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我々にとって望ましい年金
のあり方
中 央 大 学 証 券 研 究 会
1
〈 目 次〉
1章 日本の公的年金における問題点・・・・・・・・・・・・・・・・P.2
1- 1. 公 的年金の問題点とは一体何なのか
1- 2. 賦 課方式・積立方式について
1- 3. 社 会保険方式と税方式5
1- 4. 日 本の公的年金の過去と現在
1- 5. ま とめ
2章 諸外国と我が国の年金制度と状況・・・・・・・・・・・・・・・P.8
2‐ 1. 諸 外国と我が国との年金の状況の比較
2- 2. ア メリカと日本の年金制度の比較10
2- 3. ス ウェーデンの年金制度とその特徴
3章 これからの公的年金の在り方について・・・・・・・・・・・・・P.13
3- 1. 年 金制度における2つの方式
3- 2. 積 立方式のメリットとデメリット
3- 3. こ れからの公的年金のあるべき姿15
4章 確定拠出年金の是非・望ましい位置づけ・・・・・・・・・・・・P.17
4- 1. 確 定拠出年金とは
4- 2. 確 定拠出年金制度浸透の背景
4- 3. 確 定拠出年金の孕むメリット/デメリット
4- 4. 確 定拠出年金の望ましい位置づけとは20
5章 望ましい年金のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.23
5- 1. 年 金に何が求められているか
5- 2. 基 礎年金の目的税化
5- 3. 2 階建て部分の私的年金化
5- 4. 私 的年金の拡充25
終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.33
参 考 文献
2
1章 日本の公的年金における問題点
1 - 1 .公的年 金の問題 点とは 一体何な のか
5
国会議員の年金 未納問題や 杜撰な年金 記録管理 によって生 じた「消えた 年金」
など、年金にまつ わる様々な 不祥事が 露呈し社会 保険庁が解 体されたの は 2009
年末のことだっ た。この時 日本の年 金制度はど うなってし まうのか、 より直接
的な言い方をす れば自分自 身が年金 受給資格を 得る頃に年 金がちゃん ともらえ
るのだろうかと 案じた方が いたので はないだろ うか。この 社会保険庁 解体、そ10
して日本年金機 構設立を機 に様々な マスメディ アで年金に ついて色々 と論じら
れるようになっ た。その結 果ただ漠 然と年金を 納めていた 人々が年金 について
関心を持つよう になり、そ の結果年 金制度の在 り方や将来 の年金生活 に対して
懐疑や不信感を 抱き年金を 払いたく ないと思っ た人々も 少 なからず存 在するだ
ろう。ではこの 国の公的年 金制度に どのような 問題が存在 し、現在の ような 年15
金に対する不信 感を人々に 抱かせる 結果を招い てしまった のか。今一 度検討し
てみる必要がある。
1 - 2 .賦 課方式と 積立方式
20
当初日本の公的 年金制度は 積立方式 で発足した ものの、高 度経済成長 期のイ
ンフレーション によって円 の価値が 下落しその 結果積立金 の減価が生 じたり、
政治家主導の政 策的な保険 料負担の 抑制などの 介入が行わ れたりした ことによ
って従来の積立 制度が崩壊 し、現在 では賦課方 式を基本と しつつ将来 の保険料
負担を緩和する ために一定 の積立金 を保有する 仕組みへと 変化した。 では現在25
日本の公的年金 制度に導入 されてい る賦課方式 とは一体ど のようなも のか説明
したいと思う。
賦課方式とは年 金の財源、 いわゆる 年金給付に 必要な費用 を現役加入 者の保
険料で賄うこと で年金制度 を運用し ていくこと である。賦 課方式のメ リットと
して、後世代の 保険料の値 上げによ る年金受給 額の価値維 持が容易で あること30
3
が挙げられる。 一方で、保 険料の負 担基準が年 金受給者と 加入者の比 率によっ
て決定されるた め少子高齢 化社会で は後世代の 保険料負担 が上昇して し まい年
金受給額における世代間格差が生じてしまうというデメリ ットも挙げ られる。
現在年金問題と して主にニ ュース番 組等で取り 沙汰されて いるのはこ の年金給
付額と保険料負担額の世代間格差の問題である。5
(図 1-1)
(出 典 :http://economist.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-230f.html)
10
また賦課方式に 対して将来 の給付の ための原資 を事前に積 み立ててお く積立
方式というもの も存在する 。積立方 式では保険 料負担は一 定であり少 子高齢化
の影響を殆ど受 けることが なく、更 に積立金の 運用収入に よってその 分保険料
負担が軽減され るという利 点がある 。しかし上 記のような 想定を超え たインフ
レーションや賃 金上昇が発 生した場 合積み立て てきた年金 の価値が相 対的に下15
落してしまうため年金給付額の価値維持が困難であるとい う面がある 。
ちなみにドイツ 、アメリカ 、フラン スをはじめ とする先進 諸国におけ る一般
的な年金制度は賦課方式である。
20
4
1 - 3 .社 会保険方 式と税方 式
また日本は公的 年金の財源 確保の手 段として社 会保険方式 を導入して いる。5
社会保険方式と は具体的に 述べると 、一定期間 の保険料拠 出を条件に 収められ
た保険料を主要 財源として 、条件を 満たした受 給資格者に 年金給付を 行う方式
である。社会保 険方式では 保険料拠 出と年金給 付額がリン クするため 加入者の
保険料拠出につ いての合意 を得るこ とがさほど 難しくなく 、年金にお ける給付
と負担の均衡を 図ることが 容易にな る一方で、 未加入・未 納などによ る年金を10
受給する資格が ない者や低 額の年金 しか受給し えない者、 いわゆる無 年金者や
低年金者が発生しがちであるという問題がある。
社会保険方式に 対し、個々 人の保険 料拠出を条 件とはしな いで租税を 財源と
して年金給付を 行う税方式 という方 式も存在す る。 税方式 では保険料 拠出を年
金受給の条件と しないため 一律平等 な年金給付 がかのうと なるものの 、時の政15
府によって年金 受給に関し て所得制 限が設けら れたり、ま た巨額な租 税財源を
必要としたりす るため、政 治経済情 勢による影 響を受けや すく制度と しての安
定性に欠けると いう問題が ある。ま た年金受給 に関して条 件を設定し ないとい
うことから加入 者自身に「 自分が年 金を収めて いる」とい う自覚を与 えない、
つまり加入者の年金に対する意識の低下を招いてしまう恐 れがある。20
日本では基本 として社会 保険制度 が公的年金 制度に導入 されている が、税
方式による恩給 や老齢福祉 年金など も一種の例 外として経 過的に存在 している。
また他の先進国 では社会保 険制度が 年金制度と して支配的 であるもの の、オー
ストラリアやニ ュージーラ ンドの年 金のだけで なく、デン マークやカ ナダの基
礎年金においても税方式を採用している。25
30
5
(図 1- 2)保険方式と税方式の対比
(出 典 ; http://www.asahi.com/edu/nie/kiji/kiji/TKY200803090078.html )5
1 - 4 .日 本の公的 年金の過 去と現在
上で現在の日本 が公的年金 制度にお いて導入し ている 賦課 方式と社会 保険制
方式、そしてそ れらと対の 存在とし ての積立方 式と税方式 についての 概要を端10
的に述べてきた。では賦課方式と社会保険方式のどこに問 題があるの か。
まず賦課方式に ついてだが 、この制 度は先にも 述べたよう に日本が高 度経済
成長期の最中に 導入された ものであ り、日本の 人口が増加 し続け、な おかつ経
済成長がそれ以 降も継続さ れること が前提とし て必要であ った。しか し第四次
中東戦 争時の O APEC( アラ ブ石油 輸出国 機構)が 行っ た石油 戦略を 起因 とする15
6
第一次オイルシ ョックによ って日本 の高度経済 成長は終わ りを迎え、 日本は安
定成長期に突入 する。その 安定成長期も 1990 年代初頭の バブルの崩 壊によっ
て幕を閉じる。 それ以降日 本は「失わ れた 20 年」と呼ば れる不況の 時代に突
入したわけだが 、日本にお ける出生率は 1971 年~1974 年にかけて起 こった第
二次ベビーブー ム以降漸次 的低下を続 け、現在 の出生率が 2.0 倍を割 るまでの5
状況に至った。
(図 1-3)出生数・出生率(人口千対)の年次推移
(出 典 ; http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo1.html )10
更に少子化と同 時に急激な 高齢化が 日本社会を 襲うことで 、従来の賦 課方式
による年金制度の維持がこれからより困難になっていくだ ろう。
15
20
7
(図 1-4)人口ピラミッドの変化
(出 典 ; http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014/sy014f_a.htm )
賦課方式による 年金受給と 保険料負 担をよく老 人を背負う 現役世代の 図で表
されたりするが 、その例え を用いる とするなら ば老人一人 を背負う現 役世代の5
数が減り続け最 終的には現 役世代一 人で老人一 人を背負う 、つまり現 役世代が
受給者一人分の 保険料を負 担しなけ ればならな い時代も荒 唐無稽な話 ではなく
なってきている のである。 このよう な事態は世 代間におけ る年金受給 額の格差
によって、後世 代の年金制 度そのも のに対する 不信感を増 大させるこ とにつな
がり、最終的に は保険料の 不払いの 割合が増加 してしまう ことになっ てしまう10
のである。
また社会保険方 式がこの一 連の保険 料不払いの 流れに拍車 をかけてい るとも
いえる。年金制 度における 自助努力 という観点 から加入者 の合意を得 やすい社
会保険方式が日 本の公的年 金に導入 されてきた わけだが、 現在むしろ 年金制度
に対する不信感 の増大によ って「40 年もの間保 険料を払い 続けてわず かな受給15
額をもらうくら いなら最初 から保険 料を払わな ければいい のでは」と いう考え
を現役世代に与 えかねない 。またこ のような考 えを持つ人 々が増えて いけば、
日本の年金制度 を根底から 揺るがし かねない状 況になって しまう恐れ が十分に
ある。
20
8
1 - 5 .ま とめ
国民皆年金が昭 和 30 年代 に実現し てから半世 紀が経過し た現在、年 金制度
は確かに成熟し たが、日本 の社会構 造や経済状 況、更には 日本を取り 巻く国際
情勢も大きく変 化した。そ の大きな 変化に日本 の公的年金 制度も変化 していか5
なければならな いというこ と、つま り現在の公 的年金制度 が硬直化し た時代遅
れのものであることが一番の問題だと思われる。
2 章 諸外国と我が国の年金制度と状況
2 - 1 .諸 外国と我 が国との 年金の状 況の比較
我が国の年金 は国民年金 という一 階部分と、 厚生年金ま たは共済年 金などの
二階部分に分か れている( 図 2-1)。そして、す べての年金 が社会保険 制度の賦
課方式で賄われ ており、基 礎年金の 二分の一を 税金で賄っ ているとい うのが現
在の状況だ。先ほ ど 1 章では問題 点として、少 子高齢化社 会でありこ れから大
きな経済成長が 見込めない 我が国で は賦課方式 で年金を続 けていくと 、世代間
格差が増大し、 結果として 年金が崩 壊すると述 べた。世代 間扶養とい う考え方
では、高齢者が 増えてゆく 世の中に おいて年金 は揺らい で ゆく。では これから
我が国の年金のあり方はどうあるべきであるのか。
(図 2-1)日本の年金制度
( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/Japan2012.pdf )
ここで諸外国を 参考にして 我が国の 年金のこれ からを模索 するため、 他国と
我が国の年金の 状況などを 比較して みる。まず 、日本では 20歳以上 の国民は
年金に加入する 義務がある が、他国 においては 自営業者と 無業者は所 得や条件
によって任意と なるケース がある。 例として、 アメリカや 英国では被 用者及び
自営業者のみ義 務があり、 ドイツで は被用者及 び一部の職 に従事する 自営業者
に 義 務 が あ る 。 ま た 、 MISSOC ( Mutual Informa tion System on Social
10
Protection)による情 報によると 2004 年 に EU の加盟国が 旧東欧諸国 にまで拡
大される前から の EU 加盟 15 か国 お よび EFTA 加盟国( 4か国)で は、全移
住者に加入義務 を課す老齢 給付制度 が存在する 国はスイス ,デンマー ク,アイ
スランド,リヒテン シュタイン およびス ウェーデン の 5 か国であ る。世界的に
見て、皆年金を 実施してい る国家は あまり多く はない。し かし、日本 が皆年金
であるというこ とは国民全 員が「最 低限の健康 で文化的な 生活」を営 むために
必要不可欠であるともいえる。
また日本でも話 題になって いるが、 諸外国にお いても平均 寿命の延び や少子
高齢化の影響 による年 金受給開始 年齢の引 き上げが 問題になっ ている。 図 2-2
は、アメリカ・ フランス・ ドイツ・ イギリス・ 日本の平均 寿命の延び を示した
ものである。こ れを参照す ると各国 とも4~5 歳程度20 年前より平 均寿命が
延びていること がわかる。 平均寿命 が延びると いうことは すなわち年 金の支給
期間が増えるこ とにもつな がるため 、年金受給 開始年齢の 引き上げを 検討せざ
るをえないのだ 。例をあげ れば、フラ ンスでは 2011 年よ り、受給開 始年齢を
60 歳から 62 歳ま で段階的に 引き上げて おり、ドイ ツも 2012~2029 年で 65
歳から 67 歳までの 引き上げを 開始してい る。日本でも男 性は 2025 年、女性は
2030 年までに受給開始年 齢を 65 歳に引 き上げるこ とがすでに 決 ま っ て い る 。
(図 2-2)
( http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html を 参 考 に し て 作成 )
70
72
74
76
78
80
82
84
日本 アメリカ フランス イギリス ドイツ
1990年と2010年の平均寿命の違い
1990年
2010年
11
2 - 2 .ア メリカと 日本の年 金制度の 比較
2-1 では諸外国の状 況と日本 の状況を簡 単に比較し てみた 。ここでは さらに
