全身痛の一般的な考え方です。

1. 全身 について考える
京都大学医学部附属病院
免疫・膠原病内科
吉田常恭

2. 【症例】40代 女性
【現病歴】
3年前から全身の痛みを自覚し始めた.
1年前に近医内科で血液検査やX線を実施されたが, 原因は特定できず,
線維筋痛症を疑われ, 近医の精神科クリニックへ紹介された.
クリニックではサインバルタやリリカなど試されたが, 一向に全身の痛みが
良くならず, だんだん生活が苦痛に感じるようになった.
気分の落ち込みも徐々に強くなり, 長年続けていた看護師の仕事を辞めざる
を得なくなった.
何気なく相談した旧友に膠原病の可能性を指摘され, 当科を受診した.

3. 【既往歴】
“線維筋痛症疑い”以外, 特記すべきものはない
【内服薬】
サインバルタ40mg/日
リリカカプセル150mg/日
【アレルギー】なし
【家族歴】リウマチ・膠原病なし
【嗜好歴】
たばこ：なし
アルコール：なし

4. さて・・・
どうアプローチ
しましょう？

5. 全身痛の鑑別
ウイルス感染症
パルボウイルス
パレコウイルス
(流行性筋痛症)
細菌感染症
敗血症
感染性心内膜炎
リウマチ膠原病
神経
ポリニューロパチー
悪性腫瘍
傍腫瘍症候群
その他
線維筋痛症
不安神経症
強迫性障害
関節リウマチ
リウマチ性多発筋痛症
全身性エリテマトーデス
シェーグレン症候群
皮膚筋炎・多発性筋炎
全身性強皮症
混合性結合組織病
ベーチェット症候群
血管炎症候群
再発性多発軟骨炎
脊椎関節炎
-強直性脊椎炎
-炎症性腸疾患関連
-反応性関節炎
-乾癬性関節炎
掌蹠膿疱症性関節炎
内分泌代謝
副腎不全
甲状腺機能低下症
更年期障害
結晶性関節炎
骨軟化症に伴う多発骨折
アミロイドーシス

6. 大事なのは炎症性か非炎症性か
感染症 リウマチ膠原病 内分泌代謝 神経 悪性腫瘍 その他
非炎症性 副腎不全
甲状腺機能低下症
副甲状腺機能亢進症
更年期障害
アミロイドーシス
ポリニューロパチー
(糖尿病を含む)
線維筋痛症
不安神経症
強迫性障害
アロディニア
炎症性 パルボウイルス
パレコウイルス
(流行性筋痛症)
敗血症
感染性心内膜炎
関節リウマチ
リウマチ性多発筋痛症
全身性エリテマトーデス
皮膚筋炎・多発性筋炎
シェーグレン症候群
全身性強皮症
混合性結合組織病
ベーチェット症候群
血管炎症候群
再発性多発軟骨炎
成人Still病
脊椎関節炎
結晶性関節炎
骨軟化症に伴う多発骨折
傍腫瘍症候群

7. 問診で炎症性疾患を判断する
一番大事な消耗症状がないか確認する
発熱
盗汗
食思不振
体重減少
消耗症状がある場合は炎症性疾患を疑う

8. 全身痛の身体所見
痛みの部位の同定, 再現性を確認する
骨
関節
腱
腱付着部
筋肉
神経

9. その他に注意すべき部位
皮膚(爪含む)
粘膜(眼瞼, 口腔, 陰部)
リンパ節(頸部, 腋窩など)
肝脾腫
慣れれば, 5-10分程度で全身診察ができる

10. 全身痛の検査所見
初期検査 問診・身体所見で疑わしい場合
CRP, ESR
電解質
甲状腺ホルモン
ACTH
コルチゾール
LH, FSH, ACTH負荷試験
抗体検査(RF, 抗核抗体, SSA)
血液培養, ウイルス抗体価
関節エコー
CT検査
神経伝導検査
癌スクリーニング
CRPは正常の可能性もあるため, ESRを重視する

11. どんな時にリウマチ科に紹介して欲しいか
炎症マーカが軽度でも上昇している時
明らかに痛みの部位が同定できる時
皮膚, 粘膜, リンパ節に何らかの異常がある時

12. 炎症マーカが陰性でも注意すべき疾患
シェーグレン症候群
全身性エリテマトーデス
脊椎関節炎
これらの疾患はしばしば線維筋痛症を合併する

13. 本症例の続き
痛みは朝にひどく, 日中はやや改善する.
消耗症状はなし.
仙腸関節, アキレス腱の圧痛を含む, 全身の腱付
着部に圧痛をあり. 手指関節炎あり.
血液検査では炎症マーカや自己抗体は陰性.
X線で両側仙腸関節炎所見あり,
エコーでアキレス腱炎あり, 脊椎関節炎と診断.
生物学的製剤を開始し, 疼痛は消失した.
アキレス腱エコー
腱付着部に血流信号あり
(コンプライアンスのため削除)

14. Take home message
全身痛は炎症性疾患, 非炎症性疾患で分ける
問診で消耗症状を聴取する
身体所見では疼痛部位を同定し, 再現性を確認する
線維筋痛症と診断する前に除外すべき疾患を理解する