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ライブラリー・リソース・ガイド(LRG) 第6号/2014年 冬号

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2016年4月に発生した熊本地震を鑑み、オープンアクセスとします。

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ライブラリー・リソース・ガイド(LRG) 第6号/2014年 冬号

  1. 1. LRG Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド  第6号/2014年 冬号 発行/アカデミック・リソース・ガイド株式会社 特別寄稿 熊谷慎一郎 東日本大震災と図書館 特集 嶋田綾子 図書館で学ぶ防災・災害 司書名鑑 No.2 谷合佳代子 公益財団法人大阪社会運動協会・ 大阪産業労働資料館「エル・ライブラリー」 ─図書館を支援するかたち
  2. 2. 2 巻頭言  ライブラリー・リソー ス ・ ガ イ ド 2 0 1 4 年 冬号 3巻頭言  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 『ライブラリー・リソース・ガイド』第 6 号を刊行いたします。 今 6 号は、東日本大震災発災から 3 年という節目に刊行時期が重なります。そ こで、いま一度、東日本大震災を振り返り、また、東北だけではなく、全国どこで も災害に遭う可能性がある日本において、図書館が果たす役割を概観したいと思 います。 さて、今 6 号では ●特別寄稿「東日本大震災と図書館-図書館を支援するかたち」 熊谷慎一郎 ●特集「図書館で学ぶ防災・災害」 嶋田綾子 ●司書名鑑 No.2 谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働  資料館「エル・ライブラリー」) の 3 本立てでお送りします。 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、各地に甚大な被害をもたらし ました。図書館も例外ではありません。津波や揺れで全壊した図書館、避難所に なった図書館などがあります。震源地から遠く離れた関東でも被害は大きく、国 立国会図書館東京本館でも、約 120 万冊の本が落下するなどの被害がありました。 特別寄稿「東日本大震災と図書館-図書館を支援するかたち」では、深刻な被 害を受けた宮城県内の市町村図書館の復興支援に、同じ被災地に建つ図書館であ りながらも奔走する宮城県図書館の様子を、同図書館員の熊谷慎一郎さんにご寄 稿いただきました。寄稿には震災当初の宮城県内の様子、復興に向かって図書館 が歩んできた道、そして未来を見据えて支援していく様子がまざまざと描き出さ れています。被災者であり、支援者として現実と向き合うことで、熊谷さんが感 じ考えられた図書館のあり方を、本寄稿を機に考えていけたら幸いです。 特集「図書館で学ぶ防災・災害」では、東日本大震災を含めて、全国各地の図書 館が取り組んでいる災害アーカイブについて取り上げます。災害といっても、自 然災害だけではなく、事故や事件、公害、戦争などの有事を含みます。災害アーカ イブは、安全が脅かされる事態になったときどのようなことが起こり、どのよう に対処したかを記録する資料群です。 これらの資料群は、図書館の特別コレクションとして意識的に収集されること もありますが、日常的に行う地域資料の収集が、結果として、このような災害に 対するアーカイブを形成していきます。意識的なコレクション、日常的なコレク ション、そのどちらがより良い活動である、ということではありません。記録を 記録として残していくことが重要なのです。図書館はその機能を持っています。 そして、日々収集してきたそれらの資料を、振り返る場をつくることが重要な のです。振り返りの場は、特集展示であったり、パスファインダーの提供であっ たり、講演会であったり、形態はさまざまです。このようなさまざまな取り組み について、ご紹介します。 司書名鑑 No. 2 は、公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館「エ ル・ライブラリー」の谷合佳代子さんにご登場いただきます。エル・ライブラリー は、前身の大阪府労働情報総合プラザが 2008 年 7 月に閉鎖された後、同年 10 月 に開館した図書館です。本誌でもたびたび事例として紹介してきましたが、どの ような運営をされているのか、図書館にかける思いなどをご本人に伺いました。 今号では、特別寄稿と特集ともに、災害時における図書館の活動を取り上げて います。 平常時においてはことさらに意識することのない図書館のあり方も、非常時に こそ、問い直されます。そのとき、図書館はどのような活動ができるのか。将来に わたって図書館が行うべき取り組みを、あらためて考える機会となれば幸いです。 編集兼発行人:岡本真 責任編集者:嶋田綾子 巻頭言 災害時における図書館のあり方を考えるために
  3. 3. 巻 頭 言 災害時における図書館のあり方を考えるために[岡本真+嶋田綾子] ……… 2 特別寄稿 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち[熊谷慎一郎]……… 7   特  集 図書館で学ぶ防災・災害[嶋田綾子]…………………………………………………… 55 LRG CONTENTS Library Resource Guide ライブラリー・リソース・ガイド 第6号/2014年 冬号 司書名鑑 No.2 谷合佳代子(公益財団法人大阪社会運動協会・大阪産業労働資料館「エル・ライブラリー」) アカデミック・リソース・ガイド株式会社 業務実績定期報告 定期購読・バックナンバーのご案内 次号予告 …… 146 …………………………………………… 152 ………………………………………………………………………… 156 ………………………………………………………………………………………………………… 158 震災関連資料コーナー ICT地域の絆保存プロジェクト [東日本大震災を語り継ぐ] 東日本大震災福島県復興ライブラリー 3.11震災文庫 震災関連資料コーナー 写真アルバムによる 被災・復旧状況の発信    東日本大震災の記録 Remembering 3.11 国立国会図書館 東日本大震災アーカイブ(ひなぎく) 3がつ11にちをわすれないためにセンター 「震災記録を図書館に」キャンペーン 震災ライブラリー ………………… 56 ……………… 58 … 60 …………………………… 62 ………………… 64 ………………… 66 …………………… 68 …… 71 … 72 …… 76 ………………………… 78 みちのく震録伝 岩手県の自然災害と 東日本大震災に関する資料リポジトリ 東日本大震災文庫 フェニックス・ライブラリー 中越大震災資料コーナー 1.17文庫 災害アーカイブ 震災時の「看護」をテーマに情報発信 伊勢湾台風資料室 鳥取県西部地震記録保存資料一覧表 水俣病関連の資料コレクション 被爆文献資料/被爆体験証言ビデオ ………………………… 80 …… 82 ……………………… 84 ………………… 86 ……………… 89 ………………………………… 90 ………………………… 92 … 96 ……………………… 98 … 100 ………… 102 … 104 戦争体験文庫 平和文庫 震災文庫 平和学コレクション/ 原爆・被ばく関連資料データベース 戦災記念資料室 防災・災害情報コーナー 資料展示「知ろう!備えよう! ∼図書館で防災力を身につける∼」 原爆資料コーナー 企画展「災害史に学ぶ」 情報源リスト「災害から身を守るために」 宮城北部連続地震についての アーカイブ ………………………… 108 ……………………………… 110 ……………………………… 112 …… 114 ……………………… 116 ……………… 118 … 120 …………………… 122 ……………… 124 … 126 ……………………………… 127 [岩手県立図書館] [東松島市図書館] [福島県立図書館] [仙台市民図書館] [福島大学附属図書館] [ゆうき図書館] [東北学院大学図書館] [国立国会図書館] [せんだいメディアテーク] [東北大学附属図書館他] [東北大学附属図書館] [東北大学附属図書館] [岩手大学情報メディアセンター図書館] [宮城県図書館] [兵庫県立図書館] [小千谷市立図書館] [神戸市立中央図書館] [長岡市立中央図書館文書資料室] [新潟県立看護大学図書館] [名古屋市南図書館] [鳥取大学附属図書館] [熊本大学附属図書館] [広島市立中央図書館] [奈良県立図書情報館] [北谷町立図書館] [神戸大学附属図書館] [広島大学図書館] [神戸市立兵庫図書館] [土佐清水市立市民図書館] [鳥取県立図書館] [長崎市立図書館] [千代田町立山屋記念図書館] [山口県立山口図書館] [東松島市図書館] [長崎市立図書館] [大阪府立中之島図書館] [豊橋市中央図書館] [飯塚市立飯塚図書館] [大分県立先哲史料館] [神埼市立図書館] [神奈川県立川崎図書館] [鹿嶋市立中央図書館] [千葉県立中央図書館] [宮崎県立図書館] [長岡市立図書館] 長崎大水害の展示 展示「今、震災を考え防災を 見つめ直す」 資料展「豊橋の災害誌 ∼過去の災害と防災∼」 展示「あれから10年」 コレクションを活用した資料展示 アンドレ・ジャピー遭難事故の展示 川崎公害裁判訴訟記録 常設棚「防災・地震に関する図書 ∼いざというときのために∼」 防災情報のパスファインダー 口蹄疫に関する情報提供 「語り継ぐもの」中越地震データベース …………………… 128 …………………………… 129 ……………… 130 ………………… 132 ……… 134 …… 136 ……………… 138 ………… 140 ………… 141 …………… 142 … 144
  4. 4. 特別寄稿 熊谷慎一郎 ─図書館を支援するかたち 東日本大震災と図書館
