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============<テーマ>=============================
ミシェル・フーコー 「考古学から系譜学へ」


============<参考資料>===========================
ミシェル・フーコー著、
          『監獄の誕生―監視と処罰』(新潮社)、田村俶訳、1977 年
ミシェル・フーコー著、
          『わたしは花火師です―フーコーは語る』(ちくま学芸文庫)、中山元訳、2008 年
『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』(筑摩書房)収録「ニーチェ、系譜学、歴史」、伊藤晃訳
『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』
                                (筑摩書房)収録「ミシェル・フーコーとの対談」、慎改康之訳
『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』
                                (筑摩書房)収録「世界は巨大な精神病院である」
                                                      、石田久仁子
訳
中山元著、
    『フーコー 生権力と統治性』
                 (河出書房新社)
                        、2010 年
萱野稔人講義「フーコー」@朝日カルチャーセンター横浜、2010 年 9 月 18 日


============<目的>===============================
    中期のフーコーの思想的な軌跡を追跡した著作『フーコー 生権力と統治性』
                                      (中山元)を水先案内人とし、フーコーがこれま
での思考の方法を「考古学」から「系譜学」に変えていく経緯について概要をおさえ、中期のフーコーの思想において極めて重
要な位置を示す「権力」の概念について理解を深める。その上で、規律・訓練装置の中でわれわれ自身が≪善良な社会人≫とし
ていかに振る舞うかを考察する。


============<考古学から系譜学への移行>===========
    フーコーは変貌する。みずからのアイデンティティに固執することなく、次々と変貌する強い意志と勇気をそなえているのだ。
それでいて、その思考の内的な一貫性が揺らぐことはない。なぜそのような変貌が不可避であったか、フーコーはきわめて自覚
的である。1



               考古学                            系譜学

     1961 『狂気の歴史』                 1975 『監獄の誕生』

     1963 『臨床医学の誕生』               1977 『知への意志 性の歴史 1』

     1966 『言葉と物』                  1986 『快楽の活用 性の歴史 2』

     1969 『知の考古学』                 1986 『自己への配慮 性の歴史 3』



■考古学と系譜学の方法論的な違い
【考古学】
    あるディスクールがどのような次元で一つの学問として統一性を確保するか、その前提となるのはどのような条件なのか。そ
の学問を可能としている枠組みはどのようなものなのかを検討することで、
                                 「真理の場」を考察する。


    言説の形成と、社会や経済の形成とのあいだの諸関係を、体系化したかった2


    科学の内容とその形式的な組織化とをひとまず無視しつつ、いかなる理由によって科学が存在したのか、あるいはいかなる理


1
    [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.9
2
    [ミシェル・フーコー, ミシェル・フーコーとの対談] p.39
                                                  1      思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                                           (2011/4/23)
由によってひとつの特定の化学があるとき存在することとなり、私たちの社会のなかでいくつかの機能を引き受けることになっ
たのか、ということを探究する必要がありました。3
⇒『知の考古学』において分析されたテーマ


以下の 2 点が『言葉と物』が扱った問題だとフーコーは言っている。
①お互いに全く異質で直接的な交通が全くないような諸々の科学的実践のうちに、同じ時期、同じ一般的な形態のもとで、同じ
意味において生じる諸々の変容を観察することができる4
⇒これを「認識論的同時性」という。


②一つの科学が出現し、発展しそして機能するときのコンテクストとして役立つ経済的社会的諸条件は、科学的言説というかた
ちでは科学のうちに翻訳されないように思われた5


【系譜学】
    考古学の視点のみでは、究極的には一つの文化の固有性と歴史性の問題に突き当たる、という反省の元、あるディスクールが
一つの社会においてどのように管理され、排除され、流通したかという権力の問題を提起した。以下は系譜学の特徴である。


①「歴史の連続性」を批判する⇒人間学的な視点を批判する


②「起源への問い」ではない⇒形而上学の概念を解体する
    起源をもちあげること、それは「万物の始めには最も貴重な、最も本質的なものが存在するという考え方のうちに再生する形
        (ニーチェ)なのである。6
而上学のひこばえ」


③偶発的な事件の外在性
    真理は論駁されないという特徴をもつ一種の誤謬7


    偶然を単なるくじ引きのように考えてはならず、権力への意志によりつねにせりあげられていく危険だと考えなければいけな
いのであって、権力への意志は、あらゆる偶然の結果に対して、これを制御するためにさらに大きな偶然の危険を対置するので
ある。8


④真理を、いくさの場、権力の場として描き出す
    歴史の中で働くさまざまな力は、ある目標に従うものでもなければ、ある仕組みに従うものでもなく、まさに闘争の偶然に従
うものなのである。9


⑤歴史的な視点に固執する(※以下で言われる「歴史家」は、
                           「実際の歴史」に対抗する主体)
    われわれは、われわれのこの現在が深い意図、不動の必然性に支えられていると信じている。われわれは歴史家にそのことを


3
    [ミシェル・フーコー,   ミシェル・フーコーとの対談] p.40
4
    [ミシェル・フーコー,   ミシェル・フーコーとの対談] p.43
5
    [ミシェル・フーコー,   ミシェル・フーコーとの対談] p.44
6
    [ミシェル・フーコー,   ニーチェ、系譜学、歴史] p.15
7
    [ミシェル・フーコー,   ニーチェ、系譜学、歴史] p.16
8
    [ミシェル・フーコー,   ニーチェ、系譜学、歴史] p.28
9
    [ミシェル・フーコー,   ニーチェ、系譜学、歴史] p.27
                                        2   思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                              (2011/4/23)
われわれに納得させてくれと要求する。しかし、真の歴史的感覚は、われわれは始原的な目印も座標もなしに、失われる無数の
出来事の中で生きているのだ、ということを認めるのである。10


