More Related Content
More from bktproject (20)
『企業の募集要項、見ていますか?』
- 2. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
目次
はじめに : この冊子のねらい ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
1.就活の際には募集要項の確認を! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1.
1 募集要項はどれも同じ、ではない・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1.
2 皆さんは
「労働契約」
を結ぶ主体です・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1.
3 募集要項はどこに記載されているか・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.
4 募集要項はよく読んで、保存しておこう・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.
5 労働条件は、労働契約を結ぶ時に決定される・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
コラム
(1)
契約したら絶対に従う義務がある?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
1.
6 わかりやすい募集要項とわかりにくい募集要項・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.注意すべき募集要項 ~具体例をもとに~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.
1 この給与、水増しされている? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
コラム
(2)
残業代の計算方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
2.
2 店長なんだから、タダ働き? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
2.
3 年俸制は、タダ働き? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
2.
4 裁量労働制は、タダ働き? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
2.
5 ホントの労働時間は、何時まで?・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.困った時は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
4.わかりやすい労働条件の提示に向けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
4.
1 あやしい契約書にはその場でサインしない・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
4.
2 募集する企業の社会的責任・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
4.
3 キャリアセンターができること・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
4.
4 ハローワーク
(国)
ができること・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
4.
5 みんなで取り組んでいこう!・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
〈参考文献〉
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
〈執筆者〉
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
2
- 3. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
はじめに : この冊子のねらい
この冊子は、就職活動を行う皆さんがブラック企業などによる求人情報にだまされないように、募集要
項に記載された労働条件の注意すべきポイントを、
具体例を挙げながら解説したものです。この冊子は、 ブ
「
ラック企業に絶対入社したくない!」
と考えている皆さんが、募集要項を見分けるのに役立つはずです。
募集要項とは、初任給の額や勤務時間、休日など、労働条件について、採用を行おうとする企業があら
かじめ応募者に対して示しているものです。
私たち
「ブラック企業対策プロジェクト」
は、ブラック企業によって若者が使い潰されることのない社会
を実現するために、各分野の専門家が力を合わせて発足したプロジェクトです。2013 年 11 月には、
「ブ
ラック企業の見分け方 ~大学生向けガイド~」
という無料冊子を発行しました
(※)
。同冊子では、求人広
告にあふれる魅力的なイメージだけに振り回されず、
『就職四季報』
などの客観的なデータから各企業の働
かせ方の実態を検討することの重要性を指摘しました。
※ブラック企業対策プロジェクトのウェブサイトより、PDF が無料ダウンロードできます。
http://bktp.org/downloads
また同冊子では、
「第4章:求人情報・雇用契約から見分ける―だます意図を見抜こう」
において、労働
時間と賃金の関係が不明瞭になっている求人票に注意すべきこと、さらに、求人情報に示された労働条件
から途中で説明が変わっていき、求人情報とは異なる労働条件に合意させられる可能性に注意すべきこと
を説明しました。
本冊子は、
「ブラック企業対策プロジェクト」
発行の無料冊子として、
「ブラック企業の見分け方」
に続く
第2弾であり、同冊子の第4章で注意を促した募集要項に特に焦点をあて、募集要項に記された労働条件
の注意すべきポイントについて具体的に例を挙げて解説したものです。
募集要項に問題がなくても実際に働き始める際に問題のある労働契約を結ばせる企業もありますが、募
集要項の記載じたいに問題がある場合もあります。そのような場合には、なおさら注意が必要です。
就職活動を行う皆さんが、募集要項に記された労働条件の記載に関心を向け、問題のある募集要項の記
載内容について理解を深めていただけること、そして、問題のある募集要項により募集を行う企業が横行
している現状に社会的な関心が広がることを願っています。
3
- 12. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
2.注意すべき募集要項 ~具体例をもとに~
2.
1 この給与、水増しされている?
