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1. 頸部腫瘤の鑑別
国立病院機構西埼玉中央病院
初期研修医（耳鼻科選択研修） 渋谷卓生
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 溝上大輔

2. 頸部腫瘤をきたす主な疾患 原因別
 感染症によるリンパ節腫脹
HIV，単核球症，中咽頭感染症，原発性細菌性リンパ節炎，結核
 腫瘍
局所性の原発癌
リンパ節転移（遠隔部位，局所，領域の原発巣からの）
 先天性
鰓裂嚢胞，類皮嚢胞、甲状舌管嚢胞

3. 頸部腫瘤をきたす疾患 部位別
1．松浦一登: 頭頸部腫瘤の診察と診断法. 日本耳鼻科, 115-664．2012

4. 頸部腫瘤をきたす主な疾患 年齢別
1．松浦一登: 頭頸部腫瘤の診察と診断法. 日本耳鼻科, 115-664．2012

5. 診察ポイント
 ①問診
 ②視診
 ③触診

6. 問診のポイント
 「年齢」
小児では炎症性・先天性，成人の場合は腫瘍性疾患も念頭に置く
 「部位」
局在，有痛であるか否か
 「期間」
「炎症7日，腫瘍7ヶ月，先天性奇形7年」(Skandalakisの7の法則)1)
 「既往歴」
飲酒または喫煙，不適合な歯科装置などの癌の危険因子の有無
1．松浦一登: 頭頸部腫瘤の診察と診断法. 日本耳鼻科, 115-664．2012

7. 視診
 原因疾患が頭頸部領域に存
在することが多い
 口腔，咽頭，喉頭の徹底的
な診察が重要である

8. 視診のポイント
 鼻腔，上咽頭〜下咽頭，喉頭，
頸部食道は耳鼻科用ファイ
バーを用いた診察が望ましい．
 非耳鼻科医の診察では口腔内
（舌，軟口蓋、扁桃）の診察
を中心に行う．

9. 視診の手順
 舌の観察
口を大きく開け舌を出してもらい舌背を観察する．
舌圧子を用いて舌縁を観察する
 軟口蓋，扁桃の観察
「アー」と発声してもらうなどの方法で十分な視野を確保する
舌癌の例
白苔の付着した扁桃腺

10. 触診の手順
①後頸三角部
②側頸部:第1指と第2・3・4指で挟む
③頸動脈三角部: 舌骨傍のチェック
④顎下三角部: 口腔底に指を入れ双手診
⑤舌根部
1．松浦一登: 頭頸部腫瘤の診察と診断法. 日本耳鼻科, 115-664．2012
⑤

11. 触診のポイント
 腫瘤の大きさ，硬さ，表面の状態(凹凸)
 位置，可動性，周囲との癒着の状況
 圧痛の有無

12. 悪性を示唆する事項3)
 硬く，固着した腫瘤
 高齢患者
 中咽頭病変の存在
 持続性の嗄声また嚥下困難の既往
3. 頸部腫瘤．MSDマニュアル．4月 2020年 (7月18日 2020年, at https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プ
ロフェッショナル/16-耳鼻咽喉疾患/鼻および咽頭の症状を有する患者へのアプローチ/頸部腫瘤)
https://www.gastrointestinalatlas.com/english/Virchow_Node.html

13. 検査
 超音波検査
 CT/MRI
 穿刺吸引細胞診
 組織診断

14. 超音波検査
 存在診断能に優れる（“触診の延長”）
 嚢胞性/充実性 血流の有無
 甲状腺，耳下腺，顎下線などの実質臓器内
の腫瘤は検出しやすい

15. 超音波検査
正常リンパ節
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/05/blog-post_6966.html
https://www.nagasaki-clinic.com/salivary_gland/

16. CT/MRI
 CT
空間分解能(小さいものの認識能)と時間分解能(短時間での撮像能)
血管構造の同定や病変コントラスト向上のためには造影CT
 MRI
組織分解能に優れる(正常組織と病変の識別能)
造影CTが行えない患者に対して特に有用

