太陽光・風力などの再エネが台頭するエネルギーの世界で、これから原発がどのような役割を果たすのか、短期・中長期に分けて考察しました。

1. 再エネ主力電源化に向けた原発の役割
国際資源・エネルギー学生会議
（IRESA）
東京大学工学部３年 山田 陸
東京大学工学部２年 樋口湧也

2. 目次
Ⅰ. 加速する再エネと課題
Ⅱ. 短期で見る原発
Ⅱ. 中長期で見る原発

3. Ⅰ. 加速する再エネと課題

4. (出典) Time com(2017)

5. 再エネ推進の根拠 ①電源別の外部コスト
∼ 外部コスト = 市場取引に反映されない隠れたコスト ∼
(出典) R.K.Sovaool :Rejecting renewables:The socio-technical impediments to
renewable electricity in the United States,Energy Policy,Vol.37,pp.4500-4513(2009)
再エネの外部コストが
最も小さい
石炭火力&ガス火力の
外部コストが最も大きい

6. 再エネ推進の根拠 ②費用便益比の大きさ
∼かけたコストに対するリターンの大きさ∼
(出典) IRENA : REmap : Roadmap for A Renewable
Energy Future(2016)
毎年3000億ドルの
再エネ投資が必要
そうしないと毎年
1.2 4.2兆ドルの損
害が発生

7. 再エネ導入を阻む系統連系問題
系統の運用では常に需要と供給をバランスするようコントロールすることが必要
再エネは天候によって出力がフラつく
↓
需給のバランスが乱れると系統を
流れる電気の周波数が乱れる
↓
故障を防ぐために発電機が停止
↓
さらに周波数が乱れ停電の原因になる

8. 再エネ導入のために必要なこと
(出典)再生可能エネルギーの主力電源化 に向けた今後の
論点 ∼第5次エネルギー基本計画の策定を受けて∼
再エネ主力電源化には課題が山積み
↓
再エネ発電所をやみくもに建設すれば
解決する問題ではない
↓
短期的に原発停止分の電力量を確保する
には火力増強もしくは原発再稼働が必要

9. Ⅱ. 短期で見る原発

10. 電源別の発電コスト[円/kWh]
原発が最も安いと
の経産省の試算
再稼働は電気料金
の高騰を抑制する
(出典) 経産省HP 発電コスト検証ワーキンググループ長期エネルギー需給見通し
小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(2015)
現時点で最も安い原発

11. 火力発電のリスクの大きさ∼不安定な化石燃料の輸入価格∼
[年]
[兆円]
総合資源エネルギー調査会 原子力小委員会第３回会合
参考資料１ よりIRESA作成
原発稼働停止による
輸入増 ： 3.6兆円
(主に)価格変動による
輸入増 ： 8.4兆円
準国産エネルギーである
原発再稼働によって価格変
動リスクをヘッジできる
日本における化石燃料の輸入額の推移

12. 限界費用[円/kWh] (= 燃料費)
再エネ ※経産省HPを参考にIRESA作成
（スケールは正確ではない）
石炭火力
メリットオーダーの順に運転される
限界費用が
高い → 稼働率が高くなる
低い → 稼働率が低くなる
火力発電のリスクヘッジとしての原子力

13. 一概に危険とは言い切れない原発
（出典）OECD2010 NEA No.6861 Comparing Nuclear Accident
Risks with Those from Other Energy Sources をもとにIRESA作成
電源別の死亡リスク (= 年間死亡人数 / 年間発電量[Gwey])
火力発電：採掘事故、粉塵によ
る健康被害、火災、感電などに
よる死亡事例
死亡リスクが最も大きいのは火
力発電で、原発はそれより遥か
に小さい