以下の例を考えてみましょう。
例1
給与 大卒 220,000 円
(月 30 時間を超えた時間外労働には、別途手当あり)
例2
給与 大卒 220,000 円
(基本給+ OJT 手当)
(OJT 手当とは、時間外勤務 30 時間相当額として定額で支給する手当。
30 時間に満たない場合であっても支給する)
例3
給与 大卒 220,000 円
(基本給+現場手当)
(表示金額には、現場手当
(30 時間分の固定時間外手当)
を含みます)
例4
給与 大卒 月給 220,000 円
(定額払割増手当を含む)
例5
給与 大卒 月給 220,000 円「営業手当」
(
を含む)
※ 毎月 60 間相当分の時間外労働手当を
「営業手当」
として支給します。
いずれも給与の額は高めになっていますが、
「結構いい額だな!」
と思ってはいけません。注意書きをよ
く読むことが必要です。
例1の場合、
「月 30 時間を超えた時間外労働には、別途手当あり」
とあります。ということは、月 30 時
間までの残業
(時間外労働)
に対して支払われる残業代
(時間外割増賃金)
は、この 22 万円の中に含まれて
いると考える必要がありそうです。
では、例1の場合、22 万円のうち、何円が月 30 時間分の残業代であり、何円が通常の労働時間に対す
る賃金
(本来の基本給)
なのでしょうか?しかし、その内訳は明記されておらず、わかりません。
実は、実際の労働契約を結ぶ際に、残業代を含んだ給与支払いが適法となるには、少なくとも、
その給与額のうち、残業代分が何時間分で何円分なのか、明確にされていなければなりません。そ
2.注意すべき募集要項~具体例をもとに~
12
- 13. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
の場合でも、その残業時間を超える残業が行われたときには、追加の残業時間分の残業代
(時間外
割増賃金)
を別途支払う必要があります。
ですので、例 1 のような募集要項の内容がそのまま労働契約となっても、残業代を含んだ給与支払いと
して適法とはならず、企業は、残業時間全時間分の残業代を、基本給
(例1では 22 万円)
とは別に支払わな
ければなりません。
この例1のように残業代と、通常の労働時間に対する賃金
(本来の基本給)
の額が、それぞれ具体的
に分けられていない給与の提示の仕方は、皆さんにとっては、とても分かりづらいものですし、労
働法を守った上での募集内容でもありません。
▼会社の不誠実な対応で、こんなこともしばしば
3
3
既に説明したとおり、労働法では、使用者は、労働契約を結ぶ際、書面で労働条件を明確にするよ
いうまでもなく、
労働時間
(何時間働くか)
と賃金
(給料がいくらもらえるのか)
うに求められています。
は、働く人にとって、とても重要な情報です。それなのに、わざとこのような、あいまいな募集要項
を出す企業は、極めて不誠実と言えるでしょう。
ですから、例1のような給与の提示を行っている企業は、給与額を高額に見せかける意図や、残業代
の支払いをあいまいにする意図
(=皆さんを、残業代を払わずに長時間労働に追い込もうとする意
図)
がある
「ブラック企業」
ではないかと疑われます。注意が必要です。
例2や例3も同様です。
「OJT 手当」
「現場手当」
などという名目であっても、残業代が 22 万円の中に含
まれており、内訳がわからない点では同じです。
また、例1では、残業時間が月 30 時間を超えない場合には 22 万円の給与はちゃんと支払われるのか、
よくわかりません。例2では、残業が月 30 時間に満たない場合でも OJT 手当は支給すると記されている
ので給与が 22 万円を下回ることはないようですが、残業が月 30 時間を超えた場合に追加の残業代が出る
のかどうか、
よくわかりません。例3では、
残業が月 30 時間を下回った場合や上回った場合にどうなるのか、
どちらもよくわかりません。
13
2.注意すべき募集要項~具体例をもとに~
- 16. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
2.
2 店長
(管理職)
なんだから、タダ働き?
例6 管理職配属の場合
《最短で入社より 2 ヶ月後になります》
・月給 280,000 円以上
(職務手当を含む)
例7 募集職種 店長
仕事内容 入社後、最初の半年間は研修期間になります。この研修期間では、店舗運営の
ための座学研修を終えた後、指導担当の店長に付いて現場での OJT(実地ト
レーニング)
となります。その間も、2か月に一度はサポートの機会を設けて
いますので、どんな方でも大丈夫です。そして、社内試験に合格すれば、店長
デビューです。皆さんが、自分の考えで店舗を運営していく、責任ある役割を
果たしていけるようになります。
例6、例7は、いずれも入社後、短期間で管理職や店長になるパターンの募集要項です。こういう募集
要項で気をつけるべき点は何でしょうか?
まず、一般的には、入社してすぐの人
(特に新卒の皆さん)
を、管理職や店長という責任の重い立場に置
こうという企業は、警戒した方がいいでしょう。このような企業は、入社後間もない社員であっても、責
任の重い立場に置かねばならない隠された理由
(人手不足)
が見え隠れします。なぜ、人手不足なのか、入
社した人がすぐに辞める
(継続して働けない)
職場なのではないか、魅力ある企業だったら人手不足にはな
らないのではないかと、警戒してみたほうが良いでしょう。
そして、怪しい企業ほど、募集要項では魅力的な労働条件
(管理職になると賃金があがるように見えるな
ど)
を示しています。魅力的な労働条件を出している理由が、使い潰した働き手に代わって、新しい人を探
しているからだとすれば、まさに
「ブラック企業」
の手口ですから、警戒して損はありません。
新卒で、
半年で店長を
任されるのは
キツい…
2.注意すべき募集要項~具体例をもとに~
16
- 19. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
2.
