会計システムアーキテクチャの道程
~ 中世イタリアからIFRSまで。そしてそれを越えて~
Account Code 3
May.22, 2020
杉本 啓
twitter: @sugimoto_kei
https://www.fusions.co.jp
#accountcode
© 2020 Kei Sugimoto
自己紹介
• 会計事務所系コンサルティング会社(アクセンチュア/アンダーセン)出身。
• 生産管理/会計系基幹システム構築 (スクラッチ開発, SAP R/3等)
~ 会計・経営管理領域の制度設計・業務改革
~ パッケージソフト(連結会計)開発など。
• 2003年独立、経営管理基盤ソフトウェア「fusion_place」の開発販売・導入支援。
https://www.fusions.co.jp
• 現役 Java プログラマ。OOPラブ × XPラブ × DOAラブ。
• 全然アップデートしていないブログあり。
http://hot-heart-cool-mind.seesaa.net/
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1. 会計の全体像
2. 現代の会計の問題
3. 中世イタリアの会計
4. 会計の新しいアーキテクチャ
5. システム・エンジニアリングとは
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会計の全体像
財務会計
(会計業務)
支払・請求・減価償却…
(財務決算)
取引記録 財務報告
管理会計 経営報告
• 財務会計が基本。
• 財務決算は、会社法決算/法人税申告がミニマム。上場するとIFRS財務報告も。
• 企業規模が拡大すると、予算管理など管理会計が派生してくる。
ありがちな会計の姿
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現代の会計の問題
顧客が1,000円の商品を購入し、100ポイント(1ポイント=1円)が付与され
た。売上高はいくら?
1,000円説
商品の対価として1,000円を確かに受け取ったのだから、売上高は1,000円。
ポイントについては、この顧客がそれを使用したときに、その分、売上を減額する。
900円説
1,000円を受け取るとともに、将来において100円の商品を引き渡す債務を負ったのだか
ら、売上高は900円。100円は負債とする。
909円説 ← イマココ(IFRS、日本の新収益認識基準)
商品1,000円とポイント100円で合計1,100円の価値のある財を1,000円で引き渡したのだ
から、商品に対する代金はそのうち、909円相当[=1,000円×(1,000円/1,100円)]となる
べき。残り91円は負債。※
※ 正確にはポイント失効率も考慮して計算します。
報告基準(=会計基準)とは何か
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現代の会計の問題
経済のグローバル化・金融化
・資本市場 ⇒ 財務報告基準国際化
・企業活動 ⇒ グローバル経営
• 複雑な財務報告への対応
• 財務報告に対応できる管理会計
• 各国バラバラな会計システムの統合
• グループマネジメント対応
• 予測志向へのシフト
ビジネス環境の変化 会計に対する要請
• 会計業務と財務報告(財務会計)のきしみ
• 財務報告と経営報告(管理会計)のきしみ
• グループ統一会計とローカル会計のきしみ
• 計画・予測情報の受け入れのきしみ
会計システムはきしみ、戸惑っている!(=適応不全の発生)
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中世イタリアの会計
なぜ、中世イタリア?
