「九九の表に書かれた数を計算する問題」から, 計算量についての考え方を学びます.

1. 九九の表から学ぶ
計算量の考え方
Rute
(Twitter @rute_not_route)

2. 九九の表の問題
難難易度感適当だけど...
九九の答えに出てくる81個の数字を足した和を求めなさい
81個足しても出来るけど もっと簡単にも出来ます！
(少し競プロ成分強めかも)
ふと, 思った事があります.
この問題は「計算量を落とす考え方が出来る良問」ではないだろうか. と.
そこで, この問題を解く方法について, 計算量の観点から考えていきたいと思います.
(本スライドでは, 計算回数を計算量とします)
突然ですがまずこちらの文章をご覧下さい. あるツイートから引用した文章です.

3. 九九の表の問題 考え方(1)
まず, 簡単に思いつくのが 全探索により計算する, という方法です.
この方法では, 1≦i≦9, 1≦j≦9 を満たす全ての(i , j) の組に対し, i * j の結果を計算し,
それを答えの変数に加算すること
により, 答えを求めることが出来ます.
計算回数
計算回数は, かけ算の組み合わせが9 × 9 通りで,
積を計算して答えの変数に加算するごとに 1回の計算回数を要するので,
81 回となります.
今回の問題では, 九九の表だったため計算回数は少ないですが,
例えば縦10⁵マス, 横10⁵マスの同じような表に書かれた数字の
総和を計算してください
という問題ではどうでしょう.
今回の方法だと, 計算回数は10⁵×10⁵ = 10¹⁰(100億)通りとなります.
一般的なコンピューターの計算回数は,
多く見積もって1秒あたり10⁸回程度なので, この方法は時間がかかります.
そこで, もっと高速な計算方法を考えたいと思います.
81回

4. 九九の表の問題 考え方(2)
では, もっと高速な計算方法を考えましょう. 九九の表のこの部分に着目します.
1 2 3 4 5 6 7 8 9
2 4 6 8 1 0 1 2 1 4 1 6 1 8
3 6 9 1 2 1 5 1 8 2 1 2 4 2 7
4 8 1 2 1 6 2 0 2 4 2 8 3 2 3 6
5 1 0 1 5 2 0 2 5 3 0 3 5 4 0 4 5
6 1 2 1 8 2 4 3 0 3 6 4 2 4 8 5 4
7 1 4 2 1 2 8 3 5 4 2 4 9 5 6 6 3
8 1 6 2 4 3 2 4 0 4 8 5 6 6 4 7 2
9 1 8 2 7 3 6 4 5 5 4 6 3 7 2 8 1
1の段の部分の総和は , 1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + 7 + 8 + 9 = 45 です.
2の段の部分の総和は , 2 + 4 + 6 + 8 + 10 + 12 + 14 + 16 + 18 = 90 です.
もうおわかりの方もいると思います.

5. 九九の表の問題 考え方(2)
各i の段の総和は ベースとなる1の段の[1,2,3,4,5,6,7,8,9] の総和45にiをかけたものとなっています.
したがって, 各 i に対して 45 をかけた結果を計算すればよく, この場合の計算回数は
各 i に 45 をかけた結果を 答えの変数に足すのに, 1回の計算結果を要するので,
9 回 となります.
先ほど問題に挙げた縦10⁵マス, 横10⁵マスの同じような表に書かれた数字の
総和を計算してくださいという問題でもこのような計算をすることによって
高速に答えを求めることが出来ますが,
縦10⁹マス, 横10⁹マスの同じような表に書かれた数字の
総和を計算してください
という問題ではどうでしょう.
今回の方法を使った場合でも,計算回数は10⁹回となり,
高速に解くことが出来ません.
そこで, 最後の手段を使います.
計算回数
9回

6. 1から9までの和は 9 * (9+1) / 2 = 45 と 1回で計算することが出来るため,
計算回数は 1回となります！
この計算方法だと, 縦横10⁹マスの場合でも高速に計算することが可能です！
(かけ算の計算が非常に早かったという,仮定の下でですが)
九九の表の問題 考え方(3)
先ほどの 1の段の部分, 2の段の部分… 9の段の部分の計算は, 実はこのような考え方もできます.
計算回数
1回
1 ×45 = 45
2 ×45 = 90
3 ×45 = 135
4 ×45 = 180
5 ×45 = 225
6 ×45 = 270
7 ×45 = 315
8 ×45 = 360
9 ×45 = 405
赤枠で囲った部分の総和も実は45
つまり, 答えを1の段ごとに計算する必要はなく,
45 × 45 = 2025 と計算することも可能です.

7. 九九の表の問題 考え方まとめ(1)
今回の九九の表の問題を, 一般的な「計算量」の概念に落とすため 以下の問題を考えます.
整数Nが与えられる. 縦Nマス横Nマスの表があり,
i行目, j列目に書かれている数は i × j である.
表に書かれている数の総和を計算しなさい.
計算量 とは, 計算方法(アルゴリズムとも呼ばれます)の計算効率を式にしたものです.
先ほどまで説明した「計算回数」と考え方は類似しています.
例えば, 一般的なデータ量がNであるデータに対して, 毎回1回の計算が必要である場合,
計算回数はNに比例して増加するため, 計算量はO(N)となります.
O(計算量) で計算量を表す方法を, オーダー記法といいます.

8. 九九の表の問題 考え方まとめ(2)
計算量の考え方で先ほどまで挙げた3つの計算方法について, 計算量を評価します.
• 考え方(1)
…縦N行横N列のマスに対して, N×N回の計算回数となるため, O(N²).
• 考え方(2)
…縦N行横N列のマスに対して, N回の計算回数となるため, O(N).
• 考え方(3)
…縦N行横N列のマスに対して, 1回の計算回数となるため, O(1).

9. 九九の表の問題 考え方まとめ(3)
先ほどの問題において, Nの制約が以下の3つの場合だったと仮定します.
• (Ａ)1≦N≦1000
• (Ｂ)1≦N≦10⁵(10万)
• (Ｃ)1≦N≦10⁹(10億)
考え方(1), 考え方(2), 考え方(3) の
計算方法を制約(A),制約(B),制約(C) の
それぞれで利用して
コンピュータ上で計算すると,
計算時間はこのようになります
(1秒あたり10⁸回の計算が出来ると仮定)
赤文字で示した部分は計算時間が
10秒以上と, 計算時間が長くかかっている
部分です.
考え方(1)
考え方(2)
考え方(3)
制約(A) 制約(B) 制約(C)
10−5秒
0.01秒
10−8秒 10−8秒 10−8秒
10−3秒 𝟏𝟎秒
𝟏𝟎𝟎秒 𝟏𝟎𝟏𝟎秒

10. 九九の表の問題 まとめ
今回は九九の表の問題を通して計算量の考え方を学習しました.
今回の例のように, 計算の方法を工夫すると計算量を減らすことが出来る問題は
世の中に様々存在します.例えば
・ナップザック問題
(規定された重さまでしか入らないナップザックに,荷物を入れる.
それぞれの荷物には重さと入れた場合の価値が存在する. その条件の上で価値を最大化する)
・部分和問題
(例：N個の商品の価格データが与えられる.規定金額以下でおつりを最小化するように商品を購
入する場合, 購入金額はいくらになるか)
と呼ばれるような問題は, まさしく計算の方法を工夫する必要がある良い問題であると思います.
今回の問題を知った上で, 上記の問題などを調べると, 計算量に関しての考え方が詳しくなると思
います. ぜひ調べてみてください.