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GL03
ベヌシック:個人の自由ずパタヌナリズム
グロヌバル化ず生掻(globalizationandlife,Ferris2022)
犏原正人nonxxxizm@icloud.com 1/21
正矩「瀟䌚党䜓の幞犏を最倧化するこず」
1. 瀟䌚党䜓の幞犏の総量を蚈算する
2. 幞犏を感じる察象を等しくカりントする
・盎芳ぞの懐疑ず合理的な政策の必芁性
cf.女性の参政暩、同性愛者の法的保護
・囜際的な経枈栌差ずその是正ぞの適甚
功利䞻矩ずは
2/21
P.シンガヌ「飢えず豊かさず道埳」
背景自然灜害による東パキスタン難民
の発生1971幎~
むギリス政府によるコンコルド超音速
旅客機の膚倧な開発費
含意むギリス政府は東パキスタン難民
に察しお経枈的な支揎をするべきである
功利䞻矩ず囜際的な経枈栌差
1
1: 有名な原著論文ずしおSinger, P. (1972). Famine, affluence, and
morality. Philosophy & Public Affairs, 1(3), 229–243. 3/21
よくある盎芳
途䞊囜の人々が可哀想だから行うべきである△
功利䞻矩からの回答
経枈支揎が瀟䌚党䜓の幞犏に繋がるのかを枬定しよう
1. 「限界効甚逓枛の法則」を螏たえる
2. 性別を問わず等しく扱ったように、囜籍を問わず等しく扱う
→途䞊囜ぞの経枈支揎は、瀟䌚党䜓の幞犏を最倧化するから行うべき
途䞊囜ぞの経枈支揎はなぜ行うべきなのか
2
2: 性別ず囜籍は正矩にずっお違う意味があるずいう議論もあるが、これに぀いおは埌日扱うこずにする。 4/21
・政府や慈善団䜓による制床や政策のなかに
は効果がないものが倚くある
・自分よがりな慈善掻動ではなく、瀟䌚的な
むンパクトを枬定しお効果的に資源や才胜を
投資するべき
→googleやapple等シリコンバレヌで働く高
所埗者の圱響を䞎える
効果的な利他䞻矩3
3: 効果的な利他䞻矩に぀いおは、このサむト が簡単にたずたっおいる。
なおP.シンガヌはTEDでプレれンテヌションも行っおいる。 5/21
・ある囜家では、囜民の倚くが肥満などの生
掻習慣病にあり、その治療費が囜家予算を圧
迫しおいた。
・そこで囜民党䜓の幞犏のために健康蚺断で
任意の数倀を䞊回るひずを察象に炭酞飲料氎
の販売を犁止する政策を斜行した。
→あなたの盎芳ではこの政策が正しいか
゜ヌダ芏制4
4: この゜ヌダ芏制はいく぀か重芁な違うがあるのだが2013幎アメリカ
NY垂で垂民の健康促進を政策の筆頭に掲げるブルヌムバヌグ垂長が肥満防
止察策ずしお提案した芏制に近い。 6/21
盎芳1.功利䞻矩から゜ヌダ芏制に反察する盎芳
・゜ヌダを飲みたい人の幞犏快楜・遞奜を枛らす
゜ヌダを飲めなくなるひずの人数がそれなりに倚い
・瀟䌚党䜓の幞犏に繋がらない
盎芳2.功利䞻矩者から゜ヌダ芏制に賛成する盎芳
・゜ヌダを飲みたい人の幞犏厚生健康に増やす
・瀟䌚党䜓の幞犏に繋がる
盎芳3.功利䞻矩ずは違う理由から゜ヌダ芏制に反察する盎芳
・瀟䌚党䜓の幞犏に繋がるずしおも生き方は本人の自由である
゜ヌダ芏制をめぐる盎芳の敎理
7/21
専門家による介入vs.本人の自由
盎芳2
゜ヌダを飲み続けるず健康を害する医孊的な知識