• 中世イタリアには、財務報告も法人税申告もなかった。
• でも、会計(複式簿記)は実践されていた。
• しかも、ビジネスパーソンである商人みずからによって。
• 会計には、財務報告以外に本源的な機能があるはず。
• 中世商人は現代の経理担当よりビジネスセンスがある。
私見
© 2020 Kei Sugimoto
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中世イタリアの会計
6/1 A氏から胡椒100kgを1,000で掛け買いした。
(借方)胡椒(A氏より) 100kg 1,000 (貸方) A氏 1,000
6/22 上記の胡椒のうち半分を800でB氏に掛け売りした。
(借方)B氏 800 (貸方) 胡椒(A氏より) 50kg 800
7/15 上記の胡椒の残り半分を700でC氏に掛け売りした。
(借方)C氏 700 (貸方) 胡椒(A氏より) 50kg 700
7/31 全部売れたので、胡椒の利益を損益勘定に振り替え。胡椒勘定は締め切る。
(借方)胡椒(A氏より) 500 (貸方) 損益 500
胡椒(A氏より)
借方 貸方
6/1 A氏から仕入
100kg 1,000
7/31 損益勘定へ
500
6/22 B氏に売り渡し
50kg 800
7/15 C氏に売り渡し
50kg 700
100kg 1,500 100kg 1,500
財産の在り高がわかる
取引による儲けがわかる
・取引を素直に記録。
・複雑な報告基準は不要。
取引の実態がわかる
中世イタリアの会計
13 世紀 債権・債務記録 < 公正証書の代替物として
・人名勘定 ex.「ドナード・ソランツォ」勘定
利益計算はビランチオ(棚卸表)による(北イタリア)
14 世紀前半 荷口別に全取引を記録して損益計算 (ヴェネツィア)
・口別商品勘定 ex. 「ダマスカスへの旅商」勘)
15~16世紀 期間損益計算の成立
16~17世紀 売残商品・建物の残高評価
19世紀 鉄道会社で減価償却始まる
初めての会計法規(英1844年登記法)
職業会計士の成立(1853年エディンバラ会計士協会)
20世紀 会計士監査の発達と会計基準の整備・高度化
取
引
記
録
に
重
点
財
務
報
告
に
重
点
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会計の新しいアーキテクチャ
財務報告は、後から会計に接ぎ穂された。それは、紙ベースの情報処理システムが
課した制約のせいだったかもしれない。中世の商人たちに現代の情報テクノロジー
を与えたら、彼らはどんな会計システムを生み出すのだろうか。
1. 事業報告と会計の分離
(1a. 会計記録を純化する)
(1b. ひねりを伴う接続)
2. 事業報告簿の複線化
3. 財産管理と財産評価の切り離し
4. 財務報告に依存しない経営報告
妄 想
会計と事業報告システムのための
パタン・ランゲージ
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会計の新しいアーキテクチャ
0.初期状態
会 計取引記録
中世イタリア(13-14世紀)ごろのように、未分化なシステム。
財務報告/経営報告の重要性は小さい。勘定管理が主。
(※) 「システム」という言葉は、人間系と機械系の仕事を包含した意味で用いています。
会計帳簿
クリストファー・アレグザンダーという建築理論家が考案した
「パタン・ランゲージ」という手法を用いて、
この単純なシステムを分化させていきます。
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会計の新しいアーキテクチャ
1.事業報告と会計の分離
出資者からの事業報告のニーズに対応。会計から事業報告を分離する。
・会計(勘定管理) … 勘定残高の確定まで
・事業報告 … 報告用の修正・加工
会計帳簿と事業報告簿を分割。事業報告簿では報告に向いた帳簿構造を採用できる。
・多次元リアルタイム集計
・文字列保持
・複式簿記に拘束されない修正
・計画・見込みデータの適切な扱い
会 計
取引記録
事業
報告書
事業報告
事業報告簿会計帳簿
計画
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会計の新しいアーキテクチャ
1a. 会計記録を純化する
会計帳簿は事実を記録し、事業報告簿は評価を記録する。
会 計取引記録
事業
報告書事業報告
【借方】 【貸方】
現金 1.000 売上高 909
ポイント債務 91
売上高 100 販売促進費 100
ポイント債務 9 売上高 9
現金 1,000 売上高 1,000
販売促進費 100 ポイント債務 100
報告基準フリーな仕訳
IFRS修正仕訳
《商品販売》
代金 1,000
ポイント 100
IFRSベース仕訳
分解
報告基準フリーな取引記録
(事業部門が責任を負う)
報告基準依存の修正記録
(経理部門が責任を負う)
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会計の新しいアーキテクチャ
1b. ひねりを伴う接続
財産管理に望ましい括りから、報告に望ましい括りへと、会計データの粒度を変換
する。 会計/事業報告を疎結合化。それぞれの目的に必要な管理区分を使用。
・費用の分類 … 会計では、形態別。事業報告では、機能別も。
・ワン・イヤー・ルール … 会計では、返済期限によらず同一勘定を用いたい。
・設備の所属替え … 会計では、設備番号を振り直したくない。
・買掛金と未払金 … 会計では、区別したくない。 等々。
会 計 事業報告
事業報告簿会計帳簿
変換証跡
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会計の新しいアーキテクチャ
2.事業報告簿の複線化
財務報告・経営報告それぞれの高度化に応じて、事業報告簿を分割する。
・財務報告簿 … 財務会計目的
・経営報告簿 … 管理会計目的
会 計
取引記録
財務
報告書
事業報告
財務報告簿
会計帳簿
経営報告簿
経営
報告書
さらに分割可能 (ローカル決算/IFRS等)
財務報告基準/経営報告基準に依存する複雑な処理を
それぞれの報告簿に、極力留める。
会計帳簿は影響を受けない!
