1. 株シュミ～目指せ!一流トレーダー～
横浜国立大学 経済学部３年
三根なつこ/小泉眞由子
現状
2000 年代初頭からの世界的な景気悪化で日本銀行がゼロ金利政策を始めたことにより、
預貯金ではほとんど利子がつかない状態が続いている。さらに近年の少子高齢化問題によ
る将来の年金受給への不安や、米国の 401（k)プランをモデルとした確定拠出年金制度の導
入により、人々の計画的な生活設計と適切な資産運用の必要性は高まっている。その中で
も株式投資は、元本割れというリスクがある一方で、預金金利より高い利率を得ることが
できるため効率的な資産を増やすことが可能である。さらに株式を購入する際に、人々が
投資する企業を選別することが商品・サービスの向上につながり、日本経済全体に有益を
もたらす点で株式投資は今後の日本経済の発展において重要といえる。
一方でこれからの日本経済を担っていく若年層が株式投資に消極的である1。若年層の株
式投資経験率は全体の１２％にとどまり、全世代平均を下回っている。
現状の解決策
日本政府や金融機関等が個人投資家の増大を訴える他方で、若年層の個人投資家が少な
い現状の原因として我々は、若年層にとって株式投資のニーズがほとんどないためだと考
えた。ニーズが低い要因として、若年層の株式投資に対する知識不足が根底にあると考え
た。株式投資に対する認知は興味・関心を喚起させ、株式投資への経験につながるという
データがある。NTT データ経営研究所調べでは、成人男女の株式投資への認知は全体の４割程
度であるが、
その中の９割もの人が株式投資へ興味を持ち、
さらに興味を持つ人の８割が実際に
株式投資を行ったと回答している。
株式投資に対する知識を持つ人の実に７割もの人が実際に株
式投資を行った経験があるということになる（表 1）2。若年層の個人投資家を増加させるため
には、まず株式投資への「認知」が重要であると私たちは考えた。
表１
全世代平均
株式投資への認知
興味／認知率
経験／興味率
経験／認知
40.4%
90.4%
81.8%
73.9％
初心者向けに多くの株式投資、金融商品購入に関する書籍が出版され、また多くの企業・
団体が株式投資に関するセミナーを無料・有料で開催しているにもかかわらず、上記でも
述べたように株式投資に対し成人男女約 6 割の人々が「知らない」と回答している。この
ことから、我々は、若年層が株式投資を行うための予備知識を書籍などで自発的に学習す
1
参照株式会社 NTT データ経営研究所（東京証券取引所調査委託）
http://www.tse.or.jp/news/31/b7gje6000003lhav-att/b7gje6000003lhjw.pdf
2
同 1 参照

2. る現状に問題があると考えた。
そこで彼らの潜在的ニーズまたは Wants に訴えるために、若年層の間でモバゲーや
ameba などで人気の育成ゲームに着目し、育成ゲームと株式投資の融合した株シミュレー
ション「株シュミ」を提案する。既存の株に関するアプリは学習に特化したテキスト形式
のアプリや、バーチャル株取引ゲームなどの実践型で、専門用語が多用されており初心者
向けのものはほとんどない。一方で、
「株シュミ」はチュートリアルや用語説明などを細か
く解説された株取引シミュレーションゲームとなっており、初心者でも手軽に株式投資に
ついて学ぶことができる。さらに街や部屋、アバターを成長・発展させていく「遊び」の
要素が大きいので、ゲームは好きだが株に興味のない層と株式投資を結びつける役割を果
たしている。しかも「遊び」要素は株式投資で生じた余剰資金で成長させていく仕様にな
っているので、
「遊び」が投資を活発化させる動機となるのだ。このアプリを通して若年層
が株式投資に興味を持ち、実際に個人投資家となることを最終目標とする。
アプリ概要
「株シュミ」の目的は資産運用の方法の一つとして株式投資を認識してもらい、実際に
ゲーム内で株式投資を行うことで、株式投資への認識・理解を深めさせ実際に株式投資を
行ってもらうことである。株式投資による経済の活性化をプレイヤーの街が発展していく
ことで体感してもらう。
ゲーム内の時計は１日に１か月進む。つまり現実世界の１か月は２年半で、１年は３０
年となる。ゲームスタート時のプレイヤーは社会人１年目で、４０年勤続して老後の生活
を送ることになる。デイトレードには向かない時計設定だが、長期的な視点で資産運用を
学ぶことを目的とするこのゲームでは現実よりも早い時計設定が向いていると考えられる。
「株シュミ」では時間設定が現実と異なるため、存在する企業はバーチャル企業とする。
プレイヤーが遊べる機能は２つある。一つ目が資産運用であり、二つ目はマイタウン、
マイルーム、アバターを好みに応じてカスタマイズすることができる機能である。ゲーム
スタート時にプレイヤーには図１のような基本設定の街、部屋と性別に応じたアバターが
与えられる。最初は簡素だが、効率的な資産運用を行うと街が発展し、部屋やアバターも
飾ることができる。さらに、投資する銘柄に応じて街は変化していくため、街づくりの楽
しみを体験できる。資産運用を難しく感じるプレイヤーに対しても街づくり等を通した遊
びの部分で継続的にゲームを行う動機づけが出来ると考える。
図１

