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障害児支援における
記録用紙「ヒトマト」導入の効果
―支援員の障害児支援に対する
「援助・援護・教授」機能に着目して―
2012.12.8 第4回対人援助学会年次大会

石幡愛(NPO法人クリエイティブサポートレッツ / 東京大学教育学研究科)
田中保帆(NPO法人クリエイティブサポートレッツ)
乾明紀(立命館大学 立命館グローバルイノベーション研究機構)




                                        1
障害児支援における支援員の成長

• 障害児に対するサービス(対人援助)で
  あると同時に、支援者の学習(支援者支
  援)にもなりうる。
• 対人援助学の枠組みは、支援者支援にも
  適用できるのでは?




                       2
援助・援護・教授
                  援助設定をした上で、
                  必要な行動を教える

今できる選択肢を作
る
一旦基準を緩める             選択肢や基準を
                     社会に向けて主張す
                     る
                       望月(2007)



 • 障害児支援の中では、障害児に対する「援助・援護・教
   授」と同時に、支援員に対する「援助・援護・教授」も
   行われているのではないか?
                                  3
本研究の方針
• 障害児支援における振り返りと記録のためのツ
  ールに着目する。

• そのツールが、障害児に対する「援助・援護・
  教授」機能と同時に、支援員に対する「援助・
  援護・教授」機能も果たしていることを示す。




                          4
実践場所の概要     (2012.4時点)




• 障害福祉施設アルス・ノヴァ(静岡県浜松市)
  の放課後等デイサービス
• 支援員:正職員4名、準職員3名
• 利用者:知的・精神・発達障害の小中高校生
• 施設の方針
 – 「診断名」ではなく「個人」から始まる支援
 – 問題行動の読み替えによる価値の転換
 – 障害者の存在を通して、社会の既存の価値観や規範
   をゆさぶっていく、変えていく


                             5
データと収集方法
• 記録用紙「ヒトマト」の使い方(4〜6月/観察
  )

• 対象児Aに対する支援員の見立てと関わり方の
  変化(4〜11月/ヒトマトの記述、支援の産物な
  どの資料収集)

• 支援全般に関する支援員の意識や効力感の変化
  (6月/グループインタビュー)

                           6
ヒトマトリックス(通称:ヒトマト)
              支援員ごとに
真ん中に名前        ペンの色が
が書かれた         決まっている
A4の紙


             誰かが書いたことに
出来事や
             他の人が情報やコメ
思ったことを
             ントを加える
書く




                日付を記入


                        7
ヒトマト導入の経緯
時期        出来事
2011年春    • 利用者一人につき支援員一人が様子を記録
          • 問題行動などを口頭で共有
          ⇒振り返りがつまらない。積み重ね感がない。
            一方で、雑談で共有されるエピソードは豊
          か。
2011年夏    ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!」開催
          • 福祉施設の日常のエピソードを発信
          • 各支援員の目線で「面白いこと」を展示
2011年秋冬   「佐藤は見た!!!!!!」の経験を踏まえて、日々の
          支援と記録の方法を見直すための議論。
2012年4月   ヒトマト導入
                                  8
Aくんのプロフィール    (2012.4時点)



• 特別支援学校に通う12歳男児
• 自閉症
• 2010年6月から当施設を利用
• 外国出身で、スペイン語(家庭)・日本語(学
  校、施設)を理解
• 音声による発話もあるが、発音がうまくできず
  聞き取ることが難しい
• 2012年4月頃~ひとりの支援員とジェスチャー
  で会話をはじめる
• 2012年4月当初は他害(他の人の目を突く、叩
  く)が問題視されていた
                               9
支援員プロフィール(2012.4時点)
Bさん(29歳,男性)       Dさん(25歳,男性)
•勤続2年             •勤続1年8ヶ月
•精神保健福祉士          •保育士
•専門:社会福祉          •専門:保育
•他施設勤務経験あり
                  Eさん(23歳,女性)
•Aくん担当者(2012年3月
~8月)              •勤続1年
                  •保育士
Cさん(28歳,男性)       •専門:芸術教育
•勤続1年6ヶ月          •Aくん担当者(2012年9月
•専門:工業デザイン        ~現在)
                                    10
ヒトマトを用いた振り返りの様子