  5. 5. 8 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 9東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 東日本大震災の発生から 3 年が過ぎようとしている。 2011 年 3 月 7 日、月曜日午後 2 時頃。私は南三陸町図書館にいた。南三陸町 では図書館を新しく建設する計画があり、その進捗を聞くため、また上席主幹の S さんが 3 月で定年退職を迎えるのでひと言ご挨拶をしたい、というのが目的で あった。図書館の事務室でひとしきり図書館の計画について話した後、仙台へ向 かった。この時は、また近いうちに来て様子を伺おうと軽く考えていた。 新しい図書館の話はとてもわくわくするという気持ちで、そして手伝えること はあれかこれかと考えを巡らせていた。もちろん、その 4 日後に、国内最大級の 地震と大津波により、町が、いや日本が大きな被害を受け、南三陸町図書館を再 訪することができなくなる事態が起こるとはまったく思っていなかった。 2 日後の 3 月 9 日、水曜日午前 11 時 45 分。三陸沖を震源とするマグニチュー ド 7.3 の地震が発生した。県内では栗原市、登 と 米 め 市 し 、美里町で震度 5 弱を観測、震 度 4 から 3 を県内各地で観測した。直後に太平洋沿岸に津波注意報が出され、午 後 2 時 50 分に解除されるまで、県内でも津波を観測した。宮城県図書館では、県 内図書館に対して地震の影響に関する情報を収集したところ、本が数冊落下した という報告が数館からあったが、それほど大きな被害はなかったことが分かった。 しかしながら、久しぶりに感じた大きな揺れは、発生が予想されていた宮城県沖 地震への備えを思い出させた。図書館の開館時間中に地震が起こったら、そして 「今日の地震より大きい、本物の宮城県沖地震だったら」と、一人恐ろしく感じた のを覚えている。 3 月 10 日早朝 6 時 24 分、前日と同じく三陸沖でマグニチュード 6.8 の地震が 発生。県内では栗原市、丸森町、石巻市で震度 4 を観測した。この地震でも福島県 沖に津波注意報が出され、およそ 1 時間後に解除された。「今週は大きい地震が続 いている」と感じていたのは、筆者だけではないだろう。 そして 3 月 11 日、午後 2 時 46 分、大地震が発生した。 揺れは長く続いた。私は勤務する図書館の自席で、書類のチェックを行ってい た。最初に揺れを感じてから揺れがおさまるまで、とても長く、数十分にも感じ られた。「このまま揺れが止まらなかったらどうしようか」とまで感じられた。 実際の行動はそれでも、多少は冷静だったかもしれない。自席で揺れを感じた 瞬間、隣の班の職員とアイコンタクト、すぐにヘルメットがある位置に移動し手 にした。ただ、揺れが本格的にやってきたことで、そこで動けなくなった。揺れて いる床面の上で、動けない。利用者がいるフロアは大変なことになっている―― と思っても、身体がまったく動かない。いつまでも揺れているような感覚がつづ き、外へ避難すると雪が舞っていた。いや、吹雪いていたに近いかもしれない。携 帯電話がかろうじてつながっていた。避難本部がハンディマイクで「震度 6 が観 測された」とか「かなり大きな揺れがあった」とか、断片的に分かる情報を伝えて みたものの、実際はもっと被害は大きいものだった。 その日の夜は、星がきれいに見えた。 1977年2月生。東北大学大学院国際文化研究科修了。2005年4月から 宮城県教育委員会司書として宮城県図書館に勤務。2009年4月から 主に市町村図書館への支援を中心とした業務を担当。東日本大震災 以前から県内の図書館協力・支援に一貫して携わっている。 ─図書館を支援するかたち 東日本大震災と 図書館 熊谷慎一郎(くまがい・しんいちろう) 宮城県図書館の市町村図書館に対する支援 はじめに第1章
  6. 6. 10 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 11東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 真っ暗な、信号すらともっていない街を、ゆっくり車を走らせ帰宅したのは午 後 9 時過ぎだっただろうか。自宅も停電していたため、今夜はどうしようもない と判断し、身体を休めようと横になった。ちなみに私の家の玄関には懐中電灯と 幾ばくかの水が常時置かれている。幸い水道はまだ止まっていなかったので、風 呂に汲み、家の中はいろいろなものが散乱していたものの、片付ければ大丈夫だ ろうと思えた。「とりあえず、自分の生活はなんとかなる」。 ラジオをつけっぱなしにし、作業に差し支えない格好で横になりながら、「寄 贈本がたくさんくるのかな」と思った。思い立って、ノートパソコンを立ち上げ、 イー・モバイルの回線(★ 1) からインターネットにつないでみた。大きな地震だっ たらしい。大きな津波が来たらしい。連絡が取れない人がたくさんいるらしい。 ツイッターを眺めてもなんだかよく分からないほどの情報が大量に流れていた。 数分で見るのをやめた。今は寝たほうがいいなと思った。 朝日とともに目覚めた。明るくなって、自宅の周りの様子も見えるようになっ た。近所の寺の墓石が倒れているとか、電柱が微妙に傾いているとか、そんな風 景が目に入った。知人の動向が気になり、立ち寄ってみた。知人宅の家の中では 食器棚が倒れ、ガラスが散乱していた。そんな中でひと晩明かしたとのこと。大 変なことになったな、と改めて感じながら出勤した。 東北地方太平洋沖地震と名付けられたこの地震は、宮城県栗原市で最大震度 7 を観測し、国内観測史上最大級とされるマグニチュード 9.0 を記録した。激しい 揺れがいつ終わるのか分からないほど長く揺れ、その後襲来した大津波を引き起 こし、東北地方から関東地方の太平洋沿岸部を容赦なく襲い、多くの被害をもた らした。多くの尊い命が失われ、行方不明者も多数に及んでいる。 宮城県の 2013 年 12 月 10 日現在発表(★ 2) では、文教施設の被害総額は 2,000 億円あまりであり、社会教育施設に宮城大学や文化財施設、研究施設を総合し「そ の他文教施設」として 374 億 7,615 万 1,000 円(およそ 370 億円)と発表してい る。 宮城県教育委員会の 2013 年 11 月 30 日現在発表(★ 3) では、「社会教育施設」 (649 施設)のみの被害額を集計しており、その額は 307 億 2,613 万 7,000 円(お よそ 300 億円)である。図書館も社会教育施設に入っているが、図書館だけを集 計したものはない。 本稿では、東日本大震災と図書館について、宮城県内の公立図書館の動きにつ いて、いくつかの事例とともに紹介する。第 2 章では、市町村図書館の被災状況 の概要を共有し、第 3 章では、大きな被災のあった南三陸町図書館、名取市図書 館への宮城県図書館の取り組みを中心に振り返る。それらの取り組みから得られ る多くは、普段からの備えや防災意識がいかに重要であるかという当たり前のこ とである。第 4 章では、図書館の復旧がどう行われてきたか、復興過程において 図書館がどう位置づけられているか、今後の図書館のあり方はどうすべきかなど、 徐々に抽象度を上げた問いかけを行う。最終的には図書館とは何かといったとこ ろを考えざるを得ないが、できるかぎり具体的な事例を通し、震災と図書館につ いて考えていくことにしたい。 なお本稿において、意見の部分は私の個人的な見解であり、所属する組織の見 解ではないことをあらかじめご承知いただきたい。
  7. 7. 12 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 13東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 本章では、宮城県内の市町村図書館に関する被災状況を概観していく。宮城県 内の市町村図書館はその被害の軽重はあるが、一定期間の休館を余儀なくされた。 そして、震災による図書館被害は、地震に伴って発生した大津波による被害だ けではなく、地震の揺れによる建物被害もあることを指摘しておきたい。 東北地方太平洋沖地震で最大震度 7 を観測した栗原市は、2008 年岩手・宮城 内陸地震でも大きな被災のあった地域である。震度 6 強を観測した地点は、内陸 にも多数存在する。栗原市以外にも大崎市や川崎町、大 おお 衡 ひら 村 むら 、蔵王町でも震度 6 強を観測している地点がある。宮城県以外で震度 6 強を観測したのは、福島県国 見町や白河市、双葉町など、茨城県日立市や高萩市、那 な 珂 か 市 し などでも観測された。 また、一般報道においては、津波による被災状況が大きく取り上げられている が、図書館・図書室の被災状況は、必ずしも津波による被災と一致するものでは ないこともあわせて指摘しておきたい。図書館は高台に設置されているところが 多く、津波による被災地域であっても、浸水を免れた図書館は多い。例えば石巻 市図書館は、市街地にありな がら、標高の高い位置にあり、 浸水を免れている。気仙沼市 気仙沼図書館や石巻市図書館 牡鹿分館なども同様に標高の 高い位置に設置されていた。 宮城県内の市町村図書館に おいて、図書館現職者のうち、 南三陸町図書館で死亡確認 1 名、石巻市図書館で行方不 明 1 名となっており、いずれ の方々も津波による被災であ る。地震当日、図書館にいた 利用者も含め、図書館内での 人的被害はなく、地震の揺れ に伴っての死亡者はいなかっ 7 6強 6弱 5強 5弱 震 度 た。図書館開館時間中に起こった大地震にも関わらず、揺れに伴う死傷者が出な かったことは、日頃の訓練や対策のあらわれといえるだろう。 震災以前に行っていた図書館サービスを再開するのが困難な図書館は、必ずし も津波が原因とは限らず、揺れが原因であるところもある。なかでも建築物の応 急危険度判定において、「危険」と判定された名取市図書館は、人口 7 万人を有し 17 万冊超の蔵書を持っているにも関わらず、長きにわたり震災以前と同様のサー ビスを展開できない状況にある。同市内の閖 ゆり 上 あげ 地区は津波によって大きな被災を しているが、内陸部にある図書館は浸水被害を免れているため、いわゆる津波に よる被災が原因ではない。また、沿岸部にある宮城郡七 しち ヶ が 浜 はま 町 まち は、津波によって 町の大部分が被災した自治体であるが、図書センターそのものは浸水しておらず、 地震によって建物が使えなくなった。 図 1 東北地方太平洋沖地震震度分布図(出典:罹災概況図(県全体)『宮城 県震災復興計画』) 図 2 南三陸町図書館跡地(2011年7月28日撮影) 宮城県内の市町村図書館の被災状況第2章 震度分布図
