【目的】 現在の透析治療において、透析に使用される透析液は高い清浄度が要求されており、透析液清浄化ガイドラインに定められる管理基準に準じた適切な管理が必要となる。各施設においてバリデーションを確立するためにも、透析液作製システムを構築する上でエンドトキシン捕捉フィルタ（以下、ETRF）は必須である。 今回、従来のJMS社製精密濾過フィルターJP-80（以下、JP-80）に加え、新たに改良されたJMS精密濾過フィルターJP-60K（以下、JP-60K）の性能評価を行ったので報告する。 【方法】 当院のJMS社製透析用監視装置GC-110N(5台)を対象に、洗浄消毒方法を一定とし、JP-60Kを6ヵ月間使用した後、自己診断・ETRFリークテスト・チャンバ切替時間変化・透水性能変化・中空糸引張強度の変化、異物分析・中空糸表面観察（FT-IR分析、EDX観察）を行い耐久性を評価し、従来のJP-80と比較検討した。また、エンドトキシン値（以下、ET）と生菌数を測定し、透析液の清浄度を評価した。 【結果】 　耐久性の評価において、透水性能の変化はJP-80と比較し1次・2次フィルター共に髙い透水性能を示した。透析液清浄化の評価において、ETは感度以下、生菌は検出されなかった。 【結語】 当院の使用条件において、JP-60Kは高い透水性を維持し、ET・生菌阻止性能を有していることから、透析液の清浄化管理を行う上で有用なETRFである。

1. JMS社製精密濾過フィルタJP-
60Kの性能評価
社会医療法人 名古屋記念財団 平針記念クリニック 臨床工学部
同内科1)
社会医療法人 名古屋記念財団 新生会第一病院 臨床工学部2)
小熊 博康 石田 拓弥 桐生 武 中原 秀之 田島 弘隆
渡辺 達人1) 飯田 喜康1)
森實 篤司2)
HOSPYグループ腎透析事業部

2. 日本透析医学会
ＣＯ Ｉ 開示
筆頭発表者名： 小熊 博康
演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある
企業などはありません。

3. 現在の透析治療において、透析に使用される透析液は高い
清浄度が要求されており、透析液清浄化ガイドラインに
定められる管理基準に準じた適切な管理が必要となる。
各施設においてバリデーションを確立するためにも、
透析液作製システムを構築する上でエンドトキシン捕捉
フィルタ（以下、ETRF）は必須である。
今回、従来のJMS社製精密濾過フィルタJP-80
（以下、JP-80）に加え、新たに改良されたJMS精密濾過フィ
ルタJP-60K（以下、JP-60K）の性能評価を行ったので報告す
る。
目的

4. 中空糸
材質 ポリスルホン（PS）
内径／膜厚（μm） ５００／１５０
分画分子量（Da） １３，０００
有効膜面積（m2） ０．６
ヘッダー ポリカーボネート
ハウジング ポリカーボネート
中空糸支持体 ポリウレタン
滅菌方法
電子線滅菌
モイストタイプ
エンドトキシン阻止性能 LRV４以上
菌体阻止性能 LRV８以上
最高使用圧力 ９８kPa(1kgf/cm2)
精密濾過フィルタJP-60Kの製品仕様

5. 中空糸とハウジングの耐久性向上
中空糸
中空糸には耐薬品性の優れたポリスルホンを採用
中空糸膜厚を150μmにすることで耐久性を向上 ハウジング
ヘッダー部品のデザインを見直し耐久性
を向上
ＪＰ-８０ ＪＰ-６０Ｋ
500μm
150μm
210μm
65μm
ＳＥＭ画像
ヘッダー部品
ＪＰ-８０ ＪＰ-６０Ｋ
中空糸断面 模式図
精密濾過フィルタJP-60Kの特徴

6. 分画特性と水透過性
品名 JP-60K JP-80
膜材質 PS PES
分画分子量
(Da)
13,000 75,000
膜面積(m2) 0.6 0.8
中空糸内径
(μm）
500 210
膜厚（μm） 150 65
水透過性
高い分画特性を有しながら、高い水透過性
を維持
分画特性
JP-60Kは分画分子量13,000に設計すること
により、分画特性をさらに向上
精密濾過フィルタJP-60Kの特徴
（流量600mL/min、水温37℃のとき）
mean±SD(n=6）