                  11
ヒトマトの使い方:振り返り
       • 子ども一人一人に1
         日1枚のシート
       • どんなことをして過
         ごしていたか、それ
         を見てどう思ったか
         などを職員全員で記
         入
       • 個人のバインダーで
         保管

                     12
ヒトマトの使い方:振り返り
       • 支援員一人一人に1
         日1枚のシート
       • 誰とどんな関わり方
         をしていたか、それ
         を見てどう思ったか
         などを職員全員で記
         入
       • 個人のバインダーで
         保管

                     13
ヒトマトの使い方:漉し作業
       • それぞれの子どもの
         担当者が、たまった
         シートを見返して、
         その子の特徴や今後
         の目標を書き出して
         いく
       • 支援員のヒトマトの
         漉し作業は今のとこ
         ろやっていない


                     14
ヒトマトの使い方:漉し作業
       • 漉し作業で出てきた
         、その子の特徴、今
         後の目標などの中か
         ら、特にみんなで共
         有すべきことを付箋
         に書いて、壁に貼る




                     15
ヒトマトの使い方:トピック立て
        • 雑多な情報がある程
          度集まった段階で導
          入
        • 担当者が特に気にな
          ることを明示して情
          報収集




                      16
ヒトマトの使い方の相関図

支援→振返             支援→振り返
雑多な記                 り
                  雑多な記録
 録
                  トピック立
支援→振返               て
雑多な記     漉し作業              漉し作業
  録               支援→振り返
                     り
支援→振返             雑多な記録
雑多な記              トピック立
  録                 て
        場合によっては            場合によっては
        数回繰り返す             数回繰り返す



                                     17
事例:Aに対する見立ての変化
「攻撃的」から「通じる」へ




        2012.4.4   2012.7.9
                          18
事例:Aに対する支援の変化
      手話辞典プロジェクト
      •Aの“おしゃべり”相手を増
      やすため、彼の手話をイラ
      ストと文字で示した辞典を
      作成。
      •そのプロセス自体が、彼の
      できること(手話によるコ
      ミュニケーション)を見つ
      け、共有し、分化強化する
      支援だった。


                   19
事例:Aの言語行動に関する記述の変
         化
Aのタクトとイントラバー             Aのタクトとイントラバー
バルに関する記述の一日平             バルに言及した支援員の一
均数                       日平均人数
※Aの言語行動そのものの指標ではなく、Aの言   ※同左
語行動に対する支援員の注目の指標である点に
注意
1.6                      1.4
1.4                      1.2
1.2                       1
  1
                         0.8
0.8
                         0.6
0.6
0.4                      0.4
0.2                      0.2
  0                       0
    4月   5月   6月   7月          4月   5月   6月   7月

  「おしゃべり」「いろいろ教えてくれる」「語彙が増えた」との記述
                                                   20
支援全般に対する効果         (6月インタビュー)



• 誰かに言いたいけど議題にあげるまでもないことが毎日
  ある。それを吐き出していい時間。(Cさん)

• ヒトマトに書いたことに対して、他の人がコメントして
  くれる。ちゃんと見られている安心感。去年とやってる
  こと自体は変わらないけれど、これでいいんだという自
  信を持てた。(Dさん)

• 待つという支援をしたいときに、何もやっていないんじ
  ゃなくて、支援として待っているんだと、はっきり言え
  るようになったので、やりやすくなった。(Eさん)

                                21
支援全般に対する効果         (6月インタビュー)



• あの人はあの子に今こういうふうに関わっているんだな
  というのが共有できているので「やってるやってる」と
  か「これからどうなるんだろう」と期待して見ていられ
  るようになった。(Cさん)

• 自分が見てなかった情報も集まる。漉すのは自分だけれ
  ど、独りよがりにならずにすむ。(Dさん)