  8. 8. 14 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 15東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 表 1 は、宮城県内で被災度が高い主な市町村図書館・図書室をまとめたもので ある。津波により全壊・流失した図書館・図書室は、南三陸町図書館、石巻市図 書館雄勝分館、石巻市図書館北上分館、女川町生涯教育センターである。なかで も南三陸町図書館は、建物ごと流失している。 宮城県における図書館の被災状況をまとめると、以下の 2 点となろう。 (1)地震による被害により、震災以前の図書館サービスの再開が困難になった図 書館が多い。 (2)津波による被災地域では、図書館が高台にあり浸水を免れたところがある一 方、浸水域にあった館は被害甚大である(図 2)。 建物や施設設備の修理によって、機能が復旧した図書館は徐々に増えている。 震災から 1 年以上経過してくると、浸水域にあった図書館をどう再建し復興して いくかという課題が相対的に大きくなってきた。 建物が使えなくなった図書館では、建物を含めた復旧はいまだにしておらず、 仮設での運営が続いており、本格的な図書館へ移行するための準備段階である。 南三陸町図書館は、南三陸町オーストラリア友好学習館内に入居しているが、仮 設図書館としての位置づけで、今後は町の中央エリアに公民館との併設で復旧す ることも検討されている。石巻市図書館の雄勝分館や北上分館は現在も休館して いるが、2013 年 7 月から 9 月に、それぞれの地区でまちづくり基本構想が策定さ れた。これにより公民館・図書館を組み込んだ総合支所を整備する計画となった。 宮城県図書館では、自館の復旧を進めながら県域の市町村図書館などへの支援 を行った。情報収集と集約、直接訪問し種々の相談に応じるといった活動が主で ある。被災者への直接支援よりも、図書館などを支援することにより間接的に被 災者へ支援するということを意識したものである。 本章では、まず次節で震災前の宮城県内の公立図書館における整備状況につい て概略を延べ、以降、具体的に自治体への支援について振り返っていく。 宮城県における図書館法に基づく公立図書館設置率は、震災発生時の 2011 年 3 月時点で 60%(13 市 21 町 1 村のうち、図書館を設置しているのは 13 市 8 町) と低い。市部と町村部での図書館活動の差が歴然としていた。もちろん個々の図 書館に注目すれば、活発に活動している図書館も多い。加美町の中 なか 新 にい 田 だ 図書館は 蔵書は 30 万冊にのぼる規模であり、多くの利用者ニーズに応えられるだけの力 を持つ。また東松島市図書館は、震災直後から精力的に図書館活動を展開し、仮 設住宅の集会所に「小さな図書館」を設置したり、震災の体験談を収集したりと 精力的に事業を実施している。 公立図書館が設置されていない自治体は、公民館などの図書室を公共図書館に 類する施設として運営しているが、その規模は自治体によって大きく異なる。例 えば、大河原駅前図書館(柴田郡大河原町)、女 おな 川 がわ 町生涯教育センター図書室(牡 鹿郡女川町、震災により全壊、2012 年 3 月から「女川つながる図書館」として開 館)、七ヶ浜町図書センター(宮城郡七ヶ浜町、東北地方太平洋沖地震により全壊、 2011 年 9 月から七ヶ浜町中央公民館にて図書館活動を再開)、松島町勤労青少年 ホーム図書室(宮城郡松島町)は、「図書館」を名称に用いている場合もあるが、い ずれも図書館法に基づく図書館設置条例に根拠を置かない施設である。しかしな がら、およそ 3 万から 6 万冊という一定規模の蔵書があり、いわゆる公共図書館 に相当する機能を有している。 図書館への支援を企画する場合、このあたりの事情をあらかじめ把握しておく 必要があると考えられるが、これらの状況がつかめていた関係者がどれほどいた 第1節 宮城県内の図書館整備状況 表 1 宮城県内で被災度が高い市町村図書館・図書室 宮城県図書館の市町村図書館に対する支援第3章 建物全壊(津波) 南三陸町図書館、石巻市図書館雄勝分館、石巻市 図書館北上分館、女川町生涯教育センター 建築物応急危険度判定で「危険」判定 名取市図書館、七ヶ浜町図書センター、涌谷町涌 谷公民館
  9. 9. 16 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 17東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 のだろうか。被災の大きかった岩手県や福島県でもそれぞれに固有の事情があっ たはずである。 南三陸町図書館の復旧と宮城県図書館の関わりについては、拙稿(★ 4) ですでに発 表したものがあるのであわせて参照されたい。本節では、当該論文と一部重複する が、あまり触れていない支援の企画構築プロセスを中心に記述していくこととする。 南三陸町議会は 2010 年度の 9 月定例会において、当初予算のうち子育て支援 事業費の基本実施設計委託料について、3,565 万円を補正計上した。2011 年 7 月 ごろを目途に子育て支援施設、保育所と図書館を併設した施設の設計が進んでい た。総事業費はおよそ 6 億 8,000 万円。震災がなければ――仮定の話だが、保育 所と一体的整備された図書館が新しくオープンしていただろう。 以前から南三陸町図書館は海の側にあり、津波が来たら危険だといわれていた。 2010 年 2 月 28 日、午前 9 時 33 分、チリ大地震に伴う大津波警報が太平洋沿岸 に出された。南三陸町では午前 10 時に閉館。県内では他に石巻市や七ヶ浜町で 午前中に閉館したという。 2011 年 3 月 11 日に発生した大津波は容赦なく、南三陸町図書館を襲った―― らしい、というところまでしか分からなかった。3 月 24 日(3 月 23 日の深夜とい うべきか)、南三陸町図書館で勤務していた M さんから一報が入った。「後で詳細 を連絡する。職員は全員避難所勤務であり、数日ぶりに自宅に戻ったところであ る。津波の後の現地を確認できていない」というものだった。この時、Y 館長はま だ行方不明で、死亡と確認されたのはもう数日後のことだった。 電話での連絡を何度かとりながら、南三陸町へ行くための準備をした。状況を 確認するのが目的であるが、なにを確認すべきなのかを明らかにしておく必要が ある。 図書館の「これから」のためには、「これまで」をどう整理するか、が重要である。 「これまで」とは、震災発生時にどれくらいの資料が館外貸出されていたか、相互 貸借資料はどれくらいあったか、学校へはどれくらい貸出していたか、発注して いた図書はどれくらいあったか、無事と思われる資料はあるか、貴重資料はどの 場所にあったか、といったようなことである。図書館の運営は「これから」始まる のではなく「これまで」の延長上にある。 5 月 6 日。南三陸町の仮設役場を訪ね、南三陸町の図書館長を兼務することに なった生涯学習課長の O 氏と面会した。図書館を初めて任されたという O 氏は それでも図書館をどうにかしないといけない、という思いを語ってくれた。 南三陸町図書館が図書館事業をどう考えたらいいのか、また宮城県図書館はど のように南三陸町図書館を支援できるのかを具体的に検討するために、M さんの 時間を 1 時間ほどもらった。5 月 20 日のことである。 その時の筆者のメモを一部引用しよう。 (1)被災していない資料群 ◎歌津中学校に学校貸出していた資料(リストは学校にあるはず) →ただ、避難所で利用されていたものもあったので、散逸している可能性 もありそう。 ◎入谷小学校(リストは学校にあるはず) ◎貸出中の資料のうち、被災していない高台、山あいにお住まいの方が 持っているであろうもの。 →図書館が流失しているため、貸出中の資料が何点あるか、だれが借りて いたか、などの情報は一切残っていない。 →広報などで、貸出中の資料を返却してください、と呼び掛けたところで、 返却本を置くスペースがとれない、という切実な問題がある。 ◎昨年度末に発注した資料十数冊(未受入) (2)図書館の耐火書庫について ◎図書館にあった耐火書庫は、一般的なプレハブの半分程度(2 ~ 3 坪程 度?)の部屋に鋼鉄製の扉を取り付け、耐火仕様にした書庫で、壁面は おそらく木造。建物の奥のほう、職員入り口付近にあり、海に近いほう に存在した部屋。 ◎正確な資料点数は不明。入っていた資料は下記の通り。おそらく、これ らで、5,000点はあったかもしれない。 ・チリ地震関連資料(新聞、写真、文集、関係資料) ・郷土・地域資料(地元の人が書いた本) ・行政資料(広報誌なども) ・古文書、古書類(近世~明治の刊本、写本など) ・志津川町史編纂事業で収集した古文書 第2節 南三陸町図書館への支援
  10. 10. 18 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 19東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 (3)3月11日時点での相互貸借状況 ◎県外から借り受けていた資料 3 点ほどあったうち、2 点は連絡がついた。 もう 1 点が、大船渡もしくは宮古のどちらか分からない。記憶が曖昧で なんとも分からずにいる。 ◎県内図書館から借り受けていた資料は、正確には不明。ちょうど県図書 館から資料が届いた次の日だったので、数人に届いた旨の連絡をしたが、 だれがリクエストしていたかは、手元に資料が残っておらず不明。 打合せを終え、まず「これまで」を整理する必要がある、と改めて確認した。支 援という言葉はともすれば「これから」のみを考えさせる。県立図書館として図 書館を支援するために必要なまず第一歩は、県内外の図書館間調整を行うことで ある、と意識した。 M さんは打合せの終わりに言った。「新館建設の計画が復興に当たってどう評 価されるか分からない。書店は 1 ヶ所しかなく、それも流されてしまった。本や 情報を得たい場所としての図書館は必要だと思う」。 M さんとの打合せの後に、O 課長と図書館担当になる予定の Y 氏とで打合せを もった。「3 月 11 日時点での図書館について、相互貸借など他館との調整が必要な 案件については、県図書館の調整をお願いしたい。流失した資料回収にあたって、 図書館としては積極的に動きようがない。図書館のあった場所から流れていった 先の場所もはっきり分からず、手が打てない。各種撤去に携わる人が見つけた資 料は、図書館のものであれば、警察をとおして連絡がくることになっている。建設 課の主導により、撤去の工事管理がなされ、貴重とされる資料の仮置き場は松原 グランド(図書館の隣の公園、町教委があったところの近く)である。小中学校へ の図書支援、活動は可能であれば引き続きやりたいが、事務を調整できる人員が いない。資料を含めて、なんとか支援をお願いしたい。そして、かつて図書館に勤 務していた Y 氏が正式に生涯学習課へ配属替えになり、図書館担当となる予定で あるから、今後は、Y 氏と連絡を取りあいながら進めてほしい」と O 課長が言った。 続けて、「移動図書館車の提供の申し出が数件ある。