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河村 雅美


2012.5.27
東京外国語大学
 
- 主に日本史の中で語られる「高度成長」とい
  う時代をとらえ返す一視角として、空間的な
  面から
 「高度成長」を位置づけ、とらえ直すこと

- 東南アジアと沖縄からの視角
一国史的なものであり、アジア・太平洋戦争後
の歴史認識に、影響を与えているのではないか
。

・日本
  「高度成長」「正」の歴史として記憶されて
きた時期 /
   ノスタルジア
・東南アジア
   「冷戦」「熱戦」に密着した「開発」の時代
として
・沖縄
ー東南アジア
  タイの「開発」の時代における主体形成、呼び
 かけ の諸相を紹介
  ・日本が占領という形で関わった地域
  ・ 「高度成長」時は、資源調達の場、
    日本国内の市場の「飽和」を受けとめた後
 背地
  ・ベトナム戦争

ー沖縄 
  ・日本の「高度成長」期には米軍占領下
    「基地の島」
  
  ・現在は日本国の一県
1 . タイにおける「開発の時代」

2 .タイの「開発」: 国家プロジェクトとして展開

3.  為政者サリットの呼びかけ:開発の「主体」形成

4.  為政者の呼びかけに対して:メディア上での「開発
」認識

5.  日本の高度成長を空間的に位置づける 
     東南アジア / 沖縄

6.   むすびにかえて
冷戦=東西陣営間のシステム間競争
  Development =開発を競う
 
タイ : 「開発の時代」 ( 1958-73 )
 サリット・タナラット政権~
    タノーム = プラパート政権
 
 
インドネシア : スハルト政権( 1966-98 )「開発(プン
 バングナン)」をスローガンに掲げる「新秩序(オル
 デ・バル)」
 フィリピン : マルコス政権 (1966-86) 「新社会」建設
- タイ語 ” Phatthanaa( パッタナー )” という言葉
  を用いて呼びかける公定イデオロギー

- 貧しい地域への共産主義(“コーミニュット”)
  の浸透を防ぐ、対抗イデオロギー
・行政府強化 ( 立法府の軽視 ) / テクノクラー
 ト重用
・「開発」の制度化(国家経済開発庁、国家開
 発省などの設立)
・「開発」の計画化
  「国家経済開発計画」 / 「国家教育開発計
 画」   / 各地方の開発計画
・秩序の重視(民主主義、憲法は留保「タイ式
 民主主義」→“開発独裁”)
・官僚
   テクノクラート、地方官僚

・仏教
    開発エージェントとしての仏教・僧
    「寺院開発計画」
  
・国王
    開発エージェントとしての国王
       
http://thailand.prd.go.th/ebook/diamond/ch4.php
スローガン
「働くことは金、金は働くこと、それが幸せなり」
  
「節約は将来を築くなり、節約知らずして将来を
築ける者なし」

「皆、タイ国の開発のため時と競って働くべし」




貯蓄銀行の広告
「あなたのお子様、お孫様が良い教育を受け、
使えるお金があるようにするには、貯蓄銀行の生涯
支援タイプと教育タイプにお預けください。預けたお金より多く受け取れま
 す。」と
預金を勧めるもの。教育を受けた暁に得られるであろう明るい未来が示され
 ている [SS 1961.10.27] 。
「水は流れ、灯は明るく、道はよくなり、職があり、清潔を維持
」




[SRSW 1961. 1. 1]
[SN 1959. 7.18]
中央で生徒に向かって教えているのはサリット。黒板には「『言うより実行』
が私のモットー」と書かれている。スピーカーなどから流れているのは「水は
流れ・・・」のスローガンである。スローガンが至るところで流されていること
に国民がうんざりしている様子とサリットのモットーとの矛盾が風刺されてい
る。
受動的な開発イメージ ⇔主体形成

- 「開発をする者と開発を受けとる者の間
  ( Rawang Phu Phatthana kap Phu Dairap
  Phatthana )」 [SRSW 1963.9 .29]

- 臣民が「お上」に要求するものと認識
[SS 1961.6.5]
左は工業、公共福祉、教育、農業・灌漑などの専門家。手に持っているの
は「東北開発計画」である。右は農民たち。看板には「われわれ東北の者
は、政府の東北開発計画を共に遂行するため皆様を歓迎いたします」と書
かれている。但し書きは「我々の大地――皆様の知識・能力を待っていた
ところです」。
政府主催のイベント
[SRSW 1963. 3. 17]

地方開発において、「開発」の旗を掲げて行進する農民と監視
する官僚の様子。イペント的かつ強制的な開発のイメージが描
かれている。
[SS 1959.3.16]

右の手はアメリカを表しており、電球には「電気の開発のための資金
 4億バーツ」と書かれている。
[SN 1959.4.2]
内務大臣が「自立が大事」といいながら、ポケットには外国
からの借款などの書類がはみだしている図。政府が民衆に
「自立」を繰り返し促している様子と、タイが経済的な自立
を果たしていないことを対比させた風刺。
[SN 1961.4.4]
看護婦のせりふは「歩くのを教える時が来たわ!」。左は子どもの姿を
したサリット。東北、南部の開発計画に外国援助が打ち切られることが
明らかになった時の漫画。右のミルクには「外国援助」と書いてある。
[SS 1959.9.21] 農業のための資金を背負った世銀の専門家に上から調
査されているタイの債務農民。「調査は済んだ、実施すべし!」と書
かれているが、農民は利子の高さにあえいでいる。タイの自己像が示
されている。
開発プロジェクト=<冷戦文化>( Cold War Culture )として
認識




