IPRの時期的要件に関連し、米国特許法第315条(c)の併合について判断されたPrecedential判決

1. FACEBOOK, INC.,
v.
WINDY CITY INNOVATIONS, LLC,
弁理士 鈴木 守
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目 次
１．論点
２．事件の経緯
３．裁判所の判断 Majority Opinion
４．裁判所の判断 Additional View
５．まとめ

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１．論点
IPRの時期的要件
下記のいずれか遅い方の後
(1) 特許の付与から 9 月である日，又は
(2) 付与後再審査（PGR）が第32章に基づいて開始される場合は，
当該付与後再審査の終結の日
請願人に訴状送達された日から 1年より後は不可
ただし、第315条(c)に基づく併合申請には適用しない
（他の手続又は訴訟との関係 ）第315条(b)
（原則）第311条(c)

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１．論点
第315条(c) 併合申請
(c) 併合
長官が当事者系再審査を開始する場合は，長官はその裁量において，
長官が，第313条に基づく暫定的応答の受領後又は当該応答の提出
期限満了後に，第314条に基づく当事者系再審査の開始を保証すること
を決定することを求める第311条に基づく請願を適切に提出した者を，そ
の当事者系再審査の当事者として併合することができる。
※和訳は特許庁HPの「諸外国・地域・機関の制度概要および法令条約等」による

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１．論点
本事件における法的論点
・“same-party” joinder
第315条(c)は、既に当事者となっているIPRに、その本人による請願を併
合することを認めているか。
・“new issue” joinder
第315条(c)は、併合を通じて、既にあるIPRに新たな論点を加えることを
認めているか
PTABは、“same-party” joinderと“new-issue” joinderを認めた。

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１．論点
・第315条(c)は、請願人に既に当事者になっている手続きに併合する裁
量を与えており、また、 既にある手続きに新しいイシューを併合する裁量を
与えている。
Precedential Opinion Panel （POP）の見解
※POPの見解は、PTAB審判官を拘束する
(判決(A) 4-5頁)
・審判部は、公正さが求められ、かつ、当事者に対する過度の偏見を避け
ることができる限られた状況でのみ、この裁量を行使できる。
例えば、特許権者が同時継続する訴訟において、後から新しいクレームを
主張するといった行為に基づき、この裁量を行使できる。
POPは、限られた状況において、“same-party” joinderと、“new issue”
joinder を認める見解を示した。

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２．事件の経緯
2015.6.2
Windy CityがFacebookに対し
て侵害訴訟を提起
（特許４件、全830クレーム）
2015.6.3に訴状送達
2016.6.3
FacebookがIPRを提出
（119クレーム）
2016.10.19
Windy Cityは、クレームを特定
2017.1.12 と 2017.1.17
Facebookが追加のIPRを提出
（w/併合のMotion）
District Court USPTO
第315条(b)の期限

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２．事件の経緯
2017.12.6
IPRの決定
2019.5.13
POPの見解
Federal Court USPTO
2018.9
POP構成
2020.3.18
判決
Appeal
2018.4.16
IPR提出
Proppant Express Investments, LLC et
al. v. Oren Technologies, LLC

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３．裁判所の判断
・“same-party” joinder
第315条(c)は、既に当事者となっているIPRに、その本人による請願を併
合することを認めているか。
→認めていない
・“new issue” joinder
第315条(c)は、併合を通じて、既にあるIPRに新たな論点を加えることを
認めているか
→認めていない
結論
理由
要するに、第315条(c)の文言から、認めていないことが明確だから
Majority Opinion

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３．裁判所の判断
In other words, an essential premise of the Board’s decision
was that § 315(c) authorizes two proceedings to be joined,
rather than joining a person as a party to an existing proceeding.
That understanding of § 315(c) is contrary to the plain
language of the provision. Section 315(c) authorizes the
Director to “join as a party to [an IPR] any person who” meets
certain requirements, i.e., who properly files a petition the
Director finds warrants the institution of an IPR under § 314. No
part of § 315(c) provides the Director or the Board with the
authority to put two proceedings together.
第315条(c)の平易な文言は、審判部に、２つの手続きをまとめる権限を
与えていない。
“same-party” joinder
(判決(M) 14頁)

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３．裁判所の判断 “same-party” joinder
The Board （注:POPのこと）reasoned that because the word
“any” necessarily carries “an expansive meaning,” the phrase
“any person” provides the Director with the authority, should he
wish, to join “every person who properly files a petition that
warrants institution,” including oneself.
・・・
The phrase “join as a party to a proceeding” on its face limits
the range of “person[s]” covered to those who, in normal legal
discourse, are capable of being joined as a party to a proceeding
(a group further limited by the own-petition requirements), and
an existing party to the proceeding is not so capable.
“join as a party”というフレーズは、personの範囲を限定している。
(判決(M) 16-17頁)