7. 当院のJMS社製透析用監視装置GC-110N(5台)を対象に、洗浄消毒方法を一
定とし、JP-60Kを6ヵ月間使用した後、チャンバ切替時間変化・透水性能の
変化・中空糸引張強度の変化・異物分析・中空糸表面観察を行い耐久性を
評価し、従来のJP-80と比較検討した。また、エンドトキシン値(以下、ET)と
生菌数を測定し、透析液の清浄度を評価した。
方法
透水性能の変化
ジャケットポートの一端から37℃の水を流量600mL/minで流入させたとき、血液
ポートの両端から流出した液量と膜間圧力差を測定し、透水性能を算出する。
中空糸引張強度の変化（最大破断強度、中空糸の伸び）
湿潤させた中空糸一本に対し、チャック間距離100mmで引張速度100mm/minにて
最大破断強度を測定する。また、破断したときの伸びを測定する。
FT-IR分析、EDX観察
異物分析、中空糸表面観察を行った。
物性評価方法

8. 洗浄消毒方法
洗浄
30分
薬洗
50分
夜間
薬液
封入
洗浄
60分
液置換
30分
洗浄スケジュール 月・水・金
洗浄
30分
酸洗
40分
洗浄
45分
薬洗
50分
夜間
薬液
封入
洗浄
60分
液置換
30分
洗浄スケジュール 火・木・土 酸洗浄:3回/week
薬液洗浄剤：12%次亜塩素酸ナトリウム（末端濃度300ppm）
（防錆洗浄剤：ダイラケミN1）
酸洗浄剤：サンフリーL(200倍希釈）（末端濃度3000ppm）

9. 20
25
30
35
40
45
50
開始 3ヶ月 6ヶ月
チャンバ切替時間[s]
C2
チャンバ切替時間の変化（C1、C2)
20
25
30
35
40
45
50
開始 3ヶ月 6ヶ月
チャンバ切替時間[s]
C1
JP-60K
結果
切替時間のバラツキ(±1s)の範囲であり、流量低下は見られなかった
評価期間中の自己診断はすべて正常終了、ETRFリークテスト(1st+2nd同時)は
リークを認めなかった

10. 0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
透水性能(mL/mmHg/h)
1st側 透水性能
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
透水性能(mL/mmHg/h)
2nd側 透水性能
JP-60K透水性能の変化
6ヵ月後
平均
初期値 1 2 3 4 5
初期値 N:3
使用後 N:5n.s.
6ヵ月後
平均初期値 1 2 3 4 5
n.s.
paired t-test
mean±SD

11. JP-80透水性能の変化
初期値 N:3
使用後 N:2
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
550
初期値 半年後平均 1 2
透水性能(mL/mmHg/h))
1st側 透水性能
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
550
初期値 半年後平均 1 2
透水性能(mL/mmHg/h)
2nd側 透水性能
n.s.
*
6ヵ月後
平均
6ヵ月後
平均
paired t-test
mean±SD
* P < 0.05

12. 中空糸引張強度の変化 1st側 JP-60K
最大破断強度
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
N1 N2 N3 総合平均 N1 N2 N3 総合平均
6ヶ月使用済み品_平針CL 未使用品
中空糸引張強度(N)
mean±SD(n=3)
n.s.
0
5
10
15
20
25
30
N1 N2 N3 総合平均 N1 N2 N3 総合平均
6ヶ月使用済み品_平針CL 未使用品
伸び率(%)
中空糸の伸び
n.s.
使用前後で最大破断強度、中空糸の伸びの変化は見られなかった
JP-80基準
0.25N以上
paired t-test
mean±SD

13. 0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
N1 N2 N3 総合平均 N1 N2 N3 総合平均
6ヶ月使用済み品_平針CL 未使用品
中空糸引張強度(N)
中空糸引張強度の変化 1st側 JP-80
最大破断強度
mean±SD(n=3)
n.s.
n.s.
0
5
10
15
20
25
30
N1 N2 N3 総合平均 N1 N2 N3 総合平均
6ヶ月使用済み品_平針CL 未使用品
伸び率(%)
JP-60K同様に使用前後で最大破断強度、中空糸の伸びの変化は見られなかった
中空糸の伸び
JP-80基準
0.25N以上
paired t-test
mean±SD