3. 初期設定としてプレイヤーは所持金 100 万円、一年で得られる収入は 300 万円3で、月に
20 万、ボーナス 60 万（年々10 万ずつ上昇）という形で受け取る。支出は年間 200 万円4（5
年ごとに 50 万円上昇）で、これも月々一定の割合で収入から差し引かれる。残った所持金
の中からプレイヤーは自由に株式投資か貯金をする選択ができる。株式投資を活発に行う
と街の発展に繋がりやすいが貯蓄額が少額となる。ゲーム内では病気・冠婚葬祭などの突
然の支出を必要とするイベントを用意し、一定の貯蓄の重要性もプレイヤーに訴えること
で上手な資産運用を学んでもらう。表２は株式投資と貯金額を同額にした場合の４年目ま
での収支表の一例である。
表２
所持金
収入（年収）
支出
株式投資
貯金
初期設定
100 万
300 万
200 万
50 万
＋30 万
50 万
2 年目
130 万
310 万
200 万
120 万
＋10 万
120 万
3 年目
250 万
320 万
200 万
185 万
－30 万
185 万
4 年目
340 万
330 万
200 万
235 万
＋50 万
235 万
ゲームの進め方
アプリのサンプル画面ともにプレイヤーが最初に体験することとなるチュートリアルを６
つのステップで紹介しいていく。
① 「貯金の割合設定」
チュートリアルでは東証のマスコットキャラクターであるカブ子先生がガイダンス
を行う。カバ子先生のアナウンス通りに操作を進めていくと貯金の割合設定が出来る。
貯金の割合設定が必要である理由を説明しながら操作の方法を教えてくれる。
3
収入は社会人１年目の平均年収を参考
支出は食費や家賃などの生活費を始め国民健康保険料、所得税、年金保険料などの社会人
ならではの支出も含まれる。
4

4. また割合設定は自由に決められるが、
カブ子先生がおすすめの割合を教えてくれるた
め、初心者にもわかりやすい設定となっている。
② 「口座を作る」
次は株式投資に必要な口座の作成方法に移る。
「証券会社」のボタンを押すと、実店
舗とネット証券両方のメリット・デメリットをショートムービーで解説してくれる。証
券会社では実店舗とネット証券の２択から選ぶことができるが、チュートリアルでは、
実店舗で口座を開く。
「株シュミ」では、それぞれ特徴の異なる６社の架空証券会社を
用意する。
③ 「株を買う」
次は株式の購入に移る。チュートリアルでは、４つの銘柄のなかからプレイヤーに任
意の１銘柄を選択してもらう。
選択した銘柄についての情報は図２のように企業名を押せば企業規模などの詳細を閲
覧することができる。また「マイタウン：道路」というのはこの株を購入することでマ

5. イタウン内に新しく「道路」というアイテムが増えることを意味する。様々な業種の株
を購入することで、プレイヤーはオリジナルの街づくりをすることができる。詳細はス
テップ④で説明する。
図３では現実社会とは異なり１か月の間の株価の値動きを表示し
ている。
「板情報」を押せばさらに詳細がわかる。最後に株数と価格、期間の入力を行
い「決定」を押すと株を購入できる。この時にカバ子先生が言葉の意味やおすすめ株数
等をショートムービーで分かり易く教えてくれる。
図２
図３
④ 「マイタウンに行こう」
ホームの「マイタウン」を押すと「マイタウン」
「マイルーム」
「アバター」のページ
に移行できる。
「ショップ」には街を飾る花や木などが売っており、プレイヤーの好み
で街を飾ることが可能だ。
その時の料金はプレイヤーの可処分所得の中から捻出される。
さらに他ユーザーと交流できる機能を追加することで他プレイヤーの街や部屋に訪
問することが可能となる。この機能によって、他プレイヤーの街を参考にしたり、自分
の街の発展状況を紹介したりとバーチャルな交流を楽しんでもらえる。ID 検索で現実
の友人とつながることもでき、訪問した際に「NICE!」ボタンを設置し、人気の街ラン
キングから任意の街に訪問することもできる。