     実際の歴史はある展望に立つ知であることをおそれない。11


     歴史家は一見からりとしているようにみえるが、何も偉大なものは認めない。すべてを最も価値のない分母に通分しようと執
拗に頑張る。何ものも彼より高貴であってはならないのである。歴史家があれほど知りたいと望み、すべてを知りたいと望むの
は、ものを卑小化する秘密をつかまえたいからである。
                        「下等な好奇心」
                               。歴史はどこからくるものなのか?賤民からくるのだ。
歴史家はだれに語りかけるのか?賤民に語りかけるのだ。そして歴史家が賤民に対して語る言説は民衆煽動化のそれとひどく似
ている。煽動家はこんなふうにいう、
                「あなたより偉大なものはだれもいない。あなた――善良なあなた――に勝とうなどとい
ううぬぼれる者がいれば、そいつは悪者だ」
                   。煽動家とそっくりの歴史家はこれにこだまのように答える、
                                              「あなたの現在以上に
偉大な過去などというものはどこにもない。歴史の中で偉大さの外見をもっているとみえるすべてのもの、それらの卑小さ、悪
質さ、不幸を私の微細にわたる知があなたに示すであろう」(中略)しかしこの煽動は偽善的にならざるをえない。固有の怨恨
                           。
を普遍の仮面のもとに隠さざるをえない。12


     「私は歴史に色目を使うあの宦官ども、禁欲主義的理想にながし目を送るあのすべての人びとに我慢できない。私は生をでっ
ちあげるあの白く塗りたる墓どもに我慢できない。私は知恵にくるまって客観的なものの見方をしているあの疲れ弱った者ども
に我慢できない」(ニーチェ)13
        。


     われわれがある仮面のもとにまとめあげようとするこのアイデンティティなるものは、じつはひどくあやふやなもので、それ
自体一つのパロディにすぎない(中略)複数のものがそこには住んでおり、無数の魂がそこで争っているのである。14


     われわれがそこに戻るだろうと形而上学者たちが約束するあの最初の祖国、そこからわれわれが出てきた唯一の根源を見定め
ようなどとはしない。われわれを貫いているあらゆる不連続を現れ出させようとするのである。15


■フーコーのポーランドとチュニジアでの経験
     ポーランドでフーコーは、マルクス主義が「権力の側の言葉、暴力を振るう側の言葉」となっていることを経験する。真理を
自称する理論と思想が、人々を抑圧する言葉になってしまっていることを苦い思いで自覚した。
                                          (中略)チュニジアでは反対に、
マルクス主義が体制と抑圧に抵抗する手段として使われていることを経験した。
                                   (中略)同じ真理が、同じ言葉が、それを語る
人によって、まったく意味を変えてしまうのである。16


     「自分が探している場所では、解決策を見つけられないことに気づくまでに、じつに 7 年もかかってしまいました。イデオロ
ギー的なものの領域や、合理性の進展や、生産様式を調べても空しかったのです。このような変動が可能となった土台を考察す
るには、 世紀から現在にいたるまでの権力の技術とその変遷を調べる必要があったのです。
    17                                   『言葉と物』はこの断絶を確認し、
それがどうして生まれたかを説明する必要があることを確認するにとどまっていました。
                                       『監獄の誕生』はいわば系譜学的な研


10
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.28
11
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.29
12
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.30
13
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.31
14
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.35
15
     [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史]   p.35
16
     [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.10
                                       3   思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                             (2011/4/23)
究であり、この断絶が可能となる歴史的な条件を分析したものなのです」 17
                                 。


■ディスクールの政治学
     エノンセ(語られた言表)が可能となる次元、語られるものとみられるものの次元を、社会の固有性とアイデンティティの側
面から考察しようとするものであり、ある意味では考古学から系譜学への<深まり>を示すものである。18


     あるディスクールは、それが真理であるか、どのようにして真理となるか、という考古学の観点だけでなく、その排除あるい
は受容という政治的な意味を問うことのできる系譜学の観点からも考察する必要があるのである。19


■フーコーが描く自画像 - 花火師、ジャーナリスト、ハツカネズミ
花火師:自らのディスクールが、既存の体制と秩序にたいして、その理論的な体系を崩壊させ、自由をもたらす解放者の役割を
果たす。


     「わたしの仕事は精神病院のドアの形と、監禁する錠前の存在と、直接にかかわるものだったからです。わたしのディスクー
ルはこの物質性に、閉ざされた空間にかかわるものであり、わたしが書いた言葉が壁を抜けて錠前を外し、窓を開くことを望ん
でいたのです」 20
      。


ジャーナリスト:現在を注視し、現在の出来事に反応し、それを記録し、未来を作っていく。


     「未来は今起こっていることに、わたしたちがどのように反応するか、その反応の仕方である。それはわたしたちがある運動、
                             21
ある疑惑を真理に変えるそのやり方である」
                   。


ハツカネズミ:既成の学問的な伝統のうちで残されてきた遺産、暗黙のうちに大切にされている価値体系を、尊重しながらもこ
っそりと齧り、自分の栄養にするとともにその暗黙に隠された価値体系を暴く。そして、わたしたちがその意識をもたないまま
に日常茶飯事の行動を規定している暗黙のシステムから逃れる方法を示す。


============<君主権力から規律権力への移行>========
     フーコーは『監獄の誕生』において、18 世紀後期のフランス革命前後に、権力の在り方が「君主権力」から「規律権力」に
移行したと説明している。まずそれぞれの権力の特徴をおさえた上で、より現代的な権力である「規律権力」について『監獄の
誕生』を読み進めながら考察を深める。



                    君主権力                           規律権力(規律・訓練)
                                                   規律権力(規律・訓練)

      【権力の非対称性】

      主権者と臣民との関係が非対称である。君主は臣下から、           徴収と出費という対からなる非対称なメカニズムを作用さ
      生産物、製造物、労働力、勇気、時間、奉仕等を徴収する           せることがない。
      が、臣下への恩恵は君主にとってはわずかな出費である。           ⇒「個人の時間、生、身体の占有」に向かう。


17
     [中山元, わたしは花火師です―フーコーは語る, 2008] p.41
18
     [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.13
19
     [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.14
20
     [中山元, わたしは花火師です―フーコーは語る, 2008] p.18
21
     [ミシェル・フーコー, 世界は巨大な精神病院である] p.442
                                       4         思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                                   (2011/4/23)
【権力の可視性】

   君主権の正統性が重要視される。君主であることの根拠を                   「儀式と<しるし>からなるあの断続的で儀礼的な」作用
   示すためにさまざまな儀式や儀礼が必要とされた。                      を必要としない。
                                                ⇒規律権力は連続的な管理のシステムのうちにある。その
                                                ため様々な技術(以下の「7 つの技術」
                                                                  )を利用する。