14. 1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
2.2
2.4
A.中間部分 B.端面付近
中空糸引張強度(N)
0
5
10
15
20
25
30
35
40
N1 N2 N3 総合平均 N1 N2 N3 総合平均
A.中間部分 B.端面付近
伸び率(％)
測定箇所別においても最大破断強度、伸びの変化は見られなかった
mean±SD(n=5)B,端面付近 A,中間部分
中空糸引張強度の変化 測定箇所別 1st側 JP-60K
最大破断強度
中空糸の伸び
n.s.
n.s.
paired t-test
mean±SD
mean±SD(n=3)

15. 6ヶ月使用したJP-60Kは、写真のような変色が見られ異物が付着した可能
性も考えられるため、FT-IR分析、EDX観察を実施
P-60K：未使用 JP-60K：6ヶ月使用検体
中空糸の
変色
膜表面電顕観察 1st側 JP-60K

16. 中空糸の変色について
①
②
③
④
検体について
FT-IR測定結果
未使用と６ヵ月使用の中空糸を比較し、結果に相違がなく新たなピークなど
も認めず、異物は付着していないと考えられた
①納品段階のJP-60K中空糸 ②未使用のJP-60K中空糸
③６ヵ月使用検体の中空糸 ④返送検体のレジン
未使用
６ヵ月使用
赤外吸収スペクトル分析結果（FT-IR）

17. 中空糸の変色について
検体について
①納品段階のJP-60K中空糸 ②未使用のJP-60K中空糸
③６ヵ月使用検体の中空糸 ④返送検体のレジン
エネルギー分散型X線分析結果（EDX）
検体名
検出元素（質量濃度）[%]
C N O S Cl
検体① 70 - 26 5 -
検体② 78 - 19 3 -
検体③ 67 - 19 5 9
検体④ 81 - 19 - -
臨床使用したJP-60Kに関して金属系元素の検出はされなかった。

18. 0
0.02
0.04
0.06
0.08
0.1
設置後 1ヶ月後 3ヶ月後 6ヵ月後
細菌数
(CFU/mL)
№1ETRF（2次後）
№2ETRF（2次後）
№3ETRF（2次後）
№4ETRF（2次後）
№5ETRF（2次後）
末端コンソール入口
0
0.0002
0.0004
0.0006
0.0008
0.001
設置後 1ヶ月後 3ヶ月後 6ヵ月後
ET値
（EU/mL)
№1ETRF（2次後）
№2ETRF（2次後）
№3ETRF（2次後）
№4ETRF（2次後）
№5ETRF（2次後）
末端コンソール入口
設置６ヵ月間のET値、細菌数の推移
評価期間中のET値は検出感度以下、生菌数は0.01CFU/mL未満であった
透析液清浄度の評価
生菌数検査
PALL社製
MF法:37mmクオリティモニター
培地:R2A液体培地
50mL濾過
7日間
ET活性検査
和光純薬社製トキシノメータ
MT-5500
JP-60K

19. JP-60K使用期間中において、自己診断正常終了・ETRFリークテス
トはリークを認めなかった
透水性能の変化は、JP-60K1st・2ndETRFともに６ヵ月の使用期間
において高い透水性能を維持し、膜強度が増すことで
濾過能保持によるET、生菌阻止がさらに期待できる
JP-60Kの中空糸膜厚を改良することで耐久性の向上が見られた
が、洗浄剤による影響等の物理的劣化も考慮し、今後更なる検
討を重ねることで使用期間の延長にも期待できると考える
透析液清浄化の評価において、臨床使用期間中の対象装置
1stETRF前の段階でET検出感度以下、細菌は検出されず。2ndETRF
後のET、細菌の清浄度も維持されていた
考察
✓
✓
✓
✓

20. 当院の使用条件において、JP-60Kは高い透水性を維
持し、ET・生菌阻止性能を有していることから、
透析液の清浄化管理を行う上で有用なETRFである。
結語