自由意志の問題を
「ふりかえる」
第 58 回「心の科学の基礎論」研究会
2009-07-25
話題提供:荒川直哉
構成
• Libet の実験
• Searle の疑問
• 問題の概観
• キリスト教
• 近代哲学史
• 両立論
• デネット
• 行為と責任
• 行為論
• 意識の存在理由
• まとめ
現代心理学: Libet の実験
• 円形スクリーン上 2.65 秒で1周する点
• 被験者の脳の準備電位を計測
• 被験者に手を動かしたりさせる。
• 被験者に決意した時間の点の位置をあとで報告してもらう。
• 準備電位と決意の時間までには 300 〜 500 ms の遅れがある。
• 自由意志が幻想であり随伴現象である証拠?
Ref. 「マインド・タイム」ベンジャミン・リベット(岩波書店)
Libet 自身は自由意志を何とか救いたいと考えている。
2つのモデル
意識
行為決定
行為 行為
行為決定 意識
A B
素朴な疑問〜 Searle
Freedom & Neurobiology (2004)
• 決定論は随伴現象説 (epiphenomenalism) を含意
する。
• 随伴現象説は信じられない (incredible:
p.77) 。
– 随伴現象説は進化論的にも説明しづらい
(p.69) 。
• Searle にとって理性=自由意志 (pp. 73-77)
問題の概観
• 決定論
– 未来の事象は自然法則を伴う過去および現在の事
象によって必然化されているという主張
• 自由意志擁護→両立主義
• 自由意志否定→ hard determinism
• 非決定論→自由意志論 (libertarianism)
Ref.
– Wikipedia
– http://www.trinity.edu/cbrown/intro/free_will.html
cf. 確率的(非)決定論(量子論)
• 未来の事象は自然法則を伴う過去および現在
の事象によって確率的に決定される。
• 量子力学に自由意志を見いだす考えもある。
• しかし「サイコロ」を振って意思決定をする
ようなものであり、非決定論といっても自由
意思の外部のものに支配されていることは変
わらない( Wikipedia )。
キリスト教(予定説)
• カトリックの基本教義:予定説
– アウグスティヌス( 354~430 予定説・恩寵説) vs.
ペラギウス主義(自由意志説[ 431 年の公会議で異端確
認])
– 天国行きは予定されている。
– 地獄行き( Positive Conditional Reprobation )
• 神は結末を知っているが、選択は個人の自由(意志)に任せる。
(両立論的)
ref. http://vivacatholic.wordpress.com/2007/08/12/predestination-in-
catholicism/
• カルヴァン主義
– 二重予定説(天国行き&地獄行きが決定されている)
– cf. Max Weber “Beruf” ( 天国行きの証であるところの勤勉 )
キリスト教と自由意志
• 一方、キリスト教徒は一般的に自由意志を信じてい
るらしい(専門家との私信)。
• cf. アクイナス( 13 世紀)
倫理的観点からの議論
http://www.mnstate.edu/gracyk/courses/web%20publishing/aquinasFreeWo.htm
• 教会はこの問題に触れたがらないらしい(同じく私信)
。
– 予定説とのジレンマがあるため
• ちなみに(キリスト教のルーツを構成する)アリストテレス、
ユダヤ教は基本的に自由意志論的。
超簡単な近代哲学史
• スピノザ
– 決定論者とされている。
– 「人間たちは自分が自由な存在であると考える点で誤る。こういう考えは
、彼らが自分の行為について、意識していながら、自分たちが決定されて
いる諸原因を知らないということにのみ存する」(『エチカ』第二部定理
5 )
– 議論が彼の汎神論& dual-aspect theory の枠内で行われていることに
注意
• ライプニッツ
– 両立論者と考えられる。
– ref1. 「ライプニッツにおける予定調和と個体的実体の自由について」
井上義彦
ref2. http://plato.stanford.edu/entries/kant-leibniz/
• カント
– cf. カントの第三アンチノミー:因果律 vs. 自由( spontaneity )自
由意志というより「自由な」原因全般について議論している)
– http://philosophy.ucdavis.edu/mattey/kant/3ANTIN.HTM
自由意志論
• デカルト
– 一方的に自由意志論を宣言
– Traité des passions de l‘âme (1649, I, art. 41)
– “la volonté est tellement libre de sa nature, qu’elle ne peut jamais être
contrainte.“ 「意志はその性質上決して制約されないほど自由である」
• サルトル
– L’Être et le Néant (1956).