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会計の新しいアーキテクチャ
3. 財産管理と財産評価の切り離し
財産の評価処理を財産の物的保全と区別。事業報告共通のサブシステムとする。
報告目的に応じて評価基準を選択(ex.管理会計では、予定単価で在庫評価)
・在庫管理 vs. 在庫評価
・生産管理 vs. 原価計算
・設備等管理 vs. 減価償却
・売掛金管理 vs. 外貨建売掛金の換算替 ..
事業報告
経営報告簿財務報告簿
在庫評価
(経理部門)
会計~周辺業務
在庫管理
(事業部門) 切り離し
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会計の新しいアーキテクチャ
4. 財務報告に依存しない経営報告
経営報告(管理会計)にもとづいて、財務報告(財務会計)を実施する。
事業報告
財務報告簿
経営報告簿
事業報告
財務報告簿
経営報告簿
財務調整
・管理会計が財務会計に引きずられる現状からの脱却。
・シンプルな管理会計を実現する基盤。複雑なモノがシンプルなものに依存すべき
✖ 複雑な収益認識基準
✖ 税法に依存した減価償却、ソフトウェア資産計上…
✖ 減損会計
✖ 金融商品時価評価
費用配賦など
会計の新しいアーキテクチャ
完成形
「会計の疎結合化」が達成される。
・会計 ⇔ 事業報告
・財務報告 ⇔ 経営報告
・財産保全 ⇔ 財産評価
会 計
取引記録
事業報告
財務報告簿
会計帳簿 経営報告簿
在庫評価等
財務
報告書
経営
報告書
CAUTION!
現代の会計システムは、歴史的経緯により歪んでいる
ので、一足飛びにこの形にはなりません。
まずは、会計と事業報告を曲がりなりにも切り分ける
ことから出発することをお勧めします。
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会計の新しいアーキテクチャ
• 事業部門と経理部門の責任を再配置(会計⇔事業報告)
• 財務報告の高度化に対応
• 経営報告の純化(財務報告の拘束から解放、シンプルに)
• 標準化の糸口を提供(ex. ローカル決算 vs. IFRS報告)
• Planning & Reporting に最適化された帳簿システムの適用
• 財産管理に向いた会計帳簿の再設計(先祖返り+IT)
こうした様々な設計努力を支えるための会計のカタチ
すなわち、
アーキテクチャ
これは何につながるのか?
会計の新しいアーキテクチャ
会計と事業報告
会計パタン・ランゲージ構想(妄想)
経営報告と計画
財務報告
会計
計画/報告のための
帳簿構造
← 今日、ご紹介した4+2パタン
© 2020 Kei Sugimoto
・シンプルな管理会計とは? …
・ローカル決算とグローバル財務報告の関係は?
・財管一致への対応は? …
・周辺業務と会計の線引きは?
・経理業務の分割と標準化の視点は?
・財産管理に適した帳簿構造は? …
・報告に必要な異種データをどう扱う?
・キャッシュフローのための帳簿構造は?
・計画/見込みデータの 〃 …
・会計の全体構造はどうあるべきか?
システム・エンジニアリングとは
• これまでなされてきた業務をITで効率化すること。
素晴らしい。それは大事です。
でも…
• 従来にないコミュニケーションのしかた。
• これまで考えてみなかった仕事の枠組み。
そんなものも考えてみませんか?
それぞれの分野の情報処理の枠組みを…
個々のプロジェクトを超えて…
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終わり

2020/5/22 Account Code 3 - 会計システムアーキテクチャの道程