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３．裁判所の判断 “same-party” joinder
A statute saying that “a person may marry any person who
is older than 16 . . . ” would not, by virtue of the “any per-
son” language, authorize marriage to oneself. The word
“marry” necessarily requires another person.
(判決(M) 16-17頁)
“join as a party”というフレーズは、personの範囲を限定している。
類似の例の指摘。

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３．裁判所の判断 “new issue” joinder
Setting aside the question of same-party joinder, the language in
315(c) does no more than authorize the Director to join 1) a
person 2) as a party, 3) to an already instituted IPR. This
language does not authorize the joined party to bring new issues
from its new proceeding into the existing proceeding, particularly
when those new issues are otherwise time-barred. As discussed
above, § 315(c) authorizes joinder of a person as a party, not
“joinder” of two proceedings.
第315条(c)は、当事者の併合であって、２つの手続きの併合ではない。
(判決(M) 17頁)

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３．裁判所の判断 “new issue” joinder
Facebookは、new issueを禁じることが記載されていないというが、記載
されていないからと言って、第315条(c)は不明確ではない。
前のIPRに当事者を追加することはできても、前にあるIPRはその請願によっ
て、クレームと根拠が制限されている。
The lack of an express prohibition, however, does not make
§ 315(c) ambiguous as to whether it permits joinder of new
issues. Rather, it simply permits the Director, at his or her
discretion, to join any person as a party to an already-instituted
IPR. The already-instituted IPR to which a person may join as a
party is governed by its own petition and is confined to the
claims and grounds challenged in that petition.
(判決(M) 17-18頁)

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３．裁判所の判断 “new issue” joinder
第315条(c)の裁判所の理解は、第315条全体としても筋が通っている。
第315条(c)が手続きの併合とすれば、第315条(d)は要らなくなってしまう。
Our interpretation of § 315(c) is also consistent with
the statutory scheme of § 315 as a whole, as illustrated by
the neighboring subsections. For example, as noted previously, §
315(d) specifically contemplates “consolidation” of two
proceedings and their respective issues. ・・・
・・・ Construing § 315(c) to permit joinder of proceedings,
and all the new issues therein, would render § 315(d)
superfluous, which is disfavored in statutory interpretation.
(判決(M) 18-19頁)

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３．裁判所の判断 “new issue” joinder
Windy Cityが１年のtime-barを過ぎるまでクレームを特定しなかったとい
う事情があることについては、Facebookにオプションがなかったわけではない。
Petitioners who, like Facebook, are faced with an enormous
number of asserted claims on the eve of the IPR filing
deadline, are not without options.
(判決(M) 22頁)
・全クレームに対して申立できる
・IPRがだめでも地裁でも有効性を争える
・早期にクレームを特定させる戦略も取り得る

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３．裁判所の判断 敬譲(deference)の問題
第315条(c)は明確で曖昧さがないので、PTOの解釈に敬譲を与える必
要はない。
Because we conclude that the clear and unambiguous
language of § 315(c) does not authorize same-party joinder
or joinder of new issues, we need not defer to the PTO’s
interpretation of § 315(c). See Chevron, U.S.A., Inc. v. Nat.
Res. Def. Council, Inc., 467 U.S. 837, 842–43 (1984) (“If the
intent of Congress is clear, that is the end of the matter; for
the court, as well as the agency, must give effect to the
unambiguously expressed intent of Congress.”).
(判決(M)23頁)
敬譲の問題は、Additional View（次スライド以降）に続く

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４．裁判所の判断 Additional View
両当事者が敬譲の問題に非常に着目してきたことに鑑み、もし第315条
(c)が曖昧だとみなされた場合について検討する。
(判決(A) 2頁)
（POP見解） 第315条(c)には、Chevron敬譲か、少なくとも
Skidmore敬譲が与えられる。 →Facebookはこれを援用。
（政府見解）POP見解を支持する意見書を提出した。
［結論］
これらの議論を踏まえて、仮に、条文が不明確だとしても、結論は変わらない。
第315条(c)の最も合理的な解釈は、多数意見で採用したものである。
［経緯］