– "Cela signifie qu’on ne saurait trouver ma liberté d’autres limites qu’elle-
même ou, si l’on préfère, que nous ne sommes pas libres de cesser d’être
libres.”
「自由自体以外に私の自由に対する制限はない、いいかえれば我々には自由でなく
なる自由はない」
– "Nous l’avons vu, pour la réalité-humaine, être c’est se choisir.”
「人間の現実に対しては存在とは自ら選ぶことである」
悩んでいる哲学者たち
• R. Chisholm
– 議論しているが決定的なことは言っていない模様
– http://www.polywog.org/philosophy/metaphysics/asgn4.pdf
• C. McGinn
– 「意識の < 神秘 > は解明できるか」 (1999)
– 心情的非決定論?
– 心的因果性は物理的因果性と違う?
• J. Searle
– 冒頭で述べたように悩んでいる模様
両立論
(ソフトな決定論 )
• 決定論を認める。
• 自由意志も擁護
– 自由意志論者が考えるような自由意志は決定論と矛盾
– 別の「自由意志」を定義することにより両立を図る。
• 以下では古典的両立論、デネット、ストローソンら
を紹介
Ref. http://plato.stanford.edu/entries/compatibilism/
古典的両立論
• Hobbes (リバイアサン)、 Hume (人間知性研究)など
• 自由な行為
– 個々人がその行為を意図し、かつ別の決定をしていれば別
様に行為できるような行為
• A person acts freely only when the person willed the act and the
person could have done otherwise, if the person had decided to.
– 行為の選択が自らの欲求および選好の結果であって、何ら
かの外的(または内的)な力によって覆されていない。
• 様相的な(仮定上の)定義なので、決定論と両立す
る(心理状態が別の場合を考えればよい)。
• 自由意志というよりは自由な行為についての定義
– 行為選択が決定的かどうかには言及しない。
デネット「自由は進化する」
山形浩生訳
• 両立論
– すなわち決定論者
– 自由意志を擁護
• しかし(もちろん)代替品の自由意志
– 「選択能力」
– 人間は言語と文化・文明の発展のおかげで他の動
物に比べはるかに大きな選択の余地を持つ。
– 自由〜「各種の状況下で価値あるものを実現する能力」
( Nicholas Maxwell, From Knowledge to Wisdom, 1984 )
– 「可能」は多義
選択能力と改善
• 選択能力
– 進化によって得られた。
– ライフゲームの(進化シミュレーション)でも回避行動を
とる「エージェント」が生き残る。
– 「不可避」も多義
• 改善
– 学習はプログラムできるし、我々の性質は変化する。
– 世界内主体にとってはものごとは変化(改善)するように
みえる。
– 我々の自由(度)は進化により増加している。
• デネットが行おうとしていること
– 宿命論( fatalism )による悲観論を追い払うこと
Libet の実験について
〜デネット〜
• 時計の針を知覚するのに長い時間がかかる?
※ 実はすべての「意識」には 500ms 必要
体験は時間遡行する
しかしこの実験の結果とは無関係( Libet )
• 決断には時間がかかる。
• 時間がかかる決断の総体が「自由意志」だと
考える。
※ デネットの代替品の「自由意志」からすればそれ
は問題ない。
感想
• パチもんの自由意志はいらない。
• 私たちは望んだことを行うことができる。
※ 望んだということは 500ms 後に知ることができ
る。
※ それで十分
• ここらへんはデネットの主張ともおそらくか
けはなれていない。
(代替品を売るかどうかということだけ)
倫理と責任
• 一見、責任は自由意志を必要とするように見える。
– 行為の選択が事前に別のものによって決定されているなら
、決定者に責任はないように見える。
• 法学(判例および通説)
– 「責任能力とは、当該行為の反道義性ないし違法
性を弁識し ( 弁識能力)、その弁識にしたがって
道義的・適法な行為を選択する能力 ( 制御能
力 ) 」と定義する。
– 自由意志という言葉はでてこない。
– 弁識( recognition )も制御( control )も工学用語でもあっ
て、このような能力を備えるアンドロイドを考えることは
十分可能であり、その能力は決定的なものでかまわない。
両立論と責任
• 責任能力を自由意志から独立させる議論と両立論は相性が良い。
• Hume
– 責任はむしろ行為が(ランダムではなく行為者の性格などにより)決定的
であることに由来する。
ref. http://plato.stanford.edu/entries/hume-freewill/
• 聖パウロ『ローマ人への手紙』
– 行為が神によって決定されていても、不名誉なものであるとできる。
• Green & Cohen
– (道徳の)帰結主義(結果が悪いかどうか)
– 処罰により犯罪を防ぐことに意味がある。
ref. http://www.wjh.harvard.edu/~jgreene/GreeneWJH/GreeneCohenPhilTrans-04.pdf
• しかし、ここらへんの議論はややポイント(「責任」および「行為」
の分析的な意味付け)をはずしているように思える。
P. F. Strawson
Freedom and Resentment (1962)
• 行為の責任は、別様に行為できたかどうかとは関係なく、どの
ような意図を持っていたかを(人間関係の中で)問うものであ
る。
• Reactive Attitude vs. Objective Attitude (cf. Intentional Stance)
• ※ 責任を問うのは「心の理論(俗流心理学)」が成り立つ場合のみ
• 自由意志による行為としばしば同一視される責任ある行為は、
決定論の議論と無関係
ref. http://plato.stanford.edu/entries/compatibilism/
http://users.ox.ac.uk/~ball0888/oxfordopen/resentment.htm
行為論
• J. Searle の Intention-in-Action
– 「行為 (action) 」の分析
– 行為中の意図(意識)
– "we have the sense that our actions are what we want to
be doing when we are doing them.”