   【権力の空間的配置の在り方】

   権力の在り方が、ヘテロトピア的(または非イソトピア的) 「イソトピア的な」装置を目指す。
   である。すなわち<場を異にする>関係である。                       ①異なる規律装置がたがいに連続的に結びあう。
                                                (ex)「監獄で利用される技術」が学校でも利用できる。
                                                ②常に分類しきれない「残滓(ざんし)
                                                                 」が残る
                                                「分類できない者たち、監視を逃れる者たち」を許しては
                                                ならない。
                                                    「規律権力には余白の部分がある」
                                                                   。



■古典的な権力(君主権力)の定義
 「権力」とは、或る社会的関係の内部で抵抗を排してまで自己の意志を貫徹するすべての可能性を意味し、この可能性が何に
基づくかは問うところではない(マックス・ウェーバー『社会学の根本概念』。
                                   )


■規律権力の 7 つの技術(
             「規律・訓練 7 つ道具」
                         )


                                                ①監視
                                                ②主体の形成
                                                ③エクリチュール
                                                ④配置(空間的配置、時間的配置、階層的配置)
                                                ⑤試験
                                                ⑥処罰
                                                ⑦アイデンティティ確定


                                                ※規律権力の技術は、それぞれに相互作用しながら、自動
                                                的に権力が働く「装置」として機能するものであることが
                                                重要である。




============<『監獄の誕生』を読む>=================
 以下は、萱野稔人講義「フーコー」
                (@朝日カルチャーセンター横浜、2010 年 9 月 18 日)にて配布されたレジュメにて引用
されていた『監獄の誕生』のテクストである。上記「規律権力の 7 つの技術」を念頭に入れながら読み進めば、決して難解では
ない。
■群衆を個人化しつつ監視する技術としての規律・訓練
 18 世紀末期に出現する工場では、個人への分化を旨とする碁盤割りの原則が複雑になる。個々人を彼らをひとりひとりにし
て評定可能な空間のなかに配分することが重要であると同時に、さらにこの配分を、固有な要請を有する生産装置に連結するこ
とも重要である。個々の身体の配置、生産装置の空間的整備、≪持場≫の配分にともなう各種の活動形式、これらを結びつけな

                                            5         思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                                        (2011/4/23)
ければならない。
       (中略)すなわち職工の出欠と勤勉さ、仕事の質を確認すること、職工を相互に比較して熟練と迅速に応じて
分類すること、製造過程の連続的な段階をたどること。こうした系列化の全体が、不変のいわば格子状の図表を形づくって、そ
こでは混乱は除去されるのである。つまり、生産は区分され、労働過程は一方ではその局面や段階や要素的な作業に応じて、他
方ではそれをおこなう個々人、従事する個々の身体に応じて有機的に配置される。したがって、その力――頑健さ・迅速さ・熟
練・粘り強さ――の個々の変数は、観察可能となり、したがって、特色づけられ、評価され、記帳され、その力の特定の支配者
たる人に報告されうるものとなる。このように個々の身体の系列すべてにわたって完全に読解可能な仕方で把握されると、労働
の力は個人単位での分析が可能になるのである。22


■身体の有用性と従順さを高める権力としての規律・訓練
     規律・訓練の歴史的契機は、人間の身体にかんする一つの技術、つまり、単に人体の能力の拡大を目ざすのみならず、また人
体の拘束の強化を目ざすのみならず、同一の規制のなかで、人体が有用であればなおさら人体を服従的にする、しかもその逆も
成り立つ、そうした関係の形成をも目ざす人体の一つの技術が生まれる契機である。
                                     (中略)一つの≪権力の力学≫でもある≪
政治解剖学≫が誕生しつつあるのであって、その≪解剖学≫は、単に他の人々にこちらの欲する事柄をさせるためばかりでなく、
こちらの望みどおりに、技術にのっとって、しかもこちらが定める速度および効用性にもとづいて他の人々を行動させるために
は、いかにしてこちらは彼らの身体を掌握できるか、そうした方法を定義するのである。こうして規律・訓練は、服従させられ
訓練される身体を、≪従順な≫身体を造り出す。規律・訓練は(効用という経済的関係での)身体の力を増加し、
                                                  (服従という
政治的関係での)この同じ力を減少する。23


■規律・訓練における処罰の特殊性
     工場や学校や軍隊では、あらゆる微視的な刑罰制度が、つまり時間についての(遅刻、欠席、仕事の中断)
                                                    、行状についての
(不注意、怠慢、不熱心)
           、態度についての(無作法、反抗)
                          、言葉遣いについての(饒舌、横柄)
                                          、身体についての(
                                                  「だらしな
い」姿勢、不適切な身振り、不潔)              、微視的な刑罰制度がひろくゆきわたるのである。24
               、性欲についての(みだら、下品)


     規律・訓練上の刑罰の対象となるものは、規則などへの違反、規則に妥当しない一切の事柄、規則を離れる一切の事柄であり、
逸脱である。不適合なものという明確でない領域が処罰可能とされるわけで、たとえば、兵士は、所定の水準に達しないたびに
≪罪≫を犯しているのであり、児童の≪罪≫とは、軽度の規則違反ならびに課題をなしとげる力のなさである。25


     規律・訓練的な罰は、逸脱をなくすという機能をもつ。したがってその罰は、本質的には強制感化的でなければならない。法
律上のモデル(罰金や鞭打ちや牢獄)から直接借用した処罰とならんで、規律・訓練の体系がとくに重視するのは、訓練――強
化され、多様化され、幾度もくり返される習得――の次元に属する処罰である。
                                   (中略)少なくとも大抵の場合には、規律・訓
練的な処罰は義務じたいと異種同形であり、規則違反への報復というより、義務のくり返し、義務の反復の強要である。
                                                     (中略)
罰するとは訓練することなのである。26


■身体刑を要請する権力のロジック
     身体刑は一つの技術なのであり、それは法律ぬきの極度の凶暴さと同一視されてはならないのである。27



22
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.149
23
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   9.143
24
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.182
25
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.182
26
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.183
27
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.38
                                          6   思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                                (2011/4/23)
古典主義時代の法によると、犯罪は、それによって偶然生じうる損害以上に、さらには、それが背く法規則以上に、法を布告
し主張する人間の権利にたいする侵害となる。28


