戦後70年に際して、戦地へ赴き戦犯として処罰された彼ら無しでどう平和を考えようというのかと思い、戦争のあり方、平和とは何かを考えるきっかけのための発表。

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BC 級戦犯
平成 27 年 12 月 22 日 伊藤 直也
1. この本を選んだ理由
発表日の翌日 23 日といえば、天皇陛下の誕生日であり、それはいわゆる A 級戦犯 7 名
の処刑が行われた日でもある。東京裁判の是非に関しては大学の講義等でも記憶に新しい
が、それ以外の戦犯、いわゆる BC 級戦犯について我々が話を聞き、それを仔細に語る機会
はあまりにも少なすぎる。戦争期、日本人は戦勝を夢見て耐え難きを耐え抜いた。敗北を喫
した日本人は暗澹たる思いだったことは言うまでも無い。然しそれは戦地へ赴いた兵士も
同じである。戦争裁判の是非を問う為にも、改めて BC 級戦犯についても考うる必要がある
と思ったのが本書を撰出したきっかけである。本書では BC 級戦犯並びに戦況の概要が主た
る内容ではあるが、今回の発表を機に、戦争裁判、靖国神社、ひいては国の安全保障につい
ても熟考することが出来れば幸いである。
2. 本書の概要＋補足
a. 第 1 部
開戦前、戦時中の概況であった。具体的には
・開戦に至るまでの内閣の政策
・英米の搾取の酷い地域では、日本のほうがまだ良いということで、比較的統治に
従った箇所も散見される。一方で中国では大部分は植民地支配されていなかったの
で、かえって反日感情が増した。
・各師団の自活への移行。現地での食糧調達は物価上昇を招き、反発に逢うと考え、
山中での自給自足生活へ移行。
・日本は文書に対する扱いが意外とぞんざいである。戦死した兵士が機密文書を持
っていてあっさりと敵に知られてしまったり、捕虜になるくらいなら死ねと教えら
れていたのにも関わらず、捕虜になるとあっさりと口を割ったりする。
参考壱「決戦戦争とは老若男女全部、参加する。」「自由活動を助長するための統制」
(石原莞爾『最終戦争論』中公文庫 1993)
★本来軍部の主導する国民戦争とは、一般市民の戦争意識が自然と高まることで効
果を発揮するものである。たいして日本では指導部と一般国民との戦争意識に乖離
が見られた点は否定できない。上意下達の性格が強い日本社会では、為政者の考え
が分かりにく、また曲解されることも珍しくない。天皇陛下の名の元での戦争各種

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法案や新聞の煽動に拍車をかける結果となってしまった。然し、単なる兵力ではな
く、文書保存という今の日本にも関わりそうな部分が戦況を一転させることになっ
たのは我々だけでなく、当時の日本にとっても意外だったのだろう。
本発表の要諦は第 2 部であるので、仔細に解説をしたい。
b. 第 2 部
b-1)第 1 章
・敗戦後各地収容所に移された日本兵だが、場所によって管理国が違っていた。米
国から蘭国管理に変わったとたん、捕虜に対する物資援助が逓減、飢餓寸前にまで
なった例もある。(2 章にも補足有。)
b-2)第２章
・復員が始まった頃、実は自給自足の生活をして生き延びていた日本兵も多数いた。
歴史本や教科書では、玉砕という面が遍く伝えられるが、それだけではなかった。
・米軍の飛び石作戦により爆撃対象から見放された島も数多くあった。
・陸軍の士気向上のために「玉砕」と謳ったのではないか。
・戦時中に捕らえられ捕虜になった兵たちは、師団や隊単位ではなく、個人単位で
の収容もあったので、上官からのいじめや嫌がらせも多かったという。やはりここ
でも、上意下達、絶対服従の性格が表れた。危機に瀕している状態なので、その実
態は隊によっては酸鼻を極めるものであったと言う。
・収容所ごとに管理国が違うので、補給能力の低い豪軍による救援物資は上官によ
る掩蔽も目立った。→ここでも上官絶対主義が浸透していた。
・復員したとしても、本土は廃墟と化したところも多いため、結局、戦地と同様に
森を切り開き、自給自足の生活を余儀なくされた。生活そのものは変わらないが、
「日本に居る」ことが唯一の安堵感を彼らに齎したのだろう。
b-3)第３章
・BC 級戦犯は人数が多く、兵隊一人ひとりの情報を把握しきれていなかったため、
現地住民の指弾により不当な逮捕が目立った。苗字が同じなだけで逮捕ということ
もあったため、私は真っ先に逮捕拘禁であろう。
・中国や印度での独立運動も相まって、すぐに裁判を行おうという意志が強くなり、
杜撰な捜査に走ったのではないか。基本的に、戦後の独立運動の中で共産主義の流
布が見られることも少なくないため、連合軍は、このことを危惧していたのかもし
れない。
b-4)第４章

