトラクションを定期的に入れ替えるという Universal Studio の誘致に Genting International が成功したという点は、リピーターを獲得するという点でシンガポール政府からも 高い期待を持たれている模様である。 6 Yahoo! Finance Singapore 2006/12/9 “Malaysia's Genting wins Singapore's second casino licence” 7 Herald Tribune International 2006/12/8 “Genting International to build Singapore's second casino” 8 WTO World Overview & Tourism Topics: 2004 Edition. 9 Newsweek 2006/12/11 “Asia's Most Lavish Casino” 10 セントーサ島の平均滞在日数のデータは入手不可だったため、筆者の経験を元に仮定 Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -6-
  • 7. 《図 3 Genting International が強化すべき 2 軸》 平 (1,360 万人、1.2 日) 均 滞 在 日 (400 万人、0.8 日) 数 訪問者数 7. シンガポールの誘致に対する取り組みから学ぶヒント シンガポールにおけるカジノ業者選定フィーバーはひとまず落ち着きを戻し、これからはマリナ・ベイとセン トーサ島それぞれが開業に向けて建設段階に入ることとなる。一連のシンガポールのカジノ誘致に向けた取 り組みから、観光立国化をめざす日本はどのように学ぶことができるだろうか。近年のシンガポール政府を 中心とした観光誘致政策の一部を紹介し、今後の日本政府および自治体のカジノ誘致における参考に活用 してもらえればと思う。 A) 政府のプロジェクトに対するスタンスの表明 ここ数年、シンガポールをはじめとした東南アジア各国では観光誘致に多くの力を注ぎ、その表れが国 際空港の増改築や移転などに表れている(シンガポールチャンギ国際空港の拡張、バンコクドンムアン空 港からスワンナプーム空港への移転)。また、格安航空会社の設立が相次ぎ、空を介した人の移動が活 発化していることも、観光化に拍車をかけている。また、同様にセントーサ島のインフラ整備にもよりいっそ う力を入れており、シンガポール本土とセントーサ島を結ぶモノレールを新たに開通させる(日立製作所が 納入)など、 セントーサ島への観光客誘致を落札した Genting International へ丸投げするのではなく 政府も積極的に関与している。こうした政府の積極的な関与および干渉は Las Vegas の大手には厄介に 映った点は否定できず、日本でも落札者との関係をどのように築いてプロジェクトに関与していきたいのか という点についてはクリアにしておくことが、入札業者の顔ぶれに大きく左右することは記憶しておくべきで ある B) 数値目標の設定と公表 2015 年までに観光客を 1,700 万人にまで延ばすなどの数値を示し、大きく揺れた世論への約束を誓 っている点(コミットメント)は、日産自動車が復活したケースと極めて近いケースと評価することができる。 自ら目標を設定することで、落札業者へのハードルを課して目標に向けた努力を促す一方で、カジノ誘致 に至るまでに大きな論争を巻き起こした世論に対する協力を仰ぐ格好の態度と映る。日本にカジノを誘致 する際、治安の問題など大きく世論が分かれることは想像に難くない。そのとき、誘致を決定する政府およ Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -7-
  • 8. び自治体は、どのように協力を仰ぐ体制を整えるか。コミットメントは大きな役割を果たすことだろう。 C) ぶれない目的 セントーサ島案件を Genting International が落札した要因の 1 つ、それが海外からの観光客ばか りを意識した提案ではなく、地元シンガポール人にも楽しめる施設を提案したことにある。政府が実施した マーケティング調査でもシンガポールを訪れる観光客の多くは、現地の人が足を運ぶスポットに関心が高 い傾向があるとの結果が表れている。シンガポール政府にとっては、あくまでも観光収入の増大が目的で あることが、この点からも理解することができよう。