• 「支援目標」に対する考え方が変わった。子どもがどう
  なるべきかというよりも、自分が子どもに対してどうい
  う目線を向けたいのか、どう関わりたいのか、という支
  援員にとっての指針だと思う。(Bさん)
                                22
ヒトマトの「援助」機能
子どもに対する「援助」     支援員に対する「援助」
• 意識が集中しがちな問題   • 支援員それぞれの関わり
  行動以外の様々な行動に     方が、他の支援員によっ
  ついても記録される余地     て肯定される。見られる
  がある。強化の機会が増     、認められることによる
  える。             強化。

• 複数の目線からの評価が   • 些細な出来事でも吐き出
  得られる。価値の反転や     せる。表現することによ
  問題の読み替えが起きる     る自己強化。
  機会が増える。

                                23
ヒトマトの「援護」機能
子どもに対する「援護」     支援員に対する「援護」
• 援助つき行動が起きる環   • 支援の方針や意図を、他
  境設定を支援員どうしが     の支援員に対して示すこ
  共有できる。同様の関わ     とができる。期待を持っ
  りを他の支援員も行うこ     て見守ってもらえる。理
  とによって、当該行動を     解や協力を得られる。
  維持・般化しやすくなる
  。




                                24
ヒトマトの「教授支援」機能
• 設定された目標に向かって行動をどう増やすか/減らす
  かについてのアイデア集めとその共有を行い、支援場面
  の「教授」行動を支援する。

 子どもに対する「教授支援」     支援員に対する「教授支援」

• 日々の様子から、次回、その   • 漉し作業を通して、支援員に
  子に対してどのような環境を     とっての次の方針を確認、見
  提供するかというチャレンジ     直しできる。
  の方向性が見える。       • 通常の振り返りでのコメント
• 漉し作業を通して、子どもに     や、トピック立てによって、
  とっての次の目標が設定され     他の支援員から様々な情報や
  る。                アイデアを提供してもらうこ
                    とができる。

                                    25
ヒトマトが機能する環境
• ヒトマト導入と同時に3つの仕組みも導入
 – 担当制
 – 曜日固定制
 – 写真・映像等、記録物の整理の徹底


• 担当制:各職員の視点や関わり方を肯定。
• 曜日固定制:来週の見通しが立つ。
• 記録物整理:他メディアと連動した振り返りが
  可能になる。見返したくなる記録物。


                          26
ご清聴ありがとうございました

 お問い合わせ
 NPO法人クリエイティブサポートレッツ
 E-mail : lets-arsnova@nifty.com
 WEB : http://cslets.net