アメリカの年金制度を詳しく確認し、日本と比較して論じ る。
アメリカは日本とは違い一階立ての年金である(図 2‐3 参照 )。
(図 2-3)アメリカの年金制度
( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/USA2012.pdf )
先ほど述べたと おり、日本 は二階建 てであり、 無職のもの も年金に強 制加入
させる。しかし 、アメリカ では働い ているもの のみ年金に 加入するこ とができ
るため、「働く 者のための 保険」とい う傾向を強 く感じる。また、アメ リカでは
社会保障年金の みでは退職 前の平均 賃金の4割 程度で、保 険料自体が 収入に比
例し、需給料も 支払った金 額に比例 する。だか ら、年金の みに頼らず 退職金と
企業年金、私的貯金によってまかなうのがふつうである。
『第 6 回高齢者の 生活と意識 に関する国 際比較調 査結果』の『老後の 生活費
に対する備え(複数回答可)』の回答結果(図 2‐4)を見てみる と、多い 順に
日本は預貯金、特になし、個人年金への加入となっている のに対して 、アメリ
カでは預貯金、個人 年金への加 入、債券・株式の 保有と投資 信託となっ ている。
これはアメリカでは個々人でできる範囲の老後への対策を 考えている 人が多い
と言っていいだろう。それに対し、日本では貯金が多いと はいえ、特 に何もし
ていないと答えた人もかなりの数いたため、公的年金に頼 っている人 が多いの
ではないかと推測される。
12
(図 2-4)
( http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_kiso/19html/youyaku.html を 参 考 に し て 作成 )
2 - 3 .ス ウェーデ ンの年金 制度とそ の特徴
今度は、特徴 的であるス ウェーデ ンの年金に ついて見て いきたい。 スウェー
デンは 1999 年に年金の改正を行い 、それまで 日本と同じ ように二階 立てだっ
た年金が所得比 例年金を中 心として保 障年金を 足す新しい 形に変わっ た(図 2
-5 参照)。
一定以上所得が ある被用者 と自営業 者を強制加 入の対象に した部分は アメリカ
等と同じような 政策である が、どこ が特徴的か というのは 図を見てわ かる通り
所得比例は保険 料で賄い、 保障年金 は税で賄う 方法である という点だ 。所得比
例年金とは言葉 の通り所得 に応じた 年金である が、保障年 金とは物価 を基準と
した貧困者への救済策として税から出される年金のことだ 。
また、スウェ ーデンは短 い期間に試 行錯誤を 繰り返して いる。ITP とよばれ
る厚生年金の従 来の積立金 額は賃金の 2~5% と決められ ていたが、2007 年に
は改正されて 1979 年以降に生まれ た国民は個 人が積立金 額や方法を 選択する
0
10
20
30
40
50
60
70
日本 アメリカ
老後の生活に関する備え
預貯金
個人年金への加入
債券・株式の保有、投資信託
不動産取得(賃貸収入を得る
ための不動産の取得等)
貴金属の保有(金、宝石等)
老後も働いて収入が得られる
ように職業能力を高める
その他
13
ようになった。 それによっ て自分の 資金を自分 が運用する という責任 感を持つ
ことにつながっ てもおり、 個々人で 老後の資金 作りが容易 になったと 言っても
過言ではないだ ろう。しか し、スウ ェーデンの 制度は貧富 の差を拡大 させるな
どのデメリット もあるうえ 、新しい 年金制度へ の理解をし ていない人 も多々見
受けられることが問題視されている。
(図 2-5)スウェーデンの年金政策
( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/Sweden2012.pdf )
14
3章 これからの公的年金の在り方について
3 - 1 .年 金制度に おける2 つの方式
2 章の外国の状 況を見ても わかるよ うに我が国 も年金制度 自体の改革 をする
べきであろう。 図 3‐1 で 示したよ うにこれか らの日本で は年金受給 開始年齢
の引き上げをし ただけでは 到底対応 できない超 少子高齢化 社会という 現実に突
入してゆく。そ の中で中、 いままで の政策の限 界を見極め てこれから の社会に
対応できる力を持った政策が求められているのである。
(図 3-1)日本の人口推移
( 出 典 : http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112120.html )
ここで、我が国 の年金制度 を厳密に 定義してみ る。政府の 経済社会総 合研究
所の論文 では『 一方で 、高齢 に至る 前の若 中年期( 勤労期) の各個 人から 高齢者
への老齢年金給 付のための 財源とし て資金を強 制的に徴収 する。他方 で、高齢
になった個人、 すなわち、 高齢者に 対して老齢 年金を支給 する制度で ある』と
15
述べられている 。そして、 従前所得 と連動させ それを満た す 財政方式 は大きく
分けて二つ存在 している。 一つは現 在の我が国 で採用され ている賦課 方式、そ
してもう一つは積立方式である。
ここで賦課方 式と積立方 式を簡単 に説明する 。賦課方式 とは「世代 間扶養」
という考えを基 にした方式 で、年金 支給に必要 な財源を現 役世代の保 険料から
徴収してゆく方 式だ。いわ ば「自転 車操業」と も見て取れ るだろう。 積立方式
は自分の保険料 は自分で支 払うとい う方法で、 自分自身の 保険料を積 立てたも
のを国が資産運 用をし、そ れがその まま受給者 となった時 の年金給付 の財源と
なるのだ。これは いわば「貯 金」制度と似 ている。で は、これから この 2 つの
方式を軸にこれからの公的年金の在り方を考えていく。
(図 3-2) 賦課方式と積立方式の仕組み
( 出 典 : http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/04/04 -17-4.html)
3 - 2 .積 立方式の メリット とデメリ ット
まず、先ほど述べ た 2 つの方式 について 詳しく見て いく。賦課方式 において
は 1 章で詳しく論 じたので 、ここで は積立方式 のメリット とデメリッ トをあげ
るとともに、賦課方式との対比表(表 3‐1)を提示する。
積立方式のメ リットは、 少子高齢 化の悪影響 を受けず世 代間格差を 防ぐこと
につながること にある。こ れは今の 日本にとっ ては最大の メリットで ある。ま
た、自分のため に積み立て た資金を 政府が運用 することで 収益をあげ ることが
できる。積立方 式は市場収 益率さえ 予測できれ ば拠出額が どのくらい の年金額
をもたらすかを 容易に知る ことがで きるため、 安定して運 用すること も可能だ
16
ろう。
しかし、積立方 式にもデメ リットは 多く存在す る。たとえ ば、予想を 超えた
大きなインフレ や生活水準 の急上昇 が起こった 時の対応や 、運用結果 に年金額
が左右され、老 後の暮らし が不安定 になったと きの対応な どだ。現在 、我が国
では過去の保険 料収入のう ち年金給 付につかわ れなかった ものを年金 積立金と
して運用してい るが 、2008 年度には 7.57%の赤字を出 している など、まだ運用
状況においては あまり芳し いとは言 いようがな い。そのた め積立方式 に移行す
ること自体にも 大きな不安 がある。 また、積立 方式では個 人で貯金す ることと
大きな違いがな くなってし まい、国 民全体がさ らに年金か ら離れてし まうとい
うことも憂慮さ れる。そして、もし 積立方式 に移行する としても「二重 の負担」
問題というもの が発生する 。これか ら積立方式 に移行して 、現役世代 が自分自
身の老後のため の積み立て を始めて も、すでに 年金を受給 している高 齢者には
引き続き年金を 支給し続け る必要が あるため、 現役世代は その分の保 険料も二
重に払い続ける ことになる という問 題だ。厚生 労働省は公 的年金を積 立方式に
転換する際、新 たに必要と なる財源 は550兆 円だと試算 している。 これらの
点から見ても積 立方式で年 金を運用 することに は慎重にな らなければ いけない
といえるだろう。
(表 3-1) 積立方式と賦課方式の比較
メリット デメリット
・少子高齢化社会に対応できる ・大きなインフレや生活水準の上昇が
・運用することで利益が上乗せされる  起こった時に目減りしてしまう
・賦課方式から切り替える場合
 『二重の負担』が問題になる
・運用には不安定性が伴う
・大きなインフレにも対応できる ・少子高齢化社会においては適さず、
・物価を基にした金額を享受できる  世代間格差が起こる
積立方式
賦課方式
17
3 - 3 .こ れからの 公的年金 のあるべ き姿
3‐1 と 3‐2 で は年金にお ける二大 財政制度を 紹介し、そ れらにおけ るメリ
ットとデメリッ トを示した 。では、 これからの 公的年金に はどのよう な制度が
適切なのであろ う。以前述べた とおり、賦課 方式は少子 高齢化社会 において「世
代間扶養」とい う特色が悪 く作用し てしまい、 今の世の中 に適してい ないとい
う点で問題にな っている。 つまり、 今までどお りの賦課方 式では立ち 行かなく
なる可能性があ るため、現 状の公的 年金制度は 適切でない と言えるだ ろう。し
かし、積立方式 を公的年金 制度に採 用するとす れば先ほど 言ったイン フレや生
活環境の向上に 対応できな いというデ メリット や、運用によ る将来の不 安定性、
「二重の負担」問題による金融面での問題が重くのしかか ってくるで あろう。
ではもし、賦課 方式と積立 方式、2 つの政策の メリットを 取り入れた 政策が
あるとするなら ばどうだろ うか。我 々は基礎年 金を一律税 化した上で 賦課方式
を修正して、賦 課方式のデ メリット をおさえれ ばよいので はないかと 考える。
基礎年金を一律 税化するこ とは、賦 課方式の「 大きなイン フレに対応 できる」
というメリット をとること もでき、 世代すべて に負担を小 分けにする ことで少
子高齢化社会に も対応して いる確か に方式自体 は賦課方式 だ が、この 方法にお
いては国民全体 が高齢者を 支えると いう形にな るため、若 年層への負 担もすく
なく、世代間格 差も大きく はならな い。また、 一律税化さ せる部分は 基礎年金
だけでよい。基 礎年金を一 律税化す ることはす べての国民 を強制的に 国民年金
の保護下に置く ということ でもある ため、生活 保護受給者 との差異も なくすこ
とができるとい うメリット もある。 世代間格差 にも対応し 、尚且つイ ンフレに
も対応した政策 。これがこ れからの公 的年金の在 り方なので はないのだ ろうか。
4 章 確定拠出年金の是非・望ましい位置づけ
4 - 1 .確 定拠出年 金とは
2001 年に制定された、確定拠出年金法に基づいた年金制度の一つで ある。
確定拠出年金と は、前もっ て決めら れた保険料 率のもと、 毎月積立を 行い、そ
れを元に投資を 行うことに よって得 た利益を、 将来の年金 の受給金額 とするも
のである。
アメリカ内国歳 入法第 401 条 k 項に基づ く年金を手 本としたも のとされ 、日本
版 401k とも呼ばれる。
厚生年金基金や 適格退職年 金等の企 業年金制度 等は、給付 額が約束さ れるとい
う特徴があるが、
・現行の企業年金制度は中小零細企業や自営業者に十分普 及していな い
・離転職時の年 金資産の持 ち運びが 十分確保さ れておらず 、労働移動 への対応
が困難
という点が指摘されている。
4 - 2 .確 定拠出年 金制度浸 透の背景
企業年金制度は 現在、給付 建ての制 度、つまり は「確定給 付」の年金 制度で
ある。これは前 項でも説明 したが、 将来に貰え る額を設定 し、そこに 向かって
どれだけの掛け金を集め、運用していくかが企業(運用主 )にかかっ てくる。
これは、運用が うまくいき 、目標金 額に達成し た場合は企 業がその超 過分を得
ることができる 。しかし、 運用がう まく行かな かった場合 、その目標 金額との
差額を企業が負わなくてはいけないのである。
日本経済はバブ ル崩壊以後 から低迷 を続け、企 業は目標す る運用利率 を達成
することが出来 ない状態が 長く続い た。これに よって、企 業は多額の 負債をそ
の穴埋めとして 抱えること になって しまった。 そこで着目 したのが、 掛け金建
ての制度、つまりの「確定拠出」の年金である。
積み立てた先か ら運用の補 填として 使われる可 能性がある 確定給付型 である
19
が、確定拠出は 運用によっ て出たも のは自己責 任である。 いくら損失 が出ても
企業は補填をす る必要がな いし、逆 にいくら利 益が出ても 企業側が得 る利益が
ないはないが、自社の経営から切り離して考える事ができ るのは大き い。
こうした背景か ら、企業型 年金(確 定拠出年金 )を採用す る企業は徐 々に増
えており、それ に応じる形 で企業型の 確定拠出年 金加入者も 増えている ことが、
下の厚生労働省が発表している二つのグラフでわかる。
(図 4‐1)
(図 4‐2)
( 参 考 : 図 4- 1, 2 共 に 厚 生 労 働 省 )
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
18000
20000
2009 2010 2011 2012 2013 2014
企業型年金実施事業者数の推移(社)
0.0
50.0
100.0
150.0
200.0
250.0
300.0
350.0
400.0
450.0
500.0
2009 2010 2011 2012 2013 2014
確定拠出年金 加入者数(万人)
20
4 - 3 .確 定拠出年 金の孕む メリット /デメリッ ト
ここで確定拠出年金のもつメリットとデメリットを見てい く
確定拠出年金に は、個人と 企業のそれ ぞれにメリ ットとデメ リットが生 じる。
メリットで共通して見られるのは、『雇用の流動化』に関す るものであ る。
雇用の流動化、 とは競争社 会の中で 企業が終身 雇用を維持 すること、 いわゆ
る“日本型経営 ”に黄信号 が灯り始 めてきたこ とにも由来 する、長期 雇用を前
提とした雇用か ら、能力主 義的なも のに切り替 え、転職が 用意になる ことであ
る。
雇用の流動化自 体のメリッ トは、能 力主義であ れば、労働 者が努力す れば努
力するほどその 報酬を受け 取ること が出来、労 働者の仕事 に対するモ チベーシ
ョンを上げるこ とによって 生産性が 向上すると ころにある 。また、適 切なとこ
ろに適切な人材を配置しやすくなる狙いも有るのだ。
さて、話は戻り確定拠出年金と雇用の流動化についての関 係である。
