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日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会 第一総合ジェンダー分科会
2018年7月28日シンポジウム
ハラスメントを鏡に、日本社会を検証する—なぜまっとうな議論ができないのか?
パネル討論1「若者は社会の変革者か、それとも従属者か」
凛とした学術コミュニティー
谷内江 望
東京大学先端科学技術研究センター 准教授
日本学術会議若手アカデミー 特任連携会員
コミュニケーションエラー(ハラスメント)はある
大きく捉えれば日本社会全体の風土が生み出しているのかもしれない
個別の特殊なケースが多いと捉えるべきかもしれない
それがあるというを認識し、それを嘆くだけではいけない
どうしたらいいのか?
今何ができるのか?
あるいは明日から何を考えていけばいいのか?
科学と同じ
個々人ができる範囲でこの問題に(健康的な精神で)
取り組まなくてはいけない
前提の仮説:学術研究はプロフェッショナルのものである
日本社会は、
社会が若者を独立した大人扱いするという空気、
若者が独立した個人であるという自覚と責任をもつ空気
が足りないことが問題の根幹にある(気がする)
プロサッカークラブでは
パフォーマンスが高くないことはシビアに指摘される
力がない場合は引導を渡される
プレーヤーはその覚悟のなかで責任をもってプレーする
アメリカの大学院では博士の中間審査で見込みがないとcommitteeに
判断された学生は退場を余儀なくされる
(社会の中には受け皿があり、流動性も確保されている)
いささか暴言に聞こえるかもしれないが、
多様な人間の存在を認めて共生すべき社会におけるハラスメントを学
術社会に「そのまま」もってくるのはちょっと違う(仮説)
多少のハラスメントが許されるとかそういうことではない
社会やコミュニティーの個性を分析することが重要
凛とした学術社会を作り
プロフェッショナルを醸造する意識が重要
ジュニア、シニア、ポジション関係なく
心から尊敬し合うということに尽きる
若い学生であっても、
シニア研究者が持たない技術や能力を確実に持っている
シニア研究者にも、若い学生にはない能力がある
往々にしてチームをまとめるマネージメント能力を発揮できる
貴重な存在である
フラットに尊敬し合うことが大切(全員偉い)
シニアも若者も勘違いしていないだろうか?
大学はデニーズや学習塾のようにサービスを提供する場所ではない
現代における大学生の圧倒的大人感が日本にはない
(未来を見なかった文科省や古い教育者達のせい)
大学や研究所は最先端の学問研究の現場であり、
研究従事者にとっては自らのキャリアのために様々な機会を掴みにいく場
北米トップティア大学では理系大学院生の学費、給与はPIが払う
プロフェッショナルとしてプロジェクトに従事する
先日トロント大学のある教授の自宅に夕食に招かれて話していたときに月20万円くらいの修士学生の
給与がトロントで余裕をもって住むには安すぎると教授会で大激論になったと聞いた(とても健全)
具体的にどうするといいか?(案)
PI、教員、マネージメントサイドは学生に雑務を頼むときに、
最大の努力をして給与を支払うようにする
学生、研究員は当たり前のフェアな感覚として、研究環境(実験室、試薬代、図
書など)に感謝し、自分のキャリアを伸ばすことを意識する
(サービスを享受する立場ではないという、圧倒的大人感覚)
我々はプロフェッショナルである
しなやかな厳しさでプロフェッショナルの質を求め、
次の世代のプロフェッショナルを作ることが学術社会の使命
ピア・ツー・ピアになっていないか?
ネットワークで尊敬し合っているか、
ネットワークで困ったことを相談できるか?
私の研究室はどうしているか
生物系は往々にしてskilled peopleの協調が必要
ラボを立ち上げて4年
まだまだきちんとできていない
北米トップ研究室との競争も激しい中で、
妥協を許さない厳しさもある
海外のコラボレーターのところにもどんどん派遣する
ライフイベントが発生したメンバーには学生であっても人員の補充などサポートをする
ゆっくり観察していると皆のネットワークはありそう
ラボはfirst nameで呼び合う(私のことはNozomuまたはNozomuさん)
頑張っている、あるいは研究プロジェクトに貢献する学生には学部生でも毎月サラリー
を払う、夏休みとか全力で払う(そういう自由なお金の確保は本当に大変)
リーダーシップを発揮するテクニシャンの給与は上げる
私には彼らがプロフェッショナルにより早く到達するためのマネージメントにおいて
「しなやかさ」が圧倒的足りない(強く自覚)
どうしたらいいのだろう、といつも悩んでいる
だからって決して良い訳じゃない
学生が泣いたりすることがある(くやしくて?)
理論攻めにしてしまって口を噤む学生もいる
私の下手なコミュニケーションを学生が怒ることも知っている
マネージメントサイドは現場の仕事ができる個々を尊敬し
なくてはいけない
教授やボスなんて苦労することが前提の調整役
縁の下に過ぎない
活躍するのは現場
そのために皆より高い給与が発生している
偉いとか偉くないとか絶対にない
個々は圧倒的大人感、圧倒的プロフェッショナル感をbuild upしなてくはいけな
い
個人の環境は変わって行く(一生同じ環境なんてありえない)
プロ研究者(またはそれを目指す学生)は、その時々の環境でスキルアップを
全力で目指し、アンラッキーな環境にヒットしてしまった場合は、逃げられるよう
に自分を磨いておかなくてはならない
学生など若いと異動は簡単(卒業が遅れるとかそういうことは本質ではない社
会に)
若くなくなると買い手が欲しがるようなスキルを持っている必要がある
前提の仮説:学術研究はプロフェッショナルのものである
プロフェッショナル感なんて意識しなくても良い科学(でも違う種類のもの)が生
まれる環境はある
私が学生時代を過ごした研究室は全く別の哲学だった
同世代で素晴らしい研究者が沢山生まれた
コミュニティーの哲学は多様で良い(こうあるべき、はない)
要は哲学をコミュニティーで共有し、
共有した上で選択を許しているか
圧倒的大人感を醸造する社会
ジュニア、シニア、ポジション関係なく
心から尊敬し合うということに尽きる
凛とした学術社会を作り
プロフェッショナルを醸造する意識が重要

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