     国王は自らの人格に加えられた対決への報復を求めねばならない29


     したがって身体刑は法律的-政治的な機能をもつのである。いったんは傷つけられた君主権を再興するための、それは一つの
儀式だと言えよう。それは君主権を完全な華々しさのなかで顕示しつつ、それを復活させる。30


     したがってこの刑罰の典礼のなかには、権力への、それの本質的な優越性への誇張された肯定が存在する必要があるのだ。し
かもその優越性たるや、単に法のそれにとどまらない。さらに、敵対者の身体に襲いかかりそれを支配する君主の物理的な力の
優越性でもある。すなわち、法を犯すことで犯罪者〔=法律違反者〕は君主の人格そのものを傷つけたわけであり、その人格こ
     、被処刑者の身体につかみかかって、烙印を押しつけ、打ち負かし、痛めつけたその身体を見せつけるのである。31
そが(中略)


     だが、どんな犯罪にもいわば法にたいする謀叛がふくまれていて、犯罪者は君主の敵であることを、人々に思い出させること
         (中略)身体刑の儀式は、法に統治者の権力を付与する力関係を、公開の場で誇示する。32
が肝心でもあるのだ。


■規律・訓練をつうじた可視性の逆転
     試験は、権力の行使にあたって可視性という経済策を転倒する。伝統的には権力とは、見られるもの、自分を見せるもの、自
分を誇示するものであり、権力が自分の力を発揮するさいの動きに、逆説的にだが、その力の本源を見出すのである。33


■<一望監視施設>をつうじた権力の没個人化
     <一望監視装置>は、見る=見られるという一対の事態を切離す機械仕掛であって、その円周状の建物の内部では人は完全に見
られるが、けっして見るわけにはいかず、中央部の塔のなかからは人はいっさいを見るが、けっして見られはしないのである。
これは重要な装置だ。なぜならそれは権力を自動的なものにし、権力を没個人化するからである。その権力の本源は、或る人格
のなかには存せず、身体・表面・光・視線などの慎重な配置のなかに、そして個々人が掌握される関係をその内的機構が生み出
すそうした仕掛の中に存している。過剰権力が統治者において明示される場合の、儀式や祭式や標識は無用となる。不均斉と不
均衡と差異を確実にもたらす一つの仕組みがこうして存在するわけで、したがって誰が権力を行使するかは重要ではない。偶然
に採用された者でもかまわぬくらいの、なんらかの個人がこの機会装置を働かすことができる。34


     その点から生じるのが<一望監視装置>の主要な効果である。つまり、権力の自動的な作用を確保する可視性への永続的な自覚
状態を、閉じ込められる者にうえつけること。監視が、よしんばその働きに中断があれ効果の面では永続的であるように、また、
権力が完璧になったためその行使の確実性が無用になる傾向が生じるように、さらにまた、この建築装置が、権力の行使者とは
独立した或る権力関係を創出し維持する機械仕掛になるように、要するに、閉じ込められる者が自らその維持者たる或る権力的
状況のなかに組み込まれるように、そういう措置をとろう、というのである。35


28
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.51
29
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.51
30
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.52
31
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.52
32
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.53
33
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.190
34
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.204
35
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.203
                                          7   思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                                (2011/4/23)
■規律・訓練と支配階級
     ところで、この微視的物理学の研究には次の点が仮定されている。そこで行使される権力は、一つの固有性としてではなく一
つの戦略として理解されるべきであり、その権力支配の効果は、一つの≪占有≫に帰せらるべきではなく、配置・操作・戦術・
技術・作用などに帰せらるべきであること。その権力のうちにわれわれは、所有しうるかもしれぬ一つの特権を読み取るよりむ
しろ、つねに緊迫しつねに活動中の諸関連がつくる網目を読み取るべきであり、その権力のモデルとしてわれわれは、ある譲渡
取引を行う契約とか、ある領土を占有する征服を考えるよりむしろ、永久に果てない合戦を考えるべきであること。要するに次
の点を承認しなければならない、その権力は、所有されるよりむしろ行使されるのであり、支配階級が獲得もしくは保持する≪
特権≫ではなく支配階級が占める戦略的立場の総体的な効果である――被支配者の立場が表明し、時には送り返しもする効果で
あることを。36


■新しい処罰権力への要請
     懲罰権の新しい≪経済策≫を確立すること、懲罰権のより良い配分を確保すること、懲罰権が特権的ないくつかの地点に過度
に集中したりも、相対立する裁判審級のあいだに過度に分割されたりもしないようにすること、したがって、懲罰権が、いたる
所で連続的に、しかも社会体の最小単位にまで行使されうるような、同質的な回路のなかに、懲罰権が割当てられるようにする
こと、以上の諸点に存している。37


     つまり、違法行為にたいする抑制と処罰を、社会と共通な外延をもつ、正規な機能にすること、より少なく処罰するのではな
く、より良く処罰すること、苛酷さを和らげたかたちで処罰することになろうが、しかし一層多くの普遍性と必然性による処罰
であること、処罰する権力を社会体のいっそう奥深くに組み込むこと。38


     無駄と過激さを生み出した例の経済策に替わって、連続性と恒久性が生まれる経済策が用いられるような、処罰の戦略ならび
に技術を規定する必要性が力説される。要するに、刑罰の改革は、君主の超権力に反対する戦いと、違法行為の獲得および黙認
につけこむ下層権力に反対する戦いとの接合点で誕生したのであった。39


     輪郭がはっきり示されてきたその事態とは、多分、被処刑者たちの人間性にたいする新たな尊重、であるより――身体刑は軽
微な犯罪にたいしてもまだしばしば課されているのだ――、むしろ、いっそう綿密な、いっそう整備された司法を、社会の構成
員全体にたいする一段と綿密な、刑罰による警備網をめざす動向なのである。40


     だからこそ、われわれには、刑罰の改革にあたって身体刑にたいする批判が、非常に重大な意味をになっていた点が納得され
るのだ。実際、身体刑こそは、君主の無制限な権力と、民衆のいつもの手抜かりのない法律行為とが、はっきりしたやり方で結
びつこうとしている形象であったのだから。刑罰に含まれるべき人間性、それこそは前者の権力にも後者の違法行為にも制限が
加えられなければならぬとする、処罰制度にとっての準則なのである。刑罰において尊重されるべしとされる≪人間≫、それこ
そは、こうした二重の限定に与えられている、法律上ならびに道徳上の形式なのである。41




