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1. 取り上げる問題
2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
2-2. social entrepreneurshipの⽇本語訳とは
2-3.⽇本語訳が起業⽂化に影響する課題
3. 主たる結論
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3. 1. 取り上げる問題
• ソーシャル・アントレプレナーシップ(social entrepreneurship)の⽇
本語訳を学術的にどう考えたらよいのか。
• entrepreneur の1単語に対し⽇本語訳は「企業者」「企業家」「起業家」
と多岐にわたる。entrepreneurship の⽇本語訳は「企業者活動」「企業家
活動」「企業家精神」「起業家精神」があり、前にsocial がつくことで
「社会企業家精神」「社会起業家精神」との⽇本語訳があるが、課題は何
か。
• 「企業家精神」「起業家精神」は広辞苑等の国語辞典に掲載はなく、事実
上 entrepreneurship の正式な⽇本語訳が存在しない現況をどう考えたらい
いのだろうか。
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4. 2. ⽤いる⼿法
• 対照⾔語学(contrastive linguistics)の視点を⽤い、ソーシャル・アントレプレナーシップ(social
entrepreneurship) の⽇本語訳を検討する。
• 対照⾔語学とは祖語はじめ歴史的関係を同じくしない⾔語であっても、同時期の⾔語を対照し研究
する学術分野である(⽯渡・⾼⽥, 1990)(佐々⽊, 1998)
• 対照⾔語学は翻訳の精度向上にも貢献する⼿法を提供しており、その⼀つに逆翻訳(back-
translation)がある。Tu・Li(2017)は英語原⽂(ST: Source text)→中国語訳(TT1: Translated
text)→英語への逆翻訳(TT2: Back-translated text)を⾏う5つの例⽂の紹介を通じ、逆翻訳は誤
訳の発⾒や、翻訳の品質の検証に有効と述べる。
• 例えば介護や医療の⽇本語の学術論⽂では、⽇本語訳された専⾨⽤語から英語への逆翻訳が⾏われ、
英語の原義が⽇本語訳の過程で損なわれていないかの検証がなされたものもある(荒井・⽥宮・⽮
野, 2003)(松尾・中川, 2016)。
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5. 2. ⽤いる⼿法
• ⽐較⾔語学(comparative linguistics)と対照⾔
語学(contrastive linguistics)は混同されやすい
が、⼆つは異なる学問分野である(表1、佐々⽊、
1998)。
• ⽐較⾔語学は祖語はじめ歴史的関係がある複数
の⾔語間で成⽴し、対照⾔語学は祖語はじめ歴
史的関係が異なる複数の⾔語間で成⽴する。例
えばインド・ヨーロッパ祖語(Proto-Indo-
European)に由来する英語と、⽇琉祖語
(Proto-Japanese-Ryūkyūan)に由来する⽇本
語は、祖語はじめ歴史的関係を同じくしない⾔
語同⼠である。
• ⾔語意識の対照分析の研究もあり、後述2-1.の
ように、entrepreneurの⽇本語訳は「企業家」
か「起業家」か等の判断も、⾔語意識や起業⽂
化に関わると考えられる。
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出典︓佐々⽊(1998, P127)
表1
6. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
• まず、entrepreneur、続いて entrepreneurship の仏独英⽇の対照分析
を⾏う。仏語、独語、英語はいずれもインド・ヨーロッパ祖語で、⽇
本語は⽇琉祖語である。前者の3⾔語と後者の⽇本語は異なる祖語で
あり、⾔語的に親戚関係とはいえないため、対照分析になる。
• 佐々⽊(1998,P129)にならい、対照分析においては「⽐較」でなく
「対照」を本論⽂は使⽤する。
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7. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と
