和歌山県太地町のイルカ漁をテーマにしたドキュメンタリー映画が、波紋を


広げている。映画の一般公開が決まらないなか、東京でいち早く行われたプレ


ス向け試写の様子と、映画製作のきっかけとなったイルカ保護活動家、リチャ


ード・オバリーの記者会見で交わされた質疑応答の一部を紹介しよう。



「毎年、 万 3000 頭ものイルカが殺されている。
    2                     これがクジラだったら、とっ


くに大問題になっている」イルカ保護活動家、リチャード・オバリーが声を荒ら


げた。

9 月下旬の金曜日、東京・有楽町の日本外国特派員協会(FCCJ)。この日、和


歌山県太地町のイルカ漁をテーマにした米ドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ


(入り江)』のプレス向け初公開上映が行われた。前評判の高さを示すかのよ


うに、200 人近い報道陣がつめかけた。



『ザ・コーヴ』 厳しい警戒態勢が敷かれ、
       は、           近づくことすら許されないイルカ


漁の現場となっている「入り江」へ映画製作クルーが潜入を試みるという、アク

                90
ション的要素にあふれた実録映画。 分あまりの上映時間の後、来日中のオバ


リーを迎えての質疑応答の時間となった。



 このドキュメンタリー映画にイルカ以外の主人公がいるとしたら、それは


作品中にも登場する元イルカ調教師のオバリーだろう。
オバリーは、米国で 1960 年代に人気を博したテレビドラマ『わんぱくフリッ


パー(Flipper)』に登場するイルカを次々に一流の「役者」に育てあげた。ドラ


マの成功で一財産を築いたが、愛するイルカが水族館で死んでいくのを見て、


人間に飼育されることにストレスを感じているのではないかと思うようにな


った。いまは調教師としてのキャリアを捨て、世界中でイルカの保護を訴えて


いる。



そのオバリーが現在、最大の矛先を向けているのが、和歌山県太地町のイルカ


漁。ここで捕獲されるイルカのうち、需要の高いメスのバンドウイルカは 1 頭


あたり 1000 万円以上の高値で世界各地の水族館へ輸出される。そしてそれ以


外の大部分のイルカは、食用にするためその場で殺される。だがそのことを日


本人のほとんどが知らない、とオバリーは言う。



「日本には憲法 21 条で知る権利が保障されているのに、それが守られていない」




質疑応答の時間になり、一人の男性が待ちかねたように立ち上がった「こ の
                               。


映画に出ている者です。科学的な映画を作るという話だったから、私は取材を


引き受けた。それなのに、事前に聞かされていたのとかなり内容が違う。これは


どういうことなのか」会場の空気がぴんと張り詰めた。質問をしたのは、研究者
の男性。映画のなかでは、イルカの肉に含まれる水銀について監督からインタ


ビューを受けている。



 この研究者は、自分が出ているシーンをカットしてほしいと監督側と交渉中


だという。だがもちろん、映画はすでに世界中で封切りされている「この映 画
                              。


に出ているほかの人たちからも、ちゃんと許可をもらったのかどうか教えてほ


しい」通訳の英語を聞き終えると、オバリーは声を張り上げた。


「私は監督じゃないから(許可を取ったかどうかは)知らない。映画を撮った


のは私ではない。ただ、このことは逆に言いたい。この映画の中で、たった一つ


でも真実じゃない部分があるのか、ということだ」



『ザ・コーヴ』 日本のイルカ漁を隠し撮りした映画。
       は、                当局の度重なる警告に


もかかわらず進入禁止区域に立ち入るなど、日本の法を犯して撮られたものだ。


映画そのものも 本当のところを言うと、
       、
       「           私たち自身もこういうやりかたで 撮


影したくなかった」という印象的なくだりから始まる。だがそんな合法か、非合


法か、といった問題すら見過ごされてしまうほど、この映画は強烈な印象を持


って、見る者を圧倒する。あるいはイルカを含めた捕鯨は、それだけ国際的にセ


ンシティブ(微妙)な問題に発展してしまったということなのだろうか。



 この会見が行われる数日前 『ザ・コーヴ』は東京国際映画祭 (10 月 17~25
             、
日)への出品が決定した。映画祭開催直前での追加上映の決定は異例のことだ。


映画祭とはいえ、日本で一般公開されるとあって、この作品が大きな論議を呼


ぶことは間違いない。



 映画では、食物連鎖の上位にいるほど、水銀の含有量が高いという話だった。


マグロを食べるのも有害なのか。イルカだけでなく、マグロからも多量の水銀


が見つかっている。心配なら自分で調べてみたらいい。ただこれだけは言って


おくが、政府の判断を待つのはやめたほうがいい。水俣病のときも、政府は何年


も水銀汚染の事実を隠し続けた。そんなに不安だというなら、スーパーでマグ


ロの肉を買ってきて、自分で(検査機を買って水銀の含有量を)テストしてみ


たらすぐにわかる。



渋谷の街中でテレビ画面を首からぶら下げて、イルカ殺しの映像を通行人に


見せていたシーンがあった。若い人たちの反応はどうだったか。あれをやろう


と思いついたのは、東京でいったいどれくらいの人がこの(イルカ殺しの)問


題を知っているか興味があったからだ。結論から言うと、 人中 1 人も知らな
                          100


かった。日本政府はイルカ漁が日本の食文化だと言うが、日本人のほとんど誰


も知らないなら、それはもはや文化であるはずがない。



漁師たちはイルカを殺さないとすれば、ほかにどうやって生計を立てていけ
るのか。太地町の漁師たちとそのことについて話したことがある。彼らはカニ


やアサリを採っていくと話してくれた。実際、若い漁師はどんどんイルカ漁を


やめている。数週間前に静岡県伊東市の富戸(かつてイルカ漁をしていた場所)


を訪れたが、いまではドルフィンウォッチングがビジネスになっている。イル


カを殺さなくても、商業化して共生していく方法はあるはずだ。

The cove