ref. http://philosophy.uwaterloo.ca/MindDict/intentioninaction.html
– 実は Libet の実験でも意図は行為の前に意識され
る。 feedback monitoring ?
拒否権( Libet )〜自由意志?
cf. 「責任能力」行為(やはり意識は必要?)
意識の存在理由
〜 Searle への返答〜
• 行為の「意識」が行為の結果(選択)と関連?
– 心理学的に実証可能?
– 「意識」されることではじめて可能になる選択があること
を示せばよい。
• 「意識」が学習と関係していることに関連?
(報酬と罰)
cf. Bernard Baars
• 自由意志を持ち込む必要はない。
– このメカニズムは決定的でよい。
– しかし「意識による決定」が「自由意志」の正体かも
• クオリアの議論も持ち込む必要はない。
まとめ
• Libet の実験
– 決定の「意識」は幻覚
• 両立論
– 代替品の「自由意志」(デネットも同様)
• 行為と意識の関係
– 責任能力
– 行為論
– 意識の心理学
• 蛇足:決定論〜実は「大きな物語」

自由意志の問題を「ふりかえる」

  • 1.
  • 2.
    構成 • Libet の実験 •Searle の疑問 • 問題の概観 • キリスト教 • 近代哲学史 • 両立論 • デネット • 行為と責任 • 行為論 • 意識の存在理由 • まとめ
  • 3.
    現代心理学: Libet の実験 •円形スクリーン上 2.65 秒で1周する点 • 被験者の脳の準備電位を計測 • 被験者に手を動かしたりさせる。 • 被験者に決意した時間の点の位置をあとで報告してもらう。 • 準備電位と決意の時間までには 300 〜 500 ms の遅れがある。 • 自由意志が幻想であり随伴現象である証拠? Ref. 「マインド・タイム」ベンジャミン・リベット(岩波書店) Libet 自身は自由意志を何とか救いたいと考えている。
  • 4.
  • 5.
    素朴な疑問〜 Searle Freedom &Neurobiology (2004) • 決定論は随伴現象説 (epiphenomenalism) を含意 する。 • 随伴現象説は信じられない (incredible: p.77) 。 – 随伴現象説は進化論的にも説明しづらい (p.69) 。 • Searle にとって理性=自由意志 (pp. 73-77)
  • 6.
    問題の概観 • 決定論 – 未来の事象は自然法則を伴う過去および現在の事 象によって必然化されているという主張 •自由意志擁護→両立主義 • 自由意志否定→ hard determinism • 非決定論→自由意志論 (libertarianism) Ref. – Wikipedia – http://www.trinity.edu/cbrown/intro/free_will.html
  • 7.
    cf. 確率的(非)決定論(量子論) • 未来の事象は自然法則を伴う過去および現在 の事象によって確率的に決定される。 •量子力学に自由意志を見いだす考えもある。 • しかし「サイコロ」を振って意思決定をする ようなものであり、非決定論といっても自由 意思の外部のものに支配されていることは変 わらない( Wikipedia )。
  • 8.