「給付建て」、確 定給付型の 場合は企 業が一定の 金額を目指 し保険料を 集めて
いた。つまり、 一企業を勤 めあげる こと前提で 企業年金が 制度付けら れていた
ので、転職や離 職に伴う今 までの積 立は何らか の制度でそ の権利が守 られなけ
ればならない。 しかし、そ の整備は 不十分であ り労働移行 への対応が 困難とい
うのは序盤で述べたとおりである。
一方、確定拠出 型の場合は 自身の確定 拠出年金と しての口座 に積立金を 入れ、
その積立金を元 に運用をす る。この 積立金は企 業型なら企 業が全額負 担、個人
型なら個人が負 担をする。 よって、 転離職にと もなう異動 があっ ても 、口座は
自分自身のもの であるため 、そのま ま新しい会 社でも積立 金を積み立 て始める
ことが出来るのだ。この点に流動化に対応しやすいという メリットが 有る。
企業側のメリッ トは、確定 給付型で 生じた問題 のいくつか に対し有効 である
ということであ る。年金費 用の見通 しが立てや すいという のは、企業 側は毎月
一定の保険料を 支払えばい いだけで あり、運用 の損失に対 する穴埋め をする必
要はないという 点で、必要 な金額が 前もって見 積もりやす く、会計の 健全化が
図れるということである。
21
個人の側からみ たメリット としては 、積立金の 残高把握が 用意とあげ られて
いる。これは、 確定拠出型 は個人の 確定拠出の 口座で管理 されるため 、現在の
積立内容が容易に把握できるということだ。
また、運用がう まくいけば 老後の年 金が増える というのは 、確定拠出 型の一
つの大きなメリ ットである 。確定拠 出年金は時 価評価が可 能な資産( 公社積・
株式・投 資信託等)で構 成された商 品を個人 が選び、投資し ていくもの である。
金融投資に関わ る損得は自 己責任で はあるが、 そもそもが 投資信託に 近い確定
拠出年金は、投 資のプロが 売買を行 うため大き な損は出づ らく、徐々 にではあ
るが増やすことが可能である。
他方、デメリッ トには「一 定の拠出 を行わなけ ればならな い」という 点が挙
げられている。 これは、確 定給付型 は金額が定 まっている ので、最終 的に必要
な金額さえ用意 でき、さら に運用が 好調な場合 、会社とし て拠出する 掛け金を
減らすことが可 能になる。 これは、 会社の経費 の減額が可 能になると いう点で
確定給付型のメ リットでは あるが、 反対に確定 拠出型にと っては、こ の経費を
減らすことが出来ないという点でデメリットである。
また、企業側に あげられる もう一つ の点「投資 教育の費用 がかかる」 は、投
資全体に広がる 大きな問題 の一つで ある。確定 拠出型は、 自 らが金融 商品を選
んで投資を行わ なければな らない。 もちろん、 投資のプロ が組み立て る商品で
あるので、元本 を割る確率 は、個人 が投資する よりかは低 いものの、 より大き
な金額を手にす るためには ある程度 リスクのあ る金融商品 を購入する 必要があ
る。こういった 、リスクヘ ッジを取 る勉強を現 代日本では すべての人 が行って
いるわけではな く、反対に 何も知ら ない人が多 いくらいで ある。企業 が確定拠
出年金を導入す る場合、そ ういった 投資教育を 施さねば狙 ったとおり の効果を
上げることが難 しく、確定 拠出年金 のうまみを 得ることは 出来ないと 推測され
る。
もちろん個人側 にもデメリ ットは存 在する。大 きいものと しては「老 後の年
金が少なくなる 可能性があ る」とい うことであ る。確定給 付型は給付 金額が確
定しており、運 用の成績に 関わる補 填は企業が 持つことに よって、老 後に貰え
る金額は一定で ある。しか し、確定 拠出年金は 自らが運用 するため、 その運用
次第によっては 元本を割る 可能性も 十分に考え られる。ま た、経済状 況に大き
22
く受給額が作用される面も存在するため、不安定な要素も 孕む。
「支給開始年齢 まで引き出 しができ ない」とい うは、不測 の事態が加 入者に
生じ、積立金を 引き出した いという ことがあっ ても、年金 の支給開始 年齢まで
引き出しが出来 ないという ことであ る。これは 、確定拠出 年金の租税 に関する
制度、つまりは 各種税金が 免除され ていること から、制度 の悪用を防 ぐために
と設けられた制限である。
4 - 4 .確 定拠出年 金の望ま しい位置 づけとは
確定拠出年金 が老後に対 してどの ようなもの であるべき か。それは 経済状況
に振り回されず 、自身の老 後に対し て財産を守 る手段であ るべきだと 位置づけ
るのがよいのではないか。
安定的な経済 成長という 面からみ ると、年率 数%のイン フレを維持 すること
が調度良いとさ れている。 しかし、 例えば消費 者物価上昇 率がインフ レと共に
上がっていった としても、 金利や賃 金の上昇率 が上がると は限らない 、という
状況が生じるこ とがあるこ とは想像 に難くない だろう。近 年で言うと 、俗にい
う「実感なき景気回復」である。
ここで経済が 年率数%程 度のイン フレを達成 し続けるこ とを条件に 、年金を
考えてみる。
100万円の 資産を保持 するとし て、これを まず預金と して保持し た場合を
考えると、下の 図のとおり になる。 つまり、年 率2%のイ ンフレが続 いても、
金利が上がらな い場合、実 際の貨幣 としての価 値は徐々に 失われてい くのであ
る。これは、公 的年金が賦 課方式で あることの 理由にも直 結する。今 の100
万円の価値が将 来の100 万円の価 値ではない 、もっとい うならば今 よりも実
質的価値は低くなる可能性のほうが高いと推測されるのだ 。
次に確定給付 型の年金を 受取ると 想定する。 確定給付型 は将来の物 価予想も
ふまえ給付額を 設定し、保 険料を徴 収する。こ こではイン フレに対し ては投資
がうまく行けば 順当に増や すことが 出来、会社 として大き な負債を抱 えること
のなく目標金額 まで達成で きると考 えられる。 インフレ状 況下では確 定給付型
は可も不可もなく、といった感じである。
23
図 4-3
(普通預金は 0.02%定期預金は 0.03%の場合)
確定拠出型の 企業年金は 、確定給 付型と同様 に100万 円を債権と いう時価
評価可能な商品 で保持する ため、今 の100万 円分の価値 のある債権 は将来の
インフレ率に対 応した額の 債権とな るのだ。こ の点ではイ ンフレに対 応してい
ると言える。さ らに、確定 給付型と 違う所は自 身で投資先 を決めるた め、投資
をしていけば確 定給付型以 上の年金 が将来もら うことがで きるという 点である。
当然、年金が 給付される 年以降も インフレは 続くという のが今回の 想定の中
に含まれている ことを考え れば、将 来のどこか の点で想定 したインフ レ率に基
づく給付が行わ れる確定給 付型より も、うまく いった分だ け自分に帰 ってきて
将来のさらに先 へのインフ レに対応 が可能とな る確定拠出 年金が、将 来の安定
的な経済成長を遂げる中でのふさわしい企業年金ではない か。
0
20
40
60
80
100
120
現在 5年後 10年後 15年後 20年後 25年後 30年後
2%のインフレが続くと100万円の資産
価値はどうなるか(万円)
5 章 望ましい年金のあり方
5 - 1 .年 金に何が 求められ ているか
そもそも、なぜ年金が必要であるのか。
望ましい年金のあり方、とはなにかを考える上で最も大 切な命題で ある。
経済学では、 年金が必要 な理由を 「生活保護 へのモラル ハザードを 防止する
ため」としてい る。これは 、本来や むを得ない 状況で収入 がない人を サポート
するはずのセー フティネッ トとして の機能を持 つはずの生 活保護が、 若い時に
無責任に貯蓄を せずに散財 してきた 人の老後の 生活資金に なるのを防 ぐためで
ある。国家が半 分強制のよ うな形で “保険料” を徴収する ことにより 、働いて
いる限りは企業 を通して国 が老後の ための『貯 金』をして くれるとい う考えで
ある。
このような理 由の元考え ると、年金 とは本来は 貯金の性質 を持つべき であり、
ここに私達が年金の積立方式を推す理由がある。
しかし、どう しても保険 料が払え ずに年金を 受け取る事 ができない 人も必ず
出てくる。こう した人達に 「積み立 ててないか ら年金ナシ 」というの も福祉国
家としてはあり えない話で はあるし 、またそう した人全て を生活保護 という形
でサポートする のにも、老 人と現役 世代では生 活に関わる 費用が違う 。同じよ
うな水準で給付を受けることが逆に年金受給者と差があっ てはいけな いのだ。
さらに日本の 公的年金制 度におい て、問題と なってきた のは少子高 齢化にお
ける賦課方式と いう制度の 限界であ る。これは 以前にも説 明し たが、 現在の年
金を取り囲む財 政状況はい わば自転 車操業状態 であり、将 来にわたっ て安心し
て過ごすことの できるもの ではない ということ 。少子高齢 化の進展に したがっ
て、今の若者が背負 う負担は今 後増えつ づけるとい うことであ る。現在は 3 人
で支えている高 齢者 1 人に対 する年金は、将来 1 人で 1 人 を支えなけ ればいけ
ないことが予想されているのだ。
また、社会保 障制度への 負担はま すます増加 していくが 、公的年金 を引き上
げる選択肢は上 記の通り考 えにくい 。つまり、 また年金に 加え今の日 本は若い
内からの自助努 力による資 産形成と それを助け る制 度の拡 充が必要で はないだ
25
ろうか。
つまり日本の年金は、
・財政的に負担の少ないものであること
・若者世代の将来に負担をかけないこと
・給付対象者にはそれぞれに適正な額が死ぬまで給付さ れること
であることが望ましいと推測される。
ここでまず、基礎年金の目的税化を経た、『基礎年金の一 律化』を提 言する
5 - 2 .基 礎年金の 目的税化
以前にも述べ たたが、現 在年金は 「国民年金」「厚生年金 」「共済年 金」の3
つ年金から構成 されている 。(図 5‐1)このう ち、基礎年 金とは「国 民年金」
のことであり、年金の 2 階建て構造の 1 階部分に相当する年金 である。
なぜ基礎年金 を目的税化 するのか 。それには 、年金を積 立方式にす るのを前
提とした上で理由がある。
現在の年金は 賦課方式で あるので 、保険料の ほとんどが 今を生きて いる年金
受給者の年金と なっている 。これは 自転車操業 であるので 、もし積立 方式に変
えてしまうと、 彼らに支払 っていた 年金の財源 がそのまま そっくり失 われるこ
とになるのだ。 つまり、年 金の方式 を積立方式 にするため には現在の 高齢者を
カバーする制度も合わせて制定しなければならないのであ る。
ここで基礎年 金の目的税 化である 。基礎年金 は図の通り 、全ての人 が加入し
ている年金であ り、ここに 加入して いる、つま りは基礎年 金の年金は 皆全てが
受け取る年金な ので、年金 制度が積 立方式に変 わったとし ても基礎年 金の財源
は確保される、現在の高齢者に年金が受給されるというこ とはないの だ。
この制度のメ リットは、 年金の受 給の資格が 誰にでも発 生するとい うことで
ある。財源は税 金であるが ゆえに、 誰もが確実 に税として “保険料” を収める
ことになり、こ の年金を受 取る資格 のある人は 日本国民の 誰にでも存 在すると
いうことになる 。低所得者 に関して は減税や免 税処置を設 け、また累 進課税の
26
ような税収のシ ステムを導 入するこ とにより、 誰にとって も同じよう な負担で
年金の保険料を収めることが可能であるのだ。
(図 5-1)日本の公的年金の仕組み
( 出 典 : http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/structure/structure03.html )
問題はこの目 的税はどの ように設 定するかで あるが、日 本国民全体 で老後を
負担するという コンセプト が受け入 れられるな ら、消費税 の増税分ま たはその
ものを当てても 良いはずで ある。そ もそも、賦 課方式にお ける将来の 負担が減
っているのだと 考えるなら ば、その 負担額以下 であれば増 税しても現 役世代の
負担は減らせていると考えることができる。
また、年金には 国庫負担金 が一定額 含まれてい るのだから 、相続税を あてて
も妥当だろう。 またカナダ の年金制 度には「ク ローバック 制度」とい う、高額
所得者の資産相 続に関し一 定割合の 資産を税金 として徴収 できるとい うもので
ある。一定の資 産を保有す る者に関 してはクロ ーバック制 度を適用し 、そうで
ない場合は相続税を財源としても良いだろう。
27
(図 5-2)クローバック制度
さらには、同じ 税金を財源 として運 用されてい る生活保護 との兼ね合 いも考
えなければならない。下図は生活保護と基礎年金の受給金 額の比較で ある。
(表 5-1)生活扶助金額の例(平成 26 年 4 月 1 日)
東京都区部等 地方郡部等
97480円
160160円
3人世帯(33歳、29歳、4歳) 165840円 134060円
高齢者単身世帯(68歳)
高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)
母子世帯(30歳、4歳、2歳)
81760円
122380円
192650円
65120円
※国民年金の受給金額は 64400 円/月
( 参 考 : 厚 生 労 働 省 「「生 活 保 護 制度 」 関 す る Q&A」)
黄色で色付けし た所では、「基礎年金 <生活保護 」となって いる箇所で ある。
つまりは、都市 部に住む単 身の高齢 者にとって 基礎年金を 受けるより 生活保
護を受給したほ うが、受取 金額が大 きいという 格差が存在 している。 また、こ
れに加えて、生 活保護は必 要に応じ て住宅扶助 や医療扶助 が存在し、 実際には
ここの額以上に受給することがある。
生活保護の制度 は国民年金 とは全く 違う理念の もとで行わ れているも のであ
り、単純な比較 は意味を成 さない、 という意見 がある。そ れも一理あ るのは確
納税
年金とし
て給付
給付者の
死亡
相続税の
一部を目
的税へ
28
かであるが、し かし金額的 な差がで ているのは 問題以外に ほかならな いのでは
ないだろうか。
より詳細に述べ るのならば 、生活保 護を受ける には様々な 条件に照ら し合わ
され認定が降り る。そのう ちの一つ に『補足性 の原理』と いうものが ある。こ
れは、生活保護法 第 4 条の「保護 は、生活に 困窮する者 が、その利用 し得る資
産、能力その他 あらゆるも のを、そ の最低限度 の生活の維 持のために 活用する