entrepreneurship の対照分析
• 表2でentrepreneurの定義を仏語、独語、英語、⽇本語
で対照すると、「企業の経営者」「管理者」との記述
が類似する。
• 仏語と英語は同じスペルのentrepreneurであり、
Merriam-Websterによると英語のentrepreneurの語源
は” French, from Old French, from entreprendre to
undertake”(古仏語のentreprendre, 責任を引き受け
る)となっている。独語のUnternehmerの語源は
DWDSによるとnehmen(英語のtake︓取る)や
benehmen(英語のbehave︓⾏動する)等とされる。
よって、entrepreneurの語源は「責任を引き受け、⾏
動する」⼈物像を⽰していたと推測される。
• 表2の⽇本語の「企業家」の定義では、NPO等の⾮営
利事業に当てはめることはできない。さらには、⽣産
設備を備えた営利企業が想定されており、現代社会で
多くの組織や個⼈が⽣産設備を持たずにサービスを提
供している実態に適合しているともいいがたい。
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表2
8. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と
entrepreneurship の対照分析
• 次に、entrepreneurshipの定義を仏語、独語、英語、
⽇本語で表3で対照する。定義を仏語で調べると、
「アントレプレナーの活動や機能」、独語では「営利
事業の運営や経営、推進本部や活動の創設」等、英語
では「新たな機会を⾒て、新しいビジネスを始めるス
キル」であり、「企業家精神」との定義は仏独英では
⾒当たらない。他⽅、冒頭1.で触れたように、広辞苑
(第七版)を始め⽇本語の辞書では、
entrepreneurshipの⽇本語訳とされる「企業家精神」
「起業家精神」そして「企業者精神」「企業者活動」
「企業家活動」のいずれも掲載が⾒当たらない。
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表3
9. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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研究者 年代 Entrepreneurの定義 Entrepreneurshipの定義
仏 Say 1836
“責任とリスクをとり、adventurer
(冒険者)と表現されるべき⼈”
(⾔及なし)
独 Schumpeter 1911 “新結合の実⾏を担う⼈” (⾔及なし)
⽶ Drucker 1985
“常に変化を探し、変化に反応し、
変化を機会として活⽤する”
“アントレプレナーシップは科学でもな
ければ芸術でもない。実践である”
10. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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翻訳者 年代 Entrepreneurの表記 Entrepreneurshipの表記
⽇
東畑ら 1977 “企業者” “企業者活動”
清成 1998
“本書では、Unternehmer および entrepreneur
に「企業家」という訳語をあてた。これま
でわが国において訳語としては「企業者」
が⽤いられ、最近では「起業家」がしばし
ば⽤いられるようになっている。本書では、
⽐較的多く⽤いられてきた「企業家」を採
⽤した。”
“entrepreneurship はしばしば「企業家精神」
と訳されているが、正確には精神をも含めた
企業家の全体的な⾏動を指しているので、本
書では「企業家活動」と訳した。企業家精神
に相当する⾔葉は、entrepreneurial spirit であ
る。欧⽶の多くの研究者は、
entrepreneurship とentrepreneurial sprit を使い
分けている。”
根井 2016
経済学の邦語⽂献では、「企業家」「企業
者」「起業家などの⾔葉が混在しているが、
私は原則として「企業家」という⾔葉を使
いたい。ただし、有名な古典の邦訳や他の
研究者の論⽂のなかに例えば「企業者」と