6. 「レイアウト」を押すと図４の画面が現れる。ショップで購入したアイテムや、株を購
入したことで現れる新規アイテムなどが表示される。
「所持品」内からアイテムを街に
設置する際、
スマートフォンの小さい画面でも自由に操作できる様に画面の拡大縮小操
作や移動などが容易にできる設定となっている。
図４
マイルームについて
マイルームはマイタウンと同様に操作し、プレイヤーが自由にレイアウトをしていく。
マイタウンと同様、保有する株式に応じてショップ内の購入できるアイテムの種類は追加
されていく。具体例としては、ソミーの株を一定数購入することで、ショップの購入でき
る欄にパソコンが現れるといったものだ。株式投資を積極的に行って部屋を豊かにできる

7. と同時に、自然と分散投資をプレイヤーが行っていくことができる。
アバターについて
アバターでプレイヤーが自由に変えることができるのは、髪型、顔、服装、装飾品の４
つである。基本的にはショップで新たな髪型などを購入して自由に変更を行えるが、髪型
と顔は美容関連業界の株を購入することで種類が増え、服装はアパレル業界の株を買うと
ショップ購入できる服が増えていく。さらに、様々な企業の株を購入すると株主優待でそ
の業界にちなんだアイテムを手に入れることができる。
⑤ 「株主優待・配当をもらおう」
ユーザーに株主優待・配当の存在を認知してもらい、株主優待や配当を受けることで、
株の売買による値上がり益以外でも株式投資から利益が得られることを勉強してもらう。
チュートリアルで購入した AB 建設の株式は特例として、
即、
株主優待を取得できるよう設
定しておき、カブ子先生の説明の下、図５のステップで取得してもらう。
株主優待に関して「株シュミ」ではすべての企業で年１～２回の株主優待を提供する。
提供物はショップでは購入できないものとし、服飾や置物などマイタウン・マイハウス・
アバターで設置可能なものを提供する。また、株式保有数に応じて提供されるアイテムも
変化する。配当に関して、本来配当額は会社の業績によって毎年見直しをされるが、我々
が提案する企業では現実の業界の変動に合わせて業績の推移を変化させるものとする。そ
のため、各企業よっては現実と同様に配当が出ない年度も存在する。
図５
「株シュミ」で提案する企業、株式優待一覧は以下とする。ただし、株主優待は年度に
応じて変えていく企業もある。また、プレイヤーの年度に応じて順次競合企業も増加させ
ていくので、プレイヤーには同業種の企業を比較して、より有益性の高い株式を購入する
スキルを養ってもらう。

8. 業界
建設・不動産
ＡＢ建設
大大ハウス
レジャー・エンタメ
トイサルス
オリジナルランド
電機
ソミー
物流・運送
Amaton
桃〇電鉄
自動車
NISSON
生活
アオイスポーツ
UNICRU
〇×スーパー
飲食
センショーＨＤ
流通
ＣＤ商社
メディア
カバ子出版
株主優待一例
道路（100株でブロック1個、1000株でブロック15個）
家（1000株でマイタウンに家が1つ建設）
置物（100株で10種類から1つをマイハウスに設置、1000株で20種類から）
遊園地（1000株で小さな遊具、10000株で遊園地をマイタウンに設置）
電化製品（1000株で10種類から、3000株で20種類から一つマイハウスに設置）
商品の増加（100株で5種類、1000株で15種類の商品がショップで新たに購入可能）
線路（100株でブロック1個、1000株でブロック15個）
自動車（10000株で１台）
服の増加（100株で5種類、1000株で15種類の商品がショップで新たに購入可能）
服の増加（100株で5種類、1000株で15種類の商品がショップで新たに購入可能）
装飾（100株で5種類、1000株で10種類から1個マイハウスに設置可能）
店（10000株で1店舗マイタウンに設置可能）
店（10000株で1店舗マイタウンに設置可能）
ビル（10000株で1店舗マイタウンに設置可能）
⑥ 「株を売ろう」
購入した AB 建設の株を図６のステップで売る手続きを行う。
「証券会社」→「株を
売る」ボタンから、株数を「100」と入力し、
「成行」を選択して株式を売る。その後、
「口座」を開いてもらい、入金を確認してもらう。
これ以降の株の売買では、指値、成行の両選択を行うことができる。また「基本知
識」のページで指値・成行の語彙説明や、メリット・デメリットに関してショートム
ービーでカバ子先生が説明する。これにより、株式に興味を持ったユーザーや値上が
り益で大きく儲けたいユーザーが気軽に勉強できる場を提供する。
図６
その他アプリ機能説明
基本動作はチュートリアルで説明するが、それ以外で必要になる株式投資の知識・情報

