lecture by senior ENT resident

1. めまい診療について
〜苦手意識をなくそう〜
西埼玉中央病院 耳鼻咽喉科
世永 博也 溝上 大輔

2. 本日の目標
めまい診療の心構えを持つ。
最低限の初期対応をできるようにする。

3. 医師国家試験より（第111回F問題21問目）
 42 歳の女性。
 繰り返す回転性めまいを主訴に来院した。昨日の朝、起床時に激しい回転性のめまいを自覚した。
じっとしていると数十秒で止まったが、洗濯物を干すときと就寝時に再燃した。発作時に難聴や耳
鳴りはなかったという。今朝も起床時に同様のめまいが出現したため来院した。眼振検査で頭位変
換眼振を認める。純音聴力検査は正常である。他に神経症状を認めない。
最も考えられるのはどれか。
a. 小脳梗塞
b. Ménière 病
c. 前庭神経炎
d. 聴神経腫瘍
e. 良性発作性頭位眩暈症

4. 実際の現場では・・・
気持ち悪いのに
診察とか無理！
寝させてくれよ
気持ち悪い…
どれどれ、診察
しますね
入院するの？
検査は？
どうするの？
寝てたらよくなり
ました。
よく分からんけど、
そこまでやばくなさそうだ。
とりあえずメイロン
いっとくか・・
めまい症状が強すぎて病歴や所見がほとんど取れない症例がある
→ めまい診療を難しく感じる要因の1つ

5. 内藤泰 ほか『めまいを見分ける・治療する』, 中山書店, 2012

6. 中枢性めまいの頻度1)
1) 城倉 健『めまい診療シンプルアプローチ』, 医学書院 ,2013
良性発作性頭位めまい症（BPPV） 716
後半半規官型 202
外側半規管型（カナル結石症） 153
外側半規管型（クプラ結石症） 162
前半規管型 2
疑診型 197
緊張性頭痛 197
うつ状態 211
前庭神経炎 61
低血圧 52
脳血管障害 22
メニエール病 6
片頭痛 4
その他 6
原因不明 203
合計 1332
＊ 2年間にめまいを主訴に受診した患者の内訳
中枢性めまいは1.7％に過ぎない。
・めまいは末梢性のものが大多数を占める
・まずは中枢性めまいを見落とさないようにする

7. 鑑別に必要な情報
問診
身体所見
画像検査

8. その前に…
平衡維持の基本的特徴

9. 中枢性めまいには、ほぼ間違いなく眼球運動障害や
構音障害、四肢の運動障害や感覚障害が伴っている。
末梢性めまいはめまいのみ、あるいは聴力低下と
めまいのみしか症状がない。
基本的なことだが、これが大前提となる。

10. 問診
めまいで苦しんでいる患者に対し、詳細な問診はご法度。
ポイントを絞った問診を行う。
 めまいを生じた時の状況、めまいの性状（回転性or浮動性）、持続時間
 中枢性めまいを示唆する所見
（頭痛や手足の麻痺、顔面の痺れ、呂律不良、意識消失の有無）
 リスクファクターの有無、内服薬
（高血圧、高脂血症、心疾患、糖尿病）
 蝸牛症状の有無
蝸牛症状を伴うめまいのほとんどは末梢性（例外：AICA症候群）
聴力低下の治療が必要→速やかに耳鼻科に紹介

11. 身体所見
 注視・頭位・頭位変換眼振検査
めまい症状が悪化しないよう注意して行う
 四肢の麻痺、小脳症状の有無
指鼻指試験、膝踵試験、手の回内/回外検査、座位/立位での体幹失調の有無
 脳神経（Ⅰ〜Ⅻ）麻痺の有無
 Head impulse test（HIT）
頭部を急速に動かした際の眼球運動を観察する
前庭動眼反射（外側半規管機能を反映）を確認する検査
陽性ならほぼ末梢性めまい