14. 再稼働しない場合のシナリオ
・化石燃料の価格変動リスクに直面 (年によって15兆円程度のブレあり)
→ 電気料金の不安定、事業性の不透明などにつながる
・貿易収支の乱れ（2-3兆円/年の輸入額増加）
→ このお金があれば電力会社は連系線など再エネ関連に投資できる
・電気料金の高騰
・CO2排出の増加
・市場価格が不安定になる可能性 → 再エネ導入スピードが減速する可能性
→ 最大のリスクである火力発電のデメリットをそのまま受けてしまう

15. Ⅲ. 中長期で見る原発

16. 総括原価方式の廃止による資本調達コストの上昇
◉ 総括原価方式 ( = 営業費に利益を上乗せして電気料金を決める方式) の廃止
電力会社の低利＆巨額の資金調達を可能にしてきたシステム
廃止後
財務健全性・事業リスクの厳格な評価が資本調達コストに反映
大規模な投資が必要な原発は建設が難しくなる可能性が高い
下図：総括原価方式のイメージ(出典：経産省HP)

17. 発送電分離による資金繰りの難化
発送電分離：送電/配電のネットワークを発電設備から切り離して独立させ、
全ての電力事業者が平等に扱えるようにすること
発送電分離のイメージ(出典：毎日新聞2013)
これまで 発電設備と送配電設備の間で投資のタイミングをずらしてキャッシュフローを安定化
これから
発送電分離
キャッシュフロー管理が区分され原発などへの大規模な投資が難しくなる

18. 特殊な事業リスクを孕む原発
①事故への対応
原子力損害賠償法：事業者への無限の賠償責任
→ もし事故を起こした際に計り知れないコスト・時間を要する
→ 事業の不透明性
②バックエンドへの対応
長期にわたって大きな責任を伴う事業
→それ自体は利益を生まないためコストと労力に見合ったリターンは得づらい
特殊な事業リスクにより民間事業者が原発事業を行う事は極めて難しい
（経済性から原発事業が淘汰されていく可能性あり）

19. 発電コストが上昇見込みの原発
◉核燃料サイクル
：原子力発電で一度使った使用済燃料を再処理することで
もう一度原子力発電の燃料としてリサイクルすること
→ 実現の見通し立たず
で
しかし
核燃料サイクルが将来的に実現する前提で
使用済み核燃料を資産計上
↓
諦めれば資産が負債となり電力会社のキャッシュフローに
問題が発生する
→ 本当に原発が安いのかは現時点ではわからない（=リスク）

20. まとめ
＜短期＞
・ 安定供給・経済効率性・環境への適合のどれをとっても持ち札の中では
もっとも有用
＜中長期＞
・適切な制度設計と再エネ・送電網・フレキシビリティへの投資を産官学が
連携して推進するとの前提に立てば、今後原発を新設する大きなメリットは
ない
・再エネと系統システムの変革で原発の持つメリットを吸収することが可能

21. APPENDIX

22. (出典) 電気事業連合会HP
すでに再稼動を開始した９基の内訳
関西電力
・高浜３号
・高浜４号
・大飯３号
・大飯４号
四国電力
・伊方３号
九州電力
・川内１号
・川内２号
・玄海３号
・玄海４号
原発の再稼動状況

23. 福島第一事故について ①
原子炉システムは無事だったが、周辺施設の破損によりメルトダウンが発生
(出典) 経産省HP

24. 福島第一事故について ②
(出典) 経産省HP

25. 深刻化するインバランスリスク
電力の市場価格が100円/kWh
を越える事例が発生
電源調達をJEPXに頼る新電力の
経営が悪化
(出典) 環境市場HP

26. 原発再稼働済の地方とそうでない地方の市場価格の差
北
海
道
東
北
関
東
中
部
北
陸
関
西
中
国
四
国
九
州
(出典) JEPX HPにあるcsvファイルを基にIRESA作成
北
海
道
東
北
関
東
中
部
北
陸
関
西
中
国
四
国
九
州
2010平均価格 2018平均価格
[円/kWh] [円/kWh]

27. 電源別リスク

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