9. は「ホーム」と「株情報」で学ぶことができる。
ホーム画面には、
「NEWS」のボタンがあり、企業に関するニュースが載っている。企業
の動向は、株価にも影響を与えることをプレイヤーに実感してもらう。新しい情報は随時
更新されていくため古い情報は「株情報」内で探すことができる。
ホーム画面の「株情報」を押すと図７の一覧が出てくる。
「企業一覧」を見ることで、興
味を抱いてなかった業界を発見することができる。また、企業を選びに困ったプレイヤー
のために「注目企業」から株式選びのヒントが得られることができ、さらに「株価チャー
ト」を選択すると選択した任意の企業のチャートを見ることができる。
図７
また、チュートリアルで理解できなかった場合や更なる知識を欲する場合、プレイヤー
はホーム画面のカブ子先生を押すと、詳しい情報が文章やショートムービーで閲覧できる。
ショートムービーは後から何度でも見直すことができるので、知識をより確固たるものに
できる。
中長期なゲームの推進
チュートリアルが終わると、プレイヤーは自由に資産運用、株式の購入を行いながら、
オリジナルの街や部屋を作ってもらう。図８は街を一定度発展させた予想図である。会社
や工場、道路は配当金や株式投資によって獲得できるものであるが、車や木、池、家など
は資産運用で生じた余剰資産で購入している。特に右下の観覧車はアミューズメント関連
の株を一定数以上購入すればゲットできるアイテムとなっており、どの株を購入するかで
街の様子は変化する。アイテムはプレイヤーが自由に設置・回収できるので、配置の仕方
にもセンスが問われる。プレイヤー同士で街を訪問し合う機能を活用して、プレイヤー同
士が互いに切磋琢磨して資産運用をしてもらうシステムとなっている。
図８

10. 既存の株式投資を学ぶアプリと異なり、初心者にも気軽に分かり易くできている点や、
「街作りゲーム」という遊び主体であることで株式投資に興味のなかった層にも「遊び」
に「学習」という付加価値を付けたアプリとしてアプローチできる。そして、
「株シュミ」
を中長期に行ってもらうことで、ゲームを通し徐々に株式投資について理解してもらう。
プレイヤーは株式投資に対して「わからない」から「わかる」+α「楽しい」を体感できる
と考える。結果、これまで株式投資に対し元本割れといったハイリスクや、専門知識を要
し難しいイメージといったデメリットばかり注視していた人々が、株式投資のメリット、
有効性に目を向けてもらうことができると我々は考える。
将来像
我々の提案する「株シュミ」の経験をもとに、プレイヤーには現実の株式投資を行って
もらうことが我々の将来目標である。そのために、ゲーム内で一定の年数が過ぎたプレイ
ヤーには、現実世界と結びつけるシステムを作る。例として、ゲーム内で 2 年を過ぎると、
カバ子先生のショートムービーが始まり、現実世界で行われている投資セミナーや書籍な
どを紹介する。紹介先のセミナーは、東証のセミナーとする。また、その他の紹介は東証
の審査の下掲載していく。これにより、バーチャル世界から、現実世界への誘導を可能と
する。
参考文献：
1、 ダイヤモンド・ザイ編集部著（2013）『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌 Zai が作った
「株」入門改訂第 2 版』ダイヤモンド社
2、 会社四季報編集部著（2012）『がんばる!かぶ 6 時間でわかる株の授業』
東洋経済新報社
3、 株式会社 NTT データ経営研究所（東京証券取引所調査委託）平成 25 年 7 月 17 日東京
証券取 http://www.tse.or.jp/news/31/b7gje6000003lhav-att/b7gje6000003lhjw.pdf
4、 日本証券業協会「証券投資に関する全国調査（個人調査）
」平成 24 年
http://www.jsda.or.jp/shiryo/chousa/data/research_h24.html