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自閉症スペクトラムと感覚異常
- 1. 自閉症スペクトラムと 感覚異常 筑波大学 医学群医学類 M3 三橋 泉
- 2. 最初に。。。 • 自閉症スペクトラムは多様性が高いです • ここに書いたことは、「自閉症あるある」話ですが、一つひと つが全員にあてはまるわけではありません • 個人個人の例を眺めて全体の雰囲気をつかんでいただけると幸 いです • 自閉症とADHDは近縁なので、ADHDっぽい話も混じっています • 発達障害 自閉症 ADHD LD
- 3. 自閉症の定義というと。。。 対人的な側面が注目されがちですが 例1:三つ組の障害 • 対人関係への特異性 • 他人への関わりが独特あるいは関心が乏しい • 視線が合いにくい、話題の共有が苦手 • コミュニケーションの障害 • 音声コミュニケーションが苦手 • こだわりと想像力の障害 • 特定の物や事柄に対する強い執着 • 常同的な行動 • 変化への抵抗
- 6. 知覚過敏 不必要な刺激をふるい落とせない • シャワーが痛い・痛くて髪や爪が切れない • 蕎麦屋の出汁の調味料の配合が匂いを嗅いだだけでわかる • 騒がしい街頭で待ち合わせすると後で具合が悪くなって倒れ る • ひげを自分で剃れない • 普段は常にサングラス・耳栓
- 7. 自律神経の異常 • 汗が無意識に出せない（出そうと思うと出せるらしい。自律訓練法的なもの？） • 参考：http://togetter.com/li/300438 • 体温調節に難がある • 気温の高い場所に行くと体温も高くなる • 常に熱がある • 睡眠サイクルの異常 • 有意に夜型が多い • そもそも24時間周期でなかったり
- 8. 固有感覚・姿勢制御の異常 自閉症の人は「人ごみのなかでも見つけられる」 「向かいの建物のなかにいてもわかる」とのこ と • 姿勢・物腰が独特 • 自分の手足の位置がわからない • 動きが複雑なので食事するのが難しい
- 9. フラッシュバック • 数ヶ月前、数年前のいじめを思い出しパニックになる • 同級生にいちゃもん • 「ここは大学病院なのに、昔のむかつくことのシナプスを切ってくれない！」 • 13才で無理に勉強をさせたときに一年半検診でおきたことを持ち出して母親を詰問 • 「あのときピンクのベッドに縛りつけられた」⇨本当にピンクだった • 保育園のときに「セーラー服のお姉さんに声をかけられた」ことを思い出しパニックになる青年 現在の感情が引き金になって、過去の体験を生々しく正確に思い出す（PTSDに性格が近い） 境界性人格障害におけるフラッシュバックでは、記憶の歪曲がみられる パニックや被害的な思い込みの原因に 強引な療育・いじめは数年∼十数年後にパニックを引き起こす!
- 11. 自閉症と解離 自閉症は解離がおきやすいらしい。。。 • 「他の誰かになりたかったー多重人格から目覚めた自閉の少女の手記」（藤家寛子） • 解離性人格障害の診断ののちにアスペルガー症候群の診断 • 「自閉症だった私へ（Nobody Nowhere）」（新潮社、ドナ・ウィリアムズ著・河野万理子訳、 2000年） • 社交的な人格になって教員実習を乗り切る • 「僕が数字が風景に見える」（講談社、ダニエル・タミット・古屋美登里、2007年） • 「おじいさん」がずっと見えていた 解離というほどでなくても、モードを切り替えられる人は多い 虐待による解離よりは便利に使いこなしている印象
- 12. 発達障害と虐待 • 発達障害児は虐待されやすい • 発達障害児は親のいうことを聞かない • 「良い子」ではないため、育児に失敗した気分になる • 発達障害は遺伝するため、親が衝動性や気分障害を持つことが • 親自身も虐待を受けていたりいじめのため自尊心が低いことがある • 自由恋愛や職業の自由度が高まり自閉傾向の人同士の結婚が増えつつ ある⇨自閉傾向の親に自閉症児が生まれるケースが増える • もともとフラッシュバックが起こりやすい素地がある上に虐待は大変！