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・収容所生活については他章でも触れているので割愛。
b-5)第５章
・ポツダム宣言第 10 項「…一切の戦争犯罪人に対しては厳重な処罰が加えられるべ
し」→各国は戦後に戦犯の裁判犯罪規程の急造→事後法？ 資料 2 傍線部(2)
・「受命行為者責任主義」→指揮官の命令による行為も立派な戦争犯罪にあたるとさ
れる。「私は貝になりたい」でもお馴染みのあれである。
→日本の軍隊教育は「上官命令絶対」、上意下達体制(今にも通ずるが)
ex)親の決めた死を厭わぬ稚児の話(新渡戸稲造『武士道』岩波文庫 1938 九章忠義
より)、上官＝天皇と同様である軍人勅諭
→上の命令に忠誠心を抱くのは今に始まったことではなく文化的なのではないか。
つまり、上官命令絶対とは、戦争、軍国主義から生まれたものではなく、天皇制、
古くは封建制と、日本形成の一役を担っているものである。
・結局、文書保存の杜漏さが戦時中、戦後にまで日本を不利にしてしまった。
b-6)第６章
・中国では澳門や香港を除き、広大な部分を植民地化されてはいないため、日本と
の戦いこそが解放戦争となり、反日活動は続いた。それゆえ、一部の日本軍による
虐待等も起こった。(虐待の度合いは不明。埃を払う行為も、相手が鉄拳と言えばそ
うなるのである。)
・敗戦は日本の国力不足というが、国力とは生産力で、それは教育や大学、工場の
問題であり、軍に原因がある場合、国力≠兵力だ。資料 1、3
（もっとも、日本の場合先述の軍体制だけでなく、技術力に材料が追いついていな
い問題や、軍研究の非自由化により、民間の有力技術者を結集できなかったという
国力の問題も在ると思うが。）
・満州では、北から侵攻してきたソ連軍に連行され、強制労働、抑留が行われた。
・戦争が長期化すると、補給力の弱い日本は現地の食糧、その他物資を多く必要と
するため、現地で物価高騰が進む→反日感情へ→抑えるために…の繰り返し。
・鉄拳を躾として捉える日本の慣習を虐待と捉える連合軍
→今でこそ教育委員会が黙っては居ないが、当時の鉄拳制裁を文化と捉えるか否か
…
b-7)第７章
・米、英、蘭は山下奉文、本間雅春両名の死刑宣告を始めとする、現地住民殺害を
第一に裁く。
→各国が自国の捕虜虐待容疑よりも現地住民殺害容疑を優先的に考えた。政治的意
図があるのではないかと言われている。つまり、現地住民(=被支配国)に対して連合

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国の正義を見せ付けることにより、赤化を防ぐ目的が在ったとも考えられる。
・陸上 vs 航空では圧倒的に陸が不利であり、米空軍に対する憎悪の念も多い→運よ
く撃墜すれば、忽ち搭乗員は敵から捕虜になる。捕虜になったとたん、国際法上の
扱いが変わる。
→心理的に、敵から捕虜への扱いにすぐの変更は可能なのか。
→米軍３名殺害に対し、当初日本兵 42 名に死刑宣告をした。A 級戦犯も含め、報復
的意味合いが強い？それとも戦勝国が裁くということが問題？資料 2
参考弐「…私は最後まで、この戦争は、自衛戦であり、現時承認せられたる国際法
には違反せぬ戦争なりと主張します。第二の問題、即ち敗戦の責任に就いては、当
時の総理大臣たりし私の責任であります…」(昭和 22 年 12 月末、東條英機弁明書よ
り)
★東條英機は東京裁判中～死刑執行前の遺書まで一貫して、自らには日本を敗戦、
滅亡の危機に追い込んだ罪においては全て責任を負い、死刑も厭わないと言ってい
る。その一方、戦勝国の言う極東国際軍事裁判所条例における罪状については、そ
の一切を否定している。戦争指導者は悪と云う主観のみで、この二点を封殺、看過
できないだろう。ちなみに東京裁判で裁かれた唯一の B 級戦犯松井石根大将は、捕
虜の扱いに対する容認ともとれる発言をしていた。(一方で蔣介石は南京事件の一切
を否定していると云う説もあり、真偽は分かっていない。)
3. 議題
(第 1 部から考える)
・此処は隊の本部である。あなたは陸軍兵士であり、1 人の米軍捕虜を捕らえた。あなたの
部隊は仲間を当該捕虜に殺されている。上官から、「捕虜に対し然るべき処置をするべし」
と命ぜられた。国際法では捕虜虐待は禁ぜられている。あなたならどうするか。(心理的、
感情的な問題) (受命行為者責任主義の是非)
(第 2 部から考える)
・もし自分が戦時中、上官の命令で捕虜殺害に加担したとして、戦後戦犯として刑が確定し
たら、それを受け入れることが出来るか。またその裁判が日本独自で行われた場合はどうか。
(受命行為者責任主義の是非)
・BC 級戦犯の中には不当に逮捕され、刑を受けた者も多数いるが、彼らの名誉を回復する
方法は何かあるか。(戦犯定義の是非)
・戦争裁判を戦勝国が行うことについてどう思うか。