出てきたら、それに従うことにする。
(⾔及なし)
上⽥ 1985 “企業家” “企業家精神”
11. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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• SayとSchumpeterの原典を確認すると、彼らは⼤企業に属し⼤きな資本を動かす「企業家」よりは、
ゼロから事業を始めてリスクをとる「起業家」を意図していた。Drucker(1985/2002)は⼤企業も起
業家的経営(Entrepreneurial Management)をすべきで、既存事業も起業家的事業(The
Entrepreneurial Business)になる必要性を述べ、いわゆる⼤企業病の打破が説かれていた。現代世界
経済でも、GAFA等は巨⼤組織になってもアントレプレナーシップを奨励し続け、斬新な商品・サー
ビスを相次ぎ提供し続けている。
• ⽇本では起業家は市⺠権を得られない時代が戦後⻑く続いた⽂化的背景から、「企業者」「企業家」
と⽇本語に訳されたように推測される。例えば松下幸之助や本⽥宗⼀郎のように町⼯場から⾶躍成⻑
した世界的な起業家は⽇本にも存在する。だが、⾼度成⻑期以降、⽀配的な趨勢としては地⽅から都
会への集団就職や、学歴社会そして終⾝雇⽤制という雇⽤システムがあり、社会的には⼤企業への就
職が概して礼賛されてきた。現実は⽇本で中⼩企業は企業数で全体の99.7%、従業員数で68.8%を占
める(⽇本経済新聞、2020年5⽉20⽇)が、ゼロからベンチャーを起業してリスクを取るよりは、就
職志望ランキングで上位の⼤企業に⼊社することが出⾝地や出⾝校で賞賛される⾵潮が⽇本では⻑年
続いている。
12. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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12
• entrepreneurshipを「企業家精神」と⽇本語訳されたことの是⾮は精査されねばならないだろう。「企業家精神」で例えば対照⾔
語学にて使⽤される逆翻訳(back-translation)をDruckerらの原書にかけると、意味が通りにくくなる箇所が相次ぎ出てくる。
• ⼀例として、Drucker(1985/2002)の”Innovation and Entrepreneurship”を⽤いて、英語原⽂(ST: Source text)→「企業家精神」
とする⽇本語訳(上⽥, 1985/2007)(TT1: Translated text)→英語への逆翻訳(TT2: Back-translated text)を以下に⾏う。
ST: The Bell Lab record would indicate that even in the high-tech field, entrepreneurship and innovation can be low-risk. (Drucker,
2002, P28)
TT1: ベル研究所の記録は、ハイテク分野でさえイノベーションと企業家精神のリスクを⼩さくすることができることを⽰して
いる。(上⽥, 2007, P6)
TT2: Bell Labs records show that even the high-tech sector can reduce the risk of innovation and entrepreneurial spirit.
• TT2はGoogle TranslateによるTT1の英訳である。なお、翻訳直後ではentrepreneurshipと表⽰されたが、既述の清成(1998)の指
摘を踏まえて正確にentrepreneurial spritとTT2では筆者が表記した。TT1で、「企業家精神のリスクを⼩さくする」とあるが、
「精神」にリスクの⼤⼩は存在しうるだろうか。しかもイノベーションと併記されており、「精神」とする⽇本語訳にはいささか
無理があるように思われる。STはcan be low riskとbe動詞の「状態」なのに、TT1は「⼩さくすることができる」と「動作」に訳
され、意訳であるとしても、STの原義から乖離する。そしてTT2の逆翻訳で、もし正確にentrepreneurial spritと英訳すると、そも
そも risk は spirit に伴って使われる単語ではないため、恐らく英語のネイティブスピーカーたちはTT2を読んでも「この⾔い⽅は
