1. ＴＰＰ“経済効果 ” の試算公表
3 月 15 日 23 時 55 分
ＴＰＰ＝環太平洋パートナーシップ協定への交渉参加表明にあわせて、政府は、ＴＰＰの経済
効果について試算を公表しました。
試算の内容や実際の影響などについて、経済部で外務省を担当する新井俊毅記者が報告します。
ＴＰＰ“経済効果 ” 試算
今回の政府の試算は、現在、ＴＰＰ交渉に参加している１１か国との間で関税が撤廃されたと
いうのが前提です。
この中では、▽工業製品などの輸出が増え、
「輸出」では実質ＧＤＰが２．６兆円押し上げられる
ほか、▽安い輸入品が増えて消費が拡大するとして、
「消費」もＧＤＰが３兆円押し上げられると
しています。
逆に、▽海外の農産物などの輸入が増えることで、
「輸入」はＧＤＰを２．９兆円押し下げられる
と見込んでいます。
それでも全体でみると、日本経済への効果は、実質ＧＤＰを年間で３．２兆円、率にして０．６
６％増やす効果があるとしています。
ただ、このうち国内の農林水産業では、米や小麦、砂糖など主な農林水産物３３品目について関
税が撤廃された場合、現在の国内生産額の７．１兆円のうち、３兆円が減少するという試算が
示されています。
ＴＰＰ実際の影響は？
ＴＰＰに参加すると実際にはどうなるのか。実はメリットもデメリットも正確に見通すのは難

2. しいのが実情です。
日本はまだ交渉に入っていないため、今の段階では交渉がどう進んでいるのか詳細には把握で
きていないうえ、交渉自体が妥結していないからです。
農林水産業の“例外 ” は？
こうしたなか、さまざまな懸念が出ています。
代表的なのが政府の試算でもマイナスが大きかった農林水産業です。
日本がこれまで結んだＥＰＡ＝経済連携協定などで、関税撤廃の例外としてきた品目数は９４
０。品目全体のおよそ１０％で、その大半が農林水産物です。
ＴＰＰは、原則として、すべての品目の関税撤廃を目指していますが、安倍総理大臣は、先の日
米首脳会談で「聖域なき関税撤廃」が前提ではないことを確認したとしています。
つまり、交渉次第では、関税が撤廃されない「例外品目」が確保できるということです。
ただ、政府関係者の間には、
「ＴＰＰでこれまでと同じように例外を認めてもらうのは極めて難
しい」といった見方が多く、
「最終的に『例外』として認められるのは全体の１％から２％ではな
いか」といった厳しい見方を示す関係者もいます。
こうした懸念に対し、安倍総理大臣は「ＴＰＰはピンチではなく、むしろ大きなチャンスだ。あ
らゆる努力によって、日本の『農』を守り、『食』を守ることを約束する」と述べています。
関税以外の分野でも
もう１つが関税以外の分野です。
ＴＰＰは、関税以外にも、環境や政府調達、知的財産など２０の分野についてルールの共通化な
どを目指して交渉されていて、暮らしにも影響が及ぶ可能性があります。
この中では、食の安全に関わる議論もされています。
残留農薬や遺伝子組み換え食品の表示などでは、日本とほかの国で基準やルールが違います。
一般的に安全性の基準が高いとされる日本にとって、外国の基準が共通ルールとなれば、安全
性などへの不安も予想されます。
交渉では、医療に関連することも議論されています。
「民間企業による医療分野への進出が進むのではないか」
「メーカーの特許の保護期間が長くな
って医薬品の価格が上がるのではないか」
ここでもさまざまな懸念が出ています。
さらに日本にとって、プラスの効果が期待できる分野でも懸念があります。
日本の自動車メーカーの間では、最大の輸出先のアメリカが、国内の自動車産業を保護する姿
勢を見せていることへの懸念を強めています。

3. 今後は
交渉に参加している１１か国は年内の交渉妥結を目指しています。ただ、３年目に入ったＴＰ
Ｐの交渉は、必ずしも順調に進んでいるわけではなく、当初の目標よりは遅れています。
関税の分野などでは、各国の主張に隔たりがある模様で、今後、目標どおりに年内に妥結するか
については、懐疑的な見方も出ています。
一方で、日本は、ことしから、ＡＳＥＡＮ＝東南アジア諸国連合と中国、韓国、インドなど合わせ
て１６か国によるＲＣＥＰ＝東アジア地域包括的経済連携など、ＴＰＰ以外にも相次いで自由
貿易を巡る交渉を始めることにしています。
日本としては、さまざまな利害が複雑に絡むなかで、何を勝ち取り、何を守るのか。国内でのさ
まざまな懸念などにも対応しながら、総合的な戦略が求められることになります。