うち、1 件は財団や NPO 法人 であるが、維持費などを含め、どの程度の費用負担が今後かかるのか、詳細を問い 合わせているが、返答がない。図書館振興財団はずいぶんと景気のいい話をして いった。勧められるようなかたちで申請書を書いた。プレハブが図書館用に 2 棟 用意可能ということで返答があった。見積もりを取っているところである」と言う。 ――支援の申し出が多い。支援する側の調整が必要だ、と感じていた。同じく 図書館を支援する者同士が情報を共有できる仕組みがほしい。6 月 1 日に「図書 館復興のための受援者・支援者連絡調整会議」が東北大学で開催され、ほとんど 間を置かず 11 日には「東日本大震災被災地図書館支援情報交換会」が日本図書館 協会で開催された。ようやくこのような話ができる場を小さいながらも持つこと ができた。なぜ、一つにまとまれないのだろう、という疑問とともに。 6 月 8 日、志 し 津 づ 川 がわ 高校避難所。Y 氏と打合せをした。Y 氏は「図書館振興財団か らプレハブが 2 棟届いた。さらに、移動図書館車両と移動図書館車に積載するた めの図書 3,000 冊が寄付されるかもしれない。午後からの打合せに関係者が来る ようだが、課長が議会に出席のため、係長が対応する予定。同席して話を聞いて ほしい」と言う。了承し、県図書館が県内外の図書館と相互貸借や予約の資料に ついて調整を行い、おおむね各館とも話がついたことを報告した。場所を仮設役 場に移し、移動図書館車両の支援関係者と会談。維持できる、あるいは運用でき る体制を含めて考えなければならない旨、当方から話をした。 結果的に、この移動図書館車両の提供はうまくいかなかった。この時期、震災 から 1、2 ヶ月程度たった頃、多くの支援の申し出が図書館にあらゆるルートで 寄せられた。本の寄贈はもとより、目立ったのが移動図書館車両の提供申し出で ある。この時期に大型の車両をどのように移動図書館として運用したらいいの か、また、どのように維持経費を費用分担するのか、という懸念もあった。7 月に 図書館振興財団から移動図書館車両が第三者リースのかたちで貸与されることに なった。7 月 20 日に車両が引き渡された。だが、どのように運用できる体制を組 むかは課題であった。この時期、図書館は館長 1 名と職員 1 名であるが、職員は 避難所の運営をしていた。実質だれも図書館の業務を専任できていない時期であ る。「来週から本を積んで回れるのか?」と関係者から言われたが、「無理だ」と回 答するしかなかった。実際に移動図書館事業が南三陸町図書館で始まるのは 11 月のことであった。車両は、宮城県角田市から譲渡された移動図書館車両である。 一定の蔵書を積み込むことができ便が良かったためである。県内では、石巻市も 11 月から、女川町では 2012 年 4 月から移動図書館事業が開始された。いずれも 現在も継続されている。持続可能な事業として移動図書館を運営するには、相当 の準備期間が必要である。
  11. 11. 20 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 21東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 6 月下旬、大量の図書がプレハブに運び込まれていた。支援ということで、数多 くの段ボールに入った図書がそこにあった。新しい本も古い本も、たくさんあっ た。これらを整理する必要がある。もし、プレハブがなかったら、これらの本はど こに置かれていたのだろうか。整理作業場所として、蔵書仕分けやフィルムコー トを掛ける作業を想定、総合体育館(通称:ベイサイドアリーナ)内で、机やイス を置くことができ、パソコンなど端末電源を確保できる場所があるかどうかがポ イントである。ベイサイドアリーナの一室を使えないかという調整をすることに なった。 まだ、避難所が完全になくなったわけではないので、Y 氏も図書館業務に専念 できないでいた。南三陸町では、8 月までに仮設住宅に入居してもらえるように 動いていたのとあわせ、2 学期から志津川高校は現在地で授業を再開することに なっていた。これで、少なくとも 8 月の中旬にはなんとか見通しが立てられるか もしれないという見込みが立ってきた。8 月には非常勤職員が配置され、9 月か ら本格的な作業をすることができそうなかたちになってきた。 6 月から 7 月にかけて一つ注目すべき支援がある。中国地方郵便局長協会が、 図書館の資料整備のために南三陸町に支援金を寄付したのである。東日本大震災 からの一日も早い復興を願って義援金 3,000 万円を用意した。当時の片山総務大 臣はまとまった善意の寄付金を十分に活用し復興に役立たせるため、大きな被害 を受けた市町村の公立図書館の蔵書購入に充てることを提案、岩手県陸前高田市、 大 おお 槌 つち 町 ちょう 、野田村および宮城県南三陸町にそれぞれ 750 万円が寄付されることに なった(★ 5) 。図書館の資料費をまとまった金額で、目的を限定したかたちで寄付 された例は多くない。この資金は、10 月に再開する際に大きな力となった。 8 月から非常勤職員が配置されることになったとしても、どう仕事をつくって いくかが分からないと相談されていた。これはつまるところ、図書館をどう運営 するか、という点にかかっている。図書そのものは毎日のように送られてくるが、 ほとんど手つかずのまま、プレハブに保管されている。一方で前述のようにまと まった資料購入費もある。蔵書についてはあまり心配はないだろう、と判断した。 まずは再開させよう、と O 館長以下、思いを共有していた。非常勤職員の作業見 込みをつける必要がある。図書館での勤務経験はない。まずは蔵書を仕分けるこ とから始めるしかないだろう。「8 月に職員が配置されたら、まず各所にある資料 を片っ端から集めて貰いたい。図書館で利用できるかどうかは後で仕分ければい いので、物資として届いているものや、避難所に送られたもので、余っているも のについて、集めてほしい」と依頼した。完璧ではないにしろ、図書について一元 的な管理を目指すことを方向性として打ち出した。 図書を仕分け、ある程度の質を保つために選書し、その間、図書館家具や什器 を揃えることにした。図書の仕分けは難しかった。図書の内容でどう選書するの か、という部分は人によるし、ある程度の経験や勘が必要である。ずっと私たち が付いているわけにもいかない。いずれ、自分たちで図書館を運営する日が来る のだから、一定の力はつけてもらわなくてはならない。仕分けの第一段階として、 明らかに汚れているものを中心によけてもらった。少なくとも、みんなが手にし ようと思わないくらいの汚れがついている本は仕分けてもらった。そこから先は 内容に踏み込む必要がある。本来ならば、どのような図書館を目指すのかによっ て蔵書形成を考える必要があるが、その部分を詰められていない。できるだけ一 緒に選書作業を行い、まずは再開時に開架に並べることができそうな本を中心に 仕分けていった。 さらに、図書は、必要に応じブックコーティングをすることにし、なんらかの 作業を非常勤職員にやってもらうようにした。選書以外の作業も必要であった。 ブックコーティングのための講習会を実施するよう調整したのもこのためである。 日本図書館協会が「HELP-TOSHOKAN」という支援事業を実施していたが、その一 つにブックコーティングの講習や作業支援があった。日本ブッカー社に協力を依 頼し、8 月の日程を押さえてもらった。8 月 20 日から 21 日にかけてブックコー ティングの講習会を実施。21 日は宮城県図書館でボランティアを募集し、マイク ロバスを借りて県内外の図書館関係者約 20 名とともに作業にあたった。この 8 月 21 日は南三陸町図書館のために多くの図書館関係ボランティアが入ることに なり、以降の作業にも大きなはずみとなった。文房具を寄付してくれたり、さま ざまな物品を持ってきてくれたりと、単なる作業以外にも支援が寄せられた。 さて、図書の整理にあたり、蔵書を管理するシステムが必要であるとの認識は みな一致していたが、本格的なシステムの導入は資金的にハードルが高かった。 一時、無料で図書館システムを一定期間使用できるという支援事業もあったが、 今後の運用を考慮するとなかなか踏み切れずにいた。そんななか、紹介されたの が Enju である。Project Next-L による Enju が南三陸町図書館の管理システムと して、当初の期間導入する方向で話が進んだ。本格的なシステムが導入されるま でのつなぎ、という意味もあった。南三陸町図書館としてもおおむね了承し、2 年 目以降の保守料金も考慮するということで導入の準備が進んでいった。
  12. 12. 22 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 23東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 項番 項 目 概 要 1 運営関係 図書館運営上必要な規則や内規を作成する 2 未開梱の箱選別 未開封の段ボール箱を開けて、図書館で使うかどうかの分 別を行う 3 書架にある資料の選別 プレハブIの書架に並んでいる資料について、受け入れる かなどの選別をする 4 書架まわり プレハブIの書架について、装飾などを行う 5 閲覧スペースまわり プレハブⅡについて、閲覧室、カウンターの装飾などを行う 6 外まわり BMについて装飾を行う 7 プレハブ外まわり プレハブ2棟の外まわりの装飾などを行う 8 事務室まわり トレーラーハウスを事務室、執務室にする 9 歌津の倉庫作業 図書館の倉庫として使用する歌津の倉庫の掃除と整頓 10 名足小学校の作業 物資置き場となっている名足小学校から図書館で使えそう な図書を持ってくる システムの導入は通常、数ヶ月かかるものである。8 月 7 日から 8 日にかけ、 Enju 開発担当の T 氏が南三陸町を訪ねてくれた。システムの環境調査、端末の設 定計画などの打合せを現地で持つことができた。無線 LAN や端末の設定の相談 をし、システムの調整を進めていった。システム周りの多くの調整を T 氏が行っ てくれたことで、私の負担はだいぶ減ったと思う。 この時期はかなりの頻度で南三陸町に通っていた。宿泊場所があるわけではな いので、仙台から片道およそ 80 キロメートルを往復していた。多いときは週の 半分を南三陸町に出張し、さまざまな調整にあたった。 ――10 月 5 日を再開の日にしよう。 9 月 3 日にそう決めた。O 館長がやる、と決意した。プレハブで再開する。なに もなかったプレハブに、書架が入った。図書も、図書購入費用もある。人もなんと か配置できた。