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脈状の種類と意義
経絡治療夏期大学研究科
大上勝行
季節と陰陽
春
分
夏
至
秋
分
冬
至
春
分
弦
浮洪
石
脈状とは?
• 祖脈の組み合わせである
• 陰陽・虚実・表裏・寒熱に置換して考える
1,浮沈
①浮
浮
「これを挙げて有余、これを按じて不足」
陽(表・浮)の部位での熱の停滞
• 頭痛・発熱・関節痛・腰痛・悪寒
浮の虚実
• 実 陽実(洪)
– 外感(陽実)
• 肺虚陽経実熱証・脾虚陽明経実熱証
• 虚 陰虚(芤・濡・散)
• 無力而浮是血虚(陰虚)
– 肝虚熱証・腎虚熱証
洪(浮実)
「極めて太く指下にあり」
• 病理病証
– 陽経に熱が多くなったとき
• 刺法
– 熱のある部位を瀉す。時に瀉血する。
濡(浮虚)
「極めて軟にして浮細」
• 病理病証
① 下焦の陽気が虚して、陰陽ともに虚したときに現
れる。腎虚寒証。
② 湿邪。水のために陽気が損なわれる
• 刺法
① 腎陽を補う(土)。関元の補
② 脾を補う。太白、商丘、脾兪、胃兪
散(浮虚)
「大にして散。散は気実血虚し、表に有りて裏に
なし」
• 病理病証
– 陽虚
• 血が虚したために、気が表に集まってきているが、それも
なくなろうとしている
• 腎虚で三焦の元気も虚
• 刺法
• 陰陽ともに補う(土・原・絡)。
芤(浮虚)
「浮大にして軟。これを按じて中央空しく、
両辺は実す」
• 病理病証
– 急性期の血虚。血便・血尿などの出血。
• 刺法
– 陰をしっかり補う。
– 肝虚寒証(土)
1,浮沈
②沈
沈
「これを挙げて不足、これを按じて有余」
• 病理病証
– 陰(内・裏・臓)の部での病変
– 有力 陰実
• 気鬱・瘀血・水滞
– 無力 陽虚
• 寒症状・下痢
伏
「極めて指を重くしてこれを按じ、骨に着きてす
なわち得ん」
• 病理病証
– 陽虚 思慮過度、慢性的な寒証
– 陰実 陰経や臓の部に瘀血や積聚
• 刺法
– 陽虚 深く刺して留め補う。置鍼。または接触鍼
– 陰実 深く刺して寫す。
牢
「堅牢なり。沈にして力あり、動じて移らず」
• 病理病証
– 陰実
• 癥瘕・瘀血
– 陰虚
• 腎虚熱証
– 陽虚
• 肝虚寒証・腎虚寒証
– 陽気が少なく、胃の気が少ないため柔らかみがない。
• 刺法
– 陰陽とも補う
2,遅数
遅
「呼吸に三至、去来、極めて遅し」
• 病理病証
– 寒症状
• 有力は停滞(痰・癥瘕・積聚)
• 無力は虚寒(陽虚)
• 刺法
– 長く留める
– 有力な部位は寫
数
「去来、促にして急」
• 数は熱
– 有力は実火(陽実・陰実)
– 無力は虚火(陰虚)
• 刺法
– 有力なら瀉
– 無力は補
3,虚実
脈の虚実のみかた
• 脈の力(強弱)に主眼を置く
– 大小
– 強弱
– 脈幅
• 気血の状態をみる
3,虚実
①実
滑
「往来すすみしりぞきて流利展転とし、替替然
として珠の指に応ずるがごとし」.
• 病理
– 陽気(熱)が多い 内熱
– 陰(水・津液・血・痰)が多い 停滞
• 刺法
– 陰を補い、陽のある部位、停滞のある部位を瀉
す。
弦
「これを按げて有ることなく、これを按ずれば
弦の状のごとし」
• 病理病証
– 陽気の発散がうまくいかない
• 実(停滞) 脾虚肝実熱証
• 虚 陰虚
• 刺法
– 虚実に応じた手技
緊
「しばしば縄を切するが状のごとし」
• 病理病証
– 陽虚 寒冷・痛み
• 刺法
– 陽気を補う(金・土)
– 脾胃を補う
3,虚実
②虚
緩
「去来また遅。少しく遅よりはやし」
• 病理病証
– 本来はゆったりとした健康な脈
– 気血とも虚して、循環が悪くなっている
• 刺法
– 気を補う(金)
濇
「細にして遅、往来難、短かつ散、あるいは
一止してまた来る」
• 病理
– 血虚
• 血は陰液となし、多ければ滑利し、少なければ枯渇
す
– 気滞
• 結果として瘀血もある
細
「少しく微より大。常に有りてただ細きのみ
」
• 病理病証
– 気血ともに虚。胃の気も少。
– 各寒証
• 刺法
– 陰陽ともに軽くゆっくりと補う。
弱
「極めて軟にして沈、細。これを按ずれば指
下にて絶せんと欲す」
• 病理病証
– 肝虚寒証
• 気血ともに虚。
• 刺法
– 陰陽とも補う(土・絡)
微
「極めて細くして軟、あるいは絶せんと欲し
、有るがごとく無きがごとし」
• 病理
– 気血ともに虚 陽虚
• 刺法
– 細い鍼で、使用穴も少なくし、陰陽ともに補
う
革
「沈と伏に似ることあり。実大にして長、微に弦
」
「弦にして芤。按ずれば鼓の皮のごとし」
• 病理病証
– 肝虚寒証 陽気と精の虚
– 流産・遺精
• 刺法
– 陰を補う(金・土・絡)
4,上下の幅
長
「指下に余り有りて、本位に過ぐ」
• 病理
– 本来は健康人の脈である
– 胃の気のない堅い脈は病脈
– 気逆・火盛有余
• 刺法
– 内熱の瀉法
– 陽明経の熱を瀉す
短
「長ならざるなり.両頭になく,中間にありて,
本位に及ばず」
• 病理
– 短 + 熱
• 気の巡りが悪くて、熱が停滞
• 湿熱(飲酒)・血滞(瘀血)・痞
– 短 + 寒
• 気虚、寸(頭痛)・尺(腹痛)
• 刺法
– 気を巡らせるように補う(金・土)
動
「関上にあらわれ、頭尾なく、豆大のごとく、厥
厥然と動揺す」
• 病理病証
– 陰陽のバランスが極端に崩れたとき
– 痛と驚を主る
• 刺法
– 陰をしっかり補う
• 陽盛の場合はその裏側、陰盛の場合は元気を
5,不整
促
「去来が数。時に一止し、また来る」
• 病理病証
– 血(モノ)の不足 腎虚熱証・肝虚熱証で心
熱・肺熱
• 刺法
– 腎・肝の補(火・金)
– 心・肺の瀉(火の補・水)
結
「往来が緩、時に一止し、また来る」
• 病理病証
– 陰実 積・鬱
– 脾虚肝実瘀血証・肺虚肝実証
• 刺法
– 陰実の寫
代
「来ることしばしば中止し、自ら還る能わず。よ
ってまた動ず。脈結の者は生き、脈代の者は死
す」
• 病理病証
– 臓の気血津液が虚し、同時に三焦の元気もなくなろ
うとしている
• 刺法
– 陽虚
6,脈状と病理
血虚
正常
寒証(陽虚)
熱証(陰虚)
陰虚
陰陽とも虚
瘀血
外
内
弦大
沈実 沈細
実脾虚肝実熱証
脾虚肝実瘀血証
肝実と肝虚
肝虚熱証 肝虚寒証平肝実瘀血 肝実熱
実 虚
傷寒(正邪の争い)
正
寒
正
寒
正
寒
熱証
寒証
伝経
太陽
陽明
少陽
太陰
少陰
厥陰
外
穀道
肺虚太陽経実熱証
脾虚陽明経実熱証
脾虚肝実熱証
脾虚胃実熱証
浮
長
弦
沈
傷暑
1. 虚に乗じて暑に冒される
2. 熱が表に停滞して熱実
– 洪滑 陽実
– 身熱・頭痛・煩躁・大渇・大汗・喜冷水・大便
干結・小水赤痛
– 脾虚陽経実熱証・脾虚肺熱証・脾虚胃実熱証
– 火穴・金穴・郄穴
3. 汗がもれる。壮火は気を食む
4. 津液(精)の虚、熱の内攻
– 沈細虚散 陽虚
– 倦怠感・煩熱・泄瀉・食欲不振
– 脾虚寒証・脾虚腎虚寒証・肝虚寒証
– 土穴・金穴・絡穴
– 熱があっても瀉してはいけない。補って潤す。