    キリスト教(予定説) • カトリックの基本教義:予定説 – アウグスティヌス(354~430 予定説・恩寵説) vs. ペラギウス主義(自由意志説[ 431 年の公会議で異端確 認]) – 天国行きは予定されている。 – 地獄行き( Positive Conditional Reprobation ) • 神は結末を知っているが、選択は個人の自由(意志)に任せる。 (両立論的) ref. http://vivacatholic.wordpress.com/2007/08/12/predestination-in- catholicism/ • カルヴァン主義 – 二重予定説(天国行き&地獄行きが決定されている) – cf. Max Weber “Beruf” ( 天国行きの証であるところの勤勉 )
  • 9.
    キリスト教と自由意志 • 一方、キリスト教徒は一般的に自由意志を信じてい るらしい(専門家との私信)。 • cf.アクイナス( 13 世紀) 倫理的観点からの議論 http://www.mnstate.edu/gracyk/courses/web%20publishing/aquinasFreeWo.htm • 教会はこの問題に触れたがらないらしい(同じく私信) 。 – 予定説とのジレンマがあるため • ちなみに(キリスト教のルーツを構成する)アリストテレス、 ユダヤ教は基本的に自由意志論的。
  • 10.
    超簡単な近代哲学史 • スピノザ – 決定論者とされている。 –「人間たちは自分が自由な存在であると考える点で誤る。こういう考えは 、彼らが自分の行為について、意識していながら、自分たちが決定されて いる諸原因を知らないということにのみ存する」(『エチカ』第二部定理 5 ) – 議論が彼の汎神論& dual-aspect theory の枠内で行われていることに 注意 • ライプニッツ – 両立論者と考えられる。 – ref1. 「ライプニッツにおける予定調和と個体的実体の自由について」 井上義彦 ref2. http://plato.stanford.edu/entries/kant-leibniz/ • カント – cf. カントの第三アンチノミー:因果律 vs. 自由( spontaneity )自 由意志というより「自由な」原因全般について議論している) – http://philosophy.ucdavis.edu/mattey/kant/3ANTIN.HTM
  • 11.
    自由意志論 • デカルト – 一方的に自由意志論を宣言 –Traité des passions de l‘âme (1649, I, art. 41) – “la volonté est tellement libre de sa nature, qu’elle ne peut jamais être contrainte.“ 「意志はその性質上決して制約されないほど自由である」 • サルトル – L’Être et le Néant (1956). – "Cela signifie qu’on ne saurait trouver ma liberté d’autres limites qu’elle- même ou, si l’on préfère, que nous ne sommes pas libres de cesser d’être libres.” 「自由自体以外に私の自由に対する制限はない、いいかえれば我々には自由でなく なる自由はない」 – "Nous l’avons vu, pour la réalité-humaine, être c’est se choisir.” 「人間の現実に対しては存在とは自ら選ぶことである」
  • 12.
    悩んでいる哲学者たち • R. Chisholm –議論しているが決定的なことは言っていない模様 – http://www.polywog.org/philosophy/metaphysics/asgn4.pdf • C. McGinn – 「意識の < 神秘 > は解明できるか」 (1999) – 心情的非決定論? – 心的因果性は物理的因果性と違う? • J. Searle – 冒頭で述べたように悩んでいる模様
  • 13.
    両立論 (ソフトな決定論 ) • 決定論を認める。 •自由意志も擁護 – 自由意志論者が考えるような自由意志は決定論と矛盾 – 別の「自由意志」を定義することにより両立を図る。 • 以下では古典的両立論、デネット、ストローソンら を紹介 Ref. http://plato.stanford.edu/entries/compatibilism/
  • 14.
    古典的両立論 • Hobbes (リバイアサン)、Hume (人間知性研究)など • 自由な行為 – 個々人がその行為を意図し、かつ別の決定をしていれば別 様に行為できるような行為 • A person acts freely only when the person willed the act and the person could have done otherwise, if the person had decided to. – 行為の選択が自らの欲求および選好の結果であって、何ら かの外的(または内的)な力によって覆されていない。 • 様相的な(仮定上の)定義なので、決定論と両立す る(心理状態が別の場合を考えればよい)。 • 自由意志というよりは自由な行為についての定義 – 行為選択が決定的かどうかには言及しない。
  • 15.
    デネット「自由は進化する」 山形浩生訳 • 両立論 – すなわち決定論者 –自由意志を擁護 • しかし(もちろん)代替品の自由意志 – 「選択能力」 – 人間は言語と文化・文明の発展のおかげで他の動 物に比べはるかに大きな選択の余地を持つ。 – 自由〜「各種の状況下で価値あるものを実現する能力」 ( Nicholas Maxwell, From Knowledge to Wisdom, 1984 ) – 「可能」は多義
  • 16.