                                   27

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  • 2. 障害児支援における支援員の成長 • 障害児に対するサービス(対人援助)で あると同時に、支援者の学習(支援者支 援)にもなりうる。 • 対人援助学の枠組みは、支援者支援にも 適用できるのでは? 2
  • 3. 援助・援護・教授 援助設定をした上で、 必要な行動を教える 今できる選択肢を作 る 一旦基準を緩める 選択肢や基準を 社会に向けて主張す る 望月(2007) • 障害児支援の中では、障害児に対する「援助・援護・教 授」と同時に、支援員に対する「援助・援護・教授」も 行われているのではないか? 3
  • 4. 本研究の方針 • 障害児支援における振り返りと記録のためのツ ールに着目する。 • そのツールが、障害児に対する「援助・援護・ 教授」機能と同時に、支援員に対する「援助・ 援護・教授」機能も果たしていることを示す。 4
  • 5. 実践場所の概要 (2012.4時点) • 障害福祉施設アルス・ノヴァ(静岡県浜松市) の放課後等デイサービス • 支援員:正職員4名、準職員3名 • 利用者:知的・精神・発達障害の小中高校生 • 施設の方針 – 「診断名」ではなく「個人」から始まる支援 – 問題行動の読み替えによる価値の転換 – 障害者の存在を通して、社会の既存の価値観や規範 をゆさぶっていく、変えていく 5
  • 6. データと収集方法 • 記録用紙「ヒトマト」の使い方(4〜6月/観察 ) • 対象児Aに対する支援員の見立てと関わり方の 変化(4〜11月/ヒトマトの記述、支援の産物な どの資料収集) • 支援全般に関する支援員の意識や効力感の変化 (6月/グループインタビュー) 6
  • 7. ヒトマトリックス(通称:ヒトマト) 支援員ごとに 真ん中に名前 ペンの色が が書かれた 決まっている A4の紙 誰かが書いたことに 出来事や 他の人が情報やコメ 思ったことを ントを加える 書く 日付を記入 7
  • 8. ヒトマト導入の経緯 時期 出来事 2011年春 • 利用者一人につき支援員一人が様子を記録 • 問題行動などを口頭で共有 ⇒振り返りがつまらない。積み重ね感がない。 一方で、雑談で共有されるエピソードは豊 か。 2011年夏 ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!」開催 • 福祉施設の日常のエピソードを発信 • 各支援員の目線で「面白いこと」を展示 2011年秋冬 「佐藤は見た!!!!!!」の経験を踏まえて、日々の 支援と記録の方法を見直すための議論。 2012年4月 ヒトマト導入 8
  • 9. Aくんのプロフィール (2012.4時点) • 特別支援学校に通う12歳男児 • 自閉症 • 2010年6月から当施設を利用 • 外国出身で、スペイン語(家庭)・日本語(学 校、施設)を理解 • 音声による発話もあるが、発音がうまくできず 聞き取ることが難しい • 2012年4月頃~ひとりの支援員とジェスチャー で会話をはじめる • 2012年4月当初は他害(他の人の目を突く、叩 く)が問題視されていた 9
  • 10. 支援員プロフィール(2012.4時点) Bさん(29歳,男性) Dさん(25歳,男性) •勤続2年 •勤続1年8ヶ月 •精神保健福祉士 •保育士 •専門:社会福祉 •専門:保育 •他施設勤務経験あり Eさん(23歳,女性) •Aくん担当者(2012年3月 ~8月) •勤続1年 •保育士 Cさん(28歳,男性) •専門:芸術教育 •勤続1年6ヶ月 •Aくん担当者(2012年9月 •専門:工業デザイン ~現在) 10
  • 12. ヒトマトの使い方:振り返り • 子ども一人一人に1 日1枚のシート • どんなことをして過 ごしていたか、それ を見てどう思ったか などを職員全員で記 入 • 個人のバインダーで 保管 12
  • 13. ヒトマトの使い方:振り返り • 支援員一人一人に1 日1枚のシート • 誰とどんな関わり方 をしていたか、それ を見てどう思ったか などを職員全員で記 入 • 個人のバインダーで 保管 13
  • 14. ヒトマトの使い方:漉し作業 • それぞれの子どもの 担当者が、たまった シートを見返して、 その子の特徴や今後 の目標を書き出して いく • 支援員のヒトマトの 漉し作業は今のとこ ろやっていない 14
  • 15. ヒトマトの使い方:漉し作業 • 漉し作業で出てきた 、その子の特徴、今 後の目標などの中か ら、特にみんなで共 有すべきことを付箋 に書いて、壁に貼る 15
