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ファスト&スロー 第6章
堀内 進次
静岡大学 情報学部 情報科学科
2018年4月6日
2017年度読書会
6章の概要
これまでシステム1とシステム2の違いをそれぞれの特徴
を挙げて検討した。今回はシステム1について。
1.正常な状態の評価
– 予想、基準、驚き
2.因果関係と意思
– 連想、原因、結果
正常な状態の評価
システム1の主な機能
– 「自分の世界では何が正常か」というモデルの構築
→身の回りで起こる事象、行動、その結果の連想観念パターンの代表
正常な状態の評価
驚きについて
– 自分の世界をどう評価し何を予想したかを端的に示す重要な要素
→予想と反することが起こると驚く
正常な状態の評価
予想について
2種類の予想
– 能動的予想
– 受動的予想
能動的予想
– これからおきることを待ち受けている
受動的予想
– これからおきることを待ち受けていない
正常な状態の評価
偶発的な出来事が1度でも起こると再発時の驚きは小さく
なる
例:海外旅行に行ったときに知人のジョンに出くわす。また
後日、別の場所に旅行したときにもジョンに出くわす。
正常な状態の評価
2回の出来事はどちらも驚く事象
1回目よりも2回目のほうが驚きが小さい。
– 1回目の偶然によって「ジョン像」が変わった。
知人→海外旅行中に突然出現した知人
システム2ではこの事象が驚くべきことであることはわ
かっているが、システム1では妙な場所でジョンと会うこ
とは当たり前のことと了解している。
正常な状態の評価
状況次第では受動的な予想が能動的な予想になる
例:ある通りを走っていると車が炎上していた。また後
日その通りを通ると車が炎上していた。
2つの事象でその通りは車が燃えるところという認識にな
り能動的な予想を抱くようになる。
→
基準理論
「正常」と「異常」
おしゃれなレストランで一人の客がスープを一口飲むと顔
をしかめた。スープで顔をしかめた客がウェイターと方が
触れただけで怒りだした。他の客がスープを飲んで怒りだ
した。
基準理論
後の出来事は能動的に予想していたものではないが驚き
はない。
– 後の出来事が前の出来事を想起させ、思い出させることでそれと関連付
けて解釈したため
基準理論
ここで質問
鬼ヶ島に鬼退治に行くとき金太郎のお伴をした動物は?
基準理論
正解は…いない
「モーゼの錯覚」
– 「モーゼは何組の動物を箱舟に乗せたか」という質問の間違いに気づかず
に答える。
– これは先ほどのスープの例と同じで「鬼ヶ島に鬼退治」という言葉は童話
を想起させる。金太郎は童話に出てきてもおかしくない。金太郎は能動
的に期待されているわけではないが、でてきても驚かない。
– 認知容易性の3つの単語のように「鬼ヶ島」と「金太郎」の間に関連性を探し、
意気込んで答えてしまう。
基準理論
基準理論
「地球は毎年一回トラブルの周りを回転する」
基準理論
男性が「妊娠したらしく、毎朝気分が悪い」
貴族が「私は背中にタトゥーを彫らせたのでございます」
基準理論
変だということに気づく。
テーブルを言及したとき
– テーブルの上は水平で脚が4本のものを思い浮かべる
 このように様々なカテゴリに基準を持っているから変に思う。
基準理論
大きなねずみがとても小さな象の鼻をよじ登っている
どんなイメージが浮かびますか?
基準理論
このときシステム1はカテゴリの基準にアクセスして動物
の大小の範囲と代表的な大きさについておしえてもらっ
ている。
そのため、ねずみが像の鼻をよじ登るイメージが浮かぶ
因果関係と意思
フレッドの両親はパーティに遅れた。料理はもうすぐ出
てくる予定だ。フレッドは怒った。
因果関係と意思
システム1は話の因果関係を発見し瞬時に理解する。
この文章が提示されたとき、怒りの原因を理解できる。
システム1の提案をシステム2が受け入れる立場にある。
連想一貫性
1日中ニューヨークの混雑した通りを散策し、名所見物を堪
能したジェーンは夜になって財布がなくなっていることに
気づいた
連想一貫性
今の1文において単語保持テストを行うと「名所」よりも
「スリ」のほうが強く覚えている。
なぜ、文中に出てこない「スリ」がおぼえられているか。
連想一貫性
財布をなくした理由
– どこかに忘れた、ポケットから抜け落ちた.etc..
ニューヨークの混雑が重なることで「スリ」に盗まれたと
いうことが浮かぶ
一貫性のある解釈を連想させ1つのストーリーをつくり
あげる
因果関係と意思
ここで一つフリッツ・ハイダー氏による実験で使われた動
画をみていただきます
フリッツハイダーの実験
因果関係と意思
大きい△が小さい△と○をいじめているように見える。
小さい△と○は怯えている。
いじめるや怯えるは頭の中で考えたものである。
私達は何か主体を見つけて、それに意思や人格を持たせ
ていかにもそれっぽく見たがる傾向がある。
このように何かの主体に意思や人格を持たせることは自
然で簡単であるため、システム1は直感的に判断している。

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  3. 多くの人はトラブルと聞いたときにぎょっとする
  4. 基準理論ここまで
  5. 次文