ことを要件とし て行なわれ る」と いう条文に もとづき、『稼働能 力』、『 資産の活
用』、『他法他施 策の活用』、『扶養義 務の履行』の 4 要素から チェックが 行われ、
“年金の給付額 ”というの は『他法 他施策の活 用』に分類 される項目 である。
であるので、厳 密には申請 すれば「 基礎年金< 生活保護」 の状態であ っても、
生活保護の受給 を受けるこ とが可能 ではある。 しかし、生 活保護を受 けながら
暮らす老後が果たして豊かであるかという点には疑問が残 る。
話は戻るが、基 礎年金の目 的税化を 経て、基礎 年金を受給 対象者に受 給でき
る様になった時 、高齢者に おける生 活保護は基 礎年金にと って変わる ことがで
きると推測でき る。なぜな ら、述べ たとおり税 収が財源な ので、基礎 年金を受
給する資格は誰 にでもある 。これな らば、保険 料の未納等 の問題で特 定の高齢
者を見捨てるこ とのなく、 一律的に 給付するこ とによって セーフティ ネットを
張ることが可能 であるのだ 。だから 「基礎年金 ≧生活保護 」の通りに 受給金額
を調整すること さえ出来れ ば、社会 保障として の機能もし っかりと果 たすこと
ができる。
つまり基礎年金 の目的税化 は、若者世 代が将来に かけて背負 うはずであ った、
賦課方式におけ る負担分を 税金とい う形で徴収 することに より、要素 2『若者
世代の将来に負 担をかけな いこと』 を達成する ことが出来 、また目的 税化とい
う税金を財源と することに より、生 活保護との 対比を経た 上であるが 、要素3
『給付対象者に はそれぞれ に適正な 額が死ぬま で給付され ること』が 満たされ
るのである。ま た財政的に も賦課方 式に近い方 式で、財源 を税収によ るため、
財政的にも過度な負担をかけないと想定できる。
29
5 - 3 .2 階 建て部分 の私的年 金化
近年の多様化 するライフ スタイル において、 おそらく一 元的に望ま しい年金
というのは存在 しない。と いうのも 、各々が想 定する老後 の生活は十 人十色で
あり千差万別で あるがため に、どん な想定をし ても必ずそ こからはみ 出てしま
う人が出てくる ためだ。お そらく、 この先も多 様化されて いく人々の 生き方に
出来るだけ添え るような年 金を作る ことが必要 とされてお り、それが 望ましい
年金の答えの一つではないだろうか。
ここで先ほど の基礎年金 の目的税化 と合わせ て提案する のが、年 金の 2 階建
て部分の私的年金化である。
私的年金とは すなわち、 各個人が 金融機関の 提供する金 融商品を通 じて、自
主的に年金とし て資産を積 み立てて いくことで ある。今ま で出てきた 年金の商
品に絡めて言う のならば、 確定拠出年 金の個人 型( DC)な どがそれに あたる。
感覚的には自 動車保険に 近いかも しれない。 基本的な保 険(基礎年 金)は強
制的に加入(支 払う)した 上で、自 身に必要な 保険(私的 年金)をか けるとい
うことである。
私的年金化す るメリット は先ほど 言ったとお りに、人々 の多様化す るライフ
プランに合わせ た柔軟な年 金を用意 できるとい うこと、ま た自己責任 の範囲で
年金の受給金額を増やすことができるからである。
例えば、現在の 2 階建て部分、 厚生年金と 共済年金を 運用してい るのは「年
金積立金管理 運用独立 行政法人(G PIF)」である。 ここは厚 生年金な どの保険
料を集めたもの を運用し、 その利回 りをもって 給付などを 行う機関で あるが、
もちろんここは 保険料を収 めている 会社員など が運用を指 示するわけ ではなく、
GPIF が 代 表 と し て 運用 す る こと に よ って 実 績 を上 げ て いる 。 つ まり 国 民 は
GPIF に保 険料を納め たが最後 、給付さ れるまで何 もせずに ただ運用 を見守る
のみなのである 。確か にここには 、自身 に株式投資 などの知識 がなくて も GPIF
が代表して資産 を運用して くれると いうメリッ トが存在す る。しかし 、これに
は逆に G PIF が 運用に失敗 し、損失 が出たとし ても自身に 責任がない 代わりに
年金の給付金額 が減ってし まうとい うデメリッ トも生じる のだ。実際 、リーマ
ン・ショックが 起こった 2008 年度は 約 9 兆 4000 億円の損 失を株価な どの債権
30
を通じて起こし ている。最 新の実績で ある 2013 年度は 約 10 兆 2000 億円の運
用益を生み出しているなど、常に安定した運用がされてい るとは言い にくい。
2014 年 10 月 31 日、GPIF は運用資産に占める 国内株式の 比率を 12%から
25%に引き上げるこ とを柱とし た新たな運 用の目安 を発表した 。これは 、国債
を中心とした安 全志向の運 用を改め 、株式を中 心とした積 極的な運用 をすると
いうことである。
つまりこれは、 今まで以上 にハイリス ク・ハイ リターンの 投資を G PI F はす
るようになった ということ で、その 運用責任は 将来もらう 年金という 形で背負
うしか出来ない 。もし運用 に失敗す る、または リーマン・ ショックの ような大
きく株価が下が るような出 来事が起こ った場合 には 2008 年度以上の損失を出
し、最悪年金の受給額減少ということにもつながりかねな い。
私的年金は、 運用の結果 は自己責 任ではある が、自身の 裁量で年金 の運用を
行うことがで きる。G PIF より ハイリス ク・ハイリ ターンな 投資を取 ることも
可能であれば、 逆にローリ スクロー リターンの 安全志向の 投資をする こともで
きるのだ。この ような年金 制度はす でにドイツ ではリース ター制度と して取り
入れられており、一定の成果を上げている。
制度的には、G PI F は解散せ ずに 2 階建て部 分の公的な 年金商品と して厚生
年金や共済年金 を取り扱う こととし、それに加え て私的年金 を扱う感じ である。
これによって 、今まで通 りの G PI F の運用で いいという 人は公的な 年金商品
として G PIF か ら提供され る金融商 品を購入し 運用して、 自身の計画 に合わせ
た年金を考える 人は金融機 関から提 供される年 金の金融商 品を購入し て運用す
るということに なる。民間 から出る 年金商品に 不安が残る 可能性もあ るが、公
的な年金商品と 私的な年金 商品が同 じ市場に投 入されるこ とにより、 より確実
で信頼性のある 金融商品が 市場競争 に勝ち残り 発展してい くことにな る。制度
導入後しばらく は不安が残 るかもし れないが、 制度の成熟 とともに公 私関わら
ず信頼性の高い 年金商品の うちから 、自らにあ った年金商 品を選ぶこ とができ
ると推測できる。
31
(図 5-3)これからの私的年金と公的年金の枠組み
5 - 4 .私 的年金の 拡充
前項で2階建 て部分の私 的年金化 を掲げたが 、そのため に必要なの が私的年
金の拡充である 。現在私的 年金は生 命保険会社 からいくつ かの商品が 発売され
ているが、内容 的に は GPI F がやっ ている投資 と同じく、 保険料を振 り込んで
運用されるのを待つのみである。
また、特に拡 充が要求さ れるのは 、自身で運 用が可能な 確定拠出年 金の個人
型である。なぜ なら、確定 拠出型と いうのは運 用状況を見 ながら自分 で投資先
を考え、その時 々の時流に 応じて自 身の年金を 運用してい くという点 でまった
く今までの個人年金にはない考えをもった年金だからであ る。
しかし、図 5-4 によると個 人型の加入 者はわず か 2014 年 3 月末 で 18 万人
をわずかに上回 る程度で、 普及して いるとは言 い難い。確 定拠出年金 について
の説明は前章で 行ったが、 これには 、企業型に はなかった 制約が発生 している
ためである。
基礎年金
私的年金 GPIF
32
(図 5-4)
(参考:厚生労働省)
(表 5-2)
確定拠出年金の抱える課題
(参考:野村資本研究所)
個人型の確定拠 出年金は、 制度上の 対象者が制 限されてい るために、 利用し
たくても利用で きない人が 発生して いる。前章 の終わりで も述べたが 、確定拠
出年金はその財 産をインフ レから守 るためにも 利用できる と述べた。 そのため
には、個人型の 確定拠出年 金の加入 制約は撤廃 するべきで あり、特に 企業型の
確定拠出年金を利用できない人は誰でも利用できるように するべきで ある。
0
2
4
6
8
10
12
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16
18
20
2009 2010 2011 2012 2013 2014
個人型確定拠出年金加入者数(万人)
項目 制約
加入対象者
の制限
確定給付年金あり、または企業型確定拠出年金なしの従業 員
公務員
第 3 号被保険者(主婦等)
60 歳以上の人々(一部を除く)
中途引出 60 歳未満での中途引出は極めて厳格な規定
拠出 拠出限度額が低い
33
日本は先進国の 中でも資産 構成にお ける現金比 率が非常に 高い国であ る。特
に若者ではなく 、老人世代 が多く現 金を保持し ている現代 は要望があ るのなら
ば60歳以降で も積み立て を行い、 運用できる のならば運 用していく べきなの
だ。確定拠出年 金の利用者 の増大は そのまま、 市場に流れ る資金の増 加とも捉
えられる。つま り、証券市 場の活性 化も狙うこ とが出来、 活性化した 市場では
投資した年金もその価値を増大させる可能性を十分にはら んでいるの だ。
無論、その他 の私的年 金の拡充も 忘れては ならない 。GPIF とは違っ た金融
商品構成による 、様々なリ スクヘッ ジをとった 金融商品の 展開やまた 投資によ
って発生する様 々な税の免 除などの 優遇措置を 私的年金に 設けるなど 、銀行に
預けるだけの資 金を年金商 品を通じ て、よりよ く増やし て もらうこと も大切で
ある。
今までどおり に GPIF に 保険料を収 め、運用 していくや り方。GPI F とは違
った比率の金融 商品構成に よる私的 年金を購入 するやり方 。個人型確 定拠出年
金や企業型確定 拠出年金で 、自身の 資産を自力 で投資し運 用益を得て いくやり
方。この提案に は、様々な ライフプ ランに添え るような商 品展開を 日 本の金融
業界が全体としてどれだけだしていけるかが肝なのである 。
34
終 章 望 ま しい年金のあり方
我々にとって 望ましい年 金とはど のようなも のであるか 、に対し「 年金はそ
れぞれの描くラ イフプラン に柔軟に 対応すべき もの」、「若 者世代が過 度な負担
を負わないよう なもの」と いう2つの 観点から年 金のあり 方を考察し、『基礎年
金の目的税化』、『2階 建て部分の 私的年金化 』『私的 年金の拡充 』の三 点を合わ
せて提案した。
日本における 年金は、年 を追うご とに不安感 不信感が募 るばかりで あるが、
世界の年金事情 と比べれば 依然とし て我々が主 体的に年金 に関して動 いていな
いことがわかる 。もちろん 世界各国 いずれの国 も、年金と いう問題に 対する 明
確な解は持たず、各 々がそれぞ れの道を 模索してい る最中であ る。我々が 4 章
でまとめた提言 は、世界の 先行する 年金の知恵 を随所に借 りながらも 、日本に
おける年金は日 本の資産の 現金保有 率を利用し た確定拠出 型を中心と した私的
年金でも補おう というもの で、運用 次第で一人 一人の描く ライフプラ ンに合っ
た年金になると も述べた。 こうした 今までの政 府頼みの年 金を我々が 自主的に
ある程度管理す ることによ って、年 金の制度そ のものの健 全性が保た れ、そし
て何よりもそれぞれの生き方に寄り添える年金になる将来 が望まれる 。
35
〈参考文献〉
(すべて最終閲覧日は 11/3)
アメリカの年金制度の概要
(http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=954 )
世界で見る年金
(http://ecodb.net/article/-/13.html)
国際比較の視点から見た皆保険・皆年金
(http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19613906.pdf )
日米年金制度の比較
(http://www.la.us.emb-japan.go.jp/pdf/200508_03.pdf)
世界の年金情報
(http://www.nensoken.or.jp/pension/)
年金制度の国際比較
( http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku -hik
aku.pdf)
「第 6 回高齢者 の生活と意 識に関する 国際比較 調査結果」 につ い て ( 要 約 )
(http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_kiso/19html/youyaku.html)
スウェーデン少子高齢化の問題
(http://www.dignitycharm.co.jp/senior_report/090423.html )
社会実情データ図鑑
(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html)
年金積み立て方式化 二重負担、実現に疑問符
(http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=67608 )
新たな基礎年金制度の構築に向けて
(http://www.esri.go.jp/jp/archive/sei/sei013/sei013.html )
年金制度の変化
(http://www.fsa.go.jp/fukukyouzai/kiso/04_01.html)
一緒に検証年金制度
(http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/ )
36
「2014 年度版 明解 年金の知識」小野隆璽 著 経済法令研究会、2014 年
「 年 金の基礎知識」服部栄造 自 由国民社 2014 年
「 図 解 わ か る 年金 2014‐ 2015 年 版」新星出版社 2014 年
確 定 拠出年金制度|厚生労働省
( http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyosh
utsu/index.html)

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第7テーマ我々にとって望ましい年金のあり方について 