しないのでは」と違和感を覚えるのではと考えられる。
13. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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13
• 接尾語 -shipの意味とは何か。 -shipは古英語の-sciepe に由来し、shape(形)が転じて「状態、性質、
資質、活動」が -ship の意味であり、「精神」ではない。よって、entrepreneurshipを「企業家精神」
や「起業家精神」とする⽇本語訳が現状では広く⾒受けられるものの、もし -ship を「精神」とする
と、古英語に⽴ち返っても、原義から乖離し、逆翻訳でも意味が通りにくくなる。
• そして、entrepreneurの⽇本語訳は企業家なのか、起業家なのか、いずれがより適するのだろうか︖
そもそも既述のようにSayや Schumpeter、Druckerというentrepreneurの概念の提案や議論をしてき
た世界の知の先達たちは、ゼロから事業を始めてリスクをとる「起業家」を意図していた。現代の世
界経済では巨⼤な多国籍企業が世界各地に増え、起業家たちが相次ぎ台頭し続けている。
• スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツを「企業家」と表記する⽇本語の⽂献や報道を筆者が調べても、
ほぼ⾒当たらない。むしろ彼らは、何もないガレージ(⾞庫)でゼロからベンチャーを興した「起業
家」と⾒るのが適切であろう。他にも、やはり⾃宅のガレージでアマゾン社を始めたジェフ・ベゾス
や、⼤学寮でフェイスブック社を起業したマーク・ザッカーバーグ、南アフリカからの移⺠としてテ
スラ社を起業したイーロン・マスクを「企業家」と⽇本語表記する動きはほぼ⾒当たらない。彼らも
ゼロから始めた「起業家」と称されるのが適切なのではなかろうか。つまり、原義からも、現代世界
経済にて世界各地の起業家たちが⼤きな存在感がある実態からも、entrepreneurは「起業家」と⽇本
語訳が基本的にはなされるべきと考えられる。
14. 2. ⽤いる⼿法
2-1. entrepreneur と entrepreneurship の対照分析
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14
• 「企業家」とすると既述のように営利企業の運営者となり、⾮営利事業の運営者の表記にはなじまな
いが、「起業家」とすると⾮営利事業の運営者にも適⽤できる。そして、法⼈格で営利・⾮営利を問
わずに社会起業家が社会課題の解決を⽬指す⼤きな仕事ができたり、⽼舗の⼤企業でも幹部等が起業
家として⼿腕を振るえるダイナミズムこそ、⽇本で久しい閉塞状況から脱却するために不可⽋なので
はなかろうか。
15. 2. ⽤いる⼿法
2-2. social entrepreneurshipの⽇本語訳とは
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• 2-1.の対照⾔語学の視点を⽤い、social entrepreneurshipの⽇本語訳に「社会起業家性」を本論⽂は提案する。直訳は「社会起業
家であること」だが、洗練された訳とは⾔えない。-shipで「性質」の意味の場合、「〜性」という⽇本語訳になることは例えば
「市⺠性」(⽥中, 2008)や「指導性」(⼤辞泉, ⼩学館, 1998)で確認できる。市⺠性はCitizenship、指導性はLeadershipである。
• よって、entrepreneurshipは「起業家性」との⽇本語訳を提案する。既述の逆翻訳の例⽂で以下にて検証する。
ST: The Bell Lab record would indicate that even in the high-tech field, entrepreneurship and innovation can be low-risk. (Drucker,
2002, P28)
TT1: ベル研究所の記録は、ハイテク分野でさえイノベーションと起業家性のリスクを⼩さくすることができることを⽰してい
る。(上⽥, 2007, P6より筆者改変)
TT2: Bell Labs records show that even the high-tech sectorcan reduce the risk of innovation and entrepreneurship.