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敬譲（deference）
①議会が争点となっているまさにその問題を直接に取り扱っており、かかる問
題に対する議会意図が明白であるならば、その議会意図に沿った効果を認
める（第一段階審査）
②①において議会意図が不明確であれば、行政解釈が制定法の許容し
得る範囲である限り、その行政解釈に敬譲を与える（裁判所は行政解釈
に対して判断代置できない）（第二段階審査）
Chevron 判決（1984年 連邦最高裁）
行政解釈に対して敬譲が認められるためには、その行政解釈が説得力を
有しなければならない
Skidmore判決（1944年 連邦最高裁）
４．裁判所の判断
※泉絢也 「米国財務省規則に対する司法敬譲問題」 国士館法研論集第17号(2016) より抜粋
それぞれ、57頁、54頁

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４．裁判所の判断
(判決(A) 6頁)
①議会が行政機関に対して法的効力を伴う規則を制定する権限を一般
的に委任していること
②行政機関が当該権限を行使して規則を制定したこと
Mead 判決（2001年 連邦最高裁）
いかなる場合にChevron敬譲が適用されるかを判示した判決
※泉絢也 「米国財務省規則に対する司法敬譲問題」 国士館法研論集第17号(2016) より抜粋
62-63頁
“when it appears that Congress delegated authority to the
agency generally to make rules carrying the force of law,
and that the agency interpretation claiming deference was
promulgated in the exercise of that authority.”
敬譲（deference）

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４．裁判所の判断 Additional View
AIAでは、議会は、長官に対して所定のルールメイクの委任をしている。特
に、そのような委任は、具体的には、長官は「規則を設定」すると記載され
ている。
例えば、第316条(a)(4)，第316条(a)(12)
In the AIA, Congress delegated certain rulemaking authority to
the Director. Notably, such delegation specifically provides that
the Director shall “prescribe regulations.”
(判決(A)6頁)

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４．裁判所の判断 Additional View
条文上、議会が、POPを通じて、法律規定の解釈について、特許庁長官
に対して広いルールメイクの委任をしているという示唆はない。
条文上、規則を規定するメカニズムを通じてすること以外に、ルールメイクを
することを意図する示唆もない。
There is no indication in the statute that Congress either intended
to delegate broad substantive rulemaking authority to the
Director to interpret statutory provisions through POP opinions or
intended him to engage in any rulemaking other than through
the mechanism of prescribing regulations.
(判決(A) 7頁)

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４．裁判所の判断 Additional View
AIAでは、議会は明示的にルールメイクと裁判権の委任を長官と審判部に
分離している。
AIAによって委任された限られた権限に照らせば、法解釈の問題についての
POP見解に敬譲を与えることを拒否する。
Most notably, and as discussed above, in the AIA Congress
expressly divided the delegation of rulemaking and adjudicatory
powers between the Director and the Board. ・・・
In light of the limited authority delegated by the AIA, we
decline to defer to the POP opinion on this issue of statutory
interpretation
(判決(A) 10頁)

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４．裁判所の判断 Additional View
POPの手続きは、伝統的なnotice-and-comment ルールメイクの手続
きを欠いている。
(判決(A) 12-13頁)
・POPが召集されたことや、その検討事項が連邦官報に公表されなかった。
・パブリックコメントの正式な機会がなかった。（事件の当事者のみ）
・POP見解も連邦官報に公表されず、最終的なPOP見解に異議を申し立
てる機会がなかった。
While the POP in Proppant issued an order listing the issues it
intended to review, solicited briefs from the parties and amici,
and held an oral hearing, the POP procedure falls short of
traditional notice-and-comment rulemaking that could receive
Chevron deference.

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４．裁判所の判断 Additional View
Skidmore敬譲については、政府は、（たった１行）結論を述べるのみ。
Skidmore敬譲は、行政解釈が説得力を有しなければならないが、そのよ
うな考慮がなされていない。
(判決(A) 14-15頁)
第315条(c)についての長官の解釈は、その文言と整合しないから、説得
的でない。
（文言と整合しなくてもよいことを説得的に説明すべき）
The considerations listed in Skidmore weigh against affording
deference here.

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５．まとめ
第315条(c)の条文
same-party joinder,
new-issue joinder
を認めていないことは、
条文の文言から明確。
文言は明確である
仮に不明確として、
敬譲について検討
Majority Opinion Additional View
結論変わらず。
・長官がルールメイクできる場合は、条文
に、「規則を規定できる」とある
・審判部にルールメイクの権限なし
・POP見解はルールメイクの手続きを欠く
（notice-and-comment）
敬譲なし
（議会意図が明確）
敬譲なし（Mead基準）

27. 弁理士 鈴木 守
27
ありがとうございました
(日本ライセンス協会米国問題WG 研究会(2020年6月25日)で発表したものです)