  • 2. 1 〈 目 次〉 1章 日本の公的年金における問題点・・・・・・・・・・・・・・・・P.2 1- 1. 公 的年金の問題点とは一体何なのか 1- 2. 賦 課方式・積立方式について 1- 3. 社 会保険方式と税方式5 1- 4. 日 本の公的年金の過去と現在 1- 5. ま とめ 2章 諸外国と我が国の年金制度と状況・・・・・・・・・・・・・・・P.8 2‐ 1. 諸 外国と我が国との年金の状況の比較 2- 2. ア メリカと日本の年金制度の比較10 2- 3. ス ウェーデンの年金制度とその特徴 3章 これからの公的年金の在り方について・・・・・・・・・・・・・P.13 3- 1. 年 金制度における2つの方式 3- 2. 積 立方式のメリットとデメリット 3- 3. こ れからの公的年金のあるべき姿15 4章 確定拠出年金の是非・望ましい位置づけ・・・・・・・・・・・・P.17 4- 1. 確 定拠出年金とは 4- 2. 確 定拠出年金制度浸透の背景 4- 3. 確 定拠出年金の孕むメリット/デメリット 4- 4. 確 定拠出年金の望ましい位置づけとは20 5章 望ましい年金のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.23 5- 1. 年 金に何が求められているか 5- 2. 基 礎年金の目的税化 5- 3. 2 階建て部分の私的年金化 5- 4. 私 的年金の拡充25 終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P.33 参 考 文献
  • 3. 2 1章 日本の公的年金における問題点 1 - 1 .公的年 金の問題 点とは 一体何な のか 5 国会議員の年金 未納問題や 杜撰な年金 記録管理 によって生 じた「消えた 年金」 など、年金にまつ わる様々な 不祥事が 露呈し社会 保険庁が解 体されたの は 2009 年末のことだっ た。この時 日本の年 金制度はど うなってし まうのか、 より直接 的な言い方をす れば自分自 身が年金 受給資格を 得る頃に年 金がちゃん ともらえ るのだろうかと 案じた方が いたので はないだろ うか。この 社会保険庁 解体、そ10 して日本年金機 構設立を機 に様々な マスメディ アで年金に ついて色々 と論じら れるようになっ た。その結 果ただ漠 然と年金を 納めていた 人々が年金 について 関心を持つよう になり、そ の結果年 金制度の在 り方や将来 の年金生活 に対して 懐疑や不信感を 抱き年金を 払いたく ないと思っ た人々も 少 なからず存 在するだ ろう。ではこの 国の公的年 金制度に どのような 問題が存在 し、現在の ような 年15 金に対する不信 感を人々に 抱かせる 結果を招い てしまった のか。今一 度検討し てみる必要がある。 1 - 2 .賦 課方式と 積立方式 20 当初日本の公的 年金制度は 積立方式 で発足した ものの、高 度経済成長 期のイ ンフレーション によって円 の価値が 下落しその 結果積立金 の減価が生 じたり、 政治家主導の政 策的な保険 料負担の 抑制などの 介入が行わ れたりした ことによ って従来の積立 制度が崩壊 し、現在 では賦課方 式を基本と しつつ将来 の保険料 負担を緩和する ために一定 の積立金 を保有する 仕組みへと 変化した。 では現在25 日本の公的年金 制度に導入 されてい る賦課方式 とは一体ど のようなも のか説明 したいと思う。 賦課方式とは年 金の財源、 いわゆる 年金給付に 必要な費用 を現役加入 者の保 険料で賄うこと で年金制度 を運用し ていくこと である。賦 課方式のメ リットと して、後世代の 保険料の値 上げによ る年金受給 額の価値維 持が容易で あること30
  • 4. 3 が挙げられる。 一方で、保 険料の負 担基準が年 金受給者と 加入者の比 率によっ て決定されるた め少子高齢 化社会で は後世代の 保険料負担 が上昇して し まい年 金受給額における世代間格差が生じてしまうというデメリ ットも挙げ られる。 現在年金問題と して主にニ ュース番 組等で取り 沙汰されて いるのはこ の年金給 付額と保険料負担額の世代間格差の問題である。5 (図 1-1) (出 典 :http://economist.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-230f.html) 10 また賦課方式に 対して将来 の給付の ための原資 を事前に積 み立ててお く積立 方式というもの も存在する 。積立方 式では保険 料負担は一 定であり少 子高齢化 の影響を殆ど受 けることが なく、更 に積立金の 運用収入に よってその 分保険料 負担が軽減され るという利 点がある 。しかし上 記のような 想定を超え たインフ レーションや賃 金上昇が発 生した場 合積み立て てきた年金 の価値が相 対的に下15 落してしまうため年金給付額の価値維持が困難であるとい う面がある 。 ちなみにドイツ 、アメリカ 、フラン スをはじめ とする先進 諸国におけ る一般 的な年金制度は賦課方式である。 20
  • 5. 4 1 - 3 .社 会保険方 式と税方 式 また日本は公的 年金の財源 確保の手 段として社 会保険方式 を導入して いる。5 社会保険方式と は具体的に 述べると 、一定期間 の保険料拠 出を条件に 収められ た保険料を主要 財源として 、条件を 満たした受 給資格者に 年金給付を 行う方式 である。社会保 険方式では 保険料拠 出と年金給 付額がリン クするため 加入者の 保険料拠出につ いての合意 を得るこ とがさほど 難しくなく 、年金にお ける給付 と負担の均衡を 図ることが 容易にな る一方で、 未加入・未 納などによ る年金を10 受給する資格が ない者や低 額の年金 しか受給し えない者、 いわゆる無 年金者や 低年金者が発生しがちであるという問題がある。 社会保険方式に 対し、個々 人の保険 料拠出を条 件とはしな いで租税を 財源と して年金給付を 行う税方式 という方 式も存在す る。 税方式 では保険料 拠出を年 金受給の条件と しないため 一律平等 な年金給付 がかのうと なるものの 、時の政15 府によって年金 受給に関し て所得制 限が設けら れたり、ま た巨額な租 税財源を 必要としたりす るため、政 治経済情 勢による影 響を受けや すく制度と しての安 定性に欠けると いう問題が ある。ま た年金受給 に関して条 件を設定し ないとい うことから加入 者自身に「 自分が年 金を収めて いる」とい う自覚を与 えない、 つまり加入者の年金に対する意識の低下を招いてしまう恐 れがある。20 日本では基本 として社会 保険制度 が公的年金 制度に導入 されている が、税 方式による恩給 や老齢福祉 年金など も一種の例 外として経 過的に存在 している。 また他の先進国 では社会保 険制度が 年金制度と して支配的 であるもの の、オー ストラリアやニ ュージーラ ンドの年 金のだけで なく、デン マークやカ ナダの基 礎年金においても税方式を採用している。25 30
  • 6. 5 (図 1- 2)保険方式と税方式の対比 (出 典 ; http://www.asahi.com/edu/nie/kiji/kiji/TKY200803090078.html )5 1 - 4 .日 本の公的 年金の過 去と現在 上で現在の日本 が公的年金 制度にお いて導入し ている 賦課 方式と社会 保険制 方式、そしてそ れらと対の 存在とし ての積立方 式と税方式 についての 概要を端10 的に述べてきた。では賦課方式と社会保険方式のどこに問 題があるの か。 まず賦課方式に ついてだが 、この制 度は先にも 述べたよう に日本が高 度経済 成長期の最中に 導入された ものであ り、日本の 人口が増加 し続け、な おかつ経 済成長がそれ以 降も継続さ れること が前提とし て必要であ った。しか し第四次 中東戦 争時の O APEC( アラ ブ石油 輸出国 機構)が 行っ た石油 戦略を 起因 とする15
  • 7. 6 第一次オイルシ ョックによ って日本 の高度経済 成長は終わ りを迎え、 日本は安 定成長期に突入 する。その 安定成長期も 1990 年代初頭の バブルの崩 壊によっ て幕を閉じる。 それ以降日 本は「失わ れた 20 年」と呼ば れる不況の 時代に突 入したわけだが 、日本にお ける出生率は 1971 年~1974 年にかけて起 こった第 二次ベビーブー ム以降漸次 的低下を続 け、現在 の出生率が 2.0 倍を割 るまでの5 状況に至った。 (図 1-3)出生数・出生率(人口千対)の年次推移 (出 典 ; http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo1.html )10 更に少子化と同 時に急激な 高齢化が 日本社会を 襲うことで 、従来の賦 課方式 による年金制度の維持がこれからより困難になっていくだ ろう。 15 20
  • 8. 7 (図 1-4)人口ピラミッドの変化 (出 典 ; http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014/sy014f_a.htm ) 賦課方式による 年金受給と 保険料負 担をよく老 人を背負う 現役世代の 図で表 されたりするが 、その例え を用いる とするなら ば老人一人 を背負う現 役世代の5 数が減り続け最 終的には現 役世代一 人で老人一 人を背負う 、つまり現 役世代が 受給者一人分の 保険料を負 担しなけ ればならな い時代も荒 唐無稽な話 ではなく なってきている のである。 このよう な事態は世 代間におけ る年金受給 額の格差 によって、後世 代の年金制 度そのも のに対する 不信感を増 大させるこ とにつな がり、最終的に は保険料の 不払いの 割合が増加 してしまう ことになっ てしまう10 のである。 また社会保険方 式がこの一 連の保険 料不払いの 流れに拍車 をかけてい るとも いえる。年金制 度における 自助努力 という観点 から加入者 の合意を得 やすい社 会保険方式が日 本の公的年 金に導入 されてきた わけだが、 現在むしろ 年金制度 に対する不信感 の増大によ って「40 年もの間保 険料を払い 続けてわず かな受給15 額をもらうくら いなら最初 から保険 料を払わな ければいい のでは」と いう考え を現役世代に与 えかねない 。またこ のような考 えを持つ人 々が増えて いけば、 日本の年金制度 を根底から 揺るがし かねない状 況になって しまう恐れ が十分に ある。 20
  • 9. 8 1 - 5 .ま とめ 国民皆年金が昭 和 30 年代 に実現し てから半世 紀が経過し た現在、年 金制度 は確かに成熟し たが、日本 の社会構 造や経済状 況、更には 日本を取り 巻く国際 情勢も大きく変 化した。そ の大きな 変化に日本 の公的年金 制度も変化 していか5 なければならな いというこ と、つま り現在の公 的年金制度 が硬直化し た時代遅 れのものであることが一番の問題だと思われる。
  • 10. 2 章 諸外国と我が国の年金制度と状況 2 - 1 .諸 外国と我 が国との 年金の状 況の比較 我が国の年金 は国民年金 という一 階部分と、 厚生年金ま たは共済年 金などの 二階部分に分か れている( 図 2-1)。そして、す べての年金 が社会保険 制度の賦 課方式で賄われ ており、基 礎年金の 二分の一を 税金で賄っ ているとい うのが現 在の状況だ。先ほ ど 1 章では問題 点として、少 子高齢化社 会でありこ れから大 きな経済成長が 見込めない 我が国で は賦課方式 で年金を続 けていくと 、世代間 格差が増大し、 結果として 年金が崩 壊すると述 べた。世代 間扶養とい う考え方 では、高齢者が 増えてゆく 世の中に おいて年金 は揺らい で ゆく。では これから 我が国の年金のあり方はどうあるべきであるのか。 (図 2-1)日本の年金制度 ( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/Japan2012.pdf ) ここで諸外国を 参考にして 我が国の 年金のこれ からを模索 するため、 他国と 我が国の年金の 状況などを 比較して みる。まず 、日本では 20歳以上 の国民は 年金に加入する 義務がある が、他国 においては 自営業者と 無業者は所 得や条件 によって任意と なるケース がある。 例として、 アメリカや 英国では被 用者及び 自営業者のみ義 務があり、 ドイツで は被用者及 び一部の職 に従事する 自営業者 に 義 務 が あ る 。 ま た 、 MISSOC ( Mutual Informa tion System on Social
  • 11. 10 Protection)による情 報によると 2004 年 に EU の加盟国が 旧東欧諸国 にまで拡 大される前から の EU 加盟 15 か国 お よび EFTA 加盟国( 4か国)で は、全移 住者に加入義務 を課す老齢 給付制度 が存在する 国はスイス ,デンマー ク,アイ スランド,リヒテン シュタイン およびス ウェーデン の 5 か国であ る。世界的に 見て、皆年金を 実施してい る国家は あまり多く はない。し かし、日本 が皆年金 であるというこ とは国民全 員が「最 低限の健康 で文化的な 生活」を営 むために 必要不可欠であるともいえる。 また日本でも話 題になって いるが、 諸外国にお いても平均 寿命の延び や少子 高齢化の影響 による年 金受給開始 年齢の引 き上げが 問題になっ ている。 図 2-2 は、アメリカ・ フランス・ ドイツ・ イギリス・ 日本の平均 寿命の延び を示した ものである。こ れを参照す ると各国 とも4~5 歳程度20 年前より平 均寿命が 延びていること がわかる。 平均寿命 が延びると いうことは すなわち年 金の支給 期間が増えるこ とにもつな がるため 、年金受給 開始年齢の 引き上げを 検討せざ るをえないのだ 。例をあげ れば、フラ ンスでは 2011 年よ り、受給開 始年齢を 60 歳から 62 歳ま で段階的に 引き上げて おり、ドイ ツも 2012~2029 年で 65 歳から 67 歳までの 引き上げを 開始してい る。日本でも男 性は 2025 年、女性は 2030 年までに受給開始年 齢を 65 歳に引 き上げるこ とがすでに 決 ま っ て い る 。 (図 2-2) ( http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html を 参 考 に し て 作成 ) 70 72 74 76 78 80 82 84 日本 アメリカ フランス イギリス ドイツ 1990年と2010年の平均寿命の違い 1990年 2010年