17. 細胞診・組織診断
 腫瘍の良性悪性などを診断するには細胞診が有効．
最終診断には組織診断が必要
 頸部腫瘤の細胞診では穿刺吸引細胞診(FNAC: fine
needle aspiration cytology)が広く行われている
 悪性リンパ腫などの一部の腫瘍は細胞診のみでは診
断できないため疑う場合は組織診断を行う

18. 【参考】細胞診・針生検・生検の違い
生検
https://breast-imaging.mri-mri.com/wp/乳腺腫瘤に対しての細胞診と針生検/
http://www.ycu-oms.jp/sentinel.html

19. 症例提示1：35歳 女性
【主訴】左顎下部腫脹
【現病歴】
2021年1月16日に左顎下部腫脹で近医を受診し頸
部MRIで左顎下腺腫瘍と診断され手術目的に3月
18日当院を紹介受診した．
【所見】硬、やや可動性不良

20. 症例提示1：35歳 女性
DWI
T2強調
T1強調
【MRI】

21. 症例提示1：35歳 女性
【細胞診】軽度細胞異型のある腺細胞多数 classⅢ
【術式】左顎下腺摘出術
【組織診断】腺様嚢胞癌

22. 症例提示2：26歳 女性
【主訴】発熱，喉の痛み，倦怠感
【現病歴】
10日前より発熱，咽頭痛と全身倦怠感が続くため前医を受
診した．トランスアミナーゼ上昇，末梢血の異形リンパ球
増加，頸部リンパ節腫脹を伴う扁桃炎があり伝染性単核球
症と診断された．発熱が続き経口摂取も難しくなったため
入院加療目的に当院を紹介受診した．

23. 症例提示2：26歳 女性
【身体所見】頸部複数のリンパ節腫脹、扁桃に白苔付着・滲出液
【検査所見】
AST162 ALT249
抗VCA IgM 20(>10) 抗VCA IgG 320(>10)
抗EBNA 10未満
【診断】伝染性単核球症

24. 症例提示2：26歳 女性
【参考】伝染性単核球症の所見

25. 症例提示3：79歳 女性
【主訴】左顎下部腫脹
【現病歴】
半年程前から左顎下部腫瘤を自覚．前医のCTで左顎下腺周囲の
3cmを超えるリンパ節および1cm程度のリンパ節が複数あり，
穿刺吸引細胞診ではclassⅢの軽度異型リンパ球，IL-2Rは正常範
囲だが，悪性リンパ腫を否定できないため組織採取目的に入院
した．
【所見】左顎下部に弾性硬，可動性のある腫瘤

26. 症例提示3：79歳 女性
【CT】

27. 症例提示3：79歳 女性
T2強調 T1強調 T1 造影

28. 症例提示3：79歳 女性
DWI ADC

29. 症例提示3：79歳 女性
【穿刺吸引細胞診】小型リンパ球主体 class Ⅲ
【術式】選択的頸部リンパ節郭清術

30. 【組織診断 HE染色】
HE 40倍
HE 2倍

31. 【組織診断 免疫染色】
CD5
CD20 bcl6
CD10
CD21 cyclinD1

32. 症例提示3： 79歳 女性
【診断】濾胞性リンパ腫

33. 総括
 鑑別を意識した問診，視診，触診を行う
 成人例では悪性腫瘍の存在を念頭におく
 検査特性を意識した画像検査を行う
 必要に応じ穿刺吸引細胞診，確定診断には組織診断を行う

34. 参考文献
 1．松浦一登: 頭頸部腫瘤の診察と診断法. 日本耳鼻科, 115-664．2012
 2．星川広史: 頸部腫瘤の診断と治療. 日本耳鼻科 121, 1361-1365．2018
 3. 頸部腫瘤．MSDマニュアル．4月 2020年 (7月18日 2020年, at
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/16-耳鼻咽喉疾患/鼻および咽
頭の症状を有する患者へのアプローチ/頸部腫瘤)