- 13. 処方箋1: 理解と対策 • 周囲の理解 • わがまま⇨本人もつらい • 周囲の対策 • 刺激を取り除く（トイレにいけないのは芳香剤のせいだった！） • 本人の理解 • ⃝⃝ができないのは自分の努力が足りないから⇨感覚が特殊だから • 本人の対策 • うるさい場所をさける・耳栓をする・色付きメガネをかける（適切な色のメガネをかけるこ とで本を読むのが楽になったり） • 楽なやり方を探す（手で剃るのではなく電動カミソリを使う）
- 14. 処方箋2: 薬物治療 ADHDと自閉症スペクトラムは近縁であり、薬物療法も共通する • 中枢刺激薬 • コンサータ（アンフェタミン徐放剤）・リタリン（アンフェタミン） • SSRI・SNRI • セロトニンやドーパミンを増やす。中枢刺激薬と似た作用あり • 抗てんかん薬 • 脳の過剰な興奮を抑制する • 睡眠サイクルの是正 • メラトニン（松果体ホルモン）など • ベンゾジアゼピン系は、短期の使用であれば安全性が高いが、長期の連続使用では高率で依存を引き起 こすことに注意
- 15. 薬物治療の効果 • 刺激過敏性が改善し、疲れにくくなる • 睡眠が夜に深く取れるようになる • 社会に適合できるようになる • 発達障害の好ましくない症状は睡眠不足で憎悪するため、睡眠を深く取れると様々 なことがよくなる • 姿勢がよくなる。。。 とにかく総合的に効くようです ただ、自閉症は多様性が高いため、疫学を重視する人は薬の有効性をあまり認めてくれ ません。（自閉症向けの薬はカスタマイズの必要があるからです。症例ベースならたく さんあります。）
- 16. 精神医学と薬の事情 「精神科は薬が悪者になりやすい」なぜ？ • DSMは原因ではなく症候で疾患を分類 • 異なる機序の発症例をごちゃ混ぜにすればそりゃ有効性は下がる • より分類の精度をあげれば • 「薬 VS 認知行動療法どちらがいいの？」という話題がよくあがる • 症例で使いわけりゃいいじゃん！併用すればいいじゃん！ • 薬は副作用が。。。といいますが、不適切なタイミングでの認知療法による介入も害が e.g.: うつ病がひどい時期の認知行動療法。カウンセリングとか疲れるんです5分の診察が精一杯です • 精神科には機械的に適用できるような定量的な基準がほぼない。認知行動療法に比べて、薬は誰でも処方 できるため、薬の乱用がおきやすい。
- 18. EMDR実施例1 トラウマそのものに焦点をあてて治療しなければ虐待の連鎖が起きる！ うつの治療をしてもフラッシュバックがおきてぶち壊し！ • 発達障害児を育てる発達障害気味の母親に実施 いじめ・性被害の記憶に対しEMDRを実施 • 小学校の息子に対する虐待をやめられないお母さん • 母親自身が受けた虐待の記憶にEMDR • EMDRは記憶を引き出し今の問題の原因になる体験を明らかにするのに使うこともできる • さっくり五分でEMDR！ • トラウマ未満の状態ならこの程度でもよく効く • いじめによる不登校児
- 19. 参考文献 • 「発達障害の豊かな世界」（日本評論社、杉山登志郎、2000年） • 「発達障害のいま」（講談社現代新書、杉山登志郎、2011年） • 「発達障害の子どもたち」（講談社現代新書、杉山登志郎、2007 年） • "Bright not Broken : Gifted Kids, ADHD and Autism" (Jossey-Bass, Diane M Kennedy, Rebecca S. Banks, Temple Grandin, 2011) • "Thinking in Pictures, Expanded Edition : My Life with Autism" (Vintage, Temple Grandin, 2008)
- 20. • 「自閉症だった私へ（Nobody Nowhere）」（新潮社、ドナ・ウィリアム ズ著・河野万理子訳、2000年） • 「変光星ー自閉の少女に見えていた世界」（花風社、森口奈緒美、2004 年） • 「他の誰かになりたかったー多重人格から目覚めた自閉の少女の手記」（花 風社、藤家寛子、2004年） • 「僕が数字が風景に見える」（講談社、ダニエル・タミット・古屋美登里、 2007年）共感覚で言語の天才で驚異的な記憶力でアスペルガーでゲイ • 「自閉症の僕が飛び跳ねる理由ー会話のできない中学生がつづる内なる心」 （エスコアール、東田直樹、2007年） • 「自閉っ子、こういう風にできてます！」（花風社、ニキリンコ・藤家寛 子、2004年）