12. 画像検査
 CT、MRIが可能なら速やかに行う。
 無理なら少なくともCTは実施する。
 脳梗塞全般における頭部 CT の感度は 16％ としており 2)，頭部 CT 所見が
出にくい小脳梗塞の感度は数％以下。
2) Chalela JA, et al:Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected
acute stroke:a prospective comparison. Lancet. 2007 ; 369(9558) : 293–8
めまい診療で頭部CTはほぼ役に立たない

13. MRIは？
 脳梗塞における頭部MRIの感度は発症3時間未満で73％、
3〜12時間で81％、12時間以上で92％ 3）
 中枢性めまい(後方循環では)発症6~48時間以内の頭部MRIの
感度は10mm 以上の比較的大きい梗塞でも92％、
10mm未満の小梗塞なら47％
3) Chalela JA, et al:Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency
assessment of patients with suspected acute stroke:a prospective comparison. Lancet. 2007 ;
369(9558) : 293–8.
小さい小脳・脳幹梗塞の約半数は発症から2日経っても所見がでない

14. HINTS：脳血管障害の有無を鑑別する
（Head Impulse test、Nystagmus、Test of Skew）
1. Head Impulse Test(HIT)：急速に頭部を動かしたときの眼球運動を観察。
陽性であれば前庭障害を反映する。
2. 注視方向性眼振：注視方向性眼振があれば陽性。
3. Test of skew：左右の眼位の上下方向のずれ(skew deviation)があれば陽性。
 HINTS（HIT正常、注視方向性眼振、skew deviation）が全て認められれば、
中枢性めまいの可能性が高い（感度96％ 特異度100％）
 MRIよりも感度がいい。

15. Head Impulse Test
 https://www.youtube.com/watch?v=fiqAkhYNPRk

16. Skew deviation
 脳の病変に伴い、一側の眼球が内下方へ、もう一方の眼球が外上方へ偏位。
 責任病巣は小脳・脳幹の広範囲に及び、局在的診断意義は低い。

17. Test of skew
・左右の目を交互に覆う cover test で判定する
・下記の患者では右眼の上方への偏位、左眼の下方への偏位が観察できる
 https://www.youtube.com/watch?v=zgqCXef-qPs

18. 判断のポイント
 以下の場合は入院、あるいは救急のベッドで数時間は経過観察
1. 強いめまいが持続する場合
2. 中枢性めまいを疑う所見が認められる場合
（垂直性の眼振、脳神経麻痺、四肢・体幹の麻痺や失調）
3. HIT正常の場合
回転性めまいのうち、前庭神経炎患者では100％でHIT陽性
脳血管障害患者の91％でHIT陰性との報告あり
4. 画像検査で脳血管障害を認める場合
上記1〜3の場合はCTだけでなくMRIも追加

21. 症例 90歳女性
夜より回転性めまいを自覚。
頭位変換時のめまいを主訴に当院救急搬送。難聴のためか指示
が入らず、問診や検査は困難であった。大声なら指示が通じる
こともあった。頭部CTで脳萎縮を認めた。採血及び心電図検査
で異常認めず、末梢性めまいとして経過観察目的で入院。
GCS E4V2M6
相変わらず指示は入らず、会話は困難であった。
頭部単純CT実施
→著変なく、明らかな頭蓋内病変なし
●月▲-1日
●月▲日
●月▲+3日

22. やや意識状態の悪化を認めた。(GCS E2V2M5)
右上下肢の麻痺を発症。
頭部単純MRIにて左大脳半球に多発脳梗塞を認めた。
脳神経外科に転科し、抗凝固療法及び抗血栓療法開始。
●月▲＋4日

23. 頭部単純CT検査
●月▲日 ●月▲+3日

24. まとめ
 急性期のめまい患者を診察する際は、ポイントを絞った問診を行う。
 画像検査だけでは中枢性めまいは除外できない。
 少しでも怪しいと感じたら、帰宅させずにしばらく経過をみる。