これを芏制するこずは本人にずっお瀟䌚にずっおも合理的である
盎芳3
゜ヌダを飲み続けるず健康を害する医孊的な知識
これを飲み続けるかどうかはわたしが決める「自由」がある
盎芳2ず盎芳3では䜕が問題になっおいるのか
8/21
個人の自由はなぜ重芁であるのか
1. パタヌナリズムずその問題
2. 個人の自由はなぜ重芁なのか(1)垰結、(2)自埋的䞻䜓
3. 囜際瀟䌚におけるパタヌナリズム
今週のベヌシック個人の自由ずパタヌナリズム
9/21
䞡芪による介入vs.あなたの自由
善意に基づいお就職先や結婚盞手に口出しする䞡芪
䞡芪の蚀い分
ちゃんずした䌚瀟に就職しないず幞せになれないよ
わたしたちの蚀う通りにするこずはあなたにずっお合理的よ
あなたの蚀い分
ちゃんずした䌚瀟に就職しないず䞡芪のいう意味で幞せになれない
だずしおもどんな仕事をするのかはわたしが決める「自由」がある
身近な事䟋から考えおみよう
10/21
「パタヌナリズム」(parternalism)
囜家や他者が、「あなたの利益になるから」ずいう理由で、個人の
自由を干枉したりその決定を代理するこず
→本人の自由ないし意思を尊重せずに干枉するこずの䞍正さを説明
→法や公共政策、教育、医療などで重芁キヌワヌド
パタヌナリズムの定矩
5
5: この定矩はSEP(スタンファヌド倧孊哲孊事兞を参照しおいる。䟋えば、そのなかで匕甚される有名な論文
(Dworkin, G. (2013) “Defining Paternalism,” in Coons and Weber, Paternalism: Theory and Practice,
Cambridge University Press)では、the interference with a person’s liberty of action justified by reasons
referring exclusively to the welfare, good , happiness, needs, interests or values of the person being
coercedず定矩されおいる。 11/21
(1)垰結に泚目する理由
瀟䌚党䜓の幞犏に繋がるから個人の自由は尊重されるべき
(2)個人の特城に泚目する理由
個人は自埋的䞻䜓であるからその自由は尊重されるべき
個人の自由はなぜ尊重されるべきなのか
12/21
J.S.ミル(1859幎)『自由論(onliberty)』
倚様な生き方は瀟䌚の進歩に貢献する
䞀芋ずしお理解できない生き方も、瀟䌚党
䜓の幞犏を枛らさない限りは寛容するべき
e.g.信仰の自由、蚀論の自由、結瀟の自由、
女性の政治的自由
→宗教的・文化的な慣習が根匷く飲酒や同性
愛、女性の瀟䌚進出が認められない時代にお
いお極めお進歩的な瀟䌚芳を提瀺
垰結に泚目する理由
13/21
「自埋」(autonomy)
個人が自分なりの生き方を远求するこずたたはその胜力があるこず
→自分なりの生き方を远求するためには
1. 䜕が䟡倀がある生き方であるのかを決定する自由
e.g.「自己決定暩」
2. 他者による干枉からの自由あるいはその圏域
e.g.「䞻暩」
自埋に泚目する理由
6
6: 自埋は曖昧に䜿われおいる抂念の䞀぀である。ここでの説明は、Raz, J. (1986). The Morality of Freedom.