また、大きな論争を巻き起こした「カジノ」の誘致だが、 入札過程において実はカジノの収益性やコンセプトが評価のうちで大きな位置づけを占めていたわけでは ない。マリナ・ベイ案件ではビジネスユーザーに訴求した MICE を備えた施設であるかどうか、そしてセント ーサ島案件では、家族が楽しめる提案であるかどうかが焦点とされている。こうしたカジノの比重が決して 大きくない点について、ビール会社 Brewerkz の創業者 Devin Kimble は、カジノはあくまでも落札業 者が収益を向上させるためのボーナスに過ぎないとの指摘をしており11、筆者も観光収入の増大を 目指すためにはカジノ運営業者のノウハウが必要であり、そのためにはライセンスを発行して入札参 加を促すことが賢明だったと判断したからではないか推測している。観光客誘致に徹した姿勢が如実 に表れているエピソードではないだろうか。 8. 周辺国からの観光誘致のために Mintel 社の調査によると、環太平洋地域では年間 US$8,000 億(約 90 兆円)もの額が観光消費されて おり、向こう 10 年もの間にその額は年間 US$1.8 兆(約 200 兆円)にまで膨れ上がるとの予測が立てられ ている。同様に PricewaterhouseCoopers によると、アジアにおけるギャンブル収入は 2010 年までに 14%成長するとの予測が立てられている(世界全体では 8.8%の成長)。シンガポールは既に中国人の間 では香港、マカオについで人気のある観光地としての地位を築いている12。マカオが「熱烈な」ギャンブラー の溜まり場となっている今、ファミリー向けを志向し家族でカジノを備えたリゾートライフを楽しみたい中国人 への訴求していくことが何よりも優先順位が高い戦略であろう。そのための施設こそが、セントーサ島案件で あり、Genting International は期待を一心に集めている。したがって、ファミリー向けリゾートとしてはライ バルはマカオではなく、むしろディズニーランドを営業している香港なのかもしれない。 また一方で、インドの経済成長も見逃せず、アラブ首長国連邦(UAE)など中東諸国がインドからの誘致を 積極的に展開している。とりわけ UAE はマリナ・ベイ案件が力点を置く MICE に焦点を当てて誘致に取り組 んでいる。 上記のように MICE に焦点を当てたマリナ・ベイ案件、ファミリーに焦点を当てたセントーサ島案件はそれ ぞれライバルの存在がちらつくものの、次ページの表のようにシンガポールには周辺国の人口が多く、また 経済も成長途上にある国が多く、両案件の成否がシンガポール政府の観光誘致政策の成否を大きく握って いるというのは言いすぎだろうか。 11 Asia Times 2006/12/2 “Last resort (with casino) in Singapore” 12 Newsweek 2006/12/11 “Asia's Most Lavish Casino” Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -8-
  • 9. 《表 4 シンガポール周辺諸国の人口および経済成長率》 国名 人口 経済成長率 マレーシア 24,389 千人(2006 年 7 月) 5.2%(2005 年) インドネシア 245,453 千人(2006 年 7 月) 5.6%(2005 年) タイ 64,632 千人(2006 年 7 月) 4.5%(2005 年) 中国 1,313,974 千人(2006 年 7 月) 10.2%(2005 年) インド 1,095,352 千人(2006 年 7 月) 8.4%(2005 年) 出所:CIA World Facts シンガポールは地理的にハブとしての地位を長い間保ち続けており、その地位を今後もさらに強化してい く模様である。地理的条件は極東の日本とシンガポールでは大きく異なるものの、互いに中国からの観光客 増大を目指している点では共通しており、シンガポールの動向は今後の日本が進める観光誘致政策におい て参考となることだろう。 以上 《お問合せ先》 ボーダーゼロ Border Zero 福元 聖也(ふくもと まさや) URL:http://www.borderzero.com U 参考資料: 『カジノ誘致は堅物国家シンガポールの起爆剤となるか –Las Vegas Sands がシンガポールのカジ ノ案件を落札』 (http://www.borderzero.com/casino.html) Copyright ©2006-. Border Zero All rights reserved. -9-