  • 12. 11 2 - 2 .ア メリカと 日本の年 金制度の 比較 2-1 では諸外国の状 況と日本 の状況を簡 単に比較し てみた 。ここでは さらに アメリカの年金制度を詳しく確認し、日本と比較して論じ る。 アメリカは日本とは違い一階立ての年金である(図 2‐3 参照 )。 (図 2-3)アメリカの年金制度 ( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/USA2012.pdf ) 先ほど述べたと おり、日本 は二階建 てであり、 無職のもの も年金に強 制加入 させる。しかし 、アメリカ では働い ているもの のみ年金に 加入するこ とができ るため、「働く 者のための 保険」とい う傾向を強 く感じる。また、アメ リカでは 社会保障年金の みでは退職 前の平均 賃金の4割 程度で、保 険料自体が 収入に比 例し、需給料も 支払った金 額に比例 する。だか ら、年金の みに頼らず 退職金と 企業年金、私的貯金によってまかなうのがふつうである。 『第 6 回高齢者の 生活と意識 に関する国 際比較調 査結果』の『老後の 生活費 に対する備え(複数回答可)』の回答結果(図 2‐4)を見てみる と、多い 順に 日本は預貯金、特になし、個人年金への加入となっている のに対して 、アメリ カでは預貯金、個人 年金への加 入、債券・株式の 保有と投資 信託となっ ている。 これはアメリカでは個々人でできる範囲の老後への対策を 考えている 人が多い と言っていいだろう。それに対し、日本では貯金が多いと はいえ、特 に何もし ていないと答えた人もかなりの数いたため、公的年金に頼 っている人 が多いの ではないかと推測される。
  • 13. 12 (図 2-4) ( http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_kiso/19html/youyaku.html を 参 考 に し て 作成 ) 2 - 3 .ス ウェーデ ンの年金 制度とそ の特徴 今度は、特徴 的であるス ウェーデ ンの年金に ついて見て いきたい。 スウェー デンは 1999 年に年金の改正を行い 、それまで 日本と同じ ように二階 立てだっ た年金が所得比 例年金を中 心として保 障年金を 足す新しい 形に変わっ た(図 2 -5 参照)。 一定以上所得が ある被用者 と自営業 者を強制加 入の対象に した部分は アメリカ 等と同じような 政策である が、どこ が特徴的か というのは 図を見てわ かる通り 所得比例は保険 料で賄い、 保障年金 は税で賄う 方法である という点だ 。所得比 例年金とは言葉 の通り所得 に応じた 年金である が、保障年 金とは物価 を基準と した貧困者への救済策として税から出される年金のことだ 。 また、スウェ ーデンは短 い期間に試 行錯誤を 繰り返して いる。ITP とよばれ る厚生年金の従 来の積立金 額は賃金の 2~5% と決められ ていたが、2007 年に は改正されて 1979 年以降に生まれ た国民は個 人が積立金 額や方法を 選択する 0 10 20 30 40 50 60 70 日本 アメリカ 老後の生活に関する備え 預貯金 個人年金への加入 債券・株式の保有、投資信託 不動産取得(賃貸収入を得る ための不動産の取得等) 貴金属の保有(金、宝石等) 老後も働いて収入が得られる ように職業能力を高める その他
  • 14. 13 ようになった。 それによっ て自分の 資金を自分 が運用する という責任 感を持つ ことにつながっ てもおり、 個々人で 老後の資金 作りが容易 になったと 言っても 過言ではないだ ろう。しか し、スウ ェーデンの 制度は貧富 の差を拡大 させるな どのデメリット もあるうえ 、新しい 年金制度へ の理解をし ていない人 も多々見 受けられることが問題視されている。 (図 2-5)スウェーデンの年金政策 ( 出 典 : http://www.nensoken.or.jp/pension/pdf/Sweden2012.pdf )
  • 15. 14 3章 これからの公的年金の在り方について 3 - 1 .年 金制度に おける2 つの方式 2 章の外国の状 況を見ても わかるよ うに我が国 も年金制度 自体の改革 をする べきであろう。 図 3‐1 で 示したよ うにこれか らの日本で は年金受給 開始年齢 の引き上げをし ただけでは 到底対応 できない超 少子高齢化 社会という 現実に突 入してゆく。そ の中で中、 いままで の政策の限 界を見極め てこれから の社会に 対応できる力を持った政策が求められているのである。 (図 3-1)日本の人口推移 ( 出 典 : http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112120.html ) ここで、我が国 の年金制度 を厳密に 定義してみ る。政府の 経済社会総 合研究 所の論文 では『 一方で 、高齢 に至る 前の若 中年期( 勤労期) の各個 人から 高齢者 への老齢年金給 付のための 財源とし て資金を強 制的に徴収 する。他方 で、高齢 になった個人、 すなわち、 高齢者に 対して老齢 年金を支給 する制度で ある』と
  • 16. 15 述べられている 。そして、 従前所得 と連動させ それを満た す 財政方式 は大きく 分けて二つ存在 している。 一つは現 在の我が国 で採用され ている賦課 方式、そ してもう一つは積立方式である。 ここで賦課方 式と積立方 式を簡単 に説明する 。賦課方式 とは「世代 間扶養」 という考えを基 にした方式 で、年金 支給に必要 な財源を現 役世代の保 険料から 徴収してゆく方 式だ。いわ ば「自転 車操業」と も見て取れ るだろう。 積立方式 は自分の保険料 は自分で支 払うとい う方法で、 自分自身の 保険料を積 立てたも のを国が資産運 用をし、そ れがその まま受給者 となった時 の年金給付 の財源と なるのだ。これは いわば「貯 金」制度と似 ている。で は、これから この 2 つの 方式を軸にこれからの公的年金の在り方を考えていく。 (図 3-2) 賦課方式と積立方式の仕組み ( 出 典 : http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/04/04 -17-4.html) 3 - 2 .積 立方式の メリット とデメリ ット まず、先ほど述べ た 2 つの方式 について 詳しく見て いく。賦課方式 において は 1 章で詳しく論 じたので 、ここで は積立方式 のメリット とデメリッ トをあげ るとともに、賦課方式との対比表(表 3‐1)を提示する。 積立方式のメ リットは、 少子高齢 化の悪影響 を受けず世 代間格差を 防ぐこと につながること にある。こ れは今の 日本にとっ ては最大の メリットで ある。ま た、自分のため に積み立て た資金を 政府が運用 することで 収益をあげ ることが できる。積立方 式は市場収 益率さえ 予測できれ ば拠出額が どのくらい の年金額 をもたらすかを 容易に知る ことがで きるため、 安定して運 用すること も可能だ
  • 17. 16 ろう。 しかし、積立方 式にもデメ リットは 多く存在す る。たとえ ば、予想を 超えた 大きなインフレ や生活水準 の急上昇 が起こった 時の対応や 、運用結果 に年金額 が左右され、老 後の暮らし が不安定 になったと きの対応な どだ。現在 、我が国 では過去の保険 料収入のう ち年金給 付につかわ れなかった ものを年金 積立金と して運用してい るが 、2008 年度には 7.57%の赤字を出 している など、まだ運用 状況においては あまり芳し いとは言 いようがな い。そのた め積立方式 に移行す ること自体にも 大きな不安 がある。 また、積立 方式では個 人で貯金す ることと 大きな違いがな くなってし まい、国 民全体がさ らに年金か ら離れてし まうとい うことも憂慮さ れる。そして、もし 積立方式 に移行する としても「二重 の負担」 問題というもの が発生する 。これか ら積立方式 に移行して 、現役世代 が自分自 身の老後のため の積み立て を始めて も、すでに 年金を受給 している高 齢者には 引き続き年金を 支給し続け る必要が あるため、 現役世代は その分の保 険料も二 重に払い続ける ことになる という問 題だ。厚生 労働省は公 的年金を積 立方式に 転換する際、新 たに必要と なる財源 は550兆 円だと試算 している。 これらの 点から見ても積 立方式で年 金を運用 することに は慎重にな らなければ いけない といえるだろう。 (表 3-1) 積立方式と賦課方式の比較 メリット デメリット ・少子高齢化社会に対応できる ・大きなインフレや生活水準の上昇が ・運用することで利益が上乗せされる  起こった時に目減りしてしまう ・賦課方式から切り替える場合  『二重の負担』が問題になる ・運用には不安定性が伴う ・大きなインフレにも対応できる ・少子高齢化社会においては適さず、 ・物価を基にした金額を享受できる  世代間格差が起こる 積立方式 賦課方式
  • 18. 17 3 - 3 .こ れからの 公的年金 のあるべ き姿 3‐1 と 3‐2 で は年金にお ける二大 財政制度を 紹介し、そ れらにおけ るメリ ットとデメリッ トを示した 。では、 これからの 公的年金に はどのよう な制度が 適切なのであろ う。以前述べた とおり、賦課 方式は少子 高齢化社会 において「世 代間扶養」とい う特色が悪 く作用し てしまい、 今の世の中 に適してい ないとい う点で問題にな っている。 つまり、 今までどお りの賦課方 式では立ち 行かなく なる可能性があ るため、現 状の公的 年金制度は 適切でない と言えるだ ろう。し かし、積立方式 を公的年金 制度に採 用するとす れば先ほど 言ったイン フレや生 活環境の向上に 対応できな いというデ メリット や、運用によ る将来の不 安定性、 「二重の負担」問題による金融面での問題が重くのしかか ってくるで あろう。 ではもし、賦課 方式と積立 方式、2 つの政策の メリットを 取り入れた 政策が あるとするなら ばどうだろ うか。我 々は基礎年 金を一律税 化した上で 賦課方式 を修正して、賦 課方式のデ メリット をおさえれ ばよいので はないかと 考える。 基礎年金を一律 税化するこ とは、賦 課方式の「 大きなイン フレに対応 できる」 というメリット をとること もでき、 世代すべて に負担を小 分けにする ことで少 子高齢化社会に も対応して いる確か に方式自体 は賦課方式 だ が、この 方法にお いては国民全体 が高齢者を 支えると いう形にな るため、若 年層への負 担もすく なく、世代間格 差も大きく はならな い。また、 一律税化さ せる部分は 基礎年金 だけでよい。基 礎年金を一 律税化す ることはす べての国民 を強制的に 国民年金 の保護下に置く ということ でもある ため、生活 保護受給者 との差異も なくすこ とができるとい うメリット もある。 世代間格差 にも対応し 、尚且つイ ンフレに も対応した政策 。これがこ れからの公 的年金の在 り方なので はないのだ ろうか。
  • 19. 4 章 確定拠出年金の是非・望ましい位置づけ 4 - 1 .確 定拠出年 金とは 2001 年に制定された、確定拠出年金法に基づいた年金制度の一つで ある。 確定拠出年金と は、前もっ て決めら れた保険料 率のもと、 毎月積立を 行い、そ れを元に投資を 行うことに よって得 た利益を、 将来の年金 の受給金額 とするも のである。 アメリカ内国歳 入法第 401 条 k 項に基づ く年金を手 本としたも のとされ 、日本 版 401k とも呼ばれる。 厚生年金基金や 適格退職年 金等の企 業年金制度 等は、給付 額が約束さ れるとい う特徴があるが、 ・現行の企業年金制度は中小零細企業や自営業者に十分普 及していな い ・離転職時の年 金資産の持 ち運びが 十分確保さ れておらず 、労働移動 への対応 が困難 という点が指摘されている。 4 - 2 .確 定拠出年 金制度浸 透の背景 企業年金制度は 現在、給付 建ての制 度、つまり は「確定給 付」の年金 制度で ある。これは前 項でも説明 したが、 将来に貰え る額を設定 し、そこに 向かって どれだけの掛け金を集め、運用していくかが企業(運用主 )にかかっ てくる。 これは、運用が うまくいき 、目標金 額に達成し た場合は企 業がその超 過分を得 ることができる 。しかし、 運用がう まく行かな かった場合 、その目標 金額との 差額を企業が負わなくてはいけないのである。 日本経済はバブ ル崩壊以後 から低迷 を続け、企 業は目標す る運用利率 を達成 することが出来 ない状態が 長く続い た。これに よって、企 業は多額の 負債をそ の穴埋めとして 抱えること になって しまった。 そこで着目 したのが、 掛け金建 ての制度、つまりの「確定拠出」の年金である。 積み立てた先か ら運用の補 填として 使われる可 能性がある 確定給付型 である
  • 20. 19 が、確定拠出は 運用によっ て出たも のは自己責 任である。 いくら損失 が出ても 企業は補填をす る必要がな いし、逆 にいくら利 益が出ても 企業側が得 る利益が ないはないが、自社の経営から切り離して考える事ができ るのは大き い。 こうした背景か ら、企業型 年金(確 定拠出年金 )を採用す る企業は徐 々に増 えており、それ に応じる形 で企業型の 確定拠出年 金加入者も 増えている ことが、 下の厚生労働省が発表している二つのグラフでわかる。 (図 4‐1) (図 4‐2) ( 参 考 : 図 4- 1, 2 共 に 厚 生 労 働 省 ) 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000 20000 2009 2010 2011 2012 2013 2014 企業型年金実施事業者数の推移(社) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 450.0 500.0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 確定拠出年金 加入者数(万人)