36
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.30
37
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.83
38
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.85
39
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.90
40
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.81
41
     [ミシェル・フーコー,   監獄の誕生―監視と処罰]   p.91
                                         8   思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】
                                                               (2011/4/23)

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20110423

  • 1. ============<テーマ>============================= ミシェル・フーコー 「考古学から系譜学へ」 ============<参考資料>=========================== ミシェル・フーコー著、 『監獄の誕生―監視と処罰』(新潮社)、田村俶訳、1977 年 ミシェル・フーコー著、 『わたしは花火師です―フーコーは語る』(ちくま学芸文庫)、中山元訳、2008 年 『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』(筑摩書房)収録「ニーチェ、系譜学、歴史」、伊藤晃訳 『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』 (筑摩書房)収録「ミシェル・フーコーとの対談」、慎改康之訳 『ミシェル・フーコー思考集成〈4〉規範・社会―1971‐1973』 (筑摩書房)収録「世界は巨大な精神病院である」 、石田久仁子 訳 中山元著、 『フーコー 生権力と統治性』 (河出書房新社) 、2010 年 萱野稔人講義「フーコー」@朝日カルチャーセンター横浜、2010 年 9 月 18 日 ============<目的>=============================== 中期のフーコーの思想的な軌跡を追跡した著作『フーコー 生権力と統治性』 (中山元)を水先案内人とし、フーコーがこれま での思考の方法を「考古学」から「系譜学」に変えていく経緯について概要をおさえ、中期のフーコーの思想において極めて重 要な位置を示す「権力」の概念について理解を深める。その上で、規律・訓練装置の中でわれわれ自身が≪善良な社会人≫とし ていかに振る舞うかを考察する。 ============<考古学から系譜学への移行>=========== フーコーは変貌する。みずからのアイデンティティに固執することなく、次々と変貌する強い意志と勇気をそなえているのだ。 それでいて、その思考の内的な一貫性が揺らぐことはない。なぜそのような変貌が不可避であったか、フーコーはきわめて自覚 的である。1 考古学 系譜学 1961 『狂気の歴史』 1975 『監獄の誕生』 1963 『臨床医学の誕生』 1977 『知への意志 性の歴史 1』 1966 『言葉と物』 1986 『快楽の活用 性の歴史 2』 1969 『知の考古学』 1986 『自己への配慮 性の歴史 3』 ■考古学と系譜学の方法論的な違い 【考古学】 あるディスクールがどのような次元で一つの学問として統一性を確保するか、その前提となるのはどのような条件なのか。そ の学問を可能としている枠組みはどのようなものなのかを検討することで、 「真理の場」を考察する。 言説の形成と、社会や経済の形成とのあいだの諸関係を、体系化したかった2 科学の内容とその形式的な組織化とをひとまず無視しつつ、いかなる理由によって科学が存在したのか、あるいはいかなる理 1 [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.9 2 [ミシェル・フーコー, ミシェル・フーコーとの対談] p.39 1 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 2. 由によってひとつの特定の化学があるとき存在することとなり、私たちの社会のなかでいくつかの機能を引き受けることになっ たのか、ということを探究する必要がありました。3 ⇒『知の考古学』において分析されたテーマ 以下の 2 点が『言葉と物』が扱った問題だとフーコーは言っている。 ①お互いに全く異質で直接的な交通が全くないような諸々の科学的実践のうちに、同じ時期、同じ一般的な形態のもとで、同じ 意味において生じる諸々の変容を観察することができる4 ⇒これを「認識論的同時性」という。 ②一つの科学が出現し、発展しそして機能するときのコンテクストとして役立つ経済的社会的諸条件は、科学的言説というかた ちでは科学のうちに翻訳されないように思われた5 【系譜学】 考古学の視点のみでは、究極的には一つの文化の固有性と歴史性の問題に突き当たる、という反省の元、あるディスクールが 一つの社会においてどのように管理され、排除され、流通したかという権力の問題を提起した。以下は系譜学の特徴である。 ①「歴史の連続性」を批判する⇒人間学的な視点を批判する ②「起源への問い」ではない⇒形而上学の概念を解体する 起源をもちあげること、それは「万物の始めには最も貴重な、最も本質的なものが存在するという考え方のうちに再生する形 (ニーチェ)なのである。6 而上学のひこばえ」 ③偶発的な事件の外在性 真理は論駁されないという特徴をもつ一種の誤謬7 偶然を単なるくじ引きのように考えてはならず、権力への意志によりつねにせりあげられていく危険だと考えなければいけな いのであって、権力への意志は、あらゆる偶然の結果に対して、これを制御するためにさらに大きな偶然の危険を対置するので ある。8 ④真理を、いくさの場、権力の場として描き出す 歴史の中で働くさまざまな力は、ある目標に従うものでもなければ、ある仕組みに従うものでもなく、まさに闘争の偶然に従 うものなのである。9 ⑤歴史的な視点に固執する(※以下で言われる「歴史家」は、 「実際の歴史」に対抗する主体) われわれは、われわれのこの現在が深い意図、不動の必然性に支えられていると信じている。われわれは歴史家にそのことを 3 [ミシェル・フーコー, ミシェル・フーコーとの対談] p.40 4 [ミシェル・フーコー, ミシェル・フーコーとの対談] p.43 5 [ミシェル・フーコー, ミシェル・フーコーとの対談] p.44 6 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.15 7 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.16 8 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.28 9 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.27 2 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 3. われわれに納得させてくれと要求する。