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ディベート 否定側<br />否定側は【現実的かつ正確な捜査】をめざし、日本の公訴時効制度の維持を提起します。<br />ここでいう公訴時効制度とは、刑事手続きを時間的に区切る制度をさします。<br />一点目の論点は、『事件の現実的な対処』です。<br />公訴時効制度が廃止されれば、事件の捜査は区切りなく解決されるまで続くことになります。しかし、実際には事件の捜査を現実的に、かつ効率よく行えるのは、事件発生直後であり、期間を延ばしたところで、効果は少ないです。警察庁による平成19年度犯罪白書の中の「検挙までの時間およびたんしょ端緒」というデータでは、事件発生から1時間以内で半分もの事件の犯人が検挙されています。それに比較して、1年以上を超えると、2%しか解決しておらず、捜査期間を延ばしても、犯人逮捕にはつながらないことがわかります。さらに、平成19年度犯罪白書の「けいほうはん刑法犯のしゅうよう収容ざいめい罪名べつ別認知件数」というデータでは、年間およそ1200件もの殺人事件が起きていることがわかり、ばくだい莫大な数の事件を取り扱うためにも、一つの事件にたくさんの時間を費やしている暇はありません。ほうせいしん法制審けいじほう刑事法ぶ部会で、委員のけいさつちょう警察庁けいじ刑事きょくちょう局長は、「殺人事件だけでも年間1200件程度あるが、捜査を継続し、もし時効制度がなければ検挙できた、という事件はまれである。」と述べており、新しい事件に捜査を移すことがより効率的で、現実的な事件の対処だと主張しています。また、法務省による「凶悪、重大犯罪の公訴時効の在り方」に関する意見募集では、「捜査をいつまでも継続したところで、長期間当初の捜査態勢を維持できるはずもなく、警察に放置される事件が増加するだけであり、犯人を捕まえられることはおそらく1パーセントない。」という意見が多く寄せられ、警察と同じく、一般人も長期捜査の効率性に疑問を抱いていることがわかります。よって、効率的に事件の対処を行い、無駄な時間と労力を使わないためにも、時効制度で事件に区切りをつけることが必要です。<br />2点目の論点は、『証拠の長期保存の困難さ』です。公訴時効制度がおかれている趣旨として、「時の経過とともに証拠がさんいつ散逸するため,有罪・無罪といった実体判決をすることができなくなることから,裁判所は,犯罪の存否を判断せずに訴訟を終了させる免訴判決をせざるを得ない」とあります。ここでもいうように、証拠品の長期保存には様々な問題があります。たとえば、犯人逮捕につながるためには、証拠品がもっとも大事です。その証拠品として、事件現場に残されたDNAや凶器などがあります。しかし、法務省発表の「凶悪、重大犯罪の公訴時効のあり方」で、警察は、「DNAの採取状況・鑑定の信頼性、劣化していく他の証拠との関係などの問題に配慮せず、DNAの情報だけですべて解決という発想は短絡的である。犯罪のよっては、どのような経緯でDNAが付着したのかが重要であり、必ずしもDNA型情報の主が犯人であるわけではなく、それのみでの犯人の特定は困難である。」と述べています。このように、時が経過し、どのように証拠が見つかったかが明らかではなくなる可能性もあり、また、証拠品そのものの信頼性も損なわれる可能性が高く、長期間の捜査の正確性が問われるようになります。さらに、DNAの長期保存後の信頼性の低さは、1979に起きた足利事件でも証明されています。遺族からの要請で宇都宮地検が保管していたリュックサックなど数十点の遺留品を取り寄せ、DNA鑑定を試みたが、DNAは検出されず、鑑定不能となりました。警察は、「歳月がたちすぎている。DNAが検出できるような保存状態ではなかった」と述べていて、長期の捜査の難しさを主張していました。このように、証拠の長期保存はとても困難であるとされていて、正確な捜査と裁判を行うためにも、公訴時効制度で事件に区切りをつけることが必要だといえます。<br />結論として、以上の「事件の現実的対処」と「証拠の長期保存の困難さ」の二つの理由から、日本は公訴時効制度を維持するべきです。<br />以上を持って、否定側による公訴時効制度維持を提起する論点の発表を終わります。<br />

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