  • 21. 20 4 - 3 .確 定拠出年 金の孕む メリット /デメリッ ト ここで確定拠出年金のもつメリットとデメリットを見てい く 確定拠出年金に は、個人と 企業のそれ ぞれにメリ ットとデメ リットが生 じる。 メリットで共通して見られるのは、『雇用の流動化』に関す るものであ る。 雇用の流動化、 とは競争社 会の中で 企業が終身 雇用を維持 すること、 いわゆ る“日本型経営 ”に黄信号 が灯り始 めてきたこ とにも由来 する、長期 雇用を前 提とした雇用か ら、能力主 義的なも のに切り替 え、転職が 用意になる ことであ る。 雇用の流動化自 体のメリッ トは、能 力主義であ れば、労働 者が努力す れば努 力するほどその 報酬を受け 取ること が出来、労 働者の仕事 に対するモ チベーシ ョンを上げるこ とによって 生産性が 向上すると ころにある 。また、適 切なとこ ろに適切な人材を配置しやすくなる狙いも有るのだ。 さて、話は戻り確定拠出年金と雇用の流動化についての関 係である。 「給付建て」、確 定給付型の 場合は企 業が一定の 金額を目指 し保険料を 集めて いた。つまり、 一企業を勤 めあげる こと前提で 企業年金が 制度付けら れていた ので、転職や離 職に伴う今 までの積 立は何らか の制度でそ の権利が守 られなけ ればならない。 しかし、そ の整備は 不十分であ り労働移行 への対応が 困難とい うのは序盤で述べたとおりである。 一方、確定拠出 型の場合は 自身の確定 拠出年金と しての口座 に積立金を 入れ、 その積立金を元 に運用をす る。この 積立金は企 業型なら企 業が全額負 担、個人 型なら個人が負 担をする。 よって、 転離職にと もなう異動 があっ ても 、口座は 自分自身のもの であるため 、そのま ま新しい会 社でも積立 金を積み立 て始める ことが出来るのだ。この点に流動化に対応しやすいという メリットが 有る。 企業側のメリッ トは、確定 給付型で 生じた問題 のいくつか に対し有効 である ということであ る。年金費 用の見通 しが立てや すいという のは、企業 側は毎月 一定の保険料を 支払えばい いだけで あり、運用 の損失に対 する穴埋め をする必 要はないという 点で、必要 な金額が 前もって見 積もりやす く、会計の 健全化が 図れるということである。
  • 22. 21 個人の側からみ たメリット としては 、積立金の 残高把握が 用意とあげ られて いる。これは、 確定拠出型 は個人の 確定拠出の 口座で管理 されるため 、現在の 積立内容が容易に把握できるということだ。 また、運用がう まくいけば 老後の年 金が増える というのは 、確定拠出 型の一 つの大きなメリ ットである 。確定拠 出年金は時 価評価が可 能な資産( 公社積・ 株式・投 資信託等)で構 成された商 品を個人 が選び、投資し ていくもの である。 金融投資に関わ る損得は自 己責任で はあるが、 そもそもが 投資信託に 近い確定 拠出年金は、投 資のプロが 売買を行 うため大き な損は出づ らく、徐々 にではあ るが増やすことが可能である。 他方、デメリッ トには「一 定の拠出 を行わなけ ればならな い」という 点が挙 げられている。 これは、確 定給付型 は金額が定 まっている ので、最終 的に必要 な金額さえ用意 でき、さら に運用が 好調な場合 、会社とし て拠出する 掛け金を 減らすことが可 能になる。 これは、 会社の経費 の減額が可 能になると いう点で 確定給付型のメ リットでは あるが、 反対に確定 拠出型にと っては、こ の経費を 減らすことが出来ないという点でデメリットである。 また、企業側に あげられる もう一つ の点「投資 教育の費用 がかかる」 は、投 資全体に広がる 大きな問題 の一つで ある。確定 拠出型は、 自 らが金融 商品を選 んで投資を行わ なければな らない。 もちろん、 投資のプロ が組み立て る商品で あるので、元本 を割る確率 は、個人 が投資する よりかは低 いものの、 より大き な金額を手にす るためには ある程度 リスクのあ る金融商品 を購入する 必要があ る。こういった 、リスクヘ ッジを取 る勉強を現 代日本では すべての人 が行って いるわけではな く、反対に 何も知ら ない人が多 いくらいで ある。企業 が確定拠 出年金を導入す る場合、そ ういった 投資教育を 施さねば狙 ったとおり の効果を 上げることが難 しく、確定 拠出年金 のうまみを 得ることは 出来ないと 推測され る。 もちろん個人側 にもデメリ ットは存 在する。大 きいものと しては「老 後の年 金が少なくなる 可能性があ る」とい うことであ る。確定給 付型は給付 金額が確 定しており、運 用の成績に 関わる補 填は企業が 持つことに よって、老 後に貰え る金額は一定で ある。しか し、確定 拠出年金は 自らが運用 するため、 その運用 次第によっては 元本を割る 可能性も 十分に考え られる。ま た、経済状 況に大き
  • 23. 22 く受給額が作用される面も存在するため、不安定な要素も 孕む。 「支給開始年齢 まで引き出 しができ ない」とい うは、不測 の事態が加 入者に 生じ、積立金を 引き出した いという ことがあっ ても、年金 の支給開始 年齢まで 引き出しが出来 ないという ことであ る。これは 、確定拠出 年金の租税 に関する 制度、つまりは 各種税金が 免除され ていること から、制度 の悪用を防 ぐために と設けられた制限である。 4 - 4 .確 定拠出年 金の望ま しい位置 づけとは 確定拠出年金 が老後に対 してどの ようなもの であるべき か。それは 経済状況 に振り回されず 、自身の老 後に対し て財産を守 る手段であ るべきだと 位置づけ るのがよいのではないか。 安定的な経済 成長という 面からみ ると、年率 数%のイン フレを維持 すること が調度良いとさ れている。 しかし、 例えば消費 者物価上昇 率がインフ レと共に 上がっていった としても、 金利や賃 金の上昇率 が上がると は限らない 、という 状況が生じるこ とがあるこ とは想像 に難くない だろう。近 年で言うと 、俗にい う「実感なき景気回復」である。 ここで経済が 年率数%程 度のイン フレを達成 し続けるこ とを条件に 、年金を 考えてみる。 100万円の 資産を保持 するとし て、これを まず預金と して保持し た場合を 考えると、下の 図のとおり になる。 つまり、年 率2%のイ ンフレが続 いても、 金利が上がらな い場合、実 際の貨幣 としての価 値は徐々に 失われてい くのであ る。これは、公 的年金が賦 課方式で あることの 理由にも直 結する。今 の100 万円の価値が将 来の100 万円の価 値ではない 、もっとい うならば今 よりも実 質的価値は低くなる可能性のほうが高いと推測されるのだ 。 次に確定給付 型の年金を 受取ると 想定する。 確定給付型 は将来の物 価予想も ふまえ給付額を 設定し、保 険料を徴 収する。こ こではイン フレに対し ては投資 がうまく行けば 順当に増や すことが 出来、会社 として大き な負債を抱 えること のなく目標金額 まで達成で きると考 えられる。 インフレ状 況下では確 定給付型 は可も不可もなく、といった感じである。
  • 24. 23 図 4-3 (普通預金は 0.02%定期預金は 0.03%の場合) 確定拠出型の 企業年金は 、確定給 付型と同様 に100万 円を債権と いう時価 評価可能な商品 で保持する ため、今 の100万 円分の価値 のある債権 は将来の インフレ率に対 応した額の 債権とな るのだ。こ の点ではイ ンフレに対 応してい ると言える。さ らに、確定 給付型と 違う所は自 身で投資先 を決めるた め、投資 をしていけば確 定給付型以 上の年金 が将来もら うことがで きるという 点である。 当然、年金が 給付される 年以降も インフレは 続くという のが今回の 想定の中 に含まれている ことを考え れば、将 来のどこか の点で想定 したインフ レ率に基 づく給付が行わ れる確定給 付型より も、うまく いった分だ け自分に帰 ってきて 将来のさらに先 へのインフ レに対応 が可能とな る確定拠出 年金が、将 来の安定 的な経済成長を遂げる中でのふさわしい企業年金ではない か。 0 20 40 60 80 100 120 現在 5年後 10年後 15年後 20年後 25年後 30年後 2%のインフレが続くと100万円の資産 価値はどうなるか(万円)
  • 25. 5 章 望ましい年金のあり方 5 - 1 .年 金に何が 求められ ているか そもそも、なぜ年金が必要であるのか。 望ましい年金のあり方、とはなにかを考える上で最も大 切な命題で ある。 経済学では、 年金が必要 な理由を 「生活保護 へのモラル ハザードを 防止する ため」としてい る。これは 、本来や むを得ない 状況で収入 がない人を サポート するはずのセー フティネッ トとして の機能を持 つはずの生 活保護が、 若い時に 無責任に貯蓄を せずに散財 してきた 人の老後の 生活資金に なるのを防 ぐためで ある。国家が半 分強制のよ うな形で “保険料” を徴収する ことにより 、働いて いる限りは企業 を通して国 が老後の ための『貯 金』をして くれるとい う考えで ある。 このような理 由の元考え ると、年金 とは本来は 貯金の性質 を持つべき であり、 ここに私達が年金の積立方式を推す理由がある。 しかし、どう しても保険 料が払え ずに年金を 受け取る事 ができない 人も必ず 出てくる。こう した人達に 「積み立 ててないか ら年金ナシ 」というの も福祉国 家としてはあり えない話で はあるし 、またそう した人全て を生活保護 という形 でサポートする のにも、老 人と現役 世代では生 活に関わる 費用が違う 。同じよ うな水準で給付を受けることが逆に年金受給者と差があっ てはいけな いのだ。 さらに日本の 公的年金制 度におい て、問題と なってきた のは少子高 齢化にお ける賦課方式と いう制度の 限界であ る。これは 以前にも説 明し たが、 現在の年 金を取り囲む財 政状況はい わば自転 車操業状態 であり、将 来にわたっ て安心し て過ごすことの できるもの ではない ということ 。少子高齢 化の進展に したがっ て、今の若者が背負 う負担は今 後増えつ づけるとい うことであ る。現在は 3 人 で支えている高 齢者 1 人に対 する年金は、将来 1 人で 1 人 を支えなけ ればいけ ないことが予想されているのだ。 また、社会保 障制度への 負担はま すます増加 していくが 、公的年金 を引き上 げる選択肢は上 記の通り考 えにくい 。つまり、 また年金に 加え今の日 本は若い 内からの自助努 力による資 産形成と それを助け る制 度の拡 充が必要で はないだ
  • 26. 25 ろうか。 つまり日本の年金は、 ・財政的に負担の少ないものであること ・若者世代の将来に負担をかけないこと ・給付対象者にはそれぞれに適正な額が死ぬまで給付さ れること であることが望ましいと推測される。 ここでまず、基礎年金の目的税化を経た、『基礎年金の一 律化』を提 言する 5 - 2 .基 礎年金の 目的税化 以前にも述べ たたが、現 在年金は 「国民年金」「厚生年金 」「共済年 金」の3 つ年金から構成 されている 。(図 5‐1)このう ち、基礎年 金とは「国 民年金」 のことであり、年金の 2 階建て構造の 1 階部分に相当する年金 である。 なぜ基礎年金 を目的税化 するのか 。それには 、年金を積 立方式にす るのを前 提とした上で理由がある。 現在の年金は 賦課方式で あるので 、保険料の ほとんどが 今を生きて いる年金 受給者の年金と なっている 。これは 自転車操業 であるので 、もし積立 方式に変 えてしまうと、 彼らに支払 っていた 年金の財源 がそのまま そっくり失 われるこ とになるのだ。 つまり、年 金の方式 を積立方式 にするため には現在の 高齢者を カバーする制度も合わせて制定しなければならないのであ る。 ここで基礎年 金の目的税 化である 。基礎年金 は図の通り 、全ての人 が加入し ている年金であ り、ここに 加入して いる、つま りは基礎年 金の年金は 皆全てが 受け取る年金な ので、年金 制度が積 立方式に変 わったとし ても基礎年 金の財源 は確保される、現在の高齢者に年金が受給されるというこ とはないの だ。 この制度のメ リットは、 年金の受 給の資格が 誰にでも発 生するとい うことで ある。財源は税 金であるが ゆえに、 誰もが確実 に税として “保険料” を収める ことになり、こ の年金を受 取る資格 のある人は 日本国民の 誰にでも存 在すると いうことになる 。低所得者 に関して は減税や免 税処置を設 け、また累 進課税の
  • 27. 26 ような税収のシ ステムを導 入するこ とにより、 誰にとって も同じよう な負担で 年金の保険料を収めることが可能であるのだ。 (図 5-1)日本の公的年金の仕組み ( 出 典 : http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/structure/structure03.html ) 問題はこの目 的税はどの ように設 定するかで あるが、日 本国民全体 で老後を 負担するという コンセプト が受け入 れられるな ら、消費税 の増税分ま たはその ものを当てても 良いはずで ある。そ もそも、賦 課方式にお ける将来の 負担が減 っているのだと 考えるなら ば、その 負担額以下 であれば増 税しても現 役世代の 負担は減らせていると考えることができる。 また、年金には 国庫負担金 が一定額 含まれてい るのだから 、相続税を あてて も妥当だろう。 またカナダ の年金制 度には「ク ローバック 制度」とい う、高額 所得者の資産相 続に関し一 定割合の 資産を税金 として徴収 できるとい うもので ある。一定の資 産を保有す る者に関 してはクロ ーバック制 度を適用し 、そうで ない場合は相続税を財源としても良いだろう。
  • 28. 27 (図 5-2)クローバック制度 さらには、同じ 税金を財源 として運 用されてい る生活保護 との兼ね合 いも考 えなければならない。下図は生活保護と基礎年金の受給金 額の比較で ある。 (表 5-1)生活扶助金額の例(平成 26 年 4 月 1 日) 東京都区部等 地方郡部等 97480円 160160円 3人世帯(33歳、29歳、4歳) 165840円 134060円 高齢者単身世帯(68歳) 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) 母子世帯(30歳、4歳、2歳) 81760円 122380円 192650円 65120円 ※国民年金の受給金額は 64400 円/月 ( 参 考 : 厚 生 労 働 省 「「生 活 保 護 制度 」 関 す る Q&A」) 黄色で色付けし た所では、「基礎年金 <生活保護 」となって いる箇所で ある。 つまりは、都市 部に住む単 身の高齢 者にとって 基礎年金を 受けるより 生活保 護を受給したほ うが、受取 金額が大 きいという 格差が存在 している。 また、こ れに加えて、生 活保護は必 要に応じ て住宅扶助 や医療扶助 が存在し、 実際には ここの額以上に受給することがある。 生活保護の制度 は国民年金 とは全く 違う理念の もとで行わ れているも のであ り、単純な比較 は意味を成 さない、 という意見 がある。そ れも一理あ るのは確 納税 年金とし て給付 給付者の 死亡 相続税の 一部を目 的税へ