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20160820夏期大脈状

Editor's Notes

  1. ①季節による陰陽の配分 ②人の身体にも同じような変化が ③陰陽の配分が脈に現れる
  2. ①脈状は祖脈の組み合わせ ②より細かくみていく(証の細分化) ③デジタルからアナログへ
  3. 【脈象】 そよ風が小鳥の背の羽毛を撫でる 水面に浮かぶ木片のごとし
  4. 【脈象】 浮で柔弱細小 締まりがなく浮いた脈
  5. 【脈象】 当たりが散漫で根がなく、空中に浮散する柳の綿のごとし
  6. 骨が触れるぐらい重按して、初めて感じられる脈 陰実ではあるが、熱症状は少ない。モノの停滞(陰寒内鬱)
  7. 伏と比べて、硬い。 モノの停滞 陰虚・陽虚は胃の気がなく柔らかみがないため
  8. 管(脈管)以上に陰(モノ)が多いから、
  9. 虚の程度はたいしたことない。 実態はあるし、遅めになっているだけ。
  10. 如軽刀刮竹. 如雨沾沙 . 如病蠶食葉.
  11. 気血が少なくなってきている
  12. 陰精虚損・陽気衰微
  13. 寒が陽に勝ることによる疼痛 気乱による心悸亢進 陽が陰に負ける自汗 陰が陽に負ける発熱 脾胃不和・寒熱錯雑による下痢 陰虚陽盛による男子亡精、女子血崩
  14. 血が不足していると、早く気を巡らせて血を正常にしようとして数脈になることがある。しかし、巡らせるだけの血がないので空回りし不整になる。
  15. 病気とは祖脈の組み合わせ 浮沈 表裏 遅数 寒熱 虚実 虚実(陽気の状態)