    選択能力と改善 • 選択能力 – 進化によって得られた。 –ライフゲームの(進化シミュレーション)でも回避行動を とる「エージェント」が生き残る。 – 「不可避」も多義 • 改善 – 学習はプログラムできるし、我々の性質は変化する。 – 世界内主体にとってはものごとは変化(改善)するように みえる。 – 我々の自由(度)は進化により増加している。 • デネットが行おうとしていること – 宿命論( fatalism )による悲観論を追い払うこと
  • 17.
    Libet の実験について 〜デネット〜 • 時計の針を知覚するのに長い時間がかかる? ※実はすべての「意識」には 500ms 必要 体験は時間遡行する しかしこの実験の結果とは無関係( Libet ) • 決断には時間がかかる。 • 時間がかかる決断の総体が「自由意志」だと 考える。 ※ デネットの代替品の「自由意志」からすればそれ は問題ない。
  • 18.
    感想 • パチもんの自由意志はいらない。 • 私たちは望んだことを行うことができる。 ※望んだということは 500ms 後に知ることができ る。 ※ それで十分 • ここらへんはデネットの主張ともおそらくか けはなれていない。 (代替品を売るかどうかということだけ)
  • 19.
    倫理と責任 • 一見、責任は自由意志を必要とするように見える。 – 行為の選択が事前に別のものによって決定されているなら 、決定者に責任はないように見える。 •法学(判例および通説) – 「責任能力とは、当該行為の反道義性ないし違法 性を弁識し ( 弁識能力)、その弁識にしたがって 道義的・適法な行為を選択する能力 ( 制御能 力 ) 」と定義する。 – 自由意志という言葉はでてこない。 – 弁識( recognition )も制御( control )も工学用語でもあっ て、このような能力を備えるアンドロイドを考えることは 十分可能であり、その能力は決定的なものでかまわない。
  • 20.
    両立論と責任 • 責任能力を自由意志から独立させる議論と両立論は相性が良い。 • Hume –責任はむしろ行為が(ランダムではなく行為者の性格などにより)決定的 であることに由来する。 ref. http://plato.stanford.edu/entries/hume-freewill/ • 聖パウロ『ローマ人への手紙』 – 行為が神によって決定されていても、不名誉なものであるとできる。 • Green & Cohen – (道徳の)帰結主義(結果が悪いかどうか) – 処罰により犯罪を防ぐことに意味がある。 ref. http://www.wjh.harvard.edu/~jgreene/GreeneWJH/GreeneCohenPhilTrans-04.pdf • しかし、ここらへんの議論はややポイント(「責任」および「行為」 の分析的な意味付け)をはずしているように思える。
  • 21.
    P. F. Strawson Freedomand Resentment (1962) • 行為の責任は、別様に行為できたかどうかとは関係なく、どの ような意図を持っていたかを(人間関係の中で)問うものであ る。 • Reactive Attitude vs. Objective Attitude (cf. Intentional Stance) • ※ 責任を問うのは「心の理論(俗流心理学)」が成り立つ場合のみ • 自由意志による行為としばしば同一視される責任ある行為は、 決定論の議論と無関係 ref. http://plato.stanford.edu/entries/compatibilism/ http://users.ox.ac.uk/~ball0888/oxfordopen/resentment.htm
  • 22.
    行為論 • J. Searleの Intention-in-Action – 「行為 (action) 」の分析 – 行為中の意図(意識) – "we have the sense that our actions are what we want to be doing when we are doing them.” ref. http://philosophy.uwaterloo.ca/MindDict/intentioninaction.html – 実は Libet の実験でも意図は行為の前に意識され る。 feedback monitoring ? 拒否権( Libet )〜自由意志? cf. 「責任能力」行為(やはり意識は必要?)
  • 23.
    意識の存在理由 〜 Searle への返答〜 •行為の「意識」が行為の結果(選択)と関連? – 心理学的に実証可能? – 「意識」されることではじめて可能になる選択があること を示せばよい。 • 「意識」が学習と関係していることに関連? (報酬と罰) cf. Bernard Baars • 自由意志を持ち込む必要はない。 – このメカニズムは決定的でよい。 – しかし「意識による決定」が「自由意志」の正体かも • クオリアの議論も持ち込む必要はない。
  • 24.
    まとめ • Libet の実験 –決定の「意識」は幻覚 • 両立論 – 代替品の「自由意志」(デネットも同様) • 行為と意識の関係 – 責任能力 – 行為論 – 意識の心理学 • 蛇足:決定論〜実は「大きな物語」