  • 16. ヒトマトの使い方:トピック立て • 雑多な情報がある程 度集まった段階で導 入 • 担当者が特に気にな ることを明示して情 報収集 16
  • 17. ヒトマトの使い方の相関図 支援→振返 支援→振り返 雑多な記 り 雑多な記録 録 トピック立 支援→振返 て 雑多な記 漉し作業 漉し作業 録 支援→振り返 り 支援→振返 雑多な記録 雑多な記 トピック立 録 て 場合によっては 場合によっては 数回繰り返す 数回繰り返す 17
  • 19. 事例:Aに対する支援の変化 手話辞典プロジェクト •Aの“おしゃべり”相手を増 やすため、彼の手話をイラ ストと文字で示した辞典を 作成。 •そのプロセス自体が、彼の できること(手話によるコ ミュニケーション)を見つ け、共有し、分化強化する 支援だった。 19
  • 20. 事例:Aの言語行動に関する記述の変 化 Aのタクトとイントラバー Aのタクトとイントラバー バルに関する記述の一日平 バルに言及した支援員の一 均数 日平均人数 ※Aの言語行動そのものの指標ではなく、Aの言 ※同左 語行動に対する支援員の注目の指標である点に 注意 1.6 1.4 1.4 1.2 1.2 1 1 0.8 0.8 0.6 0.6 0.4 0.4 0.2 0.2 0 0 4月 5月 6月 7月 4月 5月 6月 7月 「おしゃべり」「いろいろ教えてくれる」「語彙が増えた」との記述 20
  • 21. 支援全般に対する効果 (6月インタビュー) • 誰かに言いたいけど議題にあげるまでもないことが毎日 ある。それを吐き出していい時間。(Cさん) • ヒトマトに書いたことに対して、他の人がコメントして くれる。ちゃんと見られている安心感。去年とやってる こと自体は変わらないけれど、これでいいんだという自 信を持てた。(Dさん) • 待つという支援をしたいときに、何もやっていないんじ ゃなくて、支援として待っているんだと、はっきり言え るようになったので、やりやすくなった。(Eさん) 21
  • 22. 支援全般に対する効果 (6月インタビュー) • あの人はあの子に今こういうふうに関わっているんだな というのが共有できているので「やってるやってる」と か「これからどうなるんだろう」と期待して見ていられ るようになった。(Cさん) • 自分が見てなかった情報も集まる。漉すのは自分だけれ ど、独りよがりにならずにすむ。(Dさん) • 「支援目標」に対する考え方が変わった。子どもがどう なるべきかというよりも、自分が子どもに対してどうい う目線を向けたいのか、どう関わりたいのか、という支 援員にとっての指針だと思う。(Bさん) 22
  • 23. ヒトマトの「援助」機能 子どもに対する「援助」 支援員に対する「援助」 • 意識が集中しがちな問題 • 支援員それぞれの関わり 行動以外の様々な行動に 方が、他の支援員によっ ついても記録される余地 て肯定される。見られる がある。強化の機会が増 、認められることによる える。 強化。 • 複数の目線からの評価が • 些細な出来事でも吐き出 得られる。価値の反転や せる。表現することによ 問題の読み替えが起きる る自己強化。 機会が増える。 23
  • 24. ヒトマトの「援護」機能 子どもに対する「援護」 支援員に対する「援護」 • 援助つき行動が起きる環 • 支援の方針や意図を、他 境設定を支援員どうしが の支援員に対して示すこ 共有できる。同様の関わ とができる。期待を持っ りを他の支援員も行うこ て見守ってもらえる。理 とによって、当該行動を 解や協力を得られる。 維持・般化しやすくなる 。 24
  • 25. ヒトマトの「教授支援」機能 • 設定された目標に向かって行動をどう増やすか/減らす かについてのアイデア集めとその共有を行い、支援場面 の「教授」行動を支援する。 子どもに対する「教授支援」 支援員に対する「教授支援」 • 日々の様子から、次回、その • 漉し作業を通して、支援員に 子に対してどのような環境を とっての次の方針を確認、見 提供するかというチャレンジ 直しできる。 の方向性が見える。 • 通常の振り返りでのコメント • 漉し作業を通して、子どもに や、トピック立てによって、 とっての次の目標が設定され 他の支援員から様々な情報や る。 アイデアを提供してもらうこ とができる。 25
  • 26. ヒトマトが機能する環境 • ヒトマト導入と同時に3つの仕組みも導入 – 担当制 – 曜日固定制 – 写真・映像等、記録物の整理の徹底 • 担当制:各職員の視点や関わり方を肯定。 • 曜日固定制:来週の見通しが立つ。 • 記録物整理:他メディアと連動した振り返りが 可能になる。見返したくなる記録物。 26