あとは、サービスを少しでも回復させる。そんな中での決意だっ た。 9 月 3 日の打合せに参加したメンバーに、プロジェクト管理を専門とする人が いた。彼は工程表を作成し、職員にヒアリングをしながらガントチャートをつく り、やるべきことを書き上げていく。決して図書館の専門家ではないが、丁寧に ヒアリングを続け、大まかな計画ができていった。 人手を確保し、集中的に作業することにしたい。そう考え、すぐに県図書館に 電話をし、内部調整を図ってくれるよう依頼した。移動手段のバスを 3 日分交渉 してもらい、ボランティアの呼びかけの段取りを付けた。帰館後すぐに上司へ説 明し、了解をとり、9 月の集中作業に向けて準備を調えていった。 筆者は、この集中作業日の計画を立てた。プロジェクト管理の基本である WBS (Work Breakdown Structure)の手法を用い、全体作業と個別の作業を分解し、一 つの作業を数人であたれるようにしていく作業である。今回の作業にあたって分 解した項目は(表 2 )のとおりである。 これらの項目に対して、それぞれに具体的な作業フローを設定していく。その 後、スケジュールに落とし込んでいく。これから取り組む作業なので、想定でき る作業フローでしかないが、このフローを考えられるのは図書館の専門職にしか できないことである。参加する人がある程度確定したら、次に作業に人を割り当 てていった。各団体のリーダーからヒアリングし、ある程度のまとまりができる ような割振りを行い、実際に作業しながら臨機応変に組み替えていくというスタ イルを採用した。このようにして作成した原案(図 3)をもとに、3 日間の作業に 入った。 私は、この集中作業期間、ほとんどを各作業の進捗管理に充てた。すべての項 目を 3 日間で行ったわけではないが、この集中作業で想定した分はかなりの進展 をみた。10 月にオープンするまでもう少し、というのが実感できるほどであった と思う。 集中作業は 9 月 25 日までだが、そのまま 10 月 5 日の再開を待つわけではな い。直前まで準備が必要である。図書館の再開館式の段取りは南三陸町でつけて もらった。当時の参加者へ配布するため、南三陸町図書館の沿革を記した。 表 2 集中作業日に設定したWBS一覧
  13. 13. 24 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 25東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 ア リ ー ナ 内 ミ ー テ ィ ン グ 室 今 回 の 活 動 の 拠 点 装 備 ・ 装 飾 作 成 作 業 な ど 装 備 ・ 装 飾 作 成 作 業 な ど 仮 置 き 場 所 大 き い 装 飾 作 成 な ど 事 務 室 環 境 の 整 備 シ ス テ ム 関 係 整 備 プ レ ハ ブ 1 ︵ 書 架 ︶ の 整 備 プ レ ハ ブ 2 ︵ 閲 覧 室 ︶の 整 備 移 動 図 書 館 車 の 整 備 図 書 館 の 仮 置 き 倉 庫 と し て 使 う 場 所 の 整 理 物 資 と し て 届 い て い る 図 書 の 整 理 ア リ ー ナ 内 和 室 ア リ ー ナ 内 体 育 館 ト レ ー ラ ー ハ ウ ス プ レ ハ ブ 1 プ レ ハ ブ 2 BM 民 俗 資 料 館 ︵ 歌 津 の 倉 庫 ︶ 名 足 小 学 校 全 体 ミ ー テ ィ ン グ   9 月 23日 10時 30分 ∼ 運営関係 ・規則 ・運営内規 廃棄分紙ひもで縛り リサイクルセンターへ すぐに受入可能な資料の装備 ラベル作成,印字 蔵書印を押す 外まわり ・外観デコレーション ・内装 ・各種案内サイン ・事務用品配置 配架作業 仮置き資料の運び 込み・整理整頓 書架まわり ・書架分類サイン ・各種案内サイン ・書架デコレーション 配架作業 プレハブ外まわり ・飾り作成 ・デコレーション ・各種案内サイン 閲覧スペースまわり ・カウンターの整備 ・各種案内サイン ・デコレーション 事務室まわり ・ファイリング ・文房具 ・消耗品 ・テーブルレイアウト 受入ファイルのマーク 資料の分類移動 移動 片付け・掃除 ・事務用品配置 ・閲覧デスク ・新聞,雑誌架 未開梱の箱選別 書架にある資料の選別 24日 以 降 は 進 歩 を 進 捗 を 見 な が ら 前 日 に 確 定 資 料 の 装 備 ︵ ブ ッ カ ー ︶ 資 料 の 装 備 ︵ シ ス テ ム 登 録 ︶ 資 料 の 装 備 ︵ 蔵 書 印 ︶ 資 料 の 装 備 ︵ 付 録 の 処 理 ︶ 再開館がゴールではない。この後、図書館を運営していく必要がある。O 館長 は、「次は、移動図書館車を動かしたい」という。次の目標は、11 月中に移動図書 館を稼働させることになった。その次が、歌津地区への図書館設置。館長の頭に は、市外の仮設へ避難している方々へのサービスも考えているようだった。見捨 てられたように思われないために、という配慮があった。開館後も先の寄付金が あったので、それを一般書の購入にまわし、約 5,000 冊の新刊書が継続的に納品 される予定であった。スペースの余裕はなかったが、それでも図書館の運営を再 開させたことで、新しい段階に入ったといえる。 以上が震災発生から再開させるまでの概況である。 図 3 集中作業期間におけるスケジュールとワークフロー原案(一部) 図 4 2011年9月の作業の様子(1) 図 5 2011年9月の作業の様子(2)
  14. 14. 26 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 27東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 図 6 再開館時の配布物 図 8 再開館日(2011年10月5日)の様子 図 7 再開当時の図書館
  15. 15. 28 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 29東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 ――建物がない。 図書館が図書館として成立するために必要不可欠なものがない。蔵書は残って いる。職員も少ないがいる。名取市図書館の最大のニーズは「建物がほしい」で あった。私はこのニーズをどうやって叶えたらいいかと考えていた。以下に、そ の調整過程を記していく。ここで明らかにしたいのは、仮設図書館の整備までに 行われた会談や打合せ、多くの人との調整のうえに動いていたプロジェクトで あるということだけではない。図書館の関係団体以外の団体や事業主体が中心と なって話がまとまっていったプロジェクトである、ということである。 名取市では図書館を新規に建設し、移転するという計画があった。順当に行け ば震災発生時には開館していたと思われる。だが、震災発生時は築 50 年を超え る旧市役所庁舎を転用した図書館であった。度重なる激しい揺れに耐えられな かったのだろう。応急危険判定で「危険」と判定され、建物の継続的な使用はでき ないと判断された。震災発生時は蔵書点検中で、利用者はいなかった。 2011 年 4 月、図書館の 2 階に置かれていた蔵書の重みに建物が耐えられない かもしれないという指摘に対し、資料をすべて箱詰めして下ろす、という作業が 始まった。北海道石狩市や北広島市の職員が作業を手伝ってくれた。他にも図書 館用品メーカーの社員やボランティアが多く駆けつけた 1 ヶ月だった。この動き は図書館関係のメーリングリストでも紹介されていたが、当時は建物をどうする か、といった疑問を持つ支援関係者はいなかった。私はボランティアの動きは評 価しつつ、図書館の運営に必要な建物を再建しなければならないと考え、またこ の再建は仮設のサービスポイントでも構わないと考えた。仮設のサービスポイン トを設置するには人手も資金も必要である。 5 月の中頃、あるプロジェクトを紹介された。東海大学チャレンジセンターに よる「3.11 生活復興支援プロジェクト」の「震災復興応急住宅モデル どんぐりハ ウス」である。初めてこのプロジェクトを紹介されたときは、中身もまったく分 からず、流失した図書館の代わりに使えないか、といったものであった。この時 の規模では、まったく図書館のサービスには耐えられないもので、可能性がある ものの、どう転ぶか判断がつかなかった。 2011 年 7 月 22 日。宮城県公立図書館等連絡会議が開催された。ようやく県内 の図書館などの関係者を参集した会議を開くことができ、久しぶりに顔を合わせ る関係職員もいた。午前の部が終わったとき、名取市図書館の S 館長と S 司書か ら話しかけられた。「私たち、そろそろ帰ろうかと思います。ここにいる図書館と 自分たちの図書館の状態にあまりにも差があって……」。「午後から震災の話をし ます。もう少し参加されませんか? そして、もう一つ聞きたいことがあります。 名取市の図書館に仮設の建物を建てて図書館を再開する気持ちはありますか。予 算とかそういう話ではなく、気持ちとして」と私が聞くと、二人とも「あります」 と力強く回答した。午後の部では、各館から震災以後の状況について、順に話を してもらった。名取市図書館からは「名取市図書館の状況は、午前中に報告いた だいた状況である。新図書館の整備計画を進めるにあたり、視察に行った石狩市・ 北広島市の図書館から声をかけていただき、復旧にあたった。その他、災害ボラ ンティアや企業からの応援もあって、延べ 150 名ほどの支援があった。建物に利 用者は入れておらず、カーテンの端から見える本があると、早く入れるようにせ よ、とお叱りを受けることもある。昔の市役所を転用したもので、築 53 年に至っ ていることもあり、2 階は本の重みに耐えられないため、一般室の一部の書架を 取り払い箱詰めして置いている。なによりも、建物は重要であることを認識した。 建物がないと、図書館は運営できない。建物がほしい、という状況である」との発 言があった。 名取市図書館に必要なものははっきりしている。――建物である。方向性はこ れしかないと思った。5 日後の 7 月 27 日、午後 6 時。仙台市中央市民センターの 一角で「公民館復興のための受援者・支援者連絡調整会議」に出席していた元文 部科学省社会教育課長の K 氏と会談した。先のどんぐりハウスの話を紹介してく れた方である。K 氏に名取市の状況を話し、図書館振興財団から 20 平米程度の プレハブが来ることも説明した。名取市図書館の要望としては、40 坪程度の広さ を持った建物が必要というもの。ここである程度のカウンター、閲覧スペースを まかない、現在 BM を活用して週に 3 回開館している状況を脱したいと考えてい ることを伝えた。どんぐりハウスの先行例は岩手県大船渡市にある。旧三陸町の 集落に設置されたそれはおよそ 26 坪で、名取市が求める広さに達していないが、 広さを変更する分には問題ないということであった。問題はむしろ資金であるこ とがこの場でも確認された。 必要な資金をどう調達するか、が課題として認識された。約 3,000 万円を見込 第3節 名取市図書館への支援