しかし、真の歴史的感覚は、われわれは始原的な目印も座標もなしに、失われる無数の 出来事の中で生きているのだ、ということを認めるのである。10 実際の歴史はある展望に立つ知であることをおそれない。11 歴史家は一見からりとしているようにみえるが、何も偉大なものは認めない。すべてを最も価値のない分母に通分しようと執 拗に頑張る。何ものも彼より高貴であってはならないのである。歴史家があれほど知りたいと望み、すべてを知りたいと望むの は、ものを卑小化する秘密をつかまえたいからである。 「下等な好奇心」 。歴史はどこからくるものなのか?賤民からくるのだ。 歴史家はだれに語りかけるのか?賤民に語りかけるのだ。そして歴史家が賤民に対して語る言説は民衆煽動化のそれとひどく似 ている。煽動家はこんなふうにいう、 「あなたより偉大なものはだれもいない。あなた――善良なあなた――に勝とうなどとい ううぬぼれる者がいれば、そいつは悪者だ」 。煽動家とそっくりの歴史家はこれにこだまのように答える、 「あなたの現在以上に 偉大な過去などというものはどこにもない。歴史の中で偉大さの外見をもっているとみえるすべてのもの、それらの卑小さ、悪 質さ、不幸を私の微細にわたる知があなたに示すであろう」(中略)しかしこの煽動は偽善的にならざるをえない。固有の怨恨 。 を普遍の仮面のもとに隠さざるをえない。12 「私は歴史に色目を使うあの宦官ども、禁欲主義的理想にながし目を送るあのすべての人びとに我慢できない。私は生をでっ ちあげるあの白く塗りたる墓どもに我慢できない。私は知恵にくるまって客観的なものの見方をしているあの疲れ弱った者ども に我慢できない」(ニーチェ)13 。 われわれがある仮面のもとにまとめあげようとするこのアイデンティティなるものは、じつはひどくあやふやなもので、それ 自体一つのパロディにすぎない(中略)複数のものがそこには住んでおり、無数の魂がそこで争っているのである。14 われわれがそこに戻るだろうと形而上学者たちが約束するあの最初の祖国、そこからわれわれが出てきた唯一の根源を見定め ようなどとはしない。われわれを貫いているあらゆる不連続を現れ出させようとするのである。15 ■フーコーのポーランドとチュニジアでの経験 ポーランドでフーコーは、マルクス主義が「権力の側の言葉、暴力を振るう側の言葉」となっていることを経験する。真理を 自称する理論と思想が、人々を抑圧する言葉になってしまっていることを苦い思いで自覚した。 (中略)チュニジアでは反対に、 マルクス主義が体制と抑圧に抵抗する手段として使われていることを経験した。 (中略)同じ真理が、同じ言葉が、それを語る 人によって、まったく意味を変えてしまうのである。16 「自分が探している場所では、解決策を見つけられないことに気づくまでに、じつに 7 年もかかってしまいました。イデオロ ギー的なものの領域や、合理性の進展や、生産様式を調べても空しかったのです。このような変動が可能となった土台を考察す るには、 世紀から現在にいたるまでの権力の技術とその変遷を調べる必要があったのです。 17 『言葉と物』はこの断絶を確認し、 それがどうして生まれたかを説明する必要があることを確認するにとどまっていました。 『監獄の誕生』はいわば系譜学的な研 10 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.28 11 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.29 12 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.30 13 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.31 14 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.35 15 [ミシェル・フーコー, ニーチェ、系譜学、歴史] p.35 16 [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.10 3 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 4. 究であり、この断絶が可能となる歴史的な条件を分析したものなのです」 17 。 ■ディスクールの政治学 エノンセ(語られた言表)が可能となる次元、語られるものとみられるものの次元を、社会の固有性とアイデンティティの側 面から考察しようとするものであり、ある意味では考古学から系譜学への<深まり>を示すものである。18 あるディスクールは、それが真理であるか、どのようにして真理となるか、という考古学の観点だけでなく、その排除あるい は受容という政治的な意味を問うことのできる系譜学の観点からも考察する必要があるのである。19 ■フーコーが描く自画像 - 花火師、ジャーナリスト、ハツカネズミ 花火師:自らのディスクールが、既存の体制と秩序にたいして、その理論的な体系を崩壊させ、自由をもたらす解放者の役割を 果たす。 「わたしの仕事は精神病院のドアの形と、監禁する錠前の存在と、直接にかかわるものだったからです。わたしのディスクー ルはこの物質性に、閉ざされた空間にかかわるものであり、わたしが書いた言葉が壁を抜けて錠前を外し、窓を開くことを望ん でいたのです」 20 。 ジャーナリスト:現在を注視し、現在の出来事に反応し、それを記録し、未来を作っていく。 「未来は今起こっていることに、わたしたちがどのように反応するか、その反応の仕方である。それはわたしたちがある運動、 21 ある疑惑を真理に変えるそのやり方である」 。 ハツカネズミ:既成の学問的な伝統のうちで残されてきた遺産、暗黙のうちに大切にされている価値体系を、尊重しながらもこ っそりと齧り、自分の栄養にするとともにその暗黙に隠された価値体系を暴く。そして、わたしたちがその意識をもたないまま に日常茶飯事の行動を規定している暗黙のシステムから逃れる方法を示す。 ============<君主権力から規律権力への移行>======== フーコーは『監獄の誕生』において、18 世紀後期のフランス革命前後に、権力の在り方が「君主権力」から「規律権力」に 移行したと説明している。まずそれぞれの権力の特徴をおさえた上で、より現代的な権力である「規律権力」について『監獄の 誕生』を読み進めながら考察を深める。 君主権力 規律権力(規律・訓練) 規律権力(規律・訓練) 【権力の非対称性】 主権者と臣民との関係が非対称である。君主は臣下から、 徴収と出費という対からなる非対称なメカニズムを作用さ 生産物、製造物、労働力、勇気、時間、奉仕等を徴収する せることがない。 が、臣下への恩恵は君主にとってはわずかな出費である。 ⇒「個人の時間、生、身体の占有」に向かう。 17 [中山元, わたしは花火師です―フーコーは語る, 2008] p.41 18 [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.13 19 [中山元, フーコー 生権力と統治性] p.14 20 [中山元, わたしは花火師です―フーコーは語る, 2008] p.18 21 [ミシェル・フーコー, 世界は巨大な精神病院である] p.442 4 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 5. 【権力の可視性】 君主権の正統性が重要視される。