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(以下時間が余ったら)
・戦犯となった人々が靖国神社に合祀されることについてどう思うか。
・戦争を含む歴史認識問題として中韓の反日運動が散見される。とはいっても東南アジアや
台湾も同じ植民地であったので、一定数反日運動はあるはずである。現地の人の感情は違っ
ていたのだろうか。また、どうして日本人は台湾＝親日と考えるのだろうか。
※この質問は、私が決して中韓の反日運動を推奨、乃至は台湾やその他東南アジア諸国が反日運動を顕著
にすべきと云うような考えではないということを、おことわりしておく。
4. 結び
戦争は絶対に繰り返してはいけないと言う言葉をよく耳にする。それは尤もであり、曲が
りなりにも大学で学んでいる者からすれば、あのような惨状を幾度と無く聞いておきなが
らそれを繰り返すと云うのは愚の骨頂だ。しかしながら、平和と云うものはそれを声高に叫
ぶだけではやって来ない。私は最近、徒に戦争は悪だと云う結論のみを屢述する風潮が今の
日本にあると思っている。それを安保関連法案賛成ないしは反対の根拠とするのでは「正義
と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」しているとは言えまい。戦争が外交解決の手段
として当たり前に用いられていた当時の価値観を、今の価値観から俯瞰し、「どこで誤った
のか」「なぜ戦争へと邁進したのか」を考えることが大切だと思っている。本発表が戦争と
平和についての再考の一助となることを願っている。
★参考文献
・新渡戸稲造『武士道』岩波文庫 1938 年
・石原莞爾『最終戦争論』中公文庫 1993 年
・太平洋戦争研究会『図解 ひと目でわかる！太平洋戦争』学研 2006 年 (資料 3、4)
・『詳説日本史研究』山川出版社 2008 年 (資料 5)
・栗原俊雄『シベリア抑留は「過去」なのか』岩波ブックレット 2011 年
・東郷和彦『歴史認識を問い直す』角川 one テーマ 21 2013 年
・有馬哲夫『歴史とプロパガンダ』PHP 研究所 2015 年
・半藤一利、出口治明、水野和夫、保阪正康、佐藤優、船橋洋一『大人のための昭和史入門』
文春新書 2015 年
★参考資料

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資料 1 地域別の日本陸軍兵力概数(1940～45 年) 単位：万人
1940 1941 1942 1943 1944 1945
内地 27(20%) 56.5(27%) 50(21%) 70(24%) 131(32%) 294(54%)
満州 40(30%) 70(30%) 70(29%) 60(21%) 46(11%) 66(12%)
中国 68(50%) 68(32%) 68(28%) 68(23%) 68(20%) 106(19%)
南方 15.5(7%) 52(22%) 92(32%) 92(40%) 81(15%)
総兵力 135 210 240 290 410 547
『支那事変大東亜戦争間動員概史』(不二出版 1988)、『日本の戦争 図解とデータ』(原書房 1982 より)
資料２ 極東国際軍事裁判所条例第 5 条
人並ニ犯罪ニ関スル管轄 本裁判所ハ、平和ニ対スル罪ヲ包含セル犯罪ニ付個人トシテ又ハ団体員トシテ訴
追セラレタル極東戦争犯罪人ヲ審理シ処罰スルノ権限ヲ有ス。
（イ）平和ニ対スル罪
即チ、(1)宣戦ヲ布告セル又ハ布告セザル侵略戦争、若ハ(2)国際法、条約、協定又ハ誓約ニ違反セル戦争ノ計
画、準備、開始、又ハ遂行、若ハ右諸行為ノ何レカヲ達成スル為メノ共通ノ計画又ハ共同謀議ヘノ参加。
（ロ）通例ノ戦争犯罪
即チ、戦争ノ法規又ハ慣例ノ違反。
（ハ）人道ニ対スル罪
即チ、戦前又ハ戦時中為サレタル殺人、殲滅、奴隷的虐使、追放、其ノ他ノ非人道的行為、若ハ犯行地ノ国
内法違反タルト否トヲ問ハズ、本裁判所ノ管轄ニ属スル犯罪ノ遂行トシテ又ハ之ニ関連シテ為サレタル政
治的又ハ人種的理由ニ基ク迫害行為。
上記犯罪ノ何レカヲ犯サントスル共通ノ計画又ハ共同謀議ノ立案又ハ実行ニ参加セル指導者、組織者、教
唆者及ビ共犯者ハ、斯カル計画ノ遂行上為サレタル一切ノ行為ニ付、其ノ何人ニ依リテ為サレタルトヲ問
ハズ、責任ヲ有ス。