  16. 16. 30 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 31東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 む資金が必要だったが、この課題を解決しなくては、名取市図書館の再建は進ま ないと思い、さまざまな人に話をした。「何か支援したい」と申し出てくれた方々 に率直に話をもっていくと、「それは無理」と言われた。現実的ではないのか、と 思いつつも、あきらめるわけにはいかない。8 月上旬、名取市と東海大学で打合せ がもたれ、おおむねの方向性は一致した。仮設図書館をどんぐりハウスで設置す るという方向である。 資金がうまく調達できないということで、一時この話が頓挫しかかった。 8 月 26 日、私は宮城大学に出向いた。事業構想学部の S 助教、まちづくり政策 フォーラムの A 氏と会談した。復興関係の情報交換ということで話をしていたの だが、思い切って名取市図書館について聞いてみた。S 助教は名取市の復興計画 に関わっていると聞いたからだ。すると、S 助教は「被災した公共施設などは、震 災復興とは異なる枠組みで捉えられている。図書館の被災状況について、復興計 画の策定会議などで話題に上がったことは一度としてない。読み聞かせやおはな し会を行っている団体はそれなりにあるが、図書館の整備を、という話になると 支援活動ではあまり聞かれない。図書館の活動が停滞していることを知らない人 が多すぎると思われる」という。現実はいつもこうで、図書館について市民が常 に話題にしているわけではない。震災で図書館がどんな被害を受け、どんな状況 にあるか、という話題は関係者が思っているほど大きな話題にはなっていない。 図書館のことが図書館以外のところで話題になっていないことが問題なのであ る。まちづくりのコーディネートを行っている人たちの間で、かつ、名取市で支 援活動を精力的に行っている人たちの間ですら、名取市図書館のことが知られて いなかった。A 氏からは、さまざまな助成金の情報をいただいた。公共図書館と して再建したいという思いと、うまく助成目的が合うかどうかは分からなかった が、女性支援や子ども支援の関係団体を紹介してもらうことができた。A 氏は RQ 被災地女性支援センターを登米市に設置し、広く被災者への支援、とくに経済的 な自立への支援を行っていた。S 助教は、空き店舗を利用して図書館をやっては どうか、などのアイディアを話し、まちの活性化に図書館を生かすような動きを とってはどうかとの提案をしてくれた。マイクロ・ライブラリーともいえる図書 館活動であるが、公立の図書館がこういった活動を主体とするのはかなり難しい が、面白いアイディアである。この会談は、名取市図書館の仮設図書館設置への 大きなきっかけとなった。 この会談後 1 時間ほどして、A 氏から電話があった。「国際ボランティア団体 が被災地域での集会所の建設などをしているそうである。被災地の施設再建費 150 万円から 470 万円でデザインから施工費までを含み、被災地域のコアになる ショップ、施設などの設置について企画アイディアを募集しているが、どうだろ うか」というものだった。実際に気仙沼市本吉で先行して設置の動きがあるらし かった。助成の目的には合致しているが、金額があまりに足りない。名取市図書 館は仮設の図書室の広さ 40 坪を譲れないラインとしていた。児童書を開架で 3 万冊配架することを目標にするなら、やはりこのくらいの広さは必要だろうと思 う。 資金獲得の進展がないまま 1 週間が過ぎ、9 月 2 日。名取市図書館で打合せ をもった。saveMLAK の岡本真氏も同席したこの打合せの際、目標が再確認され た。目標は「どんぐりハウスによる図書館サービス再開」である。名取市図書館と しては、どんぐりハウスにシンボル的な意義を感じており、そのための財源が確 保できるのであれば、市の予算を執行しなくてもいい、ということを生涯学習課 と話をつけているという。ここでいう市の予算というのは、仮設のプレハブを設 置するための費用である。市の予算は、どんぐりハウスではなく、普通のプレハ ブを 40 坪程度設置した場合の見込みであった。ある助成金をあてにしているた め、12 月 1 日に契約着工できていることが条件になる。もとめる図書室を設置す るとなると、建築確認が必要な規模のため、その手続きに 1 ヶ月程度を見込むと、 できれば 9 月、遅くても 10 月まではなんとか資金の目処がつかないと実現しな いということであった。この日の打合せでは、現時点で復旧を図書館振興財団か ら 20 坪程度のプレハブを支援してもらうため、その設置に必要な基礎工事が開 始されていた。プレハブ以外の部分は、市費でまかなうことができたことや、岩 見沢市から廃車になる移動図書館車両を寄贈してもらうことで話がまとまりそう ということを聞いた。さまざまな環境が整ってきている。資金の見込みをつけな ければいけない。 日付は前後するが、9 月 1 日、A 氏からメールがあった。一緒に活動しているメ ンバーの I 氏が図書館の状況を知りたいという。建造物や図書などについての被 害状況、再建の目処などについてとのオーダーがあった。この情報を求めていた のは、国連大使を務めていた T 氏であった。I 氏が会談を持つため、図書館の状況 を求めていたのであった。すぐに、資料を送ることにした。9 月 2 日には T 氏と の会談があったそうで、話は伝わった模様であった。
  17. 17. 32 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 33東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 9 月 6 日、I 氏からメールがあった。 ――名取の仮設図書館建設に、ユニセフが建設費を出す可能性を調整中です。 もしかすると、ユニセフから直接熊谷さんに連絡が入るかもしれません。 もしかしたら、うまくいくかもしれない、と思った。いや、きっとうまくいく、 とも思い直した。日本ユニセフ協会から連絡があり、9 月 16 日に打合せを持つこ とになった。宮城県図書館に来ていただき、1 時間ほど担当の N 氏と会談した。 私は「名取市図書館は、建物が震災によって使えない状況にある。震災後は、移 動図書館車を用いて、図書館サービスを再開させた。もちろん、移動図書館車の みでは足りないため、一般利用者へのサービスに考えた 20 坪程度のプレハブで 仮設図書室を 10 月までに用意する。児童サービス用途をメインに考えた 40 坪程 度の仮設図書室を用意したいと考えているが、資金的な目処が立っていない。子 ども向けにしろ、一般利用者向けサービスにしろ、名取の図書館が震災前から 持っている蔵書を生かしたいということであって、なにもないところから、つま り、資料を収集するところからの図書館活動ではない。東海大学による図面は既 にあり、3,400 万円という見積が既にある。この 3,400 万円を支援したいという企 業があったが、いろいろ考えて断った経緯がある」という話をした。 N 氏は「話がある程度まとまっているので、検討しやすい。東京での会議に提 案し検討する。少々額が大きいかもしれない」と言いつつも、気にしていたのは 「名取の図書館の意識はどれほどか」という点であった。この点については、図書 館を再建する意識は強い、と念押しした。 日本ユニセフ協会は女川町で「ちゃっこい絵本館」を起ち上げたり、各避難所 に児童書などを配布したりという支援活動を行っていた。「子ども支援」という枠 で動いているとのことで、図書館支援というよりは子ども支援、という部分を強 調されていて、名取市の目的と合致する。 9 月 21 日。N 氏から「本部で検討した結果、『前向きに検討しよう』との結論が 出た。ついては、さらなる詳細などについて、名取市の担当者と打合せをしたい。 連絡先などを教えて欲しい」というものだった。後日、名取市図書館 S 館長から「9 月 29 日に日本ユニセフ協会と打合せをすることになった」と連絡があり、あとは 大丈夫だろう、と思えるようになった。 日本ユニセフ協会は、名取市図書館の仮設図書室の建設資金を拠出することが 決まった。仮設の図書館を東 海大学の「どんぐりハウス」 として選定するのは、すんな り決まったわけではない。図 書館の建設には、さまざまな 事業者の提案を比較検討して のことであった。こうしたプ ロセスを経て、支援の大枠が 固まった。日本ユニセフ協会 は建設のための資金を拠出、 蔵書や本棚などは現図書館のものを流用、新規に調達しなければならない備品類 はかながわ東日本大震災ボランティアステーションによる調達もほぼ確定した。 11 月 2 日に S 館長は「年内(クリスマス)を目標に、建設します」と言った。「大 丈夫ですか?」と聞いても「頑張りますので」と力強いひと言が返ってきた。あと 2 ヶ月もない、ということで不安になったが、すぐに「きっと大丈夫だろう」と 思った。 図 9 組手什の組み立て作業(上・次ページとも 2011年12月)
  18. 18. 34 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 35東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号