• TT2はGoogle TranslateによるTT1の英訳である(起業家性に対してentrepreneurshipと表⽰された)。risk of entrepreneurship は
英語のネイティブスピーカーからみてもスムーズに意味が取れる表現と考えられる。例えばAnderson(1990)はThe Advantages
and Risks of Entrepreneurshipという学術論⽂を執筆していることからも、entrepreneurshipという起業家性のリスクという議論は
存在しており、よって「起業家性」をentrepreneurshipとするTT2の逆翻訳は、適切と⾒ることができるだろう。
16. 2. ⽤いる⼿法
2-3.⽇本語訳が起業⽂化に影響する課題
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• entrepreneurshipが「精神」と⽇本語訳されたことに伴い、どのような課題があるのだろうか。起業は過程(process)や
仕組みでなく、「起業家は⾃⼰責任で孤独にがんばれ」と⼀個⼈の精神論に、つい誤解される向きが昭和以来の⽇本社会
では⽀配的になってしまった。本来、起業やベンチャーは科学であって、社会課題や機会を何ととらえ、どのような組織
を構築し、どのような財務構造にするか等、もちろん情熱は⼤切ながらも、学びや発表の機会を得ながら、冷静に探る。
cool-headed and warm-heartedと表現されるように、冷静な知能と情熱ある⼼は⾞の両輪である。
• だが、起業を精神論に押し込めてしまうと、もし不条理な⻑時間労働で消耗しても「情熱ややりがいで乗り越えろ」と⽚
付けられてしまい、起業家の燃え尽き症候群等を招く⼀背景と考えられる。起業を科学して、論理的に⽇本で起業⽂化を
構築する機会が損失してしまうと、かたや海外の新興ベンチャーや巨⼤企業は、相次ぎ起業家性を奮いイノベーションを
⽣み続けるのに、⽇本は今後も周回遅れを重ね、今の閉塞状況から脱せないままとなろう。
• なお、精神(spirit)とマインドセット(mindset; ⼼構え)の議論は峻別されねばならない。マインドセットは⼼理学者
のDweck(2008)が取りまとめたように、固定型のマインドセット(fixed mindset)を採るか、成⻑型のマインドセット
(growth mindset)を採るかで成果に雲泥の差が出ることが知られる。マインドセット研究は定量分析も多くあり、「気
合いでがんばれ」との情念的な精神論とは明確に区別されることに留意が必要である。
• entrepreneurshipを「起業家性」と訳すことで、社会全体で起業家を科学的に仕組みで⽀える起業⽂化が促進されること
が望まれる。起業を単に精神論に限定させずに、組織戦略や財務等、起業家性に関する知⾒について誰もが科学的な思考
法を取れて、⾼校や⼤学、地域の⽣涯教育教室やオンライン等で学べるようになれば、再現性や拡張性も⾼まり、雇⽤創
出⼒や、経済的価値、環境的価値、社会的価値を拡⼤していく事業が、営利、⾮営利を問わず、⽇本でも増えていくであ
ろう。「起業家は特別な⼈間で、特別な精神を持つ」との誤解や、起業家が市⺠権を持たない従来の⾵潮から、もしも脱
却できれば、新たに多様な取り組みが各地で⽣まれやすく、誰もが⽣きやすく、未来にも持続性ある⽇本社会に近づくと
考えられる。
17. 3. 主たる結論
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• 本論⽂ではソーシャル・アントレプレナーシップ(social
entrepreneurship)の⽇本語訳を⽬指して対照⾔語学の視点を⽤いた議
論を⾏った。entrepreneur と entrepreneurship では仏語、独語、英語、
そして⽇本語の対照分析を⾏い、さらに先⾏研究では、Say、
Schumpeter、Druckerらの原義を確認した。⼀⽅、⽇本語訳の変遷や、
従来の翻訳の混同についても振り返った。さらに、entrepreneurshipを
「企業家精神」との⽇本語訳を適⽤することの課題を議論した。
• これら⼀連の思索を経て、ソーシャル・アントレプレナーシップ
(social entrepreneurship)の⽇本語訳として「社会起業家性」を本
論⽂は提案している。
• 社会科学の海外由来の⽤語の翻訳に対照⾔語学の活⽤が慣例ではほぼ⾏
われなかったと拝察されるが、本論⽂が⼀つの貢献になれば幸甚である。
18. 参考⽂献
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Drucker, P. (1985/2002). Innovation and entrepreneurship. PerfectBound.
Dweck, C. S. (2008). Mindset: The new psychology of success. Random House Digital, Inc..
Say, J. B. (1836). A treatise on political economy: or the production, distribution, and consumption of wealth. Grigg & Elliot.
Schumpeter, J., & Backhaus, U. (2003). The theory of economic development. In Joseph Alois Schumpeter (pp. 61-116). Springer,
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