君主であることの根拠を 「儀式と<しるし>からなるあの断続的で儀礼的な」作用 示すためにさまざまな儀式や儀礼が必要とされた。 を必要としない。 ⇒規律権力は連続的な管理のシステムのうちにある。その ため様々な技術(以下の「7 つの技術」 )を利用する。 【権力の空間的配置の在り方】 権力の在り方が、ヘテロトピア的(または非イソトピア的) 「イソトピア的な」装置を目指す。 である。すなわち<場を異にする>関係である。 ①異なる規律装置がたがいに連続的に結びあう。 (ex)「監獄で利用される技術」が学校でも利用できる。 ②常に分類しきれない「残滓(ざんし) 」が残る 「分類できない者たち、監視を逃れる者たち」を許しては ならない。 「規律権力には余白の部分がある」 。 ■古典的な権力(君主権力)の定義 「権力」とは、或る社会的関係の内部で抵抗を排してまで自己の意志を貫徹するすべての可能性を意味し、この可能性が何に 基づくかは問うところではない(マックス・ウェーバー『社会学の根本概念』。 ) ■規律権力の 7 つの技術( 「規律・訓練 7 つ道具」 ) ①監視 ②主体の形成 ③エクリチュール ④配置(空間的配置、時間的配置、階層的配置) ⑤試験 ⑥処罰 ⑦アイデンティティ確定 ※規律権力の技術は、それぞれに相互作用しながら、自動 的に権力が働く「装置」として機能するものであることが 重要である。 ============<『監獄の誕生』を読む>================= 以下は、萱野稔人講義「フーコー」 (@朝日カルチャーセンター横浜、2010 年 9 月 18 日)にて配布されたレジュメにて引用 されていた『監獄の誕生』のテクストである。上記「規律権力の 7 つの技術」を念頭に入れながら読み進めば、決して難解では ない。 ■群衆を個人化しつつ監視する技術としての規律・訓練 18 世紀末期に出現する工場では、個人への分化を旨とする碁盤割りの原則が複雑になる。個々人を彼らをひとりひとりにし て評定可能な空間のなかに配分することが重要であると同時に、さらにこの配分を、固有な要請を有する生産装置に連結するこ とも重要である。個々の身体の配置、生産装置の空間的整備、≪持場≫の配分にともなう各種の活動形式、これらを結びつけな 5 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 6. ければならない。 (中略)すなわち職工の出欠と勤勉さ、仕事の質を確認すること、職工を相互に比較して熟練と迅速に応じて 分類すること、製造過程の連続的な段階をたどること。こうした系列化の全体が、不変のいわば格子状の図表を形づくって、そ こでは混乱は除去されるのである。つまり、生産は区分され、労働過程は一方ではその局面や段階や要素的な作業に応じて、他 方ではそれをおこなう個々人、従事する個々の身体に応じて有機的に配置される。したがって、その力――頑健さ・迅速さ・熟 練・粘り強さ――の個々の変数は、観察可能となり、したがって、特色づけられ、評価され、記帳され、その力の特定の支配者 たる人に報告されうるものとなる。このように個々の身体の系列すべてにわたって完全に読解可能な仕方で把握されると、労働 の力は個人単位での分析が可能になるのである。22 ■身体の有用性と従順さを高める権力としての規律・訓練 規律・訓練の歴史的契機は、人間の身体にかんする一つの技術、つまり、単に人体の能力の拡大を目ざすのみならず、また人 体の拘束の強化を目ざすのみならず、同一の規制のなかで、人体が有用であればなおさら人体を服従的にする、しかもその逆も 成り立つ、そうした関係の形成をも目ざす人体の一つの技術が生まれる契機である。 (中略)一つの≪権力の力学≫でもある≪ 政治解剖学≫が誕生しつつあるのであって、その≪解剖学≫は、単に他の人々にこちらの欲する事柄をさせるためばかりでなく、 こちらの望みどおりに、技術にのっとって、しかもこちらが定める速度および効用性にもとづいて他の人々を行動させるために は、いかにしてこちらは彼らの身体を掌握できるか、そうした方法を定義するのである。こうして規律・訓練は、服従させられ 訓練される身体を、≪従順な≫身体を造り出す。規律・訓練は(効用という経済的関係での)身体の力を増加し、 (服従という 政治的関係での)この同じ力を減少する。23 ■規律・訓練における処罰の特殊性 工場や学校や軍隊では、あらゆる微視的な刑罰制度が、つまり時間についての(遅刻、欠席、仕事の中断) 、行状についての (不注意、怠慢、不熱心) 、態度についての(無作法、反抗) 、言葉遣いについての(饒舌、横柄) 、身体についての( 「だらしな い」姿勢、不適切な身振り、不潔) 、微視的な刑罰制度がひろくゆきわたるのである。24 、性欲についての(みだら、下品) 規律・訓練上の刑罰の対象となるものは、規則などへの違反、規則に妥当しない一切の事柄、規則を離れる一切の事柄であり、 逸脱である。不適合なものという明確でない領域が処罰可能とされるわけで、たとえば、兵士は、所定の水準に達しないたびに ≪罪≫を犯しているのであり、児童の≪罪≫とは、軽度の規則違反ならびに課題をなしとげる力のなさである。25 規律・訓練的な罰は、逸脱をなくすという機能をもつ。したがってその罰は、本質的には強制感化的でなければならない。法 律上のモデル(罰金や鞭打ちや牢獄)から直接借用した処罰とならんで、規律・訓練の体系がとくに重視するのは、訓練――強 化され、多様化され、幾度もくり返される習得――の次元に属する処罰である。 (中略)少なくとも大抵の場合には、規律・訓 練的な処罰は義務じたいと異種同形であり、規則違反への報復というより、義務のくり返し、義務の反復の強要である。 (中略) 罰するとは訓練することなのである。26 ■身体刑を要請する権力のロジック 身体刑は一つの技術なのであり、それは法律ぬきの極度の凶暴さと同一視されてはならないのである。27 22 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.149 23 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] 9.143 24 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.182 25 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.182 26 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.183 27 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.38 6 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 7. 古典主義時代の法によると、犯罪は、それによって偶然生じうる損害以上に、さらには、それが背く法規則以上に、法を布告 し主張する人間の権利にたいする侵害となる。28 国王は自らの人格に加えられた対決への報復を求めねばならない29 したがって身体刑は法律的-政治的な機能をもつのである。いったんは傷つけられた君主権を再興するための、それは一つの 儀式だと言えよう。それは君主権を完全な華々しさのなかで顕示しつつ、それを復活させる。30 したがってこの刑罰の典礼のなかには、権力への、それの本質的な優越性への誇張された肯定が存在する必要があるのだ。し かもその優越性たるや、単に法のそれにとどまらない。さらに、敵対者の身体に襲いかかりそれを支配する君主の物理的な力の 優越性でもある。