  19. 19. 36 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 37東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 そして私は、そろそろ自分たちは手を引く頃である、というのも同時に思っ た。図書館の建設は既に資金拠出団体、設計者、施工業者、さまざまな団体調整を リレーションしてくれる団体(saveMLAK)がそろっていた。次のことを考えると、 現場の作業に人手が必要かと思い、そちらの調整をしておくべきかと考えていた。 天候に恵まれたというべきだろう。11 月下旬から実際に工事が始まり、着々と 建設が進んでいった。そのころ筆者は、名取市の仮設図書館の開館準備をするた めにボランティアを一緒にできないかと宮城大学に調整をはかっていた。南三陸 町図書館の開館準備を手伝ってもらった宮城大学の職員と継続的に情報交換をし ており、一定の規模の作業ボランティアを学生たちに呼び掛けて集めることがで きる、ということを聞いていた。話はまとまり、12 月 25 日に竣工した「どんぐり 子ども図書室」の什器を組み立てる作業と、本を運ぶ作業に宮城大学の学生ボラ ンティアが参加することになった。 12 月 26 日から 28 日まで宮城県図書館からも職員が参加し、組 く 手 で 什 じゅう と呼ばれ る組み立て式の書架を組み立てる作業を実施。木製のパーツを組み合わせる書架 の組み立て作業を手伝った。 年が明けて 1 月 4 日と 5 日は、子ど も図書室開室にあたって必要な図書の 配架を行い、およそ 2 万冊の本を 2 日 間で移動し、並べ替えを行った。「どん ぐり子ども図書室」の開館は 1 月 6 日。 直前の追い込みであった。宮城大学の 学生を始め、2 日間でのべ 70 名にの ぼった。 1 月 6 日。いよいよ開館である。筆 者も出席させてもらった。名取市教育 長挨拶に続き、saveMLAK プロジェク トリーダーの岡本氏による経過説明の なかで、名取市の仮設図書館の開設に あたった関係団体の紹介があり、宮城 県図書館も支援団体の中核として言及 された。中間支援を活動の中核に据え た成果の一つが明らかになった瞬間と いえる。中間支援に力点を置くことに 反対はなかったものの、もっと具体的 なこととして支援をしたいという意見 も館内には多くあった。何をしている か分からない、といったもっともな批 判もあった。だが、県立図書館として の支援をどのようにかたちづくるか、 あるいは、他の事業主体と異なる自分 たちの強みを生かすのはどのようなか たちなのか、といった点を意識してい た。館内には説明を繰り返し行い、理 解を得ようと努めたが、完全に理解が 得られたわけではないだろう。この点 は徐々に実績を積むしかないと考えて いた。 図 10 どんぐり子ども図書室への配架作業風景(4枚とも2012年1月)
  20. 20. 38 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 39東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号図 11 名取市図書館「どんぐり子ども図書室」竣工(2011年12月24日撮影)
  21. 21. 40 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 41東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 開館式典後の茶話会・昼食会で、今後の大きな課題として、名取市図書館の一 般向け資料の提供する場を拡大すること、新館の移転整備計画の凍結を解除し本 設の図書館を早期に整備することが話題となった。あくまでもこの「どんぐり子 ども図書室」は仮設の図書館である。 先を考えると、まだまだ名取市の図書館が完全に復旧したわけではない。次の 一手が必要だった。次の一手を探しながら 2 月になった。saveMLAK の岡本氏か ら大きな資金援助が見込めるかもしれない、「カナダ政府が支援先を募集してい る」という連絡があった。この情報は「どんぐり子ども図書室」の設計をした東海 大学の S 教授からであり、名取市図書館の一般室、その他の自治体でも、図書館 をつくりたいというところはないだろうか、と問合せがあったとのこと。これを 受け、いくつかの自治体に打診したが、うまく調整がつかず、名取市のプロジェ クトを申請、これが受理され、オープンのために動き始めた。 約半年の間に、仮設図書館のための支援協力を得るまでの動きは上述のとおり である。細かい点は書き切れないが、流れは理解いただけるだろう。その後は、名 取市が主体となって調整を進め、2013 年 1 月には「どんぐりアン・みんなの図書 室」を開室。現在は、新館移転を視野にしつつ、図書館サービスを行っている。 その後、築 50 年を超える本館は解体された。 もちろん、宮城県図書館は、直接的な支援のみではなく、間接的な支援も行っ ている。間接支援について少し述べておこう。宮城県図書館では、直接的に個別 の市町村の図書館運営の企画支援の他に、県下の図書館を参集した連絡会議や図 書館職員を対象にした研修会を行うなどの事業も展開した。本稿ではこれを称 して、間接支援という。2011 年 7 月に開催した「宮城県公立図書館等連絡会議」 は、震災後初の連絡会議ということもあり、参加館から活発な意見交換が行われ た。このように関係者が一同に集まる場を提供するのも県立図書館の役割であろ う。また多くの図書館では、資料の落下に伴い資料補修の必要性があったことか ら、本の修理についての研修会を日本図書館協会や国立国会図書館を始め関係団 体の協力を得て、4 回ほど開催した。 また、東日本大震災により被災した宮城県内の図書館などが震災から復興する にあたって、必要な地域資料を整備するための支援を行う事業として「みやぎデ ポジットライブラリー」を開始した。市町村図書館に通知をしたのが 2013 年 3 月だが、2012 年 10 月ごろには企画案をほぼ詰めていた。まるごと資料が流失し た地域の図書館では、これらの地域に関する資料の整備が必要であることや、落 下による資料破損も無視できない。地域の資料を十分に収集・整理・保存するこ とがそもそもの業務である。大きな被災のあった図書館は、震災からおよそ 1 年 半を経過し、建物や、蔵書を備え、一定規模の図書館活動を行えるようになって 宮城県図書館 【収集】 ◎統廃合する学校 ◎組織改組する機関 【再整備】 ◎被災した市町村図書館等 ◎落下により破損した資料  なども対象とする 収集した郷土資料の在庫状 況を図書館向けに公表し、必 要に応じて申込をするシステ ムを用意。 市町村図書館等へは発送もし くは直接届ける。 郷土資料は、非売品や非商業 出版物がおおいため、学校や 行政機関の改組などで不要と なった図書を収集 図 12 名取市図書館の外観(手前が「どんぐり・アンみんなの図書室」、奥が「どんぐり・子ども図書室」、左手は解体され る本館、2012年12月23日撮影) 第4節 間接支援 図13 みやぎデポジットライブラリーの事業イメージ
  22. 22. 42 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 43東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 きた。この時期だからこそ、地域資料を整備し、地域の人々が利活用するために 資料をそろえていくべきであり、宮城県図書館はそのために必要な地域資料の再 整備を支援しようということで展開された。必要な資料が簡易な手続きで申し 込めるように注意し、同時に、在庫リストの作成と申込の仕組みをシステム化し、 できるだけ県図書館の業務負担にならないように配慮した。一方、大事なのは、 復興を目指す図書館の歩みにあわせることである。資料の送付も、送りっぱなし で倉庫に眠っていることがないよう資料整理を考慮し、県図書館から直接持参し、 資料の整理も支援することに気をつけた。このような事業は、図書館が通常サー ビスで手一杯の図書館が存在することを考慮し、おおむね復旧期から復興期にか けて行われるべき事業であろう。 本章ではこれまで述べてきた支援事業を例に、支援事業の企画について述べて みたい。組織として支援活動を行う場合は、必ず事業計画を作成したい。さまざ まなリスクや課題を想定しないまま、いきあたりばったりに事業を遂行すると、 事業の体をなしていないばかりか、多くの迷惑を多くの人にかけることになりか ねない。 事業の計画や評価をするには、少なくとも、以下の項目を詰めていかなくては ならない。 (1)事業計画の基本(図14) 事業計画の基本であり、事業を語るために必要となる要素といってもいいだろ う。5W1H(Why、What、Who、Where、When、How)がきちんとしていなければ、 事業計画としては不完全である。 Why (なぜ) Who (誰と) What (何を) Where (どの分野で) How (どうやって) When (いつ) (2)事業の評価:妥当性(図15) 緊急度と重要度をそれぞれに軸を取り、「どれほど緊急度が高いか」「どれほど 重要な事業であるか」というものである。特に震災支援ということを考えると、 今やらなければならないほど重要であるか、という説明に合理性が求められよう。 (3)事業の評価:効率性(図16) 効率的な事業推進のための体制整備も必要な要素である。どんな人が、どんな 風に、事業を進める体制を整えるのか、という点に合理性が求められよう。 (4)事業の評価:効果性(図17) 営利事業かそうでないかに関わらず、投入したリソースに対して、きちんと成 果が見込めるか、ということは考えなくてはならない。「やりっぱなし」ではなく、 アウトカムを意識した事業計画が必要であろう。 (5)事業の評価:自立発展性(図18) 支援事業はいずれ受援者が自活できるような形で終息することが求められる。 そのために必要な要素として、自立発展のために必要な要素であり、受援側に伝 えられなければならない要素でもある。 重要度 低 △ × 高 ○ △ 高 低 緊急度 戦略 (strategy) 人材 (staff) 体制 (system) 投入 成果 共通する ミッション (shared value) 組織構造 (structure) 組織風土 (style) 技術 (skill) 第5節 支援事業の企画 図 14 事業計画の基本要素 図 18 効率的な組織運営のための4つの「S」図 17 投入リソースと成果のバランス 図 15 重要度と緊急度のマトリックス 図 16 効率的な組織体制整備のための3つの「S」