4 裁量労働制は、タダ働き?
次の例を考えてみましょう。
例9
職種 総合職
給与 大卒 200,000 円+裁量労働制適用あり
(2013 年 4 月実績 裁量労働手当 90,000 円)
勤務時間 10:00 ~ 18:00
「裁量労働制適用あり」
の意味はわかりますか?意味もわからず、
「じゃあ、29 万円もらえるのか、よさ
そうだな」
と思うのは危険です。
裁量労働制には
「専門業務型裁量労働制」「企画業務裁量労働制」
と
の二種類があります。いずれも、労使
であらかじめ定めた時間について働いたものとみなす制度であるため、労働時間に応じた賃金が支
払われる通常の働き方とは異なります。言い換えれば、残業という考え方が成立しなくなるため、長時
間働いても残業代が出ません。
ただし、そのように特殊な働き方であるため、誰に対してでも裁量労働制を適用できるわけではありま
せん。裁量労働制を適用するためには厳しい条件があります。厚生労働省のホームページには
「専門業務型
裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」
と
、それぞれの裁量労働制を適用するための条件が説明されています
(※)
。
※ http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/sairyo.html
これを読むと、
「専門業務型裁量労働制」 「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅
は、
に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた」
19 業務に業務が限定されており、また、その業務に
「専門業務型裁量労働制」
を適用することについて事業
場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結した場合に限って導入することができます。
対象となる 19 業務とは、
「新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学もしくは自然科学に関する研
究の業務」
「情報処理システムの分析または設計の業務」
などです。
さらに、制度導入にあたっては
「対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な
指示をしないこと」
などの条件があります。
つまりは、専門性が高い業務であり、また、業務遂行の手段や方法、時間配分等に関して労働者に具体
的な指示を行うことにはなじまないような業務を、労働者の裁量にゆだねて行わせる場合に、厳密な手続
きに従って導入されるものが
「専門業務型裁量労働制」
であることがわかります。
19
2.注意すべき募集要項~具体例をもとに~
- 21. ブラック企業対策プロジェクト
企業の募集要項、見ていますか?―こんな記載には要注意!―
払わないで済むように
「裁量労働制」
という専門用語を悪用しているのだとすれば、その企業は
「ブ
ラック企業」
である可能性が高くなってきます。
2.
5 ホントの労働時間は、何時まで?
次の例を考えてみましょう。
例 10
職種 販売職
給与 大卒 180,000 円
勤務時間 Open 9:00 ~ 11:00 ― Close 19:00 ~ 21:00
(上記時間範囲内にて店舗により異なる)
(シフト制)
この例は店舗勤務の例です。店舗の開店時間や閉店時間は、それぞれの地域の店舗によって異なるよう
です。
店舗勤務なのだから、こういう記載になるはやむを得ないのでしょうか?
しかし、
「Open 9:00 ~ 11:00 ― Close 19:00 ~ 21:00」
は、店舗の開店時間・閉店時間
であって、労働者の勤務時間ではありません。労働者の実際の勤務時間は、店舗の開店時間・閉店時間に
応じて、異なる時間帯でのシフト制がとられているのでしょうが、それにしても、シフト制のもとで 1 日
に何時間勤務することになるのか
(所定労働時間)
が明記されていないのは不自然です。働く人にと
って、もっとも知りたい情報の一つである労働時間を、企業があえて募集要項で隠しているように思えます。
店舗が朝早くから夜遅くまで開いている場合でも、働く人
(労働者)
が本来働くべき労働時間
(所定労働時
間)
は労働基準法により1日8時間以内と決まっていて、企業はこれを守らなければなりません。労働基準
法がこんな規定を設けているのは、働く人が長時間労働によって健康を害さないように、働く人がワーク
ライフバランスを保って健康な生活が送れるようにと考えられているからです。そんな労働基準法の規定
があるのですから、本来であれば、募集要項の段階でも、企業は、シフト制により勤務時間帯に幅がある
場合でも、シフトの勤務時間帯を記すとともに、
「実働8時間」
などと所定労働時間を明記するべき
なのです。
それなのに、例 10 のように、1日の勤務時間が何時間であるかが明記されていないのでは、働く人が所
定労働時間を把握できません。1か月の給与は何時間分の勤務に対する支払いであるのかもわかりません。
この例も、労働時間と賃金の関係をわざとあいまいにしているのではないか、長時間労働を隠して、
甘い条件だけを示して募集をしている企業・・・
「ブラック企業」
ではないかと疑われるのです。
21
2.注意すべき募集要項~具体例をもとに~