                            Prachak Kongiin 2005,,
                            Bangkok, Tham“Lae Leao
                            Khwaam Khruangwai ko
                            Praakot”asat University, p142.
1 ) 東南アジア

① 日本にとっての東南アジア
- 日本の資源調達の場

- 賠償事業の展開
  賠償:役務・生産物での支払い
       資本財の輸出市場
      東南アジアとの貿易の促進要因に
  
1937  鴨緑江ダム (朝鮮・満州)久保田豊
② 東南アジアにとっての日本
- 戦前からの脅威の連続性 
 タイ「黄禍」「温戦」(「公害輸出」「総合
  商社」「軍国主義」)
- 「開発学」のネットワークにおける半周縁
- (米 - 日本 - 東南アジア)
-  「近代化論」のサンプル

<高度成長文化>(テッサ・モーリス鈴木)
  GNP 、成長率、「国民所得倍増計画」
日本製品の進出


[SS 1962. 2.22], [PT
1960.3.11],
[SS1962.5.4], [SS 1962.
8.14] 等より作成。
2) 沖縄:「高度成長」と「開発」の間で~
「基地の島」 冷戦                熱戦(ベ
トナム戦争)




© 沖縄県
                   はげしい抗議デモを尻目に、すさまじ
                   い爆音をたてて発進する
                   B52 。 1969 (昭和 44 )年 2 月。沖縄
                   タイムス社刊『写真記録 沖縄戦後
                   史』。
1950  朝鮮戦争による沖縄基地強化
        本土業者進出  「戦後の海外工事の第一
      号」
        (海外建設協力会 .1976. 『海外建設協力会 20 年のあゆみ』海外建設
      協力会) .

    1952  日本業者クラブ水曜会 会員 25 社
       清水組、大林組、鹿島建設、大成建設、竹中工務店、
                年  沖縄  日本  その他
     銭高          組、西松組など       工事
      請負契約高比 (%)                1951       1     88     11

                        2.7
                  1952                           89     8.3

                                1953      17.4   71.6   11

                                1954      29.4   57.5   13.1
   琉球銀行「軍工事における地元土建業
    者の失敗」『金融経済』 4(10), p.29.
                                1955       4      40    56
                               (3 月まで )
日本の業者:近代的建設機械との接触
  建設機械の技術面で画期的進歩
 「日華事変以後の鎖国的状態で技術的に停滞し
  ていた業界は、沖縄でアメリカの機械化工法に
  驚嘆の目を見張った。」
    ( 海外建設協会 .1980. 『海外建設協会 25 年
  史』海外建設協会 p.15)

佐久間ダム   1953 年完成
  間組 オペレーター、メカニック陣不足
     沖縄の青年を現地で養成
      =「機械化部隊」 
 国際ビジネス方式の習得
     JV (ジョイント・ベンチャー)方式初
 採用
    鹿島建設 
   
 「この実績は後に東南アジア諸国へ進出する自信
 をわが国業者にもたらしたのである」
( 海外建設協会 . 1980. 『海外建設協会 25 年史』海外建設協会 .)
沖縄における開発の主体形成の足跡 ?
技術者の不在
  例:福地ダムにおける沖縄の不在
    (福地ダム日米承継記念碑)
                      福地
 ダム日米承継記念碑


1962  米が計画
1972  復帰
     工事:アメリカ→日本
     大城組の下請けは続行 
1974  完成
 宥和政策として設立された琉球大学
( 1953 年設立)の学部編成

                                                           1950 年代の琉球大学  wikipedia
                                                         Courses Offered
Department            Freshman                                    Sophomore
English               a. Spoken                                   2a. Spoken
                      b. Written                                  2b. Written
                      c.                                          2c.
Social Science        Social Science                              Politics
                      World History                               Japanese History
Applied Arts          Island Industry
                      Home Economics
                      Business
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                      Music
Science               Mathematics
                      Chemistry
                      Biology
Education             General Education                          Psychology

 
                      Methods                                    Administration
                      Japanese Literature(1 year only)
Agriculture           Crops and Soils
                      Animal Husbandry
開学時の学科・科目一覧(『十周年記念誌』琉球大学、 1961 年、 30 ページ)。
"We just can't get along without Okinawa."
 沖縄なくして(ベトナム戦争は)続けられない。
  (アメリカ太平洋軍 グラント・シャープ総司令官
1965 年)
現在、米政府は沖縄で使用された記録は見つからないとし
て否定。




Red alert: U.S. Marine Scott Parton stands near what he says
were barrels of Agent Orange at Camp Schwab in this 1971
photograph. SCOTT PARTON http://www.japantimes.co.jp/text/
nn20110813a1.html
「高度成長」のさらなる理解のために
・「高度成長」研究を「開発」研究に置くこと
 の必要性。
・<冷戦文化>から読みかえる「高度成長」

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