  23. 23. 44 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 45東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 以上を踏まえ、宮城県図書館による名取市図書館への支援について分析をして みたい。 (1)事業計画(図19) 5W + 1H に従って、それぞれについて具体的に記述していく。事業としては、 「地震で図書館サービスが再開できない市立図書館を看過せず、再開に向けた支 援を行う必要があり(Why)、関係する団体などと(Who)、図書館のサービス機能 を回復する支援を行う(What)、子ども図書室の建設設置に関する調整をメイン に(Where)、2011 年中にリリース(When)するため、さまざまな支援者と打合せ を行い、名取市へ引き合わせる(How)」とした。 (2)妥当性の分析(図20) 宮城県図書館は、県域の市町村図書館へあらゆる支援を惜しまないという組織 のミッションがあり、人口 7 万人、蔵書 17 万冊を存分に活用できない事態を解 決するためには急ぐ必要があり、サービスの再開ができないという問題は、これ が解決しないと他のサービス展開ができないため、重要度は高いと判断される。 (3)効率性の分析(図21) 宮城県図書館から市町村図書館の復旧復興へは最大限投資する。職員間の事務 分担バランスなど配慮し、主担当 1 名と副担当 1 名を充てた。ただ、実際のとこ ろ負担が大きく、特定職員に負荷がかかっていたのは否めない。 即取りかかり、2011年内中に建設 支援者と打ち合わせを行い、 名取市図書館と引き合わせる 子ども図書室の建設設置に 関する調整 図書館のサービス機能を 回復する支援を行う 関係する団体などと Why WhoWhat Where HowWhen 地震で図書館サービスが再開でき ない市立図書館を看過ごせず再開 に向けて支援を行う必要がある (4)効果性の分析(図22) 子ども図書室の建設が実現したことに対する投入資源としては、適切と考えら れる。これには、saveMLAK やかながわ東日本大震災ボランティアステーション など宮城県図書館以外の事業主体へのリレーションがうまく行われていたことも 大きな要因である。ただし、子ども図書室のみでは、完全に名取市図書館のサー ビスが回復しているわけではないから、次の策を講じる必要があることに留意し なければならない。 重要度 名取市の 子ども図書室 建設 低 △ × 高 △ 高 低 緊急度 戦略 (strategy) 人材 (staff) 体制 (system) 市町村図書館 の復旧復興へ 最大限投資。 事務分担 バランス など配慮。 企画協力班6名(市町村支援主担当1名、副担当1名) ◎資金提供団体への  アプローチ ◎建設資金は寄付 ◎saveMLAKへのリレー ◎事業コーディネート ☆図書館の蔵書を活用できる場所が確保できた。 ☆児童書を中心に2万冊開架できる場所ができた。子どもの読書をとりまく環境を整備できた。 ▲一般利用者むけのサービスは完全ではない。 宮城県図書館 による調査 子ども図書室設置 (2012年1月6日開館) 図 19 事業計画の基本要素への当て込み 図 20 重要度と緊急度のマトリックスへの当て込み 図 21 効率的な組織体制整備のための3つの「S」への当て 込み 図22 投入リソースと成果のバランス への当て込み
  24. 24. 46 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 47東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 (5)自立発展性の分析(図23) 名取市では、すでに自分たちでなすべきことを描き、ミッションやビジョンを 職員が共有していた。震災後、図書館員の定数は減っているが、館長や司書の連 携がしっかりしているため、組織風土の点についてはあまり心配する必要はな かった。また、技術も特段移転するべきものではなく、あくまで支援団体へのリ レーションが求められていた。この項については、宮城県図書館のコミット度合 いは少ない。 支援事業の企画とその評価を行うことは、次なる事業への企画につながってい く。さまざまな人や団体とつながりが増していくにつれ、より幅の広い支援事業 が可能になってくる。特に、図書館に関係する団体以外との積極的な連携が必要 である、と私は考えている。 名取市図書館の体制 ◎ミッション ◎組織構造 ◎組織風土 ◎技  術 → 建物があれば、基本的に図書館サービスを自ら展開することができる。   → あらたにサービスの場を必要とする場合の交渉などを自らすることができる。    ・打合せのプロセスを共有する    ・自分たちでできることは自分たちで行う → ミッションはあらかじめ名取市側で策定 → 館長と司書の連携がある。震災後に定数は減っている。 → 新たに醸成する必要がなかった。 → 司書はキャリア十分。 共通する ミッション (shared value) 組織構造 (structure) 組織風土 (style) 技術 (skill) 震災から 3 年を目前に、津波によって失われた地区の復興をどう進めていくか、 そして、図書館を含む社会教育のあり方はどう位置づけられるべきか、という課 題に日々直面する。 津波によって何もかもが失われた地域では、復興へ歩みを進める中で、図書館 の位置づけが問われている。一方で、こう思うこともある――そもそも問われて いないのかもしれない、と。 終章となる本章では、前章で振り返った具体的な支援の取り組みをもとに、都 道府県立図書館の役割の再検討や図書館支援のありようを整理していく。 第 3 章では、宮城県図書館が直接的に南三陸町図書館、名取市図書館へ震災か らの復旧支援の様子を中心に概述してきた。 これまでにはあまり語られてこなかった「図書館を支援する」というあり方の一 端を示せたのではないだろうか。少なくとも、本を寄贈するとか、ボランティアで 作業を手伝う、という部分にとどまらない支援が求められていたのである。その 点をフォローするのが司書であり、県立図書館の本来的役割であると考えている。 さまざまな機会を捉え、私は震災後の市町村図書館の取り組みと都道府県立図 書館の役割について述べてきた。 被災地の県立図書館として、市町村図書館あるいは図書室の運営を支援する ことにできるだけ重点を置くことはもちろん、被災者への直接的な支援(例えば、 避難所へ本を提供する、おはなし会を行うなどといったサービス)は行っていな い。誤解のないようにしていただきたいが、このような活動を軽視したのではな い。宮城県図書館は、図書館活動そのものを直接的に行うのではなく、図書館や 図書館活動をしている個人・団体と協力し支援することで、被災者を間接的に支 援できると強く意識したのである。図書館の復旧・復興のモデルケースを確立し、 来るべき災害に備えるということも視野に入れ、中間組織として機能する都道府 県立図書館を再確認したい(図 24)。 図 23 効率的な組織運営のための4つの「S」への当て込み 第1節 都道府県立図書館の役割 図書館を活用する復興を目指して第4章
  25. 25. 48 東日本大震災と図書館 ─ 図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 49東日本大震災と図書館 ─図書館を支援するかたち  ライブラリー・リソース・ガイド 2014 年 冬号 県立図書館は、県内の図書館などへの協力を日々業務として行っている。これ は間接的な図書館サービスともいわれ、外からは見えにくい。東日本大震災以降、 県立図書館の機能や役割がよりはっきりしてきたのではないだろうか。 本章が、震災を経験した図書館に対し、中間組織がどれほど必要か、そしてその 役割を担うことが県立図書館には可能であることを示す一つの証左となるだろう。 災害が発生した際、情報が錯綜することは今回の震災で明らかになったとおり である。復興に向けた初動体制づくりに向けた取り組みが重要であることも明ら かになった。非常時の初動対応を速やかに立ち上げるためには、事前に関係者同 士が互いの情報を共有し、ある程度の役割を決めておくことが鍵となる。「災害に 備えて互いに顔の見える関係をつくっておく」という意識は非常に重要で、各地 のネットワークが生きてくる。多くは都道府県の範域を単位にしておきたい。ま た、普段は福祉や教育などに取り組んでいる団体と顔をつないでおき、災害時に 連携がとれるような関係を築くのもいいだろう。 震災後、多くの支援活動が宮城県を始め被災地で展開された。図書館をめぐる 支援活動も枚挙にいとまがない。これらの支援活動を一つひとつ事例として取り 上げ検証するには紙幅が足りない。 ここでは、図書館をとりまく支援のあり方を検討するために、さまざまな支援 事業をどう整理するか試みたい。 宮城県図書館 中間組織として 機能 市町村 図書館等 ◎支援調整 ◎ニーズ把握 ◎支援情報提供 ◎各種支援  (マッチングを重視) ◎ニーズの提供 ◎各種照会への応答 ◎支援情報の提供  (人的・物的・金銭的) ◎市町村図書館の情報集約 ◎各種支援情報の集約・提供 ◎連絡会議・研修会等 ◎震災関係資料の収集・書籍情報の提供 支援関係 団体等 まず支援対象別に、図書館への支援、図書館活動への支援、これらを包括する 支援に整理した。3 番目の「これらを包括する支援」というのはいわば中間支援に あたり、図書館あるいは図書館活動への支援を行いたい主体に対する支援を指す。 さらに支援の内容的に、図書館への支援、あるいは図書館活動への支援は類型 化すると、本や資料の寄贈に代表される物的支援と図書館の運営や行事など、な んらかの活動そのものを直接的に、あるいは間接的に実施するソフト支援に大別 される。ソフト支援は、人的支援・物的支援から構成されると言い換えてもいい だろう(図 25)。 支援対象が図書館であれ、図書館活動であれ、本の寄贈件数は相当数に上る。 本の寄贈以外の支援もあり、その内容は多岐にわたるが、復旧から復興にかけて 設置者が自ら図書館を運営できる、あるいは自ら図書館活動を行えるためにも、 むしろ重要な支援であるといえる。 図25の表中にある中間支援という位置づけは、あまり表出されることがなかっ たが、今回の震災でよく耳にするようになった用語である。従前から、中間支援 団体は国際 NGO 活動、地域における NPO 活動やまちづくり活動で、各種主体 間における情報提供、コーディネート、人材育成など重要な役割を果たしていた。 今回の震災においても、直接的な事業を行うのではなく、実際に支援をしたい団 体と受援側の間で調整を行う役割が欲せられ、図書館関係への支援においてもそ の必要があった。中間支援は一定の地域や業界を対象として成立可能であり、県 第2節 図書館支援の整理に向けて 図 24 中間組織として機能する都道府県立図書館のモデル図 図25 支援対象・支援内容別事業類例 図書館への支援 図書館活動への支援 これらを包括する支援 (中間支援) 物的支援 ・図書、書架、建物、移動 図書館車などの寄付 ・運営に必要なPC、事 務機器等の寄付 ・図書、簡易書架、異動運 搬用車両などの寄付 ―― ソフト支援 (人的・金銭的) ・図書購入費用の寄付 ・行事などの講師、運営 費用の支援 ・図書館運営のための 助言 ・避難所における読み聞 かせ活動 ・仮設団地への配本 ・集会所での図書を用い た行事やイベント ・絵本・紙芝居の作製 ・人的資源の集約、仲介 ・金銭的資源の仲介 ・各種情報の集約

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