すなわち、法を犯すことで犯罪者〔=法律違反者〕は君主の人格そのものを傷つけたわけであり、その人格こ 、被処刑者の身体につかみかかって、烙印を押しつけ、打ち負かし、痛めつけたその身体を見せつけるのである。31 そが(中略) だが、どんな犯罪にもいわば法にたいする謀叛がふくまれていて、犯罪者は君主の敵であることを、人々に思い出させること (中略)身体刑の儀式は、法に統治者の権力を付与する力関係を、公開の場で誇示する。32 が肝心でもあるのだ。 ■規律・訓練をつうじた可視性の逆転 試験は、権力の行使にあたって可視性という経済策を転倒する。伝統的には権力とは、見られるもの、自分を見せるもの、自 分を誇示するものであり、権力が自分の力を発揮するさいの動きに、逆説的にだが、その力の本源を見出すのである。33 ■<一望監視施設>をつうじた権力の没個人化 <一望監視装置>は、見る=見られるという一対の事態を切離す機械仕掛であって、その円周状の建物の内部では人は完全に見 られるが、けっして見るわけにはいかず、中央部の塔のなかからは人はいっさいを見るが、けっして見られはしないのである。 これは重要な装置だ。なぜならそれは権力を自動的なものにし、権力を没個人化するからである。その権力の本源は、或る人格 のなかには存せず、身体・表面・光・視線などの慎重な配置のなかに、そして個々人が掌握される関係をその内的機構が生み出 すそうした仕掛の中に存している。過剰権力が統治者において明示される場合の、儀式や祭式や標識は無用となる。不均斉と不 均衡と差異を確実にもたらす一つの仕組みがこうして存在するわけで、したがって誰が権力を行使するかは重要ではない。偶然 に採用された者でもかまわぬくらいの、なんらかの個人がこの機会装置を働かすことができる。34 その点から生じるのが<一望監視装置>の主要な効果である。つまり、権力の自動的な作用を確保する可視性への永続的な自覚 状態を、閉じ込められる者にうえつけること。監視が、よしんばその働きに中断があれ効果の面では永続的であるように、また、 権力が完璧になったためその行使の確実性が無用になる傾向が生じるように、さらにまた、この建築装置が、権力の行使者とは 独立した或る権力関係を創出し維持する機械仕掛になるように、要するに、閉じ込められる者が自らその維持者たる或る権力的 状況のなかに組み込まれるように、そういう措置をとろう、というのである。35 28 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.51 29 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.51 30 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.52 31 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.52 32 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.53 33 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.190 34 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.204 35 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.203 7 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)
  • 8. ■規律・訓練と支配階級 ところで、この微視的物理学の研究には次の点が仮定されている。そこで行使される権力は、一つの固有性としてではなく一 つの戦略として理解されるべきであり、その権力支配の効果は、一つの≪占有≫に帰せらるべきではなく、配置・操作・戦術・ 技術・作用などに帰せらるべきであること。その権力のうちにわれわれは、所有しうるかもしれぬ一つの特権を読み取るよりむ しろ、つねに緊迫しつねに活動中の諸関連がつくる網目を読み取るべきであり、その権力のモデルとしてわれわれは、ある譲渡 取引を行う契約とか、ある領土を占有する征服を考えるよりむしろ、永久に果てない合戦を考えるべきであること。要するに次 の点を承認しなければならない、その権力は、所有されるよりむしろ行使されるのであり、支配階級が獲得もしくは保持する≪ 特権≫ではなく支配階級が占める戦略的立場の総体的な効果である――被支配者の立場が表明し、時には送り返しもする効果で あることを。36 ■新しい処罰権力への要請 懲罰権の新しい≪経済策≫を確立すること、懲罰権のより良い配分を確保すること、懲罰権が特権的ないくつかの地点に過度 に集中したりも、相対立する裁判審級のあいだに過度に分割されたりもしないようにすること、したがって、懲罰権が、いたる 所で連続的に、しかも社会体の最小単位にまで行使されうるような、同質的な回路のなかに、懲罰権が割当てられるようにする こと、以上の諸点に存している。37 つまり、違法行為にたいする抑制と処罰を、社会と共通な外延をもつ、正規な機能にすること、より少なく処罰するのではな く、より良く処罰すること、苛酷さを和らげたかたちで処罰することになろうが、しかし一層多くの普遍性と必然性による処罰 であること、処罰する権力を社会体のいっそう奥深くに組み込むこと。38 無駄と過激さを生み出した例の経済策に替わって、連続性と恒久性が生まれる経済策が用いられるような、処罰の戦略ならび に技術を規定する必要性が力説される。要するに、刑罰の改革は、君主の超権力に反対する戦いと、違法行為の獲得および黙認 につけこむ下層権力に反対する戦いとの接合点で誕生したのであった。39 輪郭がはっきり示されてきたその事態とは、多分、被処刑者たちの人間性にたいする新たな尊重、であるより――身体刑は軽 微な犯罪にたいしてもまだしばしば課されているのだ――、むしろ、いっそう綿密な、いっそう整備された司法を、社会の構成 員全体にたいする一段と綿密な、刑罰による警備網をめざす動向なのである。40 だからこそ、われわれには、刑罰の改革にあたって身体刑にたいする批判が、非常に重大な意味をになっていた点が納得され るのだ。実際、身体刑こそは、君主の無制限な権力と、民衆のいつもの手抜かりのない法律行為とが、はっきりしたやり方で結 びつこうとしている形象であったのだから。刑罰に含まれるべき人間性、それこそは前者の権力にも後者の違法行為にも制限が 加えられなければならぬとする、処罰制度にとっての準則なのである。刑罰において尊重されるべしとされる≪人間≫、それこ そは、こうした二重の限定に与えられている、法律上ならびに道徳上の形式なのである。41 36 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.30 37 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.83 38 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.85 39 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.90 40 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.81 41 [ミシェル・フーコー, 監獄の誕生―監視と処罰] p.91 8 思想・哲学研究会【フーコー 考古学から系譜学へ】 (2011/4/23)