Oxford University Press, pp.376-378を螏たえたうえで、Enoch, D. (2022). Autonomy as Non‐alienation,
autonomy as Sovereignty, and Politics. Journal of Political Philosophy, 30(2), 143-165.を参照した。 14/21
゜ヌダ芏制は、あなたの利益になるからずい
う理由で、゜ヌダを賌入しお飲むずいう自由
を干枉するパタヌナリズムに該圓するから
→個人の自由はなぜ尊重
・倚様な生き方を認める方がそれを認めな
いよりも瀟䌚にずっおよいから
・個人は自分なりの生き方を远求する自埋的
な䞻䜓であるから
改めお゜ヌダ芏制はなぜ䞍正なのか
7
7: 瀟䌚党䜓の幞犏远求ず個人の自由尊重が衝突した際にどうするべきなの
かが功利䞻矩の論点になるのだが、ここではこれ以䞊は扱わない。 15/21
パタヌナリズムは、原則ずしお認めるべきでない
→では個人に察しお䜕ができるのか
情報開瀺や経枈的むンセンティブを蚭定するe.g.飲酒の健康圱響
手続きずしおの「同意」(consent) を蚭定するe.g.ワクチン接皮
e.g.医療珟堎でのむンフォヌムド・コンセント(informedconsent)
囜家や他者に認められるこずは、情報を開瀺したうえで圓事者の生き方に
照らした合理的な刀断を期埅するこず
個人の自由や自埋を尊重するためには
8
8: 同意は、個人の自埋ずいう抂念に裏付けられおいる。䟋えば、芪しい関係でも同意ぬきに身䜓に觊れられたり性
亀枉を持ちかけられるのは問題であるずいう盎芳は、自埋に含たれる(2)䞻暩ずしおの自由が重芁であるからだ。16/21
個人の生き方が瀟䌚党䜓の幞犏を枛らす䟋倖的な堎合
e.g.J.S.ミル「危害原理」 ず飲酒運転の犁止、たばこ芏制
個人に合理的な刀断を期埅できない䟋倖的な堎合
e.g.子䟛、高霢者、障碍者内容ず範囲はケヌスによっお論争的である
論点:認められるパタヌナリズムはあるのか
9
10
9: 以䞋の有名な䞀節を参照のこず。「文明瀟䌚の成員に察しお、圌の意志に反しお正圓に暩力を行䜿しうる唯䞀の
目的は、 他者に察する危害の防止である」J.S ミル(1979)『自由論』。
10: 合理的な刀断を期埅できないのは果たしお䟋倖的なケヌスなのか。昚今の認知心理孊の知芋では、人間はたった
く合理的な刀断を行っおおらず環境に応じお類䌌した誀りをしおいるこずが明らかになっおいる。行動経枈孊で
は、こうした知芋に基づいお、個人の遞択する自由ではなく、その遞択を行う環境を操䜜するこずで個人の決定に
介入する「ナッゞ(nudge)」ずいう考え方が泚目されおいる。䟋えば、キャス・サンスティヌン『入門・行動科孊
ず公共政策ナッゞからはじめる自由論ず幞犏論』勁草曞房を参照のこず。 17/21
瀟䌚党䜓の幞犏に繋がる合理的決定であっおも、それをすぐに個人に匷
制できるわけではない
ずくに「あなたの利益になるから」ずいう理由で個人の自由を干枉する
こずはパタヌナリズムず呌ばれる
このパタヌナリズムは、䞡芪の善意の口出しのような個人レベルもある
が、瀟䌚や囜家レベルでも存圚する
パタヌナリズムは認められる堎合もあるが、それは限定的である
たずめ
18/21
人暩䟵害等の介入するべき理由vs.圓事囜の䞻暩
正統な囜家囜際瀟䌚で承認されおいる囜家
1. 政治的な自己決定
2. 領域的な䞻暩
・個人が自埋的䞻䜓であるように、囜家も自埋的䞻䜓であるず捉える
・個人の生き方に原則ずしお干枉するべきでないように、他囜の内政には
原則ずしお干枉するべきでない
→「内政䞍干枉の原則」
囜際瀟䌚ずパタヌナリズム
11
11: cf. 囜連憲章第2条第7項 19/21
他囜の内政や他集団の生き方ぞの干枉は、原則ずしお控えるべき
e.g.アフリカの女性噚切陀は党く理解できない慣習であるが、意識啓発や
教育を通じお圓事者のなかから蟞めるこずを期埅するしかない
→では、他囜ぞのずりわけ軍事的な干枉はい぀認められるのか
集団の生き方が瀟䌚党䜓の幞犏を枛らす䟋倖的な堎合
e.g.民族浄化に察する人道的介入
ある集団が正統な囜家ずしお認められない䟋倖的な堎合
→囜家の承認条件の問題次回以降のテヌマ
論点:正圓化される干枉はあるのか
12
12: 性噚切陀は少々ショッキングだが囜際NGOプラン・むンタヌナショナルのwebサむトは安心しお芋られる。20/21
GL04
ベヌシック:経枈的自由ず囜家の正圓化
グロヌバル化ず生掻(globalizationandlife,Ferris2022)
犏原正人nonxxxizm@icloud.com 21/21

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