  • 29. 28 かであるが、し かし金額的 な差がで ているのは 問題以外に ほかならな いのでは ないだろうか。 より詳細に述べ るのならば 、生活保 護を受ける には様々な 条件に照ら し合わ され認定が降り る。そのう ちの一つ に『補足性 の原理』と いうものが ある。こ れは、生活保護法 第 4 条の「保護 は、生活に 困窮する者 が、その利用 し得る資 産、能力その他 あらゆるも のを、そ の最低限度 の生活の維 持のために 活用する ことを要件とし て行なわれ る」と いう条文に もとづき、『稼働能 力』、『 資産の活 用』、『他法他施 策の活用』、『扶養義 務の履行』の 4 要素から チェックが 行われ、 “年金の給付額 ”というの は『他法 他施策の活 用』に分類 される項目 である。 であるので、厳 密には申請 すれば「 基礎年金< 生活保護」 の状態であ っても、 生活保護の受給 を受けるこ とが可能 ではある。 しかし、生 活保護を受 けながら 暮らす老後が果たして豊かであるかという点には疑問が残 る。 話は戻るが、基 礎年金の目 的税化を 経て、基礎 年金を受給 対象者に受 給でき る様になった時 、高齢者に おける生 活保護は基 礎年金にと って変わる ことがで きると推測でき る。なぜな ら、述べ たとおり税 収が財源な ので、基礎 年金を受 給する資格は誰 にでもある 。これな らば、保険 料の未納等 の問題で特 定の高齢 者を見捨てるこ とのなく、 一律的に 給付するこ とによって セーフティ ネットを 張ることが可能 であるのだ 。だから 「基礎年金 ≧生活保護 」の通りに 受給金額 を調整すること さえ出来れ ば、社会 保障として の機能もし っかりと果 たすこと ができる。 つまり基礎年金 の目的税化 は、若者世 代が将来に かけて背負 うはずであ った、 賦課方式におけ る負担分を 税金とい う形で徴収 することに より、要素 2『若者 世代の将来に負 担をかけな いこと』 を達成する ことが出来 、また目的 税化とい う税金を財源と することに より、生 活保護との 対比を経た 上であるが 、要素3 『給付対象者に はそれぞれ に適正な 額が死ぬま で給付され ること』が 満たされ るのである。ま た財政的に も賦課方 式に近い方 式で、財源 を税収によ るため、 財政的にも過度な負担をかけないと想定できる。
  • 30. 29 5 - 3 .2 階 建て部分 の私的年 金化 近年の多様化 するライフ スタイル において、 おそらく一 元的に望ま しい年金 というのは存在 しない。と いうのも 、各々が想 定する老後 の生活は十 人十色で あり千差万別で あるがため に、どん な想定をし ても必ずそ こからはみ 出てしま う人が出てくる ためだ。お そらく、 この先も多 様化されて いく人々の 生き方に 出来るだけ添え るような年 金を作る ことが必要 とされてお り、それが 望ましい 年金の答えの一つではないだろうか。 ここで先ほど の基礎年金 の目的税化 と合わせ て提案する のが、年 金の 2 階建 て部分の私的年金化である。 私的年金とは すなわち、 各個人が 金融機関の 提供する金 融商品を通 じて、自 主的に年金とし て資産を積 み立てて いくことで ある。今ま で出てきた 年金の商 品に絡めて言う のならば、 確定拠出年 金の個人 型( DC)な どがそれに あたる。 感覚的には自 動車保険に 近いかも しれない。 基本的な保 険(基礎年 金)は強 制的に加入(支 払う)した 上で、自 身に必要な 保険(私的 年金)をか けるとい うことである。 私的年金化す るメリット は先ほど 言ったとお りに、人々 の多様化す るライフ プランに合わせ た柔軟な年 金を用意 できるとい うこと、ま た自己責任 の範囲で 年金の受給金額を増やすことができるからである。 例えば、現在の 2 階建て部分、 厚生年金と 共済年金を 運用してい るのは「年 金積立金管理 運用独立 行政法人(G PIF)」である。 ここは厚 生年金な どの保険 料を集めたもの を運用し、 その利回 りをもって 給付などを 行う機関で あるが、 もちろんここは 保険料を収 めている 会社員など が運用を指 示するわけ ではなく、 GPIF が 代 表 と し て 運用 す る こと に よ って 実 績 を上 げ て いる 。 つ まり 国 民 は GPIF に保 険料を納め たが最後 、給付さ れるまで何 もせずに ただ運用 を見守る のみなのである 。確か にここには 、自身 に株式投資 などの知識 がなくて も GPIF が代表して資産 を運用して くれると いうメリッ トが存在す る。しかし 、これに は逆に G PIF が 運用に失敗 し、損失 が出たとし ても自身に 責任がない 代わりに 年金の給付金額 が減ってし まうとい うデメリッ トも生じる のだ。実際 、リーマ ン・ショックが 起こった 2008 年度は 約 9 兆 4000 億円の損 失を株価な どの債権
  • 31. 30 を通じて起こし ている。最 新の実績で ある 2013 年度は 約 10 兆 2000 億円の運 用益を生み出しているなど、常に安定した運用がされてい るとは言い にくい。 2014 年 10 月 31 日、GPIF は運用資産に占める 国内株式の 比率を 12%から 25%に引き上げるこ とを柱とし た新たな運 用の目安 を発表した 。これは 、国債 を中心とした安 全志向の運 用を改め 、株式を中 心とした積 極的な運用 をすると いうことである。 つまりこれは、 今まで以上 にハイリス ク・ハイ リターンの 投資を G PI F はす るようになった ということ で、その 運用責任は 将来もらう 年金という 形で背負 うしか出来ない 。もし運用 に失敗す る、または リーマン・ ショックの ような大 きく株価が下が るような出 来事が起こ った場合 には 2008 年度以上の損失を出 し、最悪年金の受給額減少ということにもつながりかねな い。 私的年金は、 運用の結果 は自己責 任ではある が、自身の 裁量で年金 の運用を 行うことがで きる。G PIF より ハイリス ク・ハイリ ターンな 投資を取 ることも 可能であれば、 逆にローリ スクロー リターンの 安全志向の 投資をする こともで きるのだ。この ような年金 制度はす でにドイツ ではリース ター制度と して取り 入れられており、一定の成果を上げている。 制度的には、G PI F は解散せ ずに 2 階建て部 分の公的な 年金商品と して厚生 年金や共済年金 を取り扱う こととし、それに加え て私的年金 を扱う感じ である。 これによって 、今まで通 りの G PI F の運用で いいという 人は公的な 年金商品 として G PIF か ら提供され る金融商 品を購入し 運用して、 自身の計画 に合わせ た年金を考える 人は金融機 関から提 供される年 金の金融商 品を購入し て運用す るということに なる。民間 から出る 年金商品に 不安が残る 可能性もあ るが、公 的な年金商品と 私的な年金 商品が同 じ市場に投 入されるこ とにより、 より確実 で信頼性のある 金融商品が 市場競争 に勝ち残り 発展してい くことにな る。制度 導入後しばらく は不安が残 るかもし れないが、 制度の成熟 とともに公 私関わら ず信頼性の高い 年金商品の うちから 、自らにあ った年金商 品を選ぶこ とができ ると推測できる。
  • 32. 31 (図 5-3)これからの私的年金と公的年金の枠組み 5 - 4 .私 的年金の 拡充 前項で2階建 て部分の私 的年金化 を掲げたが 、そのため に必要なの が私的年 金の拡充である 。現在私的 年金は生 命保険会社 からいくつ かの商品が 発売され ているが、内容 的に は GPI F がやっ ている投資 と同じく、 保険料を振 り込んで 運用されるのを待つのみである。 また、特に拡 充が要求さ れるのは 、自身で運 用が可能な 確定拠出年 金の個人 型である。なぜ なら、確定 拠出型と いうのは運 用状況を見 ながら自分 で投資先 を考え、その時 々の時流に 応じて自 身の年金を 運用してい くという点 でまった く今までの個人年金にはない考えをもった年金だからであ る。 しかし、図 5-4 によると個 人型の加入 者はわず か 2014 年 3 月末 で 18 万人 をわずかに上回 る程度で、 普及して いるとは言 い難い。確 定拠出年金 について の説明は前章で 行ったが、 これには 、企業型に はなかった 制約が発生 している ためである。 基礎年金 私的年金 GPIF
  • 33. 32 (図 5-4) (参考:厚生労働省) (表 5-2) 確定拠出年金の抱える課題 (参考:野村資本研究所) 個人型の確定拠 出年金は、 制度上の 対象者が制 限されてい るために、 利用し たくても利用で きない人が 発生して いる。前章 の終わりで も述べたが 、確定拠 出年金はその財 産をインフ レから守 るためにも 利用できる と述べた。 そのため には、個人型の 確定拠出年 金の加入 制約は撤廃 するべきで あり、特に 企業型の 確定拠出年金を利用できない人は誰でも利用できるように するべきで ある。 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 2009 2010 2011 2012 2013 2014 個人型確定拠出年金加入者数(万人) 項目 制約 加入対象者 の制限 確定給付年金あり、または企業型確定拠出年金なしの従業 員 公務員 第 3 号被保険者(主婦等) 60 歳以上の人々(一部を除く) 中途引出 60 歳未満での中途引出は極めて厳格な規定 拠出 拠出限度額が低い
  • 34. 33 日本は先進国の 中でも資産 構成にお ける現金比 率が非常に 高い国であ る。特 に若者ではなく 、老人世代 が多く現 金を保持し ている現代 は要望があ るのなら ば60歳以降で も積み立て を行い、 運用できる のならば運 用していく べきなの だ。確定拠出年 金の利用者 の増大は そのまま、 市場に流れ る資金の増 加とも捉 えられる。つま り、証券市 場の活性 化も狙うこ とが出来、 活性化した 市場では 投資した年金もその価値を増大させる可能性を十分にはら んでいるの だ。 無論、その他 の私的年 金の拡充も 忘れては ならない 。GPIF とは違っ た金融 商品構成による 、様々なリ スクヘッ ジをとった 金融商品の 展開やまた 投資によ って発生する様 々な税の免 除などの 優遇措置を 私的年金に 設けるなど 、銀行に 預けるだけの資 金を年金商 品を通じ て、よりよ く増やし て もらうこと も大切で ある。 今までどおり に GPIF に 保険料を収 め、運用 していくや り方。GPI F とは違 った比率の金融 商品構成に よる私的 年金を購入 するやり方 。個人型確 定拠出年 金や企業型確定 拠出年金で 、自身の 資産を自力 で投資し運 用益を得て いくやり 方。この提案に は、様々な ライフプ ランに添え るような商 品展開を 日 本の金融 業界が全体としてどれだけだしていけるかが肝なのである 。
  • 35. 34 終 章 望 ま しい年金のあり方 我々にとって 望ましい年 金とはど のようなも のであるか 、に対し「 年金はそ れぞれの描くラ イフプラン に柔軟に 対応すべき もの」、「若 者世代が過 度な負担 を負わないよう なもの」と いう2つの 観点から年 金のあり 方を考察し、『基礎年 金の目的税化』、『2階 建て部分の 私的年金化 』『私的 年金の拡充 』の三 点を合わ せて提案した。 日本における 年金は、年 を追うご とに不安感 不信感が募 るばかりで あるが、 世界の年金事情 と比べれば 依然とし て我々が主 体的に年金 に関して動 いていな いことがわかる 。もちろん 世界各国 いずれの国 も、年金と いう問題に 対する 明 確な解は持たず、各 々がそれぞ れの道を 模索してい る最中であ る。我々が 4 章 でまとめた提言 は、世界の 先行する 年金の知恵 を随所に借 りながらも 、日本に おける年金は日 本の資産の 現金保有 率を利用し た確定拠出 型を中心と した私的 年金でも補おう というもの で、運用 次第で一人 一人の描く ライフプラ ンに合っ た年金になると も述べた。 こうした 今までの政 府頼みの年 金を我々が 自主的に ある程度管理す ることによ って、年 金の制度そ のものの健 全性が保た れ、そし て何よりもそれぞれの生き方に寄り添える年金になる将来 が望まれる 。
  • 36. 35 〈参考文献〉 (すべて最終閲覧日は 11/3) アメリカの年金制度の概要 (http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=954 ) 世界で見る年金 (http://ecodb.net/article/-/13.html) 国際比較の視点から見た皆保険・皆年金 (http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19613906.pdf ) 日米年金制度の比較 (http://www.la.us.emb-japan.go.jp/pdf/200508_03.pdf) 世界の年金情報 (http://www.nensoken.or.jp/pension/) 年金制度の国際比較 ( http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku -hik aku.pdf) 「第 6 回高齢者 の生活と意 識に関する 国際比較 調査結果」 につ い て ( 要 約 ) (http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_kiso/19html/youyaku.html) スウェーデン少子高齢化の問題 (http://www.dignitycharm.co.jp/senior_report/090423.html ) 社会実情データ図鑑 (http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html) 年金積み立て方式化 二重負担、実現に疑問符 (http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=67608 ) 新たな基礎年金制度の構築に向けて (http://www.esri.go.jp/jp/archive/sei/sei013/sei013.html ) 年金制度の変化 (http://www.fsa.go.jp/fukukyouzai/kiso/04_01.html) 一緒に検証年金制度 (http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/ )
  • 37. 36 「2014 年度版 明解 年金の知識」小野隆璽 著 経済法令研究会、2014 年 「 年 金の基礎知識」服部栄造 自 由国民社 2014 年 「 図 解 わ か る 年金 2014‐ 2015 年 版」新星出版社 2014 年 確 定 拠出年金制度|厚生労働省 ( http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyosh utsu/index.html)